説明

4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルの不斉還元法

4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを、光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを製造する方法において、特定の亜鉛化合物および光学活性ジアミン化合物の存在下、シラン剤と反応させることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルから、光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記構造式
【0003】
【化1】

【0004】
で表される4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸、その光学活性体またはその医薬上許容される塩類を有効成分とする組成物は、糖尿病性の神経障害、腎症、眼障害および動脈硬化の予防および治療に有用である(特許文献1参照)。また、そのジアステレオマーエステルを経由するラセミ体の光学分割方法は公知である(特許文献2参照)。
【0005】
ところで、置換基を有するベンゾフェノン誘導体のカルボニル基を不斉還元する方法としては、4−シアノ−4’−メトキシベンゾフェノンをルテニウム触媒存在下で水素移動型還元反応(非特許文献1参照)や、ルテニウム−BINAP触媒存在下での水素添加反応(非特許文献2参照)、さらに光学活性アミノアルコール誘導体を配位子とする水素化ホウ素試薬や水素化アルミニウム試薬を用いる方法が知られている(非特許文献3)。しかしながら、2および6位、ならびに2’位に置換基を有する下記一般式(I)
【0006】
【化2】

【0007】
(式中、COORは、カルボン酸またはカルボン酸エステルを示す。)で表されるベンゾフェノン誘導体のように、オルト位に複数の置換基を有するため立体障害の大きいカルボニル基を、効率よく不斉還元する方法については知られていない。
【0008】
近年、シラン(Silane)やシロキサン(Siloxane)等のシラン剤を水素源とするイオン性水素添加法(Ionic Hydrogenation)が注目されている(非特許文献4参照)。このヒドロシリル化反応では、銅やチタン等を中心金属とする不斉金属錯体を共存させることにより、反応系内で水素化金属を生じさせるという緩和な条件下で不斉ヒドロシリル化反応を行うことができる(非特許文献5〜7参照)。しかしながら、この不斉ヒドロシリル化反応を、一般式(I)で表される化合物のように、カルボニル基とカルボキシル基やアルコキシカルボニル基とを分子内に有する化合物に適用すると、カルボニル基だけでなくカルボキシル基やアルコキシカルボニル基までも還元してしまうことがある(非特許文献5参照)。
【0009】
最近、H.Mimounらは、光学活性ジアミンを配位子とした亜鉛触媒存在下でポリメチルハイドロシロキサン(PMHS)等のシラン剤を用いるカルボニル基の不斉還元反応を報告した(非特許文献8、9、10および特許文献3参照)。しかしながら、いずれの文献においても、置換基を有するベンゾフェノン誘導体、特にオルト位に複数の置換基を有するベンゾフェノン誘導体のように立体障害の大きいカルボニル基の不斉還元反応については報告されていない。
【特許文献1】国際公開第97/24333号パンフレット
【特許文献2】特開2000―290259号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.、第118巻、第2521−2522頁、1996年
【非特許文献2】Org.Lett.、第2巻、第659−662頁、2000年
【非特許文献3】Angewandte Chemie International Edition in English、第37巻、第1986−2012頁、1998年
【非特許文献4】Synthesis、第633−651頁、1974年
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.、第121巻、第9473―9474頁、1999年
【非特許文献6】Journal of Organometallic Chemistry、第624巻、第367―371頁、2001年
【非特許文献7】J.Am.Chem.Soc.、第123巻、第12917―12918頁、2001年
【非特許文献8】J.Am.Chem.Soc.、第121巻、第6156―6166頁、1999年
【非特許文献9】J.Org.Chem.、第64巻、第2582―2589頁、1999年
【非特許文献10】Tetrahedron、第60巻、第1781−1789頁、2004年
【特許文献3】特表2001−515875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを、効率的に光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルへ不斉還元する方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを、特定の亜鉛化合物および光学活性ジアミン化合物の存在下、シラン剤と反応させることにより、効率的に不斉還元反応が進行することを知り、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、(1) 下記一般式(I)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、COORは、カルボン酸またはカルボン酸エステルを示す。)で表される4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルから、下記一般式(II)
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、COORは前記と同義であり、*が付された炭素原子は不斉炭素原子である。)で表される光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを製造する方法において、一般式(I)で表される化合物を下記一般式(III)
【0017】
【化5】

【0018】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、低級アルキル基、低級アルコキシ基を示すか、またはRおよびRが一緒になって置換基を有していてもよいアルキレンジオキシ基を示す。)
で表される亜鉛化合物および下記一般式(IV)
【0019】
【化6】

【0020】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、低級アルキル基を示す。Rは、置換基を有していてもよいアリール基を示す。Rは、置換基を有していてもよいアリール基または低級アルキル基を示す。Xは、アルキレン基またはシクロアルキレン基を示す。*’が付された2つの炭素原子は、一方または両方が不斉炭素原子である。)で表される光学活性ジアミン化合物の存在下、シラン剤と反応させることを特徴とする方法。
(2) Rが、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基または環上および/もしくは鎖上に置換基を有していてもよいアラルキル基であることを特徴とする(1)記載の方法。
(3) RおよびRが、それぞれ独立して、低級アルキル基であることを特徴とする(1)または(2)記載の方法。
(4) さらに、アルコールまたはグリコールの存在下で反応させることを特徴とする(3)記載の方法。
(5) 光学活性ジアミン化合物が、下記一般式(V)
【0021】
【化7】

【0022】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
で表されるN,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン化合物またはその光学異性体であることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。
(6) N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン化合物が、(R,R)−N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミンまたは(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4−ブロモフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミンであることを特徴とする(5)記載の方法。
(7) シラン剤が、トリメチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、フェニルシラン、ジフェニルシラン、メチルフェニルシラン、ジメチルフェニルシラン、ジエチルフェニルシラン、メチルジフェニルシラン、tert-ブチルジメチルシラン、tert-ブチルジフェニルシラン、トリメトキシシラン、ジエトキシシラン、トリエトキシシラン、トリブトキシシラン、トリフェノキシシラン、(トリメチルシロキシ)ジメチルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、トリイソプロポキシシラン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン、トリス(トリメチルシリル)シランおよびポリメチルハイドロシロキサンよりなる群から選ばれたものであることを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸エステルを、ジ低級アルキル亜鉛および一般式(V)で表される光学活性ジアミン化合物の存在下、ポリメチルハイドロシロキサンと反応させることを特徴とする光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸エステルの製造方法。
(9) さらに、アルコールまたはグリコールの存在下で反応させることを特徴とする(8)記載の方法。
(10) さらに、エーテルの存在下で反応させることを特徴とする(9)記載の方法、に存する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る方法によれば、高選択的、かつ高収率で4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルのカルボニル基を不斉還元して、光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明で用いる一般式(I)で表される化合物のCOORとしては、カルボン酸エステルが好ましい。Rのアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシルおよびヘプチル基等のアルキル基が挙げられ、炭素数1〜7の直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましい。
【0025】
アルキル基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子;後述するシクロアルキル基;後述する低級アルコキシ基などが挙げられる。
【0026】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチルおよびシクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基が挙げられる。
【0027】
シクロアルキル基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、後述する低級アルキル基および低級アルコキシ基などが挙げられる。
【0028】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、3−フェニルプロピルおよびナフチルメチル基等が挙げられる。
【0029】
アラルキル基が有していてもよい鎖上または環上の置換基としては、それぞれ、例えば、ハロゲン原子、低級アルキル基および低級アルコキシ基等が挙げられる。
【0030】
一般式(I)で表される化合物のCOORがカルボン酸エステルである化合物は、特許文献2に記載されている4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸を公知のエステル化反応に付して製造すればよい。
【0031】
亜鉛化合物において、RまたはRの低級アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルおよびイソブチル基等の炭素数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0032】
低級アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシおよびイソブトキシ基等の炭素数1〜4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基が挙げられる。
【0033】
アルキレンジオキシ基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、また鎖上にフェニル基等の置換基を有していてもよい。アルキレンジオキシ基としては、例えば、エチレンジオキシ、プロピレンジオキシ、トリメチレンジオキシ、テトラメチレンジオキシ、ペンタメチレンジオキシ、1,3−ジメチルトリメチレンジオキシ、1,2−シクロヘキサンジオキシおよび1,2−ジフェニルエチレンジオキシ基等が挙げられる。
【0034】
亜鉛化合物としては、ジ低級アルキル亜鉛化合物が好ましく、例えば、ジメチル亜鉛およびジエチル亜鉛等が挙げられる。
【0035】
光学活性ジアミン化合物において、R、RまたはRの低級アルキル基としては、前述した亜鉛化合物のRまたはRと同じものが挙げられる。また、*’が付された2つの炭素原子は、ともに不斉炭素であるのが好ましい。
【0036】
またはRのアリール基としては、例えば、フェニルおよびナフチル基等が挙げられる。
【0037】
アリール基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、低級アルキルおよび低級アルコキシ基等が挙げられる。
【0038】
アルキレン基としては、例えば、炭素数2〜5のアルキレン基が挙げられ、エチレンまたはトリメチレン基が好ましい。
【0039】
シクロアルキレン基としては、例えば、炭素数4〜8の1,2−シクロアルキレン基が挙げられ、1,2−シクロペンチレンまたは1,2−シクロヘキシレン基が好ましい。
【0040】
光学活性ジアミン化合物は、公知の方法、例えば、テトラヘドロン:アシンメトリー(Tetrahedron:Asymmetry)、第14巻、第3937−3941頁(2003年);テトラヘドロン:アシンメトリー(Tetrahedron:Asymmetry)、第5巻、第699−708頁(1994年);、ジャーナル オブ ジ ケミカル ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)、第121巻、第6158−6166頁(1999年);テトラヘドロン:アシンメトリー(Tetrahedron:Asymmetry)、第5巻、第699−708頁、1994年;テトラヘドロン:アシンメトリー(Tetrahedron:Asymmetry)、第14巻、第3937−3941頁(2003年);テトラヘドロン:アシンメトリー(Tetrahedron:Asymmetry)、第5巻、第699−708頁(1994年);ジャーナル オブ ジ ケミカル ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)、第121巻、第6158−6166頁(1999年);ジャーナル オブ ケミカル ソサイエティ ケミカル コミュニケーションズ(J.C.S.Chem.Comm.)、1409―1410頁(1987年);または非特許文献10等に記載された方法、またはそれに準じた方法により製造することができる。
【0041】
光学活性ジアミン化合物としては、下記一般式(V)
【0042】
【化8】

【0043】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
で表されるN,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン化合物またはその光学異性体が好ましい。
【0044】
上記N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン化合物において、RまたはRの低級アルキル基または低級アルコキシ基としては、前述した亜鉛化合物のRまたはRと同じものが挙げられる。また、アリール基としては、例えば、フェニル基およびナフチル基等が挙げられる。アリール基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、前記低級アルキル基、前記低級アルコキシ基、ニトロ基またはシアノ基等が挙げられる。
【0045】
N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン化合物としては、例えば、(R,R)−N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン、(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4−ブロモフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミン、(S,S)−N,N’−ビス−[1−(4−イソブチルフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミン、(S,S)−N,N’−ビス−[1−(2−フロロビフェニル−4−イル)エチル]エタン−1,2−ジアミン、(S,S)−N,N’−ビス−[1−(6−メトキシナフタレン−2−イル)エチル]エタン−1,2−ジアミン、(R,R)−N,N’−ビス−(1−ナフタレン−1−イルエチル)エタン−1,2−ジアミン、(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4−ニトロフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミン、(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4−シアノフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミン、(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4−メチルフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミン、(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4−tert−ブチルフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミン、(R,R)−N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)プロパン−1,3−ジアミン、(1R,2R,1’R,1’’R)−N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)シクロペンタン−1,2−ジアミン、(R)−N−[1−(4−ブロモフェニル)エチル]−N’−イソプロピルエタン−1,2−ジアミン、(R)−N−ベンジル−N’−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン、(R,R)−N−[1−(4−ブロモフェニル)エチル]−N’−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミンおよび(S,S)−N−[1−(4−イソブチルフェニル)エチル]−N’−(フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン、ならびにこれらの光学異性体が挙げられる。
【0046】
本発明で用いるシラン剤は、ケイ素原子上に水素原子を有するシラン化合物またはシロキサン化合物である。シラン化合物としては、例えば、トリメチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、フェニルシラン、ジフェニルシラン、メチルフェニルシラン、ジメチルフェニルシラン、ジエチルフェニルシラン、メチルジフェニルシラン、tert-ブチルジメチルシラン、tert-ブチルジフェニルシラン、トリメトキシシラン、ジエトキシシラン、トリエトキシシラン、トリブトキシシランおよびトリフェノキシシラン等が挙げられる。また、シロキサン化合物としては、例えば、(トリメチルシロキシ)ジメチルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、トリイソプロポキシシラン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン、トリス(トリメチルシリル)シランおよびポリメチルハイドロシロキサン(PMHS)等が挙げられる。
【0047】
反応は、亜鉛化合物と光学活性ジアミン化合物とを混合した後、4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを混合し、さらにシラン剤を混合することにより行う。
【0048】
通常、4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステル1モルに対して、亜鉛化合物0.001モル以上、光学活性ジアミン化合物0.001モル以上、およびシラン剤1モル以上を反応させる。亜鉛化合物が少なすぎると反応が進行しにくくなるので、0.01モル以上用いるのが好ましい。逆に、多く用いても意味がないので、1モル用いれば十分である。光学活性ジアミン化合物もまた、少なすぎると反応が進行しにくくなるので0.01モル以上用いるのが好ましく、多く用いても意味がないので1モルで十分である。シラン剤が少ないと反応が進行しにくくなるので、1モル以上用いるのが好ましい。逆に多く用いても意味がないので10モルで十分である。このとき、亜鉛化合物1モルに対して、光学活性ジアミン化合物0.2モル以上を反応させるのが好ましい。光学活性ジアミン化合物の比率を大きくしても意味がないので、約1モルを用いれば十分である。なお、亜鉛化合物がジ低級アルキル亜鉛の場合には、これとほぼ等モルの光学活性ジアミンを用いるのが好ましい。
【0049】
反応溶媒は、反応を阻害しないものであれば任意である。例えば、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフランおよび1,4−ジオキサン等のエーテル;N,N’−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。また、これらの混合溶媒を用いても、操作ごとに異なった溶媒を用いてもよい。
【0050】
反応は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性気体の雰囲気で行うのが好ましい。反応温度や反応温度は反応に供する各化合物の種類および量により、適宜、決定すればよい。亜鉛化合物と光学活性ジアミン化合物との混合は、通常0℃から反応溶媒の沸点までの温度、好ましくは室温で、通常1分〜12時間、好ましくは10分〜2時間程度で行えばよい。また、4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルは、そのまま、または反応溶媒に溶解もしくは懸濁させたものを添加し、通常−10〜30℃の温度、好ましくは室温で、通常1分〜1時間、好ましくは5分〜20分程度混合すればよい。シラン剤は、そのまま、または反応溶媒に溶解もしくは懸濁させたものを添加し、通常−10〜30℃の温度、好ましくは室温で、通常1時間〜48時間、好ましくは2時間〜10時間程度混合すればよい。
【0051】
反応は無水条件で行うのが好ましいが、系内に水が存在するときには、反応液中にモレキュラーシーブス(好ましくはMS3A、MS4A)、無水硫酸ナトリウムまたは無水硫酸カルシウム等の脱水剤を添加すればよい。また、選択性や収率を高めるため、活性炭を添加してもよい。
【0052】
なお、亜鉛化合物がジ低級アルキル亜鉛の場合には、アルコールまたはグリコールの存在下で反応を行うと、収率が向上するので好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールおよびイソブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルコールが挙げられる。グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、1,3−ジメチルトリメチレングリコール、シクロヘキサン−1,2−ジオールおよび1,2−ジフェニルエチレングリコール等が挙げられる。反応液中に、1モルの低級アルキル亜鉛に対し、1モル以上10モル以下のアルコールを、または0.5モル以上5モル以下のグリコールを存在させるのが好ましい。アルコールが少なすぎると収率が低くなることがあるので1.5モル以上用いるのが好ましい。逆に多すぎると選択性を下げることがあるので6モル以下で用いるのが好ましい。アルコールと同様、グリコールが少なすぎると収率が低くなることがあるので0.7モル以上用いるのが好ましい。逆に多すぎると選択性を下げることがあるので3モル以下で用いるのが好ましい。
【0053】
アルコールまたはグリコールの存在下で反応を行う場合には、モレキュラーシーブス等の脱水剤の存在下で行うのが好ましい。また、反応溶媒としてジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフランおよび1,4−ジオキサン等のエーテル、特にテトラヒドロフランを単独で、または他の溶媒と併せて用いるのがさらに好ましい。
【0054】
通常、一般式(I)で表されるベンゾフェノン誘導体中のカルボニル基のように、立体障害の大きいカルボニル基の不斉還元においては、反応を速やかに進行させるため、不斉触媒の使用量を増加させている。しかしながら、反応溶媒としてエーテルを用いると、少量の不斉触媒を用いた場合でも、高選択的、かつ高収率で還元反応を進行させることができる。この理由は定かではないが、ジ低級アルキル亜鉛、光学活性ジアミンおよびアルコールまたはグリコールから構成される不斉触媒にエーテル酸素原子の孤立電子対が配位することにより、その触媒を不斉反応に適した構造とし、それを安定化させるためと考えられる。
【0055】
反応液に、水酸化ナトリウム溶液等の塩基、塩酸等の酸またはフッ化カリウム等のフッ化塩を添加することにより、不斉還元反応を終了させる。このとき、メタノール、エタノール等の低級アルコールを加えてもよい。次いで、反応生成液を常法により処理することにより、光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを得ることができる。
【0056】
得られた光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸エステルを、常法にしたがって加水分解することにより、光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸を製造することができる。なお、上記反応の終了後に水酸化ナトリウム溶液等の塩基を用いている場合には、光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸エステルを単離せずに、直接、光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸を得ることもできる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0058】
なお、光学純度は、以下に示すHPLCの条件で測定した値に基づいて算出した。
HPLC分析条件
カラム:YMC−Pack ODS−AM 150x6.0mmI.D.(Pre)+CHIRALCEL OD−RH15x0.46cmI.D.(Post)。
移動相:0.05mol/L過塩素酸ナトリウム水溶液(pH=2.0)/アセトニトリル/メタノール=12/4/1。
流 速:1.0mL/分
波 長:243nm
温 度:25℃付近
分析時間:約65分
保持時間
化合物1:(S)−4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸:約19.5分、
化合物2:(R)−4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸:約21.7分、
化合物3:4―[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸:約58.8分
光学純度および反応移行率
以下に示す光学純度および反応移行率は、以下の計算式に基づいて算出したものである。
【0059】
【数1】

【0060】
【数2】

【0061】
[製造例1]
(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4−ブロモフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミン
(1)氷冷下、(R)−(+)−1−(4−ブロモフェニル)エチルアミン(20.52 g)およびN−メチルモルホリン(10.1g)のトルエン溶液(100mL)に、攪拌下塩化オキザリル(6.5g)を滴下し、さらに1時間攪拌した。反応液に、水(50mL)を滴下することにより析出した結晶を濾取し、メタノールから再結晶して、(R,R)−N,N’−ビス[1−(4−ブロモフェニル)エチル]オキザリルアミド(18.26g,75%)を得た。
融点:280−281℃
IR(KBr、cm−1):3293、1652、1521
EI−MS:454(M
元素分析(C1818Br):理論値[C:47.60、H:3.99、N:6.17]、分析値[C:47.70、H:7.05、N:6.16]
H−NMR(270MHz、DMSO−d)δ:1.42(6H,d,J=6.6Hz)、4.90−4.96(2H,m)、7.29(4H,d,J=8.6Hz),7.49(4H,d,J=8.6H)、9.15(1H,s)、9.19(1H,s)
(2)ボラン・テトラヒドロフラン錯体(1mol/L,113mL)に(R,R)−N,N’−ビス[1−(4−ブロモフェニル)エチル]オキザリルアミド(18.26g)を加えて、還流下4時間攪拌した。反応液に濃塩酸を加え、さらに30分攪拌した後、冷却した。析出した固形物をセライトを用いて濾過し、濾液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、クロロホルムで抽出した。クロロホルム層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。クロロホルムを減圧下留去して得られた油状物を減圧下蒸留して、標題化合物(12.04g、70%)を得た。
沸点:156−158℃/0.02mmHg
IR(neat、cm−1):3308、2961、2925、2851、1590、1486、1404、1120、1070、1009
HNMR(400MHz、DMSO−d)δ:1.17(3H,s)、1.20(3H,s)、2.32(4H,q,J=8.6Hz)、2.6−3.5(2H,br)、7.34(4H,d,J=8.9Hz)、7.46(4H,d,J=8.6Hz)
EI−MS:426(M
元素分析(C1822Br):理論値[C:50.73、H:5.20、N:6.57]、分析値[C:50.51、H:5.23、N:6.55]
[α]25 =+54(c=1、CHOH)。
【0062】
[製造例2]
4−(5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル)−3,5−ジメチル安息香酸メチルエステル
4−(5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル)−3,5−ジメチル安息香酸(9.74g)のメタノール(100mL)懸濁液に塩化チオニル(5.19g)を滴下し、50℃で2時間攪拌した。反応液を減圧濃縮して得られた残留物を酢酸エチルに溶解し、炭酸水素ナトリウム水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。酢酸エチルを減圧留去することにより得られた結晶を酢酸エチル/n-ヘプタン混合溶媒(1:3)から再結晶して標題化合物(7.40g、73%)を得た。
融点:164℃
IR(KBr、cm−1):3120、1716、1686、1510、1434、1311、1236、1222
H−NMR(270MHz、DMSO−d)δ:2.15(6H,s)、2.56(3H,s)、3.87(3H,s)、7.05(1H,s)、7.33(1H、d,J=2.6Hz)、7.57(1H,s)、7.59(1H,d,J=8.6Hz)、7.7
4(2H,s)、7.82(1H,dd,J=2.6、8.6Hz),8.15(1H,s)
EI−MS:348(M
元素分析(C2120):理論値[C:72.40、H:5.79、N:8.04]、分析値[C:72.45、H:5.82、N:8.01]。
【0063】
[製造例3]
4−(5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル)−3,5−ジメチル安息香酸イソプロピルエステル
製造例2において、メタノールに代えて2−プロパノールを用いた以外は製造例2と同様にして標題化合物を得た。
融点:164℃
IR(KBr、cm−1):3078、1710、1674、1306、1225
H−NMR(270MHz、DMSO−d)δ:1.33(6H,d,J=5.9Hz)、2.16(6H,s)、2.57(3H,s)、5.09−5.23(1H,m)、7.07(1H,s)、7.34(1H,d,J=2.6Hz)、7.58(1H,s)、7.60(1H,d,J=7.9Hz)、7.72(2H,s)、7.82(1H,dd,J=2.6,7.9Hz),7.11(1H,s)
EI−MS:376(M
元素分析(C2324):理論値[C:73.38、H:6.43、N:7.44]、分析値[C:73.49、H:6.45、N:7.42]。
【0064】
[実施例1]
アルゴン雰囲気下、(R,R)−N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン(0.77g,2.9mmol)のトルエン溶液(2mL)に、ジエチル亜鉛(1mol/L,2.9mL)を加え、室温下30分間攪拌した。反応液に4―[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸メチルエステル(1.0g,2.9mmol)のトルエン/N,N’−ジメチルホルムアミド混合溶媒(8:3)(10mL)溶液を加え、10分攪拌した。次いで、PMHS(1.12g,17mmol)のトルエン(3mL)溶液を加え、さらに4時間攪拌した。反応液に、氷冷下、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(4mL)を加えて1時間攪拌した後、エタノール(18mL)を加え、78℃でさらに8時間攪拌した。反応液を冷却した後、セライトを用いて固形物を濾過した。濾液に1mol/L塩酸を加えてpH5.0に調整し、析出した結晶を濾過することによって化合物1(0.66g)を得た。
単離収率:68%
反応移行率:100%
光学純度:77%ee。
【0065】
[実施例2]
アルゴン雰囲気下、モレキュラーシーブスMS3A(10mg)、(R,R)−N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン(0.27g,1mmol)およびエチレングリコール(0.06g,1mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(2mL)に、氷冷下、ジエチル亜鉛(1mol/L,1mL)を加えて10分攪拌した。この反応液に4―[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸メチルエステル(0.35g,1mmol)のテトラヒドロフラン(5mL)溶液を加え、20分攪拌した。次いで、反応液にPMHS(0.39g,6mmol)のテトラヒドロフラン(2mL)溶液を加え、室温まで昇温後、さらに6時間攪拌した。反応液に、氷冷下、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(4mL)を加えて1時間攪拌した後、エタノール(18mL)を加え、さらに78℃で3時間攪拌した。反応液を冷却した後、セライトを用いて固形物を濾過した。濾液に1mol/L塩酸を加えてpH5.0に調整し、析出した結晶を濾過することによって化合物1(0.24g)を得た。
単離収率:70%
反応移行率:100%
光学純度:84.2%ee。
【0066】
[実施例3]
アルゴン雰囲気下、モレキュラーシーブスMS3A(10mg)、(R,R)−N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン(26.8mg,0.1mmol)およびエチレングリコール(6.2mg,0.1mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(2mL)に、氷冷下、ジエチル亜鉛(1mol/L,0.1mL)を加えて10分攪拌した。この反応液に4―[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸メチルエステル(0.35g,1mmol)のテトラヒドロフラン(5mL)溶液を加え、20分攪拌した。次いで、反応液にPMHS(0.39g,6mmol)のテトラヒドロフラン(2mL)溶液を加え、室温まで昇温後、さらに6時間攪拌した。反応液に、氷冷下、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(4mL)を加えて1時間攪拌した後、エタノール(18mL)を加え、さらに78℃で3時間攪拌した。反応液を冷却した後、セライトを用いて固形物を濾過した。濾液に1mol/L塩酸を加えてpH5.0に調整し、析出した結晶を濾過することによって化合物1(0.23g)を得た。
単離収率:68%
反応移行率:100%
光学純度:74.1%ee。
【0067】
[実施例4]
アルゴン雰囲気下、モレキュラーシーブスMS3A(20mg)、(R,R)−N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン(71.4mg,0.27mol)およびエチレングリコール(16.5mg,0.27mol)を含むテトラヒドロフラン溶液(2mL)に、氷冷下、ジエチル亜鉛(1mol/L,0.27mL)を加えて10分攪拌した。この反応液に4―[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸イソプロピルエステル(1.0g,2.7mmol)のテトラヒドロフラン(5mL)溶液を加え、20分攪拌した。次いで、反応液にPMHS(0.35g,5.4mmol)のテトラヒドロフラン(2mL)溶液を加え、室温まで昇温後、さらに24時間攪拌した。反応液に、氷冷下、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(4mL)を加えて1時間攪拌した後、エタノール(18mL)を加え、さらに78℃で3時間攪拌した。反応液を冷却した後、セライトを用いて固形物を濾過した。濾液に1mol/L塩酸を加えてpH5.0に調整し、析出した結晶を濾過することによって化合物1(0.76g)を得た。
単離収率:85%
反応移行率:100%
光学純度:70.1%ee。
【0068】
[実施例5]
アルゴン雰囲気下、モレキュラーシーブスMS3A(10mg)、(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4-ブロモフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミン(85.2mg,0.20mol)およびエチレングリコール(12.4mg,0.20mol)を含むテトラヒドロフラン溶液(2mL)に、氷冷下、ジエチル亜鉛(1mol/L,0.20mL)を加えて10分攪拌した。この反応液に4―[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸メチルエステル(0.70g,2.0mmol)のテトラヒドロフラン(2mL)溶液を加え、20分攪拌した。次いで、反応液にPMHS(0.26g,4.0mmol)のテトラヒドロフラン(1mL)溶液を加え、室温まで昇温後、さらに24時間攪拌した。反応液の一部を採取し、氷冷下、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(4mL)を加えて1時間攪拌した後、エタノール(18mL)を加え、さらに78℃で3時間攪拌した。反応液を冷却した後、セライトを用いて固形物を濾過し、濾液に1mol/L塩酸を加えてpH5.0に調整し酢酸エチルを加え、有機層をHPLCで分析した。
反応移行率:26.8%
光学純度:49.6%ee。
【0069】
[実施例6]
アルゴン雰囲気下、モレキュラーシーブスMS3A(20mg)、(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4-ブロモフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミン(0.13g,0.31mol)およびエチレングリコール(19.5mg,0.31mol)を含むテトラヒドロフラン溶液(2mL)に、氷冷下、ジエチル亜鉛(1mol/L,0.31mL)を加えて10分攪拌した。この反応液に4―[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸メチルエステル(0.11g,0.31mmol)のテトラヒドロフラン(1mL)溶液を加え、20分攪拌した。次いで、反応液にPMHS(0.20g,0.31mmol)のテトラヒドロフラン(1mL)溶液を加え、室温まで昇温後、さらに10時間攪拌した。反応液の一部を採取し、氷冷下、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(4mL)を加えて1時間攪拌した後、エタノール(18mL)を加え、さらに78℃で3時間攪拌した。反応液を冷却した後、セライトを用いて固形物を濾過し、濾液に1mol/L塩酸を加えてpH5.0に調整し酢酸エチルを加え、有機層をHPLCで分析した。
反応移行率:19.5%
光学純度:78.7%ee。
【0070】
[比較例1]
ザ ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J.Org.Chem.)、第59巻、第3064―3076頁(1994年)に記載の方法にしたがって調製した(S)−Xyl−BINAP(29.4mg)を、アルゴン雰囲気下、塩化ルテニウム(II)ベンゼン錯体([Ru(C)]Cl)(10.3mg)のDMF(1mL)溶液に加えて100℃で10分間攪拌した。反応液を減圧下濃縮して得られた残留物に、室温下(−)−dpen(8.5mg)の塩化メチレン溶液(2mL)を加えて2時間攪拌した。反応液を減圧濃縮して得られた残留物に、4−(5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル)−3,5−ジメチル安息香酸イソプロピルエステル(0.79g)および水酸化カリウムの2−プロパノール溶液(1mol/L,0.1mL)からなる2−プロパノール−テトラヒドロフラン混合溶媒(1:2)(11.8mL)溶液をオートクレーブに入れ、水素雰囲気下(3MPa)、40℃で16時間攪拌した。反応液を濾過した後、濾液をHPLCで分析したところ、反応移行率は1.3%であった。
【0071】
[比較例2]
実施例1において、4―[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸メチルエステルに代えて、2,4,6,2’−テトラメチルベンゾフェノンを用いた以外は実施例1と同様にして、対応するベンズヒドロール化合物を得た。
単離収率:100%
反応移行率:99%以上
光学純度:84%ee。
【0072】
[比較例3]
比較例1において、4−(5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル)−3,5−ジメチル安息香酸イソプロピルエステルに代えて、2,4,6,2’−テトラメチルベンゾフェノンを用いた以外は比較例1と同様にして、対応するベンズヒドロール化合物を得た。反応移行率は8.1%であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る方法によれば、高選択的、かつ高収率で4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルのカルボニル基を不斉還元して、光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを製造することができる。
なお本出願は、2004年2月27日付で出願された日本特許出願(特願2004−054928号)に基づいており、その全体が引用により援用される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、COORは、カルボン酸またはカルボン酸エステルを示す。)で表される4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルから、下記一般式(II)
【化2】

(式中、COORは前記と同義であり、*が付された炭素原子は不斉炭素原子である。)で表される光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸またはそのエステルを製造する方法において、一般式(I)で表される化合物を下記一般式(III)
【化3】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、低級アルキル基、低級アルコキシ基を示すか、またはRおよびRが一緒になって置換基を有していてもよいアルキレンジオキシ基を示す。)で表される亜鉛化合物および下記一般式(IV)
【化4】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、低級アルキル基を示す。Rは、置換基を有していてもよいアリール基を示す。Rは、置換基を有していてもよいアリール基または低級アルキル基を示す。Xは、アルキレン基またはシクロアルキレン基を示す。*’が付された2つの炭素原子は、一方または両方が不斉炭素原子である。)
で表される光学活性ジアミン化合物の存在下、シラン剤と反応させることを特徴とする方法。
【請求項2】
が、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基または環上および/もしくは鎖上に置換基を有していてもよいアラルキル基であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
およびRが、それぞれ独立して、低級アルキル基であることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
さらに、アルコールまたはグリコールの存在下で反応させることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
光学活性ジアミン化合物が、下記一般式(V)
【化5】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。)で表されるN,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン化合物またはその光学異性体であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミン化合物が、(R,R)−N,N’−ビス−(1−フェニルエチル)エタン−1,2−ジアミンまたは(R,R)−N,N’−ビス−[1−(4−ブロモフェニル)エチル]エタン−1,2−ジアミンであることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
シラン剤が、トリメチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、フェニルシラン、ジフェニルシラン、メチルフェニルシラン、ジメチルフェニルシラン、ジエチルフェニルシラン、メチルジフェニルシラン、tert-ブチルジメチルシラン、tert-ブチルジフェニルシラン、トリメトキシシラン、ジエトキシシラン、トリエトキシシラン、トリブトキシシラン、トリフェノキシシラン、(トリメチルシロキシ)ジメチルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、トリイソプロポキシシラン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン、トリス(トリメチルシリル)シランおよびポリメチルハイドロシロキサンよりなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
4−[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルベンゾイル]−3,5−ジメチル安息香酸エステルを、ジ低級アルキル亜鉛および一般式(V)で表される光学活性ジアミン化合物の存在下、ポリメチルハイドロシロキサンと反応させることを特徴とする光学活性4−[ヒドロキシ[5−(イミダゾール−1−イル)−2−メチルフェニル]メチル]−3,5−ジメチル安息香酸エステルの製造方法。
【請求項9】
さらに、アルコールまたはグリコールの存在下で反応させることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
さらに、エーテル存在下で反応させることを特徴とする請求項9記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/082861
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510457(P2006−510457)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003107
【国際出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】