説明

高機能性乳を生産する方法

【課題】抗酸化活性を高め、共役リノール酸含量を高めた高機能性乳を生産するためのトータルシステムを開発する。
【解決手段】醤油製造時の副産物である醤油粕を給与することにより、家畜の乳の抗酸化活性を高めると同時に共役リノール酸含量も高めることができる。本発明は、1つの機能でなく2つの機能を同時に高めた高機能性乳が得られる点で特徴的であるばかりでなく、醤油粕には共役リノール酸が含まれていないにもかかわらずそれが乳中に分泌される点で更に特徴的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜の乳に抗酸化活性を付与し、及び/又は、共役リノール酸を付加するシステムに関するものであって、醤油粕を使用することを特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
わが国の飲用牛乳の消費量は、他飲料との競合、特に機能性飲料の発展に伴い、年々減少を続けている。このような状況下において、酪農・乳業の発展、存続に危惧が持たれ、その打開策の一つとして、牛乳に機能性作用を付与することが求められている。乳等省令による種類別「牛乳」は、無添加の、自然のままの牛乳をいう。したがって、この牛乳に機能性作用を付与するには、乳牛に給与する飼料原料の選択や飼育管理が重要となる。
【0003】
本発明者らは、牛乳の機能性作用として、牛乳の抗酸化活性と共役リノール酸の働きに注目したが、これらの機能を安定的に高めることに成功した例は見られない。
【0004】
本発明者らは、未利用資源である醤油粕を乳牛に給与することにより、風味が良いだけでなく、抗酸化活性を高め、さらに共役リノール酸含量を高めた機能性牛乳を生産できることをはじめて見出し、本発明を完成したのであるが、このような知見は従来知られておらず、新規である。
【0005】
わが国では、醤油は年間100万トンぐらい生産され、醤油粕はほぼ10万トンちかく発生する。この大量に発生する醤油粕は、その大半が産業廃棄物として処理されてきた経緯があるが、最近では、未利用資源の活用ということで、飼料への利用に期待がかけられている。
【0006】
醤油粕は、良質のマメ科牧草(アルファルファ)と似た栄養成分〔蛋白質20%位、エネルギー:可消化養分総量(TDN)70%位など〕を含み、ウシによる消化性も良い。また、ウシの食塩要求量及び食塩許容量は高いので、6〜8%の食塩を含有する醤油粕の利用も容易である。
【0007】
醤油粕は、ウシの栄養源、エネルギー源を補給する飼料として利用できるが、今までに、牛乳に特別の機能性を付与する飼料素材として評価・利用された例はない。
【0008】
本発明者らは、醤油粕を乳牛に給与することにより、ルーメンの働きを正常に維持して、牛乳に風味を損なうことなく抗酸化活性などの機能的作用を付与することが可能かどうかを鋭意研究し、その過程において、抗酸化活性のみでなく共役リノール酸が付与、付加されて、従来の牛乳よりも更にそれらが高められることをはじめて見出した。
【0009】
醤油粕は、次のようにして醤油を作る時の副産物である。蒸した大豆と炒って砕いた小麦を混ぜ、これに種麹を加えて発酵して麹を作る。麹に食塩水を加えてタンク内で仕込み、発酵・熟成(乳酸菌、酵母、黴が関与する)後、搾って醤油をとり、副産物として醤油粕が残る。
【0010】
醤油粕の成分は、醤油製造に使用する原料により異なるので、醤油粕の利用に当たっては醤油に使用する原料の種類や醤油粕の成分値などを予め把握しておく必要がある。例えば、醤油粕の種類により、その成分含量は、水分5〜11%、粗蛋白19〜24%、粗脂肪11〜23%、食塩6〜8%のように幅がある。
【0011】
醤油粕中の抗酸化成分として、オレイン酸、イソフラボン(ダイゼイン、ゲニステイン)、4−ハイドロキシ−2(または5)−エチル−5(または2)−メチル−3(2H)−フラノン(HEMF)、フィチン酸などが知られている。
【0012】
醤油粕の抗酸化成分に言及した文献には、特許文献1があるが、乳牛への利用は記載されていないし、ましてや、牛乳中に抗酸化活性を付与することなど全く記載されていない。
【0013】
醤油粕は、イソフラボンを、ダイゼイン(Daidzein)とゲニステイン(Genistein)の合計で0.12〜0.24%含むが、これらを乳牛に投与した時に、ルーメン内の抗酸化活性を高めたり、さらに牛乳の抗酸化活性を高めることについては全く知られていない。ましてや、共役リノール酸も同時に付加してその含量を高めることなど、全く知られていない。
【0014】
抗酸化活性のみに着目した場合、牛乳に抗酸化活性を付与する方法として、乳牛にハーブを給与する方法が知られているが(特許文献2)、醤油粕による方法は知られていない。また、共役リノール酸については、醤油粕には本来含有されていないため、既知の文献には何の記載もないし、ましてや、醤油粕の給与によって共役リノール酸が更に付加されてその含量が高まることなど全く記載されていないし、更には、抗酸化活性と共役リノール酸の付加が同時に行われることなど全く記載されていない。
【0015】
牛乳の抗酸化活性を高めるためには、給与する抗酸化物質(素材)の選択が重要となる。抗酸化作用があるといわれている物質であっても乳牛に投与して、必ずしも牛乳の抗酸化活性を高くするとは限らない。乳牛に投与した後、複雑な生体内の経路を経過するため、乳中に到達するとは限らず、乳中への到達を確認するには多大な試行錯誤を要し、それに成功した場合には進歩性が認められている(例えば、特許文献2)。ましてや、本発明においては、抗酸化活性の付与のみでなく共役リノール酸の付加も行われていることが確認されており、なおさらのことである。
【0016】
活性酸素の種類には、スーパーオキシド、過酸化水素、一重項酸素、ヒドロキシラジカルがある。
【0017】
体内で発生する活性酸素は、DNAの損傷、生体膜脂肪酸の過酸化、タンパク質のシステイン残基の酸化などをひきおこし、現代病といわれるがん、心筋梗塞、糖尿病、リュウマチ、脳浮腫、白内障、アトピー性皮膚炎、老化、動脈硬化、老人性痴呆症などの原因となる。
【0018】
活性酸素を増やす因子には、喫煙、大気汚染(車の排気ガス)、紫外線、食品添加物、環境ホルモン、殺虫剤、農薬、ストレス、電磁波、激しい運動(無酸素運動)、栄養素の不足などがある。
【0019】
生体内での抗酸化能力を担っているのは、抗酸化活性と抗酸化成分であるが、いずれも食品中の様々な栄養成分によって調節することが可能である。抗酸化食品の摂取が、健康の維持・増進に有効であることが認識され、近年では、抗酸化物質を多く含む食品が注目されている。
【0020】
また、最近では抗酸化成分による免疫機能調節能にも期待が高まっている。
【0021】
抗酸化活性の測定法の一つに、DPPH(1,1−diphenyl−2−pycryl−hydrazyl)ラジカル捕捉活性測定法がある。そして、DPPHラジカル捕捉活性を測定することによって、味噌、茶系飲料、カレー、そばなどの生理的機能性が評価されている。例えば、味噌のDPPHラジカル捕捉物質の大部分は、メラノイジン関連物質に由来すると考えられている。また、茶系飲料の主なDPPHラジカル捕捉物質は、カテキン類である。カレーのDPPHラジカル捕捉活性は、使用した香辛料に由来する。そばのDPPHラジカル捕捉物質は、ルチンである。
【0022】
牛乳においても、抗酸化活性は重要な機能の一つであることはいうまでもない。牛乳には、抗酸化成分として、Vit.A(カロチン)、ラクトフェリンなどが含まれるが、牛乳の抗酸化活性が十分であるとはいえない。牛乳は、日常的に量的に多く継続的に消費されているので、その抗酸化活性を高めることができれば、牛乳飲用による健康的な意義を一層大きなものにすることができ、この点に成功した本発明は、社会に大きな貢献をなすものである。
【0023】
一方、牛乳の機能性成分として、共役リノール酸(CLA:Conjugated linoleic acid)が注目されている。共役リノール酸は、リノール酸(cis−9,cis−12 octadecadienoic acid)の位置的、幾何学的な異性体であって、共役二重結合を有する、つまり共役ジエン構造を有するものの総称である。二重結合の位置は、9と11、10と12、11と13のように異なった位置にある。Cis−9,trans−11 octadecadienoic acidは、乳製品中に含まれるCLAの80%以上を占めている。そして、牛乳中の平均的なCLA含量は、3〜6mg/g Fat、すなわち総脂肪の0.3〜0.6%であるが、その変動する幅は大きい。牛乳中のCLAの大部分は、cis−9,trans−11 CLA異性体であるので、この異性体をCLAということもある。
【0024】
共役リノール酸(cis 9,trans 11 CLA:CLA)の効用(抗がん作用、抗アレルギー作用、体脂肪低減作用など)が明らかにされ、CLAのヒトヘの給源として、牛乳中のCLAが注目されている。CLAの生理作用としては、抗がん作用、体脂肪低減作用、脂質代謝調節、抗動脈硬化症、免疫調節作用、II型糖尿病抑制作用、抗血小板作用、肥満防止、抗アレルギー作用、骨形成の改善、慢性腎炎の抑制、増体促進、飼料効率の向上などがある(非特許文献1参照)。
【0025】
牛乳中のCLA含量は、乳牛の給餌飼料、季節、年齢(泌乳回数)、個体、ルーメン内微生物叢の変化などの要因で変動する。これらの中でも、給餌飼料の影響が最も大きく寄与している。飼料の成分を変えることで、牛乳や畜肉中のCLA含量を高める試みが数多く行われている。放牧主体で生産された牛乳中のCLA含量は、濃厚飼料等の給与による舎飼いの牛乳に比べて多い。飼料中の生草の比率を高めると、牛乳中のCLA含量が増加する。このような事例から生草が注目されているが、生草を使用するには量的、質的に大きな制約がある(非特許文献2)。
【0026】
新鮮な生草の利用は、我が国の牧草の耕地面積から見て、生草の量的な確保は難しい。また牧草には季節性があるので、安定なCLA含量の牛乳を生産するために、品質が一定の生草を確保することは、さらに困難である。濃厚飼料等の給与で、牛乳中のCLA含量を高めることが望まれるが、いまだに満足すべき方法は見つけられていない。
【0027】
牛乳中のCLA含量を高める飼料素材として、上記した牧草のほか、大豆油、カノーラ油、サフラワー油、亜麻仁油、ヒマワリ油、魚油などの油脂類が知られている。生草は量的な確保の点で、油脂類はルーメンの発酵・代謝へ悪影響を及ぼす点で、それぞれ問題がある。したがって、研究例が多いにもかかわらず、実用化には至っていない。一方、醤油粕にはそもそもCLAは含まれていないので、牛乳に対するCLA付加作用があることなど全く知られていない。
【0028】
日常的に飲用される牛乳のCLA含量を高めることができれば、飲用による健康的意義を一層高めることができることから、2003年度以降、農林水産省は、付加価値の高いCLA含量の高い牛乳や牛肉を生産するために、放牧酪農の推進に力を入れはじめている。
【0029】
飼料中の生草の比率を高めると、牛乳中のCLA含量が増加する。しかし、牧草には季節性があるので年間を通じて品質の安定した生草を確保することは難しい。そこで、飼料としての嗜好性がよく、且つ、ルーメンでの発酵・代謝に悪影響を及ぼすことなく、牛乳中のCLA含量および抗酸化活性を安定的に高めることができる素材が求められるのである。
【特許文献1】特開2002−309251号公報
【特許文献2】特許第3646637号公報
【非特許文献1】畜産の研究、第56巻、第11号、1195−1201(2002年)
【非特許文献2】J.Dairy Sci., 84(10) 2295(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明は、乳の重要性に鑑み、その付加価値を更に高め、国民の健康に貢献し得る高機能性乳を生産する新規システムを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、上記した課題を解決する目的でなされたものであって、本発明者らは、各方面から検討の結果、牛乳の数多くの機能性の内、CLAに着目した。そしてCLAを含有する数多くの素材について試験を行った。
【0032】
しかしながら、成功するには至らず、そこで本発明者らは、CLA含有素材の中から目的物をスクリーニングするという通常の発想を完全に転換して、CLAを含有しない素材の中から、これを給与することにより動物体内のCLA含量を高めるというきわめて解決困難な技術課題をあえて設定した。
【0033】
そこで本発明者らは、莫大な数の素材について鋭意試験を行った結果、全く予期せざることに、醤油製造時に副生し、しかもCLAを含有しない醤油粕を乳牛に経口投与したところ、醤油粕にはCLAが含まれていないにもかかわらず牛乳中のCLA含量が増加するだけでなく、これまた全く予期せざることに、それと同時にルーメン液の抗酸化活性を高め、それが乳にも反映されてその抗酸化活性も高めることをはじめて見出した。
【0034】
本発明は、これらの有用新知見に基づき更に研究した結果遂に完成されたものであって、醤油粕を経口投与することにより乳に抗酸化活性を付与すると同時にCLAを付加して、乳中にもともと存在する抗酸化活性を更に高めると同時にCLA含量も更に高めることにより、高機能性乳を製造することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、醤油粕を家畜に給与することにより、抗酸化活性が付与され、及び/又は、CLAが付加された且つ風味が損なわれることのない新規高機能性乳及びその生産方法が提供され、また、家畜において乳中におけるCLAの付加、増強方法も提供される。更にまた、醤油粕を有効成分として乳に抗酸化活性を付与して高めると同時に/又はCLAを付加してその含有量を高める作用を有する剤である動物医薬を提供するものであり、同じく醤油粕を含有する飼料組成物を提供するものである。
【0036】
その結果、牛乳に付加価値を与え、国民の健康に資することができるだけでなく、牛乳の需要増加も見込まれ、酪農家にも資することができるという著効が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、醤油粕を使用することを特徴とする高機能性乳の製造システムに関するものであって、その態様は次のとおりである。
【0038】
(1)家畜に醤油粕を給与して飼養することにより、搾乳された乳に抗酸化活性を付与し共役リノール酸を付加すること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
(2)家畜に醤油粕を給与して飼養することにより、搾乳された乳に抗酸化活性を付与すること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
(3)家畜に醤油粕を給与して飼養することにより、搾乳された乳に共役リノール酸を付加すること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
【0039】
(4)家畜に醤油粕を給与して飼養すること、を特徴とする乳中における共役リノール酸の付加生成方法。
【0040】
(5)醤油粕を飼料に添加して家畜に給与すること、を特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
【0041】
(6)家畜が乳牛であること、を特徴とする上記1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【0042】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法によって取得してなり、抗酸化活性が付与され及び/又は共役リノール酸が付加されたこと、を特徴とする高機能性乳。
【0043】
(8)醤油粕を有効成分とすること、を特徴とする家畜の乳の抗酸化活性を付与する及び/又は共役リノール酸を付加するための剤。
【0044】
(9)醤油粕を含有すること、を特徴とする家畜の乳の抗酸化活性を付与し及び/又は共役リノール酸を付加する家畜用の飼料組成物。
【0045】
また、本発明は、次に例示される態様も包含するものである。
【0046】
(A)家畜の乳の抗酸化活性および共役リノール酸含量を高めることができる醤油粕を含有すること、を特徴とする飼料組成物。
(B)家畜の乳の抗酸化活性を高めることができる醤油粕を含有すること、を特徴とする飼料組成物。
(C)家畜の乳の共役リノール酸含量を高めることができる醤油粕を含有すること、を特徴とする飼料組成物。
【0047】
(D)家畜に醤油粕を給与して飼養することにより、搾乳された乳の抗酸化活性および共役リノール酸含量を高めること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
(E)家畜に醤油粕を給与して飼養することにより、搾乳された乳の抗酸化活性を高めること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
(F)家畜に醤油粕を給与して飼養することにより、搾乳された乳の共役リノール酸含量を高めること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
【0048】
(G)上記(A)〜(C)の対象とする家畜が乳牛であること、を特徴とする飼料組成物。
【0049】
(H)上記(D)〜(F)の対象とする家畜が乳牛であること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
【0050】
本発明において、醤油粕は、醤油製造工程で産出される醤油粕自体が使用できることはもちろんのこと、その処理物も使用可能である。醤油粕をそのまま乾燥して、あるいは醤油粕に、賦形剤として糖類、澱粉類、植物繊維類など、およびこれらの成分を含有する一般的な乳牛用飼料原料を加えてペレット状、顆粒状、又はタブレット状に乾燥し、配合飼料に混合して使用することもできる。
【0051】
本発明は、上記したように、醤油粕を含有する飼料組成物を提供できるほか、醤油粕を有効成分とする剤を提供することができる。この場合は、動物医薬製剤の常法にしたがって製剤化すればよい。
【0052】
有効成分としては、醤油粕それ自体及び/又はその処理物(濃縮物、ペースト化物、乾燥物、希釈物、乳化物、懸濁物)の少なくともひとつが使用される。本有効成分は、種々の形態で投与される。その投与形態としては例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロッブ剤等による経口投与をあげることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの動物医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
【0053】
乾燥物の場合、有効成分にデキストリンやデンプン等の賦形剤を加えて乾燥粉末化したり、更に顆粒化したり、タブレットやペレットにしたりして乾燥製剤化したものを使用してもよい。例えば、醤油粕70〜90%に賦形剤としてライ麦10〜20%、末粉(粗製小麦粉)1〜3%を加えてペレット状に製剤化したものが使用可能である。
【0054】
なお、このようにして製剤化してなる動物医薬は、飼料組成物として使用することも充分可能であって、それ自体を飼料として直接家畜に給与することもできるし、飼料添加剤として他の飼料原料に添加、混合して用いることも可能である。
【0055】
以下、本発明を乳牛を例にとって説明するが、本発明は乳牛のみに限定されるものではなく、各種の家畜を広くその対象とするものである。
【0056】
泌乳牛に対する醤油粕の給与量は、醤油粕の食塩および脂肪含量を勘案して設定することができる。NRC飼養標準(アメリカ)では、泌乳牛の食塩要求量は摂取飼料乾物の0.46%、食塩許容量は摂取飼料乾物の5%を越えないとしている。泌乳牛1日1頭あたりの摂取飼料乾物を25〜27kgとすると、食塩6%含有の醤油粕の給与量(食塩要求量から算出)は、1.92〜2.07kgとなる。実際には、泌乳牛の食塩要求量から算出した醤油粕の給与量以上に醤油粕を給与することもできるが、一応の目安として、配合飼料の10〜40%(好ましくは15〜30%)の置換が可能である。配合飼料は、総給与飼料の40%位までの量が利用される。
【0057】
牛乳のCLA含量を高めるためには、醤油粕の給与で、脂肪を1日1頭あたり100〜900g(好ましくは200〜600g)補給するのがよい。醤油粕中にはCLAを含まれていないにもかかわらず、醤油粕を給与することにより、牛乳中にCLAが更に新たに付加され、その含有量が総脂肪中の0.6%以上(好ましくは0.65〜2%、更に好ましくは0.7〜1.8%)にまで高めることができる点でまさに画期的である。
【0058】
そのうえ、本発明によれば、醤油粕の給与によって、牛乳に抗酸化活性を更に新たに付与することができ、抗酸化活性を80Units/ml以上(好ましくは80〜160Units/ml、更に好ましくは90〜130units/ml)に高めることができる点でも極めてすぐれている。
【0059】
しかも更に、本発明によれば、上記した2つの機能を同時に達成できる点で極めて画期的である。すなわち、本発明によれば、CLA含量を元の牛乳よりも高めただけでなく、そして、抗酸化活性を元の牛乳よりも高めただけでなく、両者を共に同時に高めた極めて機能性の高い牛乳が生産できるという特徴が得られる点できわめてユニークであり且つ画期的である。
【0060】
もちろん、育成牛に醤油粕を給与することも可能である。家畜として、ウシのほかに、ヤギ、ヒツジ、ウマ、スイギュウ、ラクダなどにも適用可能である。
【0061】
乳牛に醤油粕を給与することにより、ルーメン内の抗酸化活性を高め、牛乳の抗酸化活性と共役リノール酸含量を同時に高めることができることを初めて発見し、本発明を完成させることができたのである。
【0062】
すなわち醤油粕を乳牛に給与することにより、以下のメリットが生ずる。
(イ)ルーメンの発酵・代謝を正常に維持して、乳の生産性を保つ。
(ロ)ルーメン内の抗酸化活性を高めることができる。
(ハ)牛乳の抗酸化活性を高めることができる。
(ニ)CLAが含まれていないにもかかわらず、牛乳のCLA含量を高めることができる。
(ホ)牛乳のヘキサナール量が低く、風味の良い牛乳を生産することができる。
(ヘ)醤油粕配合の飼料は嗜好性がよく、摂食率を維持・向上させることができる。醤油粕のフレーバーは、主要成分として、4−ハイドロキシ−2(または5)−エチル−5(または2)−メチル−3(2H)−フラノン(HEMF)と4エチルグアヤコール(4EG)を含む。前者はカラメルの香りを、後者はバニラ系の香りを持ち、ウシに好まれる。
(ト)廃棄処分されていた醤油粕が、資源として有効利用できる。
(チ)醤油粕は、それ自体(液状)、その処理物、製剤物等を直接飼料(飲料水も含む)に所要量添加、混合してもよいし、あらかじめプレミックスを調製しておき、これを用時に所要量飼料中に添加、混合して使用してもよいし、はじめから飼料に添加、混合して使用してもよく、各種形態の飼料組成物として使用することができる。
【実施例】
【0063】
以下に本発明の実施例について記述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
醤油粕による各種作用効果を、家畜として実際の乳牛を用いて、確認した。
【0065】
(A)方法
ホルスタイン種泌乳牛6頭を供試し、2つの飼料区を設け、1期を10日とする2期の飼養試験を行った。対照区には慣行飼料(スーダングラス乾草、トウモロコシサイレージ、アルファルファヘイキューブ、自家配合飼料、乳牛用配合飼料)を給与し、試験区には自家配合飼料の代替として醤油粕を給与した。
【0066】
飼料給与割合および化学組成:
飼料給与割合および化学組成を下記表1に示す。
【0067】
(表1)
―――――――――――――――――――――――――――――
対照区 醤油粕区
―――――――――――――――――――――――――――――
乾物(DM)の%
トウモロコシサイレージ 18.7 19.1
スーダングラス乾草 18.5 19.0
ヘイキューブ 18.2 18.6
自家配合飼料
ビートパルプ 3.6 −
綿実 1.1 −
フスマ 2.2 −
大豆粕 2.9 −
醤油粕P − 7.6
乳牛用配合飼料 34.8 35.7
成分(%DM)
粗蛋白質(CP) 16.4 16.0
可消化養分総量(TDN) 72.0 72.1
―――――――――――――――――――――――――――――
*醤油粕P:醤油粕(食塩8%、脂肪12%)81.35%、ライ麦16.41%、末粉2.24%を用いてペレット状に製剤化してなる醤油粕ペレット
【0068】
1頭1日当たりの給与量(原物):
乳牛1頭1日当たりの給与量(原物)を下記表2に示す。
【0069】
(表2)
――――――――――――――――――――――――――――――――
対照区(kg) 醤油粕区(kg)
――――――――――――――――――――――――――――――――
トウモロコシサイレージ 17 17
スーダングラス乾草 5 5
ヘイキューブ 5 5
醤油粕P − 2
自家配合飼料 2.8 −
乳牛用配合飼料 10 10
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0070】
牛乳は、各期2日間採取して分析に供し、乳量、乳成分、脂肪酸組成、抗酸化活性およびヘキサナールを測定した。
【0071】
ルーメン液は、各期最終日の朝の飼料給与前(0時間)と給与後2および5時間目に採取して分析に供し、揮発性脂肪酸(VFA)、アンモニア態N濃度、プロトゾア数および抗酸化活性を測定した。
抗酸化活性は、DPPH(1、1−diphenyl−2−pycryl−hydrazyl)ラジカル捕捉活性測定法で測定した。
【0072】
醤油粕の給与が牛乳の風味に及ぼす影響については、牛乳のヘキサナール量を測定(固相マイクロ抽出法で生乳中の香気成分を抽出し、GC−MSで分析した)して評価した。
貯乳時間が長くなった時に、生乳にボール紙臭が発生することがある。この異常風味は自発性酸化臭と呼ばれ、脂質酸化によって生じるとされている。この指標成分として、脂質酸化の二次産物であるヘキサナールが挙げられている。
【0073】
(B)測定結果
得られた測定結果をそれぞれ下記に示す。
【0074】
(1)乳量および乳成分の測定結果:
6頭の平均値を下記表3に示す。
【0075】
(表3)
乳量および乳成分の測定結果(6頭の平均値)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
対照区 醤油粕区
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
乳量(kg/日) 29.89 30.20
乳脂率(%) 4.10 3.77
乳蛋白質率(%) 3.19 3.13
乳糖率(%) 4.47 4.41
無脂乳固形分(SNF)率(%) 8.66 8.54
全固形分(TS)率(%) 12.76 12.31
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
対照区と醤油粕区の間で、乳量および乳成分含量に有意差は見られなかった。
【0076】
(2)牛乳中のバクセン酸(VA)、共役リノール酸(CLA)含量:
6頭の平均値を下記表4に示す。CLA含量については、更に図1に示す。なお、単位はmg/100mg脂肪酸メチルエステルである。
【0077】
(表4)
牛乳中のバクセン酸(VA)、共役リノール酸(CLA)含量(6頭の平均値):mg/100mg脂肪酸メチルエステル
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
対照区 醤油粕区
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
VA(trans−11C18:1) 1.42 1.74*
CLA(cis−9,trans−11C18:2) 0.62 0.74*
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*: 有意差あり p<0.05
醤油粕区は、対照区に比べてVAは22.5%、CLAは19.4%増加した。
【0078】
(3)牛乳の抗酸化活性:
6頭の平均値を下記表5及び図2に示す。
【0079】
(表5)
牛乳の抗酸化活性(6頭の平均値)
――――――――――――――――――――――――――――――
対照区 醤油粕区
――――――――――――――――――――――――――――――
抗酸化活性Units/ml 79.3 93.9*
――――――――――――――――――――――――――――――
*:有意差あり p<0.05
醤油粕区の牛乳の抗酸化活性は、対照区に比べて18.4%増加した。
【0080】
(4)牛乳中のヘキサナール含量:
測定結果を下記表6に示す。単位:μg/L
【0081】
(表6)
牛乳中のヘキサナール含量(μg/L)
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乳牛No. 対照区 醤油粕区
2℃保存日数 2℃保存日数
1日 7日 1日 7日
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1 1 1 2 2
2 1 1 <1 1
3 <1 <1 2 <1
4 1 1 1 1
5 1 2 1 2
6 <1 1 <1 1
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対照区と醤油粕区の、牛乳中のヘキサナール含量は、共に5μg/L未満と少なく差がなかった。醤油粕を給与しても、ヘキサナールによるボール紙臭の発生は見られず、風味は良好であった。
【0082】
(5)ルーメン液の測定結果:
6頭の平均値を下記表7に示す。
【0083】
【表7】

【0084】
ルーメン液の総VFA濃度は飼料給与後2時間目に、醤油粕区で対照区よりも高かった。対照区と比較して、醤油粕区の酢酸の比率はどの時間においても高かったが、プロピオン酸および酪酸の比率は飼料給与後2および5時間目において低くなった。
【0085】
牛乳の抗酸化活性には、ルーメン内の抗酸化活性が関与する。ルーメン液の抗酸化活性は、飼料給与後に高まるが、これにはプロトゾアの関与が知られている。醤油粕区では、対照区に比べて、ルーメン液の抗酸化活性能およびプロトゾア数が高くなった。
【0086】
これらの結果から、醤油粕の給与により、ルーメンの発酵・代謝が正常に維持されていることが推察された。
【0087】
(6)ルーメン液の抗酸化活性:
6頭の平均値を下記表8に示す。
【0088】
【表8】

【0089】
ルーメン液の抗酸化活性は、醤油粕区の方が対照区に比べて高くなった。このことが牛乳の抗酸化活性に反映されたと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】牛乳中のCLA含量を示す。
【図2】牛乳の抗酸化活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜に醤油粕を給与して飼養することにより、搾乳された乳に抗酸化活性を付与すると同時に共役リノール酸を付加すること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
【請求項2】
家畜に醤油粕を給与して飼養することにより、搾乳された乳に抗酸化活性を付与すること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
【請求項3】
家畜に醤油粕を給与して飼養することにより、搾乳された乳に共役リノール酸を付加すること、を特徴とする高機能性乳の生産方法。
【請求項4】
家畜に醤油粕を給与して飼養すること、を特徴とする乳中における共役リノール酸の付加生成方法。
【請求項5】
醤油粕を飼料に添加して家畜に給与すること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
家畜が乳牛であること、を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって取得してなり、抗酸化活性が付与され且つ/又は共役リノール酸が付加されたこと、を特徴とする高機能性乳。
【請求項8】
醤油粕を有効成分とすること、を特徴とする家畜の乳の抗酸化活性を付与するため且つ/又は共役リノール酸を付加するための剤。
【請求項9】
醤油粕を含有すること、を特徴とする家畜の乳の抗酸化活性を付与し且つ/又は共役リノール酸を付加する家畜用の飼料組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−113586(P2008−113586A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298650(P2006−298650)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(592172574)明治飼糧株式会社 (15)
【Fターム(参考)】