説明

高エチレン含量で均質な組成を有する酢酸ビニル・エチレン共重合体およびその製造方法

【課題】 乳化重合法を用いて酢酸ビニル・エチレン共重合体の合成に当たり、重合開始からエチレン含有量を高め、最終製品が組成分布の少ない均質な樹脂組成を有し、結果的に共重合のエチレン含量が高くなる、改質された酢酸ビニル・エチレン共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 乳化安定剤を含む水溶液中に酢酸ビニルモノマーを供給して、加圧エチレン雰囲気下で、酢酸ビニルモノマーとエチレンモノマーとを乳化重合する方法において、酢酸ビニルモノマーを反応系内に仕込む前に、反応系における重合圧力よりも0.1〜1.0MPa高い圧力で酢酸ビニルの液中にガス状のエチレンを分散・飽和溶解させ、該エチレン分散・飽和溶解した酢酸ビニル液を反応系に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化重合により得られる酢酸ビニル・エチレン共重合体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乳化重合において使用するモノマーがエチレンのような気体状態にある場合、高圧に耐える高圧反応容器を用いて、界面活性剤や水溶性高分子を含む水溶液を仕込んだ容器の上部空間にエチレンを圧縮封入後、高圧エチレン雰囲気下で酢酸ビニルモノマー、重合開始剤等を圧入する方法がとられている。その際、酢酸ビニルモノマーは上部空間のエチレンガス中を通り水溶液中に落下混合され、即座に乳化される。乳化された酢酸ビニルモノマーは水溶性重合開始剤により重合し、高分子化合物に転化される。
【0003】
その際、共重合されるエチレン含量は転化率の上昇に伴い順次増大されてゆく。その為、転化率の低い時点の生成物と後半の転化率の高い時点の生成物との間で広い幅の組成分布が生じる。
【0004】
乳化重合に際して、重ね合わせ法またはプレ乳化法などの重合法によれば、重合開始以前に酢酸ビニルモノマーの一部または大部分を仕込み、分散乳化させるか、事前に安定剤を含む水溶液中に乳化されたものを反応容器に仕込む。その後、重合開始剤の投入により重合を開始する。この重合方法の場合、液相上部にある気体状態のエチレンは、水相を通してミセル内に在る酢酸ビニルに溶解することになるが、エチレンの水に対する溶解度は酢酸ビニルに対するそれより200倍程度低いため容易に溶解するものではない。その為、共重合体中のエチレン含量は低く、しかも転化率の低い時点の生成物と後半の転化率の高い時点の生成物との間で広い幅の組成分布が生じる。
【0005】
共重合体中のエチレン含有量が高いエマルジョンを製造する方法が既に提案されている。例えば、特開2002−322216号公報(特許文献1)には、乳化重合に際して、共重合体の反応溶液におけるビニルエステルの含有量が常時10%以下であるように、ビニルエステルを少量づつ添加することが開示されている。
【0006】
また、特開2006−199733号公報(特許文献2)には、共重合体中のエチレン含有量を高めるために、乳化重合に際して特定のポリビニルアルコールを2種以上及び特定の非イオン性界面活性剤を2種以上同時に使用して、重合開始以前に酢酸ビニルモノマーの一部を仕込み、分散乳化させ、反応容器内の空気をエチレンで置換した後、重合開始剤と残りの酢酸ビニルモノマーを徐々に添加することが開示さてれている。
【特許文献1】特開2002−322216号公報
【特許文献2】特開2006−199733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酢酸ビニル・エチレン共重合体の乳化物は種々の方法で合成され、種々の用途に利用されて、用途に応じた物性が要求されるが、共重合体の物性に関しては言えば共重合体組成の分布の幅が広いことは好ましくはない。
【0008】
しかし、前述した従来公知の酢酸ビニルとエチレンの乳化共重合体の製造方法では、何れの方法でも、重合開始初期の重合転化率の低い期間に生成した共重合体組成においてはエチレン含量が低く、重合後半に生成した共重合体組成においてはエチレン含量が高くなり、全体的な樹脂組成として組成分布の幅が大きくなる。このような樹脂の組成分布の幅が大きいことは樹脂の物性に致命的な損傷をもたらすことになる。すなわち、平均より大幅に低いエチレン含量の共重合体が存在するので、その影響により、共重合体の平均のエチレン含量に見合う物性が得られない。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点を解決し、エチレン含有量に関して組成分布の幅が狭い、均質な樹脂組成を有する酢酸ビニル・エチレン共重合体を主成分とする樹脂を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、酢酸ビニルとエチレンの乳化共重合体の製造に際し、重合開始からエチレン含有量を高めて、重合初期に生成する共重合体組成と重合後半に生成する共重合体組成とが全体の最終平均組成に近く、組成分布の幅が狭い、均質な樹脂組成を有する共重合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、酢酸ビニル・エチレン共重合体を主成分とする、乳化重合により得られた樹脂の90%以上において、酢酸ビニル・エチレン共重合体中のエチレン含有率がその平均値に対して±5重量%、好ましくは±3重量%の範囲内に入っていることを特徴とする酢酸ビニル・エチレン共重合体を主成分とする樹脂により、前記目的を達成した。
【0012】
また、本発明は、乳化安定剤を含む水溶液中に酢酸ビニルモノマーを供給して、加圧エチレン雰囲気下で、酢酸ビニルモノマーとエチレンモノマーとを乳化重合する方法において、酢酸ビニルモノマーを反応系内に仕込む前に、反応系における重合圧力よりも0.1〜1.0MPa高い圧力で、酢酸ビニルの液中にガス状のエチレンを分散・飽和溶解させ、該エチレン分散・飽和溶解した酢酸ビニル液を反応系に供給することを特徴とする酢酸ビニル・エチレン共重合体の製造方法により前記目的を達成した。
【0013】
本発明において、酢酸ビニル液にエチレンを分散・飽和溶解する際にエチレンをナノサイズで分散・飽和溶解させること、特に過飽和状態に分散・溶解させることが好ましい。
【0014】
エチレンをナノサイズで分散・飽和溶解させるには、ナノサイズの孔を有するシラス多孔質ガラス膜(SPG膜)にエチレンを通過させて酢酸ビニル液中に分散させることが好ましい。
【0015】
金属製または合成樹脂製のシートに設けられたスリットであり、スリット周囲のシート部分がスリットを通過する流体により可動であるようなスリットに、酢酸ビニル液とエチレンとを一緒に通過させることによりエチレンを酢酸ビニル液中にナノサイズで分散・飽和溶解させても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、組成分布の幅が狭い、均質な酢酸ビニル・エチレン共重合体を主成分とする樹脂が得られるので、耐水性、対アルカリ性、可塑性、皮膜形成における均質性が向上し、形成温度などの向上および改良ができる。
【0017】
本発明の製造方法によれば、酢酸ビニルモノマーを反応系に仕込む前に、反応系のエチレン分圧よりも高い圧力下でガス状のエチレンを酢酸ビニル液に分散させているので、エチレンは過飽和状態で酢酸ビニル液中に分散・溶解させられる。従って、このエチレンを過飽和状態で含んで酢酸ビニル液を反応系に供給することにより、重合反応においてエチレンの含量が増える。特に、エチレンをナノサイズで酢酸ビニル液中に分散・溶解させていると、より一層、共重合体におけるエチレンの含量を増加させることができる。
【0018】
また、本発明によれば、酢酸ビニルとエチレンの乳化共重合体の製造に際し、重合開始からエチレン含有量が高くなるので、結果的に最終の共重合体組成におけるエチレン含量の増量が可能であり、従来の平均エチレン含量の酢酸ビニル・エチレン共重合体製品をより経済的な低圧で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、酢酸ビニルとエチレンの共重合体を主成分とする樹脂(なお、製造時には水性分散体の状態である)およびその製造方法である。ここで、本発明の共重合体として用いる共重合成分として、酢酸ビニル以外のビニルエステルを第3成分として用いても良く、あるいは共重合可能なビニル化合物、アクリル系ビニルモノマー、共重合可能な不飽和酸・不飽和アミド、アリル化合物などを用いても良い。
【0020】
酢酸ビニル以外のビニルエステルモノマーとしては、例えば、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、イソノナン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのアルキル酸ビニルエステルなどが挙げられる。ビニルエステルモノマーを単位として、2種類以上のビニルエステルモノマーを用いても良い。
【0021】
共重合可能なモノマーとしては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸およびそれらの塩などのビニル化合物;スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル;メタクリル酸、アクリル酸などの(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;スルホン酸アリル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル化合物;ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの多官能アクリレートなどが挙げられる。
【0022】
本発明の製造方法は、例えば攪拌装置の付いた温度制御の出来る耐圧容器に水、乳化安定剤、PH調整剤、必要に応じて共重合可能なモノマーを添加し、所定の温度まで昇温した後、容器内の空気をエチレンガスで置換し、所定の重合圧力まで加圧する。その後、予め反応容器内の圧力以上の圧力でエチレンガスをナノサイズに分散・飽和溶解させた酢酸ビニルモノマーを圧入ポンプを用いて反応容器に供給する。同時に重合開始剤としてレドックス系触媒の水溶液を添加する。その後も、数時間にわたり、エチレンガスをナノサイズに分散・飽和溶解させた酢酸ビニルモノマーおよびレドックス系触媒を反応容器内に添加する。酢酸ビニルとエチレンを充分に重合させてから、常温まで冷却し、酢酸ビニル・エチレン共重合体エマルジョンを得る。
【0023】
ここで用いる乳化安定剤としては、通常の水溶性高分子である完全鹸化あるいは部分鹸化ポリビニルアルコール、変性セルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシセルロース)、変性でんぷん等の保護コロイドや界面活性剤などが挙げられる。
【0024】
界面活性剤としては、例えばノニオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェノールエーテル、ポリオキシ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体など:アニオン系界面活性剤としてアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルフォ琥珀酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル燐酸塩、ポリオキシエチレンラウリル酢酸塩・琥珀酸塩などが挙げられる。
【0025】
乳化安定剤の使用量としては、例えばポリビニルアルコール系の保護コロイドの場合は共重合体の製造に使用されるモノマー100部に対して2〜8部、界面活性剤の場合は1〜10部、好ましくは3〜5部程度を用いれば良い。
【0026】
PH調整剤としては一般的な無機酸、有機酸などの酸性物質やその塩類、アミン酸類などを用いる。例えば、無機酸としては燐酸、塩酸、硫酸、硝酸などの塩類。有機酸としては酢酸、ギ酸、アスコロビン酸、琥珀酸、酒石酸等あるいはその塩類を用いる。
【0027】
共重合反応に於けるエチレンの分圧としては1〜10MPa好ましくは3〜8MPaが適当である。1MPaを下回ると、得られた共重合体におけるエチレン含有量が低く、ポリマーの可塑性が小さく、実用的でない。また、10MPa以上では、得られたポリマーの用途分野も少なく、耐圧容器の耐圧性を向上しなければならず、設備的にも不経済になる。
【0028】
反応系の温度制御としては、20〜80℃、好ましくは30〜70℃が適当である。20℃未満の低温ではエチレン溶解度は高くなるが、反応時間が遅延し、経済的でない。また、80℃を越える高温ではエチレン含有量が低下し、グラフト反応などの目的以外の反応が増加し、分子量も低下する。
【0029】
共重合反応に使用される重合触媒としては、酸化剤と還元剤からなるレドックス系の触媒が良く、酸化剤としては、例えば、過酸化水素、加硫酸カリウム、加硫酸ナトリウム、加硫酸アンモニュウム、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどが挙げられ、還元剤としては、ロンガリット(ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート)、グリオキザール重亜硫酸ソーダ、酒石酸ソーダー、第一鉄塩などが例示される。
【0030】
本発明の共重合乳化物全体中の固形分濃度としては、20〜80部、好ましくは30〜70部である。20部より低いと製造効率が低く、販直的にも不利である。一方、80部より高いと反応系の粘度も高くなり、重合時間も長く、取り扱いも困難になる。
【0031】
酢酸ビニルにエチレンをナノサイズに分散・過飽和溶解するに当たり、反応系内の分圧に対して0.1〜1.0MPa、好ましくは0.2〜0.6MPa高い圧力で実施することにより、より高いエチレン含量と、均質な樹脂組成を得ることができる。これ以上高いと系内での起泡の原因になり好ましくない。
【0032】
酢酸ビニルにエチレンをナノサイズに分散・溶解するには、高圧の容器に酢酸ビニルを入れ、ナノサイズの孔を有するシラス多孔質ガラス膜(SPG膜:エスピージーテクノ株式会社製)を酢酸ビニル液中に浸漬しておく。容器の上部空間を窒素で置換し、エチレンガスをSPG膜に透過させて酢酸ビニル液中に吹込み、分散・吸収させる。これをポンプを用いて反応容器に供給する。
【0033】
酢酸ビニルにエチレンをナノサイズに分散・溶解する別の方法を図1および図2に基いて説明する。図1は高圧の容器に酢酸ビニルを供給する流通路の断面図、図2は図1のII−II線に沿った断面図である。図1に示すように、高圧の容器(反応系外の容器)に酢酸ビニルを供給する流通路10に金属製または合成樹脂製のシートMを配置する。シートMは流通路10を上流側と下流側に仕切きるものである。シートMにはスリットエレメント3が形成されており、スリットエレメント3はスリット31とスリット周囲のシート部分32とからなるものである。スリット周囲のシート部分32は、スリット31をその一辺または二辺とする小面積のシート部分であり、通過する流体によりスリット31からなる辺を自由端部として可動であるような剛性を有する。
【0034】
図2に示したスリットエレメント3は中心から3方向に延びている3本のスリット31と3つのシート部分32からなる。各シート部分32は2本のスリット31に囲まれた部分であり、2本のスリット31の2つの外端31aの間の箇所はシートMの本体に連続している。従って、この実施例では、通過する流体により可動であるシート部分32は略三角形または略扇形である。
【0035】
シートMの厚みは材質により異なるが、0.1mm〜10mm程度が好ましい。また、各スリットエレメント3の大きさ(全部のスリットが含まれるような広さ)は直径で約4mm〜50mmであることが好ましい。
【0036】
なお、スリット31は図2に示した形状に限定されるものではない。また、1枚のシートMに形成されるスリットエレメント3は1つでも或いは複数個(数は特に限定されない)でもよく、複数個の場合は全てのスリットエレメント3が同じ形状でもよいし、或いは異なった形状のスリットエレメント3の組合わせでもよい。
【0037】
シートMに設けたスリットエレメント3は流体が通過していない状態では実質的に隙間がなく、スリット31が閉じた状態であり、流体が通過する際に流体の圧力がその面に掛かるとスリット周囲のシート部分32が撓んで僅かな隙間を生じ、スリット31が開いた状態となり、流体が通過できる構造である。スリット31の隙間は一定ではなく、スリットエレメント3の面に掛かる圧力が上がるとスリット31が開く方向にシート部分32が撓み、圧力が下がるとスリット31が閉じる方向にシート部分32が動く。スリットエレメント3の面に掛る圧力は上流側の圧力と下流側の圧力との差(差圧)であるが、撓んだシート部分32の間を通って流体が流れるとき、下流側に生じる乱流やキャビテーションなどにより差圧に変動が生じ、一旦開いた方向に撓んでいたシート部分32が閉じる方向に戻ると、流れて来る流体の圧力により再び開く方向に撓むと言うことが繰り返され、シート部分32が振動する。
【0038】
スリットエレメント3を有するシートMは、流通路10を一緒に流れる2種類の流体(例えば、液体と気体)を混合し、一方の物質に他方を物質を混合・分散・吸収させる機能を有する。シート部分32の剛性が高い方が分散相の粒径が小さく、粒径分布も小さい分散液が得られ、剛性が低い方が分散相の粒径が大きく、粒径分布も大きい分散液が得られる。また、流通路10にはシートMを複数枚配置してもよい。
【0039】
シート部分32の剛性が高いようなシートMを流通路10に配置し、そこに酢酸ビニル液とエチレンとを一緒に流して、スリット31に酢酸ビニル液とエチレンとを一緒に通過させる。これにより、エチレンがミクロサイズより小さい、すなわちナノサイズの粒径で酢酸ビニル液中に分散され、高圧(反応容器の圧力より高い)の容器内ではエチレンが酢酸ビニル液に過飽和状態で分散・溶解される。そして、この酢酸ビニルをポンプを用いて反応容器に供給する。
【0040】
以下に実施例を示す。実施例中の部および%は重量基準である。固形分濃度の測定は約1gの乳化物を精秤し、105℃の乾燥機で2時間乾燥後、最初の重量との重量比(%)で示した。
【実施例1】
【0041】
攪拌機を備えた1Lオートクレーブに以下の各成分を仕込み、充分に溶解させ均一な水溶液とした。
【0042】
水 250部
PVA217(株式会社クラレ製) 10部
PVA205(株式会社クラレ製) 5部
第2燐酸ソーダー 0.3部
次いで、メタ重亜硫酸ソーダーを4部を添加した後、容器内をエチレンガスで置換し5MPaまで加圧し、反応温度を50℃に維持しながら、スリットエレメントを有するシートを使用して5.2MPaでエチレンをナノサイズに分散・飽和溶解させた酢酸ビニル20部を加えて乳化液とした。続いて、5%水溶液の過硫酸アンモニュウム50部を6時間かけて均一に添加した。また、重合開始後1時間過ぎてから、同様に飽和溶解させた酢酸ビニル180部を4時間かけて供給した。その後、温度を70℃まで上げて1時間保持し、系内の未反応酢酸ビニルを充分に重合させてから常温まで冷却した。得られた乳化液の固形分濃度は47.2%であった。
〔比較例1〕
実施例1のエチレンの飽和溶解させた酢酸ビニルの代わりに、通常の酢酸ビニルを供給する以外は同様の方法で重合を実施した。
【0043】
実施例1および比較例1のエチレンの共重合割合の結果を表1および図3に示す。
【0044】
【表1】

【実施例2】
【0045】
実施例1の酢酸ビニルの供給時間を7時間とし、5%過硫酸アンモニュウム水溶液の添加時間を9時間とする以外は同様な方法で実施した。乳化液の固形分濃度は47.5%であった。
〔比較例2〕
実施例2のエチレンの飽和溶解させた酢酸ビニルの代わりに、通常の酢酸ビニルを供給する以外は同様の方法で重合を実施した。得られた乳化液の固形分濃度は46.2%であった。
【0046】
実施例2および比較例2のエチレンの共重合割合の結果を表2および図4に示す。
【0047】
【表2】

【実施例3】
【0048】
実施例1のエチレンの加圧を7MPaとし、エチレンの溶解圧力を7.3MPaとした以外は同様の方法で重合を実施した。得られた乳化液の固形分濃度は49.6%であった。
〔比較例3〕
実施例3のエチレンの飽和溶解させた酢酸ビニルの代わりに、通常の酢酸ビニルを供給する以外は同様の方法で重合を実施した。得られた乳化液の固形分濃度は47.9%であった。
【0049】
実施例3および比較例3のエチレンの共重合割合の結果を表3および図5に示す。
【0050】
【表3】

【実施例4】
【0051】
実施例1のエチレンの溶解をSPG膜を使用して飽和溶解させる以外は同様に実施した。得られた乳化液の固形分濃度は46.3%であった。
【0052】
実施例4および実施例1におけるエチレンの共重合割合の結果を表4および図6に示す。
【0053】
【表4】

【実施例5】
【0054】
実施例1のエチレンの重合圧力を3.5MPa、エチレンの溶解圧力を3.7MPaとする以外は同様に実施した。得られた乳化液の固形分濃度は46.1%であった。実施例5および比較例1におけるエチレンの共重合割合の結果を表5および図7に示す。
【0055】
【表5】

各実施例および比較例における生成物のガラス転移点(Tg)を測定した。測定方法は、室温で乾燥させたエマルジョン皮膜を減圧乾燥にて水分を除去した後、セイコー電子(株)製示差走査熱量計で測定した。これを表6に示す。
【0056】
【表6】

各実施例の表や図に示したように、本発明により得られた酢酸ビニル・エチレン共重合体を主成分とする樹脂は、重合開始からエチレン含有量が高く、樹脂の90%以上において、酢酸ビニル・エチレン共重合体中のエチレン含有率がその平均値に対して±5重量%の範囲内に入っている。従って、最終製品は組成分布の少ない均質な樹脂組成を有し、結果的に共重合のエチレン含量が高い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】高圧の容器に酢酸ビニルを供給する流通路の断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】実施例1および比較例1におけるエチレンの共重合割合を示すグラフである。
【図4】実施例2および比較例2におけるエチレンの共重合割合を示すグラフである。
【図5】実施例3および比較例3におけるエチレンの共重合割合を示すグラフである。
【図6】実施例4および実施例1におけるエチレンの共重合割合を示すグラフである。
【図7】実施例5および比較例1におけるエチレンの共重合割合を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
10 流通路
3 スリットエレメント
31 スリット
32 スリット周囲のシート部分32

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル・エチレン共重合体を主成分とする、乳化重合により得られた樹脂の90%以上において、酢酸ビニル・エチレン共重合体中のエチレン含有率がその平均値に対して±5重量%の範囲内に入っていることを特徴とする酢酸ビニル・エチレン共重合体を主成分とする樹脂。
【請求項2】
乳化安定剤を含む水溶液中に酢酸ビニルモノマーを供給して、加圧エチレン雰囲気下で、酢酸ビニルモノマーとエチレンモノマーとを乳化重合する方法において、酢酸ビニルモノマーを反応系内に仕込む前に、反応系における重合圧力よりも0.1〜1.0MPa高い圧力で酢酸ビニルの液中にガス状のエチレンを分散・飽和溶解させ、該エチレン分散・飽和溶解した酢酸ビニル液を反応系に供給することを特徴とする酢酸ビニル・エチレン共重合体の製造方法。
【請求項3】
酢酸ビニル液にエチレンを分散・飽和溶解する際にエチレンをナノサイズで分散・飽和溶解させることを特徴とする請求項2記載の酢酸ビニル・エチレン共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記エチレンをナノサイズで分散・飽和溶解させるに際し、ナノサイズの孔を有するシラス多孔質ガラス膜にエチレンを通過させて酢酸ビニル液中に分散させることを特徴とする請求項3記載の酢酸ビニル・エチレン共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記エチレンをナノサイズで分散・飽和溶解させるに際し、金属製または合成樹脂製のシートに設けられたスリットであり、スリット周囲のシート部分が該スリットを通過する流体により可動であるようなスリットに、酢酸ビニル液とエチレンとを一緒に通過させることを特徴とする請求項3記載の酢酸ビニル・エチレン共重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−280369(P2008−280369A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123281(P2007−123281)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(507149877)
【出願人】(503429799)
【出願人】(000219222)東タイ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】