説明

高窒素鋼の製造方法

【課題】窒素含有率のばらつきを小さく抑えることができるとともに操業効率を向上させることができる。
【解決手段】精錬容器2内で精錬した溶鋼3を循環脱ガス処理によってさらに精錬する高窒素鋼の製造方法において、循環脱ガス処理に先立って精錬容器2中に最大粒径1mm以下の窒化珪素鉄1を投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高窒素鋼の製造方法に関し、特に、窒素含有率のばらつきが小さい高窒素鋼を得ることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高窒素鋼における窒素含有率のばらつきを小さく抑えることができる製造方法として、例えば特許文献1には精錬容器内での精錬末期や循環脱ガス処理中に窒化珪素鉄の粉末を添加することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−70691
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし窒化珪素鉄を添加する上記提案の方法でも、未だ窒素含有率のばらつきは充分には抑えられず、しかも窒化珪素鉄の添加時に多量のスラグフォーミングを生じるためにその添加量が限定されるとともに、続く循環脱ガス処理中のスラグの抜けが悪いために操業効率が悪くなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、窒素含有率のばらつきを小さく抑えることができるとともに操業効率も向上させることが可能な高窒素鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者等は種々実験を行った結果、窒化珪素鉄の粉末を添加する従来の方法で窒素含有率のばらつきや多量のフォーミングを生じる原因が、これまで通常使用されていた窒化珪素鉄の粉末粒径が3mm〜10mmと粗いことが原因であることに思い至って本発明を案出した。
【0007】
すなわち本発明は、精錬容器(2)内で精錬した溶鋼(3)を循環脱ガス処理によってさらに精錬する高窒素鋼の製造方法において、前記循環脱ガス処理に先立って前記精錬容器(2)中に最大粒径1mm以下の窒化珪素鉄(1)を投入することを特徴とする高窒素鋼の製造方法である。
【0008】
本発明によれば、最大粒径1mm以下の窒化珪素鉄は精錬容器内の溶鋼の表面を覆うスラグ内に留められて溶鋼には達せず、しかもスラグへの溶け込みが早いためにフォーミングの発生も小さく抑えられる。したがって脱ガス処理時に脱ガス槽内に進入したスラグは精錬容器内に速やかに戻り、溶鋼のみが脱ガス雰囲気に晒されて溶鋼中から不要ガス成分や介在物が除去される。これによれば、スラグ中の窒素分が高く維持され、しかもその変動が抑えられるから、窒素含有率のばらつきの小さい高窒素鋼を得ることができるとともに、フォーミングが抑えられて操業効率も向上する。
【0009】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の高窒素鋼の製造方法によれば、窒素含有率のばらつきを小さく抑えることができるとともに操業効率も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明方法の工程を説明する取鍋の概略垂直断面図である。
【図2】スラグ中の窒素濃度を本発明方法と従来方法で比較したグラフである。
【図3】本発明方法の工程を説明する脱ガス槽の概略垂直断面図である。
【図4】スラグ抜けまでの時間を本発明方法と従来方法で比較したグラフである。
【図5】本発明方法の工程を説明する取鍋の概略垂直断面図である。
【図6】高窒素鋼の窒素濃度範囲を本発明方法と従来方法で比較したグラフである。
【図7】従来方法の工程を説明する取鍋の概略垂直断面図である。
【図8】従来方法の工程を説明する脱ガス槽の概略垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0013】
本発明方法は循環脱ガス処理(RH脱ガス処理)に先立つ取鍋精錬の末期に、窒化珪素鉄(N−FSi)の粉末を精錬容器たる取鍋内へ投入する。この場合の粉末の粒径は最大で1mm以下とする。このような粉末は、窒化珪素鉄を粉砕後、特定メッシュの篩で1mmより粒径の大きい粉末を排除することにより得られる。窒化珪素鉄としては例えば窒化珪素(Si3N4)成分を75%〜80%含有し、12%〜17%の遊離の鉄分を含む複合耐火原材料を使用できる。
【0014】
最大粒径1mm以下の窒化珪素鉄1は図1に示すように、取鍋2内へ投入されると、取鍋2内の溶鋼3の表面を覆うスラグ4内に留められて溶鋼3には達しない。そして、スラグ4への溶け込みが早いためにスラグフォーミングの発生が小さく抑えられる。すなわち、図2の線Xで示すように、最大粒径1mm以下の本発明の窒化珪素鉄粉末を添加した場合には添加後の時間経過に伴ってスラグ中の窒素濃度が順調に増加する。これに対して、従来の粉末粒径が3mm〜10mmの窒化珪素鉄粉末を添加した場合には同図の線Yで示すように、添加後の時間が経過してもスラグ中の窒素濃度は上昇しない。これは投入された窒化珪素鉄が溶鋼まで至ってしまうためと思われる。なお、図2における窒化珪素鉄粉末の添加量は15kgである。
【0015】
取鍋精錬終了後には図3に示すように循環脱ガス処理に移行する。フォーミングが抑えられているため、脱ガス槽5内に進入したスラグ4は図中の矢印で示すように循環させられて取鍋2内に速やかに戻り(スラグ抜け)、溶鋼3のみが脱ガス雰囲気に晒されて溶鋼3中から不要ガス成分や介在物が除去される。すなわち、図4に示すように、最大粒径1mm以下の本発明の窒化珪素鉄粉末を添加した場合(図中の黒丸印)にはスラグ抜けまでの時間が2分〜7分程度と短時間であるのに対して、粉末粒径が3mm〜10mmの従来の窒化珪素鉄粉末を添加した場合(図中の白角印)は6分〜12分程度と長時間になる。なお、図4中の横軸は窒化珪素鉄粉末の添加量を60kg/chとして同一鋼種を連続処理した場合のch(チャージ)数を示したもので、従来の窒化珪素鉄粉末では脱ガス槽内に次第にスラグが付着するためにch数が多くなるとスラグ抜けまでの時間が長くなるのに対して、本発明の窒化珪素鉄粉末ではスラグ付着の影響を受けず、スラグ抜けまでの時間がch数に関係なく短く維持される。
【0016】
循環脱ガス処理終了後は、図5に示すように、スラグ4中に留められた窒化珪素鉄からの窒素(N)分がスラグメタル界面反応によって溶鋼3中に移行する。本発明においてはスラグ4中の窒素濃度が上述のように高く維持できるから、溶鋼3中への窒素分の移行が効率的に行われる。
【0017】
以上の工程によって窒素含有率のばらつきの小さい高窒素鋼が得られる。これを図6に示す。図6は上記工程で得られた高窒素鋼の窒素濃度範囲を示し、粒径が最大1mm以下の本発明の窒化珪素鉄粉末を使用した場合には高窒素鋼の窒素濃度は0.005%〜0.007%の範囲に収まるのに対して、従来の3mm〜10mmの粉末粒径の窒化珪素鉄粉末を使用した場合には高窒素鋼の窒素濃度範囲は0.001%〜0.007%と大きくばらつく。なお、この場合の窒化珪素鉄粉末の添加量は60kgである。
【0018】
この原因は以下のように考えられる。すなわち、粉末粒径が大きい場合には図7に示すように、窒化珪素鉄粉末1´を取鍋2内に投入すると、窒化珪素鉄粉末1´がスラグ4内に留まらず、溶鋼3内にまで侵入して脱ガス処理時に窒素分が脱気されてしまう。また、粒径が大きいために添加後にフォーミングが持続して大量に発生する。続く循環脱ガス処理(図8)においては、脱ガス槽5内に侵入したスラグ4内で、未反応の窒化珪素鉄1´によるフォーミングが生じてスラグ4の抜けが悪くなるとともに、溶鋼3内に溶解している窒素分が脱ガス雰囲気中へ脱気されてしまう。この結果、循環脱ガス処理終了後の溶鋼3中の窒素分やスラグ4中に留められた窒化珪素鉄の窒素分が大きく変動して、得られる高窒素鋼の窒素濃度範囲が大きくばらつくのである。
【0019】
本発明においては、高窒素鋼の窒素濃度範囲のばらつきを抑えることができるとともに、窒化珪素鉄添加時のフォーミングを小さく抑えることができるため窒化珪素鉄の添加量を多くしてさらに窒素濃度の高い高窒素鋼を得ることができ、かつ循環脱ガス処理におけるスラグの抜けが良いから操業効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0020】
1…窒化珪素鉄、2…取鍋(精錬容器)、3…溶鋼。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬容器内で精錬した溶鋼を循環脱ガス処理によってさらに精錬する高窒素鋼の製造方法において、前記循環脱ガス処理に先立って前記精錬容器中に最大粒径1mm以下の窒化珪素鉄を投入することを特徴とする高窒素鋼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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