D−アロースを有効成分とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤およびその利用
【課題】植物のジベレリンシグナル経路を抑制する薬剤および抑制方法を提供する。イネの徒長によりイネが倒伏することを防止し、また、イネの病気による様々な影響を軽減し、米の収量を増加させることが可能な植物の生長抑制剤を提供すること。
【解決手段】D−アロースを有効成分とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤およびD−アロースを植物体に施用する植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。上記植物が、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスからなる群から選ばれた植物である。
【解決手段】D−アロースを有効成分とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤およびD−アロースを植物体に施用する植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。上記植物が、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスからなる群から選ばれた植物である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D−アロースを有効成分とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤に関し、植物の生長を制御することを可能にするものである。ジベレリン(GA)は植物の発芽、伸長生長、花芽形成などを制御する植物ホルモンである。例えば、イネの SLR1タンパクはGA情報伝達を負に制御する転写因子であり、上流からのGAシグナルに依存したSLR1タンパクの分解がGAの引き起こす様々な反応において必須であることが明らかとなっている。D−アロースで処理したイネを用いて、D−アロースのジベレリンシグナル経路に対する影響を検定した結果、D−アロースはHXK(ヘキソキナーゼ)依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路を制御できることが明らかとなった。本発明は、こうしたD−アロースの特性を利用して、植物の生長の制御を可能とするものであり、農業生産技術分野において、例えば、イネの徒長による倒伏や、イネばか苗病による生長過多を防止して、米の収量増加を図ることができる有用な薬剤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
植物ホルモンの一種であるジベレリンは、entジベラン骨格をもつ化合物の総称であるが、幹/節間伸長を含む様々な生物学的プロセスにおいて重要な役割を演じており(非特許文献1及び2参照)、発芽や休眠など作物の重要形質を司るホルモンとして農業上利用されてきた。イネにおける節間伸長は、単子葉植物におけるジベレリンシグナル伝達の典型的なモデル系である。
【0003】
一方、イネの突然変異体eui(elongated upper-most internode)は出穂時に節間を異常に伸長させる表現型を示す。eui植物体のもっとも伸長する上部の節間の内生ジベレリン含量を測定したところ、野生型と比べてGA4の異常な蓄積が認められている。イネ出穂時における節間伸長に関連するイネのゲノム上の遺伝子領域について研究が進められ、節間伸長に関連する遺伝子領域がある程度特定されている(非特許文献3参照)。
【0004】
幾つかの希少糖、例えば、D−プシコース、D−フラクトース、D−アロース、L-ガラクトースが様々な植物の生長調整剤として有効であり、イネなどの病害虫防御関連遺伝子の発現を誘導し、さらには生育調節活性を持つことが明らかになった。例えば、希少糖は植物によって異物と認識され、植物抵抗性遺伝子群を起動し病原菌・病害虫に対する抵抗性増大を促す作用を有する。D−プシコースなどの希少糖を植物病害抵抗性増幅剤として使用する技術に係る発明が特許されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、植物の全身獲得抵抗性の誘導の効果を利用した農薬などの提供、あるいは植物病原菌だけでなく、有害微生物の増殖抑制剤の提供を目的として、植物の全身獲得抵抗性の誘導の効果を利用した農薬、植物病害抑制剤、植物生長調節因子の誘導剤(病害抵抗性、虫害抵抗性、果実の成熟、休眠打破、発芽調節、乾燥耐性、そのほか低温耐性、高温耐性、塩類耐性、重金属耐性などの環境ストレス耐性および開花促進からなる植物ホルモン的な作用の誘導剤)、ならびに、微生物の増殖抑制剤としての使用に係る発明が開示されている(特許文献2参照)。希少糖としては、アルドース(D−アロース、D−アルトロースまたはL−ガラクトース)またはケトース(D−プシコース、またはD−プシコースとD−フラクトースの混合物)などが用いられている。
【0006】
さらに、植物生長調節剤、植物生長調節方法の提供を目的として、希少糖を有効成分とする植物生長調節剤に係る発明が開示されている。希少糖はD−プシコース、D−プシコースとD−フラクトースの混合物、D−アロースおよびL−ガラクトースからなる群から選ばれる希少糖を用いている植物生長調節剤が開示されている(特許文献3参照)。
しかしながら、これらの希少糖の植物に対する作用機構については解明されていなかった。
【0007】
【特許文献1】特許第4009720号公報
【特許文献2】特開2006−8669号公報
【特許文献3】特開2006−188482号公報
【非特許文献1】161-188 (Elsevier Science B.V., 1999)
【非特許文献2】Rev. Plant Biol. 55, 197-223 (2004)
【非特許文献3】(2004)Mol. Gen. Genomics. 272, 149-155
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、上記の従来技術に鑑みて、希少糖の植物に対する生理活性作用の機構を明らかにすることにより、農作物の産生過程において有用な植物生長調整剤を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねることにより、希少糖の中でもD−アロースが植物のジベレリンシグナル経路抑制作用を有することを見出し、更に研究を重ねることにより本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の目的は、D−アロースを主成分とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤を提供することである。また、本発明の目的は、農業場面でのジベレリン作用を抑制したい場面において、植物体にD−アロースを施用して生長を抑制する植物の生長抑制方法、及び生長抑制剤を提供することであり、例えば、イネばか苗病菌が分泌するジベレリンに起因する徒長、節間伸長に係る問題を、D−アロースを汚染籾および植物体に処理することにより解決することを可能とするものである。
【0010】
また、本発明の目的は、農薬の使用量を飛躍的に減少させる可能性のある、植物の全身獲得抵抗性の誘導効果を利用した農薬、植物病害抑制剤、植物生長調節因子の誘導剤を、D−アロースを有効成分とすることにより提供するものである。また、本発明の目的は、D−アロースを、種子、植物の根、茎、葉面、花の組織、細胞などに溶液状態もしくは固体状態で葉面散布、切り枝基部を溶液に浸漬、土壌灌注などの方法により施用して実施する植物生長抑制方法を提供することである。更に具体的には、本発明の目的は、イネの徒長によりイネが倒伏することを防止し、また、イネの病気による様々な影響を軽減し、米の収量を増加させることが可能な植物の生長抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、D−アロースを有効成分とすることを特徴とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤に係るものであり、D−アロースの作用機構は、HXK依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路を抑制する。さらに詳細には、D−アロースは、HXK依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路中のSLR1タンパク系からα-アミラーゼに至までの経路を阻害する。本発明を適用することが可能な植物としては、ジベレリンシグナル経路を有する植物であればその種類などが限定されるものではない。本発明が適用できる植物の例としては、単子葉植物が挙げられ、具体的には、イネ科植物を挙げることができるが、さらに具体的には、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスが挙げられる。また、本発明は、D−アロースにより植物のジベレリンシグナル経路を抑制する植物の生長抑制剤であり、例えば、イネばか苗病による徒長の抑制剤、イネの倒伏防止剤としての用途を挙げることができる。
【0012】
また、本発明は、上記のジベレリンシグナル抑制剤を植物体に施用することにより植物のジベレリンシグナル経路を抑制する方法に関するものであり、例えば、植物体の根、茎、葉、種子、芽、花の組織や細胞にD−アロースを施用することよりなる植物のジベレリンシグナル経路抑制方法である。D−アロースを植物に施用するにあたり、D−アロースは、0.01〜20重量%の溶液の形で施用するのが好ましい。また、D−アロースを農地や培地などに施用するには、例えば、0.1〜1000kg/haとするのが好ましい。また、本発明の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法が適用できる植物の例としては上記の植物が挙げられる。また、本発明は、植物のジベレリンシグナル経路を抑制することによる植物の生長抑制方法に係るものである。本発明は、上記の例示した植物の中で、特にイネの生長抑制方法として、イネばか苗病に罹病したイネの徒長抑制や、イネの倒伏防止や、さらに、芝草の生長を抑制しその状態を適正に保つ方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により次の効果が奏される。
D−アロースはジベレリン(GA)シグナル経路を抑制することを利用して、農業場面でGA作用を抑制したい場面での応用が期待され、GAシグナル経路を有する植物に対して生長抑制作用などを発揮することができる。例えば、イネばか苗病は、病原菌が分泌するGAにより徒長が引き起こされるが、この病原菌に感染した籾をD−アロースで処理することにより、徒長を抑えることが可能となった。
また、D−アロースを植物体に施用することにより生長しすぎによる倒伏の防止や芝草の伸長の防止が可能となる。特に、本発明の生長抑制剤をイネに施用することにより、感染したイネばか苗病などの病気の症状を軽減すること、徒長による倒伏を防止することが達成できることにより、米の収量の増加が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、D−アロース(以下、単に「アロース」とも言う。)と各種植物ホルモン生産・ホルモンシグナル経路との関係について、各種生理作用を検定することにより、その作用メカニズムを解明した結果、D−アロースは植物ホルモン、特にジベレリンのシグナル伝達系を阻害することを見出したことに基づくものである。以下に、D−アロースの作用メカニズムについてその概要を説明する。
【0015】
ジベレリン(GA)は植物の発芽、伸長生長、花芽形成などを制御する植物ホルモンである。近年シロイヌナズナやイネの突然変異体を用いた研究からGA情報伝達に関わる因子がいくつか同定された。イネの生育を促進するホルモン系の研究は、GAの研究が進んでいる。例えば、イネのSLR1タンパクはGA情報伝達を負に制御する転写因子であり、上流からのGAシグナルに依存したSLR1タンパクの分解がGAの引き起こす様々な反応に必須であることが明らかとなっている。そこで、D−アロースを処理したイネで、ヘキソキナーゼ(HXK)の各種阻害剤を用いて、D−アロース作用のシグナル経路を検定した結果、D−アロースの作用はHXK依存性シグナル経路を経ることが明らかとなった。さらに、D−アロースの作用とGA経路との関係を検定した結果、D−アロースで処理することにより生長抑制がかかったイネに対して、GA(ジベレリンA3)で同時処理しても生長抑制が回復しないことから、GA生産はD−アロースにより抑制されていないと考えられた。
【0016】
そこで、GAシグナル系への影響を見るために、GAシグナル経路の活性指標酵素であるα-アミラーゼ活性を測定した結果、D−アロース処理による抑制が認められた。D−アロースの作用はGAの添加で相補されず、またα-アミラーゼ活性が阻害されることから、D−アロースはGAシグナル経路を阻害する可能性が示された。更に、SLR1タンパクとの関係について検定すると、GAは核のGAシグナル抑制タンパクSLR1の分解を促進し、SLR1タンパクの分解によりGAシグナル経路が活性化された。SLR1の欠損変異株であるslr1イネでD−アロースの作用を検定した結果、SLR1欠損により徒長形質を示すslr1株でも、D−アロースは強く抑制作用を示した。上記の結果と欠損変異株slr1を用いた試験結果から、D−アロースは、HXK依存性シグナル経路を経て、GAシグナル経路中のSLR1タンパク系からα-アミラーゼに至るまでの経路を阻害することが明らかとなった。本発明は、このような知見を根拠とするものである。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明に係るD−アロースを有効成分とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤、及びその抑制方法は、ジベレリンシグナル経路を有している植物のいずれにも適用できるが、例えば、単子葉植物のイネ科植物が挙げられ、更に具体的には、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスを挙げることができる。
本発明においては、本発明が適用される植物の中で、イネを典型的な一例として以下に詳細に説明する。
【0018】
本発明で用いるD−アロースは、希少糖研究の中で特に各種生理活性を有することが判明してきた希少糖である。D−アロース(D−アロヘキソース)は、アルドース(アルドヘキソース)に分類されるアロースのD体であり、融点が178℃の六炭糖(C6H12O6)である。このD−アロースの製法としては、D−アロン酸ラクトンをナトリウムアマルガムで還元する方法による製法がある。また、シェイクワット・ホセイン・プイヤンなどによる「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング」第85巻、539ないし541頁(1993年)に記載されている、L−ラムノース・イソメラーゼを用いてD−プシコースから合成する製法が知られている。更に、近年では、特開2002−17392号公報に記載されているように、D−プシコースを含有する溶液にD−キシロース・イソメラーゼを作用させて、D−プシコースからD−アロースを生成する製法が提案されている。この文献に記載されている製法によれば、D−アロースの生産は、未反応のD−プシコースと共に、新たに生成したD−アロースを含有している酵素反応液として得られる。
【0019】
D−アロースに変換可能な基質を酵素反応でD−アロースに変換する際に用いる酵素の種類は限定されないが、D−プシコースからD−アロースを生産することができる酵素「L-ラムノースイソメラーゼ」が好ましいものとして例示される。L-ラムノースイソメラーゼは、「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」第85巻、539乃至541頁(1998年)で発表されている酵素である。L-ラムノースからL-ラムニュロースへの異性化反応ならびにL-ラムニュロースからL-ラムノースへの異性化を触媒する酵素であるL-ラムノースイソメラーゼは、D−アロースとD−プシコースの間の異性化にも作用するので、D−プシコースからD−アロースを生産することができる酵素である。
【0020】
D−アロースまたはD−アロースに他の糖類などと混合した本発明の植物病害防除剤は、そのまま使用してもかまわないが、通常は担体と混合して用いられ、必要に応じて界面活性剤、湿潤剤、固着剤、増粘剤、防腐剤、着色剤、安定剤などの製剤用補助剤を添加して、水和剤、フロアブル剤、顆粒水和剤、粉剤、乳剤などが一般的に知られた方法によって適宜製剤化して用いられる。
【0021】
本発明で用いられる担体は、処理すべき部位への有効成分であるアロースの到達を助け、また有効成分化合物の貯蔵、輸送、取扱いを容易にするために配合される合成または天然の無機または有機物質を意味し、通常農園芸用薬剤に使用されるものであれば固体または液体のいずれでも使用でき、特定の担体に限定されるものではない。例えば、固体担体としては、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイト、珪藻土、白土、タルク、クレー、バーミキュライト、石膏、炭酸カルシウム、非晶質シリカ、硫安などの無機物質、大豆粉、木粉、鋸屑、小麦粉、乳糖、ショ糖、ぶどう糖などの植物性有機物質および尿素などが挙げられる。液体担体としては、トルエン、キシレン、クメンなどの芳香族炭化水素類およびナフテン類、n−パラフィン、iso−パラフィン、流動パラフィン、ケロシン、鉱油、ポリブテンなどのパラフィン系炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、エタノール、プロパノール、エチレングリコールなどのアルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性溶媒および水などが挙げられる。
【0022】
更に、本発明のD−アロースを有効成分とするジベレリンシグナル経路抑制剤の効力を増強するために、製剤の剤型、処理方法などを考慮して目的に応じてそれぞれ単独に、または組み合わせて次のような補助剤を使用することもできる。補助剤として通常農薬製剤に乳化、分散、拡展、湿潤などの目的で使用される界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、高級アルコールのポリオキシアルキレン付加物、ポリオキシエチレンエーテル、エステル方型シリコン、およびフッ素系界面活性剤などの非イオン性界面活性剤;アルキルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールイミン、アルキルホスフェート、トリポリ燐酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;アクリル酸とアクリロニトリル、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸から導かれるポリアニオン型高分子界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、メチルポリオキシエチレンアルキルアンモニウムクロライド、アルキルN−メチルピリジニウムブロマイド、モノメチル化アンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤;ジアルキルジアミノエチルベンタイン、アルキルジメチルベンジルベンタインなどの両性界面活性剤;などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
結合剤としては、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、CMCナトリウム、ベントナイトなどが挙げられる。崩壊剤としては、CMCナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、安定剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤やベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の紫外線吸収剤などが挙げられる。pH調整剤としてリン酸、酢酸、水酸化ナトリウムなどが用いられ、防菌防黴のために1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンなどの工業用殺菌剤、防菌防黴剤などが添加される。増粘剤としては、キサンタンガム、グアーガム、CMCナトリウム、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、モンモリロナイトなどが使用される。消泡剤としてシリコーン系化合物、凍結防止剤としてプロピレングリコール、エチレングリコールなどを必要に応じて使用しても良い。しかし、これらの成分は以上に例示したものに限定されるものではない。
【0024】
D−アロースの施用方法としては、例えば、植物体である茎、葉、花の組織や細胞への散布処理、苗箱処理、土壌表面への散布処理、土壌表面への散布処理後の土壌の混和、土壌中への注入処理、土壌中へ注入処理した土壌の混和、土壌潅注処理、潅注処理した土壌の混和、培養液や培地への混和、植物種子への吹き付け処理、植物種子への塗沫処理、植物種子への浸漬処理または植物種子への粉衣処理、花への吹き付けや浸漬処理などが挙げられるが、通常当業者が利用するどの様な施用方法にても十分な効力を発揮する。
【0025】
D−アロースの施用量は対象作物、対象病害、病害の発生程度、化合物の製剤の型、施用方法および各種環境条件などによって変動するが、散布または潅注する場合にはアロースの有効成分量をヘクタール当たり0.1〜1000kgが適当であり、望ましくはヘクタール当り1〜500kgである。溶液で散布する場合の施用濃度は0.01〜20重量%が望ましい。また、種子処理の場合の使用量は、種子1kg当たり0.01から100g、好ましくは0.1から50gである。D−アロースの施用は、適当な担体で、適当な濃度に希釈した後に行われる。例えば、D−アロースを植物種子に接触させる場合は、そのまま植物種子をD−アロースの溶液中に浸漬してもかまわないが、D−アロースの使用量は、これら例示された範囲に限定されるものではなく、製剤の形態や処理対象となる植物種子の種類により変わり得るものである。
【0026】
本発明でいう植物とは、ジベレリンシグナル経路を有する植物をすべて含むものであり、単子葉植物が例示されるが、具体的には、イネ科植物が挙げられ、更に具体的には、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスを挙げることができる。また、本発明でいう「植物体」とは、植物個体を構成する全ての部位を総称するものであり、例えば、茎、葉、根、種子、花の組織、細胞、プロトプラストなどが挙げられる。
【0027】
次に、D−アロースが、植物ホルモン、特にジベレリンのシグナル伝達系を阻害することを、D−プシコースと対比しながら実験例に基づいて以下に詳細に説明する。
D−アロースをD−プシコースと14Cでラベルして実験することにより、何れもイネのプロトプラストに取り込まれることを明らかにした。そこで、取り込みのキネティクス解析と細胞内へ取り込まれた後の代謝に関する研究を進展させた。その結果、14C-D−プシコースと14C-D−アロースの取り込みは、それぞれ Vmax 313μg protein/hr, Km 19.3mM および Vmax 625μg protein/hr, Km 46.0mM であった、また14C-D−プシコースはイネ細胞内で急速に代謝されることはないが、14C-D−アロースはリン酸化されることを明らかにした。
【0028】
D−プシコースやD−アロースでイネを処理すると、核へのシグナル伝達により遺伝子発現挙動に大きな動きが見られ、さらに生長抑制作用が見られる。そこで、核へのグルコース・シグナル伝達経路として知られるヘキソキナーゼ(HXK)依存性経路やD−アロース非依存性経路と、これらの希少糖シグナルとの関係を明らかにした。HXK阻害剤であるD−Mannose, N-Acetyl-D−Glucosamine (D−GlucNAc), D−Mannoheptuloseを用いて、希少糖作用への影響を検討した結果、これらの阻害剤は何れもD−プシコースによるイネ生長抑制作用を阻害しなかったが、D−アロースによる作用はこれらの阻害剤により濃度依存的に阻害され、生長が促進された(図1)。
【0029】
また、D−アロースのみが細胞内に取り込まれた後にリン酸化されることから、D−プシコースの作用はHXK非依存性シグナル経路を経て伝達されるが、D−アロースの作用はHXK依存性シグナル経路を経ることが明らかとなった(図2)。シロイヌナズナなどにおけるホルモンシグナル伝達の制御は、HXK依存性または非依存性のシグナル経路で、大きく異なることが報告されている。これらのことから、D−アロースとD−プシコースの両希少糖は同様に生長抑制作用を示すが、生長抑制に至るまでの細胞内での作用機構は異なると考えられた。
【0030】
そこで、D−プシコースやD−アロースと、各種植物ホルモン生合成やホルモンシグナル経路との関係について比較検討を進めた。
希少糖の植物ホルモンに対する作用を検定するために、希少糖の処理法として行っていた根からの吸収法(播種5日目のイネ苗を希少糖水溶液に浮かべて、根から吸収させる方法)とともに、ジベレリン研究で一般に用いられるマイクロドロップ法を採用した。この方法でも、希少糖の特異性は再現され、D−プシコースとD−アロースに強い生育抑制作用が認められた(図3)。根からの吸収法の場合、抑制に0.5 mM水溶液を大量に用意する必要があったが、マイクロドロップ法では子葉鞘と第一葉の間に、100mMの水溶液を1 μlドロップすれば良く、少量かつ簡便に希少糖作用を検定することが可能になった。使用する希少糖の濃度は、マイクロドロップ法の方が高く100mM/Lであるが、1 μlのみ使うため、使用総量は本処理法で著しく抑えられるようになった。
【0031】
希少糖をドロップ処理して生長抑制がかかったイネにジベレリン(ジベレリン A3, GA)を同時処理すると、D−プシコース処理区では抑制の回復が起こるが、D−アロース処理区ではGAによる回復は弱いことが明らかになった(図4)。このことから、D−プシコースによる生育抑制には、GA生産の抑制(または活性型GAへの変換阻害・不活性型GAへの変換促進)またはGAと密接にリンクした他のホルモンシグナル系の関与が示唆された。一方、D−アロースでは高濃度(100mM)のGA添加区でも強い生育抑制が見られ、D−プシコースで見られたような抑制の回復は認められなかった(図4)。
【0032】
現在、活性型GAは、核のSLR1タンパクの分解を誘起し、本タンパクの分解によりGAシグナル経路の活性化が起こることが解明されている。このGAシグナル活性化の指標としてα-アミラー活性の誘導測定がよく用いられる。そこで、無胚半種子におけるα-アミラーゼ活性に及ぼす希少糖の影響を検定したところ、D−プシコースはα-アミラーゼ活性誘導にまったく影響を及ぼさなかったが、D−アロースは抑制作用を示した。このように、D−アロース作用はGA添加で相補されず、またα-アミラーゼ活性が阻害されていることから、D−アロースはGAシグナル経路を阻害する可能性が示された。
このように、D−アロースは無胚半種子検定でα-アミラーゼの誘導抑制がみられ、GAシグナル経路の阻害が示唆されたが、D−プシコースにはこのような活性は認められなかった。
【0033】
先にも述べたように、イネにおいては、活性型GAは核のGAシグナル抑制タンパクSLR1の分解を促進し、SLR1の分解によりGAシグナル経路が活性化されることが解明されている。そこでSLR1の欠損変異株であるslr1に、希少糖を作用させる試験を行った。その結果、SLR1欠損により徒長形質を示すslr1株においても、D−アロースは強く抑制作用を示し、D−プシコースも抑制を示した(図5)。上記の結果とslr1を用いた結果から、D−アロースは、HXK依存性シグナル経路を経て、GAシグナル経路中のSLR1タンパク分解系からα-アミラーゼに至るまでの経路を阻害することが明らかとなった(図6)。
一方、D−プシコースは、GA添加により、抑制作用が完全ではないが回復する(図4)。また、α-アミラーゼ誘導に影響を与えないことから、GA生産(活性型GAへの変換阻害・不活性型GAへの変換促進を含む)の抑制が起きていて、GAシグナル経路に阻害はないと考えた。しかしながら、D−プシコースもslr1変異体の徒長を抑制した(図5)。このことより、D−プシコースはGA生産やGAシグナル経路に直接作用するのではなく、GAにリンクした他のホルモンシグナル伝達経路に影響していると考察した。
【0034】
次に、本発明の詳細を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
(イネ室内試験)
本実施例では、D−アロースによるイネ生育阻害作用に対するジベレリンの添加効果を検証した。品種日本晴のイネの種子(籾)を、希少糖を10〜1000mg/LとGA3(ジベレリン)を0.1〜25mg/Lを含む寒天に植え付け、播種後7日目の草丈を調査した。その結果を図7に示す。D−アロースの生長抑制作用が、D−アロースが約10mg/L以上の濃度で明らかに認められた。D−アロースを約100mg/L以上含有する培地では、GA3の生長促進作用は完全に無効とされることが明らかになった。一方、D−プシコースではこのような高濃度の条件下でも共存するジベレリンの生長促進効果の影響が顕著に現れている。
【実施例2】
【0036】
(イネ育苗時の生育抑制試験)
本実施例では、D−アロースによる処理がイネの初期生育に及ぼす影響を明らかにする試験を行った。4×4cmのポットにイネ(品種:日本晴)を6粒植え、播種時と一週間後の二回、D−アロース水溶液5mLによる灌注処理を行った後、25日目に5個体を無作為に選んでその根、及び葉の生育状態を調査した。灌注処理のD−アロースの量は、4〜62.5kg/haとなるように調整し、D−アロースを用いないものを対照例とした。
【0037】
試験結果を図8に示す。例えば、第4葉高を測定した結果、D−アロース無処理での葉高を100%とした場合に、4kg/haの施用で約89%、10kg/haの施用で約90%、25kg/haの施用で約82%、62.5kg/haの施用で約79%と生長が抑制された。一方、根の長さおよび重量を測定したところ、試験した施用量の範囲において、アロースを施用することにより根の長さは無処理の92〜119%の値が得られ、根の重量は113〜127%の値が得られた。
【0038】
図8に見られるように、D−アロース処理を行うことにより、イネの第4葉高、第3葉高、第3鞘高は低くなり、また乾燥茎の重量は抑制された。しかしながら、D−アロース処理により、根長および根の乾燥重は、無処理の苗と比較して若干の増加または同などの値を示した。これにより、D−アロースによる生育抑制作用は、茎、葉の地上部のみに主に影響することが明らかとなった。また、D−アロースの施用量が多いほど生育抑制効果が増進することが明らかとなった。
【実施例3】
【0039】
(イネ圃場散布試験)
本実施例は、D−アロースを散布した時のイネに対する生長抑制作用を実験により示すものである。
イネ(品種:幸風)を浸種・催芽後、育苗箱で2週間育苗し、田植えを行った。田植え20日後の茎葉にD−アロースを5重量%の濃度となるように調製した液を10a当たり200Lになるような液量で散布した。散布10日後の生育状態を図9に示した。D−アロース散布区のイネの草丈は無処理区の約70%であり、顕著な生育抑制効果が認められた。
【実施例4】
【0040】
(イネ圃場田面水処理試験)
本実施例は、D−アロースを田面水に処理した時のイネに対する生長抑制作用を実験により示すものである。
イネ(品種:幸風)を浸種・催芽後、育苗箱で2週間育苗し、田植えを行った。田植え20日後の田面水にD−アロースを5重量%の濃度となるように調製した液を10aあたり32kgになるように処理した。散布10日後の生育状態を図10に示した。D−アロース散布区のイネの草丈は無処理区の約90%であり、顕著な生育抑制効果が認められた。
【実施例5】
【0041】
(イネばか苗病室内試験)
本実施例では、イネ個体への点滴処理によるイネばか苗病の防除効果について検討した。イネ(品種:短銀坊主)の健全籾とばか苗病菌保菌籾を播種した後、3日間生育させた苗を試験に供試した。イネの葉鞘に0.1〜5重量%のD−アロースを含む水溶液を1μL点滴処理した後、10日経過したイネの草丈を図11に示した。D−アロースで処理したイネの生長では、イネばか苗病菌が生産するジベレリンによる徒長が顕著に抑制された。
【実施例6】
【0042】
(イネばか苗病育苗時の試験)
本実施例では、播種時潅注処理によるイネばか苗病の防除ついて検討した。土壌を詰めた5×5cmのポットに1、0.5、0.1重量%のD−アロース水溶液を10mL潅注処理した後、催芽させたイネばか苗病保菌籾(品種:短銀坊主)をポット当たり4g播種した。これを28℃で2日間、25℃で14日間生育させた後、草丈を調査し、発病個体の比率を求めた。D−アロース水溶液1、0.5、0.1重量%処理区および無処理区の発病率はそれぞれ、17.9、29.7、33.3、71.8%で、D−アロースを潅注処理することによりイネばか苗病菌が生産するジベレリンによるイネの徒長が抑制できた。
【実施例7】
【0043】
(イネ以外の植物での生育抑制試験)
本実施例は、イネ以外のイネ科の植物である、タイヌビエ、オオムギ、トウモロコシ、イタリアンライグラス、およびベントグラスを用いて、D−アロースによる生育阻害を示すものである。
ポットにタイヌビエ、オオムギ、トウモロコシ、イタリアンライグラス、ベントグラスを植え、発芽が揃った播種11日後に1重量%を最高濃度とし0.0156重量%を最小濃度とするD−アロース水溶液を植物体に散布し、散布25日後に地上部の生体重を測定して得た生育抑制の調査結果を図12に示す。
【0044】
散布25日後の地上重量を、無処理区を100%として比較した結果は、例えば0.5重量%のD−アロースの散布区では、タイヌビエでは約22%、オオムギでは約62%、トウモロコシでは約73%、イタリアンライグラスでは約42%、ベントグラスでは約28%の値が得られた。また、0.0625重量%のD−アロース散布でもタイヌビエ、ベントグラスでは十分な生育抑制効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、従来の農薬のような有機合成により有害元素を含むことなく、炭素、酸素、水素のみから成る単糖であるD−アロースを、様々な植物種の生長をいろいろな場面で制御する作用を有する薬剤として使用することにより、農業生産技術の向上に有用な新しい技術を提供するものである。D−アロースにより、植物のGAシグナル経路を抑制することが可能となったため、農業場面でGA作用を抑制したい場面での応用が期待され、GAシグナル経路を有する植物の全てに対して様々な制御が可能となった。例えば、イネばか苗病は、病原菌が分泌するGAにより徒長が引き起こされるが、D−アロースを汚染籾に処理することにより、徒長が抑えられる。また、D−アロースを植物体に施用することにより、生長過多による倒伏防止や芝草に施用することにより伸長防止が可能となる。特に、本発明の生長抑制剤をイネに施用することにより、例えば、感染した病気の症状を軽減することや、徒長による倒伏を防止することが可能となり、米の収量の増加が期待される。
本発明は、こうしたD−アロースの特性を利用して、植物の生長などの制御を可能とするものであり、農業生産技術分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】ヘキソキナーゼ(HXK)阻害剤の、希少糖を施用した植物の生長作用に対する影響を示す図面である。
【図2】D−プシコースとD−アロースの植物に対する作用の相違を示す概略図である。
【図3】マイクロドロップ法によりD−アロースなどの希少糖をイネに施用した場合のイネの生長への影響を示す図面である。
【図4】ジベレリンの添加が、D−プシコースの作用を相補し、D−アロース作用には影響を及ぼさないことを示す図面である。
【図5】SLR1欠損変異株slr1の徒長形質は、D−アロース処理で強く抑制されるが、D−プシコース処理でも抑制されることを示す図面に代える写真である。
【図6】D−アロースは、HXK依存性シグナル経路を経てGAシグナル経路のDELLAタンパク系からα-アミラーゼまでの経路に影響を及ぼすことを示す概略図である。
【図7】D−アロースおよびD−プシコースによるイネの生育阻害作用に対するジベレリンの添加の影響を示す図面である。
【図8】D−アロースを0〜62.5kg/haの割合で施用したイネの根および葉の生長を比較した図面である。
【図9】5%のD−アロースを散布した後、10日経過した時点でのイネの生育抑制を示す図面に代える写真である。
【図10】D−アロースを32kg/10aの量で田面水に処理した後、10日経過した時点でのイネの生育抑制を示す図面に代える写真である。
【図11】イネばか苗病保菌籾を、D−アロース処理した後の生育状態を示す図面に代える写真である。
【図12】5種類のイネ科植物にD−アロースを散布した後、25日経過した時点で測定した生育抑制を示す図面である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、D−アロースを有効成分とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤に関し、植物の生長を制御することを可能にするものである。ジベレリン(GA)は植物の発芽、伸長生長、花芽形成などを制御する植物ホルモンである。例えば、イネの SLR1タンパクはGA情報伝達を負に制御する転写因子であり、上流からのGAシグナルに依存したSLR1タンパクの分解がGAの引き起こす様々な反応において必須であることが明らかとなっている。D−アロースで処理したイネを用いて、D−アロースのジベレリンシグナル経路に対する影響を検定した結果、D−アロースはHXK(ヘキソキナーゼ)依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路を制御できることが明らかとなった。本発明は、こうしたD−アロースの特性を利用して、植物の生長の制御を可能とするものであり、農業生産技術分野において、例えば、イネの徒長による倒伏や、イネばか苗病による生長過多を防止して、米の収量増加を図ることができる有用な薬剤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
植物ホルモンの一種であるジベレリンは、entジベラン骨格をもつ化合物の総称であるが、幹/節間伸長を含む様々な生物学的プロセスにおいて重要な役割を演じており(非特許文献1及び2参照)、発芽や休眠など作物の重要形質を司るホルモンとして農業上利用されてきた。イネにおける節間伸長は、単子葉植物におけるジベレリンシグナル伝達の典型的なモデル系である。
【0003】
一方、イネの突然変異体eui(elongated upper-most internode)は出穂時に節間を異常に伸長させる表現型を示す。eui植物体のもっとも伸長する上部の節間の内生ジベレリン含量を測定したところ、野生型と比べてGA4の異常な蓄積が認められている。イネ出穂時における節間伸長に関連するイネのゲノム上の遺伝子領域について研究が進められ、節間伸長に関連する遺伝子領域がある程度特定されている(非特許文献3参照)。
【0004】
幾つかの希少糖、例えば、D−プシコース、D−フラクトース、D−アロース、L-ガラクトースが様々な植物の生長調整剤として有効であり、イネなどの病害虫防御関連遺伝子の発現を誘導し、さらには生育調節活性を持つことが明らかになった。例えば、希少糖は植物によって異物と認識され、植物抵抗性遺伝子群を起動し病原菌・病害虫に対する抵抗性増大を促す作用を有する。D−プシコースなどの希少糖を植物病害抵抗性増幅剤として使用する技術に係る発明が特許されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、植物の全身獲得抵抗性の誘導の効果を利用した農薬などの提供、あるいは植物病原菌だけでなく、有害微生物の増殖抑制剤の提供を目的として、植物の全身獲得抵抗性の誘導の効果を利用した農薬、植物病害抑制剤、植物生長調節因子の誘導剤(病害抵抗性、虫害抵抗性、果実の成熟、休眠打破、発芽調節、乾燥耐性、そのほか低温耐性、高温耐性、塩類耐性、重金属耐性などの環境ストレス耐性および開花促進からなる植物ホルモン的な作用の誘導剤)、ならびに、微生物の増殖抑制剤としての使用に係る発明が開示されている(特許文献2参照)。希少糖としては、アルドース(D−アロース、D−アルトロースまたはL−ガラクトース)またはケトース(D−プシコース、またはD−プシコースとD−フラクトースの混合物)などが用いられている。
【0006】
さらに、植物生長調節剤、植物生長調節方法の提供を目的として、希少糖を有効成分とする植物生長調節剤に係る発明が開示されている。希少糖はD−プシコース、D−プシコースとD−フラクトースの混合物、D−アロースおよびL−ガラクトースからなる群から選ばれる希少糖を用いている植物生長調節剤が開示されている(特許文献3参照)。
しかしながら、これらの希少糖の植物に対する作用機構については解明されていなかった。
【0007】
【特許文献1】特許第4009720号公報
【特許文献2】特開2006−8669号公報
【特許文献3】特開2006−188482号公報
【非特許文献1】161-188 (Elsevier Science B.V., 1999)
【非特許文献2】Rev. Plant Biol. 55, 197-223 (2004)
【非特許文献3】(2004)Mol. Gen. Genomics. 272, 149-155
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、上記の従来技術に鑑みて、希少糖の植物に対する生理活性作用の機構を明らかにすることにより、農作物の産生過程において有用な植物生長調整剤を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねることにより、希少糖の中でもD−アロースが植物のジベレリンシグナル経路抑制作用を有することを見出し、更に研究を重ねることにより本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の目的は、D−アロースを主成分とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤を提供することである。また、本発明の目的は、農業場面でのジベレリン作用を抑制したい場面において、植物体にD−アロースを施用して生長を抑制する植物の生長抑制方法、及び生長抑制剤を提供することであり、例えば、イネばか苗病菌が分泌するジベレリンに起因する徒長、節間伸長に係る問題を、D−アロースを汚染籾および植物体に処理することにより解決することを可能とするものである。
【0010】
また、本発明の目的は、農薬の使用量を飛躍的に減少させる可能性のある、植物の全身獲得抵抗性の誘導効果を利用した農薬、植物病害抑制剤、植物生長調節因子の誘導剤を、D−アロースを有効成分とすることにより提供するものである。また、本発明の目的は、D−アロースを、種子、植物の根、茎、葉面、花の組織、細胞などに溶液状態もしくは固体状態で葉面散布、切り枝基部を溶液に浸漬、土壌灌注などの方法により施用して実施する植物生長抑制方法を提供することである。更に具体的には、本発明の目的は、イネの徒長によりイネが倒伏することを防止し、また、イネの病気による様々な影響を軽減し、米の収量を増加させることが可能な植物の生長抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、D−アロースを有効成分とすることを特徴とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤に係るものであり、D−アロースの作用機構は、HXK依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路を抑制する。さらに詳細には、D−アロースは、HXK依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路中のSLR1タンパク系からα-アミラーゼに至までの経路を阻害する。本発明を適用することが可能な植物としては、ジベレリンシグナル経路を有する植物であればその種類などが限定されるものではない。本発明が適用できる植物の例としては、単子葉植物が挙げられ、具体的には、イネ科植物を挙げることができるが、さらに具体的には、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスが挙げられる。また、本発明は、D−アロースにより植物のジベレリンシグナル経路を抑制する植物の生長抑制剤であり、例えば、イネばか苗病による徒長の抑制剤、イネの倒伏防止剤としての用途を挙げることができる。
【0012】
また、本発明は、上記のジベレリンシグナル抑制剤を植物体に施用することにより植物のジベレリンシグナル経路を抑制する方法に関するものであり、例えば、植物体の根、茎、葉、種子、芽、花の組織や細胞にD−アロースを施用することよりなる植物のジベレリンシグナル経路抑制方法である。D−アロースを植物に施用するにあたり、D−アロースは、0.01〜20重量%の溶液の形で施用するのが好ましい。また、D−アロースを農地や培地などに施用するには、例えば、0.1〜1000kg/haとするのが好ましい。また、本発明の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法が適用できる植物の例としては上記の植物が挙げられる。また、本発明は、植物のジベレリンシグナル経路を抑制することによる植物の生長抑制方法に係るものである。本発明は、上記の例示した植物の中で、特にイネの生長抑制方法として、イネばか苗病に罹病したイネの徒長抑制や、イネの倒伏防止や、さらに、芝草の生長を抑制しその状態を適正に保つ方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により次の効果が奏される。
D−アロースはジベレリン(GA)シグナル経路を抑制することを利用して、農業場面でGA作用を抑制したい場面での応用が期待され、GAシグナル経路を有する植物に対して生長抑制作用などを発揮することができる。例えば、イネばか苗病は、病原菌が分泌するGAにより徒長が引き起こされるが、この病原菌に感染した籾をD−アロースで処理することにより、徒長を抑えることが可能となった。
また、D−アロースを植物体に施用することにより生長しすぎによる倒伏の防止や芝草の伸長の防止が可能となる。特に、本発明の生長抑制剤をイネに施用することにより、感染したイネばか苗病などの病気の症状を軽減すること、徒長による倒伏を防止することが達成できることにより、米の収量の増加が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、D−アロース(以下、単に「アロース」とも言う。)と各種植物ホルモン生産・ホルモンシグナル経路との関係について、各種生理作用を検定することにより、その作用メカニズムを解明した結果、D−アロースは植物ホルモン、特にジベレリンのシグナル伝達系を阻害することを見出したことに基づくものである。以下に、D−アロースの作用メカニズムについてその概要を説明する。
【0015】
ジベレリン(GA)は植物の発芽、伸長生長、花芽形成などを制御する植物ホルモンである。近年シロイヌナズナやイネの突然変異体を用いた研究からGA情報伝達に関わる因子がいくつか同定された。イネの生育を促進するホルモン系の研究は、GAの研究が進んでいる。例えば、イネのSLR1タンパクはGA情報伝達を負に制御する転写因子であり、上流からのGAシグナルに依存したSLR1タンパクの分解がGAの引き起こす様々な反応に必須であることが明らかとなっている。そこで、D−アロースを処理したイネで、ヘキソキナーゼ(HXK)の各種阻害剤を用いて、D−アロース作用のシグナル経路を検定した結果、D−アロースの作用はHXK依存性シグナル経路を経ることが明らかとなった。さらに、D−アロースの作用とGA経路との関係を検定した結果、D−アロースで処理することにより生長抑制がかかったイネに対して、GA(ジベレリンA3)で同時処理しても生長抑制が回復しないことから、GA生産はD−アロースにより抑制されていないと考えられた。
【0016】
そこで、GAシグナル系への影響を見るために、GAシグナル経路の活性指標酵素であるα-アミラーゼ活性を測定した結果、D−アロース処理による抑制が認められた。D−アロースの作用はGAの添加で相補されず、またα-アミラーゼ活性が阻害されることから、D−アロースはGAシグナル経路を阻害する可能性が示された。更に、SLR1タンパクとの関係について検定すると、GAは核のGAシグナル抑制タンパクSLR1の分解を促進し、SLR1タンパクの分解によりGAシグナル経路が活性化された。SLR1の欠損変異株であるslr1イネでD−アロースの作用を検定した結果、SLR1欠損により徒長形質を示すslr1株でも、D−アロースは強く抑制作用を示した。上記の結果と欠損変異株slr1を用いた試験結果から、D−アロースは、HXK依存性シグナル経路を経て、GAシグナル経路中のSLR1タンパク系からα-アミラーゼに至るまでの経路を阻害することが明らかとなった。本発明は、このような知見を根拠とするものである。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明に係るD−アロースを有効成分とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤、及びその抑制方法は、ジベレリンシグナル経路を有している植物のいずれにも適用できるが、例えば、単子葉植物のイネ科植物が挙げられ、更に具体的には、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスを挙げることができる。
本発明においては、本発明が適用される植物の中で、イネを典型的な一例として以下に詳細に説明する。
【0018】
本発明で用いるD−アロースは、希少糖研究の中で特に各種生理活性を有することが判明してきた希少糖である。D−アロース(D−アロヘキソース)は、アルドース(アルドヘキソース)に分類されるアロースのD体であり、融点が178℃の六炭糖(C6H12O6)である。このD−アロースの製法としては、D−アロン酸ラクトンをナトリウムアマルガムで還元する方法による製法がある。また、シェイクワット・ホセイン・プイヤンなどによる「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング」第85巻、539ないし541頁(1993年)に記載されている、L−ラムノース・イソメラーゼを用いてD−プシコースから合成する製法が知られている。更に、近年では、特開2002−17392号公報に記載されているように、D−プシコースを含有する溶液にD−キシロース・イソメラーゼを作用させて、D−プシコースからD−アロースを生成する製法が提案されている。この文献に記載されている製法によれば、D−アロースの生産は、未反応のD−プシコースと共に、新たに生成したD−アロースを含有している酵素反応液として得られる。
【0019】
D−アロースに変換可能な基質を酵素反応でD−アロースに変換する際に用いる酵素の種類は限定されないが、D−プシコースからD−アロースを生産することができる酵素「L-ラムノースイソメラーゼ」が好ましいものとして例示される。L-ラムノースイソメラーゼは、「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」第85巻、539乃至541頁(1998年)で発表されている酵素である。L-ラムノースからL-ラムニュロースへの異性化反応ならびにL-ラムニュロースからL-ラムノースへの異性化を触媒する酵素であるL-ラムノースイソメラーゼは、D−アロースとD−プシコースの間の異性化にも作用するので、D−プシコースからD−アロースを生産することができる酵素である。
【0020】
D−アロースまたはD−アロースに他の糖類などと混合した本発明の植物病害防除剤は、そのまま使用してもかまわないが、通常は担体と混合して用いられ、必要に応じて界面活性剤、湿潤剤、固着剤、増粘剤、防腐剤、着色剤、安定剤などの製剤用補助剤を添加して、水和剤、フロアブル剤、顆粒水和剤、粉剤、乳剤などが一般的に知られた方法によって適宜製剤化して用いられる。
【0021】
本発明で用いられる担体は、処理すべき部位への有効成分であるアロースの到達を助け、また有効成分化合物の貯蔵、輸送、取扱いを容易にするために配合される合成または天然の無機または有機物質を意味し、通常農園芸用薬剤に使用されるものであれば固体または液体のいずれでも使用でき、特定の担体に限定されるものではない。例えば、固体担体としては、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイト、珪藻土、白土、タルク、クレー、バーミキュライト、石膏、炭酸カルシウム、非晶質シリカ、硫安などの無機物質、大豆粉、木粉、鋸屑、小麦粉、乳糖、ショ糖、ぶどう糖などの植物性有機物質および尿素などが挙げられる。液体担体としては、トルエン、キシレン、クメンなどの芳香族炭化水素類およびナフテン類、n−パラフィン、iso−パラフィン、流動パラフィン、ケロシン、鉱油、ポリブテンなどのパラフィン系炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、エタノール、プロパノール、エチレングリコールなどのアルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性溶媒および水などが挙げられる。
【0022】
更に、本発明のD−アロースを有効成分とするジベレリンシグナル経路抑制剤の効力を増強するために、製剤の剤型、処理方法などを考慮して目的に応じてそれぞれ単独に、または組み合わせて次のような補助剤を使用することもできる。補助剤として通常農薬製剤に乳化、分散、拡展、湿潤などの目的で使用される界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、高級アルコールのポリオキシアルキレン付加物、ポリオキシエチレンエーテル、エステル方型シリコン、およびフッ素系界面活性剤などの非イオン性界面活性剤;アルキルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールイミン、アルキルホスフェート、トリポリ燐酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;アクリル酸とアクリロニトリル、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸から導かれるポリアニオン型高分子界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、メチルポリオキシエチレンアルキルアンモニウムクロライド、アルキルN−メチルピリジニウムブロマイド、モノメチル化アンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤;ジアルキルジアミノエチルベンタイン、アルキルジメチルベンジルベンタインなどの両性界面活性剤;などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
結合剤としては、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、CMCナトリウム、ベントナイトなどが挙げられる。崩壊剤としては、CMCナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、安定剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤やベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の紫外線吸収剤などが挙げられる。pH調整剤としてリン酸、酢酸、水酸化ナトリウムなどが用いられ、防菌防黴のために1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンなどの工業用殺菌剤、防菌防黴剤などが添加される。増粘剤としては、キサンタンガム、グアーガム、CMCナトリウム、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、モンモリロナイトなどが使用される。消泡剤としてシリコーン系化合物、凍結防止剤としてプロピレングリコール、エチレングリコールなどを必要に応じて使用しても良い。しかし、これらの成分は以上に例示したものに限定されるものではない。
【0024】
D−アロースの施用方法としては、例えば、植物体である茎、葉、花の組織や細胞への散布処理、苗箱処理、土壌表面への散布処理、土壌表面への散布処理後の土壌の混和、土壌中への注入処理、土壌中へ注入処理した土壌の混和、土壌潅注処理、潅注処理した土壌の混和、培養液や培地への混和、植物種子への吹き付け処理、植物種子への塗沫処理、植物種子への浸漬処理または植物種子への粉衣処理、花への吹き付けや浸漬処理などが挙げられるが、通常当業者が利用するどの様な施用方法にても十分な効力を発揮する。
【0025】
D−アロースの施用量は対象作物、対象病害、病害の発生程度、化合物の製剤の型、施用方法および各種環境条件などによって変動するが、散布または潅注する場合にはアロースの有効成分量をヘクタール当たり0.1〜1000kgが適当であり、望ましくはヘクタール当り1〜500kgである。溶液で散布する場合の施用濃度は0.01〜20重量%が望ましい。また、種子処理の場合の使用量は、種子1kg当たり0.01から100g、好ましくは0.1から50gである。D−アロースの施用は、適当な担体で、適当な濃度に希釈した後に行われる。例えば、D−アロースを植物種子に接触させる場合は、そのまま植物種子をD−アロースの溶液中に浸漬してもかまわないが、D−アロースの使用量は、これら例示された範囲に限定されるものではなく、製剤の形態や処理対象となる植物種子の種類により変わり得るものである。
【0026】
本発明でいう植物とは、ジベレリンシグナル経路を有する植物をすべて含むものであり、単子葉植物が例示されるが、具体的には、イネ科植物が挙げられ、更に具体的には、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスを挙げることができる。また、本発明でいう「植物体」とは、植物個体を構成する全ての部位を総称するものであり、例えば、茎、葉、根、種子、花の組織、細胞、プロトプラストなどが挙げられる。
【0027】
次に、D−アロースが、植物ホルモン、特にジベレリンのシグナル伝達系を阻害することを、D−プシコースと対比しながら実験例に基づいて以下に詳細に説明する。
D−アロースをD−プシコースと14Cでラベルして実験することにより、何れもイネのプロトプラストに取り込まれることを明らかにした。そこで、取り込みのキネティクス解析と細胞内へ取り込まれた後の代謝に関する研究を進展させた。その結果、14C-D−プシコースと14C-D−アロースの取り込みは、それぞれ Vmax 313μg protein/hr, Km 19.3mM および Vmax 625μg protein/hr, Km 46.0mM であった、また14C-D−プシコースはイネ細胞内で急速に代謝されることはないが、14C-D−アロースはリン酸化されることを明らかにした。
【0028】
D−プシコースやD−アロースでイネを処理すると、核へのシグナル伝達により遺伝子発現挙動に大きな動きが見られ、さらに生長抑制作用が見られる。そこで、核へのグルコース・シグナル伝達経路として知られるヘキソキナーゼ(HXK)依存性経路やD−アロース非依存性経路と、これらの希少糖シグナルとの関係を明らかにした。HXK阻害剤であるD−Mannose, N-Acetyl-D−Glucosamine (D−GlucNAc), D−Mannoheptuloseを用いて、希少糖作用への影響を検討した結果、これらの阻害剤は何れもD−プシコースによるイネ生長抑制作用を阻害しなかったが、D−アロースによる作用はこれらの阻害剤により濃度依存的に阻害され、生長が促進された(図1)。
【0029】
また、D−アロースのみが細胞内に取り込まれた後にリン酸化されることから、D−プシコースの作用はHXK非依存性シグナル経路を経て伝達されるが、D−アロースの作用はHXK依存性シグナル経路を経ることが明らかとなった(図2)。シロイヌナズナなどにおけるホルモンシグナル伝達の制御は、HXK依存性または非依存性のシグナル経路で、大きく異なることが報告されている。これらのことから、D−アロースとD−プシコースの両希少糖は同様に生長抑制作用を示すが、生長抑制に至るまでの細胞内での作用機構は異なると考えられた。
【0030】
そこで、D−プシコースやD−アロースと、各種植物ホルモン生合成やホルモンシグナル経路との関係について比較検討を進めた。
希少糖の植物ホルモンに対する作用を検定するために、希少糖の処理法として行っていた根からの吸収法(播種5日目のイネ苗を希少糖水溶液に浮かべて、根から吸収させる方法)とともに、ジベレリン研究で一般に用いられるマイクロドロップ法を採用した。この方法でも、希少糖の特異性は再現され、D−プシコースとD−アロースに強い生育抑制作用が認められた(図3)。根からの吸収法の場合、抑制に0.5 mM水溶液を大量に用意する必要があったが、マイクロドロップ法では子葉鞘と第一葉の間に、100mMの水溶液を1 μlドロップすれば良く、少量かつ簡便に希少糖作用を検定することが可能になった。使用する希少糖の濃度は、マイクロドロップ法の方が高く100mM/Lであるが、1 μlのみ使うため、使用総量は本処理法で著しく抑えられるようになった。
【0031】
希少糖をドロップ処理して生長抑制がかかったイネにジベレリン(ジベレリン A3, GA)を同時処理すると、D−プシコース処理区では抑制の回復が起こるが、D−アロース処理区ではGAによる回復は弱いことが明らかになった(図4)。このことから、D−プシコースによる生育抑制には、GA生産の抑制(または活性型GAへの変換阻害・不活性型GAへの変換促進)またはGAと密接にリンクした他のホルモンシグナル系の関与が示唆された。一方、D−アロースでは高濃度(100mM)のGA添加区でも強い生育抑制が見られ、D−プシコースで見られたような抑制の回復は認められなかった(図4)。
【0032】
現在、活性型GAは、核のSLR1タンパクの分解を誘起し、本タンパクの分解によりGAシグナル経路の活性化が起こることが解明されている。このGAシグナル活性化の指標としてα-アミラー活性の誘導測定がよく用いられる。そこで、無胚半種子におけるα-アミラーゼ活性に及ぼす希少糖の影響を検定したところ、D−プシコースはα-アミラーゼ活性誘導にまったく影響を及ぼさなかったが、D−アロースは抑制作用を示した。このように、D−アロース作用はGA添加で相補されず、またα-アミラーゼ活性が阻害されていることから、D−アロースはGAシグナル経路を阻害する可能性が示された。
このように、D−アロースは無胚半種子検定でα-アミラーゼの誘導抑制がみられ、GAシグナル経路の阻害が示唆されたが、D−プシコースにはこのような活性は認められなかった。
【0033】
先にも述べたように、イネにおいては、活性型GAは核のGAシグナル抑制タンパクSLR1の分解を促進し、SLR1の分解によりGAシグナル経路が活性化されることが解明されている。そこでSLR1の欠損変異株であるslr1に、希少糖を作用させる試験を行った。その結果、SLR1欠損により徒長形質を示すslr1株においても、D−アロースは強く抑制作用を示し、D−プシコースも抑制を示した(図5)。上記の結果とslr1を用いた結果から、D−アロースは、HXK依存性シグナル経路を経て、GAシグナル経路中のSLR1タンパク分解系からα-アミラーゼに至るまでの経路を阻害することが明らかとなった(図6)。
一方、D−プシコースは、GA添加により、抑制作用が完全ではないが回復する(図4)。また、α-アミラーゼ誘導に影響を与えないことから、GA生産(活性型GAへの変換阻害・不活性型GAへの変換促進を含む)の抑制が起きていて、GAシグナル経路に阻害はないと考えた。しかしながら、D−プシコースもslr1変異体の徒長を抑制した(図5)。このことより、D−プシコースはGA生産やGAシグナル経路に直接作用するのではなく、GAにリンクした他のホルモンシグナル伝達経路に影響していると考察した。
【0034】
次に、本発明の詳細を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
(イネ室内試験)
本実施例では、D−アロースによるイネ生育阻害作用に対するジベレリンの添加効果を検証した。品種日本晴のイネの種子(籾)を、希少糖を10〜1000mg/LとGA3(ジベレリン)を0.1〜25mg/Lを含む寒天に植え付け、播種後7日目の草丈を調査した。その結果を図7に示す。D−アロースの生長抑制作用が、D−アロースが約10mg/L以上の濃度で明らかに認められた。D−アロースを約100mg/L以上含有する培地では、GA3の生長促進作用は完全に無効とされることが明らかになった。一方、D−プシコースではこのような高濃度の条件下でも共存するジベレリンの生長促進効果の影響が顕著に現れている。
【実施例2】
【0036】
(イネ育苗時の生育抑制試験)
本実施例では、D−アロースによる処理がイネの初期生育に及ぼす影響を明らかにする試験を行った。4×4cmのポットにイネ(品種:日本晴)を6粒植え、播種時と一週間後の二回、D−アロース水溶液5mLによる灌注処理を行った後、25日目に5個体を無作為に選んでその根、及び葉の生育状態を調査した。灌注処理のD−アロースの量は、4〜62.5kg/haとなるように調整し、D−アロースを用いないものを対照例とした。
【0037】
試験結果を図8に示す。例えば、第4葉高を測定した結果、D−アロース無処理での葉高を100%とした場合に、4kg/haの施用で約89%、10kg/haの施用で約90%、25kg/haの施用で約82%、62.5kg/haの施用で約79%と生長が抑制された。一方、根の長さおよび重量を測定したところ、試験した施用量の範囲において、アロースを施用することにより根の長さは無処理の92〜119%の値が得られ、根の重量は113〜127%の値が得られた。
【0038】
図8に見られるように、D−アロース処理を行うことにより、イネの第4葉高、第3葉高、第3鞘高は低くなり、また乾燥茎の重量は抑制された。しかしながら、D−アロース処理により、根長および根の乾燥重は、無処理の苗と比較して若干の増加または同などの値を示した。これにより、D−アロースによる生育抑制作用は、茎、葉の地上部のみに主に影響することが明らかとなった。また、D−アロースの施用量が多いほど生育抑制効果が増進することが明らかとなった。
【実施例3】
【0039】
(イネ圃場散布試験)
本実施例は、D−アロースを散布した時のイネに対する生長抑制作用を実験により示すものである。
イネ(品種:幸風)を浸種・催芽後、育苗箱で2週間育苗し、田植えを行った。田植え20日後の茎葉にD−アロースを5重量%の濃度となるように調製した液を10a当たり200Lになるような液量で散布した。散布10日後の生育状態を図9に示した。D−アロース散布区のイネの草丈は無処理区の約70%であり、顕著な生育抑制効果が認められた。
【実施例4】
【0040】
(イネ圃場田面水処理試験)
本実施例は、D−アロースを田面水に処理した時のイネに対する生長抑制作用を実験により示すものである。
イネ(品種:幸風)を浸種・催芽後、育苗箱で2週間育苗し、田植えを行った。田植え20日後の田面水にD−アロースを5重量%の濃度となるように調製した液を10aあたり32kgになるように処理した。散布10日後の生育状態を図10に示した。D−アロース散布区のイネの草丈は無処理区の約90%であり、顕著な生育抑制効果が認められた。
【実施例5】
【0041】
(イネばか苗病室内試験)
本実施例では、イネ個体への点滴処理によるイネばか苗病の防除効果について検討した。イネ(品種:短銀坊主)の健全籾とばか苗病菌保菌籾を播種した後、3日間生育させた苗を試験に供試した。イネの葉鞘に0.1〜5重量%のD−アロースを含む水溶液を1μL点滴処理した後、10日経過したイネの草丈を図11に示した。D−アロースで処理したイネの生長では、イネばか苗病菌が生産するジベレリンによる徒長が顕著に抑制された。
【実施例6】
【0042】
(イネばか苗病育苗時の試験)
本実施例では、播種時潅注処理によるイネばか苗病の防除ついて検討した。土壌を詰めた5×5cmのポットに1、0.5、0.1重量%のD−アロース水溶液を10mL潅注処理した後、催芽させたイネばか苗病保菌籾(品種:短銀坊主)をポット当たり4g播種した。これを28℃で2日間、25℃で14日間生育させた後、草丈を調査し、発病個体の比率を求めた。D−アロース水溶液1、0.5、0.1重量%処理区および無処理区の発病率はそれぞれ、17.9、29.7、33.3、71.8%で、D−アロースを潅注処理することによりイネばか苗病菌が生産するジベレリンによるイネの徒長が抑制できた。
【実施例7】
【0043】
(イネ以外の植物での生育抑制試験)
本実施例は、イネ以外のイネ科の植物である、タイヌビエ、オオムギ、トウモロコシ、イタリアンライグラス、およびベントグラスを用いて、D−アロースによる生育阻害を示すものである。
ポットにタイヌビエ、オオムギ、トウモロコシ、イタリアンライグラス、ベントグラスを植え、発芽が揃った播種11日後に1重量%を最高濃度とし0.0156重量%を最小濃度とするD−アロース水溶液を植物体に散布し、散布25日後に地上部の生体重を測定して得た生育抑制の調査結果を図12に示す。
【0044】
散布25日後の地上重量を、無処理区を100%として比較した結果は、例えば0.5重量%のD−アロースの散布区では、タイヌビエでは約22%、オオムギでは約62%、トウモロコシでは約73%、イタリアンライグラスでは約42%、ベントグラスでは約28%の値が得られた。また、0.0625重量%のD−アロース散布でもタイヌビエ、ベントグラスでは十分な生育抑制効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、従来の農薬のような有機合成により有害元素を含むことなく、炭素、酸素、水素のみから成る単糖であるD−アロースを、様々な植物種の生長をいろいろな場面で制御する作用を有する薬剤として使用することにより、農業生産技術の向上に有用な新しい技術を提供するものである。D−アロースにより、植物のGAシグナル経路を抑制することが可能となったため、農業場面でGA作用を抑制したい場面での応用が期待され、GAシグナル経路を有する植物の全てに対して様々な制御が可能となった。例えば、イネばか苗病は、病原菌が分泌するGAにより徒長が引き起こされるが、D−アロースを汚染籾に処理することにより、徒長が抑えられる。また、D−アロースを植物体に施用することにより、生長過多による倒伏防止や芝草に施用することにより伸長防止が可能となる。特に、本発明の生長抑制剤をイネに施用することにより、例えば、感染した病気の症状を軽減することや、徒長による倒伏を防止することが可能となり、米の収量の増加が期待される。
本発明は、こうしたD−アロースの特性を利用して、植物の生長などの制御を可能とするものであり、農業生産技術分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】ヘキソキナーゼ(HXK)阻害剤の、希少糖を施用した植物の生長作用に対する影響を示す図面である。
【図2】D−プシコースとD−アロースの植物に対する作用の相違を示す概略図である。
【図3】マイクロドロップ法によりD−アロースなどの希少糖をイネに施用した場合のイネの生長への影響を示す図面である。
【図4】ジベレリンの添加が、D−プシコースの作用を相補し、D−アロース作用には影響を及ぼさないことを示す図面である。
【図5】SLR1欠損変異株slr1の徒長形質は、D−アロース処理で強く抑制されるが、D−プシコース処理でも抑制されることを示す図面に代える写真である。
【図6】D−アロースは、HXK依存性シグナル経路を経てGAシグナル経路のDELLAタンパク系からα-アミラーゼまでの経路に影響を及ぼすことを示す概略図である。
【図7】D−アロースおよびD−プシコースによるイネの生育阻害作用に対するジベレリンの添加の影響を示す図面である。
【図8】D−アロースを0〜62.5kg/haの割合で施用したイネの根および葉の生長を比較した図面である。
【図9】5%のD−アロースを散布した後、10日経過した時点でのイネの生育抑制を示す図面に代える写真である。
【図10】D−アロースを32kg/10aの量で田面水に処理した後、10日経過した時点でのイネの生育抑制を示す図面に代える写真である。
【図11】イネばか苗病保菌籾を、D−アロース処理した後の生育状態を示す図面に代える写真である。
【図12】5種類のイネ科植物にD−アロースを散布した後、25日経過した時点で測定した生育抑制を示す図面である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−アロースを有効成分とすることを特徴とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項2】
HXK依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路を抑制する請求項1に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項3】
HXK依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路中のSLR1蛋白系からα-アミラーゼに至までの経路を阻害する請求項1または2に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項4】
上記植物が、ジベレリンシグナル経路を有する植物である請求項1から3のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項5】
上記植物が、単子葉植物である請求項1から4のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項6】
上記植物が、イネ科植物である請求項1から5のいずれかに記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項7】
上記植物が、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスからなる群から選ばれた植物である請求項5または6に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項8】
D−アロースにより植物のジベレリンシグナル経路を抑制することを特徴とする植物の生長抑制剤。
【請求項9】
上記植物がイネである請求項8に記載の植物の生長抑制剤。
【請求項10】
イネばか苗病に罹病したイネのジベレリンシグナル経路を抑制することによりイネの徒長を抑制する請求項9に記載の植物生長抑制剤。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載のジベレリンシグナル抑制剤を植物体に施用することを特徴とする植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項12】
植物体が、根、茎、葉、種子、芽、花の組織、または細胞である請求項11に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項13】
D−アロースが、0.01〜20重量%の溶液である請求項11または12に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項14】
D−アロースを、0.1〜1000kg/ha施用する請求項11から13のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項15】
上記植物が、単子葉植物である請求項11から14のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項16】
上記植物が、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスからなる群から選ばれた請求項11から15のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項17】
D−アロースを植物体に施用することにより植物のジベレリンシグナル経路を抑制することを特徴とする植物の生長抑制方法。
【請求項18】
上記植物がイネである請求項17に記載の植物の生長抑制方法。
【請求項19】
イネばか苗病に罹病したイネのジベレリンシグナル経路を抑制することによりイネの徒長を抑制する請求項18に記載の植物生長抑制方法。
【請求項1】
D−アロースを有効成分とすることを特徴とする植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項2】
HXK依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路を抑制する請求項1に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項3】
HXK依存性シグナル経路を経て、ジベレリンシグナル経路中のSLR1蛋白系からα-アミラーゼに至までの経路を阻害する請求項1または2に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項4】
上記植物が、ジベレリンシグナル経路を有する植物である請求項1から3のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項5】
上記植物が、単子葉植物である請求項1から4のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項6】
上記植物が、イネ科植物である請求項1から5のいずれかに記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項7】
上記植物が、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスからなる群から選ばれた植物である請求項5または6に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制剤。
【請求項8】
D−アロースにより植物のジベレリンシグナル経路を抑制することを特徴とする植物の生長抑制剤。
【請求項9】
上記植物がイネである請求項8に記載の植物の生長抑制剤。
【請求項10】
イネばか苗病に罹病したイネのジベレリンシグナル経路を抑制することによりイネの徒長を抑制する請求項9に記載の植物生長抑制剤。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載のジベレリンシグナル抑制剤を植物体に施用することを特徴とする植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項12】
植物体が、根、茎、葉、種子、芽、花の組織、または細胞である請求項11に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項13】
D−アロースが、0.01〜20重量%の溶液である請求項11または12に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項14】
D−アロースを、0.1〜1000kg/ha施用する請求項11から13のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項15】
上記植物が、単子葉植物である請求項11から14のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項16】
上記植物が、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ライグラス類、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、ベントグラス類、ノシバ、コウライシバ、およびバミューダグラスからなる群から選ばれた請求項11から15のいずれか一項に記載の植物のジベレリンシグナル経路抑制方法。
【請求項17】
D−アロースを植物体に施用することにより植物のジベレリンシグナル経路を抑制することを特徴とする植物の生長抑制方法。
【請求項18】
上記植物がイネである請求項17に記載の植物の生長抑制方法。
【請求項19】
イネばか苗病に罹病したイネのジベレリンシグナル経路を抑制することによりイネの徒長を抑制する請求項18に記載の植物生長抑制方法。
【図6】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−43049(P2010−43049A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209935(P2008−209935)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(303020956)三井化学アグロ株式会社 (70)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(303020956)三井化学アグロ株式会社 (70)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
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