説明

高電圧電源装置

【課題】カットオフ電圧以上の高電圧の印加で発振動作する負荷に高電圧を供給する高電圧電源装置に関し、装置の構成を簡単にしてコストダウンと小型化とを達成する。
【解決手段】カットオフ電圧以下のベース電圧Vaを生成してマグネトロン12に供給するベース電圧供給手段と、カットオフ電圧以下でベース電圧VOFFとの加算によりカットオフ電圧以上となる制御電圧Vbを生成してベース電圧Vaに加算する制御電圧加算手段と、ベース電圧VOFFに対する制御電圧Vbの加算の断続制御を行うスイッチング手段9とを有し、ベース電圧供給手段のベース電圧出力部は、ダイオード8を介してマグネトロン12のアノードおよびスイッチング手段9の一端に接続されており、ダイオード8とマグネトロン12のアノードとスイッチング手段9の一端との接続点がアース電位である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カットオフ電圧以上の高電圧の印加で発振動作する負荷に高電圧を供給する高電圧電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造工程、特に、微細加工工程において、数百Hz〜100kHz程度の高周波でパルス幅変調されたマイクロ波が用いられている。このようなパルス幅変調マイクロ波を発振するマグネトロン52に電源を供給する高電圧電源装置は、図5に示すように、高電圧DC電源50から出力される数千ボルトの高電圧DC出力をパルススイッチング部51に入力し、ここで、パルス幅変調信号に基づいて数百Hz〜100kHz程度の高周波でスイッチングしたのち、マグネトロン52に供給していた。なお、図中、符号53はマグネトロン52に接続されたフィラメント電源である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このように構成された従来の高電圧電源装置には、パルススイッチング部51の構成自体が複雑になって、その分、コストアップを来すうえ、装置が大型化する、という問題があった。以下、詳細に説明する。
【0004】
パルススイッチング部51においては、高電圧DC電源50から出力される数千ボルトの高電圧DC出力をスイッチングするために、数千ボルトの電圧に対する耐圧特性が必要となる。これに対して、従来の高電圧電源装置では、パルススイッチング部51を構成するスイッチング素子として、一般に、交換の必要がなくかつスイッチング周波数やスイッチングのデューティー比を任意に調整可能なFETやトランジスタ等の半導体素子が用いられていることが多い。
【0005】
ところが、このような半導体素子からなるスイッチング素子では、
・単一の半導体素子では高耐圧を得られないため、互いに直列に接続された複数の半導体素子が必要となる、
・直列に接続した複数の半導体素子の耐圧分担を均等にする回路上の工夫が必要となる、
・半導体素子のドライブ回路に対して数千ボルトの絶縁を施す必要がある、
といった理由により、回路が複雑化していた。
【0006】
したがって、本発明においては、装置の構成を簡単にしてコストダウンと小型化とを達成することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次のような手段によって、上述した課題を解決している。
【0008】
カットオフ電圧以上の高電圧の印加で発振動作するマグネトロンに高電圧を供給する高電圧電源装置であって、前記カットオフ電圧以下のベース電圧を生成して前記マグネトロンに供給するベース電圧供給手段と、前記カットオフ電圧以下で、かつ、前記ベース電圧との加算により前記カットオフ電圧以上となる制御電圧を生成して前記ベース電圧に加算する制御電圧加算手段と、前記ベース電圧に対する前記制御電圧の加算の断続制御を行うスイッチング手段とを有し、前記ベース電圧供給手段のベース電圧出力部は、ダイオードを介して前記マグネトロンのアノードおよび前記スイッチング手段の一端に接続されており、かつ、前記ダイオードと前記マグネトロンのアノードと前記スイッチング手段の一端との接続点がアース電位であることを特徴とする。
【0009】
なお、前記制御電圧を、前記スイッチング手段を構成するスイッチング素子の耐圧以下に設定するまのが好ましい。
【0010】
また、交流電圧が印加される入力巻線と、前記ベース電圧生成手段の入力部に接続された一方の出力巻線と、前記制御電圧生成手段の入力部に接続された他方の出力巻線とを備えたトランスを更に有しており、前記ベース電圧供給手段は、前記一方の出力巻線に誘起された電圧に基づいて前記ベース電圧を生成するものであり、前記制御電圧加算手段は、前記他方の出力巻線に誘起された電圧に基づいて前記制御電圧を生成するものであるのが好ましい。
【0011】
前記ベース電圧供給手段と前記制御電圧加算手段とは、倍圧整流回路であるのが好ましい。
【0012】
前記スイッチング素子はパルス幅変調制御されるものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、マグネトロン発振電圧より低い制御電圧をスイッチングすればよいので、スイッチング手段の回路構成を比較的低い耐圧性能に対応したものとすることができ、その分、構成が簡単になってコストダウンと小型化を図ることができた。
【0014】
さらには、制御電圧を、スイッチング手段を構成するスイッチング素子の耐圧以下に設定することにより、スイッチング手段を単一のスイッチング素子から構成することができ、その分、さらに、構成が簡単になるうえ耐圧分担を均等にする回路上の工夫を行う必要もなくなって、コストダウンと小型化とを推進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態の高電圧電源装置の構成を示すブロック図である。この高電圧電源装置は、マグネトロン12に、パルス幅変調高電圧信号を供給するものであって、整流平滑部2と、インバータ4と、トランス5と、第1,第2の倍圧整流回路7a,7bと、スイッチング素子9と、ドライブ回路10とを備えている。
【0017】
整流平滑部2は、ダイオード3aおよびコンデンサ3bから構成されて、交流電源1の出力に接続されている。インバータ4は整流平滑部2の出力に接続されている。トランス5はインバータ4の出力に接続されている。トランス5は、その2次巻線が2つに分割されることで、第1の2次巻線6aおよび第2の2次巻線6bを備えている。第1,第2の倍圧整流回路7a,7bは、ダイオードおよびコンデンサから構成されており、第1の倍圧整流回路7aは第1の二次巻線6aの出力に、第2の倍圧整流回路7bは第2の二次巻線6bの出力にそれぞれ接続されている。
【0018】
第1の倍圧整流回路7aの出力はファーストリカバリーダイオード8を介してマグネトロン12に接続されており、これにより第1の倍圧整流回路7aの出力はマグネトロン12に供給されるようになっている。第2の倍圧整流回路7bの出力は、第1の倍圧整流回路7aの出力に直列に接続されており、これにより、第2の倍圧整流回路7bの出力は第1の倍圧整流回路7aの出力に加算されて、マグネトロン12に供給されるようになっている。
【0019】
スイッチング素子9は、第2の倍圧整流回路7bの出力側に設けられている。スイッチング素子9は単一の半導体素子から構成されており、パルス幅変調信号入力部11に入力されるパルス幅変調信号SPに基づくドライブ回路10の動作により入切制御されるようになっている。スイッチング素子9は、高耐圧FETやトランジスタから構成されており、第2の倍圧整流回路7bの出力はスイッチング素子9のソース・ドレインにそれぞれに接続されている。このように構成されることで、スイッチング素子9は、第1の倍圧整流回路7aの出力に対する第2の倍圧整流回路7bの出力の加算を断続制御している。
【0020】
なお、スイッチング素子9のドレインはアース電位になっており、これにより、ドライブ回路10を絶縁する必要がない構造となっている。しかしながら、たとえ、ドライブ回路10を絶縁しなければならない場合であっても、スイッチング素子9とドライブ回路10との間に単一のフォトカプラを配置するだけでよいので、絶縁に要する構成は簡単になる。
【0021】
トランス5を構成する第1の2次巻線6aおよび第2の2次巻線6bの巻線比は次の条件を満足するように設定されている。すなわち、第1の2次巻線6aおよび第2の2次巻線6bの巻線比は、図2に示すように、
・トランス5の出力が最大の時でも、第1の倍圧整流回路7aの出力電圧Va(請求項でのベース電圧に相当する)はマグネトロン12のカットオフ電圧(マグネトロン12の発振の閾値電圧)VOFFを越えない(図2(b)参照)、
・トランス5の出力が最大の時でも第2の倍圧整流回路7bの出力電圧(請求項での制御電圧に相当する)Vbは、スイッチング素子9の耐圧VR(VR<VOFF)を越えない(図2(c)参照)、
・第1の倍圧整流回路7aの出力電圧(ベース電圧)Vaと第2の倍圧整流回路7bの出力電圧(制御電圧)Vbとを加算すれば、その加算電圧(Va+Vb)はマグネトロン12のカットオフ電圧VOFFを越える(図2(e)参照)、
という条件を満足するように設定されている。なお、以上の条件は、各電圧を絶対値化したうえで比較した結果に基づいているのはいうまでもない。
【0022】
なお、本実施の形態の高電圧電源装置を構成するトランス5は、単一のトランスの2次巻線を2つに分割することで、この高電圧電源装置に必要な2つの出力電圧(Va,Vb)を作成しており、その分、トランス5の構成が簡単になって、コストダウンおよび小型化が図れるようになっている。
【0023】
本実施の形態では、第1の倍圧整流回路7aからベース電圧供給手段が構成され、第2の倍圧整流回路7bから制御電圧加算手段が構成され、スイッチング素子9からスイッチング手段が構成されている。
【0024】
なお、図中符号13は、マグネトロン12に接続されたフィラメント電源である。
【0025】
次に、この高電圧電源装置の動作を説明する。
【0026】
まず、整流平滑部2で交流電源1の出力を整流平滑処理したのち、インバータ4で整流平滑部2の出力を高周波電力に変換する。インバータ4から出力される高周波電力は、トランス5で昇圧されたのち第1,第2の2次巻線6a,6bから第1,第2の倍圧整流回路7a,7bに出力され、ここでそれぞれ倍圧整流される。
【0027】
第1の倍圧整流回路7aの出力電圧(ベース電圧)Vaはマグネトロン12に供給される。しかしながら、トランス5を構成する第1の2次巻線6aおよび第2の2次巻線6bの巻線比が上述した条件を満足するように設定されているので、マグネトロン12では、入力される第1の倍圧整流回路7aの出力電圧(ベース電圧)Va単独では発振することはない。
【0028】
一方、第2の倍圧整流回路7bの出力電圧(制御電圧)Vbはスイッチング素子9に入力される。このとき、スイッチング素子9のドレイン−ソース間に印加される電圧はトランス5によって出力電圧(制御電圧)Vbにクランプされており、スイッチング素子9には第1の倍圧整流回路7aの出力電圧(ベース電圧)Vaは印加されない。そのため、第2の倍圧整流回路7bの出力電圧Vbに対する耐圧しか備えていないスイッチング素子9であっても破壊されることはない。このような理由により、この高電圧電源装置では、単一の耐圧FET等からスイッチング素子9を構成することができるようになっている。
【0029】
スイッチング素子9に入力される第2の倍圧整流回路7bの出力電圧Vbは、パルス幅変調信号入力部11に入力されるパルス幅変調信号SP(図2(a)参照)に基づいてドライブ回路10が行うスイッチング動作で断続制御されて、高周波パルス幅変調される(図2(d)参照)。このとき、スイッチング素子9がオン状態になると、ファーストリカバリーダイオード8が逆バイアスされ、ファーストリカバリーダイオード8を介する経路における第2の倍圧整流回路7bの出力の導通は遮断される。そのため、第2の倍圧整流回路7bの出力は逆流することなく、第1の倍圧整流回路7aの出力電圧Vaに加算されたのち、マグネトロン12に供給される。(図2(e)参照)。
【0030】
一方、スイッチング素子9がオフ状態のときには、ファーストリカバリーダイオード8は順バイアスとなり、ファーストリカバリーダイオード8を介する経路における第2の倍圧整流回路7bの出力の導通は許容される。そのための第1の倍圧整流回路7aの出力電圧(ベース電圧)Va2だけがマグネトロン12に供給される。
【0031】
ここで、第1の倍圧整流回路7aの出力Vaは、上述したように、マグネトロン12のカットオフ電圧VOFFを越えないように設定されているので、スイッチング素子9がオフ状態において第1の倍圧整流回路7aの出力電圧(ベース電圧)Vaがマグネトロン12に供給されてもマグネトロン12は発振しない。一方、スイッチング素子9がオン状態において出力電圧(ベース電圧)Vaと出力電圧(制御電圧)Vbとが加算された加算電圧Va+Vbは、上述したように、マグネトロン12のカットオフ電圧VOFFを越える電圧に設定されているので、この加算電圧Va+Vbがマグネトロン12に供給されるとマグネトロン12は発振する。
【0032】
そのため、マグネトロン12からは、パルス幅変調信号入力部11に入力されるパルス幅変調用信号SPに応じて高周波パルス幅変調されたマイクロ波が出力されることになる。
【0033】
ところで、この高電圧電源装置を用いれば、マグネトロン12から高周波パルス幅変調したマイクロ波を発生させるだけでなく、CW(持続波)制御したマイクロ波を発生させることもできる。その場合には、スイッチング素子9をスイッチング領域ではなく能動領域でシリーズレギュレータとして使用するか、図3に示すように、第2の倍圧整流回路7bの出力側にスイッチング素子9と並列にスイッチ14を設けたうえでこのスイッチ14をオン状態に固定し、インバータ4でマグネトロン12の出力を制御すればよい。
【0034】
なお、上述した実施の形態では、トランス5に供給される高周波電力を作成する手段としてインバータ4を用いていたが、本発明はこのような構成に限るものではなく、この他、サイリスタの位相制御により高周波電力を作成してトランス5に供給するようにしてもよいのはいうまでもない。
【0035】
また、上述した実施の形態では、単一のトランス5の2次巻線を2分割してなる第1の2次巻線6a,および第2の2次巻線6bを設けることで、出力電圧(ベース電圧)Vaと、出力電圧(制御電圧)Vbとを作成していた。しかしながら、図4に示すように、出力電圧(ベース電圧)Va作成用のインバータ4Aおよびトランス5Aと、出力電圧(制御電圧)Vb作成用のインバータ4Bおよびトランス5Bとを、それぞれ別個に備えたうえでこれらトランス5A,5Bの2次出力を直列に接続するようにしてもよく、このように構成しても、本発明を実施することができる。なお、図4において、上述した実施の形態を説明する図1と同一ないしは同様の部分には同一の符号を付している。また、この変形例における動作は上述した実施の形態の動作と基本的には同じなので、その動作についての説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態に係る高電圧電源装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態の高電圧電源装置の各位置における出力をそれぞれ示す図である。
【図3】実施の形態の変形例を示すブロック図である。
【図4】本発明の他の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図5】従来例の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
1 交流電源
2 整流平滑部
3a ダイオード
3b コンデンサ
4 インバータ
5 トランス
6a,6b 第1,第2の2次巻線
7a,7b 第1,第2の倍圧整流回路
8 ファーストリカバリーダイオード
9 スイッチング素子
10 ドライブ回路
11 パルス幅変調信号入力部
12 マグネトロン
Va 第1の倍圧整流回路7aの出力電圧(ベース電圧)
Vb 第2の倍圧整流回路7bの出力電圧(制御電圧)
OFF カットオフ電圧
P パルス幅変調信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カットオフ電圧以上の高電圧の印加で発振動作するマグネトロンに高電圧を供給する高電圧電源装置であって、
前記カットオフ電圧以下のベース電圧を生成して前記マグネトロンに供給するベース電圧供給手段と、
前記カットオフ電圧以下で、かつ、前記ベース電圧との加算により前記カットオフ電圧以上となる制御電圧を生成して前記ベース電圧に加算する制御電圧加算手段と、
前記ベース電圧に対する前記制御電圧の加算の断続制御を行うスイッチング手段とを有し、
前記ベース電圧供給手段のベース電圧出力部は、ダイオードを介して前記マグネトロンのアノードおよび前記スイッチング手段の一端に接続されており、かつ、前記ダイオードと前記マグネトロンのアノードと前記スイッチング手段の一端との接続点がアース電位であることを特徴とする高電圧電源装置。
【請求項2】
請求項1記載の高電圧電源装置であって、
前記制御電圧を、前記スイッチング手段を構成するスイッチング素子の耐圧以下に設定することを特徴とする高電圧電源装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の高電圧電源装置であって、
交流電圧が印加される入力巻線と、前記ベース電圧生成手段の入力部に接続された一方の出力巻線と、前記制御電圧生成手段の入力部に接続された他方の出力巻線とを備えたトランスを更に有しており、
前記ベース電圧供給手段は、前記一方の出力巻線に誘起された電圧に基づいて前記ベース電圧を生成するものであり、前記制御電圧加算手段は、前記他方の出力巻線に誘起された電圧に基づいて前記制御電圧を生成するものであることを特徴とする高電圧電源装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか記載の高電圧電源装置であって、
前記ベース電圧供給手段と前記制御電圧加算手段とは、倍圧整流回路であることを特徴とする高電圧電源装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか記載の高電圧電源装置であって、
前記スイッチング素子はパルス幅変調制御されるものであることを特徴とする高電圧電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−149707(P2007−149707A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70507(P2007−70507)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【分割の表示】特願平9−326073の分割
【原出願日】平成9年11月27日(1997.11.27)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】