説明

高強度アルミニウム基合金及びその集成固化材

【目的】 強度が大きく、耐熱性が高く、かつ、靭性に優れ、比強度の大きいアルミニウム基合金およびその集成固化材を提供すること。
【構成】 一般式:AlbalNia1bAlbalNia1b2cAlbalNia1bdAlbalNia1b2cdの何れかで表わされるAl基合金。
ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moのうち何れか、M2:Nb,Ta,Hfのうち何れか、Q:Mg,Cu,Znのうち何れか、5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.1≦c≦5、0.01≦d≦4である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は高強度で延性があり、高比強度を有する高強度アルミニウム基合金及びこの合金を集成固化してなるアルミニウム基合金集成固化材に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、高強度、高耐熱性を有するアルミニウム基合金が液体急冷法等の急冷凝固手段によって製造されている。特に特開平1−275732号公報に開示されている。急冷凝固手段によって得られるアルミニウム基合金は非晶質又は微細結晶質であり、高強度、高耐熱性、高耐食性を示す優れた合金である。
【0003】しかしながら前記特開平1−275732号公報に開示されているアルミニウム基合金は、高強度、高耐熱性、高耐食性を示す優れた合金であり、高強度材料としては、加工性にも優れているが、高い靭性、高比強度が要求される材料としては改善の余地を残している。
【0004】また、前記公報に記載の合金は、高強度、高耐熱性、高耐食性を示す優れた合金であり、これを液体急冷法によって粉末又は薄片として得、これを原料として種々加工して最終製品を得る場合、すなわち一次加工のみで製品とする場合については加工性に優れているが、該粉末又は薄片を原料として固化材を形成し、さらにこれらを加工する場合、すなわち二次加工する場合には、その加工性および加工後の材料の優れた特性の維持の点において改善の余地を残している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は高強度、高耐熱性に優れるとともに高比強度を有し、高い信頼性の要求される構造部材に適用できるような強度を維持しつつ、靭性に優れたアルミニウム合金及び二次加工(押出し、切削等)を施すに際し、その加工が容易に行え、かつ加工後においても原料が有している優れた特性を維持できるアルミニウム基合金集成固化材を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明の第1の発明は、一般式:AlbalNia1b(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,bは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5)で示される組成を有する高強度アルミニウム基合金である。
【0007】第2の発明は、一般式:AlbalNia1b2c(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、M2:Nb,Ta,Hfから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,cは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.1≦c≦5)で示される組成を有する高強度アルミニウム基合金である。
【0008】第3の発明は、一般式:AlbalNia1bd(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、Q:Mg,Cu,Znから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,dは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.01≦d≦4)で示される組成を有する高強度アルミニウム基合金である。
【0009】第4の発明は、一般式:AlbalNia1b2cd(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、M2:Nb,Ta,Hfから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、Q:Mg,Cu,Znから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,c,dは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.1≦c≦5、0.01≦d≦4)で示される組成を有する高強度アルミニウム基合金である。
【0010】また上記第1〜4の発明の合金は、アルミニウムまたはアルミニウムの過飽和固溶体のマトリックスを有し、かつマトリックス元素とその他の元素とから生成する種々の金属間化合物及び/又はその他の合金元素同士から生成する種々の金属間化合物の安定相又は準安定相からなる粒子が前記マトリックス中に均一微細に分布してなることが必要である。
【0011】本発明のアルミニウム基合金は、上記組成を有する合金の溶湯を液体急冷法で急冷凝固することにより得ることができる。この液体急冷法とは、溶融した合金を急速に冷却させる方法をいい、例えば単ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法などが特に有効であり、これらの方法では102〜108K/sec程度の冷却速度が得られる。この単ロール法、双ロール法等により薄帯材料を製造するには、ノズル孔を通して約300〜10000rpmの範囲の一定速度で回転している直径30〜300mmの例えば銅あるいは鋼製のロールに溶湯を噴出する。これにより幅が約1〜300mmで厚さが約5〜500μmの各種薄帯材料を容易に得ることができる。また、回転液中紡糸法により細線材料を製造するには、ノズル孔を通じ、アルゴンガス背圧にて、約50〜500rpmで回転するドラム内に遠心力により保持された深さ約1〜10cmの溶液冷媒層中に溶湯を噴出して、細線材料を容易に得ることができる。この際のノズルからの噴出溶湯と冷媒面とのなす角度は、約60〜90度、噴出溶湯と溶液冷媒面の相対速度比は約0.7〜0.9であることが好ましい。
【0012】なお、上記方法によらずスパッタリング法によって薄膜を、また高圧ガス噴霧法などの各種アトマイズ法やスプレー法により急冷粉末を得ることができる。
【0013】本発明の合金は前述の単ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法、スパッタリング、各種アトマイズ法、スプレー法、メカニカルアロイング法、メカニカルグライディング法等により得ることができる。又、必要に応じて適当な製造条件を選ぶことにより平均結晶粒径および金属間化合物の平均粒子の大きさを制御できる。
【0014】さらに組成によっては必要以上に微細な組織を得ることができる。しかし、必要以上の微細な組織を得た時、場合によっては、加工の際に必要な延性が得られなくなる。その場合、得られた組織を加熱すると特定の温度以上で結晶が成長する。そのとき種々の金属間化合物が結晶中に析出する。このように加熱条件を適当に選ぶことによっても、本発明に適した結晶粒径及び金属間化合物の粒子径を有する合金を得ることができる。
【0015】上記第1の発明から第4の発明における一般式で示されるアルミニウム基合金において、原子パーセントでaを5〜10%、bを0.1〜5%、cを0.1〜5%、dを0.01〜4%の範囲から外れると脆くなって靭性が得られなかったり、高強度が得られない。
【0016】すなわち、前記液体急冷法等を利用した工業的な急冷手段では、本発明の目的の特性をもった合金を得ることができない。
【0017】さらに詳しく述べると、Ni元素はAlと化合物を作り(例えばNi3Alなど)、Alマトリックス中に均一微細に分散し、強度、剛性、耐熱性を向上させる。Ni元素は上記合金において、5at%未満であると、マトリックスの強化が十分に行えず、10at%を超えると延性が乏しくなる。
【0018】M1元素はV,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素であり、Alと化合物を作り、Alマトリックス中に均一微細に分散し、マトリックスの強度を上げるとともに耐熱性を向上させる。M1元素は上記合金において、0.1at%未満であると、マトリックスが粗大化し、強度が低下する。5at%を超えると、室温での伸びが低下し、加工の際に問題が生じる。
【0019】M2元素はNb,Ta,Hfから選ばれる一種もしくは二種以上の元素であり、上記M1元素と共存させることにより、よりマトリックスの強度を上げ、耐熱性を向上させることができる。M2元素は上記合金において、0.1at%未満であるとマトリックスが粗大化し、強度が低下する。5at%を超えると、室温での伸びが低下し、加工の際に問題が生じる。さらに合金の伸びを重視した場合、上記M1元素とM2元素との量は、5at%以下であることが好ましい。また、上記合金系において、M2元素はM1元素に対して微量添加することが合金の強度及び延性の向上の点から、特に有効である。
【0020】Q元素は、Mg,Cu,Znから選ばれる一種もしくは二種以上の元素であり、Alと化合物またはQ元素同士で化合物を作り、微量添加することにより、マトリックスを強化し、強度を向上させるとともに、耐熱性、比強度、比弾性を向上させることができる。Q元素は上記合金において、0.01at%未満では、添加効果が期待できないとともに4at%を超える場合、強度が低下する。
【0021】本発明の第5の発明は、一般式:AlbalNia1b(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,bは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5)で示される組成の急冷凝固材を集成固化してなる高強度アルミニウム基合金集成固化材である。
【0022】本発明の第6の発明は、一般式:AlbalNia1b2c(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、M2:Nb,Ta,Hfから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,cは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.1≦c≦5)で示される組成の急冷凝固材を集成固化してなる高強度アルミニウム基合金集成固化材である。
【0023】本発明の第7の発明は、一般式:AlbalNia1bd(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、Q:Mg,Cu,Znから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,dは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.01≦d≦4)で示される組成の急冷凝固材を集成固化してなる高強度アルミニウム基合金集成固化材である。
【0024】本発明の第8の発明は、一般式:AlbalNia1b2cd(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、M2:Nb,Ta,Hfから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、Q:Mg,Cu,Znから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,c,dは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.1≦c≦5、0.01≦d≦4)で示される組成の急冷凝固材を集成固化してなる高強度アルミニウム基合金集成固化材である。
【0025】また、上記第5〜8の発明の集成固化材は、平均結晶粒径40〜2000nmのアルミニウムまたはアルミニウム過飽和固溶体のマトリックスを有し、かつマトリックス元素とその他の合金元素とから生成する種々の金属間化合物及び/又はその他の合金元素同士から生成する種々の金属間化合物の安定相又は準安定相からなる粒子が前記マトリックス中に均一に分布し、その金属間化合物の平均粒子の大きさが10〜1000nmであることが必要である。
【0026】上記本発明のアルミニウム基合金集成固化材の製造方法は、前記第1〜4の発明における一般式で示される組成の材料を急冷凝固させ、得られた粉末又は薄片を集成して通常の塑性加工手段により加圧成形固化することにより得られる。この場合、原材料となる粉末又は薄片は平均結晶粒径が2000nm以下であることが必要であり、金属間化合物が析出している場合、その平均粒子の大きさが1000nm以下であることが必要である。これらの原材料を集成時に50〜600℃に加熱し、成形固化することにより、本発明の集成固化材は得られる。
【0027】なお、上記通常の塑性加工技術とは広義のもので、加圧成形や粉末冶金技術も包含する。
【0028】前記一般式において、原子パーセントでaが5〜10%、bが0.5〜5%、cが0.5〜5%、dが0.01〜4%の範囲内であると従来(市販)の高強度アルミニウム合金より室温から高温(特に200℃)までの強度が高いとともに実用の加工に耐え得るだけの延性を備えているためである。
【0029】本発明の合金固化材において、Ni元素はAlマトリックス中の拡散能が比較的小さい元素であり、Alマトリックス中に微細に金属間化合物(例えばAl3Niなど)として分散することより、マトリックスを強化するとともに結晶粒の成長を抑制する効果がある。すなわち合金の硬度と強度と剛性を著しく向上させ、常温はもとより高温における微細結晶質相を安定化させ、耐熱性を付与する。また、M1元素はAlマトリックス中に拡散能が小さい元素であり、種々の準安定または安定な金属間化合物を形成し、微細結晶組織の安定化に貢献する。
【0030】M2元素は、M1元素と同様にAlマトリックス中に拡散能が小さい元素であり、種々の準安定または安定な金属間化合物を形成し、M1元素と共存し、より微細結晶組織の安定化に貢献する。
【0031】Q元素は、Alと化合物またはQ元素同士で化合物を作り、マトリックスを強化するとともに、耐熱性を向上させる。また、比強度、比弾性を向上させる。
【0032】本発明のアルミニウム基合金固化材において、平均結晶粒径を40〜2000nmの範囲に限定したのは、40nm未満の場合、強度は強いが延性の点で不十分であり、既存の加工に必要な延性を得るためには、40nm以上が必要であり、また2000nmを超える場合、強度が急激に低下し、高強度のものが得られなくなるためであり、高強度のものを得るためには、2000nm以下が必要であるためである。
【0033】また、金属間化合物の平均粒子の大きさを10〜1000nmの範囲に限定したのは、Alマトリックスの強化要素として働かないためである。すなわち、10nm未満の場合、Alマトリックス強化に寄与せず、必要以上にマトリックスに固溶させると脆化の危険を生じる。また1000nmを超えた場合、分散粒子が大きくなり過ぎて、強度の維持ができなくなるとともに強化要素として働かなくなる。
【0034】したがって、上記範囲にすることによりヤング率、高温強度、疲労強度を向上させることができる。
【0035】本発明のアルミニウム基合金集成固化材は、適当な製造条件を選ぶことにより、結晶粒径と金属間化合物の分散状態を制御できるが、強度を重視する場合、平均結晶粒径および金属間化合物の平均粒子径を小さく制御し、延性を重視する場合、平均結晶粒径および金属間化合物の平均粒子径を大きくすることにより、種々の目的にあったものを得ることができる。
【0036】また、平均結晶粒径を40〜2000nmの範囲に制御することにより、優れた超塑性加工材としての性質も付与できる。
【0037】
【実施例】以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0038】実施例1表1で示される組成(原子比)の母合金をアーク溶解炉で溶製し、一般的に用いられる単ロール式液体急冷装置(メルトスピニング装置)によって薄帯(厚さ:20μm、幅:1.5mm)を製造した。その際のロールは直径200mmの銅製回転数は4000rpm、雰囲気は10-3torr以下のArである。
【0039】上記製造条件により表1に示す組成を有する合金薄帯を得、各供試薄帯につき、硬度(Hv)、延性を調べた。
【0040】なお、硬度は、25g荷重の微小ビッカース硬度計による測定値(DPN)であり、延性は、180°の密着曲げ試験を行っても折れない延性を有するものをDuc(Ductile)、180°の密着曲げ試験できないものをBri(Brittle)で示す。
【0041】この結果を表1に示す。
【0042】
【表1】


【0043】表1から本発明の合金は、硬度及び延性に優れた材料であることが分かる。
【0044】さらに、上記製造条件により得られた薄帯について、TEM観察を行った結果、いずれの試料についても、アルミニウムまたはアルミニウムの過飽和固溶体のマトリックスを有し、かつマトリックス元素とその他の合金元素とから生成する種々の金属間化合物及び/又は、その他の合金元素同士から生成する種々の金属間化合物の安定相又は準安定相からなる粒子が前記マトリックス中に均一微細に分布してなる微細結晶組織であった。
【0045】実施例2ガスアトマイズ装置により所定成分組成を有するアルミニウム基合金粉末(Al97.5‐x、NixCr2.5、Al92‐xNi8Crx)を作製した。作製されたアルミニウム基合金粉末を金属カプセルに充填後、脱ガスを行ない押出し用のビレットを作製した。このビレットを押出し機によって、200〜550℃の温度で押出しを行った。上記製造条件により得られた押出材(固化材)の室温における機械的性質(引張強度、伸び)を図1及び図2R>2に示す。
【0046】図1に示すように、室温における固化材の引張強度はNiの量が5at%以上で高くなり、10at%を超えると急激に低下していることが分かる。また、Niの量が10at%を超えると伸びが低下していることが分かり、一般的な加工に最低限必要な伸び(2%)はNi量が10at%以下で得られていることが分かる。
【0047】また、図2に示すように、室温における固化材の強度はCr量が0.1at%から高くなり、5at%を超えると急激に低下していることが分かる。また、Crの量が5at%を超えると伸びが低下していることが分かり、一般的な加工に最低限必要な伸び(2%)はCr量が5at%以下で得られていることが分かる。
【0048】実施例3上記実施例2と同様にして、Al98‐xNixCr1Nb1、Al91.5‐xNi7.5Cr1Nbxからなる組成を有する押出材(固化材)を作製し、これについて室温における機械的性質(引張強度、伸び)を調べ、この結果を図3及び図4に示す。
【0049】図3に示すように、室温における固化材の引張強度は、Niの量が5at%以上で高くなり、10at%を超えると急激に低下していることが分かる。また、Niの量が10at%を超えると伸びが低下していることが分かり、一般的な加工に最低限必要な伸び(2%)はNi量が10at%以下で得られている。
【0050】また図4に示すように、室温における固化材の強度はNb量0.1at%から高くなり、4.5at%を超えると急激に低下していることが分かり、一般的な加工に最低限必要な伸び(2%)は、Cr量が5at%以下で得られていることが分かる。さらに強度は、Nb量とCr量との総量で約5at%を超えると急激に低下していることが分かる。
【0051】実施例4上記実施例2と同様にして、Al91.5-XNi8.5Coxからなる組成を有する押出材(固化材)を作製し、これについて室温における機械的性質(引張強度、伸び)を調べ、この結果を図5に示す。
【0052】図5に示すように、室温における固化材の引張強度は、Co量が0.1at%から高くなり、5at%を超えると急激に低下していることが分かる。また、Co量が5at%を超えると伸びが低下していることが分かり、一般的な加工に最低限必要な伸び(2%)はCo量が5at%以下で得られていることが分かる。
実施例5上記実施例2と同様にして、表2の左欄に示される組成を有する押出材(固化材)を作製し、これらの固化材について、表2の右欄に示すように、室温における引張強度、高温(200℃)環境下における引張強度、ヤング率(弾性率)及び硬度について調べた。
【0053】表2の結果より、本発明の固化材は、室温及び高温(200℃)環境下における引張強度、ヤング率、硬度について優れた特性を有することが分かる。また、引張強度が大きく、比重が小さいことから、本発明の固化材は、高比強度を有する材料であることが分かる。
【0054】また、表1中記載の固化材について、室温での伸びを調べた結果、一般的な加工に最低限必要な伸び(2%)以上であった。
【0055】さらに上記製造条件により得られた固化材(押出材)よりTEM観察用試験片を切り出し(実施例2〜4の固化材も含む)結晶粒径及び金属間化合物の大きさについて観察を行った。いずれの試料についても、平均結晶粒径40〜2000nmのアルミニウム又はアルミニウム過飽和固溶体のマトリックスを有し、かつ、マトリックス元素とその他の合金元素とから生成する種々の金属間化合物及び/又はその他の合金元素同士から生成する種々の金属間化合物の安定相又は準安定相からなる粒子が前記マトリックス中に均一に分布し、その金属間化合物の平均粒子の大きさが10〜1000nmであった。
【0056】
【表2】


【0057】
【発明の効果】以上のように、本発明のアルミニウム基合金は、高強度、高耐熱性に優れ、高比強度材料として有用であるとともに、高比弾性及び高靭性を有することから、加工性に優れている。また、信頼性の要求される構造材に適用できるような強度を維持しつつ加工が行なえる。
【0058】また、本発明のアルミニウム基合金集成固化材は、二次加工(押出し、切削等)を施すに際し、その加工が容易に行なえ、かつ加工後においても原料が有している優れた特性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】以上何れも本発明の合金の組成の変化と物性の変化の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式:AlbalNia1b(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,bは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5)で示される組成を有する高強度アルミニウム基合金。
【請求項2】 一般式:AlbalNia1b2c(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、M2:Nb,Ta,Hfから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,cは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.1≦c≦5)で示される組成を有する高強度アルミニウム基合金。
【請求項3】 一般式:AlbalNia1bd(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、Q:Mg,Cu,Znから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,dは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.01≦d≦4)で示される組成を有する高強度アルミニウム基合金。
【請求項4】 一般式:AlbalNia1b2cd(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、M2:Nb,Ta,Hfから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、Q:Mg,Cu,Znから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,c,dは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.1≦c≦5、0.01≦d≦4)で示される組成を有する高強度アルミニウム基合金。
【請求項5】 請求項2又は請求項4の一般式中のbおよびcについてb+c≦5であることを特徴とする請求項2又は4記載の高強度アルミニウム基合金。
【請求項6】 合金はアルミニウムまたはアルミニウムの過飽和固溶体のマトリックスであり、かつマトリックス元素とその他の合金元素とが生成する種々の金属間化合物及び/又はその他の合金元素同士が生成する種々の金属間化合物の安定相又は準安定相からなる粒子が前記マトリックス中に均一微細に分布していることを特徴とする請求項1〜5記載の高強度アルミニウム基合金。
【請求項7】 一般式:AlbalNia1b(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,bは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5)で示される組成の急冷凝固材を集成固化してなることを特徴とする高強度アルミニウム基合金集成固化材。
【請求項8】 一般式:AlbalNia1b2c(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、M2:Nb,Ta,Hfから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,cは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.1≦c≦5)で示される組成の急冷凝固材を集成固化してなることを特徴とする高強度アルミニウム基合金集成固化材。
【請求項9】 一般式:AlbalNia1bd(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、Q:Mg,Cu,Znから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,dは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.01≦d≦4)で示される組成の急冷凝固材を集成固化してなることを特徴とする高強度アルミニウム基合金集成固化材。
【請求項10】 一般式:AlbalNia1b2cd(ただし、M1:V,Cr,Mn,Co,Moから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、M2:Nb,Ta,Hfから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、Q:Mg,Cu,Znから選ばれる一種もしくは二種以上の元素、a,b,c,dは原子パーセントで5≦a≦10、0.1≦b≦5、0.1≦c≦5、0.01≦d≦4)で示される組成の急冷凝固材を集成固化してなることを特徴とする高強度アルミニウム基合金集成固化材。
【請求項11】 上記集成固化材は、一般式で示される組成の材料を溶融して、急冷凝固させ、得られた粉末または薄片を集成して通常の塑性加工手段により加工成形固化してなることを特徴とする請求項7〜10記載の高強度アルミニウム基合金集成固化材。
【請求項12】 平均結晶粒径40〜2000nmのアルミニウムまたはアルミニウムの過飽和固溶体のマトリックスであり、かつマトリックス元素とその他の合金元素とが生成する種々の金属間化合物及び/又はその他の合金元素同士が生成する種々の金属間化合物の安定相又は準安定相からなる粒子が前記マリトックス中に均一に分布し、その金属間化合物の平均粒子の大きさが10〜1000nmであることを特徴とする請求項7〜11記載の高強度アルミニウム基合金集成固化材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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