説明

3−クロロ−4−メチル安息香酸イソプロピル及びその製造方法

【課題】機能性高分子材料や農薬・医薬品等の合成中間耐として有用な3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】4-メチル安息香酸クロライドを塩素及びルイス酸触媒の存在下に核塩素化し、得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドをイソプロピルアルコールでエステル化し(1)で表わされる3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規物質である3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを提供することにあり、また、この3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを工業的に高収率で、かつ、高純度で製造することができる3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの製造方法を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルは、ベンゼン環にメチル基、クロロ基、及びエステル基が置換した三置換芳香族化合物であり、芳香族ポリアミドや芳香族ポリエステル等の機能性高分子材料の合成中間体として期待されるほか、近年着目されている農園芸用の殺虫剤や殺菌剤等の農薬や医薬品製造の合成中間体として有用な6-アリールオキシキノリン誘導体を製造するための中間体としても有用な物質である。
【0003】
ここで、特許文献1には、農薬製造の合成中間体として有用な6-アリールオキシキノリン誘導体を製造する際に、その合成中間体として下記式(4)で表される5-クロロ-4-メチル-2-ニトロ-安息香酸イソプロピルを用いることを教える記載や、この5-ハロゲノ-4-アルキル-2-ニトロ-安息香酸エステル(化合物4)が5-ハロゲノ-4-アルキル-安息香酸エステルのベンゼン核の2−位にニトロ基を導入するニトロ化反応により製造できることを示唆する記載が認められる。
【0004】
【化1】

【0005】
そして、この特許文献1には、5-ハロゲノ-4-アルキル-2-ニトロ-安息香酸エステルの製造原料となる5-ハロゲノ-4-アルキル-安息香酸エステルについて、一般に購入することが可能であると記載されている。しかしながら、この特許文献1には、5-ハロゲノ-4-アルキル-安息香酸エステルが具体的にどのようにして入手可能かは記載されておらず、また、特に3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルについては、様々な安息香酸エステル誘導体が具体的に知られているにもかかわらず、その製造方法も含めて、具体的には知られていない。
【0006】
ところで、上述したベンゼン環にメチル基、クロロ基、及びエステル基を有する三置換芳香族化合物を製造するに際しては、ベンゼン環に導入されたこれら置換基の種類及びその数と配置により、製造中間体となる物質の物性、反応性、配向性(位置選択性)等の理化学的な性質が大きく異なるほか、後工程での処理の方法も大きく異なり、大量に生産することや得られた三置換芳香族化合物の高純度化が求められる工業的生産においては、どのような原料を選択し、また、どのような順序でこれらの置換基を導入するかは極めて重要な問題である。
【0007】
そして、このようなベンゼン環にメチル基、クロロ基、及びエステル基が置換した三置換芳香族化合物を合成しようとする場合、一般的には、出発原料として入手が容易な4-メチル安息香酸を用い、この4-メチル安息香酸を四塩化炭素等の溶媒に溶解し、反応溶媒中で核塩素化して3-クロロ-4-メチル安息香酸を合成し、次いで得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸を塩化チオニルと反応させて3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドを合成し、更に3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドをイソプロピルアルコール中に滴下してエステル化し、目的物の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを合成する合成ルートが考えられる。
【0008】
しかるに、このような合成ルートは、実験室的には容易に成立するものではあるが、大量に生産することや、得られた三置換芳香族化合物の高純度化が求められる工業的生産においては、原料として用いる4-メチル安息香酸やその核塩素化生成物である3-クロロ-4-メチル安息香酸が共に高融点物質であることから、これらの物質を原料とする合成反応にはこれらの物質を溶解するための多量の溶剤を必要とし、必然的に反応混合物から使用した溶剤を除去する操作が必要になるほか、反応原料と反応生成物との間の融点・沸点・昇華点が近接し、反応生成物の分離精製が困難になって高純度化に多大な手間とコストを要すると共に、各反応工程の間で中間体を一時保管した際に容易に固化し、次の反応工程に進む際には再び融解する必要がある等の問題が生じる。加えて、3-クロロ-4-メチル安息香酸から3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドを合成する際に塩化チオニルを用いる必要があることから、得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド中には硫黄系物質が不純物として存在し、この3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドを用いて合成される目的物の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル中に硫黄系物質が不純物として混入することも予想される。
【0009】
なお、特許文献2には、4-メチル安息香酸クロライドを塩素及びルイス酸触媒の存在下に核塩素化し、3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドを製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 2010/007,964号公報
【特許文献2】特開平07-330,663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明者らは、新規物質であって機能性高分子材料や農薬・医薬品等の合成中間体として有用な3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを工業的に有利に製造するための方法について鋭意研究を重ねた結果、ベンゾトリクロライドや塩化チオニル等を用いた4-メチル安息香酸の塩素化により工業的に容易に得られる4-メチル安息香酸クロライドを用い、この4-メチル安息香酸クロライドの核塩素化により3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドを製造し、得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド中にイソプロピルアルコールを滴下してエステル化することにより、高純度の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを高収率で工業的に容易に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明の目的は、新規物質であって機能性高分子材料や農薬・医薬品等の合成中間体として有用な3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドとイソプロピルアルコールとを反応させ、高純度の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを高収率で工業的に有利に製造することができる3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの製造方法を提供することにある。
【0014】
更に、本発明の目的は、4-メチル安息香酸クロライドを原料にして、高純度の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを高収率で工業的に有利に製造することができる3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表わされる3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルである。
【0016】
【化2】

【0017】
また、本発明は、下記式(2)で表わされる3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド中にイソプロピルアルコールを撹拌下に滴下して反応させ、得られた反応生成物を分離精製することを特徴とする3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの製造方法である。
【0018】
【化3】

【0019】
更に、本発明は、下記式(3)で表わされる4-メチル安息香酸クロライドを塩素及びルイス酸触媒の存在下に核塩素化し、得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド中にイソプロピルアルコールを撹拌下に滴下して反応させ、次いで得られた反応生成物を分離精製することを特徴とする3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの製造方法である。
【0020】
【化4】

【0021】
本発明において、製造原料として使用する化合物3の4-メチル安息香酸クロライドは、例えばパラキシレンの空気酸化反応によるテレフタル酸製造時に副生される4-メチル安息香酸をベンゾトリクロライドや塩化チオニル等によって塩素化することにより工業的に容易に製造することができ、高純度のものを容易にかつ安価に入手することができる。
【0022】
そして、本発明においては、下記の如き反応機構により、4-メチル安息香酸クロライド(化合物3)の核塩素化反応により3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド(化合物2)を製造し、次いでイソプロピルアルコールによる化合物2のエステル化反応により、目的物である3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル(化合物1)を製造する。
【0023】
【化5】

【0024】
本発明においては、先ず、4-メチル安息香酸クロライド(化合物3)の核塩素化反応を行い、3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド(化合物2)を製造する。この核塩素化反応は、無溶媒液相反応であり、塩化第二鉄等のルイス酸触媒の存在下に、撹拌下に塩素ガスを原料の4-メチル安息香酸クロライド中に吹き込むことによって行われる。
【0025】
この核塩素化反応の反応条件は、通常、反応温度が20℃以上160℃以下、好ましくは40℃以上60℃以下である。この反応温度が20℃より低いと、反応率が低下して収率が悪くなり、原料を回収するための負荷が多くなる。また、反応温度が160℃より高くなると、ジクロロ体等の過塩素化物の生成量が増加し、目的物である3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドの選択率が低下する。この核塩素化反応は、4-メチル安息香酸クロライドが液体であることから、好ましくは溶媒を用いずに無溶媒で行うのがよい。
【0026】
また、反応混合物からの3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドの分離精製は、通常、蒸留圧力5mmHg以上30mmHg以下、好ましくは5mmHg以上10mmHg以下の減圧蒸留によって行われる。また、この減圧蒸留は、蒸留塔の塔底温度が120〜150℃の範囲で行われ、この減圧蒸留によって、未反応原料の4-メチル安息香酸クロライドと生成物の3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドとが留出物として回収される。そして、この減圧蒸留において、原料の4-メチル安息香酸クロライドは、初留として回収され、核塩素化反応の反応容器へ循環し、核塩素化反応に再利用することができ、また、副生したジクロロ体等の過塩素化物は、高沸点化合物として塔底から除去される。
【0027】
上記4-メチル安息香酸クロライド(化合物3)の核塩素化反応は逐次反応であるが、この核塩素化反応において、ルイス酸触媒として塩化第二鉄(FeCl3)を用い、この塩化第二鉄の使用量を原料の4-メチル安息香酸クロライド(化合物3)に対して0.1重量%以上1.0重量%以下、好ましくは0.2重量%以上0.4重量%以下の範囲内とすると共に、塩素導入量を原料の4-メチル安息香酸クロライドに対して0.5倍モル以上であり、好ましくは0.9倍モル以上1.1倍モル以下とし、また、反応終了後速やかに窒素置換を実施して反応容器内の未反応塩素を速やかに反応系外に排出すると共に、反応終点の塩素化度を0.88以上0.91以下に制御することにより、モノクロロ体/ジクロロ体の生成比を顕著に向上させることができ、結果として核塩素化反応の生成物である3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド(化合物2)の収率を向上させ、ひいては4-メチル安息香酸クロライド(化合物3)を原料として得られる目的物の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル(化合物1)の収率を顕著に向上させることができる。例えば、特開平07-330,663号公報記載の実施例においてはモノクロロ体/ジクロロ体の生成比が31.0であるところ、本発明の反応条件を採用することにより、実施例で示されているように、モノクロロ体/ジクロロ体の生成比を38.6にまで向上させることができる。なお、4-メチル安息香酸クロライド(化合物3)の核塩素化反応を制御する際に用いる塩素化度は、化合物3のベンゼン核に結合している4つの水素原子のうちの幾つが塩素原子に置換したかを平均値で示した値である。
【0028】
このように得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド(化合物2)は、次にイソプロピルアルコールとのエステル化反応により、目的物である3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル(化合物1)となる。ここで、この3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを製造する際のエステル化反応においては、3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド中にイソプロピルアルコールを撹拌下に滴下して反応させることが必要である。
【0029】
酸クロライドとアルコールとを反応させるエステル化反応においては、一般的には、過剰量のアルコール中に酸クロライドを撹拌下に滴下するが、過剰量のイソプロピルアルコール中に3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドを滴下してエステル化すると、このエステル化反応により副生した塩化水素ガスがイソプロピルアルコールと反応して水やオレフィン化合物等の不純物が生成し、この生成した水は原料の3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドを加水分解し、結果として目的物の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの収率を著しく低下させるほか、オレフィン化合物由来の不純物が生成する。本発明では、3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド中にイソプロピルアルコールを撹拌下に滴下することにより、上述した水やオレフィン化合物等の不純物の生成を抑制することができ、反応終了後の反応混合物中に不純物がほとんど認められず、また、蒸留精製によって反応混合物中から高純度の目的物質を容易に得ることができる。
【0030】
この3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド(化合物2)のイソプロピルアルコールによるエステル化反応において、イソプロピルアルコールの使用量は3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドに対して理論量の0.9倍モル以上1.2倍モル以下、好ましくは1.0倍モル以上1.05倍モル以下であるのがよく、0.9倍モルより少ないと、原料の3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドが残存し、また、1.2倍モルより多くなると、原料の3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドと発生した水とが加水分解反応をして不純物の3-クロロ-4-メチル安息香酸が副生する。なお、このエステル化反応においては、過剰量のイソプロピルアルコールの使用は必要がなく、3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド中にイソプロピルアルコールを滴下するので、反応容器に対する容積効率が高くて経済的である。
【0031】
また、このエステル化反応における反応温度については、通常60℃以上140℃以下、好ましくは80℃以上120℃以下であり、60℃より低いと、反応性が低下し、反応終了までの所要時間が長くなり、反対に、140℃より高くなると、高沸点化合物が生成して収率が低下する。
【0032】
そして、エステル化反応終了後の反応混合物から3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル(化合物1)を分離精製する方法は、通常、蒸留によって行われる。この蒸留精製は、通常5mmHg以上30mmHg以下、好ましくは5mmHg以上10mmHg以下の減圧下に、塔底温度150℃以上190℃以下、好ましくは160℃以上180℃以下で行われる。この蒸留精製によって、未反応原料の3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド及びイソプロピルアルコールと生成物の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルとが留出物として回収される。そして、この蒸留精製において、初留として回収される原料の3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド及びイソプロピルアルコールについては、エステル化反応の反応容器へ循環して再びエステル化反応に利用することができ、また、不純物等の高沸点化合物は塔底から容易に除去される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルは、機能性高分子材料や農薬・医薬品等の合成中間体として有用な新規物質であり、特に医農薬中間体として有用な6-アリールオキシキノリン誘導体を製造する際の合成中間体である5-クロロ-4-メチル-2-ニトロ-安息香酸イソプロピル(化合物4)の重要な中間体である。
【0034】
また、本発明方法によれば、安価で容易に入手し得る4-メチル安息香酸クロライドを用い、また、ルイス酸触媒として入手が容易で取扱い易い塩化第二鉄を用い、無溶媒液相反応で高純度の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルを高収率で製造することができ、原料、反応装置、及び経済性等の観点から工業的に非常に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施例及び参考例に基づいて、本発明の内容を具体的に説明する。
【0036】
〔実施例〕
〔3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドの製造〕
還流コンデンサー及び排ガス水洗浄装置を付設した1000ml褐色反応フラスコ中に、ガスクロ百分率99.7%の4-メチル安息香酸クロライド927.6g(6.0mol)と、塩化第二鉄2.9g(0.3重量%)とを仕込み、反応温度を50〜55℃に保ちながら撹拌下に塩素ガスを18.9g/hrの流速で導入し、22時間反応を行った。この際に、塩素導入量を1.0とし、また、反応終了後速やかに窒素置換を実施して反応容器内の未反応塩素を速やかに反応系外に排出すると共に、反応終点の塩素化度を0.90に制御した。
【0037】
反応終了後に得られた反応液混合物の収量は1113.0gであり、その組成は、ガスクロ百分率で、未反応の4-メチル安息香酸クロライドが12.4%、目的の3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドが84.9%、目的物の異性体である2-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドが0.1%、副反応生成物であるジクロロ-4-メチル安息香酸クロライドが2.2%であって、モノクロロ体/ジクロロ体の生成比(84.9/2.2)が38.6であった。また、排ガス水洗浄装置において回収された塩化水素量は196.4g(5.4mol)であり、未反応塩素量は33.3g(0.5mol)であった。
【0038】
上記反応混合物を圧力10mmHg及び塔底温度165℃の条件で減圧蒸留し、無色液体の3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド775.1gを得た。得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドの純度は、ガスクロ百分率で99.8%であり、収率は70.4%であった。
【0039】
〔3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの製造方法〕
以上のようにして得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド775.1g(4.1mol)を反応容器に仕込み、反応温度を78〜80℃に維持しながら撹拌下にイソプロピルアルコール258.7g(4.3mol;対3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドのモル比1.05倍量)を86g/hrの速度で約3時間かけて滴下し、反応終了後に温度を120℃に段階的に昇温させて維持して10時間熟成させた。
【0040】
得られた反応混合物の収量は926.7gであり、その組成は、ガスクロ百分率で、未反応のイソプロピルアルコールが1.3%であって、目的の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルが98.3%であった。また、排ガス水洗浄装置において回収された塩化水素量は156.9gであった。
【0041】
上記反応混合物を圧力10mmHg及び塔底温度180℃の条件で減圧下に蒸留精製し、無色液体の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル685.8gを得た。得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの純度はガスクロ百分率で99.8%であり、収率は74.0%であった。
【0042】
〔3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの構造解析〕
この実施例で得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルについて、以下の理化学的特性を測定した。
【0043】
(1)赤外吸収スペクトル
測定装置として赤外分光装置(HORIBA社製:FT-720)を用いた。
また、特徴的な吸収として、以下のような吸収(cm-1)が観察された。
1716, 1606, 1490, 1387, 1182, 833
【0044】
(2)マススペクトル
測定装置として質量分析装置(島津製作所社製:GCMS-QP5050A)を用いた。
また、特徴的なピークとして、以下のピーク(m/e)が観察された。
212(M+), 170, 153(base)
【0045】
(3)1H-NMRスペクトル(σppm from TMS, in CDCl3
測定装置として核磁気共鳴装置(Bruker社製:DRX-500)を用いた。
また、特徴的なピークとして、以下のピーク(ppm)が観察された。
1.36ppm(6H, d), 2.41ppm(3H, s), 5.24ppm(1H, m), 7.27ppm(1H, d), 7.81ppm(1H, m), 7.98ppm(1H, d)
【0046】
(4)13C-NMRスペクトル(σppm from TMS, in CDCl3
20.285ppm, 21.927ppm, 68.662ppm, 127.696ppm, 130.082ppm, 130.223ppm, 130.792ppm, 134.454ppm, 141.168ppm
【0047】
〔比較例〕
イソプロピルアルコール98.0g(1.6mol;対3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライドのモル比2.0倍量)を反応容器に仕込み、反応温度を78〜80℃に維持しながら撹拌下に、上記実施例で調製した3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド152.1g(0.8mol)を50.7g/hrの速度で約3時間かけて滴下し、反応終了後に温度を140℃に維持して4時間熟成させた。
【0048】
得られた反応混合物の収量は228.0gであり、その組成は、ガスクロ百分率で、未反応のイソプロピルアルコールが21.7%であって、目的の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルが77.5%であり、これら以外に不純物として3-クロロ-4-メチル安息香酸が0.6%認められた。また、排ガス水洗浄装置において回収された塩化水素量は15.2(0.4mol)gであった。
【0049】
上記反応混合物を圧力60mmHg及び塔底温度60℃の条件で減圧下に蒸留精製し、過剰のイソプロピルアルコールを留出させて無色液体の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル161.0gを得た。得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの純度はガスクロ百分率で99.2%であり、収率は70.6%であった。また、この比較例で得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルは、その保存中に3-クロロ-4-メチル安息香酸が析出した。
【0050】
なお、この比較例においては、得られた反応混合物を蒸留精製して3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルまで留出させると、蒸留精製中に過剰のイソプロピルアルコール中に溶存した塩化水素が発生して真空ポンプを腐食させたり、あるいは、この真空ポンプの腐食を防止するために塩化水素除去設備を付設する必要があり、また、蒸留精製過程で釜残量が減少すると3-クロロ-4-メチル安息香酸が析出して蒸留釜の壁面に付着し、蒸留設備のメンテナンスに多大なコストを要するほか、この問題をできるだけ回避しようとすると釜残量が多くなって収率が低下し、生産性が悪化するという反応混合物の蒸留精製過程での不可避的な問題があるが、上記本発明の実施例によれば、このような反応混合物の蒸留精製過程での問題を回避することができる。
【0051】
〔参考例〕
〔5-クロロ-4-メチル-2-ニトロ安息香酸イソプロピルの製造〕
上記実施例で得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル50.0g(0.24mol)を反応容器に仕込み、反応温度を10〜12℃に保ちながら撹拌下に混酸〔濃硝酸25.7g(0.28mol、対3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルmol比1.2倍)、濃硫酸55.3g(0.56mol、対3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルmol比3.0倍)〕81.0gを0.5時間かけて滴下し、その後20℃に保ちながら2時間熟成させた。
【0052】
得られた反応混合物の収量は139.1gであり、その組成は、ガスクロ百分率で、未反応の3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルが3.5%であり、目的の5-クロロ-4-メチル-2-ニトロ安息香酸イソプロピルが73.8%であり、目的物の異性体(2種類)がそれぞれ11.1%及び11.6%であった。
【0053】
次に、上記反応混合物にジクロロメタン60.0gを添加させ抽出分離し、有機相117.4gを得た。この有機相に水60.0gを添加して1回目の水洗をし、次に10%炭酸ナトリウム水溶液27.7gと水79.5gをpH計で数値を確認しながら添加して酸分を中和し、更に水60.0gを添加して2回目の水洗をして、有機相121.6gを得た。
【0054】
このようにして得られた有機相121.6gに硫酸ナトリウム15.0gを添加して静置し、濾過した。次いで得られた濾液を蒸留してジクロロメタンを留出させ、粗結晶の5-クロロ-4-メチル-2-ニトロ安息香酸イソプロピルエステル52.9gを得た。得られた粗結晶のうち、5-クロロ-4-メチル-2-ニトロ安息香酸イソプロピルエステルの純度はガスクロ百分率で74.3%であり、ここまでの収率は87.3%であった。
【0055】
上記で得られた粗結晶5-クロロ-4-メチル-2-ニトロ安息香酸イソプロピル5gに、再結晶溶媒としてメチルシクロヘキサン19gを添加し、60℃で加熱溶解させた後、空冷にて晶析させた。得られた固液を減圧濾過し、微黄色結晶の5-クロロ-4-メチル-2-ニトロ安息香酸イソプロピル2.6gを得た。得られた5-クロロ-4-メチル-2-ニトロ安息香酸イソプロピルは、その純度がガスクロ百分率で99.5%であり、再結晶時の収率は42.1%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピル。
【化1】

【請求項2】
下記式(2)で表わされる3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド中にイソプロピルアルコールを撹拌下に滴下して反応させ、得られた反応生成物を分離精製することを特徴とする3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの製造方法。
【化2】

【請求項3】
下記式(3)で表わされる4-メチル安息香酸クロライドを塩素及びルイス酸触媒の存在下に核塩素化し、得られた3-クロロ-4-メチル安息香酸クロライド中にイソプロピルアルコールを撹拌下に滴下して反応させ、次いで得られた反応生成物を分離精製することを特徴とする3-クロロ-4-メチル安息香酸イソプロピルの製造方法。
【化3】


【公開番号】特開2013−28559(P2013−28559A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165361(P2011−165361)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】