説明

FRP積層構造体とこれを用いた筐体

【課題】軽量でありながら、高い剛性を備えており、しかも衝撃荷重を良好に吸収できるようにする。
【解決手段】
表層部(2)と、両表層部(2)間に配置された内層部(3)とを備える。表層部(2)は、面状のFRP層(6)を備える。FRP層(6)は、高強度有機連続繊維(4)とマトリックス樹脂(5)とを含む。内層部(3)は、複数の筒体(8)が面状に並列配置された筒体層(9)を備える。筒体(8)は、長さ方向が筒体層(9)の面方向に配置されている。筒体(8)は、高強度有機連続繊維とマトリックス樹脂とを含む。内層部(3)が複数の筒体層(9)を備える場合、各筒体層(9)は筒体(8)の長さ方向を互いに異ならせる。筒体(8)は、外周面に熱接着性の樹脂層を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はFRP(繊維強化樹脂)積層構造体と筐体に関し、さらに詳しくは、軽量でありながら、高い剛性を備えており、しかも衝撃荷重を良好に吸収できる、FRP積層構造体とこれを用いた筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP積層構造体は、金属に比較して軽量でありながら強度を備えていることから、各種の筐体や自動車用外板部材などさまざまな分野に使用されている。
この種のFRP積層構造体としては、連続繊維を用いた織物や一方向繊維シートに合成樹脂を含浸させてプリプレグシートを作成し、このプリプレグシートを複数積層して硬化させたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら上記のFRP積層構造体は、剛性や耐衝撃性等の強度を高めると衝撃荷重の吸収が容易でなくなり、先端の尖った物体が衝突した際、この物体の先端が貫通してしまう虞がある。これを防止するため積層枚数を増やすなどして耐衝撃性を高めると、積層構造体の重量が過大となる問題がある。
【0004】
この問題点を解消するため、複数のFRP層間に高伸度で破断する高破断伸度層を形成して、衝撃吸収性能を高めることが提案されている(特許文献2参照。)。しかしこの高破断伸度層を形成したものにあっても、衝撃吸収性能を高めるとともにFRP積層構造体の剛性を高めると、各層の肉厚を厚くしなければならず重量が過大となる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−252372号公報
【特許文献2】特開2005−238837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、軽量でありながら、高い剛性を備えており、しかも衝撃荷重を良好に吸収できる、FRP積層構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば本発明の実施の形態を示す図1から図6に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち本発明1はFRP積層構造体に関し、高強度有機連続繊維(4)とマトリックス樹脂(5)とを含む面状のFRP層(6)を表層部(2)に備え、複数の筒体(8)が面状に並列配置された筒体層(9)を内層部(3)に備え、上記の筒体(8)は長さ方向が上記の筒体層(9)の面方向に配置されており、上記の筒体(8)が高強度有機連続繊維(10)とマトリックス樹脂(11)とを含むことを特徴とする。
また本発明2は筐体に関し、本発明1のFRP積層構造体(1)を用いたことを特徴とする。
【0008】
本発明1のFRP積層構造体は、表層が高強度有機連続繊維とマトリックス樹脂とを含む面状のFRP層を備えるので、滑らかな表面に形成されている。一方、内層部は複数の筒体が面状に並列配置された筒体層を備え、上記の筒体は長さ方向が上記の筒体層の面方向に配置されているので、この筒体の外殻部の一部がFRP積層構造体の厚さ方向に配置され、優れた補強効果を発揮する。しかもこの筒体層は筒体内部が中空であるので、この筒体層を含むFRP積層構造体全体が軽量となる。
【0009】
上記のFRP積層構造体が衝撃荷重を受けると、上記の筒体が圧潰されるように変形してその衝撃荷重が良好に吸収され、さらに上記のFRP層や筒体に含まれる高い強度の有機連続繊維により衝撃荷重が緩衝されるとともに確りと受け止められる。この結果、先端の尖った物体が衝突した場合であっても、この物体の先端は貫通し難く、その衝突によるFRP積層構造体の変形量が小さく抑えられる。
【0010】
上記の内層部は、1層の筒体層を備えたものであってもよいが、筒体は長さ方向に対する曲げ剛性が最も高いので、筒体の長さ方向を互いに直交方向に配置するなど、その長さ方向を互いに異ならせた、複数の筒体層を備えると好ましい。
【0011】
上記の筒体は、隣接する筒体や上記のFRP層と一体になっていると高い強度を備えるうえ、優れた衝撃荷重吸収性能を発揮できて好ましい。この一体化には、例えば接着剤を用いて接着したり、熱可塑性樹脂からなるシートや不織布を介在させ、これを加熱軟化させて筒体とFRP層とを接着したりしてもよい。しかし上記の筒体の外周面に熱接着性の樹脂層を備えると、加熱することにより容易に一体化できて好ましい。この熱接着性樹脂層としては、熱可塑性樹脂など加熱により軟化して接着性能を発揮できるものであればよく、特定のものに限定されないが、例えばポリエチレン樹脂フィルムのほか、ハイミラン(商品名、三井・デュポン ポリケミカル株式会社製)などのアイオノマー樹脂製フィルム等が好ましく、単層または複数層積層して用いられる。
【0012】
上記のFRP層と筒体とに含まれる高強度有機連続繊維は、同じ種類の有機繊維であってもよく、或いは、互いに異なる種類の有機繊維であってもよい。
これらの高強度有機連続繊維としては、例えば、超高分子量ポリエチレン繊維、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ヘテロ環高性能繊維、ポリアセタール繊維等が挙げられる。これらの繊維は単独で、または2種以上を任意の割合で用いることができる。しかし、上記のFRP層と筒体とに含まれる少なくともいずれかの高強度連続繊維が、全芳香族ポリアミド繊維であると好ましく、パラ系アラミド繊維が特に好ましい。
【0013】
上記のFRP層や筒体に含まれる高強度有機連続繊維は、通常、シート状に形成されており、連続繊維を織成した織物や、連続繊維を一方向に引き揃えた一方向繊維シートが用いられる。これらのシートの使用枚数は1枚であってもよいが、複数枚を積層した状態にしてあると、強度や衝撃吸収性能が均一化されてより好ましい。
【0014】
上記のFRP層に含まれるマトリックス樹脂は、本発明の効果を妨げない限り特定の合成樹脂に限定されないが、ポリオレフィン樹脂やポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂を用いると、高強度有機連続繊維による衝撃吸収性能が良好に発揮されて好ましい。
【0015】
上記の筒体は、特定の形状のものに限定されないが、円形であると製作が容易であるうえ、衝撃吸収性能が良好に発揮されるので好ましい。
この筒体の直径や肉厚は特定の寸法に限定されないが、軸直交断面において外殻部の断面積比率が15〜85%程度であると、高い剛性や強度と良好な衝撃吸収性能を発揮できて好ましく、20〜70%程度であるとより好ましい。
【0016】
上記の筒体に含まれるマトリックス樹脂は、特定の合成樹脂に限定されず、例えばポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂であってもよいが、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いると、高い剛性を発揮できて好ましい。この筒体に含まれるマトリックス樹脂の比率は特定の範囲に限定されないが、20〜65重量%であると、筒体を軽量にしながら、高い剛性と良好な衝撃吸収性能を発揮できて好ましく、25〜60重量%であるとより好ましく、30〜50重量%であるとさらに好ましい。
【0017】
上記の本発明2は、上記の本発明1のFRP積層構造体を用いてあるので、軽量であるうえ剛性が高く、重量物を収容した際もこれらの収容物が良好に支持され、しかも衝撃荷重を受けた際に、物体がFRP積層構造体を貫通せず、FRP積層構造体の変形量も小さく抑えられるので、収容物を損傷させる虞がない。このため、この筐体は特定の用途に限定されないが、車載用バッテリケースなどに用いると特に好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
(1)内層部は筒体を面状に並列配置した筒体層を備えるので中空構造となっており、FRP積層構造体全体を軽量にできる。
(2)FRP層と筒体とがいずれも高強度有機連続繊維を含むうえ、上記の筒体が優れた補強効果を発揮するので、FRP積層構造体は高い剛性を備える。
(3)高強度有機連続繊維が衝撃力を緩衝できるうえ、上記の筒体は衝撃を受けると圧潰されるように変形して、その衝撃荷重を良好に吸収できる。この結果、先端の尖った物体が衝突した場合であっても、この物体の先端が貫通することを抑制でき、その衝突によるFRP積層構造体の変形量を小さく抑えることができる。
(4)上記のFRP積層構造体を用いた筐体は、収容物が重量物であっても変形することなく支持でき、しかも衝撃を受けた際に、収容物を安全に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態のFRP積層構造体を示す、破断斜視図である。
【図2】第1実施形態の、筒体の一部破断斜視図である。
【図3】本発明の実施例と比較例の、構成と測定結果を示す対比表である。
【図4】第1実施形態のFRP積層構造体を用いた、筐体の断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態のFRP積層構造体を示す、破断斜視図である。
【図6】本発明の第3実施形態のFRP積層構造体を示す、破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明を具体的に説明する。
図1に示すように、このFRP積層構造体(1)は上下の表層部(2)と、両表層部(2)間に配置された内層部(3)とを備える。この表層部(2)は、高強度有機連続繊維(4)とマトリックス樹脂(5)とを含む面状のFRP層(6)からなり、周縁部(7)では、上下の表層部(2・2)同士が互いに直接接合してある。また上記の内層部(3)は、複数の筒体(8)が面状に並列配置された、上下2段の筒体層(9)を備える。
【0021】
上記の筒体(8)は、長さ方向が上記の筒体層(9)の面方向に配置されており、図2に示すように、高強度有機連続繊維(10)とマトリックス樹脂(11)とを含んでいる。
この筒体(8)に含まれる高強度有機連続繊維(10)は、上記のFRP層(6)に含まれる高強度有機連続繊維(4)と同じ種類の有機繊維であってもよく、或いは互いに異なる種類の有機繊維であってもよい。
【0022】
これらの高強度有機連続繊維(4・10)は特定の種類のものに限定されず、例えば、超高分子量ポリエチレン繊維、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ヘテロ環高性能繊維、ポリアセタール繊維等を挙げることができ、これらの繊維を単独で、または2種以上を任意の割合で使用することができるが、なかでも、全芳香族ポリアミド繊維であると好ましく、パラ系アラミド繊維が特に好ましい。
【0023】
上記の超高分子量ポリエチレン繊維とは、分子量が20万程度以上、好ましくは60万程度以上の、超高分子量ポリエチレンからなる繊維をいう。この超高分子量ポリエチレンとしては、ホモポリマーの他、エチレンと炭素原子数3〜10程度の低級α−オレフィン類、例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等との共重合体も含むものが好適である。このエチレンとα−オレフィンとの共重合体の場合、後者の割合は炭素数1000個当たり平均0.1〜20個程度、好ましくは平均0.5〜10個程度であるような共重合体が好ましい。
上記の超高分子量ポリエチレン繊維は、公知又はそれに準ずる方法により製造したものであってもよく、或いは、ダイニーマ(商品名、東洋紡績株式会社製)、スペクトラ(商品名、ハネウエル社製)、ハイゼックスミリオン(商品名、三井化学株式会社製)等の市販品を用いてもよい。
【0024】
上記の全芳香族ポリアミド繊維としては、特に限定されないが、例えば、アラミド繊維等が挙げられる。アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維が好ましい。前記パラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名:ケブラー29、49、149等)又はコポリパラフェニレン−3,4’−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名:テクノーラ)等が挙げられ、中でも、上記のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が特に好ましい。かかる全芳香族ポリアミド繊維は、公知又はそれに準ずる方法で製造でき、また、上記のような市販品を用いてもよい。
【0025】
上記の全芳香族ポリエステル繊維としては、特に限定されないが、例えば、パラヒドロキシ安息香酸の自己縮合ポリエステル、テレフタル酸とハイドロキノンからなるポリエステル、又はパラヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸からなるポリエステルからなる繊維等が挙げられる。全芳香族ポリエステル繊維は、公知又はそれに準ずる方法で製造でき、また、例えばベクトラン(商品名、株式会社クラレ製)等の市販品を用いることもできる。
【0026】
上記のヘテロ環高性能繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール(PBZT)繊維や、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維等が挙げられる。ヘテロ環高性能繊維は、公知又はそれに準ずる方法で製造でき、また、例えばザイロン(商品名、東洋紡績株式会社製)等のPBO繊維等を用いることもできる。
【0027】
上記のポリアセタール繊維としては、特に限定されないが、公知又はそれに準ずる方法で製造でき、また、例えばテナック(商品名、旭化成株式会社製)、デルリン(商品名、デュポン社製)等の市販品を用いることもできる。
【0028】
上記のFRP層(6)に含まれるマトリックス樹脂(5)は特定の樹脂に限定されないが、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。この熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等)、ポリアミド系熱可塑性樹脂(例えば、6ナイロン、66ナイロン、MCナイロン等のナイロン樹脂等)、ポリエステル系熱可塑性樹脂、スチレン系熱可塑性樹脂、ポリ塩化ビニル系熱可塑性樹脂、ポリウレタン系熱可塑性樹脂、ポリイミド系熱可塑性樹脂等を挙げることができるが、なかでもポリオレフィン系熱可塑性樹脂が好ましい。
【0029】
上記のFRP層(6)の強度や衝撃吸収性能は、肉厚や、高強度有機連続繊維の種類、マトリックス樹脂の種類等によっても異なるが、樹脂含有率が多いと硬くなって剛性や耐衝撃性は優れたものとなり、樹脂含有率が少ないと柔らかくなって衝撃吸収性能が良好となる。このためこの樹脂含有率は、例えば10〜60重量%程度に設定されると好ましい。
【0030】
上記のFRP層(6)は、任意の方法で高強度有機連続繊維(4)にマトリックス樹脂(5)を含浸させて形成することができる。例えば、高強度有機連続繊維(4)からなる織布と、熱可塑性樹脂からなる不織布とを所定の割合で積層し、熱可塑性樹脂の融点よりも高温で加熱しながら加圧することで、その樹脂を溶融させて上記の高強度有機連続繊維(4)に含浸させ、FRP層(6)にすることができる。
【0031】
上記の筒体(8)に含まれるマトリックス樹脂(11)は、特定の樹脂に限定されないが、熱硬化性樹脂を用いると、高い剛性を発揮できるうえ、耐熱性が高いので、熱接着性樹脂による上記のFRP層との熱接着など、加熱処理を容易に施すことができて好ましい。これらの熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等を挙げることができる。
【0032】
上記のエポキシ樹脂としては、特に限定されないが、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールFもしくはビスフェノールSのジグリシジルエーテル化合物またはその高分子量同族体、フェノールノボラック型ポリグリシジルエーテルまたはクレゾールノボラック型ポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。さらにこれらのハロゲン化誘導体も使用できる。さらに合成過程で、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のフェノール類をこれらのグリシジルエーテルと反応させて得られた芳香族系エポキシ樹脂等、また脂肪族系エポキシ樹脂を使用してもよい。エポキシ樹脂は本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、公知の製造方法により得ることができ、市販品を用いてもよい。
【0033】
上記の不飽和ポリエステル樹脂としては、特に限定されないが、公知の方法により製造されるものを用いることができ、市販品を用いてもよい。例えば、多価アルコールからなるアルコール成分と、α、β−不飽和多価カルボン酸類と、飽和多価カルボン酸類および芳香族多価カルボン酸類からなる酸成分とを用いて公知の製造方法により得ることができる。
また上記のビニルエステル樹脂も、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、公知の方法により製造されるものを用いることができ、市販品を用いてもよい。
【0034】
この第1実施形態では、図2に示すように、上記の筒体(8)は、上記のマトリックス樹脂(11)以外に、熱接着性の樹脂層(12)を外周面に備えている。この熱接着性樹脂には、加熱により軟化して接着性能を発揮するものであればよく、特定のものに限定されない。例えばポリエチレン樹脂フィルムや、ハイミラン(商品名、三井・デュポン ポリケミカル株式会社製)などの熱可塑性樹脂が好ましく用いられるが、熱接着性樹脂を含む塗料などの塗布により形成したものであってもよい。
【0035】
上記の筒体(8)の強度や衝撃吸収性能は、外径や肉厚、高強度有機連続繊維の種類、マトリックス樹脂(11)の種類、樹脂の含有率等によっても異なる。
例えばこの筒体(8)の外径や肉厚は特定の値に限定されないが、軸直交断面において外殻部の断面積比率が15〜85%程度であると、高い剛性や強度と良好な衝撃吸収性能を発揮できて好ましく、20〜70%程度であるとより好ましい。
【0036】
また上記の筒体(8)に含まれるマトリックス樹脂(11)の比率は、特定の値に限定されないが、この含有率が20〜65重量%であると、筒体(8)を軽量にしながら高い剛性と良好な衝撃吸収性能を発揮できて好ましく、25〜60重量%であるとより好ましく、30〜50重量%であるとさらに好ましい。
【0037】
上記の筒体(8)は、特定の方法で製造されたものに限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、高強度有機連続繊維の織布や一方向繊維シートに未硬化状態の熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグシートを作成し、このフリプレグシートを棒状の芯材に捲回したのち硬化させ、芯材を引き抜くことで筒体(8)にすることができる。
【0038】
なおこの第1実施形態では、図2に示すように、高強度有機連続繊維(10)を並列配置した一方向繊維シートを用いてあり、その高強度有機連続繊維(10)の長さ方向が筒体(8)の長さ方向と一致するように上記の一方向繊維シートを捲回してある。しかし本発明では、高強度有機連続繊維(10)の長さ方向が、例えば筒体(8)の長さ方向と一致するプレプリグシートと、筒体(8)の周方向に一致するプレプリグシートとを積層して硬化したものであってもよく、或いは高強度有機連続繊維(10)の織布を用いたものであってもよい。
【0039】
上記のFRP積層構造体(1)は、上記のFRP層(6)と筒体(8)とを用いて任意の方法により製造される。例えば、一層または複数層のFRP層(6)の上に、上記の筒体(8)を長さ方向が水平方向となるように並列配置して1段目の筒体層(9)を形成する。そしてその上に、筒体(8)を長さ方向が水平方向で上記の1段目の筒体(8)とは直交する方向に並列配置して、2段目の筒体層(9)を形成し、その上に一層または複数層のFRP層(6)を配置する。このように積層したものを、例えば熱プレス等により加熱・加圧することで、周縁部(7)では上下のFRP層(6)同士が直接、一体に接着され、中間部では隣接する筒体(8)同士が接着されるとともに、上記のFRP層(6)と筒体層(9)とが互いに接着されて、上記のFRP積層構造体(1)が製造される。なお、このFRP積層構造体(1)は、周縁部(7)で上下のFRP層(6)同士が直接接着され、筒体層(9)はこのFRP層(6)で包み込まれた状態となっているので、優れた剛性や衝撃吸収性能等を発揮できて好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
(1)FRP層
高強度有機連続繊維として、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維であるケブラーK−29 1670dtx(東レ・デュポン株式会社製)を用い、平織の織布を形成した。この織布の織密度は、タテ方向とヨコ方向とも、インチ当り3300dtex×9.3本とした。マトリックス樹脂としては、ポリプロピレン樹脂製不織布を用いた。上記の高強度有機連続繊維製織布を4枚と、それらの間や両側に配置したポリプロピレン樹脂製不織布とを、重量比が約50:50となるように重ね合せ、5分間、190℃、約1MPaの熱と圧力を加えてFRP層を形成した。得られたFRP層は、目付けが657g/mであり、厚さが0.60mmであった。
【0042】
(2)筒体
高強度有機連続繊維として、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維であるケブラーK−29 1670dtx(東レ・デュポン株式会社製)を用い、繊維を一方向に揃えた一方向性繊維シート(UDシート)を形成した。このUDシートに、樹脂含有率が30重量%となるようにエポキシ樹脂をホットメルト方式にて含浸させ、プリプレグとした。このプリプレグを所定の芯部材に捲回したのち、外周面に厚さ0.06mmのポリエチレン樹脂フィルムを積層して筒体を形成した。得られた筒体は、断面が真円形であり、外径が7mm、内径が4mmで、外殻部の断面積比率が約67%であり、重量が31.8g/mであった。
【0043】
(3)FRP積層構造体
上記のFRP層の上に筒体を並列配置して1段の筒体層を形成し、その上に上記のFRP層を配置したのち、5分間、180℃、約0.1MPaの熱と圧力を加えてFRP層と筒体とを一体化し、実施例1のFRP積層構造体とした。
【0044】
[実施例2]
実施例1と同じFRP層と筒体を用い、1段目の筒体層を形成したうえに1段目の筒体とは直交する方向に筒体を並列配置して2段目の筒体層を形成した以外は、実施例1と同様に一体化して、実施例2のFRP積層構造体とした。
【0045】
[実施例3]
筒体の外径を6mmとした以外は、実施例1と同じ筒体とFRP層を用い、実施例2と同様に筒体層を2段に形成して一体化し、実施例3のFRP積層構造体とした。
【0046】
[比較例1]
実施例1と同じ高強度有機連続繊維製織布とポリプロピレン樹脂製不織布とを用い、上記の高強度有機連続繊維製織布を8枚と、それらの間や両側に配置したポリプロピレン樹脂製不織布とを、重量比が約50:50となるように重ね合せ、5分間、190℃、約1MPaの熱と圧力を加えて一体化し、FRP層のみからなる、比較例1のFRP積層構造体を得た。
【0047】
[比較例2]
高強度有機連続繊維製織布とポリプロピレン樹脂製不織布との重量比が約85:15となるようにした以外は、比較例1と同様の高強度有機連続繊維製織布とポリプロピレン樹脂製不織布とを用い、同様に一体化して、比較例2のFRP積層構造体を得た。
【0048】
[比較例3]
高強度有機連続繊維製織布を18枚用いた以外は、比較例2と同様の高強度有機連続繊維製織布とポリプロピレン樹脂製不織布とを同様の重量比で用い、同様に一体化して、比較例3のFRP積層構造体を得た。
【0049】
次に、上記の各実施例と比較例について、衝撃吸収性能と曲げ剛性を測定した。各試験の測定方法は次の通りである。
【0050】
〔衝撃吸収性能〕
各実施例および比較例のFRP積層構造体を110mm角にカットしてサンプルとし、ASTM D−3763に準じて、落錘型衝撃試験機(商品名:Dynatup(登録商標) 9200、インストロン社製)を用いて、カットしたサンプルの周縁部を固定枠で支持し、このサンプルの中央部に錘体を落下せて、250Jの衝撃エネルギーで衝突させ、サンプルの状態を測定した。錘体は下端が直径1/2インチの棒状体からなり、実荷重17.862kgのものを用いた。
サンプルの状態測定は、錘体の衝突により、錘体下端がサンプルを貫通するか否かと、
サンプル下面の下方への変形寸法とを測定した。
【0051】
〔曲げ剛性〕
各実施例および比較例のFRP積層構造体を50mm×100mmにカットしてサンプルとし、JIS K 7017:1999(繊維強化プラスチック−曲げ特性の求め方)に基づいて、3点曲げ(A法)により測定した。より具体的には、各サンプルを支点間距離80mmで支持し、その中央に荷重を、5mm/分の速度で加えて最大曲げ荷重を測定した。 上記の各構成と測定結果を、図3の対比表に示す。
【0052】
上記の衝撃吸収性能の測定結果から明らかなように、筒体層を備えない比較例1〜3では、いずれも錘体の先端が貫通し、サンプル下面の下方への変形量が30mm以上と大きい。これに対し筒体層を備える本発明の実施例1〜3にあっては、錘体がいずれも貫通せず、サンプル下面の下方への変形量を25mm以下の小さな値に抑えることができた。
【0053】
また上記の曲げ剛性の測定結果から明らかなように、筒体層を備えない比較例1、2にあっては、曲げ荷重が極めて小さい。これに対し、筒体層を備える本発明の実施例1〜3にあっては、曲げ荷重が大幅に向上し、例えば実施例2を比較例1と対比すると、目付けが10倍程度以下であるのに対し、曲げ荷重が150倍以上となっている。従って、必要な高い曲げ剛性を備えるFRP積層構造体を、軽量にできることが確認された。
【0054】
図4は上記のFRP積層構造体(1)を用いて形成した筐体(13)の断面図であり、車載用バッテリケースとして用いてある。即ち、この筐体(13)の底部と周側部と上面部とに、それぞれ上記のFRP積層構造体(1)が用いてあり、内部空間に車載用バッテリ(14)が収容してある。このFRP積層構造体(1)は軽量であるうえ、剛性が高く、しかも衝撃吸収性能に優れるので、上記のバッテリ(14)を底部のFRP積層構造体(1)で安定良く支持しながら、下方をはじめ様々な方向からの衝撃に対し、バッテリ(14)が損傷しないように確りと保護している。
【0055】
上記の実施形態では、内層部に2段の筒体層を用いた。しかし本発明ではこの筒体層を1段で構成してもよく、或いは3段以上に構成してもよい。
例えば図5に示す第2実施形態では、内層部(3)に1段の筒体層(9)を備えている。その他の構成は上記の第1実施形態と同様であり、同様に形成され、同様に作用するので説明を省略する。
【0056】
また上記の各実施形態では、いずれも内層部を筒体層で構成した。しかし本発明は、内層部に筒体層以外の層を備えていてもよい。
例えば図6に示す第3実施形態では、内層部(3)に筒体層(9)とFRP層(15)とを備えている。即ち、この実施形態では、上記の第1実施形態と同様、2段の筒体層(9)を備えており、各筒体層(9)は、筒体(8)の長さ方向が互いに直交する方向に配置してある。しかしこの第3実施形態では、両筒体層(9・9)間に、表層部(2)に用いたと同様のFRP層(15)が配置してある。なお本発明では、この内層部(3)に配置されたFRP層(15)は、表層部(2)に用いたFRP層(6)と異なる材質の高強度有機連続繊維やマトリックス樹脂を含むものであったり、樹脂含有率が異なるものであってもよい。その他の構成は上記の第1実施形態と同様であり、同様に形成され、同様に作用するので説明を省略する。
【0057】
上記の各実施形態や実施例で説明したFRP積層構造体とこれを用いた筐体は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、各部の形状や寸法、材質などをこれらの実施形態のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0058】
例えば上記の実施形態では、断面が真円状の筒体を用いたが、本発明では断面が楕円形やその他の異形断面の筒体を用いてもよい。また上記の実施例では、いずれもアラミド繊維を用いたが、本発明では他の高強度有機連続繊維を用いたものであってもよい。さらに上記のFRP層や筒体は、高強度有機連続繊維を含有しておればよく、これ以外に、例えばガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維や、合成繊維などを含むものであってもよい。
【0059】
また上記の実施形態では、筐体にあっては、すべての壁面に上記のFRP積層構造体を用いた筐体について説明した。しかし本発明の筐体は、例えば収容物の重量が加わる底部など、一部に上記のFRP積層構造体を用いたものであってもよく、この場合、周側面や上面など他の部位は、FRP層のみで形成したものなど他の材質を用いることができる。
【0060】
また上記のFRP積層構造体は、複数層を互いに一体化して新たなFRP積層構造体にすることも可能である。例えば上記の第2実施形態のFRP積層構造体を2枚重ねて一体化し、これを新たなFRP積層構造体とすることができる。この場合、表層部は第2実施形態と同様、それぞれFRP層からなるが、内層部は、2段の筒体層と、その間に配置された2層のFRP層とからなる。
【0061】
上記の筒体の内外径や、FRP層における高強度有機連続繊維シートの積層枚数、両者のマトリックス樹脂の種類や樹脂含有率等は、上記の実施形態や実施例のものに限定されないことは、言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のFRP積層構造体とこれを用いた筐体は、軽量でありながら、高い剛性を備えており、しかも衝撃荷重を良好に吸収できるので、特に車載用のバッテリケースなどに有用であるが、他の筐体や様々な構造物にも有用である。
【符号の説明】
【0063】
1…FRP積層構造体
2…表層部
3…内層部
4…FRP層(6)に含まれる高強度有機連続繊維
5…FRP層(6)に含まれるマトリックス樹脂
6…FRP層
7…周縁部
8…筒体
9…筒体層
10…筒体(8)に含まれる高強度有機連続繊維
11…筒体(8)に含まれるマトリックス樹脂
12…熱接着性樹脂層
13…筐体
14…車載用バッテリ
15…内層部(3)が備えるFRP層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度有機連続繊維(4)とマトリックス樹脂(5)とを含む面状のFRP層(6)を表層部(2)に備え、
複数の筒体(8)が面状に並列配置された筒体層(9)を内層部(3)に備え、
上記の筒体(8)は長さ方向が上記の筒体層(9)の面方向に配置されており、
上記の筒体(8)が高強度有機連続繊維(10)とマトリックス樹脂(11)とを含むことを特徴とする、FRP積層構造体。
【請求項2】
上記の内層部(3)に複数の筒体層(9)を備え、各筒体層(9)は筒体(8)の長さ方向が互いに異なる、請求項1に記載のFRP積層構造体。
【請求項3】
上記の筒体(8)が外周面に熱接着性の樹脂層(12)を備える、請求項1または請求項2に記載のFRP積層構造体。
【請求項4】
上記のFRP層(6)と筒体(8)との少なくともいずれかに含まれる上記の高強度有機連続繊維(4・10)が、全芳香族ポリアミド繊維である、請求項1から3のいずれかに記載のFRP積層構造体。
【請求項5】
上記のFRP層(6)と筒体(8)との少なくともいずれかに含まれる上記の高強度有機連続繊維(4・10)は、織物と一方向繊維シートとの少なくともいずれかに形成されている、請求項1から4のいずれかに記載のFRP積層構造体。
【請求項6】
上記の筒体(8)は、軸直交断面において外殻部の断面積比率が85:15〜15:85である、請求項1から5のいずれかに記載のFRP積層構造体。
【請求項7】
上記の筒体(8)に含まれるマトリックス樹脂(11)は、20〜40重量%である、請求項1から6のいずれかに記載のFRP積層構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のFRP積層構造体(1)を用いたことを特徴とする、筐体。
【請求項9】
車載用バッテリケースである、請求項8に記載の筐体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−111887(P2013−111887A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261110(P2011−261110)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省、平成22年度戦略的基盤技術高度化支援事業(電子線照射等により界面接着力を向上させたアラミド等有機繊維強化樹脂による耐衝撃性に優れた軽量構造部材の開発)に関する委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(509325260)株式会社KOSUGE (7)
【出願人】(507155203)有限会社エー・テック (8)
【出願人】(300042694)株式会社 ホーペック (3)
【Fターム(参考)】