説明

魚釣用リールの構成部材

【課題】操作性を向上させる形状や把持時のフィット感を与える形状を実現しつつ、実際の使用において剛性バランスが良いと感じられ得る魚釣用リールの構成部材を提供する。
【解決手段】本発明は、扁平形状の断面を有する長手方向に延在する魚釣用リールの構成部材1Aであって、その長手方向に対して略垂直な方向で切断した断面の強軸に関する断面2次モーメントをImax、Imaxと同方向の曲げ剛性をEI1、前記断面の弱軸に関する断面2次モーメントをImin、Iminと同方向の曲げ剛性をEI2とすると、少なくともImin/Imaxが最小である部分において、EI2/EI1≠Imin/Imaxの関係が成り立つことを特徴とする。断面は、構成材料が互いに異なる複数の層10,12,14を積層して成り、強軸m方向の積層数と弱軸n方向の積層数とが互いに異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スピニングリールのリール脚、ハンドル、レバーブレーキのレバーのような魚釣用リールの構成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
上記したような魚釣用リールの構成部材として、軽量化を図るべく繊維強化樹脂を用いて補強することが知られている。例えば、特許文献1には、リール本体を熱可塑性合成樹脂でインジェクション成形すると共に、所定位置(リール取付脚)の周面に熱硬化性樹脂含浸の繊維補強層を形成した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭57−18362号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に開示されている技術によれば、繊維補強層によって補強効果が得られるものの、全方向に補強されるため、その断面(リール取付脚の断面)の形状で剛性値の方向性が決定されてしまう。
【0005】
人は、一般に、例えば扁平断面のレバーを操作する際、縦方向の剛性と横方向の剛性とを相対的に感じるため、剛性が低い方向の剛性値の絶対値を大きくしても、相対的に剛性の低い方向については、「しっかりしていない」と感じてしまう。そのため、特に、操作性を向上させた形状や把持時のフィット感を与える形状を提供するために、断面を極端な扁平形状にして、強軸(構造力学上、断面2次モーメントが最大となる軸)および弱軸(構造力学上、断面2次モーメントが最小となる軸)に関する断面2次モーメントの差が大きくなり過ぎてしまう場合には、相対的に剛性の低い方向について「しっかりしていない」と感じられる場合がある。
【0006】
すなわち、魚釣用リールの構成部材においては、従来から、操作性を向上させる形状と、剛性が高い或いは剛性バランスが良いと感じられる「しっかり感」とを両立させることが困難であった。
【0007】
本発明は、前記事情に着目してなされたものであり、その目的とするところは、操作性を向上させる形状や把持時のフィット感を与える形状を実現しつつ、実際の使用において剛性バランスが良いと感じられ得る魚釣用リールの構成部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、扁平形状の断面を有する長手方向に延在する魚釣用リールの構成部材であって、その長手方向に対して略垂直な方向で切断した断面の強軸に関する断面2次モーメントをImax、Imaxと同方向の曲げ剛性をEI1、前記断面の弱軸に関する断面2次モーメントをImin、Iminと同方向の曲げ剛性をEI2とすると、少なくともImin/Imaxが最小である部分において、EI2/EI1≠Imin/Imaxの関係が成り立つことを特徴とする。
この請求項1に記載の発明によれば、EI2/EI1≠Imin/Imaxの関係を前提とすることにより、すなわち、形状に依存する強軸・弱軸に関する断面2次モーメントの比率とこれらの断面2次モーメントと同方向の曲げ剛性の比率との間の一致関係を排除することにより、形状と剛性とをそれぞれ独立して設計できるようになるため、操作性を向上させる形状や把持時のフィット感を与える形状を実現しつつ、その形状部位に必要な剛性を方向に応じて配分して、実際の使用において剛性バランスが良いと人に感じさせることができる(不快な振動、剛性不足による「しっかり感」不足を排除できる)。なお、上記構成において、所定の方法で選定される「Imin/Imaxが最小である部分」は、構成部材の形態に応じて、長手方向において1箇所存在し、あるいは、所定の長手方向範囲にわたって存在する場合もある。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、EI2/EI1>Imin/Imaxの関係が成り立つことを特徴とする。
この請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、リール脚やレバーなど、扁平断面の薄い方向の剛性を集中的に高めることが可能になる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記断面は、構成材料が互いに異なる複数の層を積層して成り、前記強軸方向の積層数と前記弱軸方向の積層数とが互いに異なることを特徴とする。
この請求項3に記載の発明によれば、請求項1または請求項2に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、断面を材料の異なる複数の層で構成するため、EI2/EI1≠Imin/Imax(または、EI2/EI1>Imin/Imax)の関係を成り立たせる設計の自由度を大きくすることができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記断面は、構成材料が互いに異なる複数の層を積層して成るとともに、各層の前記長手方向における引張弾性率が互いに異なり、最も内側の最内層を構成する材料の前記長手方向における引張弾性率および比重をそれぞれEinおよびρinとし、最内層よりも外側に位置される外層を構成する材料の前記長手方向における引張弾性率および比重をそれぞれEoutおよびρoutとすると、Eout/ρout>Ein/ρinの関係が成り立つことを特徴とする。
【0012】
この請求項4に記載の発明によれば、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、特に断面2次モーメントへの影響が大きい外層における材料の比重に対する引張弾性率の比率を、最内層における材料の比重に対する引張弾性率の比率よりも大きくすることにより、重量を考慮しながら(軽量化を図りながら)EI2/EI1≠Imin/Imax(または、EI2/EI1>Imin/Imax)の関係を成り立たせることができる。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記断面は、構成材料が互いに異なる複数の層を積層して成るとともに、各層の前記長手方向における引張弾性率が互いに異なり、最も内側の最内層を構成する材料の前記長手方向における引張強度および比重をそれぞれσinおよびρinとし、最内層よりも外側に位置される外層を構成する材料の前記長手方向における引張強度および比重をそれぞれσoutおよびρoutとすると、σout/ρout>σin/ρinの関係が成り立つことを特徴とする。
【0014】
この請求項5に記載の発明によれば、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、特に断面2次モーメントへの影響が大きい外層における材料の比重に対する引張強度の比率を、最内層における材料の比重に対する引張強度の比率よりも大きくすることにより、重量を考慮しながら(軽量化を図りながら)EI2/EI1≠Imin/Imax(または、EI2/EI1>Imin/Imax)の関係を成り立たせることができるとともに、強度の向上を図ることもできる(強度が一定でも断面を小さくできる)。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4または請求項5に記載の発明において、前記外層を構成する材料は、カーボン長繊維をマトリクス樹脂中に含浸して成る繊維強化樹脂であることを特徴とする。
【0016】
この請求項6に記載の発明によれば、請求項4または請求項5に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、カーボン長繊維によって補強される樹脂を外層に使用するため、比剛性および比強度に優れたリール構成部材を実現できる。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、構成部材は、平均繊維長さが1.0mm〜10.0mmのカーボンの短繊維をマトリクス樹脂に含浸した繊維強化樹脂によって成形され、前記断面は、内層と、前記長手方向に指向する繊維の比率が前記内層よりも高い外層とから成り、前記外層の前記強軸方向の肉厚と前記弱軸方向の肉厚とが異なることを特徴とする。
【0018】
この請求項7に記載の発明によれば、請求項1または請求項2に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、カーボン繊維強化樹脂を外層に使用するため、比剛性および比強度に優れたリール構成部材を実現できる上、1回の成型で生産でき、生産性が高い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、操作性を向上させる形状や把持時のフィット感を与える形状を実現しつつ、実際の使用において剛性バランスが良いと感じられ得る魚釣用リールの構成部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る構成部材を含む魚釣用リールの側面図である。
【図2】(a)は図1に示される魚釣用リールのリール脚のA−A線に沿う断面図、(b)は(a)のリール脚を製造するための第1の工程時の断面図、(c)は(a)のリール脚を製造するための第2の工程時の断面図、(d)は(a)のリール脚を製造するための第3の工程時の断面図、(e)は(a)のリール脚を製造するための第4の工程時の断面図、(f)は(a)のリール脚を製造するための第5の工程時の断面図である。
【図3】(a)は図1に示される魚釣用リールのリール脚の第1の変形例のA−A線に沿う断面図、(b)は(a)のリール脚を製造するための第1の工程時の断面図、(c)は(a)のリール脚を製造するための第2の工程時の断面図、(d)は(a)のリール脚を製造するための第3の工程時の断面図、(e)は(a)のリール脚を製造するための第4の工程時の断面図である。
【図4】(a)は図1に示される魚釣用リールのリール脚の第2の変形例のA−A線に沿う断面図、(b)は(a)のリール脚を製造するための第1の工程時の断面図、(c)は(a)のリール脚を製造するための第2の工程時の断面図、(d)は(a)のリール脚を製造するための第3の工程時の断面図である。
【図5】図1に示す魚釣用リールのレバーを示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は裏面図である。
【図6】(a)は図5の(b)のB−B線に沿う断面図、(b)は(a)のP部の要部拡大図、(c)は(a)のQ部の要部拡大図である。
【図7】図1に示す魚釣用リールのハンドルを示す図であり、(a)は側面図、(b)は上面図、(c)は裏面図である。
【図8】図7の(b)のC−C線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明に係る魚釣用リールの構成部材の実施形態について説明する。なお、以下では、魚釣用リールを、一般的に知られているレバーブレーキタイプのスピニングリールとして例示し、構成部材を、リール脚、ロータブレーキを作動させるレバー、ハンドルとして説明する。
【0022】
図1には、本発明の一実施形態に係る構成部材を含む魚釣用リールが示されている。図示のように、魚釣用リールのリール本体1には、釣糸案内部(図示せず)を具備し回転駆動されるロータ3と、ロータ3の回転駆動と同期して前後動されるスプール4が設けられている。
【0023】
リール本体1内には、ハンドル軸が軸受を介して回転可能に支持されており、ハンドル軸の端部には、巻き取り操作されるハンドル5が装着されている。また、前記リール本体1には、釣竿に固定されるリール脚1Aが一体形成されると共に、リール脚1Aに対して牽引操作が可能なレバー7が回動可能に装着されており、レバー7を牽引操作することで、前記ロータ3の回転に制動力を付与することが可能となっている。
【0024】
なお、上記構成において、リール脚1A、ハンドル5、および、レバー7はいずれも、魚釣用リールの構成部材となる。
上記構成において、魚釣用リールの構成部材であるリール脚1Aは、扁平形状の断面を有して長手方向に延在するとともに、釣竿に対してリール本体1を支えつつ、一般にリールを握持する手の指間で挟持される部分であることから、操作性を向上させる形状や把持時のフィット感を与える形状を実現しつつ、実際の使用において剛性が高い或いは剛性バランスが良いと感じられなければならない。そのため、本実施形態のリール脚1Aは、例えば図2に示される断面形態を有する。なお、リール脚1Aとは、図1に示されるように、釣竿のリール取付部(リールシート;図示せず)に載置される水平な載置部9へと移行するために垂直方向から湾曲し始める直前のリール脚1Aの上端境界部P(湾曲Rの終点)と、リール本体1とリール脚1Aとの接続部であるリール脚1Aの下端境界部Qとによって長手方向範囲が画定される部分Sを言う。
【0025】
図2の(a)に示される断面は、扁平形状の断面を有するリール脚1Aをその長手方向に対して略垂直な方向で切断した断面の1つであり、該断面の強軸に関する断面2次モーメントをImax、Imaxと同方向の曲げ剛性をEI1(Eはヤング率)、前記断面の弱軸に関する断面2次モーメントをImin、Iminと同方向の曲げ剛性をEI2とすると、Imin/Imaxが最小となる部分である。そして、この断面は、少なくとも、EI2/EI1≠Imin/Imaxの関係、特にEI2/EI1>Imin/Imaxの関係が成立するように構成されている。なお、前述したが、強軸とは、構造力学上、断面2次モーメントが最大となる軸のことであり、また、弱軸とは、構造力学上、断面2次モーメントが最小となる軸のことである。また、図1および図2には、断面の方向を規定するため、リールの前後方向が矢印で示されている。
【0026】
上記関係式を成り立たせるための具体的な手段として、図2の例において、断面は、構成材料が互いに異なる複数の層10,12,14を積層して成り、強軸m方向の積層数(この例では、層10,12,14の3層)と弱軸n方向の積層数(この例では、層10,12の2層)とが互いに異なっている(強軸m方向の積層数が弱軸n方向の積層数よりも多い)。
【0027】
より具体的には、図2に示されるリール脚1Aの断面は、図心Gを含む最も内側の最内層10と、最内層10の外周を部分的に取り囲む第1の外層12と、最内層10および第1の外層12を部分的に取り囲む第2の外層14とから成る。最内層10を構成する材料は、例えばABS、ポリアミド、ポリカーボネートなどの樹脂またはFRPであり、カーボン繊維またはガラス繊維の短繊維が含浸されていても良い。また、最内層10の構成材料は、アルミ合金(例えば、ダイキャスト用材料であるADC12など)であっても良い。一方、外層12,14を構成する材料は、例えば、カーボン長繊維をマトリクス樹脂中に含浸して成る繊維強化樹脂であり、カーボンの長繊維を長手方向および長手方向に対して垂直な方向に指向させることが容易である。織布状のカーボンプリプレグ層である東レ社のトレカクロス(品番CO6151BまたはCO6343B)が好ましい。カーボン長繊維のプリプレグを用いると、高いヤング率が得られ且つ積層数の厚みを容易に調整でき有益である。なお、長手方向に繊維を指向させた一方向繊維のプリプレグを用いても良い。明確にするため、図1および図7には、プリプレグ巻回部にドット模様が施されている。
【0028】
この図2の例の断面構成において、上記した関係式(EI2/EI1≠Imin/ImaxまたはEI2/EI1>Imin/Imax)を満たす具体的な数値を挙げると、例えば、最内層10の構成材料がABS樹脂であり、外層12,14の構成材料が前記トレカクロスCO6151Bである場合、EI2=5367N・m、EI1=8475N・m、Imin=512mm、Imax=1152mmとなり、EI2/EI1>Imin/Imax(EI2/EI1≠Imin/Imax)となる。
【0029】
また、上記した断面構成では、各層10,12,14の前記長手方向における引張弾性率が互いに異なり、最内層10を構成する材料の前記長手方向における引張弾性率および比重をそれぞれEinおよびρinとし、最内層10よりも外側に位置される外層12,14(外層12,14の構成材料が互いに異なる場合には、一方の外層12または14のみであっても良い)を構成する材料の前記長手方向における引張弾性率および比重をそれぞれEoutおよびρoutとすると、Eout/ρout>Ein/ρinの関係が成り立つことが好ましい。この関係式を満たす具体的な数値を挙げると、例えば、最内層10の構成材料がABS樹脂であり、外層12,14の構成材料が前記トレカクロスCO6151Bである場合、Eout=50GPa、ρout=1.5、Ein=2.3GPa、ρin=1.05となり、Eout/ρout>Ein/ρinとなる。無論、この場合、上記した関係式(EI2/EI1≠Imin/ImaxまたはEI2/EI1>Imin/Imax)も満たされる。
【0030】
また、上記した断面構成では、各層10,12,14の前記長手方向における引張弾性率が互いに異なり、最内層10を構成する材料の前記長手方向における引張強度および比重をそれぞれσinおよびρinとし、最内層10よりも外側に位置される外層12,14(外層12,14の構成材料が互いに異なる場合には、一方の外層12または14のみであっても良い)を構成する材料の前記長手方向における引張強度および比重をそれぞれσoutおよびρoutとすると、σout/ρout>σin/ρinの関係が成り立つことが好ましい。この関係式を満たす具体的な数値を挙げると、例えば、最内層10の構成材料がABS樹脂であり、外層12,14の構成材料が前記トレカクロスCO6151Bである場合、σout=500MPa、ρout=1.5、σin=40MPa、ρin=1.05となり、σout/ρout>σin/ρinとなる。無論、この場合、上記した関係式(EI2/EI1≠Imin/ImaxまたはEI2/EI1>Imin/Imax)も満たされる。
【0031】
なお、図2の(a)に示される断面を有するリール脚1Aは、例えば以下のようにして製造される。まず、図2の(b)に示されるように、例えば織布状のカーボンプリプレグ層である第1の外層12を、最内層10を構成する母材に対してその弱軸n方向の一端側から当て付け、図2の(c)に示されるように最内層10の外周の一部を(弱軸n方向の他端側の一部を除く外周の略全体にわたって)第1の外層12で覆う(積層する)。この場合、最内層10の外面(表面)は、ブラスト処理等によって粗面化されることが好ましい。また、これに加えて、最内層10の外面に更に樹脂を塗布し、その上から外層12が積層されても良い。
【0032】
続いて、図2の(d)に示されるように、例えば織布状のカーボンプリプレグ層である第2の外層14を、最内層10を構成する母材に対してその弱軸方向の他端側から当て付け、強軸m方向で外層12,14同士が重なり合うように第1の外層12の外周の一部を(弱軸n方向の他端側では最内層10の一部も)第2の外層14で覆う(積層する)。その状態が図2の(e)に示されている。このようにすることで、カーボンプリプレグにシワが発生しにくくなり、成形した際のボイド(巣)の発生、カーボン繊維のヨレの発生、概観模様の乱れの発生が防止できる。この状態で、テーピング工程を行ない或いは金型で締め付けて、例えば130℃で90分間にわたって熱硬化させる。その後、必要に応じて仕上げ研磨やクリアー塗装を行なって、図2の(f)に示される断面形態を得る。
【0033】
なお、上記構成において、各外層12,14を2層ずつ設けて、積層数を2倍にしても良い。その場合、弱軸n方向の外層が2つ、強軸m方向の外層が4つとなり、補強効果が高められる。
【0034】
図3にはリール脚1Aの断面形態の第1の変形例が示されている。図3の(a)に示されるように、本変形例の断面は、図2の例と同様の材料構成から成る最内層10の強軸m方向の両側に第1の外層12A,12Aが積層され、最内層10および第1の外層12A,12Aの全体を取り囲むように図2の例と同様の材料構成から成る第2の外層14が被覆して積層される。なお、第1の外層12A,12Aは、織布状のカーボンプリプレグ層であっても良いが、カーボンUDプリプレグ層であることが好ましい(例えば、東レ社のトレカプリプレグ(品番3252S−15または9052F−17など)。また、第2の外層14もカーボンUDプリプレグ層であっても良い。その場合、細幅(例えば5〜10mm程度)のカーボンUDプリプレグ層14を最内層10および第1の外層12A,12Aの外周に螺旋状に巻回しても良い。このときの繊維方向は幅方向に対して直交する方向であることが好ましい。
【0035】
なお、図3の(a)に示される断面を有するリール脚1Aは、例えば以下のようにして製造される。まず、図3の(b)に示される最内層10を構成する母材を用意し、この母材の両側(強軸m方向の両側)に例えばカーボンUDプリプレグ層(例えば繊維が長手方向に指向する)である第1の外層12Aを配置する。続いて、図3の(d)に示されるように、第2の外層14を最内層10を構成する母材に対してその弱軸n方向の一端側から当て付け、図3の(e)に示されるように最内層10および第1の外層12A,12Aの外周全体を第2の外層14で覆う(積層する)。この状態で、テーピング工程を行ない或いは金型で締め付けて、例えば130℃で90分間にわたって熱硬化させる。その後、必要に応じて仕上げ研磨やクリアー塗装を行なっても良い。
【0036】
図4にはリール脚1Aの断面形態の第2の変形例が示されている。図4の(a)に示されるように、本変形例の断面は、樹脂(ナイロン)、FRP(ガラス55%ナイロンまたはCFRP40%ナイロン)、または、アルミ合金(ADC12)によって形成される最内層20の強軸m方向の両側にチタン合金(Ti−6Al−4V)によって形成される外層22が積層されて成る。この場合、樹脂(ナイロン)のヤング率は2.4GPa、長手方向の引張強度は75MPaであり、FRP(ガラス55%ナイロン)のヤング率は18GPa、長手方向の引張強度は216MPaであり、FRP(CFRP40%ナイロン)のヤング率は38GPa、長手方向の引張強度は320MPaであり、アルミ合金のヤング率は70GPa、長手方向の引張強度は228MPaである。一方、チタン合金のヤング率は106GPa、長手方向の引張強度は980MPaである。したがって、これにより、前述した関係式σout/ρout>σin/ρinが成り立つことになる。
【0037】
なお、図4の(a)に示される断面を有するリール脚1Aは、例えば以下のようにして製造される。まず、図4の(b)に示される最内層10を構成する母材を用意する。この母材には、強軸m方向の両側に凹陥溝20aが形成されており、これらの凹陥溝20aに嵌め込むように外層22を接着する(図4の(c)および(d)参照)。その後、必要に応じて仕上げ研磨やクリアー塗装を行なっても良い。
【0038】
図5および図6は、スピニングリールの構成部材であるレバー7に対して前述した断面形態の設計理論を適用した例を示している。
【0039】
魚釣用リールの構成部材であるレバー7は、長手方向に延在して、牽引操作がされる部分であることから、局所的に大きな曲げ応力が作用する(牽引操作すると、レバー7には、上面側7U(図5(a))では圧縮力が作用し、下面側7D(図5(c))では引張力が作用する)。また、レバー7は、釣竿を握持した手の人差し指で牽引操作される部分であり、また、ロータ3とのスペース上の関係から、扁平な形状が要求されながら、実際の使用において剛性が高い或いは剛性バランスが良いと感じられなければならない。そのため、本実施形態のレバー7は、例えば図6に示される断面形状を有する。
なお、この実施形態における扁平形状の断面を有する長手方向に延している部分は、図5のV〜Wの範囲(V:下側に湾曲するレバー部位の下方に突出する前側頂部によって規定される前端境界部、W:下側に湾曲するレバー部位の下方に突出する後側頂部によって規定される後端境界部)である。レバー7の指掛け部7aは、使用時において曲げモーメントが大きくないため、本発明の設計思想を適用しなくてもよい。
【0040】
図6の(a)に示される断面は、扁平形状の断面を有するレバー7の部位をその長手方向に対して略垂直な方向で切断した断面のうちの1つであり、該断面の強軸に関する断面2次モーメントをImax、Imaxと同方向の曲げ剛性をEI1(Eはヤング率)、前記断面の弱軸に関する断面2次モーメントをImin、Iminと同方向の曲げ剛性をEI2とすると、Imin/Imaxが最小となる部分である。そして、この断面は、少なくとも、EI2/EI1≠Imin/Imaxの関係、特にEI2/EI1>Imin/Imaxの関係が成立するように構成されている。なお、前述の理由から、本例においては、Imin/Imaxが最小である部分を選定する上で、指掛け部7aは除外される。
【0041】
上記関係式を成り立たせるための具体的な手段として、図6の例において、断面は、構成材料が互いに同一の2つの層30,32を積層して成り、各層30,32は、平均繊維長さが1.0mm〜10.0mmのカーボンの短繊維をマトリクス樹脂に含浸した繊維強化樹脂から成る。長手方向に指向する繊維の比率は、最内層(テンダム層)32よりも外層(直行層)30の方が高い。また、外層30の強軸m方向の肉厚t1は、外層30の弱軸n方向の肉厚t2よりも厚い。特に、この例では、最内層32の長手方向のヤング率をEr、長手方向の引張強度をσrとし、外層30の長手方向のヤング率をEd、長手方向の引張強度をσdとすると、Ed>Erおよびσd>σrが成り立つ。
【0042】
より具体的には、レバー7は、短繊維を30〜60質量%の範囲でマトリクス樹脂に含浸した繊維強化樹脂によって成形されており、軽量化が図られている。この場合、前記マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂を主成分としたもので構成することが可能であるが、それ以外の熱可塑性樹脂、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリアセタール;ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を含有していても良い。更には、これらの材料に加えて、流動改質剤、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤などの添加剤を含有していても良い。
【0043】
また、前記マトリクス樹脂に多数本混入される強化繊維は、例えば、PAN系またはピッチ系の炭素繊維、具体的には、断面が円形状(真円以外にも形成時の誤差等によって、多少非円形のものが含まれていても良く、短長軸比が1:1.00〜1.02程度のものであっても良い)で、図6の(b)および(c)に示すように、いずれかの領域で単位体積を考慮した場合、平均繊維径が4μm〜10μm、平均繊維長さが1.0mm〜10.0mmの範囲となる短繊維が用いられている(これらの短繊維は、上記のようにマトリクス樹脂に対して30〜60質量%の範囲で含有されている)。なお、混入される強化繊維については、弾性率が230〜500GPaのものを用いることが好ましい。
【0044】
ここで、強化繊維の大きさを上記した範囲に設定したのは、強化繊維の平均繊維径が4μm、平均繊維長さが1.0mmよりも小さくなると、繊維強化樹脂として所定の弾性率を得るためには、多量の繊維を混入する必要があり、成形性(流動性)が悪くなる傾向があり、また、平均繊維径が10μm、平均繊維長さが10.0mmよりも大きくなると、繊維が大きすぎるため、成形性(流動性)が悪くなる傾向があるためである。すなわち、平均繊維径が4μm〜10μm、平均繊維長さが1.0mm〜10.0mmの範囲の短繊維を用いることで、金型に対して射出成形する際、繊維強化樹脂の流動性の低下が抑制され、これにより強化繊維が満遍なく行き渡って良好な形態を成形することが可能になるとともに、レバー7の比強度、比剛性を効果的に高めることが可能となる。なお、特に好ましい範囲は、平均繊維径が4.0μm〜7μm、平均繊維長さが1.5mm〜4.0mmである。
【0045】
また、強化繊維の含有量をマトリクス樹脂に対して30質量%以上にすることで、充分な曲げ剛性を得ることが可能となり、60質量%以下にすることで、一般的な溶融混練装置によって安定して押し出し成形(射出成形)することが可能となる。
【0046】
上記したように、レバー7は、長手方向に延在する形状となり、上記した繊維強化樹脂によって一体成形される。この場合、レバー7は、長手方向に対して直角方向を断面視した際、表層側に、短長軸長比1:1〜1:1.155となる略円形状となる短繊維35の比率が多い外層30が形成され、かつ、その内層側に、外層30の短繊維と比較してランダムに指向した短繊維36を多く含む最内層32が形成されるように成形されている。
【0047】
本実施形態では、図6の(a)に示すように、外層30がレバー7の表面から所定の深さ囲繞しており、その内側にコアとなって最内層32が形成されている。外層30は、表層側に位置する層であり、図6の(b)および(c)に示すように、強化繊維である短繊維35が略円形となった状態、すなわち、多数混入される短繊維が、概ね長手方向に沿った状態(全体として長手方向に沿った状態)となるように配列されていれば良く、具体的には、ある程度の曲げ剛性が確保されるように、多数配列されている短繊維は、長手方向に対して直角な方向で断面視した際、短長軸長比1:1〜1:1.155となる略円形状となる短繊維の比率がその層内において多い状態となっていれば良い。
【0048】
なお、短長軸長比が、1:1.155以上になってしまうと、短繊維は、長手方向に対して30°以上傾いた状態となってしまうため、曲げ剛性を向上する上では、十分な配列状態でなくなってしまう。
【0049】
上記したレバー7により、曲げ方向について影響が大きい(断面2次モーメントへの影響が大きい)外層30が効果的に強化され、その内層側(最内層32)には、短繊維がランダムに指向した状態を多数含むため、曲げ方向以外の負荷に対する強度が得られるようになる。
【0050】
すなわち、レバー(構成部材)7として軽量化を図りながら、単なる曲げ負荷方向の比強度、比剛性の向上のみならず、せん断方向の負荷や長手方向への圧縮力が生じた際の縦割れに対しても強化され、更に、捩じり負荷についても強化を図ることが可能となる。
【0051】
なお、外層30は、上記した短長軸長比1:1〜1:1.155となる略円形状となる短繊維35の比率が、その層の断面に現れる繊維数の50%以上を占めるようにすることで、より比強度、比剛性に優れた構成部材とすることが可能である。
【0052】
また、外層30と最内層32との間(境界R)は、長手方向に対して直角方向、かつ、最も近い外表面Pに対して平行な方向に指向する短繊維(図4において、そのような繊維を符号36aで示す)が多数存在するように形成しておくことが好ましい。
【0053】
このように、外層30と最内層32との境界Rに、そのような方向性のある短繊維を多数存在させておくことで、レバー7の縦割れを効果的に抑制することができ、かつ、捩じり剛性の向上が図れ、より捩じり負荷に強い構造とすることが可能である。
【0054】
なお、本実施形態において、外層30の強軸m方向の肉厚t1を外層30の弱軸n方向の肉厚t2よりも厚くするには、例えば、金型内へ流入される成形材料が金型と接触する表面側から徐々に冷却硬化されることに鑑み、強軸m方向で金型温度を高く設定し、弱軸n方向で金型温度を低く設定すれば良い。また、各部位の金型温度の冷却速度を各々調整する方法も可能である。
【0055】
図7および図8は、スピニングリールの構成部材であるハンドル5に対して前述した断面形態の設計理論を適用した例を示している。
【0056】
魚釣用リールの構成部材であるハンドル5は、長手方向に延在して、手で回転操作される部分であることから、操作性を向上させる形状や把持時のフィット感を与える形状を実現しつつ、実際の使用において剛性が高い或いは剛性バランスが良いと感じられなければならない。そのため、本実施形態のハンドル5は、例えば図8に示される断面形状を有する。
なお、ハンドル5のうち、扁平形状の断面を有する長手方向に延在している部分は、図7のX〜Yの範囲(X:リール本体1に対して略垂直に接続される太径部5bから略直交して延び始める湾曲起点部によって規定される基端境界部、Y:ハンドル5の把持部5aと接続するために太径部5bと略平行に屈曲し始める先端境界部)である。
【0057】
図8に示される断面は、扁平形状の断面を有するハンドル5の部位をその長手方向に対して略垂直な方向で切断した断面のうちの1つであり、該断面の強軸に関する断面2次モーメントをImax、Imaxと同方向の曲げ剛性をEI1(Eはヤング率)、前記断面の弱軸に関する断面2次モーメントをImin、Iminと同方向の曲げ剛性をEI2とすると、Imin/Imaxが最小となる部分である。そして、この断面は、少なくとも、EI2/EI1≠Imin/Imaxの関係が成立するように構成されている。
【0058】
上記関係式を成り立たせるための具体的な手段は前述したリール脚1Aの場合と同じである。すなわち、図8の断面は、図心Gを含む最も内側の最内層10と、最内層10の外周を部分的に取り囲む第1の外層12と、最内層10および第1の外層12を部分的に取り囲む第2の外層14とから成り、弱軸n方向で2つの外層12,14が重なり合っている。これにより、前述したリール脚1Aと同様、EI2/EI1≠Imin/Imaxの関係が成り立つ。なお、本例では、前述したリール脚1Aとは剛性設計の目的が異なり、EI2/EI1<Imin/Imaxの関係となっている。これにより、ハンドル回転時にかかる負荷(曲げモーメント)に対して有効に機能する。
【符号の説明】
【0059】
1A リール脚
5 ハンドル
7 レバー
10,20,32 最内層
12,14,22,30 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平形状の断面を有する長手方向に延在する魚釣用リールの構成部材であって、その長手方向に対して略垂直な方向で切断した断面の強軸に関する断面2次モーメントをImax、Imaxと同方向の曲げ剛性をEI1、前記断面の弱軸に関する断面2次モーメントをImin、Iminと同方向の曲げ剛性をEI2とすると、少なくともImin/Imaxが最小である部分において、
EI2/EI1≠Imin/Imax
の関係が成り立つことを特徴とする魚釣用リールの構成部材。
【請求項2】
EI2/EI1>Imin/Imaxの関係が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リールの構成部材。
【請求項3】
前記断面は、構成材料が互いに異なる複数の層を積層して成り、前記強軸方向の積層数と前記弱軸方向の積層数とが互いに異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の魚釣用リールの構成部材。
【請求項4】
前記断面は、構成材料が互いに異なる複数の層を積層して成るとともに、各層の前記長手方向における引張弾性率が互いに異なり、最も内側の最内層を構成する材料の前記長手方向における引張弾性率および比重をそれぞれEinおよびρinとし、最内層よりも外側に位置される外層を構成する材料の前記長手方向における引張弾性率および比重をそれぞれEoutおよびρoutとすると、
Eout/ρout>Ein/ρin
の関係が成り立つことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の魚釣用リールの構成部材。
【請求項5】
前記断面は、構成材料が互いに異なる複数の層を積層して成るとともに、各層の前記長手方向における引張弾性率が互いに異なり、最も内側の最内層を構成する材料の前記長手方向における引張強度および比重をそれぞれσinおよびρinとし、最内層よりも外側に位置される外層を構成する材料の前記長手方向における引張強度および比重をそれぞれσoutおよびρoutとすると、
σout/ρout>σin/ρin
の関係が成り立つことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の魚釣用リールの構成部材。
【請求項6】
前記外層を構成する材料は、カーボン長繊維をマトリクス樹脂中に含浸して成る繊維強化樹脂であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の魚釣用リールの構成部材。
【請求項7】
構成部材は、平均繊維長さが1.0mm〜10.0mmのカーボン短繊維をマトリクス樹脂に含浸した繊維強化樹脂によって成形され、
前記断面は、内層と、前記長手方向に指向する繊維の比率が前記内層よりも高い外層とから成り、
前記外層の前記強軸方向の肉厚と前記弱軸方向の肉厚とが異なる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の魚釣用リールの構成部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−139652(P2011−139652A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1326(P2010−1326)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】