説明

EGR装置

【課題】 簡単かつ安価な構成でありながら、ポンピングロス等を増大させずに、高いEGR率での運転を実現することができ、以って排出黒煙濃度の増加を抑制しながらNOx排出量を効果的に低減することができるEGR装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、内燃機関の排気の一部をEGRガスとして燃焼室に還流させるEGR装置100であって、EGRガスが導かれ吸気通路2に接続されるEGR通路101が複数備えられ、各EGR通路101A,101Bはその入口からEGRガス流れ下流側の開放端までの長さが異なって構成されていると共に、EGRガスが流れるEGR通路101A、101Bを切り換える切換バルブ130、140が備えられ、内燃機関の運転状態に応じて、前記切換バルブ130、140により、EGRガスが流れるEGR通路101A,101Bを切り換えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等の燃焼装置からの排気の一部を燃焼室内に還流させて再燃焼させるEGR(排気再循環)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関からの排気を浄化して大気汚染の拡大を抑制することは重要な課題であるが、このためのシステム(装置)の一つとして、内燃機関からの排気の一部を燃焼室内に還流させて再燃焼させることで燃焼温度を下げ、排気中の窒素酸化物(以下、NOxという)の濃度(排出量)を低減するための所謂EGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環)システムが知られている。
【0003】
かかるEGRシステムにおいては、燃焼室内に還流させるEGRガスを冷却することにより、燃焼温度を低下させることができ、これにより一層効果的にNOxの排出量を低減することができる。
【0004】
このようなことから、例えば、特許文献1に記載されるEGRシステムでは、EGRガスを冷却するための熱交換器であるEGRクーラを、EGRガスを排気通路から内燃機関の吸気通路へ導くEGR通路に介装することが行われている。
【0005】
なお、EGRクーラを備えてEGRガス温度を下げることによって、EGRガスの膨張も抑制されるため、吸気中に混合されるEGRガス量(排気還流量)を増加させたい、すなわちEGR率(=EGRガス量/(新気量+EGRガス量)×100(%))を一層稼ぎたいといった要求がある場合などにおいても有利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−125356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、NOx排出量を一層低減するために高いEGR率で内燃機関を運転すると、高EGR率化に伴い新気の空気量(新気量)が少なくなるため、排気の黒煙濃度が増加するおそれがある。
【0008】
黒煙濃度の増加を抑制するためには、新気の空気量を維持しながら高EGR率化を図る必要があるため、吸気側の過給圧(ブースト圧)を上げると共に排気側のエキマニ圧力(排気マニホールド圧力)を上げる必要があり、この結果、内燃機関のポンピングロスが大きくなるため、燃費が悪化してしまうといった実情がある。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みなされたもので、簡単かつ安価な構成でありながら、ポンピングロス等を増大させずに、高いEGR率での運転を実現することができ、以って排出黒煙濃度(パティキュレート)の増加を抑制しながらNOx排出量を効果的に低減することができるEGR装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本発明に係るEGR装置は、
内燃機関の排気の一部をEGRガスとして燃焼室に還流させるEGR装置であって、
EGRガスが導かれ吸気通路に接続されるEGR通路が複数備えられ、各EGR通路はその入口からEGRガス流れ下流側の開放端までの長さが異なって構成されていると共に、
EGRガスが流れるEGR通路を切り換える切換バルブが備えられ、
内燃機関の運転状態に応じて、前記切換バルブにより、EGRガスが流れるEGR通路を切り換えることを特徴とする。
【0011】
本発明において、内燃機関の回転速度が低い場合に、入口から開放端までの長さの長いEGR通路をEGRガスが流れ、
内燃機関の回転速度が高い場合に、入口から開放端までの長さの短いEGR通路をEGRガスが流れるように、
EGR通路が切り換えられることを特徴とすることができる。
【0012】
また、本発明において、前記開放端は、EGR通路と、EGR通路の途中に設けられ所定の容積を有する容積室と、の接続部により形成されることを特徴とすることができる。
【0013】
また、本発明において、前記容積室は、EGRガスを冷却するEGRクーラのEGRガスの入口部を構成していることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡単かつ安価な構成でありながら、ポンピングロス等を増大させずに、高いEGR率での運転を実現することができ、以って排出黒煙濃度(パティキュレート)の増加を抑制しながらNOx排出量を効果的に低減することができるEGR装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態(実施例1)に係るEGR装置を備えた内燃機関の一構成例を概略的に示す概略全体構成図(高速域での運転時)である。
【図2】同上実施の形態(実施例1)に係るEGR装置を備えた内燃機関の一構成例を概略的に示す概略全体構成図(低速域での運転時)である。
【図3】EGR装置におけるEGRガスの圧力波の伝播の様子を説明するための模式図である。
【図4】EGR装置におけるEGRガスの容積室(開放端)からの返波(負圧波)による掃気効果を説明するための排気弁閉時期(EC:Exthost valve Close timig)と返波の様子を示すタイミングチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施の形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
図1に示すように、本実施の形態の実施例1に係る内燃機関1においては、図示しないエアクリーナ等を介して外気(新気)が吸入されるが、該新気は吸気通路2を介して過給機3のコンプレッサ(インペラ)3Aに導かれて所定に圧縮された後、吸気通路2に介装されるインタークーラ4を介して所定に冷却されて、燃焼室(シリンダ)5内に導かれる。
【0018】
燃焼室5から排出される燃焼後のガスは、燃焼室5に臨んで開口される排気ポート(図3の5B)を介して排気通路(排気マニホールド部分)6に導かれ、その後、過給機3の排気タービン3Bに回転エネルギを供給した後、排気通路7の下流に配設されている図示しない排気処理装置(酸化触媒、NOx低減触媒、ディーゼルパティキュレートフィルタなど)において所定の処理を受けて浄化され、大気中に排出される。
【0019】
ここで、本実施例では、燃焼後のガス(すなわち、排気)の一部を吸気(新気)と共に燃焼室5に再び導くことで、燃焼温度を低下させてNOxの低減を図るためのEGR装置100が設けられている。
【0020】
本実施例に係るEGR装置(システム)100(HPL−EGR:High Pressure Loop−EGR)は、排気タービン3Bの上流側において排気通路(排気マニホールド部分)6に連通されるEGR通路(排気還流通路)101を含んで構成され、該EGR通路101には当該EGR通路101を流れる排気(EGRガス:還流排気)を所定に冷却するためのEGRクーラ110が介装されている。
【0021】
EGRクーラ110のEGRガス流れ下流側において、EGR通路101は、EGRバルブ120が介装されると共に吸気通路2に接続されている。
【0022】
ここで、本実施例では、図1に示すように、EGRクーラ110のEGRガス流れ上流側において、EGR通路101は、一旦、比較的短い管長の高速用EGR通路101Aと、比較的長い管長の低速用EGR通路101Bと、に分岐され、再び合流されるようになっている。
【0023】
そして、EGRガスが流れる通路を切り換えることができるように、高速用EGR通路101Aと低速用EGR通路101Bの分岐部Xには、第1切換バルブ130が設けられると共に、合流部Yには、第2切換バルブ140が設けられている。
【0024】
かかる構成を備えた本実施例に係るEGR装置100は、排気の圧力波を利用して残留ガスを多く掃気することができる技術を利用した装置である。
【0025】
すなわち、燃焼室5内の高温(すなわち低密度)の残留ガス(燃焼ガス:燃焼後のガス)を多く掃気することができれば、EGRクーラ110で冷却された(すなわち高密度)のEGRガスを多く燃焼室5内へ導入することができるため、ポンピングロスを増大させることなく高EGR率化を図ることができる。
【0026】
本実施例に係るEGR装置100における排気の圧力波の伝播の様子を、図3に示す。燃焼ガスの圧力波は、排気バルブ(図示せず)が開いた後、排気ポート5B、排気通路(排気マニホールド部分)6を介してEGR通路101へ伝達され、EGRクーラ110のEGRガスの入口部分に設置されている容積室110Aに到達する。
【0027】
容積室110Aは開放端となるため、容積室110Aに到達した燃焼ガス(EGRガス)の圧力波は、負圧となって開放端から再び排気ポート5Bへと戻ることになる。
【0028】
この負圧波の戻るタイミングと、排気バルブが閉じるタイミングと、を適宜に調整することで(例えばEGR通路101の管長など)、燃焼室5内の残留ガスを排気ポート5B側へ吸い出すことができ、残留ガスを効率良く掃気することができることになる。
【0029】
図4に、掃気効果が最大となる負圧波のタイミングを示す。
図4に示すように、排気バルブが閉じるタイミングと、負圧波のピークと、が一致したときが、掃気効果が最大となる。
【0030】
内燃機関1の回転速度が高い場合、排気バルブが開いてから閉じるまでの時間が比較的短いため、高い掃気効果を得るためには、排気バルブから開放端(容積室110A)までのEGR通路101などのEGRガスが流れる管路長さ(管長)を短くし、負圧波の戻りを早くする必要がある。
【0031】
一方、内燃機関1の回転速度が低い場合、排気バルブが開いてから閉じるまでの時間が比較的長いため、高い掃気効果を得るためには、排気バルブから開放端(容積室110A)までのEGR通路101などのEGRガスが流れる管路長さ(管長)を長くして、負圧波の戻りを遅くする必要がある。
【0032】
このため、本実施例に係るEGR装置100では、内燃機関1の回転速度に応じて、EGRガスが流れるEGR通路101の長さを切り換えることができる構成とし、広い回転域に亘って高い掃気効果を得ることで、広い回転域に亘ってポンピングロスを増大させることなく高EGR率化を図る。
【0033】
詳細には、内燃機関1の回転速度が高速である場合は、図1に示したように、第1切換バルブ130、第2切換バルブ140を閉じて、EGRガスが流れるEGR通路101を、高速用EGR通路101A側へ切り換える。
【0034】
これにより、全長の短い高速用EGR通路101Aが容積室110Aに接続されることになるため、開放端にて発生した負圧波の戻りが早くなるため、高速域において高い掃気効果を得ることができる。
【0035】
内燃機関1の回転速度が低速である場合は、図2に示したように、第1切換バルブ130、第2切換バルブ140を開いて、EGRガスが流れるEGR通路101を、低速用EGR通路101B側へ切り換える。
【0036】
これにより、全長の長い低速用EGR通路101Bが容積室110Aに接続されることになるため、開放端にて発生する負圧波の戻りが遅くなるため、低速域において高い掃気効果を得ることができる。
【0037】
このように、本実施例に係るEGR装置100によれば、内燃機関1の回転速度等の運転状態に応じて、管長の異なる高速用EGR通路101Aと、低速用EGR通路101Bと、を切り換えることができるようにしたので、広い回転領域に亘って高い掃気効果を得ることができる。
【0038】
このため、燃焼室5内の高温の残留ガスを多く掃気し、EGRクーラ110で冷却した高密度のEGRガスを多く燃焼室5内へ導入することができるため、高EGR率化が可能となる。
【0039】
従って、本実施例に係るEGR装置100によれば、吸気側の過給圧(ブースト圧)や排気側のエキマニ圧力(排気マニホールド圧力)を従来に対して増大させることなく、吸入空気量を維持したままで高いEGR率を実現可能であるから、内燃機関のポンピングロスが増大することがない。このため、燃費を維持しながらNOx排出量を効果的に低減することができる。
【0040】
すなわち、本実施例に係るEGR装置100によれば、簡単かつ安価な構成でありながら、ポンピングロス等を増大させずに、高いEGR率での運転を実現することができ、以って排出黒煙濃度(パティキュレート)の増加を抑制しながらNOx排出量を効果的に低減することができるEGR装置を提供することができる。
【0041】
なお、EGR率については、EGRバルブ120の開度を制御することで、内燃機関1の運転状態(回転速度、負荷、機関温度など)に応じて設定される目標EGR率に制御することができる。
【0042】
ところで、本実施例では、EGR通路101を、比較的短い管長の高速用EGR通路101Aと、比較的長い管長の低速用EGR通路101Bと、の間で切り換える構成として説明したが、これに限定されるものではなく、低速用EGR通路、中速用EGR通路、高速用EGR通路などの管長の異なるEGR通路を3以上備えて切り換えの組み合わせを増やすことで、負圧の戻りに同期される回転速度を細分化することができ、以ってよりきめ細かなEGR制御が可能となる。
【0043】
ところで、本実施例では、EGR装置(システム)100(HPL−EGR:High Pressure Loop−EGR)を備えて構成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、EGR装置(システム)として低圧EGR装置(LPL−EGR:Low Pressure Loop−EGR)を備えた場合にも適用できるものである。
【0044】
なお、本発明は、EGRクーラ110を省略して構成することもでき、その場合には、容積室110Aが省略されるが、EGR通路101のEGRガス流れの下流端と、吸気通路2と、の接続部が開放端となる。或いは、高速用EGR通路101Aと、低速用EGR通路101Bと、が合流した後のEGR通路101に、容積室を設ける構成とすることもできる。
【0045】
なお、本実施例では、内燃機関1の回転速度に応じて、EGR通路を切り換えたり、EGRバルブの開閉状態を切り換えることとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、内燃機関1の負荷や温度(水温など)など内燃機関1の運転状態に応じて、EGR通路を切り換えたり、EGRバルブの開閉状態を切り換える構成とすることもできる。
【0046】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1 内燃機関
2 吸気通路
5 燃焼室
100 EGR装置
101 EGR通路
101A 高速用EGR通路
101B 低速用EGR通路
110 EGRクーラ
110A 容積室
120 EGRバルブ
130 第1切換バルブ
140 第2切換バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気の一部をEGRガスとして燃焼室に還流させるEGR装置であって、
EGRガスが導かれ吸気通路に接続されるEGR通路が複数備えられ、各EGR通路はその入口からEGRガス流れ下流側の開放端までの長さが異なって構成されていると共に、
EGRガスが流れるEGR通路を切り換える切換バルブが備えられ、
内燃機関の運転状態に応じて、前記切換バルブにより、EGRガスが流れるEGR通路を切り換えることを特徴とするEGR装置。
【請求項2】
内燃機関の回転速度が低い場合に、入口から開放端までの長さの長いEGR通路をEGRガスが流れ、
内燃機関の回転速度が高い場合に、入口から開放端までの長さの短いEGR通路をEGRガスが流れるように、
EGR通路が切り換えられることを特徴とする請求項1に記載のEGR装置。
【請求項3】
前記開放端は、EGR通路と、EGR通路の途中に設けられ所定の容積を有する容積室と、の接続部により形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のEGR装置。
【請求項4】
前記容積室は、EGRガスを冷却するEGRクーラのEGRガスの入口部を構成していることを特徴とする請求項3に記載のEGR装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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