説明

HIV感染予防用ヒドロキシチロソール及び誘導体の局所使用

本発明は、ヒドロキシチロソールのような式(I)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体と、医薬上許容し得る担体とを含み、式(I)中のR、R及びRが異なる値を有する局所医薬組成物、及びHIV感染のような性感染症(STD)の予防における薬剤としての前記化合物の使用を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性感染症の予防、特にHIV予防療法に有用な局所殺菌医薬組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
HIVは、後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原感染因子であるヒト免疫不全ウイルスの頭字語である。HIVは、ヒト及び霊長類の免疫系細胞に感染して、その機能を阻害又は破壊し、また免疫系の進行性障害を引き起こし、「免疫不全」をもたらす。
【0003】
HIVに感染した最初のヒト症例が報告された1981年以降、およそ6000万人の人々がHIVに感染しており、その中でも2000万人の人々がHIV関連の原因で死亡している。数多くの先進国において、抗レトロウイルス薬併用療法の有効性が、HIV/AIDSに関する死亡率及び罹患率の目覚ましい減少をもたらしている。その結果、良好な健康状態及び増加した平均余命を享受することができるHIV感染者がより多く存在する。しかしながら、その疫病の規模は依然として膨大である。2007年だけでも、3300万人の人々がHIVを罹患して生存中であり、270万人の人々がそのウイルスに感染し、200万人の人々がHIV関連の原因で死亡した。発展途上国における状況は、先進国世界について説明したのと非常に対照的である。主にアフリカにおいて、感染に対する基礎的予防治療の手段もその治療の手段も限られており、従ってAIDSの進行及び死亡犠牲者は著しい。
【0004】
予防がHIVの進行を停止させる鍵であることは明らかである。性感染はHIV感染の圧倒的に最もありふれた経路であり、従って更なる感染への扉も開くことから、より安全な性行動の推進が、かかる感染及び他の性感染症(STD)の予防にとって重要である。
【0005】
しかしながら、現在の予防プログラムは、大部分は予防の政治問題化、具体的には、HIV感染に対する軽減手段としてのコンドームの立証された効果にもかかわらず、コンドームの推進をめぐる議論のために、又は特にアフリカや他の発展途上地域における予防プログラムへの限られたアクセスのために、不本意な影響を与えている。従って、現存の政策及び予防プログラムに関して、特定の地方文化的、政治的及び物的環境が、任意特定のプログラムの内容に影響するであろう。貧困とHIV感染との間に複雑な関係性が存在して、貧困によって悪化する悪循環をもたらしていることに言及することには価値がある。
【0006】
生物学的及び生理学的要因は、HIV蔓延にとって重要である。中でも重要なものは、女性の生理機能が、男性よりも無防備な膣性交の間に感染する大きな危険にさらされているという事実である。少女及び若い女性は、子宮頸部の内壁が完全に発達していないため、HIV陽性の男性との無防備な性交渉の間に特に高い感染の危険性に直面している(UNAIDS 2008 Report on the global AIDS epidemic)。
【0007】
大部分の先進国において、1996年頃からは、個人がHIVに感染すると、抗レトロウイルス薬(ARV)−HIVのAIDSへの進行を著しく遅らせて、HIV患者の人々が比較的普通の健康な生活を営むことを可能にする−を使用した治療が今のところ利用できる。これらの薬を充分な量で分配することは、HIV患者に治療及び介護を提供する金銭、よく構成された医療制度及び医療従事者の充分な供給を必要とする。このことは、大抵の発展途上国では当てはまらない。
【0008】
上記の報告された状況に基づいて、女性が男性の予防法に依存することなく容易に取り扱い、使用することができ、更には文化的環境に受け入れられ得る予防手段に対して、緊急の必要性が存在する。
【0009】
女性に有用な殺菌剤、例えば、今日の殺精子剤とほぼ同じ方法で膣に局所的に施用し得るゲル剤又はクリーム剤を開発する努力が進んでいる(例えば、Mc Gowan I. Curr. Opin. Infec. Dis. 2009:“Microbicides for HIV prevention:Reality or hope?”)。
【0010】
しかしながら、安全性の問題又は薬効の欠如のために、数多くの見込みある候補が放棄されている。上述のHIV予防薬に対する必要性を解決する効果的な方法及び組成物は未だ存在しない。
【0011】
3−ヒドロキシチロソール、3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール(DOPET)又は4−(2−ヒドロキシエチル)−1,2−ベンゼンジオールとしても既知のヒドロキシチロソール(HT;CAS登録番号[10597−60−1])は、主にオリーブオイルに認められる天然に存在するフィトケミカル化合物であり、生体外及び生体内で酸素ラジカルを除去することによって強い抗酸化特性を示す。この化合物については、低密度リポタンパク質酸化の抑制、血小板凝集の抑制、DNA損傷に対する保護、抗炎症活性及び殺菌剤のような様々な生物活性が開示されている。
【化1】


ヒドロキシチロソール(HT)
【0012】
近年、生体外HIVインテグラーゼ活性に対するHTの用量依存性阻害効果が開示された(Huang SL, Huang PL, Zhang D, Lee JW, Bao J, Sun Y, Chang YT, Zhang J, Juang PL,“Discovery of small−molecule HIV−1 fusion and integrase inhibitors oleuropein and hydroxytyrosol:Part II. Integrase inhibition”,Biochem. Biophys. Res. Comm., 354:879−884, 2007)。その作用メカニズムが解明され、報告されている。HTのo−ジヒドロキシフェノール環が、F139及びその近くのT115と強く水素結合相互作用し、E318及びQ148と弱く相互作用して、インテグラーゼ領域IIに結合する。ジヒドロキシフェノール環がインテグラーゼの領域I及びIIの双方に結合できるため、HTは、突然変異が起こったとしても、インテグラーゼ活性部位に結合する能力を維持することが裏付けられている。このように、重要なことに、耐性発現の可能性は、唯一つの部位に結合する阻害剤よりも少ないであろう。
しかしながら、そのHIVインテグラーゼ活性に対する阻害効果は、感染者の全身治療に有用であるかもしれないが、前記化合物が局所施用によるHIV感染の予防にも有用であり得ることを示唆してはいない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】UNAIDS 2008 Report on the global AIDSepidemic
【非特許文献2】Mc Gowan I,Curr. Opin. Infec. Dis. 2009:“Microbicides for HIV prevention:Reality or hope?”
【非特許文献3】Huang SL, Huang PL, Zhang D, Lee JW, Bao J, Sun Y, Chang YT, Zhang J, Juang PL,“Discovery of small−molecule HIV−1 fusion and integrase inhibitors oleuropein and hydroxytyrosol:Part II. Integrase inhibition”,Biochem. Biophys. Res. Comm., 354:879−884, 2007
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、驚くべきことに、3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール及びその誘導体が、局所的に施用した場合に、HIV感染及び真菌、細菌又はウイルスによって引き起こされる他の性感染症(STD)の予防用殺菌剤として有用であることを見出した。重要なことには、ヒドロキシチロソール及びその誘導体は、局所使用の殺菌剤として投与する場合、HIV伝染及び感染に対する予防法として使用するのに安価かつ容易なものである。
【0015】
従って、本発明の一態様は、次式(I):
【化2】



式(I)
(式中のR、R及びRは、それぞれ独立して水素、置換又は未置換アルキル、置換又は未置換アルケニル、置換又は未置換アルキニル、置換又は未置換アリール、置換又は未置換ヘテロシクリル、OR、SR、SOR、SO、OSO、OSO、NO、NHR、N(R)、=N−R、N(R)COR、N(COR)、N(R)SOR’、N(R)C(=NR)N(R)R、CN、ハロゲン、COR、COOR、OCOR、OCOOR、OCONHR、OCON(R)、CONHR、CON(R)、CON(R)OR、CON(R)SO、PO(OR)、PO(OR)R、PO(OR)(N(R)R)及びアミノ酸エステルからなる群より選択され;
基の各々は、独立して水素、置換又は未置換アルキル、置換又は未置換アルケニル、置換又は未置換アルキニル、置換又は未置換アリール及び置換又は未置換ヘテロシクリルからなる群より選択される)の化合物、又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体と、医薬上許容し得る担体とを含む局所医薬組成物を対象とする。
【0016】
本発明の別の態様はまた、特に性感染症(STD)の予防に、好ましくはHIV感染の予防用薬剤として使用する一般式(I)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体を対象とする。
【0017】
本発明の他の態様はまた、性感染症(STD)の予防に、好ましくはHIV感染の予防用薬剤の製造における一般式(I)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体の使用を対象とする。
【0018】
本発明のさらなる別の態様は、被検体、特にヒトにおける性感染症(STD)、好ましくはHIV感染を予防する方法に関するもので、該方法は、治療上又は予防上有効量の一般式(I)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体を被検体に投与することを備える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】X4指向性ウイルス感染症(NL.4.3 Ren)及びVSVエンベロープを有する偽型ウイルス(delta Luc)によるMT−2細胞株の感染におけるヒドロキシチロソール(HTS)の抗ウイルス活性を示す。生存率を非感染細胞に対して評価した。
【図2】X4指向性ウイルス感染症(NL.4.3 Ren)及びVSVエンベロープを有する偽型ウイルス(delta Luc)における濃度補正後のヒドロキシチロソール(HTS)の抗ウイルス活性を示す。生存率を非感染細胞に対して評価した。
【図3】X4指向性ウイルス感染症(NL.4.3 Ren)、R5指向性ウイルス(JR−Ren)及びVSVエンベロープを有する偽型ウイルス(delta Luc)によるPBCMの感染におけるヒドロキシチロソール(HTS)の抗ウイルス活性を示す。生存率を非感染細胞に対して評価した。
【図4】DC−SIGN+細胞により媒介されるR5指向性ウイルス(RAJI DC−SIGN)によるPBCMの感染におけるヒドロキシチロソール(HTS)の抗ウイルス活性を示す。
【図5】野生型ウイルス及びラルテグラビル耐性ウイルスに対するヒドロキシチロソール(HTS)の抗ウイルス活性を示す。
【図6】野生型ウイルス及びラルテグラビル耐性ウイルスに対するラルテグラビル(対照薬)の抗ウイルス活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
HIV感染及び真菌、細菌又はウイルスによって引き起こされる他の性感染症(STD)を予防するのに有用な本発明の局所医薬組成物は、式(I)の化合物若しくはその混合物、それらの医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ又は異性体を医薬上許容し得る担体と共に含む。
これらは、予防薬としてヒトのHIV感染を予防するのに有用である。
【0021】
本発明の理解を促すために、本発明の文脈上で使用する幾つかの用語及び表現の意味を、ここで挙げる。
【0022】
「殺菌剤」は、ウイルス又は細菌のような微生物の感染力を低減することを目的とする化合物又は物質である。
【0023】
「予防(の)」は、疾患が起きるのを予防するよう設計、使用される薬剤又は治療法である。
【0024】
「局所投与」又は「局所施用」は、身体表面に施用する非全身投与を意味し、皮膚又は粘膜及び様々な体腔へ血流に著しく侵入しない場所で外部から本発明の組成物を施すことを含む。
【0025】
「アルキル」は、炭素原子及び水素原子からなり、不飽和を含有せず、単結合によって分子の残りに結合する線状又は分枝状炭化水素鎖ラジカルを指す。アルキル基は、1〜約22個の炭素原子を有するのが好ましい。アルキル基のより好ましいものは、1〜約12個の炭素原子を有し、より一層好ましくは1〜約6個の炭素原子を有する。1、2、3、4又は5個の炭素原子を有するアルキル基が特に好ましい。メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル並びにn−ブチル、tert−ブチル、sec−ブチル及びイソブチルを含むブチルが特に好ましいアルキル基である。本明細書で使用するアルキルという用語は、特に明記しない限り、環式基及び非環式基の両方を指すが、環式基はシクロプロピル又はシクロヘキシルのように少なくとも3個の炭素環員を含む。アルキルラジカルを、1個以上の置換基、例えばベンジル又はフェネチルのようなアリール基によって任意に置換することができる。
【0026】
「アルケニル」及び「アルキニル」は、炭素原子及び水素原子からなり、少なくとも1個の不飽和(それぞれ1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合)を含有し、単結合によって分子の残りに結合する直線状又は分枝状炭化水素鎖ラジカルを指す。アルケニル基及びアルキニル基は、2〜約22個の炭素原子を有するのが好ましい。アルケニル基及びアルキニル基のより好ましいものは、2〜約12個の炭素原子を有し、より一層好ましくは2〜約6個の炭素原子を有する。2、3、4又は5個の炭素原子を有するアルケニル基及びアルキニル基が特に好ましい。本明細書で使用するアルケニル及びアルキニルという用語は、環式基及び非環式基の両方を指すが、環式基は少なくとも3個の炭素環員を含む。アルケニルラジカル及びアルキニルラジカルを、1個以上の置換基によって任意に置換することができる。
【0027】
「アリール」は、水素原子の環炭素原子からの除去による芳香族炭化水素由来のラジカルを指す。本発明に適したアリール基としては、単環化合物及び多環化合物が挙げられ、分離及び/又は融合アリール基を含有する多環化合物を含む。典型的なアリール基は、1〜3個の分離及び/又は融合環と、6〜約22個の炭素環原子とを含有する。アリール基は、6〜約10個の炭素環原子を含有するのが好ましい。アリールラジカルを、1個以上の置換基によって任意に置換することができる。特に好ましいアリール基としては、置換又は未置換フェニル、置換又は未置換ナフチル、置換又は未置換ビフェニル、置換又は未置換フェナントリル及び置換又は未置換アントリルが挙げられる。
【0028】
「ヘテロシクリル」は、少なくとも2個の異なる元素の原子を環員として有する環式ラジカルを指す。適切なヘテロシクリルラジカルとしては、1〜3個の分離及び/又は融合環と、5〜約18個の環原子とを含有するヘテロ芳香族基及びヘテロ脂環式基が挙げられる。ヘテロ芳香族基及びヘテロ脂環式基は、5〜約10個の環原子を含有するのが好ましい。ヘテロ環は、Katritzky, Alan R., Rees, C. W.,及びScriven,“E. Comprehensive Heterocyclic Chemistry”,(1996)Pergamon Press;Paquette, Leo A.“Principles of Modern Heterocyclic Chemistry”,W.A. Benjamin, New York,(1968)、具体的には1、3、4、6、7及び9章;並びに“The Chemistry of Heterocyclic Compounds, A series of Monographs”(John Wiley & Sons, New York,1950年から現在)、具体的には13、14、16、19及び28巻に開示されている。本発明の化合物に適したヘテロ芳香族基は、N、O及びS原子から選択した1、2又は3個のヘテロ原子を含有し、例えば8−クマリニルを含むクマリニル、8−キノリル、イソキノリルを含むキノリル、ピリジル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリミジニル、フリル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、イソキサゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、インドリジニル、フタラジニル、プテリジニル、プリニル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、フラザニル、ピリダジニル、トリアジニル、シンノリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾフラザニル、ベンゾチエニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾキサゾリル、キナゾリニル、キノキサリニル、ナフチリジニル及びフロピリジニルが挙げられる。本発明の化合物に適したヘテロ脂環式基は、N、O及びS原子から選択した1、2又は3個のヘテロ原子を含有し、例えばピロリジニル、テトラヒドロフリル、ジヒドロフリル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジル、モルホリニル、チオモルホリニル、チオキサニル、ピペラジニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ホモピペリジニル、オキセパニル、チエパニル、オキサゼピニル、ジアゼピニル、チアゼピニル、1,2,3,6−テトラヒドロピリジル、2−ピロリニル、3−ピロリニル、インドリニル、2H−ピラニル、4H−ピラニル、ジオキサニル、1,3−ジオキソラニル、ピラゾリニル、ジチアニル、ジチオラニル、ジヒドロピラニル、ジヒドロチエニル、ピラゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、3−アザビシクロ[3.1.0]ヘキシル、3−アザビシクロ[4.1.0]ヘプチル、3H−インドリル及びキノリジニルが挙げられる。複素環ラジカルを、1個以上の置換基によって任意に置換することができる。
【0029】
上述した有機基を1個以上の利用可能な位置でOR’、=O、SR’、SOR’、SOR’、OSOR’、OSOR’、NO、NHR’、N(R’)、=N−R’、N(R’)COR’、N(COR’)、N(R’)SOR’、N(R’)C(=NR’)N(R’)R’、CN、ハロゲン、COR’、COOR’、OCOR’、OCOOR’、OCONHR’、OCON(R’)2、CONHR’、CON(R’)、CON(R’)OR’、CON(R’)SOR’、PO(OR’)、PO(OR’)R’、PO(OR’)(N(R’)R’)、置換又は未置換C−C12アルキル、置換又は未置換C−C12アルケニル、置換又は未置換C−C12アルキニル、置換又は未置換アリール、置換又は未置換ヘテロシクリルのような1個以上の適切な基によって置換することができ、ここで、R’基の各々は独立して水素、OH、NO、NH、SH、CN、ハロゲン、COH、COアルキル、COOH、置換若しくは未置換C−C12アルキル、置換若しくは未置換C−C12アルケニル、置換若しくは未置換C−C12アルキニル、置換若しくは未置換アリール及び置換若しくは未置換へテロ環基からなる群より選択される。かかる基自体を置換する場合、置換基は上述のリストから選択することができる。
【0030】
本発明の「ハロゲン」置換基としては、F、Cl、Br及びIが挙げられる。
【0031】
本明細書で使用するような「医薬上許容し得る」という用語は、妥当な医学的判断の範囲内で過度の毒性、刺激、アレルギー応答又は他の問題のある合併症無しに妥当な効果/リスク比に釣り合ったヒトの組織との接触に適した化合物、材料、組成物及び/又は剤形を指す。いくつかの実施形態において、「医薬上許容し得る」という用語は、特にヒトでの使用について、監督官庁によって認可されていること又は欧州薬局方若しくは米国薬局方に収載されていること、あるいは国際薬局方で一般的に認知されていることを意味する。
【0032】
「医薬上許容し得る塩」という用語は、被検体への投与にあたり本明細書に記載したような化合物を提供(直接又は間接的に)することができるあらゆる塩を指す。塩の調製は、当業界で既知の方法によって実施することができる。
【0033】
例えば、本明細書で提供される化合物の医薬上許容し得る塩は、塩基性又は酸性部分を含有する親化合物から通常の化学的方法によって合成される。一般に、かかる塩は、例えば、遊離酸又は塩基形態の化合物を化学量論量の適切な塩基又は酸と水、有機溶媒又はそれら両方の混合液中で反応させることによって調製される。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、2−プロパノール又はアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。酸付加塩の例としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩及びリン酸塩のような鉱酸付加塩と、例えば酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩及びp−トルエンスルホン酸塩のような有機酸付加塩とが挙げられる。アルカリ付加塩の例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びアンモニウム塩のような無機塩と、例えばエチレンジアミン、エタノールアミン、N,N−ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン及び塩基性アミノ酸塩のような有機アルカリ塩とが挙げられる。ヒドロキシチロソールは3個の水酸基を有するため、Na及びNX(式中のXは独立してH及びC1−C4アルキル基から選択される)のようなアルカリ付加塩が特に好ましい。
【0034】
本発明の化合物は、遊離化合物又は溶媒和物(例えば、水和物、アルコラート、特にはメタノラート)のどちらかとして結晶形態ですることができ、両方の形態が本発明の範囲内にあることを意図する。溶媒和の方法は、一般に当業界で既知である。本発明の化合物は、様々な多形形態で存在することができ、本発明はかかる形態の全てを包含することを意図する。
【0035】
「プロドラッグ」という用語は、その最も広い意味で使用され、自発性化学反応、酵素触媒化学反応及び/又は代謝化学反応の結果として生体内で本発明の化合物に転換される誘導体を包含する。プロドラッグは、溶解性、吸収及び親油性を高めて薬物送達、生体利用効率及び薬効を最適化するのに役立つことができる。プロドラッグの例としては、限定しないが、生物加水分解性アミド、生物加水分解性エステル、生物加水分解性カルバメート、生物加水分解性カルボネート、生物加水分解性ウレイド及び生物加水分解性ホスフェート類似体のような生物加水分解性部分を含む式Iの化合物の誘導体及び代謝産物が挙げられる。式Iの化合物のプロドラッグの典型的な例は、その構造の官能性部分に生物学的に不安定な保護基を有する。従って、プロドラッグは、酵素作用又は一般的な酸若しくは塩基加溶媒分解により酸化、還元、アミノ化、脱アミノ化、エステル化、脱エステル化、アルキル化、脱アルキル化、アシル化、脱アシル化、リン酸化、脱リン酸化、又は化学結合をプロドラッグに対し形成又は破壊することを伴う他の官能基交換又は変換を行うことができる化合物を含む。カルボキシル官能基を有する化合物のプロドラッグは、カルボン酸の低級アルキルエステルであるのが好ましい。カルボン酸エステルは、分子上に存在するカルボン酸部分のいずれかをエステル化することによって好都合に形成される。プロドラッグは、通常Burger,“Medicinal Chemistry and Drug Discovery”6th ed.(Donald J. Abraham ed., 2001, Wiley)及び“Design and Applications of Prodrugs”(H. Bundgaard ed., 1985, Harwood Academic Publishers)に記載されているもののような周知の方法を使用して調製することができる。より具体的には、数多くの構造的に異なるヒドロキシチロソールのプロドラッグが開示(Fernandez−Bolanos, JG, Lopez O, Fernandez−Bolanos J, Rodriguez Gutierrez G.“Hydroxytyrosol and derivatives:isolation, synthesis, and biological properties”Cur. Org. Chem. 12:442−463, 2008)されており、この開示全体をここに参照して援用する。
【0036】
式(I)の化合物のプロドラッグであるいかなる化合物も、本発明の範囲及び精神の範囲内である。
【0037】
本明細書で言及するあらゆる化合物が、かかる特定の化合物及びそのある種の変形又は形態を表すことを意図する。具体的には、本明細書で言及する化合物は、非対称中心を有することができるので、異なるエナンチオマー形態又はジアスレテオマー形態で存在することができる。このように、本明細書で言及するあらゆる所定の化合物は、ラセミ体、1個以上のエナンチオマー形態、1個以上のジアステレオマー形態及びそれらの混合物のいずれか1つを表すことを意図する。同様に、二重結合についての立体異性又は幾何異性も可能であり、従って、幾つかの事例では、分子が(E)-異性体又は(Z)-異性体(トランス異性体及びシス異性体)として存在することができる。分子が幾つかの二重結合を含有する場合、各二重結合は分子の他の二重結合の立体異性と同じか又は異なる独自の立体異性を有する。また、本明細書で言及する化合物は、アトロプ異性体として存在することができる。本明細書で言及する化合物のエナンチオマー、ジアステレオマー、幾何異性体及びアトロプ異性体を含む全ての立体異性体並びにそれらの混合物は、本発明の範囲に含まれると考える。
【0038】
特に明記しない限り、本発明の局所医薬組成物に含まれる化合物は、同位体標識した形態、すなわち、1種以上の同位体が濃縮された原子の存在下でのみ異なる化合物を含むことも意味する。例えば、重水素若しくは三重水素による少なくとも1個の水素原子の置換、又は13C若しくは14C濃縮炭素による少なくとも1個の炭素の置換、又は15N濃縮窒素による少なくとも1個の窒素の置換を別にすれば本発明の構造を有する化合物は、本発明の範囲に含まれる。
【0039】
「担体」という用語は、有効成分と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルを指す。適切な医薬担体は、E. W. Martin,“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,1995に記載されている。
【0040】
より簡潔な説明を提供するために、本明細書で与えられる量的表現の幾つかは、「約」という用語を使用して定量化していない。「約」という用語が明確に使用されても使用されなくても、本明細書で与えられる全ての量は実際に与えられた値を指しており、また、かかる与えられた値の実験及び/又は測定の条件による同値及び近似値を含め、かかる与えられた値について本技術分野の通常のスキルに基づいて合理的に推測される近似値をも指す。
【0041】
本発明の一好適形態において、局所医薬組成物は式(I)の化合物を含み、ここでR、R及びRは、独立して水素、置換又は未置換C−C22アルキル、置換又は未置換C−C22アルケニル、置換又は未置換C−C22アルキニル、置換又は未置換C−C22アリール、5〜18個の環原子を有する置換又は未置換ヘテロシクリル、OR、SR、SOR、SO、OSO、OSO、NO、NHR、N(R)、=N−R、N(R)COR、N(COR)、N(R)SOR’、N(R)C(=NR)N(R)R、CN、ハロゲン、COR、COOR、OCOR、OCOOR、OCONHR、OCON(R)、CONHR、CON(R)、CON(R)OR、CON(R)SO、PO(OR)、PO(OR)R、PO(OR)(N(R)R)及びアミノ酸エステルからなる群より選択され;前記R基の各々が、独立して水素、置換又は未置換C−C22アルキル、置換又は未置換C−C22アルケニル、置換又は未置換C−C22アルキニル、置換又は未置換C−C22アリール及び5〜18個の環原子を有する置換又は未置換ヘテロシクリルからなる群より選択される。
【0042】
式(I)の好ましい化合物は、ヒドロキシチロソール(R、R及びRがHである)並びに以下のヒドロキシチロソール誘導体である。
(1)酢酸エステル(R及びRがHで、Rが−COCHである)のようなカルボン酸エステル;
(2)アルキルスルホニル又はアラルキルスルホニル(例えば、メタンスルホニル)のようなスルホン酸エステル;
(3)リン酸エステル;
(4)ホスホン酸エステル;
(5)ホスホロアミド酸エステル;
(6)アミノ酸エステル(例えば、アラニン、L−バリル又はL−イソロイシル)。
【0043】
このように、本発明の一以上の好ましい実施形態における化合物は、R、R及びRが独立して水素、SO、COR、PO(OR)、PO(OR)R、PO(OR)(N(R)R)及びアミノ酸エステルからなる群より選択され;前記R基の各々が、独立して水素、置換又は未置換C−C22アルキル、置換又は未置換C−C22アルケニル、置換又は未置換C−C22アルキニル、置換又は未置換C−C22アリール及び5〜18個の環原子を有する置換又は未置換ヘテロシクリルからなる群より選択された式(I)の化合物から選択される。
【0044】
本発明における式(I)の最も好ましいいくつかの特定化合物は、例えば以下のものである:
‐ヒドロキシチロソール(R、R及びRがHである)
‐酢酸ヒドロキシチロソール(R及びR及びがHであり、Rが−COCHである)。
【0045】
更なる好ましい実施形態において、上述した様々な置換基に対する選択が組み合わされる。
【0046】
上述したように、本発明の局所医薬組成物は真菌、細菌又はウイルス、好ましくはHIVによって引き起こされる性感染症の予防用殺菌剤として有用である。
【0047】
例えば、本発明の殺菌剤組成物はHIV陽性である人々に幾通りかの方法で有用である。殺菌剤は精液及び膣分泌物の双方において疾患を引き起こす微生物を無効化することから、HIV陽性の使用者に、そのパートナーが性交渉の間にHIVに接触する危険性を低減する手段を与えることができる。同様に、本発明に係る医薬組成物はまた、2人のHIV陽性パートナーがHIVの異なる株で再感染する危険性を低減することができる。殺菌剤はまた、HIV陽性者が他のSTD、膀胱感染症又はイースト菌感染症にかかる危険性を低減することができる。免疫不全を有する人々に対して、これは重要な利点である。また重量なことには、本発明の医薬組成物が女性自身とその新生児のHIV感染、また性交を介しての他者へのHIV感染の更なる伝播を保護することができる。
【0048】
なお、ヒドロキシチロソール及びその誘導体は市販されているか、又は例えば既知の合成方法によって容易に入手することができる。従って、これら化合物の殺菌剤組成物は、HIV伝染及び感染に対する予防法として用いるのに安価で容易な手段である。
【0049】
本発明の局所医薬組成物の投与は、経口、直腸及び膣内投与のような任意適当な方法で行うことができる。
【0050】
好ましい実施形態において、該医薬組成物を膣、肛門又は口のような体腔に局所的に施す。
【0051】
後述するように、本発明の組成物は、フォーム、クリーム、軟膏、ゲル、ゼリー、坐剤、錠剤、エアゾール、含嗽剤、口内洗浄剤、マイクロエマルジョン、デポーデバイス等の形態とすることができる。一つの特定実施形態においては、ゲル、クリームまたはフォームが好ましい。最も好ましいのは、膣クリームである。別の実施形態においては、組成物が徐放製剤の形態、好ましくは、例えば膣リングのようなデバイスの形態である。別の特定の実施形態においては、例えば直腸投与用の坐剤が好ましい。同様に、後述するように、本発明の組成物を子宮内器具(IUD)、膣ダイヤフラム、膣スポンジ、ペッサリー、コンドーム等のような異なる物品に組み込むことができる。それらの中でも、コンドームが特に好ましい。
【0052】
クリーム又はローションは、水中油型エマルジョンである。使用し得る油性基剤は、脂肪アルコール、特に12〜18個の炭素原子を含有するもの、例えば、ラウリルアルコール、セチルアルコール若しくはステアリルアルコール、脂肪酸、特に10〜18個の炭素原子を含有するもの、例えば、パルミチン酸若しくはステアリン酸、脂肪酸エステル、例えば、トリカプリロカプリン酸グリセリル(中性油)若しくはパルミチン酸セチル、液固ワックス、例えば、ミリスリン酸イソプロピル、羊毛脂若しくは蜜蝋、及び/又は炭化水素、特に、液体、半固体物質、固体物質若しくはそれらの混合物、例えば、石油ゼリー(ペトロラタム、ワセリン)若しくはパラフィン油である。適当な乳化剤は、対応する非イオン性乳化剤のような主として親水特性を有する界面活性物質、例えば多価アルコールの脂肪酸エステル及び/又はそのエチレンオキシド付加物、特に(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール若しくはソルビトールとの脂肪酸エステルであって脂肪酸部分が特に10〜18個の炭素原子を含有するもの、特に、ポリグリセロール脂肪酸エステル若しくはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ツィーン)のようなポリヒドロキシエチレンソルビタンの部分グリセロール脂肪酸エステル若しくは部分脂肪酸エステル、並びにポリヒドロキシエチレングリセロール脂肪酸(例えば、タガット(Tagat)S)のようなポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル若しくは脂肪酸エステルであって脂肪アルコール部分が特に12〜18個の炭素原子を含有し脂肪酸部分が特に10〜18個の炭素原子を含有するもの、又は対応するイオン性乳化剤、特に脂肪アルコール部分に12〜18個の炭素原子を有する脂肪アルコール硫酸エステルのアルカリ金属塩、例えばラウリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム若しくはステアリル硫酸ナトリウムであり、これらは通常脂肪アルコール、例えばセチルアルコール若しくはステアリルアルコールの存在下で使用される。水相への添加剤は、特にクリームが乾燥するのを防ぐ薬剤、例えばグリセロール、ソルビトール、プロピレングリコール及び/又はポリエチレングリコールのような多価アルコールの保湿剤、並びに防腐剤、香料、ゲル化剤等である。
【0053】
軟膏は、70%以下、好ましくはおよそ20%〜およそ50%の水又は水相を含有する油中水型エマルジョンである。脂肪相として適切なものは、特に炭化水素、例えば石油ゼリー、パラフィン油及び/又は固形パラフィンであり、水結合能力を向上させるために、好ましくは脂肪アルコール又はそのエステルのような適当なヒドロキシ化合物、例えばセチルアルコール若しくは羊毛脂アルコール、又は羊毛脂若しくは蜜蝋を含有する。乳化剤は、例えば上述した種類のソルビタン脂肪酸エステル(スパン)のような対応する親油性物質、例えばオレイン酸ソルビタン及び/又はイソステアリン酸ソルビタンである。水相への添加剤は、特に多価アルコール、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール及び/又はポリエチレングリコールのような保湿剤、並びに防腐剤、香料等である。
【0054】
マイクロエマルジョンは、次の四成分に基づく等方性の系である:水、界面活性剤、例えば張力活性剤、非極性又は極性油のような脂質、例えばパラフィン油、オリーブ油又はトウモロコシ油等の天然油、及び親油性基を含有するアルコール又は多価アルコール、例えば2−オクチルドデカノール又はエトキシ化グリセロール又はポリグリセロールエステル。所要に応じて、他の添加剤をミクロエマルジョンに加えることができる。ミクロエマルジョンは、200nm未満のサイズを有するミセル又は粒子を有し、透明又は半透明の系で、その形態が自発的に安定である。
【0055】
脂肪軟膏は、水分を含まず、基剤として特に炭化水素、例えば、パラフィン、石油ゼリー及び/又は流動パラフィン、またグリセロールの脂肪酸エステルのような天然又は部分的合成脂肪、例えば、ヤシ脂肪酸トリグリセリド、又は好ましくは硬化油、例えば、水素化ピーナッツ油、水素化ひまし油若しくは水素化ワックス、またグリセロールの脂肪酸部分エステル、例えば、モノ及びジステアリン酸グリセロール、また例えば吸水能を増した脂肪アルコール、乳化剤及び/又は軟膏に関連して述べた添加剤を含有する。
【0056】
ゲルについて、水性ゲルと、水無しゲルと、低い含水量を有するゲルとの間で区別され、これらゲルは膨潤性のゲル形成材料からなる。無機又は有機巨大分子に基づく透明なヒドロゲルが特に使用されている。ゲル形成特性を有する高分子量無機成分は、大部分が、例えばベントナイトといったアルミニウムシリケート、例えばビーガムといったマグネシウムアルミニウムシリケート、又は例えばエーロジルといったコロイドケイ酸のような水含有シリケートである。高分子量有機物質として、例えば天然、半合成又は合成巨大分子が使用されている。天然及び半合成ポリマーは、例えばセルロース、デンプン、トラガカント、アラビアゴム及び寒天、ゼラチン、アルギン酸及びその塩、例えばアルギン酸ナトリウム及びその誘導体のような多種多様の炭水化物成分を含有する多糖、例えばメチルセルロース又はエチルセルロースといった低級アルキルセルロース、若しくは例えばカルボキシメチルセルロース又はヒドロキシエチルセルロースといったカルボキシ又はヒドロキシ低級アルキルセルロースから得られる。合成ゲル形成巨大分子の成分は、例えばビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリル酸又はメタクリル酸のような適当に置換した不飽和脂肪族化合物である。
【0057】
「エマルゲル」とも呼ばれるエマルジョンゲルは、ゲルの特性と水中油型エマルジョンの特性とを併せ持つ局所組成物を表す。これは、ゲルと対照的に、脂質相を含有し、その脂肪復元特性により該製剤をマッサージ可能にすると同時に、皮膚への直接吸収を喜ばしい特性として経験する。更には、親油性有効成分に対する増加した溶解性を観察することができる。水中油型エマルジョンを超えるエマルジョンゲルの一つの利点は、増強された冷却効果にあり、これは存在するとすれば、付加的なアルコール成分の蒸発による冷たさによってもたらされる。
【0058】
フォームは、例えば加圧容器から投与され、エアゾール形態の液状水中油型エマルジョンであり;アルカンのような未置換炭化水素、例えばプロパン及び/又はブタンを噴射剤として使用する。油相として、特に、例えばパラフィン油といった炭化水素、例えばセチルアルコールといった脂肪アルコール、例えばミリスチン酸イソプロピルといった脂肪酸エステル、及び/又は他のワックスを使用する。乳化剤として、特にポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ツイーン)のような主として親水特性を有する乳化剤の混合物、及びソルビタン脂肪酸エステル(スパン)のような主として親油特性を有する乳化剤を使用する。防腐剤等のような慣例的な添加剤も加える。
【0059】
チンキ及び液剤は、一般にエタノール基剤を有し、これに水を加えることができ、また蒸発の低減用保湿剤として特に多価アルコール、例えばグリセロール、グリコール及び/又はポリエチレングリコールと、皮膚からエタノールによって除去された脂肪物質の代用品としての低分子量ポリエチレングリコール、プロピレングリコール又はグリセロールを有する脂肪酸エステルのような脂肪復元物質、言い換えれば、水性混合物に可溶な親油性物質とを加え、また必要に応じて、他の補助剤及び添加剤を加える。適切なチンキ又は液剤はまた、適当なデバイスによってスプレー形態で塗布することができる。
【0060】
本発明に係る組成物はまた、局所施用の通常の添加剤及びアジュバント、例えば防腐剤、特にメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンのようなパラベンエステル、塩化ベンザルコニウムのような四級アンモニウム化合物、イミダゾニジニル尿素のようなホルムアルデヒド供与体、ベンジルアルコール、フェノキシエタノールのようなアルコール、安息香酸、ソルビン酸のような酸;pH緩衝賦形剤として使用する酸又は塩基;抗酸化剤、特にハイドロキノン、トコフェノール及びそれらの誘導体並びにフラボノイドのようなフェノール性抗酸化剤、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビルのような種々の抗酸化剤;香料;カオリン又はデンプンのような充填材;顔料又は着色剤;UV遮断剤;モイスチャー、特にグリセリン、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、尿素、ヒアルロン酸又はそれらの誘導体;ビタミンE又はその誘導体のような抗フリーラジカル剤;浸透促進剤、特にプロピレングリコール;エタノール;イソプロパノール;ジメチルスルホキシド;N−メチル−2−ピロリドン;オレイン酸、オレイルアルコールのような脂肪酸/アルコール;リモネン、メンソール、1−8シネオールのようなテルペン;酢酸エチル、酢酸ブチルのようなアルキルエステル;サリチル酸のようなイオン対形成剤を含むことができる。
【0061】
適切な局所製剤に関する更なる詳細を、Banker及びRhodes(編)“Modern Pharmaceutics”4th ed、(2002)、Marcel Dekker Inc.:“Harry‘s Cosmeticology”(2000), 8th Edition, Chemical Publishing Co.:“Remington’s Pharmaceutical Sciences”20thed,Mack Publishing Co.(2000)のような標準的な参考書を参照することによって得ることができる。
【0062】
<膣内投与>
本発明の医薬組成物は、エアゾール、フォーム、スプレー、ペースト、ゲル、ゼリー、クリーム、坐剤、錠剤、ペッサリー、タンポン、膣リングのようなデバイス等を含む数多くの形態で膣に施すことができる。これらは、即時放出又は制御放出の形態とすることができる。フォーム、クリーム及びゲルが、好ましい形態である。膣への適用に適した組成物は、本明細書に参照して援用する米国特許第2,149,240号、第2,330,846号、第2,436,184号、第2,467,884号、第2,541,103号、第2,623,839号、第2,623,841号、第3,062,715号、第3,067,743号、第3,108,043号、第3,174,900号、第3,244,589号、第4,093,730号、第4,187,286号、第4,283,325号、第4,321,277号、第4,368,186号、第4,371,518号、第4,389,330号、第4,415,585号及び第4,551,148号明細書に開示されており、また本発明の方法は医薬組成物をかかる組成物の形態で膣に施すことによって実施することができる。
【0063】
特に好ましい実施形態においては、医薬組成物を膣に局所的に施す。従って、本発明の方法は、膣への局所施用を含み、膣性交の結果としてのHIV感染又は他のSTDを予防することができる。通常、局所施用を膣性交の開始に先立って、適切には膣性交の開始0〜60分前、好ましくは0〜5分前に実施する。該施用は、女性の膣の内部及び周囲並びに膣領域(例えば、大陰唇、小陰唇、クリトリス等のような個々の解剖学的部位)に実施することができる。
【0064】
式(I)の化合物を含有する本発明の組成物は、あらゆる従来方式で膣に施すことができる。組成物を膣に施すのに適したデバイスは、米国特許第3,826,828号、第4,108,309号、第4,360,013号及び第4,589,880号明細書に開示され、これらを本明細書に参照して援用する。
【0065】
当業界で既知の調剤クリームは、水中油型又は油中水型のいずれかの粘性液又は半固形エマルジョンである。クリーム基剤は水洗性で、油相、乳化剤及び水相を含有する。油相は、ときには「内」相とも称し、一般にペトロラタム及びセチルアルコール又はステアリルアルコールのような脂肪アルコールからなり;水相は、必須ではないが、通常容量で油相を上回り、一般に保湿剤を含有する。クリーム製剤中の乳化剤は、一般に非イオン性、アニオン性、カチオン性又は両性の界面活性剤である。
【0066】
本明細書で定義するような「膣クリーム」は、膣系への施用に適した半固形製剤である。種々の種類の賦形剤又はビヒクルを膣クリームに使用することができ、これらは当業界で既知である。賦形剤は、製剤の成分に悪影響を及ぼさない天然に存在するか又は合成起源の材料からなる。本発明での使用に適した担体としては、限定しないが、使用する製剤の具体的種類に応じて、精製水、白色ワセリン、粘膜付着性ポリマー、流動パラフィン、ポリソルベート60、ステアリン酸ソルビタン、シリコーン、ワックス、ペトロラタム、ゼリー、ポリエチレングリコール及び種々のその他材料が挙げられる。
【0067】
本発明で使用する好ましい種類の生体付着性ゲル化ポリマーは、アリルスクロース又はペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸ポリマーからなるもので、カーボポール(カルボマー)の商品名でビー・エフ・グッドリッチケミカル社(B.F.Goodrich Chemical Co.)から市販されている。カーボポール934P及び971Pが、通常膣投与用の理想的候補であると考えられる。
【0068】
本発明に使用する別の好ましい種類の生体付着性ゲル化ポリマーは、ジビニルグリコールで架橋したアクリル酸ポリマーからなるもので、ノベオン(Noveon)AA−1ポリカーボフィルUSP(ポリカーボフィルAA1)の商標で市販されている。
【0069】
例えば、適切なビヒクル基剤としては、限定しないが、炭化水素基剤又は油性基剤、吸収基剤、水で除去可能な基剤及び水溶性基剤が挙げられる。いくつかの実施形態において、ビヒクル基剤は刺激が無く、非染色性で、安定で、pH非依存性であり及び/又は式(I)の化合物と相溶性である。
【0070】
<直腸投与>
担体が固体である直腸投与に適した薬学製剤は、最も好ましくは単位用量坐剤として表される。適当な担体としては、ココアバターおよび当業界で通常使用される他の材料が挙げられる。坐剤は、有効成分を軟化又は融解した担体と混合し、続いて鋳型中で冷却して成型することによって都合良く形成される。
【0071】
別の実施形態において、本発明は、組成物の肛門への局所投与を含む。肛門に投与する組成物は、上記膣投与に関して述べたもののようなフォーム、クリーム、ゼリー等が適している。肛門施用の場合、組成物を肛門全体にほぼ均一に分配するアプリケーターを使用することが好ましい場合がある。例えば、適切なアプリケーターは、その全長に沿って規則的に分布した穴を有する長さが2.5〜25cm、好ましくは5〜10cmのチューブである。
【0072】
<経口投与>
別の実施形態において、本発明の方法は、医薬組成物を経口的に施すことによって実施することができる。経口投与は、組成物を洗口剤又は含嗽剤の形態で施すことによって実施するのが適している。経口投与は、歯科処置中の感染を防ぐのに特に好適である。組成物を歯科処置の開始直前に、また歯科処置の間中定期的に施すのが適している。口内の局所投与に適した剤形としては、有効成分を風味付けした基剤、通常スクロース及びアカシア又はトガラカントに含むロゼンジ剤;有効成分をゼラチン及びグリセリンのような不活性基剤又はスクロース及びアカシアに含むトローチ剤;並びに有効成分を適当な液状担体に含む洗口剤が挙げられる。
【0073】
洗口剤又は含嗽剤の場合、組成物中に式(I)の化合物の味及び/又は臭気をマスクする薬剤を含めることが好ましい場合がある。かかる薬剤としては、スペアミント油、桂皮油等のような洗口剤及び含嗽剤で通常見られる香味剤が挙げられる。
【0074】
<濃度、放出及び物品>
投与すべき式(I)の単一又は数種の化合物の治療上有効量は、一般に他の因子のなかでも選択した投与方法に依存する。従って、本発明で言及する投与量は、当業者のためのガイドラインとみなすのみとしなければならない。動物実験を行って適切な投薬量を決定できることが理解される。
【0075】
組成物が坐剤(膣坐剤を含む)の形態である場合、坐剤を通常1〜5g、好ましくは約3gとし、坐剤全体を施すことが知られている。膣錠剤を適切には1〜5g、好ましくは約2gとし、錠剤全体を施す。組成物が膣クリームである場合、クリームを適切には0.1〜2g、好ましくは約0.5g施す。組成物が水溶性膣クリームである場合、適切には0.2〜2g、好ましくは約0.6gを施す。組成物が膣スプレーフォームである場合、スプレーフォームを適切には0.1〜2g、好ましくは約0.5g施す。組成物が肛門クリームである場合、肛門クリームを適切には0.1〜2g、好ましくは約0.5g施す。組成物が肛門スプレーフォームである場合、肛門スプレーフォームを適切には0.1〜2g、好ましくは約0.5g施す。組成物が洗口剤又は含嗽剤である場合、適切には1〜10mL、好ましくは5mLを施す。
【0076】
更に、投薬形態における式(I)の単一又は数種の化合物の量は、有効な肛門内、口腔又は膣内局所濃度を達成するようなものとしなければならない、言い換えれば、式(I)の単一又は数種の化合物が投与により殺菌剤効果をもたらすのに充分なレベルで存在しなければならない。
【0077】
本発明の好ましい実施形態において、医薬組成物は約0.1μg〜約300mgの式(I)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体を含む。より好ましくは、該組成物は約1μg〜約30mgの式(I)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体を含む。
【0078】
本発明の組成物はまた、持続放出組成物の形態とすることができる。この実施形態においては、式(I)の化合物を組成物に組み込み、該式(I)の化合物の有効な膣内又は肛門内濃度をもたらす速度で有効成分を放出する。持続放出組成物は、「農薬及び医薬品の制御放出」D. H. Lew, Ed., Plenum Press, New York, 1981;米国特許第5,185,155号、第5,248,700号、第4,011,312号、第3,887,699号、第5,143,731号、第3,640,741号、第4,895,724号、第4,795,642号明細書;Bodmeierら、Journal of Pharmaceutical Sciences, vol. 78(1989);Amies, Journal of Pathology and Bacteriology, vol. 77(1959);及びPfisterら、Journal of Controlled Release, vol. 3, pp. 229−233(1986)に開示され、これら全てをここに参照して援用する。
【0079】
本発明の組成物はまた、膣性交又は肛門性交のような何らかの事象に応答して式(I)の化合物を放出する形態とすることができる。例えば、組成物は、性交の機械的作用によって破壊するベシクル又はリポソーム中に式(I)の化合物を含有することができる。リポソームを含む組成物は、米国特許第5,231,112号明細書;Deamer及びUster, “Liposome Preparation:Methods and Mechanisms”, in Liposomes, pp. 27−51(1983);Sessaら、J. Biol. Chem., vol. 245, pp. 3295−3300(1970);Journal of Pharmaceutics and Pharmacology, vol. 34, pp. 473−474(1982);及び“Topics in Pharmaceutical Sciences”, D. D. Breimer及びP. Speiser, Eds., Elsevier, New York, pp. 345−358(1985)に記載され、これらをここに参照して援用する。
【0080】
本発明の組成物を子宮内器具(IUD)、膣ダイヤフラム、膣リング、膣スポンジ、ペッサリー、コンドーム等のような物品と関連付けることも理解すべきである。IUD又はダイヤフラムの場合、持続放出及び/又は機械的放出組成物が好ましい場合があり、一方コンドームの場合、機械的放出が好ましい。
【0081】
別の実施形態において、本発明はHIV感染の予防に有用な新規物品を提供する。具体的には、本発明の物品は、適当な身体部分上又は適当な体腔内に置いた際に式(I)の化合物を放出するものである。従って、本発明は、式(I)の化合物を含有するか又は伴うIUD、膣ダイヤフラム、膣スポンジ、ペッサリー又はコンドームを提供する。
【0082】
このように、本発明の物品は、1種以上の式(I)の化合物を含有するIUDとすることができる。適当なIUDは、米国特許第3,888,975号及び第4,283,325号明細書に開示され、これらをここに参照して援用する。本発明の物品は、式(I)の化合物を含み、時間制御様式で放出する膣内スポンジとすることもできる。膣内スポンジは、米国特許第3,916,898号及び第4,360,013号明細書に開示され、これらをここに参照して援用する。本発明の物品は、式(I)の化合物を放出する膣ディスペンサーとすることもできる。膣ディスペンサーは、米国特許第4,961,931号明細書に開示され、ここに参照して援用する。
【0083】
本発明の物品はまた、式(I)の化合物で被覆したコンドームとすることができる。好ましい実施形態において、コンドームを、式(I)の化合物と、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化メチルベンゼトニウム、臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ベンザルコニウム、モニルフェニルエーテル、ラウリルエーテル及びオクトキシノールから任意に選択した殺精子剤とを含む潤滑剤又は浸透促進剤で被覆する。しかしながら、コンドームの使用を、適当な潤滑剤、すなわち、コンドームの機械的強度特性を低下させず且つラテックスが攻撃されることによるコンドームの多孔性を増加させないものの使用と関連付けるべきことを推奨する。例えば、欧州特許出願公開第457127号明細書は、コンドームのラテックスを処理するためのシリコーン油に基づく潤滑剤を記載しており、欧州特許出願公開第475664号明細書は、潤滑組成物及びそのコンドームとの使用を記載しており、仏国特許出願公開第266587号明細書は、ポリジメチルシロキサンを含む潤滑剤を記載している。他の潤滑剤及び浸透促進剤は、米国特許第4,537,776号、第4,552,872号、第4,557,934号、第4,130,667号、第3,989,816号、第4,017,641号、第4,954,487号、第5,208,031号及び第4,499,154号明細書に記載され、これらをここに参照して援用する。
【0084】
別の実施形態において、式(I)の化合物、より好ましくはヒドロキシチロソールを他の有効成分、好ましくは殺菌剤又は抗HIV薬と併用する。注目すべきは、ヒドロキシチロソールが他の抗HIV薬に対し交差耐性の欠如を示し、従って他の殺菌剤又は抗ウイルス薬との併用に適している。
【0085】
以下の実施例は、本発明の範囲に含まれる特定の実施形態を更に説明し実証する。これら実施例は、例証のためにのみ与えられ、限定として解釈されない。
【実施例】
【0086】
3,4−ジヒドロキシフェニルエタノールの様々な製剤を成功裏に調製した。
【0087】
[実施例1−膣クリーム]
下記組成を有する1gの膣クリームを調製した:3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール50mg、モノステアリン酸ソルビタン45.0mg、ポリソルベート60(ツイーン60)15.0mg、パルミチン酸セチル(クチナ(Cutina)CP−A)30.0mg、粘性パラフィン130.46mg、セチルステアリルアルコール100.0mg、ヒアルロン酸50.0mg、精製水630.0mg。
【0088】
[実施例2−錠剤制御放出製剤]
有効成分を精製水で湿式造粒し、続いてステアリン酸マグネシウムを添加し圧縮することにより制御放出用錠剤を調製する。粘度等級を変えるヒプロメロースを利用できる。
この製剤1錠は、次の組成を有する:3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール50mg、ヒプロメロース112mg、ラクトース一水和物53mg、前ゼラチン化デンプン28mg、ステアリン酸マグネシウム7mg、精製水適量。
薬物放出は約6〜8時間にわたって起こり、12時間後に完了する。
【0089】
[実施例3−カプセル制御放出製剤]
成分a、b、c及びeを湿式造粒し、次に、押出機を使用して材料を押出し、続いて押出物を球形化し乾燥することにより制御放出用カプセル製剤を調製する。次いで、その乾燥ペレットを放出制御膜(d)又はポリマーで被覆する。最終生成物をツーピースのハードゼラチンカプセル又はヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルへ充填する。
この製剤1カプセルは、次の組成を有する:(a)3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール50mg、(b)微結晶メルロース125mg、(c)ラクトース一水和物125mg、(d)エチルセルロース13mg、(e)精製水適量、(f)ゼラチンカプセル。
【0090】
[実施例4−経口懸濁剤]
有効成分を賦形剤と混合することによって経口懸濁剤を調製し、乾燥粉末として充填する。使用前に精製水を加えて、充分に混合する。
この経口懸濁剤は、次の組成を有する:3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール50mg、粉砂糖2000mg、シメチコン300mg、メチルパラベン30mg、プロピルパラベン10mg、香料500mg、精製水5.00mLまで適量。
【0091】
[実施例5−坐剤]
次の手順によって、坐剤を調製する:ウィテップゾールH15の1/5をスチームジャケット付きパン中最高45℃で融解させる。有効成分を200ミクロンの篩によりふるい分けし、融解した基剤に加え、カッターヘッドを装着したシルバーソンミキサーを使用して滑らかな分散液が得られるまで混合する。この混合物を45℃で維持し、残りのウィテップゾールH15を懸濁液に加え、攪拌して均質な混合物を確実にする。懸濁液全体を250ミクロンのステンレス製の網に通し、連続的に攪拌しながら40℃まで冷却する。38℃〜40℃の温度で、この混合物2.02gを適切な2mLプラスチック鋳型に充填する。この坐剤を室温まで冷却する。
この坐剤は、3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール50mg、ハードファットB.P.(ウィテップゾールH15−ダイナミット・ノーベル社(Dynamit Nobel))1770を含有する。
【0092】
[実施例6−膣坐剤]
次の組成を有する膣坐剤を調製する:3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール50mg、ヘキサネトリオール100mg、ポリエチレングリコール1500適量。
【0093】
[実施例7−生体付着性膣クリーム]
次の組成を有する殺精子剤含有生体付着性クリームを調製する:3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール50mg、ノノキノール9 80mg、カーボポール971P mg%、ポリカーボフィルAA−1 15mg、グリセリン100mg、クレモフォール100mg、NaOH適量 pH4.5、精製水1g以下。
【0094】
[実施例8−膣スプレーフォーム]
次の組成を有する膣スプレーフォームを調製する:3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール50mg、ポリエチレングリコール6000 2g、非イオン性乳化剤2g、水85g、フレオン12/144(70:30)10g。
【0095】
[実施例9−膣ゲル剤]
次の手順によって膣ゲルを調製する:水酸化ナトリウム及び塩酸を10%w/w溶液として使用して、pHを目標とする4.4に調整した。メチルパラベン及びプロピルパラベンを加熱したグリセリンに溶解させる。ヒドロキシエチルセルロースを加え、分散させて有機相を形成する。エデト酸二ナトリウム及びクエン酸を精製水に溶解させ、テノフォビルを加えて分散させ、pHを4.5に調整し、0.22μmフィルターを通過させることによって溶液を浄化する。水相と有機相を混合し、充分に攪拌し、次いでチューブ又はアプリケーターに充填する。
【0096】
この膣ゲル剤は、次の組成を有する:3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール50mg、ヒドロキシエチルセルロース NF(ナトラゾール(R)250H)25mg、プロピルパラベン NF 0.2mg、メチルパラベン NF 1.8mg、エデト酸二ナトリウム USP 0.5mg、グリセリン USP 200mg、クエン酸 USP 10mg、精製水 USP 1gまで適量。
【0097】
[実施例10−HIV−1複製に対するHT(ヒドロキシチロソール)評価]
[MT−2細胞株における抗ウイルス活性]
リンパ芽球様細胞株MT−2を感染標的として用い、指標遺伝子レニラ(Renilla)を有する組み換えウイルスNL4.3−RenillaをX4指向性ウイルスとして用い、組み換えウイルスNL4.3−Delta−env−VSV−LucをHIV VSV偽型ウイルスとして用いた。この最後のベクターは、受容体と無関係に宿主細胞内に侵入することができるウイルスを発生させる。
【0098】
異なる濃度のヒドロキシチロソールで細胞培養物(96ウェルプレートで100,000細胞/ウェル)を前処理して、アッセイを行った。1時間後、細胞培養物を組み換えウイルスに感染させる。生存率アッセイのため、RPMIをウイルスの代わりに用いる。細胞培養物を37℃、5%CO下で維持する。48時間後、細胞を溶解させ、レニラ活性若しくはルシフェラーゼ活性又は細胞生存率をそれぞれ測定する。
【0099】
その結果を図1に示す。図2に示すX4指向性ウイルス(NL4.3−Ren)及びVSVウイルス(Delta Luc)での感染における濃度の補正後、更なる実験を実施した。
【0100】
ヒドロキシチロソールは、約50〜100μMのマイクロモル範囲で抗ウイルス活性を有することが理解できる。この抗ウイルス活性は特異的であり、毒性のせいではない。異なる指向性を有するウイルス間で差異が存在するようである。ヒドロキシチロソールはVSV偽型ウイルスを阻害することから、宿主細胞へのウイルス侵入がヒドロキシチロソールの作用の標的ではないようである。
【0101】
[末梢血のリンパ球における抗ウイルス活性]
健康なドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、48時間の間PHA+IL−2で予備活性化し、更に少なくとも48時間IL−2と共に保持して、同様のアッセイを実施した。この場合、細胞数は1ウェルあたり250,000個であった。更に、R5指向性を有するHIVウイルス(JR−Ren)での感染もアッセイに含めた。
【0102】
この結果を図3に示す。PBCMにおけるヒドロキシチロソールの活性を確認したが、X4指向性を有する感染症についてのIC50値はMT−2細胞株を用いたアッセイの場合よりも高く、一方R5指向性ウイルス(JR−Ren)及びVSVを用いた偽型(Delta Luc)での値は、MT−2細胞株で得られたものと同様であった。
【0103】
[実施例11−DC−SIGNにより媒介されるトランス感染におけるHT(ヒドロキシチロソール)の抗ウイルス活性]
HIV感染の最も重要なメカニズムの一つが、DC−SIGN+抗原を提示している細胞を介したウイルス導入によって媒介されることであり、これはトランス感染と呼ばれる。このメカニズムを、自然感染条件を模倣するDC−SIGN+細胞(RAJI DC−SIGN)に基づく系で研究した。感染の標的は、健康なドナー由来のPBMC細胞である。ヒドロキシチロソールを用いて得た結果を、表1及び図4に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
図4に示すように、R5指向性ウイルスのトランス感染は、ヒドロキシチロソールによって直接感染を用いたアッセイにおけるものより強い効力で阻害された。
【0106】
[実施例12−ラルテグラビル耐性ウイルスに対するHT(ヒドロキシチロソール)抗ウイルス活性]
ヒドロキシチロソールの作用のメカニズムは、ウイルス侵入の干渉に関連していないが、感染の開始段階で起こる。ヒドロキシチロソールによるHIV統合プロセスの阻害が存在すると考えられる。
【0107】
ラルテグラビルは、市販のインテグラーゼ阻害剤であり、エビルテグラビル(eviltegravir)は開発中である。ヒドロキシチロソールの交差耐性を査定するために、変異148(定方向突然変異誘発による)の導入によってラルテグラビル及びエビルテグラビル耐性ウイルスを発生させ、ヒドロキシチロソール及びラルテグラビルに対する感受性を評価した。
【0108】
図5は、野生型HIVウイルス及びラルテグラビル耐性HIVウイルスに対するヒドロキシチロソールの抗ウイルス活性を示す。
【0109】
図6は、野生型HIVウイルス及びラルテグラビル耐性HIVウイルスに対するラルテグラビルの抗ウイルス活性を示す。
【0110】
驚くべきことに、対照薬として使用したラルテグラビルとは異なり、ヒドロキシチロソールはインテグラーゼ耐性ウイルスに対して活性を維持した。
【0111】
従って、ヒドロキシチロソールは、他の薬剤との併用に、あるいはインテグラーゼ耐性が付いている患者に対する追加薬として有用である。
【0112】
[実施例13−反復局所投与後のヒドロキシチロソールの安全性]
ヒドロキシチロソールの安全性を決定するために、7日間1日1回反復投与したウサギにおける膣耐性の研究を行った。ヒドロキシチロソールを液剤として施した。
【0113】
実験条件下、90mg/L及び397mg/Lの2つの異なる濃度でのHTS液剤の局所投与は、膣に形態学的変化を引き起こさなかった。得られた平均刺激値(MIV)は0.00であり、ウサギの膣粘膜に刺激応答が無かったことを示している。
【0114】
個々の刊行物又は特許出願が具体的且つ個別に参照により援用することを示したかのように、本明細書中で引用した全ての刊行物及び特許出願を、参照により援用する。
【0115】
特定の実施形態を上で詳細に説明するが、当業者であればかかる実施形態において、その教示からはずれることなく数多くの変形が可能であることを明らかに理解するであろう。かかる変形の全てを本発明の特許請求の範囲に包含することを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】


式(I)
(式中のR、R及びRは、それぞれ独立して水素、置換又は未置換アルキル、置換又は未置換アルケニル、置換又は未置換アルキニル、置換又は未置換アリール、置換又は未置換ヘテロシクリル、OR、SR、SOR、SO、OSO、OSO、NO、NHR、N(R)、=N−R、N(R)COR、N(COR)、N(R)SOR’、N(R)C(=NR)N(R)R、CN、ハロゲン、COR、COOR、OCOR、OCOOR、OCONHR、OCON(R)、CONHR、CON(R)、CON(R)OR、CON(R)SO、PO(OR)、PO(OR)R、PO(OR)(N(R)R)及びアミノ酸エステルからなる群より選択され;
各R基は、独立して水素、置換又は未置換アルキル、置換又は未置換アルケニル、置換又は未置換アルキニル、置換又は未置換アリール及び置換又は未置換ヘテロシクリルからなる群より選択される)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体と、医薬上許容し得る担体とを含む局所医薬組成物。
【請求項2】
前記R、R及びRが、それぞれ独立して水素、置換又は未置換C−C22アルキル、置換又は未置換C−C22アルケニル、置換又は未置換C−C22アルキニル、置換又は未置換C−C22アリール、5〜18個の環原子を有する置換又は未置換ヘテロシクリル、OR、SR、SOR、SO、OSO、OSO、NO、NHR、N(R)、=N−R、N(R)COR、N(COR)、N(R)SOR’、N(R)C(=NR)N(R)R、CN、ハロゲン、COR、COOR、OCOR、OCOOR、OCONHR、OCON(R)、CONHR、CON(R)、CON(R)OR、CON(R)SO、PO(OR)、PO(OR)R、PO(OR)(N(R)R)及びアミノ酸エステルからなる群より選択され;
前記各R基が、独立して水素、置換又は未置換C−C22アルキル、置換又は未置換C−C22アルケニル、置換又は未置換C−C22アルキニル、置換又は未置換C−C22アリール及び5〜18個の環原子を有する置換又は未置換ヘテロシクリルからなる群より選択される請求項1に記載の局所医薬組成物。
【請求項3】
前記R、R及びRが、それぞれ独立して水素、SO、COR、PO(OR)、PO(OR)R、PO(OR)(N(R)R)及びアミノ酸エステルからなる群より選択される請求項2に記載の局所医薬組成物。
【請求項4】
前記式(I)の化合物がヒドロキシチロソール又はヒドロキシチロソールアセテートである請求項3に記載の局所医薬組成物。
【請求項5】
前記式(I)の化合物を0.1μg〜300mg含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の局所医薬組成物。
【請求項6】
前記式(I)の化合物を1μg〜30mg含む請求項5に記載の局所医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物が、クリーム、ゲル、フォーム、デバイス及び坐剤から選択される請求項1〜6のいずれか1項に記載の局所医薬組成物。
【請求項8】
膣内局所施用に使用するための請求項1〜7のいずれか1項に記載の局所医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物が、膣クリーム又は膣デバイスである請求項8に記載の局所医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物で被覆したコンドーム。
【請求項11】
局所薬剤としての使用のための請求項1〜4のいずれか1項に記載の一般式(I)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体。
【請求項12】
性感染症(STD)、好ましくはHIV感染の予防における薬剤としての使用のための請求項1〜4のいずれか1項に記載の一般式(I)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体。
【請求項13】
性感染症(STD)、好ましくはHIV感染の予防用薬剤の製造への請求項1〜4のいずれか1項に記載の一般式(I)の化合物又はその医薬上許容し得る塩、溶媒和物、プロドラッグ若しくは異性体の使用。
【請求項14】
前記一般式(I)の化合物が、殺菌剤及び抗レトロウイルス薬から選択した別の有効成分と組み合わせて存在する請求項13に記載の使用。
【請求項15】
HIV感染の予防に使用するための請求項1〜9のいずれか1項に記載の局所医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−512275(P2013−512275A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541493(P2012−541493)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068673
【国際公開番号】WO2011/067302
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(512143523)
【氏名又は名称原語表記】SEPROX BIOTECH, S.L.
【Fターム(参考)】