説明

高圧放電灯

【課題】 発光管が万一破裂した場合でも、透光性外管が破損しない範囲で、光透過率を最大にできる高圧放電灯を提供することを目的とする。
【解決手段】 気密性の透光性外管の内部に一対の相対する電極を内包する発光管と、前記発光管を含むランプ部材を前記透光性外管内の所定位置に保持するためのフレーム部材とを有する高圧放電灯において、前記フレーム部材が発光管軸と平行かつ発光管軸を挟んで相対する位置に2本配置され、金属線が前記フレーム部材および前記発光管に対して押圧力が加わるように接触しながら巻き付けられており、金属線の少なくとも両端部がフレーム部材に接合されて位置固定されるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電灯に関し、特に発光管破裂時の透光性外管保護に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧放電灯は、高輝度高効率などの特長を有する反面、点灯時の発光管圧力が高くなるために発光管が破裂する可能性がある。万一にも発光管が破裂し、透光性外管まで破損すると、ランプ外のシステムに被害を与える可能性もある。そのため従来から発光管破裂が破裂してもランプ外に影響を与えないような対策が多数考えられてきた。
【0003】
例えば発光管の周囲を網状または線輪状の金属線でとりかこみ、かつこの金属線の網目間隔あるいは線輪間隔を5〜15mmの範囲としたメタルハライドランプ(特許文献1参照)や、ほぼ同様な構成で金属線の代わりにガラスファイバを使用したもの(特許文献2参照)や前記線輪間隔の最適化を図ったもの(特許文献3参照)が紹介されている。
また発光管の周囲に円筒形の石英ガラス製の透光性スリーブを設けて発光管破裂時に飛散する破片の衝撃を緩和する方法もある(特許文献4参照)。
【0004】
さらに発光管の周囲に円筒状部材(本発明における透光性スリーブに相当)を設け、その円筒状部材にランプ部材を支持するフレーム手段自体をらせん状に巻きつけたもの(特許文献5参照)や、外周部に透光性外側包被体(本発明における透光性スリーブに相当)を設け、さらにワイヤーメッシュを透光性スリーブに被せて破裂時の透光性スリーブ保全能力を高めている例があり(特許文献6および特許文献7参照)、透光性スリーブとガラスファイバを組み合わせたもの(特許文献8参照)、透光性スリーブの破片が透光性外管まで到達することを防止するため透光性スリーブに金属線を巻きつけている例がある(特許文献9から12参照)。
最近ではセラミック製の発光管にも破裂防止のためのモリブデンコイルを巻き付けた例がある(特許文献13参照)。
【0005】
【特許文献1】特公昭49−12988号公報
【特許文献2】実開昭48−57979号公報
【特許文献3】実開昭49−13571号公報
【特許文献4】特開平05−258724号公報
【特許文献5】特開昭61−161647号公報
【特許文献6】特開昭64−071054号公報
【特許文献7】特開平02−201860号公報
【特許文献8】特開平03−147247号公報
【特許文献9】特開平07−153430号公報
【特許文献10】特開平07−153431号公報
【特許文献11】特許第3471091号公報
【特許文献12】特許第3471093号公報
【特許文献13】特開2004−525695公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの方法では、先行技術文献に繰り返し記述されているとおり、発光管保護手段または透光性スリーブ保護手段が発光管から放出される光を吸収するか散乱してしまうため、いずれにせよ発光管から放出される光の一部を遮光することになり、ランプ全体の発光効率が減少する。
【0007】
近年セラミック製の発光管を採用し、発光効率80LM/W以上かつ平均演色評価数(Ra)が80以上という高効率高演色を実現したメタルハライドランプが多く使用されている。これらセラミックメタルハライドランプの場合、通常の使用状態ではほとんど破裂しない。しかし、逆に破裂する時には安定器の短絡などで定格電力の数倍以上の入力があった場合など、異常に大きなエネルギが発生していることがあり、通常想定していなかったような大きな事故につながる危険性もある。
【0008】
したがって、セラミックメタルハライドランプの透光性外管破損対策は石英ガラス製の発光管を使用したランプの場合よりも大きな破壊エネルギに対応する必要がある。
すなわち前記特許文献2に記載されているようなグラスファイバや前記特許文献8に記載されているようなセラミックファイバでは発光管破裂時の保護手段として実用的な強度は期待できず、金属メッシュや金属線などを使用する場合でも大きな運動エネルギを持つ破片が衝突することによって金属線が変形してしまうため、網目間隔や線輪間隔を従来の間隔より小さく設定する必要がある。
【0009】
例として、次のような試作を行ない、破裂実験を行なった。
図6および図7は定格電力400Wのセラミックメタルハライドランプを先行技術により試作した例を示す説明図である。図6は正面図、図7は発光管中心部を発光管軸に垂直な面で切断した断面図である。
【0010】
図6において、1はセラミック製の発光管であり、一対の電極11aおよび11bを内包している。発光管1は中央部の発光部1cとその両端に接続されているキャピラリー19aおよびキャピラリー19bから構成され、数種の金属ハロゲン化物と封入密度6.0mg/cmで水銀が封入されている。口金8側の電極11bは図示しない発光管封入線を介し、口金側ニッケル線15を経て口金側リード線10へ電気的に接続し、さらにステム2の封入線の1本に接続している。
他方の電極11aは、同様に図示しない他方の発光管封入線を介し、ニッケル線14を経てフレーム3へ電気的に接続し、さらにステム2の別の封入線に接続している。
発光管1は、図示しない支持用金属線によりフレーム3に固定されている。
発光管1の周囲には金属線32を巻き付けてある。この金属線32はキャピラリー19aおよびキャピラリー19bの一部にも巻き付けることにより位置固定されている。
図7に示すとおり、金属線32は発光管1の外周に設けられているが、実際には金属線32のバネ性による巻き戻しがあり、発光管外周面と金属線32の間に隙間ができる部分が存在する。
【0011】
これらのランプ部材はすべて透光性外管7の内部に収容され内部は高真空状態に保持されている。
ランプへの電力供給は、ランプが図示しないソケットに装着された状態において、口金8からステム2に封止された導入線を通してなされる。
【0012】
上記のランプにおいて金属線32の材質は前記特許文献13を参考にしてモリブデン線を使用し、線径0.05〜0.6mm、巻き付けピッチ2〜10mmの範囲で巻き付け条件を変更しながら破裂実験を繰り返したところ、透光性外管7の破損を防止できる条件は次項のいずれかであった。
【0013】
(1) 線径0.2mmで巻き付けピッチ2mm以下。
(2) 線径0.3mmで巻き付けピッチ2mm以下。
(3) 線径0.4mmで巻き付けピッチ3mm以下。
(4) 線径0.5mmで巻き付けピッチ4mm以下。
(5) 線径0.6mmで巻き付けピッチ5mm以下。
線径が0.1mm以下では発光管破裂時に飛散する発光管破片によってモリブデン線が切断されるため巻き付けピッチに関係なく不可であった。
線径が0.4mm以下では発光管破裂時に飛散する発光管破片によってモリブデン線の巻き付け間隔が広がる方向へ大きく変形し、モリブデン線が発光管破片の飛散を止める効果が不十分だった。
【0014】
前項に挙げた条件のランプでは、金属線を巻き付けない同等仕様のランプと比較して、初期光束で5〜10%の光束低下が見られた。
【0015】
次に発光管周囲に透光性スリーブを設けたランプについても同様の実験を行なった。
図8および図9は定格電力400Wの透光性スリーブ付セラミックメタルハライドランプを先行技術により試作したものである。図8は正面図、図9は発光管中心部を発光管軸に垂直な面で切断した断面図である。
【0016】
図8において、1はセラミック製の発光管であり、一対の電極11aおよび11bを内包している。発光管1は中央部の発光部とその両端に接続されているキャピラリー19aおよびキャピラリー19bから構成され、数種の金属ハロゲン化物と封入密度6.0mg/cmで水銀が封入されている。口金8側の電極11bは図示しない発光管封入線を介し、口金側ニッケル線15を経て口金側リード線10へ電気的に接続し、さらにステム2の封入線の1本に接続している。
他方の電極11aは、同様に図示しない他方の発光管封入線を介し、ニッケル線14を経てフレーム3へ電気的に接続し、さらにステム2の別の封入線に接続している。
発光管1の周囲には石英ガラス製で外径30mm、肉厚1.2mmの透光性スリーブ21が設けられ、その外周全域に亘って金属線42を巻き付けてある。この金属線42は透光性スリーブ21の端面で金属線の端部を折り曲げることにより位置固定されている。
発光管1は、透光性スリーブ固定板(25a25b)により透光性スリーブ21を介してフレーム3に固定されている。
図9に示すとおり、金属線42は透光性スリーブ21の外周に設けられているが、実際には金属線42のバネ性による巻き戻しがあり、透光性スリーブ21と金属線42の間に隙間ができる部分が存在する。
【0017】
これらのランプ部材はすべて透光性外管7の内部に収容され内部は高真空状態に保持されている。
ランプへの電力供給は、ランプが図示しないソケットに装着された状態において、口金8からステム2に封止された導入線を通してなされる。
【0018】
上記のランプにおいて金属線42の材質は前記特許文献13を参考にしてモリブデン線を使用し、線径0.05〜0.6mm、巻き付けピッチ2〜10mmの範囲で巻き付け条件を変更しながら破裂実験を繰り返したところ、透光性外管7の破損を防止できる条件は次項のいずれかであった。
【0019】
(1) 線径0.1mmで巻き付けピッチ2mm以下。
(2) 線径0.2mmで巻き付けピッチ2mm以下。
(3) 線径0.3mmで巻き付けピッチ6mm以下。
(4) 線径0.4mmで巻き付けピッチ8mm以下。
(5) 線径0.5mmで巻き付けピッチ10mm以下。
(6) 線径0.6mmで巻き付けピッチ12mm以下。
線径が0.05mmでは、発光管破裂時に破壊されるスリーブの破片によってモリブデン線が切断されるため巻き付けピッチに関係なく不可であった。
線径が0.3mm以下では、発光管破裂時に破壊されるスリーブの破片によってモリブデン線がその巻き付け間隔が広がる方向へ大きく変形させられるため、モリブデン線が発光管破片の飛散を止める効果が不十分だった。
【0020】
前項に挙げた条件のランプでは、金属線を巻き付けない同等仕様のランプと比較して、初期光束で5〜9%の光束低下が見られた。
【0021】
上述した例でも明らかなように透光性外管の破損を防止するための手段を設けることで発光管からの光透過率が下がり、ランプの目的である高効率達成を阻害する要因となっている。
【0022】
また透光性スリーブ保護手段無しでも透光性外管破損が起こらない程度に透光性スリーブ肉厚を厚くした場合、従来品の数倍以上の厚さが必要となり透光性スリーブ自体の光透過率が減少する。さらに透光性スリーブ重量が増えることによりに支柱などを補強する必要が生じ、全体的な重量増と生産コスト増になる。
本発明はこれらの問題を解決するためになされたもので、発光管が万一破裂した場合でも、透光性外管が破損しない範囲で、光透過率を最大にできる高圧放電灯を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、請求項1に係る本発明の高圧放電灯は、気密性の透光性外管の内部に一対の相対する電極を内包する発光管と、前記発光管を含むランプ部材を前記透光性外管内の所定位置に保持するためのフレーム部材とを有する高圧放電灯において、前記フレーム部材が発光管軸と平行かつ発光管軸を挟んで相対する位置に2本配置され、金属線が前記フレーム部材および前記発光管に対して押圧力が加わるように接触しながら巻き付けられており、金属線とフレーム部材との接触部分のうち少なくとも両端部がフレーム部材に接合されて位置固定されていることを特徴とする。
【0024】
また請求項2に係る本発明の高圧放電灯は、気密性の透光性外管の内部に一対の相対する電極を内包する発光管と、その発光管を取り囲む円筒状の透光性スリーブと、前記発光管および透光性スリーブを含むランプ部材を前記透光性外管内の所定位置に保持するためのフレーム部材とを有する高圧放電灯において、前記フレーム部材が発光管軸と平行かつ発光管軸を挟んで相対する位置に2本配置され、金属線が前記フレームおよび透光性スリーブに対して押圧力が加わるように接触しながら巻き付けられており、金属線の少なくとも両端部がフレーム部材に接合されて位置固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1の発明によれば、発光管保護のための金属線をフレーム部材および発光管に押圧力がかかるように巻き付けることにより、発光管破裂時に発光管破片が金属線に衝突した際の金属線の逃げ量を小さくでき、従来と同等の仕様を持つランプについて金属線の配置間隔を従来の方法より広くできるため、金属線の発光管放出光の遮光率を最小にし、透光性外管破損を確実に防止することができる。
実験によれば、先行技術に従った試作ランプの光束低下率が5〜10%であったのに対し、同じ仕様のランプ部材を用いて本発明に従い金属線を巻き付けた試作ランプは3%以下の光束低下に留まっていた。
また非常に簡易な方法であるため、従来品の製造工程をほとんど変更することなく金属線の巻き付け作業を追加できるため、材料コストおよび製造コストの上昇も抑えられる。
【0026】
請求項2の発明によれば、透光性スリーブ保護のための金属線をフレーム部材および透光性スリーブに押圧力がかかるように巻き付けることにより、発光管破裂時に破壊されるスリーブの破片が衝突した際の金属線の逃げ量を小さくでき、従来と同等の仕様を持つランプについて金属線の配置間隔を従来の方法より広くできるため、金属線の発光管放出光の遮光率を最小にし、透光性スリーブおよび透光性外管の肉厚をいたずらに厚くすることなく透光性外管破損を確実に防止することができる。
実験によれば、先行技術に従った試作ランプの光束低下率が5〜9%であったのに対し、同じ仕様のランプ部材を用いて本発明に従い金属線をまきつけた試作ランプは3%以下の光束低下に留まっていた。
また非常に簡易な方法であるため、従来品の製造工程をほとんど変更することなく金属線の巻き付け作業を追加できるため、材料コストおよび製造コストの上昇も抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
前述した発明の構成要素を実施するための形態を実施例に基づき次に説明する。
【実施例1】
【0028】
図1および図2は定格電力400Wのセラミックメタルハライドランプを本発明の請求項1に記載した構成により試作した例を示す説明図である。図1は正面図、図2は発光管中心部を発光管軸に垂直な面で切断した断面図である。
図1および図2において、図6および図7と同じ符号をつけた部品は同一仕様の部品であることを示す。
【0029】
図1において、1はセラミック製の発光管であり、一対の電極11aおよび11bを内包している。発光管1は中央部の発光部とその両端に接続されているキャピラリー1aおよびキャピラリー1bから構成され、数種の金属ハロゲン化物と封入密度6.0mg/cmで水銀が封入されている。口金8側の電極11bは発光管封入線を介し、口金側ニッケル線15を経て口金側リード線10へ電気的に接続し、さらにステム2の封入線の1本に接続している。
他方の電極11aは、同様に他方の発光管封入線を介し、ニッケル線14を経てフレーム3へ電気的に接続し、さらにステム2の別の封入線に接続している。
発光管1は、図示しない支持用金属線によりフレーム3に固定されている。
発光管1の周囲にはフレーム3を介して金属線12を巻き付けてある。この金属線12は溶接点13aおよび溶接点13bによりフレーム3に位置固定されている。
【0030】
これらのランプ部材はすべて硬質ガラス製の透光性外管7の内部に収容され内部は高真空状態に保持されている。
ランプへの電力供給は、ランプが図示しないソケットに装着された状態において、口金8からステム2に封止された導入線を通してなされる。
【0031】
上記のランプにおいて金属線12の材質は線径0.25mmのモリブデン線を使用しており、巻き付けピッチは10mmとしている。
金属線12をフレームおよび発光管に巻き付ける手順としては、第1に金属線12の一方の端をフレーム3上の溶接点13aにスポット溶接などで接合する。
【0032】
第2に前記金属線12を金属線12に張力が生じるように約1kgfの力で引っ張りながらフレーム3および発光管6に巻き付ける。具体的には金属線12にばねばかりを取り付けると張力を制御する事が容易になる。
【0033】
第3に金属線12に張力をかけたまま金属線12の他方の端をフレーム3上の溶接点13bにスポット溶接などで接合する。
このようにすれば、金属線12をフレーム3および発光管1に対して押圧力を加えるように接触させながら巻き付けることができる。
本実施例のランプについて破裂試験を20本実施したところ、透光性外管が破損したランプは全く無かった。
【0034】
また初期光束を測定したところ、金属線を巻き付けない同等仕様のランプと比較して、初期光束で3%弱の光束低下にとどまった。
また、先行技術による試作ランプの破裂実験と対比するため、本実施例のランプにおいて金属線12の線径を0.05〜0.6mm、巻き付けピッチを2〜10mmの範囲で巻き付け条件を変更しながら破裂実験を繰り返した。金属線材質は前記破裂実験と同様のモリブデン線とした。
その結果、透光性外管7の破損を防止できる条件は次項のいずれかであった。
【0035】
(1) 線径0.2mmで巻き付けピッチ6mm以下。
(2) 線径0.3mmで巻き付けピッチ10mm以下。
(3) 線径0.4mmで巻き付けピッチ10mm以下。
(4) 線径0.5mmで巻き付けピッチ10mm以下。
(5) 線径0.6mmで巻き付けピッチ10mm以下。
線径が0.1mm以下では先行技術による試作と同様、破裂時にモリブデン線が切断されるため巻き付けピッチに関係なく不可であった。しかしモリブデン線が切断されなければ、発光管破片が衝突しても金属線が大きく変形する事が無いため、巻き付けピッチを大きく広げる事が可能であった。ただし巻き付けピッチが10mmを超えるとモリブデン線に接触せずに通過した発光管破片が透光性外管を破損するため、線径を0.3mm以上にしても、透光性外管の破損を防止する効果は向上しなかった。
【0036】
前項段落番号(0013)に記述したように、先行技術による同等仕様の試作ランプにおいて、透光性外管の破損を防止できる条件は例えば線径0.3mmの金属線を用いた場合、巻き付けピッチ2mm以下であり、その他の線径を使用した条件を含めても、金属線を巻き付けない同等仕様のランプと比較して初期光束で5〜10%もの光束低下が見られた。
それに対し、前項に挙げたランプでは線径0.3mmの金属線を用いた場合、巻き付けピッチを10mmにする事ができ、金属線を巻き付けない同等仕様のランプと比較して、初期光束でわずか3%弱の光束低下にとどまった。
このように、本発明によるランプは先行技術によるランプに対して著しい改善効果がある。
【0037】
今回対比した図6のような先行技術の他に、前記特許文献1などのように金属線を螺旋形状に成形してフレームの外側に囲繞するという技術もあり、本発明と類似しているが、本発明では金属線をフレーム部材にただ囲繞するのではなく、張力をかけながら発光管1及びフレーム3に巻き付けているという点が異なっている。
【0038】
本発明に使用する金属線は、線引き加工により加工硬化した、いわゆる硬質の線を使用するのが好ましい。完全に焼きなまし処理を行なった軟質線では金属線がバネ性を失っているため、巻き付け作業は容易となる。しかし軟質線は変形を受けた時の弾性変形領域がほとんど無く、すぐに塑性変形してしまうため後述する押圧力の効果が小さくなる。
硬質金属線をフレームおよび発光管に巻き付けた後フレームに接合した状態では、図2および図4において、金属線12がフレームおよび透光性スリーブに接触している部分に、フレームや金属線がその弾性により直線に戻ろうとする力により金属線をフレームまたは透光性スリーブに押し付ける力すなわち押圧力がかかっている。両者間では金属線はほぼ直線をなしており金属線に張力が生じている。
【0039】
なお、フレーム部材および発光管に対して金属線の押圧力が加わるように接触しているかどうかを確認するためには、前項のようにフレームと発光管との間で金属線がほぼ直線をなしていることと製造後の振動や衝撃を経た後でも金属線とフレームおよび発光管との接触位置が変わらないこと、および初期に接触していて離れた部分がないかをチェックすればよい。
【0040】
このような構成にすると、従来の金属線をフレーム部材にただ囲繞したものと比較して次のような利点がある。
【0041】
第1に金属線と発光管が直接接触している部分では、発光管に対して金属線が押し付けられていることにより押圧力が加わっている。発光管破裂時には、発光管破片が金属線を透光性外管内壁方向に押す力が発生するが、この力は押圧力により一部相殺される。
さらに金属線はフレームに接合されているうえフレームと発光管との間で金属線がほぼ直線をなしている。そのため発光管は金属線によって押さえつけられ、それ以上膨張する方向に金属線は変形する事ができない。すなわち発光管破片が発光管破裂時に金属線を押し退けて透光性外管内壁方向に飛散しようとしても、フレームを変形させるか金属線を切断しない限り、金属線を大きく変形させて通過することはできない。フレームはランプ部材を透光性外管内の所定位置に保持する役割を持つために比較的太い金属棒が使用されるため、ほとんど変形しない。したがって金属線が大きく変形する事が無いため、前項段落番号(0035)の実験結果に示すとおり先行技術と比較し巻き付けピッチを大きく広げる事が可能となる。
先行技術では、発光管に押圧力が働いていないため、発光管が破壊された瞬間から発光管破片は自由に動く事ができた。すなわち発光管破片が金属線に接触すると金属線を押し退けて通過してしまうという現象が見られた。
【0042】
第2にフレームと発光管との間では、金属線はほぼ直線をなしており金属線に張力が生じているため、発光管破片が接触した時に変形量が小さくなる。
すなわち本発明の構成によれば金属線に張力をかけながら巻き付けているために金属線がフレームおよび発光管に押し付けられ、金属線とフレームおよび発光管表面との摩擦力によって金属線が両者に固定されているのと同等の状態になる。そのため外力を受けた時の金属線変形量が小さくなる。
例えば金属線をたわんだ状態で両端を固定した場合、金属線に小石をぶつけると金属線はたわみの分だけ動く事ができる。しかし張力をかけて固定した状態で両端を固定した金属線に小石をぶつけても金属線はほとんど動かず、小石は撥ね返されるか移動方向を大きく変えられてしまう。同様に本発明の構成によれば発光管破裂時の破片が金属線に当たっても、金属線はほとんど変形せず、発光管破片をはじき返す事ができる。
一方先行技術では金属線は宙に浮いている状態であり、発光管破片が接触した時に金属線はほとんど何の抵抗も無く移動してしまう。そのため発光管破片は容易に金属線を押し退けて通過してしまう。
【0043】
ここで、発光管が破裂して破片が飛散している状態では金属線が発光管に接触している部分が破壊されて発光管による金属線固定効果が無くなり、金属線は宙に浮いているのと同様の状態になるはずだという疑問が生じるが、実験では、金属線をフレームおよび発光管に対して押圧力が加わるように接触させながら巻き付けたほうが、従来の巻き付け法と比較して明らかに金属線の変形量が小さくなる。
これについては発光管破裂時であってもフレームには金属線が固定されているためと考えられる。また発光管が破裂した直後には、発光管から吹き出るガスによって発光管が金属線を外管内面方向へ押すことになり、一時的に金属線にかかる張力が増大するという現象が起こっているとも考えられる。
【0044】
金属線を2本のフレームに巻き付けて接合する都合上、巻き付け回数は、発光管周囲の180度ごとにフレーム部材が存在するマウント構造であれば0.5回単位の巻き付け数が選択できる。
【0045】
また、発光管の外表面が摂氏900度以上になることから、金属線はタングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、鉄、ニッケルなどの高融点金属であったり、ステンレス鋼や「モネル(登録商標)」「インコネル(登録商標)」などの耐熱合金である必要がある。
タンタル線またはニオブ線を用いた場合、透光性外管内に発生する不純ガスを吸収するという派生効果も得られる。
【0046】
ランプ材料として一般的なモリブデン線などを使用し、フレーム部材とスポット溶接する場合、作業性向上のため溶接部分をニッケルなどで被覆することが好ましく、その際、発光管内のアークから発光管軸に対して垂直に放射した光を遮蔽しないように放射空間の外側に溶接位置を設定することが好ましい。
【0047】
すなわち前記金属線の少なくとも両端部が前記電極のそれぞれの先端を通り前記発光管の中心軸に垂直な2つの平面に挟まれた領域の外でフレームに接合すれば上記の条件を実現できる。
【0048】
また本発明者らが従来から行なってきた透光性スリーブ付ランプの破裂実験において、金属線としてモリブデン線を使用した場合、直径0.05mm以下では破裂試験の際に切断されることがあり、0.06mm以上0.2mm以下では切断されないが、透光性スリーブの破片が当たったときに金属線が発光管軸方向に逃げて破片を通過させてしまうため、透光性外管が破損することがあった。
本発明を考案するに当たって実施した実験結果もこれと同じ傾向である。
線径が大きくなるほど安全性は高くなるが、発光管からの光束低下率も大きくなる。本発明の目的を考えると、モリブデン線を使用する場合、金属線の線径は実施例1のように0.25mm以上とするのが好ましく、遮光率を抑えるためには採用する金属線の線径を0.5mm以下に留めておくのが適当である。
【0049】
またモネル(登録商標)線を使用した場合についても追試の結果、直径0.25mmから0.5mmの範囲が好適であるとわかった。
【0050】
接触部をフレーム部材に位置固定するにはスポット溶接、レーザー溶接などにより接合すればよい。
またフレーム部材に純鉄線などの比較的柔らかい材料を採用し、巻き付ける金属線にモリブデンなどの比較的硬い材料を用いた場合には、金属線がフレーム部材に食い込むように加圧して接合する「圧接」や、金属線に強い張力をかけながらフレームに金属線を複数回巻きつける「ラッピング」などの方法で接合することもできる。
【0051】
また、前記金属線を前記フレーム部材に複数回巻き付ける場合、金属線とフレーム部材との接触部分をすべて溶接することによって最良の結果が得られるが、金属線に張力をかけながらフレームごと発光管周りに巻き付けることによって発光管およびフレーム部材に十分な押圧力が加わっていれば、前記金属線の両端部のみを溶接するだけでも十分な効果が得られる。これは途中の接触点が金属線とフレーム部材との摩擦力による位置決め力が破片の衝突時に金属線を発光管軸方向にずらそうとする力を上回るためと考えられる。
【0052】
なお、金属線をフレームおよび発光管に巻き付ける際、図2に示す形状に巻き付ければよいが、図5に示すような形状に巻き付けてもよい。
この場合、図2に示す構成よりも巻き付け作業性は悪くなる。しかし図5に示すように金属線112をフレーム3に接続する際に、フレーム3および発光管1を図5に示す方向に固定した状態で、図5における上下方向から溶接チップ114aおよび114bにて加圧しながら容易にスポット溶接を行なう事ができ、その後、他の接触位置の溶接も同じ方向から直ちに行なう事ができるため、大量生産時に自動装置にて溶接を行なう際に有利となる。
【実施例2】
【0053】
図3および図4は定格電力400Wのセラミックメタルハライドランプを本発明の請求項2に記載した構成により試作した例を示す説明図である。図3は正面図、図4は発光管中心部を発光管軸に垂直な面で切断した断面図である。
図3および図4において、図1、図2および図6から図9までの各図と同じ符号をつけた部品は同一仕様の部品であることを示す。
【0054】
図3において、1はセラミック製の発光管であり、一対の電極11aおよび11bを内包している。発光管1は中央部の発光部1cとその両端に接続されているキャピラリー19aおよびキャピラリー19bから構成され、数種の金属ハロゲン化物と封入密度6.0mg/cmで水銀が封入されている。口金8側の電極11bは発光管封入線を介し、口金側ニッケル線15を経て口金側リード線10へ電気的に接続し、さらにステム2の封入線の1本に接続している。
他方の電極11aは、同様に他方の発光管封入線を介し、ニッケル線14を経てフレーム3へ電気的に接続し、さらにステム2の別の封入線に接続している。
発光管1の周囲には石英ガラス製で外径30mm、肉厚1.2mmの透光性スリーブ21が設けられ、その発光部18外周全域に亘って金属線22を巻き付けてある。この金属線22は溶接点23aおよび溶接点23bによりフレーム3に位置固定されている。
発光管1は、透光性スリーブ固定板(25a25b)により透光性スリーブ21を介してフレーム3に固定されている。
【0055】
これらのランプ部材はすべて透光性外管7の内部に収容され内部は高真空状態に保持されている。
ランプへの電力供給は、ランプが図示しないソケットに装着された状態において、口金8からステム2に封止された導入線を通してなされる。
【0056】
上記のランプにおいて金属線22の材質は線径0.25mmのモリブデン線を使用しており、巻き付けピッチは14mmとしている。
金属線22をフレームおよび発光管に巻き付ける手順としては、第1に金属線22の一方の端をフレーム3上の溶接点23aにスポット溶接などで接合する。
第2に前記金属線22を金属線22に張力が生じるように約1kgfの力で引っ張りながらフレーム3および透光性スリーブ21に巻き付ける。具体的には金属線22にばねばかりを取り付けると張力を制御する事が容易になる。
第3に金属線22に張力をかけたまま金属線22の他方の端をフレーム3上の溶接点23bにスポット溶接などで接合する。
このようにすれば、金属線22をフレーム3および透光性スリーブ21に対して押圧力を加えるように接触させながら巻き付けることができる。
【0057】
本実施例のランプについて破裂試験を20本実施したところ、透光性外管が破損したランプは全く無かった。
【0058】
また初期光束を測定したところ、金属線を巻き付けない同等仕様のランプと比較して、初期光束で3%弱の光束低下にとどまった。
また、先行技術による試作ランプの破裂実験と対比するため、本実施例のランプにおいて金属線22の線径を0.05〜0.6mm、巻き付けピッチを2〜10mmの範囲で巻き付け条件を変更しながら破裂実験を繰り返した。金属線材質は前記破裂実験と同様のモリブデン線とした。
その結果、透光性外管7の破損を防止できる条件は次項のいずれかであった。
【0059】
(1) 線径0.1mmで巻き付けピッチ6mm以下。
(2) 線径0.2mmで巻き付けピッチ12mm以下。
(3) 線径0.3mmで巻き付けピッチ14mm以下。
(4) 線径0.4mmで巻き付けピッチ15mm以下。
(5) 線径0.5mmで巻き付けピッチ15mm以下。
(6) 線径0.6mmで巻き付けピッチ15mm以下。
線径が0.1mm未満では先行技術による試作と同様、発光管破裂時破壊された透光性スリーブ破片によってモリブデン線が切断されるため、金属線の巻き付けピッチに関係なく不可であった。しかしモリブデン線が切断されなければ、透光性スリーブ破片が衝突しても金属線が大きく変形する事が無いため、巻き付けピッチを大きく広げる事が可能であった。ただし巻き付けピッチが16mmを超えるとモリブデン線に接触せずに通過した透光性スリーブ破片が透光性外管を破損するため、線径を0.3mm以上にしても、透光性外管の破損を防止する効果はほとんど向上しなかった。
【0060】
前項段落番号(0019)に記述したように、先行技術による同等仕様の試作ランプにおいて、透光性外管の破損を防止できる条件は線径0.3mmで巻き付けピッチ6mm以下であり、その他の線径を使用した条件を含めても、金属線を巻き付けない同等仕様のランプと比較して初期光束で5〜9%もの光束低下が見られた。
それに対し、前項に挙げたランプでは線径0.3mmで巻き付けピッチを14mmにする事ができ、金属線を巻き付けない同等仕様のランプと比較して、初期光束でわずか3%弱の光束低下にとどまった。
このように、本発明によるランプは先行技術によるランプに対して著しい改善効果がある。
【0061】
実施例2は、実施例1に使用した試作ランプの構成に透光性スリーブを加えたものであるから、金属線の材質や線径の選択、巻き付け接合方法などはすべて実施例1について記述したものと同様だと考えてよい。
【0062】
なお本明細書中では、実施例としてセラミックメタルハライドランプのみについて説明したが、上述した金属線をフレームに接合して破片の飛散防止効果を高める構成は、当然石英ガラス製の発光管を使用した高圧放電灯などにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によるセラミックメタルハライドランプは、主に商業照明や工場照明などに使用される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明品のランプ第1実施例一部断面図
【図2】本発明品のランプ第1実施例における発光管軸に垂直な断面図
【図3】本発明品のランプ第2実施例一部断面図
【図4】本発明品のランプ第2実施例における発光管軸に垂直な断面図
【図5】発光管軸方向から見た金属線巻き付け形状の変形例
【図6】第1実施例に対応する先行技術例
【図7】第1実施例に対応する先行技術例における発光管軸に垂直な断面図
【図8】第2実施例に対応する先行技術例
【図9】第2実施例に対応する先行技術例における発光管軸に垂直な断面図
【符号の説明】
【0065】
1 発光管
2 ステム
3 フレーム
7 透光性外管
8 口金
10 口金側リード線
11a、11b 電極
12 金属線
13 溶接点
14 ニッケル線
15 口金側ニッケル線
19a、19b キャピラリー部
21 透光性スリーブ
25a、25b 透光性スリーブ固定板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密性の透光性外管の内部に一対の相対する電極を内包する発光管と、前記発光管を含むランプ部材を前記透光性外管内の所定位置に保持するためのフレーム部材とを有する高圧放電灯において、前記フレーム部材が発光管軸と平行かつ発光管軸を挟んで相対する位置に2本配置され、金属線が前記フレーム部材および前記発光管に対して押圧力が加わるように接触しながら巻き付けられており、金属線の少なくとも両端部がフレーム部材に接合されて位置固定されていることを特徴とする高圧放電灯。
【請求項2】
気密性の透光性外管の内部に一対の相対する電極を内包する発光管と、その発光管を取り囲む円筒状の透光性スリーブと、前記発光管および透光性スリーブを含むランプ部材を前記透光性外管内の所定位置に保持するためのフレーム部材とを有する高圧放電灯において、前記フレーム部材が発光管軸と平行かつ発光管軸を挟んで相対する位置に2本配置され、金属線が前記フレームおよび透光性スリーブに対して押圧力が加わるように接触しながら巻き付けられており、金属線の少なくとも両端部がフレーム部材に接合されて位置固定されていることを特徴とする高圧放電灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−228583(P2006−228583A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41465(P2005−41465)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)