説明

FSK信号検出装置、受信機、およびFSK信号検出方法

【課題】FSK信号の検出を迅速化し、プリアンブルが短い場合でも、間欠受信を行っている受信機がデータを受信することを可能にする。
【解決手段】受信部12は、アンテナ11で受信した受信信号の周波数変換、増幅などを行い、検波部13に送る。検波部13は、受信信号をFM検波し、受信信号の周波数に対応する振幅を有する復調信号を生成する。遅延部14は、復調信号を復調信号のサンプリング間隔分だけ遅延させ、遅延信号を生成する。差分検出部15は、復調信号と遅延信号の差分を算出して復調信号からDC成分を取り除き、DC成分の近傍の周波数成分を含む第1信号を生成する。LPF17は、絶対値処理部16が算出した第1信号の絶対値から所定のカットオフ周波数以下の値を抽出し、第2信号を生成する。判定部18は、第2信号の所定の周波数の信号レベルが所定の範囲内の値である場合に受信信号にFSK信号が含まれていると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FSK信号検出装置、受信機、およびFSK信号検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FSK(Frequency Shift Keying:周波数偏移変調)デジタル受信機における消費電力を抑えるためには、FSK信号が無い場合には、受信機を待機状態にする必要がある。しかし、プリアンブルが短い場合、FSK信号を迅速に検出して待機状態から運用状態に復帰しなければ、データを受信することができない。
【0003】
信号検出方法として、電界強度による信号検出やスケルチ回路を用いた信号検出がある。また、特許文献1に開示されるFSK信号検出装置は、RSSI(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)やノイズスケルチなどを使用せずに、受信信号から抽出されるベースバンド信号のパワースペクトラム及びシンボルレートに基づき、ベースバンド信号中のFSK信号の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−166208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電界強度により信号検出を行う場合には、例えば、電化製品の近くなど、RF(Radio Frequency)信号のノイズフロアが大きい場所において受信機が誤って運用状態に復帰してしまうという問題がある。スケルチ回路を用いる信号検出方法では、音声歪みに対応するため、HPF(High-Pass Filter:高域フィルタ)を介して高い周波数成分の信号を検出する。検出した信号の絶対値を算出し、LPF(Low-Pass Filter:低域フィルタ)で平均化してスケルチレベルを算出するが、HPFで検出した信号は変動が大きい。より安定したスケルチレベルを得るためには、LPFのカットオフ周波数をより低くする必要がある。しかし、LPFのカットオフ周波数を低くすると、LPFのフィルタ通過時間が長くなる。そのため、信号検出が遅くなり、データを受信できない恐れがある。
【0006】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、FSK信号の検出を迅速化し、プリアンブルが短い場合でも、間欠受信を行っている受信機がデータを受信できる、FSK信号検出装置、受信機、およびFSK信号検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るFSK信号検出装置は、
受信信号をFM検波し、前記受信信号の周波数に対応する振幅を有する復調信号を生成する、検波手段と、
前記復調信号から周波数が所定の値以上の周波数成分を抽出することで、DC成分を取り除き、DC成分の近傍の周波数成分を含む第1信号を生成する、第1抽出手段と、
前記第1抽出手段で生成された前記第1信号の絶対値を算出する、絶対値処理手段と、
カットオフ周波数がプリアンブルの時間長の逆数以上の所定の周波数である低域フィルタを用いて、前記第1信号の絶対値から前記カットオフ周波数以下の周波数成分を抽出し、第2信号を生成する、第2抽出手段と、
前記第2抽出手段で生成された前記第2信号の所定の周波数における信号レベルが所定の範囲内の値であれば、前記受信信号にFSK信号が含まれていると判定する、判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記第1抽出手段は、前記復調信号を前記復調信号のサンプリング間隔分だけ遅延させた遅延信号を生成し、前記復調信号と前記遅延信号の差分を検出することで、第1信号を生成する。
【0009】
好ましくは、前記FSK信号検出装置は、前記判定手段の判定結果に基づき、前記低域フィルタのカットオフ周波数を変更する、制御手段をさらに備える。
【0010】
本発明の第2の観点に係る受信機は、
前記FSK信号検出装置と、
前記判定手段で前記受信信号にFSK信号が含まれていると判定された場合にのみ、FSK復調および可聴周波数信号の生成を行う、復調手段と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点に係るFSK信号検出方法は、
FSK信号検出装置が行う、FSK信号検出方法であって、
受信信号をFM検波し、前記受信信号の周波数に対応する振幅を有する復調信号を生成する、検波ステップと、
前記復調信号から周波数が所定の値以上の周波数成分を抽出することで、DC成分を取り除き、DC成分の近傍の周波数成分を含む第1信号を生成する、第1抽出ステップと、
前記第1抽出ステップで生成された前記第1信号の絶対値を算出する、絶対値処理ステップと、
カットオフ周波数がプリアンブルの時間長の逆数以上の所定の周波数である低域フィルタを用いて、前記第1信号の絶対値から前記カットオフ周波数以下の周波数成分を抽出し、第2信号を生成する、第2抽出ステップと、
前記第2抽出ステップで生成された前記第2信号の所定の周波数における信号レベルが所定の範囲内の値であれば、前記受信信号にFSK信号が含まれていると判定する、判定ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記第1抽出ステップにおいて、前記復調信号を前記復調信号のサンプリング間隔分だけ遅延させた遅延信号を生成し、前記復調信号と前記遅延信号の差分を検出することで、第1信号を生成する。
【0013】
好ましくは、前記FSK信号検出方法は、前記判定ステップの判定結果に基づき、前記低域フィルタのカットオフ周波数を変更する、制御ステップをさらに備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、FSK信号の検出を迅速化し、プリアンブルが短い場合でも、間欠受信を行っている受信機がデータを受信できる、FSK信号検出装置、受信機、およびFSK信号検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係るFSK信号検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における差分検出部の周波数特性の例を示す図である。
【図3】実施の形態1におけるSN比が小さいデジタル信号の復調信号の周波数特性の例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係るFSK信号検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態3に係る受信機の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るFSK信号検出装置の構成例を示すブロック図である。FSK信号検出装置1(以下、検出装置1と記す)は、アンテナ11、受信部12、検波部13、遅延部14、差分検出部15、絶対値処理部16、LPF17、および判定部18を備える。受信部12は、アンテナ11で受信した受信信号の高周波数から中間周波数への周波数変換、増幅などを行い、検波部13に受信信号を送る。検波部13は、受信信号をFM検波し、受信信号の周波数に対応する振幅を有する復調信号を生成する。そして、生成した復調信号を遅延部14および差分検出部15に送る。
【0018】
検出装置1は、遅延部14および差分検出部15を用いて、周波数が所定の値以上の周波数成分を抽出し、第1信号を生成する。遅延部14は、送られた復調信号を復調信号のサンプリング間隔分だけ遅延させた遅延信号を生成し、生成した遅延信号を差分検出部15に送る。サンプリング間隔は、FSK信号のシンボル期間に比べて十分小さい値であり、例えば、シンボル期間の10分の1の値を用いる。差分検出部15は、復調信号と遅延信号の差分を検出し、第1信号を生成する。そして、生成した第1信号を絶対値処理部16に送る。
【0019】
図2は、実施の形態1における差分検出部の周波数特性の例を示す図である。図2の例に示すように、差分検出部15は、減衰傾度の緩やかなHPFとして動作する。減衰傾度が緩やかなため、復調信号からDC成分は取り除かれるが、比較的周波数が低いDC成分の近傍の周波数成分は第1信号に含まれる。
【0020】
図3は、実施の形態1におけるSN比が小さいデジタル信号の復調信号の周波数特性の例を示す図である。SN比が小さいデジタル信号をFM検波すると、パルス性ノイズが発生するため、復調信号は図3の例に示すような周波数特性を有する。
【0021】
FSK信号は、アナログFMとは異なり歪みの影響を受けにくい。FSK変調で用いられる周波数偏差は一定であり、FSK信号には常にFSK変調が加えられている。また、ベースバンド周波数が低い。そのため、例えば、スケルチ回路の様にノイズ検出用にカットオフ周波数が20kHz以上である、カットオフ周波数の高いHPFを用いずに、復調信号と遅延信号の差分を検出することでDC成分を取り除き、FSK信号が含まれる比較的周波数が低いDC成分の近傍の周波数成分を含む第1信号を生成することができる。
【0022】
絶対値処理部16は、送られた第1信号の絶対値を算出し、第1信号の絶対値をLPF17に送る。LPF17は、送られた第1信号の絶対値からカットオフ周波数以下の周波数成分を抽出し、第2信号を生成する。そして、生成した第2信号を判定部18に送る。LPF17により、第2信号に含まれるノイズ成分が平均化される。カットオフ周波数は、プリアンブルの時間長の逆数以上の任意の値である。
【0023】
FSK信号が含まれるDC成分の近傍の周波数成分は、第2信号にも含まれているので、LPF17のカットオフ周波数を高くすることが可能となる。カットオフ周波数を高くすると、LPF17のフィルタ通過時間が短くなり、FSK信号の検出も速くなる。そのため、プリアンブルが短い場合でも、検出装置1はFSK信号の有無を検出することができる。
【0024】
判定部18は、第2信号の所定の周波数における信号レベルが所定の範囲内の値であれば、受信信号にFSK信号が含まれていると判定する。判定部18は、判定結果を検出装置1の外部に通知する。その通知に基づき、例えば検出装置1を備える受信機は運用状態と待機状態の切り替えを行う。所定の周波数とは、FSK信号が含まれるDC成分の近傍の任意の周波数である。
【0025】
FSK信号の信号レベルが下がっても、第2信号に含まれるDC成分の近傍の周波数における信号レベルが所定の範囲内の値であれば、FSK信号を検出することができる。またスケルチ回路では、受信信号の有無を判定することはできるが、FSK信号、アナログFM信号、差動四相位相偏移変調信号などの受信信号の種類を区別することができない。一方、実施の形態1に係る検出装置1は、FSK信号の有無を判定することができる。
【0026】
以上説明したとおり、本発明の実施の形態1に係る検出装置1によれば、FSK信号の検出を迅速化し、プリアンブルが短い場合でも、間欠受信を行っている受信機がデータを受信することが可能となる。
【0027】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係るFSK信号検出装置の構成例を示すブロック図である。検出装置1は、実施の形態1の検出装置1の構成に加え、LPF制御部19を備える。LPF制御部19は、判定部18の判定結果に基づき、LPF17のカットオフ周波数の値を変更する。カットオフ周波数の値を高くすると、LPF17のフィルタ通過時間が短くなり、FSK信号の検出速度も速くなる。また、判定部18でFSK信号が有ると判定された場合には、カットオフ周波数の値を低くし、第2信号に対する一時的なノイズの影響を少なくすることができる。
【0028】
LPF制御部19を備えることで、検出装置1を備える受信機が待機状態から運用状態に切り替わる際のFSK信号の信号レベルと運用状態から待機状態に切り替わる際のFSK信号の信号レベルとの間にヒステリシス特性を持たせることが可能となる。
【0029】
以上説明したとおり、本発明の実施の形態2に係る検出装置1によれば、LPF17のカットオフ周波数を動的に変化させ、カットオフ周波数を高くすることで、FSK信号の検出を速くすることが可能となる。また、運用状態と待機状態の切り替えにヒステリシス特性を持たせることが可能となる。
【0030】
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3に係る受信機の構成例を示すブロック図である。受信機2は、実施の形態2の検出装置1および復調部21を備える。検波部13は、受信信号を復調部21に送る。検出装置1内の判定部18は、FSK信号の有無の判定結果を復調部21に送る。復調部21は、受信信号にFSK信号が含まれていると判定された場合にのみ、FSK復調およびAF(Audio Frequency:可聴周波数)信号の生成を行う。
【0031】
以上説明したとおり、本発明の実施の形態3に係る受信機2によれば、受信信号にFSK信号が含まれていると判定された場合にのみFSK復調およびAF信号の生成を行い、受信機2の消費電力を抑えることが可能となる。
【0032】
本発明の実施の形態は上述の実施の形態に限られない。実施の形態3の受信機2は、実施の形態1の検出装置1を備えるよう構成してもよい。
【0033】
検出装置1は、布線論理回路、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)、布線論理回路とDSPの組み合わせなどで構成することができる。また判定部18およびLPF制御部19は、マイクロプロセッサを用いて構成することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 FSK信号検出装置
2 受信機
11 アンテナ
12 受信部
13 検波部
14 遅延部
15 差分検出部
16 絶対値処理部
17 LPF
18 判定部
19 LPF制御部
21 復調部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号をFM検波し、前記受信信号の周波数に対応する振幅を有する復調信号を生成する、検波手段と、
前記復調信号から周波数が所定の値以上の周波数成分を抽出することで、DC成分を取り除き、DC成分の近傍の周波数成分を含む第1信号を生成する、第1抽出手段と、
前記第1抽出手段で生成された前記第1信号の絶対値を算出する、絶対値処理手段と、
カットオフ周波数がプリアンブルの時間長の逆数以上の所定の周波数である低域フィルタを用いて、前記第1信号の絶対値から前記カットオフ周波数以下の周波数成分を抽出し、第2信号を生成する、第2抽出手段と、
前記第2抽出手段で生成された前記第2信号の所定の周波数における信号レベルが所定の範囲内の値であれば、前記受信信号にFSK信号が含まれていると判定する、判定手段と、
を備えることを特徴とするFSK信号検出装置。
【請求項2】
前記第1抽出手段は、前記復調信号を前記復調信号のサンプリング間隔分だけ遅延させた遅延信号を生成し、前記復調信号と前記遅延信号の差分を検出することで、第1信号を生成することを特徴とする請求項1に記載のFSK信号検出装置。
【請求項3】
前記判定手段の判定結果に基づき、前記低域フィルタのカットオフ周波数を変更する、制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のFSK信号検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のFSK信号検出装置と、
前記判定手段で前記受信信号にFSK信号が含まれていると判定された場合にのみ、FSK復調および可聴周波数信号の生成を行う、復調手段と、
を備えることを特徴とする受信機。
【請求項5】
FSK信号検出装置が行う、FSK信号検出方法であって、
受信信号をFM検波し、前記受信信号の周波数に対応する振幅を有する復調信号を生成する、検波ステップと、
前記復調信号から周波数が所定の値以上の周波数成分を抽出することで、DC成分を取り除き、DC成分の近傍の周波数成分を含む第1信号を生成する、第1抽出ステップと、
前記第1抽出ステップで生成された前記第1信号の絶対値を算出する、絶対値処理ステップと、
カットオフ周波数がプリアンブルの時間長の逆数以上の所定の周波数である低域フィルタを用いて、前記第1信号の絶対値から前記カットオフ周波数以下の周波数成分を抽出し、第2信号を生成する、第2抽出ステップと、
前記第2抽出ステップで生成された前記第2信号の所定の周波数における信号レベルが所定の範囲内の値であれば、前記受信信号にFSK信号が含まれていると判定する、判定ステップと、
を備えることを特徴とするFSK信号検出方法。
【請求項6】
前記第1抽出ステップにおいて、前記復調信号を前記復調信号のサンプリング間隔分だけ遅延させた遅延信号を生成し、前記復調信号と前記遅延信号の差分を検出することで、第1信号を生成することを特徴とする請求項5に記載のFSK信号検出方法。
【請求項7】
前記判定ステップの判定結果に基づき、前記低域フィルタのカットオフ周波数を変更する、制御ステップをさらに備えることを特徴とする請求項5または6に記載のFSK信号検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−46310(P2013−46310A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184051(P2011−184051)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】