説明

高電圧発生回路およびイオナイザー

【課題】簡単な回路構成で電圧をロスすることなく効率的に放電電極に高電圧を印加可能な高電圧発生回路及びイオナイザーを提供する。
【解決手段】放電電極3と接地電極との間に正又は負の直流高電圧を交互に印加し、放電電極のコロナ放電により正負のイオンを発生させるイオナイザーに用いられる正極性及び負極性倍電圧整流回路6a,6bを含む高電圧発生回路6において、前記正極性整流回路の出力端子間、及び前記負極性整流回路の出力端子間には各々電流制限抵抗が設けられ、前記正極性整流回路と前記負極性整流回路とは直列に接続され、前記放電電極に高電圧が印加されているときの高電圧発生回路6は、前記放電電極と、高電圧を発生している前記いずれかの倍電圧整流回路と、高電圧を発生していない他の倍電圧整流回路の電流制限抵抗とが直列に接続された回路と等価な回路となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気除去装置等に用いられるイオナイザーに関し、特に除電対象物周囲の正負のイオンバランスに応じて正負イオンの発生量を調節し送風するイオナイザーに用いられる高電圧発生回路、及びこの回路を備えたイオナイザーに関する。
【背景技術】
【0002】
静電気放電(ESD,electrostatic discharge)は、精密電子デバイスの製造工程や実装工程において、様々な障害の原因となる。半導体回路の微細化に伴って、許容される帯電量が微小化し、僅かな帯電でも、ESDによってシリコンの回路や酸化物の絶縁層が破壊される。
【0003】
また、帯電によって塵埃の付着が促進されることも問題である。半導体回路の高集積化には、帯電防止対策が不可欠であり、一般には放電装置によって発生した正、負イオンを交互に気体ジェットにより除電対象物に吹き付けて、電荷を中和するという方法がとられている。このような装置は除電装置又は除電用イオナイザー(以下、イオナイザーという。)と呼ばれる。
【0004】
かかるイオナイザーは、放電電極に高電圧を印加し、先端部に局在したコロナ放電を発生させるものが多い。これらのイオナイザーは、正負の両極性のイオンを発生させるため、放電電極に交流電圧を印加するもの、複数の電極のそれぞれに正又は負の直流電圧を印加するもの、同一の放電電極にパルス状の正負の電圧を交互に印加するもの等種々の方法がある。
【0005】
従来、交流電圧を印加し正負のイオン発生量を制御するイオン発生回路(高電圧発生回路)では、昇圧トランスの一次側の正負電圧をアンバランスにして昇圧する方法(特許文献1)がある。しかし、この方法は昇圧トランスの一次側波形の正負を何らかの方法によってアンバランスにして昇圧トランスに入力すると、トランスの特性により二次側波形に歪みが生じ、正負の発生イオンを広範囲に制御できないという問題がある。
【0006】
また、昇圧トランスの二次側交流電圧に別の直流電源から供給される直流バイアス電圧を重畳させて正負の波高値を変化させる方法(特許文献2)がある。しかし、この方法は、直流バイアス電圧の大きさが100V〜200V程度であってイオンバランスの調整範囲が比較的狭いとう問題がある。
【0007】
上述した問題点を解決するため、正極性直流高電圧を放電電極に印加しその放電電極にコロナ放電を発生させ、正のイオンを発生させる。また、負極性直流高電圧を同様に放電電極に印加し、その放電電極にコロナ放電を発生させることにより負のイオンを発生させる方法がある。この方法は直流高電圧であるから電圧の制御が比較的簡単であり、イオン発生量の制御がしやすい。しかし、正負2つの電極を別々に設けることから、電極数が多くなるとともに配線が複雑になるという問題がある。また、常に同一の極性の電圧が印加された放電電極の劣化は、正極性、負極性の電圧が交互に印加される電極よりも消耗が早いという問題もある。
【0008】
このため、同一の放電電極に直流高電圧を印加することで正負のイオンの発生を制御するイオン発生回路(特許文献3)がある。図6は従来のイオン発生回路(高電圧発生回路)図である。高電圧発生回路40は、直流電源41と、これにスイッチ41a,41bを介して正極性の高電圧発生回路42aと負極性の高電圧発生回路42bとが接続する構成となっている。
【0009】
高電圧発生回路40は、トランス43a,43bと倍電圧整流回路44a,44bにより構成される。高電圧発生回路40(倍電圧整流回路44a,44b)の出力端子間に等価な抵抗R1,R1を接続し、抵抗R1,R1の接続点46に電極針47を接続する。
【0010】
制御装置48の制御信号によりスイッチ41a,41bを開閉し、電極針47から正極性及び負極性の高電圧を交互に印加して正極性及び負極性のイオンを交互に出力する。スイッチ41a,41bの開閉時間を制御することにより、電極針47に印加する電圧の周波数と正負の極性の電圧の大きさを制御するものである。電流は抵抗R1から接続点46、抵抗R1、負極性高電圧発生回路42b中のダイオード(順方向に電圧が印加されている)を流れる。この結果、正極性の高電圧発生回路42aが出力する電圧(Em+)の1/2の電圧が電極針47に印加されることになる。これは負極性高電圧回路42bが負の高電圧を発生させている場合も同様である。即ち、従来の回路では高電圧発生回路が発生する電圧の1/2の電圧しか電極針47に印加されないという問題がある。
【0011】
【特許文献1】特開平9-213493号公報
【特許文献2】特許第2520311号
【特許文献3】特開2000-058290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、このような問題に鑑みて、簡単な回路構成で電圧をロスすることなく効率的に放電電極に高電圧を印加可能な高電圧発生回路及びイオナイザーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、放電電極と接地電極との間に正又は負の直流高電圧を交互に印加し、放電電極のコロナ放電により正負のイオンを発生させるイオナイザーに用いられる正極性及び負極性倍電圧整流回路を含む高電圧発生回路において、前記正極性整流回路の出力端子間、及び前記負極性整流回路の出力端子間には各々電流制限抵抗が設けられ、前記正極性整流回路と前記負極性整流回路とは直列に接続され、前記放電電極に高電圧が印加されているときの高電圧発生回路は、前記放電電極と、高電圧を発生している前記いずれかの倍電圧整流回路と、高電圧を発生していない他の倍電圧整流回路の電流制限抵抗とが直列に接続された回路と等価な回路であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記いずれか一方の倍電圧整流回路が電圧を発生しているとき、他の倍電圧整流回路は逆方向電圧が印加された片方向通電素子と前記他の倍電圧整流回路の電流制限抵抗とが並列に接続された回路と等価な回路となるように構成したことを特徴とする。
【0015】
このような高電圧発生回路構成とすることにより、正極性又は負極性高電圧発生回路で発生した高電圧を大幅に低下させることなく放電電極に印加せしめることができる。例えば、電流制限抵抗として20MΩの抵抗を高電圧発生回路の出力端間に設けた場合、放電電極と接地電極との抵抗が放電時に200MΩ程度であるから、高電圧発生回路が発生した電圧の90%を放電電極に印加せしめることができる。
【0016】
前記倍電圧整流回路が、ビラード回路(Villard回路)又はコッククロフト・ウォルトン回路(Cockcroft-Walton回路)であることは好適である。
【0017】
本発明は、上述した高電圧発生回路を備えたイオナイザーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単な回路構成で、正負の直流高電圧を大幅に低下させることなく交互に単一の放電電極に印加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明の好ましい実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例であるイオナイザーの概略分解図である。このイオナイザーは、紙面と直角な方向に並列に配置された多数の電極によりコロナ放電させ、除電対象物に正負イオンを含む空気流を吹き付けるものである。図1は矩形のイオナイザー本体の中央付近の概略分解図を示している。この装置は、イオナイザー本体1、イオンセンサー2a, 2b、及び後述する高電圧発生回路6等から構成されている。イオナイザー本体1は、放電電極3、対向電極であるグリッド4、空気流を形成する送風ファン5等から構成されている。なお、対向電極であるグリッド4は接地されている。
【0021】
図2は、倍電圧整流回路としてビラード回路(Villard回路)を2段用いた4逓倍電圧整流回路を備えた高電圧発生回路である。この高電圧発生回路は電源及び正極性及び負極性の高電圧を交互に印加するスイッチを含む電源制御回路7、及び高電圧発生回路6とから構成されている。電源制御回路7については上述した既存技術で説明した内容と基本的には同じである。
【0022】
高電圧発生回路6は、正極性高電圧発生回路6aと負極性高電圧発生回路6bとからなり、正極性高電圧発生回路6aは、トランスTra及び正極性倍電圧整流回路、及び出力端に設けた電流制限抵抗Raとからなり、負極性高電圧発生回路6bは、トランスTrb、負極性倍電圧整流回路、及び出力端に設けた電流制限抵抗Rbとから構成される。
【0023】
図2に示す高電圧発生回路6において、正極性倍電圧整流回路の正極出力端に放電電極3が接続され、負極端は負極性倍電圧整流回路の負極出力端に接続している。また、負極性倍電圧整流回路の正極端は接地されている。
【0024】
図2に示す高電圧発生回路の動作について説明する。電源制御回路7により正極性高電圧発生回路6aに高電圧が印加され、負極性高電圧発生回路6bには高電圧が印加されない場合、正極性倍電圧整流回路の出力端にはトランスTraが発生した電圧Emの4倍電圧(4Em)が発生する。この結果放電電極3にはプラスの電圧が印加され放電電極端にコロナ放電が開始され正イオンが発生し、放電電極3から対向電極(接地電極)方向に電流が流れる。ここで負極性倍電圧整流回路は、この回路のダイオードであるDb1からDb4には逆方向の電圧が印加され、これらのダイオードとRbとが並列に接続した回路と等価な回路とみなすことができる。
【0025】
電源制御回路7により負極性高電圧発生回路6bに高電圧が印加され、正極性高電圧発生回路6aには高電圧が印加されない場合については、同様に負極性高電圧発生回路6bの出力端にはトランスTrbが発生した電圧-Emの4倍電圧(-4Em)が発生する。この結果、放電電極3にはマイナスの電圧が印加され放電電極端にコロナ放電が開始され負イオンが発生し、対向電極(接地電極)から放電電極3の方向に電流が流れる。ここで正極性倍電圧整流回路は、この回路のダイオードDa1からDa4には逆方向の電圧が印加され、これらのダイオードとRaとが並列に接続した回路と等価な回路とみなすことができる。
【0026】
図3は正極性倍電圧整流回路及び負極性倍電圧整流回路がそれぞれ動作するときの等価回路を示したものである。正極性倍電圧整流回路に高電圧が印加されるときの等価回路は図3(a)のようになり、負極性倍電圧整流回路に高電圧が印加されるときの等価回路は図3(b)に示すような等価回路となる。ここで、電流制限抵抗Ra及びRbをそれぞれ20MΩとすれば、放電電極3と対向電極(接地電極)との抵抗は約200MΩであるから、放電電極3には倍電圧整流回路で発生した4Emの約90%の電圧が印加されることになる。また、電流制限抵抗Ra、Rbにより過電流から回路を保護することができる。
【実施例2】
【0027】
図4は倍電圧整流回路として、ビラード回路(Villard回路)に替えてコッククロフト・ウォルトン回路(Cockcroft-Walton回路)を2段用いた4逓倍電圧整流回路を備えた高電圧発生回路である。正極性高電圧発生回路6cによりプラスの直流高電圧が放電電極3に印加されているときは、図3(a)に示す等価回路となり、負極性高電圧発生回路6dによりマイナスの直流高電圧が放電電極3に印加されているときは、図3(b)に示すような等価回路となる。倍電圧整流回路としてビラード回路(Villard回路)を用いた場合と同様に倍電圧整流回路で発生した電圧を低下させることなく放電電極3に電圧を印加せしめることが
できる。
【実施例3】
【0028】
図5は図2に示した回路の電源波形を示した図である。図5において、入力電圧波形1は、電源制御回路7により−10Vの電圧をTrbに入力した場合の波形であり、入力電圧波形2は、電源制御回路7により+10Vの電圧をTraに入力した場合の波形である。なお、正負の基準電圧は接地電圧である。
【0029】
正極性高電圧発生回路6aと負極性高電圧発生回路6bに+10Vと−10Vの電圧を交互に入力することにより、出力電圧波形3に示すような高電圧が放電電極3に±約4.5KVで出力されることが確認できた。なお、入力電圧波形1及び入力電圧波形2のオフ状態が接地電圧(0V)より少し高なり、これが徐々に下がってくる波形となっているが、5V以下の電圧では倍電圧整流回路はオンとならないので、実質的に接地電圧と等価であり問題とならない。
【0030】
図5に示す出力電圧波形3に示すように、放電電極3には約4.5KVの正負の直流電圧が交互に印加されている。高電圧発生回路6により約5KVがその出力端間には発生するが、上述した通り、電流制限抵抗Ra(20MΩ)又はRb(20MΩ)による電圧降下が放電電極3と接地電極との間の抵抗(約200MΩ)との関係で約10%あることから放電電極3には±4.5KVの電圧が印加されている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば簡単な回路で、高電圧発生回路が発生した高電圧を大幅に低下させることなく放電電極に印加せしめることが可能な回路を作成することができる。また、この高電圧発生回路を備えたイオナイザーを製造することが可能であり、産業上の利用性がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例であるイオナイザーの概略分解図である。
【図2】倍電圧整流回路としてビラード回路(Villard回路)を用いた高電圧発生回路図である。
【図3】本実施例の高電圧発生回路の正極性倍電圧整流回路、及び負極性倍電圧整流回路がそれぞれ動作するときの等価回路を示した図である。
【図4】倍電圧整流回路としてコッククロフト・ウォルトン回路(Cockcroft-Walton回路)を用いた高電圧発生回路図である。
【図5】本実施例の倍電圧整流回路としてビラード回路(Villard回路)を用いた高電圧発生回路の入出力電圧波形図である。
【図6】従来技術における高電圧発生回路図である。
【符号の説明】
【0033】
1 イオナイザー本体
2a,2b イオンセンサー
3 放電電極
4 グリッド(対向電極)
5 送風ファン
6 イオン発生回路(高電圧発生回路)
7 電源制御回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電電極と接地電極との間に正又は負の直流高電圧を交互に印加し、放電電極のコロナ放電により正負のイオンを発生させるイオナイザーに用いられる正極性及び負極性倍電圧整流回路を含む高電圧発生回路において、
前記正極性整流回路の出力端子間、及び前記負極性整流回路の出力端子間には各々電流制限抵抗が設けられ、前記正極性整流回路と前記負極性整流回路とは直列に接続され、
前記放電電極に高電圧が印加されているときの高電圧発生回路は、前記放電電極と、高電圧を発生している前記いずれかの倍電圧整流回路と、高電圧を発生していない他の倍電圧整流回路の電流制限抵抗とが直列に接続された回路と等価な回路であることを特徴とする高電圧発生回路。
【請求項2】
前記いずれか一方の倍電圧整流回路が電圧を発生しているとき、他の倍電圧整流回路は逆方向電圧が印加された片方向通電素子と前記他の倍電圧整流回路の電流制限抵抗とが並列に接続された回路と等価な回路であることを特徴とする請求項1に記載の高電圧発生回路。
【請求項3】
前記電流制限抵抗が、前記放電電極と接地電極間の抵抗値の1/10以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高電圧発生回路。
【請求項4】
前記倍電圧整流回路が、ビラード回路(Villard回路)又はコッククロフト・ウォルトン回路(Cockcroft-Walton回路)であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高電圧発生回路。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の高電圧発生回路を備えたイオナイザー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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