説明

高圧放電灯点灯装置

【課題】 高圧放電灯のスパッタによる黒化から発生する短寿命を抑え、なおかつ小型化、低コスト化された高圧放電灯点灯装置を提供する。
【解決手段】 矩形波点灯で点灯させる高圧放電灯点灯装置において、始動時のランプ電流の周波数と電流値をパラメーターにして、高圧放電灯にスパッタによる黒化の発生を極力抑える条件を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流のランプ電流を供給して高圧放電灯を点灯させる高圧放電灯点灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクターなどバックライト用光源装置に使用される一般的な高圧放電灯点灯装置は、直流電源から供給される電流を所定の点灯周波数の矩形波電流に変換して高圧放電灯の点灯極性を切り換えながら点灯させるようになっている。
【0003】
図4は第1の従来例、高圧放電灯点灯装置12を示す、直流電源1から出力された直流電力をチョッパ回路3へ入力し、スイッチング素子2のデューティ比をPWM制御回路5でコントロールすることにより適切な直流電流に変換した後、フルブリッジ回路4へ入力する。フルブリッジ回路4は、始動時においてイグナイター回路7によって作られる高電圧を高圧放電灯9に印加して点灯させる。高圧放電灯9に対して、対となるスイッチング素子TA及びTA、TB及びTBをフルブリッジ制御回路6により交互に導通させて、例えば110Hz程度の矩形波を供給して前記高圧放電灯9を始動、安定点灯するようになされている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特公平6−65175号
【0004】
ところで、近年、液晶プロジェクターなどのバックライト光源として高圧水銀灯に替えて超高圧水銀灯が使用されている。
この超高圧水銀灯は、点灯中の蒸気圧が極めて高く(10Pa程度以上)、アーク放電が放電管の中心に集まり輝度も温度も高いので、連続スペクトルを生じ、光色も白色に近く演色性も良好で、発光効率が高いというメリットがある。
しかし、始動時から110Hz程度の矩形波で始動を行なうと前記高圧放電灯9の始動性が著しく悪く、また電極がスパッタされるなど、前記高圧放電灯の照度の低下や寿命を短くしてしまう問題がある。
【0005】
図5は第2の従来例、高圧放電灯点灯装置11を示す。直流電源1から出力された直流電力をチョッパ回路3へ入力し、スイッチング素子2のデューティ比をPWM制御回路5でコントロールすることにより適切な直流電流に変換した後、フルブリッジ回路4へ入力する。
始動時においては共振回路10で作られた電圧を利用しイグナイター回路7によって作られる高電圧を高圧放電灯9に印加して点灯させる。またこの時の高圧放電灯9に印加される電力は共振回路10で作られた高周波電力である。このフルブリッジ回路4は高圧放電灯9に対して、対となるトランジスタTA及びTA、TB及びTBをフルブリッジ制御回路6により交互に導通させる。この放電灯点灯装置の場合、始動時は20〜60kHz程度の正弦波を、点灯後は110Hz程度の矩形波を供給して前記高圧放電灯9を始動、安定点灯するようにしている。
【0006】
しかし、従来例1の図4と比較すれば明らかな通り部品数が増え放電点灯装置を小型化、低コスト化することが難しいという問題がある。また、この場合、低周波出力時(即ち、安定点灯時)に対するランプ電流をある値に設定すると、自ずと高周波出力時における放電開始直後のランプ電流が決まることになる。ここで、放電開始直後のランプ電流は共振回路10の回路定数と出力周波数によって決まる。従って、回路定数を変更しない限り、即ち、一度実装された回路上で出力周波数と放電開始直後のランプ電流を独立して制御することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来例1においてはランプ始動時に110Hz程度の低周波のランプ電流で放電開始させようとすると、初期段階でランプにスパッタが頻発し、黒化するなど、ランプの照度不足や短寿命の原因になる。また、従来例2においては、共振回路を新たに設ける必要があることから部品数が多くなり、小型化低コスト化が図れない。また、1つの回路定数の設定に対して周波数やランプ電流を自由に制御できないことから、回路の標準化が図りにくいという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面は、可変の直流電力を供給する直流出力回路、直流電力を交流電力に変換し高圧放電灯に供給するインバータ回路、及び始動時に高圧放電灯に高圧パルスを印加するイグナイター回路を備えた高圧放電灯点灯装置において、インバータ回路が、高圧パルスの印加期間を含む第1の期間においては第1の周波数の矩形波を出力し、第1の期間の後に続く第2の期間においては第2の周波数の交流波形を出力し、第1の周波数を第2の周波数よりも高くした高圧放電灯点灯装置である。ここで、第1の周波数を6kHzよりも高くする構成とした。さらに、好適には第1の周波数を8kHz以上とした。また、第1の周波数を20kHz以下とした。
またさらに、高圧放電灯に対して、第1の期間の終了時に第1の電流が印加され、第2の期間の開始時に第2の電流が印加されるように直流出力回路を制御する制御回路を備え、第1の電流値が第2の電流値以下となるようにした。ここで、第1の電流値が第2の電流値の50〜100%の範囲内となるようにした。さらに、第1の電流値が第2の電流値の70〜90%の範囲内となるようにした。
【0009】
本発明の第2の側面は、高圧放電灯、高圧放電灯の配光を決めるリフレクタ、及び上記第1の側面に記載の高圧放電灯点灯装置からなる光源装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放電開始時の電流又は周波数を調整するので始動時のスパッタによる黒化などに起因するランプの照度低下や短寿命化を抑制することができる。また、チョッパ回路の制御とフルブリッジ回路の制御を工夫することで電流制限と高周波出力を両立するので、回路部品の簡素化及び最適化が可能となり、小型化。低コスト化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の実施例を示す回路図である。図中、図4及び図5に示す従来例と同様の構成部分には同様の符号を用いている。下記に示す通り、本実施例と従来例1とは、期間1におけるチョッパ回路3及びフルブリッジ回路4の制御が異なり、従来例2とは、共振回路がない点、即ち、イグナイター回路7以外のL要素(コイル、トランス等)がない点で構成上異なる。また、高周波出力時の動作について、従来例2においては共振回路のL成分の作用で高圧放電灯に印加される電流又は電圧はほぼ正弦波になるが、本実施例の回路においては、電流又は電圧の波形を鈍らせるほどのL要素がフルブリッジ回路4と高圧放電灯9の間に接続されていないので、印加される波形は矩形波となる(通常、イグナイター回路7のインダクタンスは低く設定され、このL成分の影響は十分に小さい)。
【0012】
図2は本実施例を説明するタイムチャートである。図中(a)はフルブリッジ回路4の出力周波数、(b)はランプ電流、(c)はパルス発生の有無を示している。また、パルス発生期間を期間T1、安定点灯移行後の期間をT2とする。電源投入後、チョッパ回路3が直流電流をフルブリッジ回路4に印加するとともに、イグナイター回路7から高圧放電灯9に始動用の高圧パルスが印加される。期間T1に、チョッパ回路3の出力電流及びフルブリッジ回路4の出力周波数が適切に制御される。即ち、期間T1においては、放電開始後に流れるランプ電流(以下、「短絡電流」という)を抑制するためにチョッパ回路3を制御するとともに、フルブリッジ回路4の出力周波数を期間T2よりも高くする。
なお、短絡電流の制御、即ちチョッパ回路3の制御はフィードフォワードとしてもよいし、ランプ電圧又はランプ電流を(図示されない)検出回路によって検出してフィードバックする制御としてもよい。
【0013】
チョッパ回路3の出力電流が一定であった場合、ランプ電流はランプのインピーダンスに対して単調減少する。ランプのインピーダンスは放電開始直後が最も低く、その後徐々に上昇していくことから、ランプ電流は放電開始直後が最も大きく、その後徐々に減少していく。従って、前述の短絡電流の定義によると、短絡電流はそのランプに流れる電流値としては最大のものと考えることができる。この短絡電流が流れる期間はある時間幅を持っているので、「短絡電流」は期間T1と期間T2にわたって流れる。本実施例においては期間1と期間2とでチョッパ回路3の出力を変える制御をするので、「短絡電流値」を期間T1と期間T2においてそれぞれ異なるものとすることができる。即ち、期間T1の終了時と期間T2の開始時ではランプのインピーダンスは実質同じであるが、チョッパ回路3の出力電流を制御して、それぞれの短絡電流を異なるものとしている。
【0014】
なお、本実施例においては、期間T2では低周波矩形波で点灯するようにしているが、この期間では任意のランプ電流波形を適宜選択可能である。また、可変な直流電流を供給する直流出力回路として図1に示すようなチョッパ回路を用いたが、直流電流を可変に制御・供給できれば、他の回路構成のものであってもよい。また、インバータ回路としてフルブリッジ回路を用いているが、矩形波が出力できれば他の電源回路を用いてもよい。
さらに、本実施例では、パルス発生の終了、チョッパ回路3における直流電流の切り換え、及びフルブリッジ回路4における出力周波数の切り換えをほぼ同時に行っているが、チョッパ回路3の制御の切り換え又はフルブリッジ回路4の制御切り換えは、パルス発生終了時よりいくらか遅くても問題はない。即ち、本実施例においては期間T1の終了時をパルス発生終了時で規定したが、チョッパ回路3の出力切換え時、又はフルブリッジ回路4の周波数切換え時でT1の終了時を規定してもよい。
【0015】
図1に示す回路を用いて、期間T1におけるフルブリッジ回路4の出力周波数と短絡電流との関係を測定した。なお、測定の条件は、始動パルス電圧:11kV±1kV、始動パルス発生数:150回/s、期間T2における短絡電流:3Arms、期間T2における点灯周波数:110Hz、適合ランプは超高圧水銀灯165Wであり、また2次無負荷電圧は370Vに固定した。
【0016】
また、測定は、始動時ランプ電流周波数を1kHz、2kHz、4kHz、6kHz、8kHz、12kHz、15kHz、及び20kHz また、期間T1における短絡電流値を1.5A、1.8A、2.1A、2.4A、及び2.7A(いずれも実効値)として数個のランプを用い、5分点灯5分消灯の繰り返しを50回づつ行い、対象ランプにおいてスパッタによる黒化の有無を調べた。なお、測定結果を表1に示す。
【表1】

【0017】
結果から明らかなように出力周波数は8kHz以上20kHz以下、かつ、電流値が2.1A以上であれば著しいスパッタによる黒化は発生せず、また高圧放電灯の寿命を満足できる範囲内でパラメーターを選択できることが確認できた。従って、黒化防止の効果を得るためには、出力周波数を6kHzよりも高くすること、又は電流値を1.8A以上とすることが必須の条件となり、好ましくは周波数を8kHz以上20kHz以下、かつ、電流値を2.1A以上とすれば十分である。なお、電流値に関しては、適合ランプの定格に応じて同様の考え方を適用できる。即ち、他の定格のランプにおいても、期間T2の短絡電流に対して期間T1の短絡電流を50%〜100%とすることが必須であり、好ましくは70%〜90%とすれば十分である。
【0018】
なお、測定においては20kHzまでを確認したが、さらに高い周波数でも同様の黒化抑制又は防止効果が期待できる。またさらに、フルブリッジ回路4を構成するスイッチング素子などの適切な選定による小型化・低コスト化を図るという観点においては、上述の8kHzから20kHzの範囲が最適なものである。なお、例えば、この8k〜20kHzでの設計に対応した特性(又は定格)のスイッチング素子を用いた場合、30kHz程度までの設計が実現可能であるが、上述のようにスイッチング素子の性能を上げれば高い周波数での実施も可能である。
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、ランプ始動時のスパッタによる黒化などに起因するランプの照度低下や短寿命化を抑制することができる。また、共振回路や追加的なL成分(コイル、トランス等)を要しないので、小型化、低コスト化された高圧放電灯点灯装置を提供することができる。
【0020】
図3は上記の高圧放電灯点灯装置を用いた光源装置である。上記実施例の高圧放電灯点灯装置11、高圧放電灯9、及び高圧放電灯9の配光を決めるリフレクタ12を備える構成とした。この構成により、高圧放電灯の始動性、発光特性及び寿命を確保しつつ、小型、軽量、かつ、低コストな光源装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、小型化、低コスト化が要求される液晶プロジェクーなどのバックライト用光源装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による高圧放電灯点灯装置を示す図
【図2】本発明の高圧放電灯装置の制御を説明する図
【図3】本発明による光源装置を示す図
【図4】従来例1の高圧放電灯点灯装置を示す図
【図5】従来例2の高圧放電灯点灯装置を示す図
【符号の説明】
【0023】
1 直流電源
2 スイッチング素子
3 チョッパ回路
4 フルブリッジ回路
5 PWM制御回路
6 フルブリッジ制御回路
8 イグナイター制御回路
9 高圧放電灯
10 共振回路
11 高圧放電灯点灯装置
12 リフレクタ
TA1 スイッチング素子
TB1 スイッチング素子
TA スイッチング素子
TB スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変の直流電力を供給する直流出力回路、該直流電力を交流電力に変換し高圧放電灯に供給するインバータ回路、及び始動時に該高圧放電灯に高圧パルスを印加するイグナイター回路を備えた高圧放電灯点灯装置において、
該インバータ回路が、該高圧パルスの印加期間を含む第1の期間においては第1の周波数の矩形波を出力し、該第1の期間の後に続く第2の期間においては第2の周波数の交流波形を出力し、該第1の周波数を該第2の周波数よりも高くしたことを特徴とする高圧放電灯点灯装置。
【請求項2】
請求項1記載の高圧放電灯点灯装置であって、該第1の周波数を6kHzよりも高くしたことを特徴とする高圧放電灯点灯装置。
【請求項3】
請求項2記載の高圧放電灯点灯装置であって、さらに、該第1の周波数を8kHz以上としたことを特徴とする高圧放電灯点灯装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載の高圧放電灯点灯装置であって、さらに、該第1の周波数を20kHz以下としたことを特徴とする高圧放電灯点灯装置。
【請求項5】
請求項1から4いずれか一項に記載の高圧放電灯点灯装置であって、さらに、
前記高圧放電灯に対して、前記第1の期間の終了時に第1の電流が印加され、前記第2の期間の開始時に第2の電流が印加されるように該直流出力回路を制御する制御回路を備え、
該第1の電流値が該第2の電流値以下であることを特徴とする高圧放電灯点灯装置。
【請求項6】
請求項5記載の高圧放電灯点灯装置であって、
前記第1の電流値が前記第2の電流値の50〜100%の範囲内であることを特徴とする高圧放電灯点灯装置。
【請求項7】
請求項6記載の高圧放電灯点灯装置であって、さらに、
前記第1の電流値が前記第2の電流値の70〜90%の範囲内であることを特徴とする高圧放電灯点灯装置。
【請求項8】
高圧放電灯、該高圧放電灯の配光を決めるリフレクタ、及び請求項1から請求項7いずれか一項に記載の高圧放電灯点灯装置からなることを特徴とする光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−120502(P2006−120502A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308060(P2004−308060)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】