魚釣用スピニングリール
【課題】ピニオンギアの刷り割り断面部(非円形断面部)の強度を十分に確保しつつピニオンギアの軽量化を図ることができると同時に、ドライブギアとピニオンギアとの歯面の消耗を抑えることができる魚釣用スピニングリールを提供する。
【解決手段】本発明の魚釣用スピニングリールのピニオンギア8は、非円形断面部8cと歯部8aとの間に、非円形断面部8cの断面積よりも小さい断面積を有し且つ非円形断面部8cの断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有する領域Lを含む。
【解決手段】本発明の魚釣用スピニングリールのピニオンギア8は、非円形断面部8cと歯部8aとの間に、非円形断面部8cの断面積よりも小さい断面積を有し且つ非円形断面部8cの断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有する領域Lを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドルの回転をドライブギアからロータへ伝達するピニオンギアに特徴を有する魚釣用スピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣用スピニングリールでは、ハンドルの回転に伴ってその回転力がハンドル軸に設けられたドライブギアからピニオンギアを介してロータへ伝達されるようになっている。ピニオンギアは、例えば特許文献1に開示されるように、ハンドル軸側にドライブギアの歯部と噛み合う歯部を有するとともに、その反対側であるスプール側にロータを回り止め嵌合するための刷り割り断面部(非円形断面の回り止め部)を有する。また、ピニオンギアの先端(スプール側の端部)の外周面には、ロータの抜け止め用ナットが取り付けられるように雄ネジが形成されている。更に、前記刷り割り断面部は、ロータの逆回転を防止する一方向クラッチの内輪と回り止め嵌合するために、ピニオンギアの長手方向の中間域に至るまで連続して形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−262733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ロータおよび一方向クラッチの内輪と回り止め嵌合するピニオンギアの前記刷り割り断面部は、(ハンドルが巻けないほどの)大きなトルクに対しても回り止めできるように十分な強度を有している必要があり、そのため、十分な刷り割り幅を必要とする。また、同時に、ピニオンギアの刷り割り断面部は、スプール軸を挿通させるために所定の内径(内孔)も必要とする。ここで、ピニオンギアの外径および内径(したがって、刷り割り断面部の内径)を従来通りに維持したまま刷り割り断面部の刷り割り幅だけを大きくしようとすると、刷り割り断面部で肉厚不足(強度不足)を起こしてしまう結果となる。そのため、結局、所定の内径を確保しつつ十分な強度を得るためには、刷り割り断面部の外径を太くせざるを得なくなり、その結果、ピニオンギアが重量化してしまうという問題が生じる。
【0005】
しかしながら、その一方で、刷り割り断面部以外のピニオンギアの部位、とりわけ、ピニオンギアを回転自在に軸支するための軸受近傍のピニオンギアの部位の強度(捩じり強度、捩じり剛性など)は、従来から実際に必要な強度以上に過剰に設定されている。そのため、刷り割り断面部にかかる負荷は、ピニオンギアの途中の部位(力伝達経路)で何ら吸収されることなくそのまま直接にハンドル軸側の歯部(ドライブギアの歯部と噛み合う歯部)へと伝えられ、これらの歯部を大きく傷めてしまう。これは、特に、一方向クラッチが効かない状態で大きな衝撃負荷を受ける際に深刻である。すなわち、例えばジギングという釣種においては、ジグという重いルアーを海底から竿のシャクリ動作によって高速で巻き上げるが、このルアーに大型の魚が食い付くと、その瞬間に急激なブレーキがピニオンギアにかかる。ブレーキがかかってもロータが逆回転し始めるまでは、一方向クラッチで負荷を受けることができないため、ブレーキを伴う大きな衝撃負荷が一方向クラッチを介することなく直接に前記歯部にかかり、したがって、歯部が深刻な損傷を受ける場合がある。
【0006】
本発明は、前記事情に着目してなされたものであり、その目的とするところは、ピニオンギアの刷り割り断面部(非円形断面部)の強度を十分に確保しつつピニオンギアの軽量化を図ることができると同時に、ドライブギアとピニオンギアとの歯面の消耗を抑えることができる魚釣用スピニングリールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、リール本体に設けられたハンドルの回転に伴ってその回転力がハンドル軸に設けられたドライブギアからピニオンギアを介してロータへ伝達されることによりスプールに釣糸が巻回され、前記ピニオンギアが、前記ハンドル軸側に前記ドライブギアの歯と噛み合う歯部を有するとともに、その反対側である前記スプール側に前記ロータと回り止め嵌合するための非円形断面部を有する魚釣用スピニングリールにおいて、前記ピニオンギアは、前記非円形断面部と前記歯部との間に、前記非円形断面部の断面積よりも小さい断面積を有し且つ前記非円形断面部の断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有する領域を含むことを特徴とする。
【0008】
この請求項1に記載の発明によれば、ロータと回り止め嵌合するためのピニオンギアの非円形断面部の部位ではなく、ピニオンギアの非円形断面部と歯部との間の部位に、非円形断面部の断面積よりも小さい断面積を有する領域が設けられるため、非円形断面部の強度を損なうことなく(非円形断面部の強度を十分に確保しつつ)ピニオンギアの軽量化を図ることができる。また、前記領域は、非円形断面部の断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有するため、非円形断面部に比べて捩じり剛性が小さく、したがって、非円形断面部にかかる衝撃負荷の少なくとも一部を前記領域での微視的な捩れ変形によって吸収することができ、前記衝撃負荷をそのまま直接にハンドル軸側の歯部(ドライブギアの歯と噛み合う歯部)へと伝えないで済む。そのため、前記歯部(およびドライブギアの歯)の消耗を抑えることができる。これは、特に、スピニングリールに一般に設けられる逆転防止機構としての一方向クラッチが効かない状態で大きな衝撃負荷を受ける際に有益である。すなわち、例えばジギングという釣種においては、ジグという重いルアーを海底から竿のシャクリ動作によって高速で巻き上げるが、このルアーに大型の魚が食い付くと、その瞬間に急激なブレーキがピニオンギアにかかる。ブレーキがかかってもロータが逆回転し始めるまでは、一方向クラッチで負荷を受けることができないため、ブレーキを伴う大きな衝撃負荷が一方向クラッチを介することなく直接に前記歯部にかかり、したがって、歯部が深刻な損傷を受ける場合がある。しかしながら、上記構成の本発明によれば、前記領域によって大きな衝撃負荷を吸収できるため、歯部の損傷を防止でき、長期にわたってロータの良好な回転性能を確保できる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記非円形断面部の断面2次極モーメントをIp1とし、前記領域の断面2次極モーメントをIp2とすると、Ip2=Ip1×0.2〜0.7であることを特徴とする。
【0010】
この請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、前記領域の適度な捩じれ変形により耐衝撃効果と釣糸巻取り時の良好な感度とを得ることができる。この場合、Ip2がIp1の0.2倍未満であると、ピニオンギアの前記領域での捩じれ変形が大きくなり過ぎて、糸巻取り時の感度が低下し過ぎてしまい、一方、Ip2がIp1の0.7倍を超えると、軽量化と耐衝撃効果とのバランスが悪くなる。なお、前記領域の断面2次極モーメントは前記領域の断面形状に依存するため、Ip2=Ip1×0.2〜0.7なる関係は、前記領域の断面形状を様々に変えることにより実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の魚釣用スピニングリールによれば、ピニオンギアの刷り割り断面部(非円形断面部)の強度を十分に確保しつつピニオンギアの軽量化を図ることができると同時に、ドライブギアとピニオンギアとの歯面の消耗を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの一部断面を伴う側面図である。
【図2】図1の魚釣用スピニングリールの要部拡大断面図である。
【図3】(a)は図2のA−A線に沿う断面図、(b)は図2のB−B線に沿う断面図、(c)は図2のC−C線に沿う断面図である。
【図4】図1の魚釣用スピニングリールのピニオンギアの側面図である。
【図5】(a)は図4のピニオンギアの側断面図、(b)は(a)のD−D線に沿う断面図、(c)は(a)のE−E線に沿う断面図、(d)は(a)のF−F線に沿う断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの要部拡大断面図である。
【図7】(a)は図6のG−G線に沿う断面図、(b)は図6のH−H線に沿う断面図、(c)は図6のI−I線に沿う断面図である。
【図8】図6の魚釣用スピニングリールのピニオンギアの側面図である。
【図9】(a)は図8のピニオンギアの側断面図、(b)は(a)のJ−J線に沿う断面図、(c)は(a)のK−K線に沿う断面図、(d)は(a)のL−L線に沿う断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの要部拡大断面図である。
【図11】(a)は図10のM−M線に沿う断面図、(b)は図10のN−N線に沿う断面図、(c)は図10のO−O線に沿う断面図である。
【図12】図10の魚釣用スピニングリールのピニオンギアの側面図である。
【図13】(a)は図12のピニオンギアの側断面図、(b)は(a)のP−P線に沿う断面図、(c)は(a)のQ−Q線に沿う断面図、(d)は(a)のR−R線に沿う断面図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの要部拡大断面図である。
【図15】(a)は図14のS−S線に沿う断面図、(b)は図14のT−T線に沿う断面図、(c)は図14のU−U線に沿う断面図である。
【図16】図14の魚釣用スピニングリールのピニオンギアの側面図である。
【図17】(a)は図16のピニオンギアの側断面図、(b)は(a)のV−V線に沿う断面図、(c)は(a)のW−W線に沿う断面図、(d)は(a)のX−X線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る魚釣用スピニングリールの実施形態について具体的に説明する。
【0014】
図1〜図5は本発明の第1の実施形態に係る魚釣用スピニングリールを示している。図1に示されるように、本実施形態に係るスピニングリールのリール本体1(例えば金属から形成される)には、釣竿に装着されるリール脚2が一体形成されており、その前方には、回転可能に支持されたロータ3と、ロータ3の回転運動と同期して前後動可能に支持されたスプール4とが配設されている。
【0015】
ロータ3は、スプール4の周囲を回転する一対(図1には一方だけが図示されている)の腕部3aを備えており、各腕部3aの夫々の前端部には、ベール3bの基端部を取り付けたベール支持部材3cが釣糸巻取り位置と釣糸放出位置との間で回動自在に支持されている。なお、ベール3bの一方の基端部は、ベール支持部材3cに一体的に設けられた釣糸案内部3dに取り付けられている。
【0016】
リール本体1内には、ハンドル軸5が回転可能に支持されており、その突出端部には、ハンドル6が取り付けられている。また、ハンドル軸5には、巻き取り駆動機構が係合しており、この巻き取り駆動機構は、ハンドル軸5に一体回転可能に装着された駆動ギア(ドライブギア)7と、この駆動ギア7に噛合するピニオン歯部8aを有する共にハンドル軸5と直交する方向に延出し且つ内部に軸方向に延在する空洞部が形成された回転駆動軸としてのピニオンギア(以下、単にピニオンという)8とを備えている。
【0017】
図2に明確に示されるように、ピニオン8は、ピニオン歯部8aの前側と後側とがそれぞれ、対応する軸受9,9’により、リール本体1内に回転可能に支持されている。また、ピニオン8は、スプール4側に向けて延出しており、その先端部において、ロータ3が取り付けられている。
【0018】
また、ピニオン歯部8aの前側に配置した軸受9の前方側のピニオン8上には、転がり式一方向クラッチ10が取り付けられ(配置され)ており、後述するように切り換え部材を操作することで一方向クラッチ10を作動させ、ハンドル6(ロータ3)の釣糸繰出し方向の逆回転を防止する公知の逆転防止機構(ストッパ)を構成するようになっている。
【0019】
また、ピニオン8の先端(スプール側の端部)の外周面には、ロータ3の抜け止め用ナット98が取り付けられるように雄ネジ8bが形成されている。また、ピニオン8の内部に形成された空洞部(貫通孔)8e(図5参照)には、ハンドル軸5と直交する方向に延出し、先端側にスプール4を装着したスプール軸12が軸方向に移動可能に挿通されている。また、ピニオン8には、スプール4(スプール軸12)を前後往復動させるための公知のスプール往復動装置13が係合している。
【0020】
このような構成を有する魚釣用スピニングリールにおいて、ハンドル6により巻き取り操作を行うと、ロータ3が巻き取り駆動機構を介して回転駆動される共に、スプール4がスプール往復動装置13を介して前後往復動されるので、釣糸は、前記釣糸案内部を介してスプール4の巻回胴部4aに均等に巻回されるようになる。
【0021】
また、本実施形態において、転がり式一方向クラッチ10は、図2に明確に示されるように、ピニオン8に対して回り止め嵌合された内輪21と、内輪21の外側に配される保持器27と、保持器27の外側に配された外輪25とを有している。
【0022】
外輪25の内周面には、保持器27によって保持された複数の転動部材(コロ)28がフリーに回転できるフリー回転領域と、複数の転動部材の回転を阻止する楔領域とが形成されている。そして、このような一方向クラッチ10では、転動部材28を保持する保持器27に取り付けられた別体の切り換えレバー92をリール本体1に支持した切り換え部材93の作動部94に係合せしめ、切り換え部材93を回転操作することにより保持器27を回転させて、一方向クラッチ10の動作状態を、楔作用する作動状態と楔作用しない非作動状態とに切り換え可能となっている。
【0023】
また、本実施形態において、ピニオン8は、図2〜図5に明確に示されるように、ハンドル軸5側に駆動ギア7の歯と噛み合う前述した歯部8aを有するとともに、その反対側であるスプール4側にロータ3と回り止め嵌合するための非円形断面部8c(円形断面の両側を平面状に切り取って成る断面・・・図3の(a)および(b)参照)を有する。非円形断面部8cは、一方向クラッチ10の内輪21とも回り止め嵌合するために、ロータ3との嵌合部から内輪21のスプール4側端部付近まで軸方向に延在して形成されており(図3の(a)および(b)参照)、それよりもハンドル軸5側のピニオン8の部位は歯部8aに至るまで円形断面部8dとなっている(図3の(c)参照)。
【0024】
また、本実施形態において、ピニオン8は、その非円形断面部8cと歯部8aとの間(すなわち、円形断面部8dの部位)に、非円形断面部8cの断面積よりも小さい断面積を有し且つ非円形断面部8cの断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有する領域Lを含んでいる。特に、本実施形態において、領域Lは、図4および図5に明確に示されるように、非円形断面部8cと歯部8aとの間のピニオン8の外周面を全周にわたって切り欠いて成る環状溝91によって形成されている。つまり、領域Lは、環状溝91が形成されているピニオン8の軸方向延在部位として規定される。具体的には、非円形断面部8cの断面積は20.3(mm2)に設定され、前記領域Lの断面積は7.4(mm2)に設定されている。
【0025】
以上説明したように、本実施形態によれば、ロータ3と回り止め嵌合するためのピニオン8の非円形断面部8cの部位ではなく、ピニオン8の非円形断面部8cと歯部8aとの間の部位(円形断面部8dの部位)に、非円形断面部8cの断面積よりも小さい断面積を有する領域Lが設けられるため、非円形断面部8cの強度を損なうことなく(非円形断面部8cの強度を十分に確保しつつ)ピニオン8の軽量化を図ることができる。また、領域Lは、非円形断面部8cの断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有するため、非円形断面部8cに比べて捩じり剛性が小さく、したがって、非円形断面部8cにかかる衝撃負荷の少なくとも一部を領域Lでの微視的な捩れ変形によって吸収することができ、前記衝撃負荷をそのまま直接にハンドル軸側の歯部8a(駆動ギア7の歯と噛み合う歯部)へと伝えないで済む。そのため、歯部8a(および駆動ギア7の歯)の消耗を抑えることができる。これは、特に、一方向クラッチ10が効かない状態で大きな衝撃負荷を受ける際に有益である。すなわち、例えばジギングという釣種においては、ジグという重いルアーを海底から竿のシャクリ動作によって高速で巻き上げるが、このルアーに大型の魚が食い付くと、その瞬間に急激なブレーキがピニオン8にかかる。ブレーキがかかってもロータ3が逆回転し始めるまでは、一方向クラッチ10で負荷を受けることができないため、ブレーキを伴う大きな衝撃負荷が一方向クラッチ10を介することなく直接に歯部8aにかかり、したがって、歯部8aが深刻な損傷を受ける場合がある。しかしながら、本実施形態によれば、領域Lによって大きな衝撃負荷を吸収できるため、歯部8aの損傷を防止でき、長期にわたってロータ3の良好な回転性能を確保できる。
【0026】
なお、非円形断面部8cの断面2次極モーメントをIp1とし、領域Lの断面2次極モーメントをIp2とすると、本実施形態においては、Ip1=158(mm4)、Ip2=41(mm4)に設定されている(Ip2=Ip1×0.26)。ここで、Ip2=Ip1×0.2〜0.7であることが好ましい。これは、Ip2がIp1の0.2倍未満であると、ピニオン8の領域Lでの捩じれ変形が大きくなり過ぎて、糸巻取り時の感度が低下し過ぎてしまい、一方、Ip2がIp1の0.7倍を超えると、軽量化と耐衝撃効果とのバランスが悪くなるからである。また、領域Lの軸方向長さ(後述する第4の実施形態のように領域Lが複数存在する場合には、各領域Lの長さの総和)は、2mm〜15mmであることが好ましい。これは、2mm未満では、領域Lの前述した効果を大きくするために断面2次極モーメントを小さくする必要があり、その場合、ピニオン8自体の捩じり強度に問題が生じるからであり、一方、15mmを超えると、領域Lの周辺部材(例えば、一方向クラッチ10の内輪21)の支持が困難になる虞があるからである。なお、非円形断面部の断面2次極モーメントIp1は、図5の(b)に示すように、図心を通るx軸に関する断面2次モーメントと、図心を通るy軸に関する断面2次モーメントとを足したもので計算できる。
【0027】
図6〜図9は本発明の第2の実施形態を示している。図示のように、本実施形態において、前述した領域Lは、非円形断面部8cと歯部8aとの間のピニオン8の内周面を全周にわたって切り欠いて成る環状溝97によって形成されている。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0028】
したがって、本実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、相対的に断面2次モーメントが低下し難いため、領域Lで特に大きく断面積を減少させる場合においても、断面2次極モーメントを比較的高めに設定できる。つまり、耐衝撃効果よりもリールの巻き取り感度を重視するIp2=Ip1×0.5〜0.7という設定にしたい場合、特に有効である。また、本実施形態においては、具体的に、非円形断面部8cの断面積が20.3(mm2)に設定され、前記領域Lの断面積が10.1(mm2)に設定され、Ip1=158(mm4)、Ip2=104(mm4)に設定される(Ip2=Ip1×0.66)。
【0029】
図10〜図13は本発明の第3の実施形態を示している。図示のように、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、前記領域Lが、非円形断面部8cと歯部8aとの間のピニオン8の外周面を全周にわたって切り欠いて成る環状溝91によって形成されているが、一方向クラッチ10の保持器27と切り換えレバー92との間の取り付けが一方向クラッチ10と軸受9’との間(一方向クラッチ10の後端側(ハンドル軸5側))で行なわれ、それにより、一方向クラッチ10を第1および第2の実施形態よりもスプール4側へ移動させることにより、環状溝91の長さ(領域Lの軸方向長さ)を第1の実施形態よりも長く確保している。また、本実施形態では、図12に示されるように、ピニオン8の歯部8aが第1の実施形態よりもスプール4側に長く延在して(軸受9’による支持部位まで延びて)形成されている。このことから分かるように、本発明における領域Lは、歯の形成によって前述した要件(非円形断面部8cの断面積よりも小さい断面積を有し且つ非円形断面部8cの断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有するという要件)を満たそうとするものではなく、あくまでも、溝の形成、面取りなどによってピニオン8の断面形状を非円形断面部8cと歯部8aとの間で変化させることにより形成されるものである。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0030】
したがって、本実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、第1の実施形態よりも領域Lを長く確保できる。
【0031】
図14〜図17は本発明の第4の実施形態を示している。図示のように、本実施形態では、第3の実施形態と同様に、前記領域Lが、非円形断面部8cと歯部8aとの間のピニオン8の外周面を全周にわたって切り欠いて成る環状溝91によって形成されているが、環状溝91がピニオン8の軸方向に互いに離間して2つ設けられている。すなわち、ピニオン8の軸方向に離間する2つの環状溝91,91によって領域Lが形成されている。この場合、環状溝91の数は2つに限らない。また、領域Lはそれぞれの環状溝91,91によって個別に形成される。なお、それ以外の構成は第3の実施形態と同一である。
【0032】
したがって、本実施形態においても第3の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、環状溝91,91間の円形断面部位100が一方向クラッチ10の内輪21の安定化に役立ち、有益である。
【符号の説明】
【0033】
1 リール本体
3 ロータ
4 スプール
5 ハンドル軸
6 ハンドル
7 駆動ギア(ドライブギア)
8 ピニオンギア
8a 歯部
8c 非円形断面部
L 領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドルの回転をドライブギアからロータへ伝達するピニオンギアに特徴を有する魚釣用スピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣用スピニングリールでは、ハンドルの回転に伴ってその回転力がハンドル軸に設けられたドライブギアからピニオンギアを介してロータへ伝達されるようになっている。ピニオンギアは、例えば特許文献1に開示されるように、ハンドル軸側にドライブギアの歯部と噛み合う歯部を有するとともに、その反対側であるスプール側にロータを回り止め嵌合するための刷り割り断面部(非円形断面の回り止め部)を有する。また、ピニオンギアの先端(スプール側の端部)の外周面には、ロータの抜け止め用ナットが取り付けられるように雄ネジが形成されている。更に、前記刷り割り断面部は、ロータの逆回転を防止する一方向クラッチの内輪と回り止め嵌合するために、ピニオンギアの長手方向の中間域に至るまで連続して形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−262733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ロータおよび一方向クラッチの内輪と回り止め嵌合するピニオンギアの前記刷り割り断面部は、(ハンドルが巻けないほどの)大きなトルクに対しても回り止めできるように十分な強度を有している必要があり、そのため、十分な刷り割り幅を必要とする。また、同時に、ピニオンギアの刷り割り断面部は、スプール軸を挿通させるために所定の内径(内孔)も必要とする。ここで、ピニオンギアの外径および内径(したがって、刷り割り断面部の内径)を従来通りに維持したまま刷り割り断面部の刷り割り幅だけを大きくしようとすると、刷り割り断面部で肉厚不足(強度不足)を起こしてしまう結果となる。そのため、結局、所定の内径を確保しつつ十分な強度を得るためには、刷り割り断面部の外径を太くせざるを得なくなり、その結果、ピニオンギアが重量化してしまうという問題が生じる。
【0005】
しかしながら、その一方で、刷り割り断面部以外のピニオンギアの部位、とりわけ、ピニオンギアを回転自在に軸支するための軸受近傍のピニオンギアの部位の強度(捩じり強度、捩じり剛性など)は、従来から実際に必要な強度以上に過剰に設定されている。そのため、刷り割り断面部にかかる負荷は、ピニオンギアの途中の部位(力伝達経路)で何ら吸収されることなくそのまま直接にハンドル軸側の歯部(ドライブギアの歯部と噛み合う歯部)へと伝えられ、これらの歯部を大きく傷めてしまう。これは、特に、一方向クラッチが効かない状態で大きな衝撃負荷を受ける際に深刻である。すなわち、例えばジギングという釣種においては、ジグという重いルアーを海底から竿のシャクリ動作によって高速で巻き上げるが、このルアーに大型の魚が食い付くと、その瞬間に急激なブレーキがピニオンギアにかかる。ブレーキがかかってもロータが逆回転し始めるまでは、一方向クラッチで負荷を受けることができないため、ブレーキを伴う大きな衝撃負荷が一方向クラッチを介することなく直接に前記歯部にかかり、したがって、歯部が深刻な損傷を受ける場合がある。
【0006】
本発明は、前記事情に着目してなされたものであり、その目的とするところは、ピニオンギアの刷り割り断面部(非円形断面部)の強度を十分に確保しつつピニオンギアの軽量化を図ることができると同時に、ドライブギアとピニオンギアとの歯面の消耗を抑えることができる魚釣用スピニングリールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、リール本体に設けられたハンドルの回転に伴ってその回転力がハンドル軸に設けられたドライブギアからピニオンギアを介してロータへ伝達されることによりスプールに釣糸が巻回され、前記ピニオンギアが、前記ハンドル軸側に前記ドライブギアの歯と噛み合う歯部を有するとともに、その反対側である前記スプール側に前記ロータと回り止め嵌合するための非円形断面部を有する魚釣用スピニングリールにおいて、前記ピニオンギアは、前記非円形断面部と前記歯部との間に、前記非円形断面部の断面積よりも小さい断面積を有し且つ前記非円形断面部の断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有する領域を含むことを特徴とする。
【0008】
この請求項1に記載の発明によれば、ロータと回り止め嵌合するためのピニオンギアの非円形断面部の部位ではなく、ピニオンギアの非円形断面部と歯部との間の部位に、非円形断面部の断面積よりも小さい断面積を有する領域が設けられるため、非円形断面部の強度を損なうことなく(非円形断面部の強度を十分に確保しつつ)ピニオンギアの軽量化を図ることができる。また、前記領域は、非円形断面部の断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有するため、非円形断面部に比べて捩じり剛性が小さく、したがって、非円形断面部にかかる衝撃負荷の少なくとも一部を前記領域での微視的な捩れ変形によって吸収することができ、前記衝撃負荷をそのまま直接にハンドル軸側の歯部(ドライブギアの歯と噛み合う歯部)へと伝えないで済む。そのため、前記歯部(およびドライブギアの歯)の消耗を抑えることができる。これは、特に、スピニングリールに一般に設けられる逆転防止機構としての一方向クラッチが効かない状態で大きな衝撃負荷を受ける際に有益である。すなわち、例えばジギングという釣種においては、ジグという重いルアーを海底から竿のシャクリ動作によって高速で巻き上げるが、このルアーに大型の魚が食い付くと、その瞬間に急激なブレーキがピニオンギアにかかる。ブレーキがかかってもロータが逆回転し始めるまでは、一方向クラッチで負荷を受けることができないため、ブレーキを伴う大きな衝撃負荷が一方向クラッチを介することなく直接に前記歯部にかかり、したがって、歯部が深刻な損傷を受ける場合がある。しかしながら、上記構成の本発明によれば、前記領域によって大きな衝撃負荷を吸収できるため、歯部の損傷を防止でき、長期にわたってロータの良好な回転性能を確保できる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記非円形断面部の断面2次極モーメントをIp1とし、前記領域の断面2次極モーメントをIp2とすると、Ip2=Ip1×0.2〜0.7であることを特徴とする。
【0010】
この請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、前記領域の適度な捩じれ変形により耐衝撃効果と釣糸巻取り時の良好な感度とを得ることができる。この場合、Ip2がIp1の0.2倍未満であると、ピニオンギアの前記領域での捩じれ変形が大きくなり過ぎて、糸巻取り時の感度が低下し過ぎてしまい、一方、Ip2がIp1の0.7倍を超えると、軽量化と耐衝撃効果とのバランスが悪くなる。なお、前記領域の断面2次極モーメントは前記領域の断面形状に依存するため、Ip2=Ip1×0.2〜0.7なる関係は、前記領域の断面形状を様々に変えることにより実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の魚釣用スピニングリールによれば、ピニオンギアの刷り割り断面部(非円形断面部)の強度を十分に確保しつつピニオンギアの軽量化を図ることができると同時に、ドライブギアとピニオンギアとの歯面の消耗を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの一部断面を伴う側面図である。
【図2】図1の魚釣用スピニングリールの要部拡大断面図である。
【図3】(a)は図2のA−A線に沿う断面図、(b)は図2のB−B線に沿う断面図、(c)は図2のC−C線に沿う断面図である。
【図4】図1の魚釣用スピニングリールのピニオンギアの側面図である。
【図5】(a)は図4のピニオンギアの側断面図、(b)は(a)のD−D線に沿う断面図、(c)は(a)のE−E線に沿う断面図、(d)は(a)のF−F線に沿う断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの要部拡大断面図である。
【図7】(a)は図6のG−G線に沿う断面図、(b)は図6のH−H線に沿う断面図、(c)は図6のI−I線に沿う断面図である。
【図8】図6の魚釣用スピニングリールのピニオンギアの側面図である。
【図9】(a)は図8のピニオンギアの側断面図、(b)は(a)のJ−J線に沿う断面図、(c)は(a)のK−K線に沿う断面図、(d)は(a)のL−L線に沿う断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの要部拡大断面図である。
【図11】(a)は図10のM−M線に沿う断面図、(b)は図10のN−N線に沿う断面図、(c)は図10のO−O線に沿う断面図である。
【図12】図10の魚釣用スピニングリールのピニオンギアの側面図である。
【図13】(a)は図12のピニオンギアの側断面図、(b)は(a)のP−P線に沿う断面図、(c)は(a)のQ−Q線に沿う断面図、(d)は(a)のR−R線に沿う断面図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの要部拡大断面図である。
【図15】(a)は図14のS−S線に沿う断面図、(b)は図14のT−T線に沿う断面図、(c)は図14のU−U線に沿う断面図である。
【図16】図14の魚釣用スピニングリールのピニオンギアの側面図である。
【図17】(a)は図16のピニオンギアの側断面図、(b)は(a)のV−V線に沿う断面図、(c)は(a)のW−W線に沿う断面図、(d)は(a)のX−X線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る魚釣用スピニングリールの実施形態について具体的に説明する。
【0014】
図1〜図5は本発明の第1の実施形態に係る魚釣用スピニングリールを示している。図1に示されるように、本実施形態に係るスピニングリールのリール本体1(例えば金属から形成される)には、釣竿に装着されるリール脚2が一体形成されており、その前方には、回転可能に支持されたロータ3と、ロータ3の回転運動と同期して前後動可能に支持されたスプール4とが配設されている。
【0015】
ロータ3は、スプール4の周囲を回転する一対(図1には一方だけが図示されている)の腕部3aを備えており、各腕部3aの夫々の前端部には、ベール3bの基端部を取り付けたベール支持部材3cが釣糸巻取り位置と釣糸放出位置との間で回動自在に支持されている。なお、ベール3bの一方の基端部は、ベール支持部材3cに一体的に設けられた釣糸案内部3dに取り付けられている。
【0016】
リール本体1内には、ハンドル軸5が回転可能に支持されており、その突出端部には、ハンドル6が取り付けられている。また、ハンドル軸5には、巻き取り駆動機構が係合しており、この巻き取り駆動機構は、ハンドル軸5に一体回転可能に装着された駆動ギア(ドライブギア)7と、この駆動ギア7に噛合するピニオン歯部8aを有する共にハンドル軸5と直交する方向に延出し且つ内部に軸方向に延在する空洞部が形成された回転駆動軸としてのピニオンギア(以下、単にピニオンという)8とを備えている。
【0017】
図2に明確に示されるように、ピニオン8は、ピニオン歯部8aの前側と後側とがそれぞれ、対応する軸受9,9’により、リール本体1内に回転可能に支持されている。また、ピニオン8は、スプール4側に向けて延出しており、その先端部において、ロータ3が取り付けられている。
【0018】
また、ピニオン歯部8aの前側に配置した軸受9の前方側のピニオン8上には、転がり式一方向クラッチ10が取り付けられ(配置され)ており、後述するように切り換え部材を操作することで一方向クラッチ10を作動させ、ハンドル6(ロータ3)の釣糸繰出し方向の逆回転を防止する公知の逆転防止機構(ストッパ)を構成するようになっている。
【0019】
また、ピニオン8の先端(スプール側の端部)の外周面には、ロータ3の抜け止め用ナット98が取り付けられるように雄ネジ8bが形成されている。また、ピニオン8の内部に形成された空洞部(貫通孔)8e(図5参照)には、ハンドル軸5と直交する方向に延出し、先端側にスプール4を装着したスプール軸12が軸方向に移動可能に挿通されている。また、ピニオン8には、スプール4(スプール軸12)を前後往復動させるための公知のスプール往復動装置13が係合している。
【0020】
このような構成を有する魚釣用スピニングリールにおいて、ハンドル6により巻き取り操作を行うと、ロータ3が巻き取り駆動機構を介して回転駆動される共に、スプール4がスプール往復動装置13を介して前後往復動されるので、釣糸は、前記釣糸案内部を介してスプール4の巻回胴部4aに均等に巻回されるようになる。
【0021】
また、本実施形態において、転がり式一方向クラッチ10は、図2に明確に示されるように、ピニオン8に対して回り止め嵌合された内輪21と、内輪21の外側に配される保持器27と、保持器27の外側に配された外輪25とを有している。
【0022】
外輪25の内周面には、保持器27によって保持された複数の転動部材(コロ)28がフリーに回転できるフリー回転領域と、複数の転動部材の回転を阻止する楔領域とが形成されている。そして、このような一方向クラッチ10では、転動部材28を保持する保持器27に取り付けられた別体の切り換えレバー92をリール本体1に支持した切り換え部材93の作動部94に係合せしめ、切り換え部材93を回転操作することにより保持器27を回転させて、一方向クラッチ10の動作状態を、楔作用する作動状態と楔作用しない非作動状態とに切り換え可能となっている。
【0023】
また、本実施形態において、ピニオン8は、図2〜図5に明確に示されるように、ハンドル軸5側に駆動ギア7の歯と噛み合う前述した歯部8aを有するとともに、その反対側であるスプール4側にロータ3と回り止め嵌合するための非円形断面部8c(円形断面の両側を平面状に切り取って成る断面・・・図3の(a)および(b)参照)を有する。非円形断面部8cは、一方向クラッチ10の内輪21とも回り止め嵌合するために、ロータ3との嵌合部から内輪21のスプール4側端部付近まで軸方向に延在して形成されており(図3の(a)および(b)参照)、それよりもハンドル軸5側のピニオン8の部位は歯部8aに至るまで円形断面部8dとなっている(図3の(c)参照)。
【0024】
また、本実施形態において、ピニオン8は、その非円形断面部8cと歯部8aとの間(すなわち、円形断面部8dの部位)に、非円形断面部8cの断面積よりも小さい断面積を有し且つ非円形断面部8cの断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有する領域Lを含んでいる。特に、本実施形態において、領域Lは、図4および図5に明確に示されるように、非円形断面部8cと歯部8aとの間のピニオン8の外周面を全周にわたって切り欠いて成る環状溝91によって形成されている。つまり、領域Lは、環状溝91が形成されているピニオン8の軸方向延在部位として規定される。具体的には、非円形断面部8cの断面積は20.3(mm2)に設定され、前記領域Lの断面積は7.4(mm2)に設定されている。
【0025】
以上説明したように、本実施形態によれば、ロータ3と回り止め嵌合するためのピニオン8の非円形断面部8cの部位ではなく、ピニオン8の非円形断面部8cと歯部8aとの間の部位(円形断面部8dの部位)に、非円形断面部8cの断面積よりも小さい断面積を有する領域Lが設けられるため、非円形断面部8cの強度を損なうことなく(非円形断面部8cの強度を十分に確保しつつ)ピニオン8の軽量化を図ることができる。また、領域Lは、非円形断面部8cの断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有するため、非円形断面部8cに比べて捩じり剛性が小さく、したがって、非円形断面部8cにかかる衝撃負荷の少なくとも一部を領域Lでの微視的な捩れ変形によって吸収することができ、前記衝撃負荷をそのまま直接にハンドル軸側の歯部8a(駆動ギア7の歯と噛み合う歯部)へと伝えないで済む。そのため、歯部8a(および駆動ギア7の歯)の消耗を抑えることができる。これは、特に、一方向クラッチ10が効かない状態で大きな衝撃負荷を受ける際に有益である。すなわち、例えばジギングという釣種においては、ジグという重いルアーを海底から竿のシャクリ動作によって高速で巻き上げるが、このルアーに大型の魚が食い付くと、その瞬間に急激なブレーキがピニオン8にかかる。ブレーキがかかってもロータ3が逆回転し始めるまでは、一方向クラッチ10で負荷を受けることができないため、ブレーキを伴う大きな衝撃負荷が一方向クラッチ10を介することなく直接に歯部8aにかかり、したがって、歯部8aが深刻な損傷を受ける場合がある。しかしながら、本実施形態によれば、領域Lによって大きな衝撃負荷を吸収できるため、歯部8aの損傷を防止でき、長期にわたってロータ3の良好な回転性能を確保できる。
【0026】
なお、非円形断面部8cの断面2次極モーメントをIp1とし、領域Lの断面2次極モーメントをIp2とすると、本実施形態においては、Ip1=158(mm4)、Ip2=41(mm4)に設定されている(Ip2=Ip1×0.26)。ここで、Ip2=Ip1×0.2〜0.7であることが好ましい。これは、Ip2がIp1の0.2倍未満であると、ピニオン8の領域Lでの捩じれ変形が大きくなり過ぎて、糸巻取り時の感度が低下し過ぎてしまい、一方、Ip2がIp1の0.7倍を超えると、軽量化と耐衝撃効果とのバランスが悪くなるからである。また、領域Lの軸方向長さ(後述する第4の実施形態のように領域Lが複数存在する場合には、各領域Lの長さの総和)は、2mm〜15mmであることが好ましい。これは、2mm未満では、領域Lの前述した効果を大きくするために断面2次極モーメントを小さくする必要があり、その場合、ピニオン8自体の捩じり強度に問題が生じるからであり、一方、15mmを超えると、領域Lの周辺部材(例えば、一方向クラッチ10の内輪21)の支持が困難になる虞があるからである。なお、非円形断面部の断面2次極モーメントIp1は、図5の(b)に示すように、図心を通るx軸に関する断面2次モーメントと、図心を通るy軸に関する断面2次モーメントとを足したもので計算できる。
【0027】
図6〜図9は本発明の第2の実施形態を示している。図示のように、本実施形態において、前述した領域Lは、非円形断面部8cと歯部8aとの間のピニオン8の内周面を全周にわたって切り欠いて成る環状溝97によって形成されている。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0028】
したがって、本実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、相対的に断面2次モーメントが低下し難いため、領域Lで特に大きく断面積を減少させる場合においても、断面2次極モーメントを比較的高めに設定できる。つまり、耐衝撃効果よりもリールの巻き取り感度を重視するIp2=Ip1×0.5〜0.7という設定にしたい場合、特に有効である。また、本実施形態においては、具体的に、非円形断面部8cの断面積が20.3(mm2)に設定され、前記領域Lの断面積が10.1(mm2)に設定され、Ip1=158(mm4)、Ip2=104(mm4)に設定される(Ip2=Ip1×0.66)。
【0029】
図10〜図13は本発明の第3の実施形態を示している。図示のように、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、前記領域Lが、非円形断面部8cと歯部8aとの間のピニオン8の外周面を全周にわたって切り欠いて成る環状溝91によって形成されているが、一方向クラッチ10の保持器27と切り換えレバー92との間の取り付けが一方向クラッチ10と軸受9’との間(一方向クラッチ10の後端側(ハンドル軸5側))で行なわれ、それにより、一方向クラッチ10を第1および第2の実施形態よりもスプール4側へ移動させることにより、環状溝91の長さ(領域Lの軸方向長さ)を第1の実施形態よりも長く確保している。また、本実施形態では、図12に示されるように、ピニオン8の歯部8aが第1の実施形態よりもスプール4側に長く延在して(軸受9’による支持部位まで延びて)形成されている。このことから分かるように、本発明における領域Lは、歯の形成によって前述した要件(非円形断面部8cの断面積よりも小さい断面積を有し且つ非円形断面部8cの断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有するという要件)を満たそうとするものではなく、あくまでも、溝の形成、面取りなどによってピニオン8の断面形状を非円形断面部8cと歯部8aとの間で変化させることにより形成されるものである。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0030】
したがって、本実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、第1の実施形態よりも領域Lを長く確保できる。
【0031】
図14〜図17は本発明の第4の実施形態を示している。図示のように、本実施形態では、第3の実施形態と同様に、前記領域Lが、非円形断面部8cと歯部8aとの間のピニオン8の外周面を全周にわたって切り欠いて成る環状溝91によって形成されているが、環状溝91がピニオン8の軸方向に互いに離間して2つ設けられている。すなわち、ピニオン8の軸方向に離間する2つの環状溝91,91によって領域Lが形成されている。この場合、環状溝91の数は2つに限らない。また、領域Lはそれぞれの環状溝91,91によって個別に形成される。なお、それ以外の構成は第3の実施形態と同一である。
【0032】
したがって、本実施形態においても第3の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、環状溝91,91間の円形断面部位100が一方向クラッチ10の内輪21の安定化に役立ち、有益である。
【符号の説明】
【0033】
1 リール本体
3 ロータ
4 スプール
5 ハンドル軸
6 ハンドル
7 駆動ギア(ドライブギア)
8 ピニオンギア
8a 歯部
8c 非円形断面部
L 領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に設けられたハンドルの回転に伴ってその回転力がハンドル軸に設けられたドライブギアからピニオンギアを介してロータへ伝達されることによりスプールに釣糸が巻回され、前記ピニオンギアが、前記ハンドル軸側に前記ドライブギアの歯と噛み合う歯部を有するとともに、その反対側である前記スプール側に前記ロータと回り止め嵌合するための非円形断面部を有する魚釣用スピニングリールにおいて、
前記ピニオンギアは、前記非円形断面部と前記歯部との間に、前記非円形断面部の断面積よりも小さい断面積を有し且つ前記非円形断面部の断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有する領域を含むことを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
前記非円形断面部の断面2次極モーメントをIp1とし、前記領域の断面2次極モーメントをIp2とすると、
Ip2=Ip1×0.2〜0.7
であることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。
【請求項1】
リール本体に設けられたハンドルの回転に伴ってその回転力がハンドル軸に設けられたドライブギアからピニオンギアを介してロータへ伝達されることによりスプールに釣糸が巻回され、前記ピニオンギアが、前記ハンドル軸側に前記ドライブギアの歯と噛み合う歯部を有するとともに、その反対側である前記スプール側に前記ロータと回り止め嵌合するための非円形断面部を有する魚釣用スピニングリールにおいて、
前記ピニオンギアは、前記非円形断面部と前記歯部との間に、前記非円形断面部の断面積よりも小さい断面積を有し且つ前記非円形断面部の断面2次極モーメントよりも小さい断面2次極モーメントを有する領域を含むことを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
前記非円形断面部の断面2次極モーメントをIp1とし、前記領域の断面2次極モーメントをIp2とすると、
Ip2=Ip1×0.2〜0.7
であることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−200151(P2012−200151A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64300(P2011−64300)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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