説明

(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体の製造方法

【課題】医薬品の中間体として有用な(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体、特に(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール、の効率的かつ工業的な製造方法を提供する。
【解決手段】1−(2−チエニル)プロパン−1−オン誘導体に、特定の微生物を酵素源として作用させて、還元することにより、(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体が効率的に製造可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体の製造方法に関する。1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体は、医薬品、農薬等の合成原料及び中間体として有用な化合物である。特に、(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールは、各種医薬品を合成するための重要な中間体である。
【背景技術】
【0002】
1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体、特に、(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールは、医薬品、農薬等の合成原料及び中間体として有用な化合物である。
【0003】
(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体、例えば(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの製造方法の一つに、微生物菌体や酵素を触媒とした3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの不斉還元法が挙げられる。
【0004】
ゲオトリカム(Geotrichum)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ラクトバシラス(Lactobacillus)属に属する微生物の菌体を用いた3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの不斉還元がなされている(特許文献1)。
【0005】
しかし、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンをS体の3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールへ還元することが明確となっているのは、これら微生物のうちではラクトバシラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ゲオトリカム・カンジドウム(Geotrichum candidum)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)の3株のみである(特許文献1)。
【0006】
また、特定の酵素を触媒とした3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの不斉還元に関する報告はある。しかし、報告されている酵素は、ラクトバシラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)の微生物由来の酵素(特許文献1)、アゾアルカス(Azoarcus)属の微生物由来の酵素(特許文献2)、およびサーモアナエロバクター(Thermoanaerobacter)属の微生物由来の酵素(特許文献3)に限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−533628
【特許文献2】特表2007−535956
【特許文献3】特表2009−520482
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、医薬品の中間体として有用な(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体、特に(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの効率的かつ工業的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体、特に(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの簡便かつ効率的な製造方法を開発すべく検討を重ねた結果、これまでに知られていない3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンを(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールに変換する酵素源を新たに発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の1又は複数の特徴を有する。
【0011】
即ち、本発明は、下記式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1はハロゲン原子、チオール基、水酸基、またはニトロ基を示す)で表される1−(2−チエニル)プロパン−1−オン誘導体にカルボニル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素または酵素源を作用させる下記式(2):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1は前記と同じ)で表される(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体の製造方法において、前記酵素または酵素源が下記(a)または(b)からなる群から選択される微生物:
(a)アシュベイ(Ashbya)属、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属、シテロマイセス(Citeromyces)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、ディポダスカス(Dipodascus)属、ガラクトマイセス(Galactomyces)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、クライシア(Kuraishia)属、リポマイセス(Lipomyces)属、ナカザワエ(Nakazawaea) 属、オガタエア(Ogataea)属、ピキア(Pichia)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ロードスポリディウム(Rhodosporidium)属、ロードトルーラ(Rhodotorula)属、サッカロマイコプシス(Saccharomycopsis)属、サカグチア(Sakaguchia)属、シゾブラストスポリオン(Schizoblastosporion)属、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)属、トリゴノプシス(Trigonopsis)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ワルトマイセス(Waltomyces )属、ウイロプシス(Williopsis)属、ヤマダジーマ(Yamadazyma)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、デセムジア(Desemzia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、マイクロバクテリウム(Microbacterium)属、オースコビア(Oerskovia)属、ペクトバクテリウム(Pectobacterium)属、スフェロイデス(Sphaerodes)属、タラロマイセス(Talaromyces)属、ストロファリア(Stropharia)属、スポロトリカム(Sporotrichum)属、ワードマイセス(Wardomyces)属、アミコラトプシス(Amycolatopsis)属、ノノムラエ(Nonomuraea)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、からなる群より選ばれた微生物;
(b)キャンディダ・ボイディニー(Candida boidinii)、キャンディダ・キャンタレリイ(Candida cantarellii)、キャンディダ・グロペンギエッセリー(Candida gropengiesseri)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・メセンテリカ(Candida mesenterica)、キャンディダ・モギー(Candida mogii)、キャンディダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)、キャンディダ・テヌイス(Candida tenuis)、キャンディダ・バーサチリス(Candida versatilis)、ゲオトリカム・エリエンス(Geotrichum eriense)、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、からなる群より選ばれた微生物;
由来のものであることを特徴とする、(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体の製造方法である。
【0016】
また、別の好ましい実施態様としては、酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(以下、NAD+と省略する)及び/または酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸(以下、NADP+と省略する)をそれぞれの還元型へ還元する酵素と、該還元のための基質を共存させることを特徴とする上記の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、医薬品の中間体として有用な1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体、特に(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの効率的かつ工業的な製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施形態で詳細に説明する。本発明はこれらにより限定されるものではない。
基質及び生成物について
本発明の基質は、下記式(1):
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、R1はハロゲン原子、チオール基、水酸基、またはニトロ基を示す)で表される1−(2−チエニル)プロパン−1−オン誘導体であり、R1として好ましくはハロゲン原子もしくはメチルアミノ基である。
【0021】
ハロゲン原子とは、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などをいう。
【0022】
また、R1としてより好ましくは塩素原子、臭素原子であり、特に好ましくは塩素原子である。
【0023】
例えば3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンは、Phosphorus and Sulfur, 33, 25(1987) に記載の方法に従い、チオフェンと3−クロロプロピオン酸クロライドをフリーデル−クラフト触媒存在下でアシル化反応することにより、収率良く製造することができる。
【0024】
本発明の生成物は、下記式(2):
【0025】
【化4】

【0026】
(式中、R1は前記と同じ)で表される(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体であり、その光学純度は60%e.e.以上が好ましく、より好ましくは70%e.e.以上、更に好ましくは80%e.e.以上である。更により好ましくは90%e.e.以上であり、最も好ましくは95%ee.以上である。
【0027】
なお、(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体の生成量及び光学純度は、高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー分析により容易に求めることができる。例えば、(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの場合は、以下に記載の高速液体クロマトグラフィーによる分析条件で分析することにより、生成量及び光学純度が容易に測定できる。
【0028】
[高速液体クロマトグラフィーによる分析条件]
カラム:Chiralcel OD−H(4.6μm(内径)×250mm;ダイセル化学社製)
カラム温度:30℃
検出波長:240nm
移動相:n−ヘキサン/イソプロパノール=97.5/2.5
保持時間:
(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール 約19.9分
(R)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール 約21.5分
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン 約12.2分。
【0029】
酵素または酵素源について
本発明で使用される酵素または酵素源には、1−(2−チエニル)プロパン−1−オン誘導体を(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体に不斉還元する能力を有する微生物由来のものを用いることが出来る。
【0030】
ここでいう「微生物由来のもの」としては、該微生物の菌体そのもの、微生物の培養液、あるいは菌体処理物、または該微生物から得られる酵素であってもよいし、さらには該微生物由来の上記還元活性を有する酵素をコードするDNAが導入された形質転換体も含む。
【0031】
上記微生物の菌体処理物としては特に限定されず、例えば、アセトンにより脱水処理したアセトン乾燥菌体、またはデシケーターや扇風機を利用した乾燥によって得られる乾燥菌体、界面活性剤処理物、溶菌酵素処理物、固定化菌体または菌体を破砕した無細胞抽出標品などをあげることができる。更に、培養物より不斉還元反応を触媒する酵素を精製し、これを使用してもよい。
【0032】
これらを単独で用いても、2種以上組み合わせて用いても良い。また、これら微生物は周知の方法で固定化して用いても構わない。
【0033】
1−(2−チエニル)プロパン−1−オン誘導体から(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体への不斉還元能力の評価方法について
1−(2−チエニル)プロパン−1−オン誘導体を(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体に不斉還元する能力を有する微生物は、以下に説明する評価方法によって見いだすことができる。
【0034】
例えば、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンを(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールに不斉還元する能力は、以下のようにして評価しうる。
【0035】
グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを試験管に入れて殺菌後、無菌的に微生物を接種し、30℃で2〜3日間振とう培養する。
【0036】
その後、菌体を遠心分離により集め、グルコース2〜10%を含んだリン酸緩衝液1〜5mlに懸濁し、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンを2.5〜25mgいれた試験管に加えて、30℃で1〜3日間振とうする。
【0037】
この際、遠心分離により得た菌体をデシケーター中またはアセトンにより乾燥したものを用いることもできる。更に、これら微生物もしくはその処理物と3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンを反応させる際に、NAD+及び/またはNADP+と、グルコース脱水素酵素及びグルコース、もしくはギ酸脱水素酵素及びギ酸、を添加してもよい。
【0038】
また、反応系に有機溶媒を共存させてもかまわない。変換反応ののち適当な有機溶媒で抽出を行ない、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの生成量及びその光学純度を高速液体クロマトグラフィーなどにより分析する。
【0039】
酵素または酵素源となる微生物について
本発明に使用しうる酵素または酵素源としては、アシュベイ(Ashbya)属、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属、シテロマイセス(Citeromyces)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、ディポダスカス(Dipodascus)属、ガラクトマイセス(Galactomyces)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、クライシア(Kuraishia)属、リポマイセス(Lipomyces)属、ナカザワエ(Nakazawaea) 属、オガタエア(Ogataea)属、ピキア(Pichia)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ロードスポリディウム(Rhodosporidium)属、ロードトルーラ(Rhodotorula)属、サッカロマイコプシス(Saccharomycopsis)属、サカグチア(Sakaguchia)属、シゾブラストスポリオン(Schizoblastosporion)属、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)属、トリゴノプシス(Trigonopsis)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ワルトマイセス(Waltomyces )属、ウイロプシス(Williopsis)属、ヤマダジーマ(Yamadazyma)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、デセムジア(Desemzia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、マイクロバクテリウム(Microbacterium)属、オースコビア(Oerskovia)属、ペクトバクテリウム(Pectobacterium)属、スフェロイデス(Sphaerodes )属、タラロマイセス(Talaromyces)属、ストロファリア(Stropharia)属、スポロトリカム(Sporotrichum)属、ワードマイセス(Wardomyces)属、アミコラトプシス(Amycolatopsis)属、ノノムラエ(Nonomuraea)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、に属する微生物由来のものが挙げられる。
【0040】
これら属の微生物としては、例えば、アシュベイ・ゴシッピー(Ashbya gossypii)、ブレタノマイセス・クスタシアヌス(Brettanomyces custersianus)、シテロマイセス・マトリテンシス(Citeromyces matritensis)、クリプトコッカス・ヒュミコラス(Cryptococcus humicolus)、デバリオマイセス・マラムス(Debaryomyces maramus)、デバリオマイセス・カルソニー(Debaryomyces carsonii)、デバリオマイセス・ポリモファス(Debaryomyces polymorphus)、デバリオマイセス・ロバートシ(Debaryomyces robertsiae)、ディポダスカス・テトラスパーマ(Dipodascus tetrasperma)、ディポダスカス・オベテンシス(Dipodascus ovetensis)、ガラクトマイセス・リーシー(Galactomyces reessii)、イサチェンキア・テリコーラ(Issatchenkia terricola)、クライシア・カプスラータ(Kuraishia capsulata)、リポマイセス・スターキー(Lipomyces starkeyi)、ナカザワエ・ホルスティー(Nakazawaea holstii)、オガタエア・ミヌータ・バー・ミヌータ(Ogataea minuta var minuta)、オガタエア・ミヌータ・バー・ノンファーメンタンス(Ogataea minuta var. nonfermentans)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ピキア・ビムンダリス(Pichia bimundalis)、ピキア・バートニ(Pichia burtonii)、ピキア・メンブラニファシエンス(Pichia membranifaciens)、ピキア・ウイッカーハミー(Pichia wickerhamii)、ピキア・キシローサ(Pichia xylosa)、ロドコッカス・ロードクロウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロードスポリディウム・スフェロカープス(Rhodosporidium sphaerocarpum)、ロードスポリディウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、ロードトルーラ・アウランティカ(Rhodotorula aurantiaca)、ロードトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)、ロードトルーラ・グルチニス・バー・グルチニス(Rhodotorula glutinis var. glutinis)、ロードトルーラ・グラミニス(Rhodotorula graminis)、ロードトルーラ・マリナ(Rhodotorula marina)、ロードトルーラ・ムシラギノーサ(Rhodotorula mucilaginosa)、サッカロマイコプシス・マランガ(Saccharomycopsis malanga)、サカグチア・ダシオイデス(Sakaguchia dacryoides)、シゾブラストスポリオン・コバヤシー(Schizoblastosporion kobayasii)、スポロボロマイセス・サルモニカラー(Sporobolomyces salmonicolor)、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)、トルラスポラ・グロボーサ(Torulaspora globosa)、トリコスポロン・アステロイデス(Trichosporon asteroides)、ヤマダジーマ・スピティピス(Yamadazyma stipitis)、ワルトマイセス・リポファー(Waltomyces lipofer)、ウイロプシス・サターナス・バー・ムラッキー(Williopsis saturnus var. mrakii)、ウイロプシス・サターナス・バー・スアベロレンス(Williopsis saturnus var. suaveolens)、チゴサッカロマイセス・バイリー(Zygosaccharomyces bailii)、セルロモナス・エスピー(Cellulomonas sp.)、セルロモナス・フィミー(Cellulomonas fimi)、デセムジア・インサータ(Desemzia incerta)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、クレブシエラ・プランチコーラ(Klebsiella planticola)、マイクロバクテリウム・アーボレセンス(Microbacterium arborescens)、マイクロバクテリウム・イムペリアレ(Microbacterium imperiale)、オースコビア・ジェネンシス(Oerskovia jenensis)、ペクトバクテリウム・カートボラム・サブスピー・カートボラム(Pectobacterium carotovorum subsp. carotovorum)、スフェロイデス・フィミコーラ(Sphaerodes fimicola)、タラロマイセス・トラキスパーマス(Talaromyces trachyspermas)、ストロファリア・ルゴソアヌラータ(Stropharia rugosoannulata)、スポロトリカム・アウランティカム(Sporotrichum aurantiacum)、ワードマイセス・アノマルス(Wardomyces anomalus)、アミコラトプシス・オリエンタリス・サブスピーオリエンタリス(Amycolatopsis orientalis subsp. orientalis)、ノノムラエ・ディエチアエ(Nonomuraea dietziae)、ストレプトマイセス・アルボフラバム(Streptomyces alboflavus)、ストレプトマイセス・コレスセンス(Streptomyces coelescens)、ストレプトマイセス・スペクタビリス(Streptomyces spectabilis)、ロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピー・デキストラニカム(Leuconostoc mesenteroides subsp. dextranicum)、ロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピー・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides)、ペディオコッカス・パーブラス(Pediococcus parvulus)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、などが挙げられる。
【0041】
また、本発明に使用しうる酵素または酵素源としては、キャンディダ・ボイディニー(Candida boidinii)、キャンディダ・キャンタレリイ(Candida cantarellii)、キャンディダ・グロペンギエッセリー(Candida gropengiesseri)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・メセンテリカ(Candida mesenterica)、キャンディダ・モギー(Candida mogii)、キャンディダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)、キャンディダ・テヌイス(Candida tenuis)、キャンディダ・バーサチリス(Candida versatilis)、ゲオトリカム・エリエンス(Geotrichum eriense)、
ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する微生物由来のものが挙げられる。
【0042】
これら微生物は一般に、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC(IFO))(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)、独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室 (JCM)(〒351-0198 埼玉県和光市広沢2-1)、米国のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection, ATCC)、などから入手または購入が容易であるが、自然界から分離することもできる。なお、これらの微生物に変異を生じさせて、より本反応に有利な性質を有する菌株を得ることもできる。
【0043】
これらの微生物の培養には、通常これらの微生物が資化しうる栄養源を含む培地であれば何でも使用しうる。例えば、グルコース、シュークロース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、エタノール、グリセリン等のアルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油脂類、またはこれらの混合物等の炭素源;硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等の窒素源;更に、その他の無機塩、ビタミン類等の栄養源;を適宜混合・配合した通常の培地を用いることが出来る。これら培地は用いる微生物の種類によって適宜選択すればよい。
【0044】
また、目的の還元酵素を誘導させるために、各種カルボニル化合物を培地に添加すると優れた結果が得られるため、好ましい。例えば、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンを0.01〜50%(W/V)培地に添加してもよい。
【0045】
微生物の培養は通常一般の条件により行なうことができ、例えば、pH4.0〜9.5、温度範囲20〜45℃の範囲で、好気的に10〜96時間培養するのが好ましい。
【0046】
還元反応について
1−(2−チエニル)プロパン−1−オン誘導体に酵素源である微生物を反応させる場合においては、通常、上記微生物の菌体を含んだ培養液をそのまま反応に使用することもできるが、培養液の濃縮物も用いることができる。また、培養液中の成分が反応に悪影響を与える場合には、培養液を遠心分離等により処理して得られる菌体または先に述べた菌体処理物を使用することもできる。
【0047】
還元反応の際には、基質である1−(2−チエニル)プロパン−1−オン誘導体を反応の初期に一括して添加してもよく、反応の進行にあわせて分割して添加してもよい。反応時の温度は通常10〜60℃、好ましくは、20〜40℃であり、反応時のpHは2.5〜9、好ましくは、5〜9の範囲である。
【0048】
反応液中の酵素源の量はこれらの基質を還元する能力に応じ適宜決定すればよい。また、反応液中の基質濃度は0.01〜50%(W/V)が好ましく、より好ましくは、0.1〜30%(W/V)である。
【0049】
反応は通常、振とうまたは通気攪拌しながら行なう。反応時間は基質濃度、酵素源の量及びその他の反応条件により適宜決定される。通常、2〜168時間で反応が終了するように各条件を設定することが好ましい。
【0050】
還元反応を促進させるために、反応液にグルコース、エタノール、イソプロパノールなどのエネルギー源を0.5〜30%の割合で加えると優れた結果が得られるので好ましい。
【0051】
一般に生物学的方法による還元反応に必要とされている還元型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(以降NADHと省略する)、還元型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸(以降NADPHと省略する)等の補酵素を添加することにより、反応を促進させることもできる。この場合、具体的には、反応液に直接これらを添加する。
【0052】
また、還元反応を促進させるために、NAD+及び/またはNADP+をそれぞれの還元型へ還元する酵素と、該還元のための基質を共存させて反応を行うと優れた結果が得られるので好ましい。例えば、還元型へ還元する酵素としてグルコース脱水素酵素、還元のための基質としてグルコースをそれぞれ共存させるか、または、還元型へ還元する酵素としてギ酸脱水素酵素、還元のための基質としてギ酸をそれぞれ共存させる。
【0053】
また更に、トリトン(ナカライテスク株式会社製)、スパン(関東化学株式会社製)、ツイーン(ナカライテスク株式会社製)などの界面活性剤を反応液に添加することも効果的である。更に、基質及び/または還元反応の生成物であるアルコール体による反応の阻害を回避する目的で、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロピルエーテル、トルエン、ヘキサンなどの水に不溶な有機溶媒を反応液に添加してもよい。更に、基質の溶解度を高める目的で、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドなどの水に可溶な有機溶媒を添加することもできる。
【0054】
(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体の取得方法
還元反応により生成した(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体の採取は、特に限定されないが、反応液から直接、あるいは菌体等を分離後、酢酸エチル、トルエン、t−ブチルメチルエーテル、ヘキサン、n−ブタノール、ジクロロメタン等の溶剤で抽出し、脱水後、蒸留やシリカゲルカラムクロマトグラフィー等により精製すれば高純度の(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体を容易に得ることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において、「%」は特に断らない限り「重量%」を意味する。また、実施例で用いる微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC(IFO))(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)、独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室 (JCM)(〒351-0198 埼玉県和光市広沢2-1)、米国のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection, ATCC)、よりなんら制限なく入手することができる。
(実施例1)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(1)
グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表1に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。培養後、各培養液を遠心分離にかけて菌体を集め、0.1Mリン酸緩衝液1.25ml(pH6.5)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液0.5mlを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg及びグルコース40mgを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を下記の高速液体クロマトグラフィーによる分析条件で分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0056】
[高速液体クロマトグラフィーによる分析条件]
カラム:Chiralcel OD−H(4.6μm(内径)×250mm;ダイセル化学社製)
カラム温度:30℃
検出波長:240nm
移動相:n−ヘキサン/イソプロパノール=97.5/2.5
保持時間:
(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール 約19.9分
(R)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール 約21.5分
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン 約12.2分。
【0057】
結果を表1にまとめた。
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例2)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(2)
グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表2に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。培養後、各培養液を遠心分離にかけて菌体を集め、0.1Mリン酸緩衝液0.625ml(pH6.5)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液0.5mlを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg、グルコース10mg、NAD+1mg、NADP+1mg、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)25U及び酢酸ブチル0.5mlを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を実施例1と同様に分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0060】
結果を表2にまとめた。
【0061】
【表2】

【0062】
(実施例3)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(3)
グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表3に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。培養後、各培養液を遠心分離にかけて菌体を集め、アセトンに菌体を懸濁した。ろ過により菌体を集め、室温で乾燥させることにより、各微生物のアセトン乾燥菌体を取得した。アセトン乾燥菌体25mgを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg、グルコース10mg、NAD+1mg、NADP+1mg、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)25U及び0.1Mリン酸緩衝液0.5mlを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を実施例1と同様に分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0063】
結果を表3にまとめた。
【0064】
【表3】

【0065】
(実施例4)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(4)
グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表4に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。培養後、各培養液を遠心分離にかけて菌体を集め、室温で乾燥させることにより、各微生物の乾燥菌体を取得した。乾燥菌体25mgを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg、グルコース10mg、NAD+1mg、NADP+1mg、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)25U及び0.1Mリン酸緩衝液0.5mlを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を実施例1と同様に分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0066】
結果を表4にまとめた。
【0067】
【表4】

【0068】
(実施例5)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(5)
グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表5に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。培養後、各培養液を遠心分離にかけて菌体を集め、室温で乾燥させることにより、各微生物の乾燥菌体を取得した。乾燥菌体25mgを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg、グルコース10mg、NAD+1mg、NADP+1mg、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)25U及び0.1Mリン酸緩衝液0.5mlを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を実施例1と同様に分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0069】
結果を表5にまとめた。
【0070】
【表5】

【0071】
(実施例6)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(6)
肉エキス10g、ペプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム3g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表6に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。培養後、各培養液を遠心分離にかけて菌体を集め、0.1Mリン酸緩衝液0.5ml(pH6.5)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液0.5mlを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg及びグルコース40mgを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を実施例1と同様に分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0072】
結果を表6にまとめた。
【0073】
【表6】

【0074】
(実施例7)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(7)
肉エキス10g、ペプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム3g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表7に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。培養後、各培養液を遠心分離にかけて菌体を集め、0.1Mリン酸緩衝液0.5ml(pH6.5)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液0.5mlを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg、グルコース10mg、NAD+1mg、NADP+1mg、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)25U及び酢酸ブチル0.5mlを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を実施例1と同様に分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0075】
結果を表7にまとめた。
【0076】
【表7】

【0077】
(実施例8)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(8)
グルコース10g、ペプトン10g、肉エキス10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表8に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、28℃で100時間振とう培養した。培養後、各培養液をろ過により菌体を集め、0.1Mリン酸緩衝液1ml(pH6.5)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液0.5mlを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg及びグルコース40mgを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を実施例1と同様に分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0078】
結果を表8にまとめた。
【0079】
【表8】

【0080】
(実施例9)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(9)
トリプティケース・ソイブロス30g、可溶性でん粉10g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7.2)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表9に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、28℃で100時間振とう培養した。培養後、各培養液をろ過により菌体を集め、0.1Mリン酸緩衝液1ml(pH6.5)に菌体を懸濁した。
この菌体懸濁液0.5mlを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg及びグルコース40mgを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を実施例1と同様に分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0081】
結果を表9にまとめた。
【0082】
【表9】

【0083】
(実施例10)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(10)
MSR培地(Difco社製)55g(1L当たり)よりなる液体培地(pH6.5)15mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表10に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、28℃で70時間静置培養した。培養後、各培養液を遠心分離にかけて菌体を集め、0.1Mリン酸緩衝液1ml(pH6.5)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液0.5mlを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.5mg及びグルコース40mgを入れた試験管に加えて、30℃で20時間反応させた。反応後、各反応液に酢酸エチル2mlを加えよく混合した。この混合液を遠心分離後、有機層を実施例1と同様に分析し、3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの反応液中での生成濃度及びその光学純度を求めた。
【0084】
結果を表10にまとめた。
【0085】
【表10】

【0086】
(実施例11)
3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オンの微生物還元(11)
グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地にオガタエア・ミヌータ・バー・ミヌータ(Ogataea minuta var minuta)IFO0975を無菌的に一白金耳接種して、30℃で30時間振とう培養した。上記と同一組成の培地 50mlを坂口フラスコにいれて120℃で20分間蒸気殺菌した液体培地に、先の培養液を5ml添加し、30℃で72時間振とう培養した。同一方法で得られた培養液2Lを遠心分離にかけて菌体を集め、0.1Mリン酸緩衝液200ml(pH6.5)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液200mlを、あらかじめ3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オン2.0g及びグルコース20gを入れた三口フラスコに加えて、30℃で48時間反応させた。反応液の3倍量のトルエンで3回抽出した。減圧下で溶媒を留去すると、1.8gのオイル状の(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールが得られた。実施例1記載の方法で分析したところ、得られた(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)プロパン−1−オールの光学純度は85.3%e.e.であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化5】

(式中、R1はハロゲン原子、チオール基、水酸基、またはニトロ基を示す)で表
される1−(2−チエニル)プロパン−1−オン誘導体にカルボニル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素または酵素源を作用させる下記式(2):
【化6】

(式中、R1は前記と同じ)で表される(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体の製造方法において、前記酵素または酵素源が下記(a)または(b)からなる群から選択される微生物:
(a)アシュベイ(Ashbya)属、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属、シテロマイセス(Citeromyces)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、ディポダスカス(Dipodascus)属、ガラクトマイセス(Galactomyces)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、クライシア(Kuraishia)属、リポマイセス(Lipomyces)属、ナカザワエ(Nakazawaea) 属、オガタエア(Ogataea)属、ピキア(Pichia)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ロードスポリディウム(Rhodosporidium)属、ロードトルーラ(Rhodotorula)属、サッカロマイコプシス(Saccharomycopsis)属、サカグチア(Sakaguchia)属、シゾブラストスポリオン(Schizoblastosporion)属、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)属、トリゴノプシス(Trigonopsis)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ワルトマイセス(Waltomyces)属、ウイロプシス(Williopsis)属、ヤマダジーマ(Yamadazyma)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)、セルロモナス(Cellulomonas)、デセムジア(Desemzia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、マイクロバクテリウム(Microbacterium)属、オースコビア(Oerskovia)属、ペクトバクテリウム(Pectobacterium)属、スフェロイデス(Sphaerodes)属、タラロマイセス(Talaromyces)属、ストロファリア(Stropharia)属、スポロトリカム(Sporotrichum)属、ワードマイセス(Wardomyces)属、アミコラトプシス(Amycolatopsis)属、ノノムラエ(Nonomuraea)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、からなる群より選ばれた微生物;
(b)キャンディダ・ボイディニー(Candida boidinii)、キャンディダ・キャンタレリイ(Candida cantarellii)、キャンディダ・グロペンギエッセリー(Candida gropengiesseri)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・メセンテリカ(Candida mesenterica)、キャンディダ・モギー(Candida mogii)、キャンディダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)、キャンディダ・テヌイス(Candida tenuis)、キャンディダ・バーサチリス(Candida versatilis)、ゲオトリカム・エリエンス(Geotrichum eriense)、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、からなる群より選ばれた微生物;
由来のものであることを特徴とする、下記式(2):
【化7】

(式中、R1は前記と同じ)で表される(S)−1−(2−チエニル)プロパン−1−オール誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記酵素または酵素源が、アシュベイ・ゴシッピー(Ashbya gossypii)、ブレタノマイセス・クスタシアヌス(Brettanomyces custersianus)、シテロマイセス・マトリテンシス(Citeromyces matritensis)、クリプトコッカス・ヒュミコラス(Cryptococcus humicolus)、デバリオマイセス・マラムス(Debaryomyces maramus)、デバリオマイセス・カルソニー(Debaryomyces carsonii)、デバリオマイセス・ポリモファス(Debaryomyces polymorphus)、デバリオマイセス・ロバートシ(Debaryomyces robertsiae)、ディポダスカス・テトラスパーマ(Dipodascus tetrasperma)、ディポダスカス・オベテンシス(Dipodascus ovetensis)、ガラクトマイセス・リーシー(Galactomyces reessii)、イサチェンキア・テリコーラ(Issatchenkia terricola)、クライシア・カプスラータ(Kuraishia capsulata)、リポマイセス・スターキー(Lipomyces starkeyi)、ナカザワエ・ホルスティー(Nakazawaea holstii)、オガタエア・ミヌータ・バー・ミヌータ(Ogataea minuta var minuta)、オガタエア・ミヌータ・バー・ノンファーメンタンス(Ogataea minuta var. nonfermentans)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ピキア・ビムンダリス(Pichia bimundalis)、ピキア・バートニ(Pichia burtonii)、ピキア・メンブラニファシエンス(Pichia membranifaciens)、ピキア・ウイッカーハミー(Pichia wickerhamii)、ピキア・キシローサ(Pichia xylosa)、ロドコッカス・ロードクロウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロードスポリディウム・スフェロカープス(Rhodosporidium sphaerocarpum)、ロードスポリディウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、ロードトルーラ・アウランティカ(Rhodotorula aurantiaca)、ロードトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)、ロードトルーラ・グルチニス・バー・グルチニス(Rhodotorula glutinis var. glutinis)、ロードトルーラ・グラミニス(Rhodotorula graminis)、ロードトルーラ・マリナ(Rhodotorula marina)、ロードトルーラ・ムシラギノーサ(Rhodotorula mucilaginosa)、サッカロマイコプシス・マランガ(Saccharomycopsis malanga)、サカグチア・ダシオイデス(Sakaguchia dacryoides)、シゾブラストスポリオン・コバヤシー(Schizoblastosporion kobayasii)、スポロボロマイセス・サルモニカラー(Sporobolomyces salmonicolor)、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)、トルラスポラ・グロボーサ(Torulaspora globosa)、トリコスポロン・アステロイデス(Trichosporon asteroides)、ヤマダジーマ・スピティピス(Yamadazyma stipitis)、ワルトマイセス・リポファー(Waltomyces lipofer)、ウイロプシス・サターナス・バー・ムラッキー(Williopsis saturnus var. mrakii)、ウイロプシス・サターナス・バー・スアベロレンス(Williopsis saturnus var. suaveolens)、チゴサッカロマイセス・バイリー(Zygosaccharomyces bailii)、セルロモナス・エスピー(Cellulomonas sp.)、セルロモナス・フィミー(Cellulomonas fimi)、デセムジア・インサータ(Desemzia incerta)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、クレブシエラ・プランチコーラ(Klebsiella planticola)、マイクロバクテリウム・アーボレセンス(Microbacterium arborescens)、マイクロバクテリウム・イムペリアレ(Microbacterium imperiale)、オースコビア・ジェネンシス(Oerskovia jenensis)、ペクトバクテリウム・カートボラム・サブスピー・カートボラム(Pectobacterium carotovorum subsp. carotovorum)、スフェロイデス・フィミコーラ(Sphaerodes fimicola)、タラロマイセス・トラキスパーマス(Talaromyces trachyspermas)、ストロファリア・ルゴソアヌラータ(Stropharia rugosoannulata)、スポロトリカム・アウランティカム(Sporotrichum aurantiacum)、ワードマイセス・アノマルス(Wardomyces anomalus)、アミコラトプシス・オリエンタリス・サブスピーオリエンタリス(Amycolatopsis orientalis subsp. orientalis)、ノノムラエ・ディエチアエ(Nonomuraea dietziae)、ストレプトマイセス・アルボフラバム(Streptomyces alboflavus)、ストレプトマイセス・コレスセンス(Streptomyces coelescens)、ストレプトマイセス・スペクタビリス(Streptomyces spectabilis)、ロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピー・デキストラニカム(Leuconostoc mesenteroides subsp. dextranicum)、ロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピー・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides)、ペディオコッカス・パーブラス(Pediococcus parvulus)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、からなる群から選択される微生物由来のものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
1がハロゲン原子もしくはメチルアミノ基である、請求項1もしくは2に記載の製造方法。
【請求項4】
酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(NAD+)、及び/または、酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)をそれぞれの還元型へ還元する酵素と、該還元のための基質を共存させて作用させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
還元型へ還元する前記酵素がグルコース脱水素酵素であり、還元のための前記基質がグルコースである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
還元型へ還元する前記酵素がギ酸脱水素酵素であり、還元のための前記基質がギ酸である、請求項4に記載の製造方法

【公開番号】特開2011−19419(P2011−19419A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165552(P2009−165552)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】