説明

高調波発生装置

【目的】共振器の入射面での反射光が半導体レーザ(LD)に戻りLD発振周波数の不安定化及び発振スペクトル線幅の増大が起こるのを防ぐ。
【構成】入射基本波光軸110は共振軸111と0.3°の角度をなし、基本波105の一部は定在波直線共振器104の入射面109で直接反射される。入射基本波光軸110と直接反射光112の光軸は0.2°の角度をなし、LD102の発光層には再集光されない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体レーザからの基本波を非線形光学材料により高調波に変換する高調波発生装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図2には従来の高調波発生装置の一例として、定在波直線共振器を用いた第2高調波発生装置201が示されている。この第2高調波発生装置は、半導体レーザ(以下LDとする)202、コリメータレンズ及びモードマッチングレンズ等からなる結合光学系203、共振ミラー204と片面(出射面205)を共振ミラーとしたKNbO3 単結晶等の非線形光学結晶206とからなる定在波直線共振器207により構成されている。
【0003】LD202は例えば波長860nmの基本波208を出射する。共振器の入射面209には基本波に対し一部透過で高調波に対し高反射の膜が蒸着され共振ミラー面を形成し、出射面205には基本波に対し高反射で高調波に対し高透過の膜が蒸着され共振ミラー面を形成している。
【0004】上記の構成において、LD202から出射する波長860nmの基本波208は結合光学系203により集光され、共振モードに整合され、定在波直線共振器207に入射する。この際、基本波208の一部は定在波直線共振器207に入射されず入射面209で反射された直接反射光210となり、LD202の発光層に再集光される。
【0005】入射基本波光軸211は共振軸212と一致するように配置されており、入射した基本波208は2つの共振ミラー面をなす入射面209と出射面205との間を進行し共振して増幅される。増幅された基本波のうち入射面209を通過した共振器からの戻り光213はLD202に戻る。そして基本波208は非線形光学結晶206を通過するときその一部が波長430nmの第2高調波214に変換され、出射面205より出射される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記の高調波発生装置においては、共振器207の入射面209での反射光210がLD202に戻ることにより、LD発振周波数の不安定化及び発振スペクトル線幅の増大が起こり、共振器207への結合効率が低下する。その結果十分な共振出力が得られず、約10μWの不安定で微弱な第2高調波しか得られないという問題点を有していた。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、前述の問題点を解決すべくなされたものであり、基本波光源である半導体レーザと、基本波を共振させる複数の共振ミラーによって構成される共振器と、前記共振器内の基本波の光軸上に配置された非線形光学材料とを備えてなる高調波発生装置において、基本波を共振軸に対して傾けて、共振器の共振許容幅内に入るように入射してなる高調波発生装置を提供する。
【0008】本発明において、共振軸とは、共振許容幅内で最大の共振出力が得られる光軸であり、複数の共振ミラーにより共振器を構成した場合に一義的に決まる光軸であり、多くの場合共振器のほぼ中心を通る軸に等しい。
【0009】また、共振許容幅内とは、入射光軸に対し共振軸を平行にずらすか傾けていった際に、入射光軸と共振軸が一致したときに得られる最大出力の半分以上の出力が得られる範囲をいう。
【0010】本発明において、前記共振器が定在波直線共振器であり、基本波の共振が入射側の共振ミラーと非線形光学材料の1面に設けられた出射側の共振ミラーとの間で行わることが、装置の構成が単純化され、製作、光軸等の調整が容易になるので好ましい。また、非線形光学材料の1面を出射側の共振ミラーとすることにより、単純な構成で高効率の高調波発生が可能になる。
【0011】共振器が前記定在波直線共振器である場合、基本波入射光軸と共振軸との角度は、入射側の共振ミラーの入射面(球面)の曲率半径が5mmに対して、0.15゜〜0.4゜が好ましい。0.15゜より小さいとLD発振周波数の不安定化及び発振スペクトル線幅増大が回避できないため好ましくなく、0.4゜より大きいと共振出力が最大共振出力の50%よりも小さくなり好ましくない。同様に曲率半径が3mmの場合は、0.15゜〜0.3゜とするのが好ましい。
【0012】ここで、基本波の入射光軸と共振軸との角度は、基本波の入射光軸と直接反射光の角度が0.2゜以上になるように傾ける必要がある。この角度をθとするとθは、共振ミラーの曲率半径R、共振器を傾けた場合の共振ミラーの入射面(図1の入射面109)から共振軸上に存在する共振器の回転中心までの距離L(L<R)、共振軸の回転角(傾き角)φで、近似的にθ=2(1−L/R)φと表される。θを0.2゜よりも大きくする必要から、φ>1/{10(1−L/R)}となる。一方共振許容幅内で出力がちょうど50%になるときの傾き角をφt とすると、1/{10(1−L/R)}<φ<φt となる。
【0013】O<L<Rであるから、0.1゜<1/{10(1−L/R)}となり、0.1゜<φ<φt となる。ただし、1/{10(1−L/R)}≧φt となるとφが共振許容幅を超えることになり、Lはそのような値をとることはできない。
【0014】前記非線形光学材料としては、KNbO3 、β−BaB24 、KTiOPO4 、KH2 PO4 、LiNbO3 等の非線形光学結晶、その他有機非線形光学材料等が使用できるが、高い第2高調波への変換効率、結晶の取扱いやすさ等からしてKNbO3 単結晶が好ましい。
【0015】また本発明は、第2高調波のみならず、第3高調波等のより高次の高調波の発生装置にも応用できる。
【0016】
【作用】本発明においては、LDからの基本波を共振軸に対して傾けて、共振器の共振許容幅内に入るように入射することにより、共振器に結合しなかった直接反射光がLD発光層に再集光されることによるLDの発振周波数の不安定化及び発振スペクトル線幅の増大を回避し、高い結合効率で共振器に基本波を入射でき、高効率の波長変換が可能になると考えられる。
【0017】
【実施例】以下実施例に基づいて説明する。図1には本発明を適用した第2高調波発生装置101の一実施例が示されている。この第2高調波発生装置101は、基本波光源としてのLD102、コリメータレンズ及びモードマッチングレンズ等からなる結合光学系103、定在波直線共振器104が順次配列されて構成されている。LD102は本実施例では波長860nm、単一縦横モードの非点収差が少ないものが用いられ基本波105を出射する。基本波105は結合光学系103により集光され共振モードに整合され、定在波直線共振器104に入射する。
【0018】定在波直線共振器104は、本実施例では曲率半径5mmの球面状の共振ミラー面を有する共振ミラー106と、片面(出射面107)を共振ミラー面としたKNbO3 単結晶の非線形光学結晶108により構成されている。定在波直線共振器104の入射面109には基本波に対し95%以上反射で高調波に対し90%以上反射の膜が蒸着され共振ミラーを形成し、出射面107には基本波に対し99%以上反射で高調波に対し90%以上透過の膜が蒸着され共振ミラーを形成している。
【0019】この構成において、入射基本波光軸110は共振軸111と0.3°の角度をなしており、基本波105の一部は定在波直線共振器104に入射せず入射面109で反射され直接反射光112となる。入射基本波光軸110と直接反射光112の光軸とは0.2°の角度をなすことから、LD102の発光層には再集光されない。このためLD102の発振波長は安定であり、また発振スペクトル線幅も増大しないため40%以上の結合効率が得られた。
【0020】この結果、十分な基本波共振出力が得られ、波長430nm、出力1mWの第2高調波113が得られた。また増幅された基本波のうち共振ミラー106を通過した共振器からの戻り光114は、LD102に戻りLD102の発振周波数はこの戻り光114により安定化され、室温±10℃でも第2高調波(青色レーザ)出力が維持された。
【0021】本発明に用いる共振器としては、複数の共振ミラーと非線形光学材料が別個の共振器に限定されるものではなく、非線形光学材料自体に共振ミラーが形成されたモノリシック型(一体成形型)の共振器も適用可能である。
【0022】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、基本波を共振軸に対して傾けて、共振器の共振許容幅内に入るように入射することにより、LDの発振周波数の不安定化及び発振スペクトル線幅の増大に起因する共振器への結合効率の低下が回避可能となり、安定で高効率な高調波発生が可能となる。また、光アイソレータ等の直接反射光を制御するための素子を必要としないため、小型で単純な構成が可能になるという効果もあわせて有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高調波発生装置の実施例を示す側面図である。
【図2】従来の高調波発生装置の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
101:第2高調波発生装置
102:半導体レーザ(LD)
103:結合光学系
104:定在波直線共振器
105:基本波
106:共振ミラー
107:出射面
108:非線形光学結晶
109:入射面
110:入射基本波光軸
111:共振軸
112:直接反射光
113:第2高調波
114:戻り光

【特許請求の範囲】
【請求項1】基本波光源である半導体レーザと、基本波を共振させる複数の共振ミラーによって構成される共振器と、前記共振器内の基本波の光軸上に配置された非線形光学材料とを備えてなる高調波発生装置において、基本波を共振軸に対して傾けて、共振器の共振許容幅内に入るように入射してなることを特徴とする高調波発生装置。
【請求項2】前記共振器が定在波直線共振器であり、基本波の共振が入射側の共振ミラーと非線形光学材料の1面に設けられた出射側の共振ミラーとの間で行われてなる請求項1記載の高調波発生装置。

【図1】
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【図2】
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