説明

CADシステム内のオブジェクトの干渉検出方法

【課題】 BIMを実現するCADシステムにおいて、実体的なオブジェクト同士の干渉だけでなく、禁止空間と対象オブジェクトとの干渉も検出する。
【解決手段】 BIMを実現するCADシステム内のオブジェクトの干渉を検出する干渉検出方法は、少なくとも特定のオブジェクトの存在が禁止される仮想的な禁止空間を実体的なオブジェクトとして追加設定することと、禁止空間と存在が禁止される対象オブジェクトとの干渉を検出することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CADシステム内のオブジェクトの干渉検出方法に関する。さらに詳細には、本発明は、BIMを実現するCADシステム内のオブジェクトの干渉を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
BIM(Building Information Modeling:ビルディング インフォメーション モデリング)を実現するCAD(Computer Aided Design:コンピュータ支援設計)システム(以下、「BIMソフト」ともいう)が知られている。BIMソフトでは、コンピュータ上に建物の三次元デジタルモデルを作成し、設計から施工、維持管理に至るまで建築ライフサイクル全体でモデルに蓄積された情報を活用することにより、建築ビジネスの業務を効率化する。
【0003】
BIMソフトは、建物を構成するオブジェクト間の物理的な干渉を検出する機能、換言すると、そのまま施工するとお互いに障害になって実現しない部分を自動的に検出する機能を有する。例えば、この干渉検出機能により梁と配管とが同じ位置を通過すること(部分的に同じ領域を占めること)が判明した場合、少なくともいずれか一方を移動させるか、あるいは梁に貫通孔(スリーブ)を設けて配管を通すことにより解決を図ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のBIMソフトでは、コンピュータ上に作成された実体的なオブジェクト同士の干渉、すなわち建物を実際に構成する要素(躯体を構成する部材、設備機器など)同士の干渉を検出するだけである。その結果、特定のオブジェクトまたはすべてのオブジェクトの存在が禁止される禁止空間に禁止対象となるオブジェクトが存在していても、この禁止空間と対象オブジェクトとの干渉を検出することができない。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであり、BIMを実現するCADシステムにおいて、実体的なオブジェクト同士の干渉だけでなく、禁止空間と対象オブジェクトとの干渉も検出することのできる干渉検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明では、BIMを実現するCADシステム内のオブジェクトの干渉を検出する干渉検出方法であって、
少なくとも特定のオブジェクトの存在が禁止される仮想的な禁止空間を実体的なオブジェクトとして追加設定することと、
前記禁止空間と存在が禁止される対象オブジェクトとの干渉を検出することとを含むことを特徴とする干渉検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、BIMを実現するCADシステムにおいて、少なくとも特定のオブジェクトの存在が禁止される仮想的な禁止空間を実体的なオブジェクトとして追加設定し、この禁止空間と存在が禁止される対象オブジェクトとの干渉を検出する。その結果、本発明では、実体的なオブジェクト同士の干渉だけでなく、禁止空間と対象オブジェクトとの干渉も検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態にかかる干渉検出方法の第1の適用例を概略的に示す図であって、設備機器の周辺空間が禁止空間である例を示している。
【図2】本実施形態にかかる干渉検出方法の第2の適用例を概略的に示す図であって、駐車空間が禁止空間である例を示している。
【図3】本実施形態にかかる干渉検出方法の第3の適用例を概略的に示す図であって、避難通路空間が禁止空間である例を示している。
【図4】本実施形態にかかる干渉検出方法の第4の適用例を概略的に示す図であって、受水槽室の内部空間が禁止空間である例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる干渉検出方法の第1の適用例を概略的に示す図である。図1には、床スラブ11の上に設備機器12が設置されている様子が示されている。設備機器12の上部空間(図1中破線で示す)13には、機器の点検のために配管14のようなオブジェクトを設置することが禁止されている。換言すれば、設備機器12の点検のために、いかなるオブジェクトも存在しない上部空間13を確保しなければならない。
【0010】
図1に示す第1の適用例では、BIMを実現するCADシステムにおいて、いかなるオブジェクトの存在も禁止される禁止空間として、設備機器12の上部空間13を、実体的なオブジェクトとして追加設定する。そして、設備機器12の上部空間13と他のすべてのオブジェクトとの干渉を検出する。その結果、例えば上部空間13と配管14とが干渉していること、すなわち上部空間13を配管14が通過していることを検知することができ、ひいては設計段階において配管14を所要の経路に沿って正しく配置し直すことができる。
【0011】
なお、上述の第1の適用例では、いかなるオブジェクトの存在も禁止される仮想的な禁止空間が、設備機器12の上部空間13である例に基づいて、本発明を説明している。しかしながら、これに限定されることなく、設備機器の周辺空間(前側の空間、後側の空間、横側の空間など)が禁止空間である例に対しても同様に、本発明を適用することができる。
【0012】
図2は、本発明の実施形態にかかる干渉検出方法の第2の適用例を概略的に示す図である。図2には、屋内駐車場20の床スラブ21の上に車両22が駐車している様子が示されている。屋内駐車場20では、車両22の安全な通行を実現するために、床スラブ21から一定の高さ範囲(例えば床上3メートルの範囲)を駐車空間(図2中破線で示す)23として確保する必要がある。
【0013】
図2に示す第2の適用例では、BIMを実現するCADシステムにおいて、いかなるオブジェクトの存在も禁止される禁止空間として、屋内駐車場20に要求される所要の高さを有する駐車空間23を、実体的なオブジェクトとして追加設定する。そして、駐車空間23と他のすべてのオブジェクトとの干渉を検出する。その結果、例えば駐車空間23と照明器具24や配管25とが干渉していることを検知することができ、ひいては設計段階において照明器具24を所要の位置に正しく配置し直し、且つ配管25を所要の経路に沿って正しく配置し直すことができる。
【0014】
図3は、本発明の実施形態にかかる干渉検出方法の第3の適用例を概略的に示す図である。図3には、例えば廊下(または開口部)の形態を有する避難通路30が、床スラブ31の上に設けられている様子が示されている。避難通路30では、人の安全な避難を実現するために、床スラブ31から一定の高さ範囲において所要の幅を有する避難通路空間(図3中破線で示す)32を確保する必要がある。
【0015】
図3に示す第3の適用例では、BIMを実現するCADシステムにおいて、いかなるオブジェクトの存在も禁止される禁止空間として、避難通路30に要求される所要の幅を有する避難通路空間32を、実体的なオブジェクトとして追加設定する。そして、避難通路空間32と他のすべてのオブジェクトとの干渉を検出する。その結果、例えば避難通路空間32と設備機器33とが干渉していることを検知することができ、ひいては設計段階において設備機器33を所要の位置に正しく配置し直すことができる。
【0016】
図4は、本発明の実施形態にかかる干渉検出方法の第4の適用例を概略的に示す図である。図4には、受水槽室40の床スラブ41の上に、受水槽42が設置されている様子が示されている。受水槽室40では、排水配管43を配置することが法令により禁じられている。これは、排水配管43に万一事故があった場合に衛生的に問題があるからである。
【0017】
図4に示す第4の適用例では、BIMを実現するCADシステムにおいて、排水配管の存在だけが禁止される禁止空間として、受水槽室40の内部空間(図4中破線で示す)44を、実体的なオブジェクトとして追加設定する。そして、対象オブジェクトとしての排水配管と内部空間44との干渉を検出する。その結果、例えば上階からの排水配管43と内部空間44とが干渉していることを検知することができ、ひいては設計段階において排水配管43を所要の経路に沿って正しく配置し直すことができる。
【0018】
以上のように、本実施形態では、少なくとも特定のオブジェクトの存在が禁止される仮想的な禁止空間を実体的なオブジェクトとして追加設定することにより、すなわち実体のない空間に物体(オブジェクト)としての概念を付与することにより、実体的なオブジェクト同士の干渉だけでなく、禁止空間と対象オブジェクトとの干渉も検出することが可能である。その結果、設計の不具合の発見に関わる労力を大幅に低減することが可能になるだけでなく、不具合を事前に発見することにより工事のやり直しを回避することが可能になり、ひいては無駄な後戻り工事を排除することが可能になる。
【0019】
なお、上述の説明では、設備機器12の周辺空間、屋内駐車場20の駐車空間23、避難通路30の避難通路空間32、および受水槽室40の内部空間44が禁止空間である例に対して本発明を適用している。しかしながら、これに限定されることなく、少なくとも特定のオブジェクトの存在が禁止される他の仮想的な禁止空間に対しても同様に、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0020】
11,21,31,41 床スラブ
12,33 設備機器
13,23,32,44 禁止空間
14,25 配管
20 屋内駐車場
24 照明器具
30 避難通路
40 受水槽室
43 排水配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BIMを実現するCADシステム内のオブジェクトの干渉を検出する干渉検出方法であって、
少なくとも特定のオブジェクトの存在が禁止される仮想的な禁止空間を実体的なオブジェクトとして追加設定することと、
前記禁止空間と存在が禁止される対象オブジェクトとの干渉を検出することとを含むことを特徴とする干渉検出方法。
【請求項2】
前記禁止空間として、特定の設備機器の周辺空間を設定し、
前記周辺空間と他のすべてのオブジェクトとの干渉を検出することを特徴とする請求項1に記載の干渉検出方法。
【請求項3】
前記禁止空間として、屋内駐車場に要求される所要の高さを有する駐車空間を設定し、
前記駐車空間と他のすべてのオブジェクトとの干渉を検出することを特徴とする請求項1に記載の干渉検出方法。
【請求項4】
前記禁止空間として、避難のための通路に要求される所要の幅を有する避難通路空間を設定し、
前記避難通路空間と他のすべてのオブジェクトとの干渉を検出することを特徴とする請求項1に記載の干渉検出方法。
【請求項5】
前記禁止空間として、受水槽室の内部空間を設定し、
前記対象オブジェクトとしての排水配管と前記内部空間との干渉を検出することを特徴とする請求項1に記載の干渉検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−230577(P2012−230577A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98915(P2011−98915)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】