説明

O−置換チロシン化合物の製造方法

【課題】 生産性、汎用性および安全性に優れ、経済的および工業的に有用なO−置換チロシン化合物の製造方法の提供
【解決手段】 アルコール中、塩基の存在下、式[II]で表される化合物またはその塩と、式[III]で表される化合物またはその塩とを反応させることを特徴とする、式[I]で表される化合物またはその塩の製造方法。
【化1】


[式中、各記号は明細書中に定義の通りである]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、O−アリールメチレン基またはO−ヘテロ環メチレン基置換チロシン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
O−アリールメチレン基またはO−ヘテロ環メチレン基置換チロシン化合物(本明細書中、単にO−置換チロシン化合物と略記する場合もある)は、例えば、ソマトスタチン分泌阻害剤などの医薬の製造中間体として有用な化合物である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
O−置換チロシン化合物の製造方法としては、例えば、以下に示す方法(1)〜(3)などが挙げられる。
【0004】
(1)特許文献1には、CuSOの存在下、塩基性条件下にてチロシンと、ベンジルクロリドとを反応させる方法が開示されている。
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、Bnはベンジル基を示す。)
上記方法は、反応収率が70%未満であり、O−置換チロシンを高収率で製造することができない。また、ベンジルクロリドに代えて、含窒素化合物のハライド(例えば、塩化2−ピコリル(すなわち、ピリジン−2−イルメチレンクロリド)など)を用いた場合、反応は進行するが、銅が生成物の窒素原子にキレートし、中和点(pH=7)でキレートを外すことができないため、反応収率がさらに低下することが分かった。従って、上記方法は、窒素原子などのヘテロ原子を含む置換基で置換されたO−置換チロシン化合物の製造に不適であり、汎用性に乏しい。
【0007】
(2)非特許文献2には、溶媒としてアセトンを用い、KCOまたはCsCOの存在下、アミノ基およびカルボキシル基の両方が保護されたチロシンと、ベンジルブロミドとを反応させる方法が開示されている。
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示し、Meはメチル基を示し、Bnはベンジル基を示す。)
上記方法は、O−置換チロシン化合物の製造方法として、収率が高く、他の置換基にも広く適用可能であり、一般的である。
【0010】
しかし、上記方法は、過剰に用いたBnBrや副生成物を除くため、例えば、カラムクロマトグラフィーによる精製が必要であり、更に、チロシンのアミノ基およびカルボキシル基の保護、脱保護工程が必要であり、工程数が多くなるため煩雑である。実際には、カルボキシル基をメチルエステル化し、次いで、アミノ基をBocで保護した後に、ヒドロキシル基をベンジル化し、その後、カルボキシル基を脱エステル化し、アミノ基を脱保護してO−ベンジル置換チロシンを製造するので、この方法は、生産性に優れているとは言えない。
【0011】
(3)非特許文献3には、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用い、水素化ナトリウム(NaH)の存在下、アミノ保護チロシンと、ブロモベンジル化合物(Bn−Br)とを反応させる方法が開示されている。
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Bocは、tert−ブトキシカルボニル基を示す。Bn−Brは、4−(メチルチオ)ベンジルブロミドを示す。)
【0014】
上記方法において溶媒として使用するDMFは高価であり、危険性、毒性も高く、概して、O−置換チロシン化合物の工業生産に適していない。
【0015】
さらに、DMFは高沸点(153℃)であり、反応終了後にDMF溶媒を留去することは工業的に容易ではない。また、溶媒を留去しないと、晶析により目的物を取り上げる際、収率が低下する。
【0016】
また、上記方法で用いるブロモ化合物(Bn−Br)は高価であり、経済的に好ましくない。代替として、安価なクロロ化合物(Bn−Cl)を用いた場合、その反応性はブロモ化合物よりも低く、反応は良好に進行せず、これらの方法が汎用性に乏しいことが分かった。
【0017】
また、上記方法では、オイルディスパージョンでさえも取扱いが困難なNaHを粉末状態で使用しており、上記方法は非常に危険であり、工業生産に適していない。
【0018】
上記従来技術において、方法(1)は収率、生産性、汎用性に問題があり、方法(2)は工程数が多く、精製も容易ではなく、生産性に問題がある。方法(3)ではNaHを用いており、安全性に問題があり、また、溶媒として高価なDMFを用いるので経済性にも問題がある。さらに、方法(3)は、反応終了後にDMFを留去するのが困難であるなどの問題を有する。
【0019】
従って、当該分野では、生産性、汎用性および安全性に優れ、経済的および工業的に有用なO−置換チロシン化合物の製造方法の提供が切望されている。
【特許文献1】国際公開第02/24625号パンフレット
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry)、(米国)、第46巻、p2334−2344、2003年
【非特許文献2】テトラヘドロン・アシンメトリー(Tetrahedron Asymmetry)、(英国)、第13巻、16号、p1733−1741、2003年
【非特許文献3】ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサエティー・パーキン・トランザクション l(Journal of Chemical Society Parkin Transaction 1)、(英国)、第3巻、p653−658、1990年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、生産性、汎用性および安全性に優れ、経済的および工業的に有用なO−置換チロシン化合物の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記問題を鑑み、鋭意検討した結果、安価なアルコール中、塩基の存在下でチロシン化合物のO−置換反応を行うと、高収率でO−置換チロシン化合物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
【0022】
(1)
アルコール中、塩基の存在下、式[II]:
【0023】
【化4】

【0024】
[式中、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはヒドロキシ基を示し、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子またはアミノ保護基を示し、
nは、0〜4の整数を示す。
ただし、RおよびRがともに水素原子である場合を除く。]
で表される化合物またはその塩と、式[III]:
【0025】
【化5】

【0026】
[式中、
は、置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいヘテロ環基を示し、
Xは、ハロゲン原子、トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を示す。]
で表される化合物またはその塩とを反応させることを特徴とする、式[I]:
【0027】
【化6】

【0028】
[式中、R、R、R、Rおよびnは上記に定義の通りである。]
で表される化合物またはその塩の製造方法。
【0029】
(2)
アルコールが、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびtert−ブタノールからなる群から選択される、上記(1)に記載の製造方法。
【0030】
(3)
アルコールがメタノールである上記(2)に記載の製造方法。
【0031】
(4)
塩基がアルカリ金属アルコキシドである上記(1)に記載の製造方法。
【0032】
(5)
アルカリ金属アルコキシドが、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシドおよびナトリウムtert−ブトキシドからなる群から選択される、上記(4)に記載の製造方法。
【0033】
(6)
アルカリ金属アルコキシドがナトリウムメトキシドである、上記(5)に記載の製造方法。
【0034】
(7)
メタノール中、ナトリウムメトキシドの存在下で反応を行うことを特徴とする、上記(1)に記載の製造方法。
【0035】
(8)
nが0である、上記(1)に記載の製造方法。
【0036】
(9)
またはRで示されるアミノ保護基が酸により脱保護されることを特徴とする、上記(1)に記載の製造方法。
【0037】
(10)
またはRで示されるアミノ保護基が、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、アセチル基、ベンゾイル基およびベンジル基からなる群から選択される、上記(1)に記載の製造方法。
【0038】
(11)
Xがハロゲン原子である、上記(1)に記載の製造方法。
【0039】
(12)
ハロゲン原子が塩素原子または臭素原子である、上記(11)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明は従来技術に対して以下の効果を有する。
1.当該製造方法は、アルコール中で反応を行うので、反応温度を低温(約20℃〜50℃)に設定することが可能となり、DMSOなどを使用する従来技術(反応温度約65℃、沸点189℃)と比較して、高温で不安定な化合物にも適用が可能となった。また、従来より低温で反応を行うことができるので、製造コストを下げることができた。
2.当該製造方法は、アルコール中で反応を行うので、従来技術で使用する高価かつ高沸点であり、危険性および毒性の高いDMFを使用しなくてもよい。
3.当該製造方法は、危険なNaHを使用しなくともよい。
4.ワンポット反応であること(すなわち、工程数が少ない)。
5.反応終了後、水を添加し、適当な溶媒(例えば、ヘプタン、トルエン、ジクロロメタン等)で洗浄することで、過剰に用いた化合物[III]および副生成物を容易に除去することができる。さらに、中和によって目的物が結晶化するため、粗結晶を濾過するだけで純度の高い目的物が得られ、カラムクロマトグラフィー等の煩雑な精製工程を必要としない。
6.チロシンのカルボキシル基を保護することなく、高収率で反応を行うことができる。
従って、本発明によると、生産性、汎用性および安全性に優れ、経済的および工業的に有用なO−置換チロシン化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本明細書中で使用する用語を以下に定義する。
【0042】
「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を意味する。
【0043】
「アルキル基」は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝鎖または環状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0044】
「アルコキシ基」は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝鎖または環状のアルコキシ基を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロブトキシ基、ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロへキシルオキシ基などが挙げられる。
【0045】
「アミノ保護基」は、通常用いられるアミノ基の保護基であれば特に限定はなく、例えば、Protective Groups in Organic Synthesis, published by John Wiley and Sons (1980)などに記載のアミノ保護基を用いることができる。
【0046】
「アミノ保護基」は、好ましくは酸により脱保護されるアミノ保護基であり、より好ましくはtert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基であり、特に好ましくはtert−ブトキシカルボニル基およびアセチル基である。
【0047】
「置換されていてもよいアリール基」の「アリール基」は、炭素数6〜10のアリール基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0048】
「アリール基」は、その置換可能な位置に1〜5個の置換基を有していてもよい。
【0049】
「置換基」としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(上記「アルキル基」と同義であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基など)、アルコキシ基(上記「アルコキシ基」と同義であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基など)、ニトロ基、ジメチルアミノ基、アリール基(上記「アリール基」と同義であり、例えば、フェニル基など)などが挙げられる。
【0050】
「置換されていてもよいヘテロ環基」の「ヘテロ環基」は、炭素原子以外に、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される1〜3個のヘテロ原子を含む5〜10員の飽和または不飽和のへテロ環基を意味し、例えば、ピロリジニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオフラニル基、ピペリジニル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピリジニル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基などが挙げられる。
【0051】
「ヘテロ環基」は、その置換可能な位置に1〜4個の置換基を有していてもよい。
【0052】
「置換基」としては、アルキル基(上記「アルキル基」と同義であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロへキシル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基などの炭素数2〜6のアルケニル基)、アリール基(上記「アリール基」と同義であり、例えば、フェニル基など)などが挙げられる。
【0053】
「置換されていてもよいヘテロ環基」は、好ましくはピリジニル基、特に好ましくはピリジン−2−イル基である。
【0054】
上記式[I]または[II]で表される化合物において、Rの位置は特に限定されない。
【0055】
nは、0〜4の整数を示し、好ましくは0、1または2、より好ましくは0または1であり、特に好ましくは0である。
【0056】
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはヒドロキシ基を示し、好ましくはハロゲン原子またはヒドロキシ基である。
【0057】
で示されるハロゲン原子として、臭素原子が特に好ましい。
【0058】
およびRは、それぞれ独立して、水素原子またはアミノ保護基を示す。本発明においてRおよびRがともに水素原子である場合は除く。
【0059】
またはRで示されるアミノ保護基は、特に限定はなく、好ましくは酸により脱保護されるアミノ保護基であり、より好ましくはtert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、アセチル基、ベンゾイル基およびベンジル基からなる群から選択される。特にtert−ブトキシカルボニル基およびアセチル基が好ましい。
【0060】
は、置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいヘテロ環基を示し、好ましくは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよいピリジニル基(例えば、ピリジン−2−イル基など)であり、より好ましくはフェニル基またはピリジニル基であり、特に好ましくはフェニル基またはピリジン−2−イル基である。
【0061】
Xは、ハロゲン原子、トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を示し、好ましくはハロゲン原子であり、より好ましくは塩素原子または臭素原子である。
【0062】
本発明を以下のスキームを参照しながらさらに詳細に説明する。
【0063】
【化7】

【0064】
上記スキームにおいて、各記号は上記に定義の通りである。
【0065】
本願発明は、アルコール中、塩基の存在下、式[II]で表される化合物(以下、化合物[II]と省略して記載する場合もある。)またはその塩と、式[III]で表される化合物(以下、化合物[III]と省略して記載する場合もある。)またはその塩とを反応させることを特徴とする、式[I]で表される化合物(以下、化合物[I]と省略して記載する場合もある。)またはその塩の製造方法に関する。
【0066】
化合物[I]または[II]の塩としては、例えば、無機塩基との塩[例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩など)、アンモニウム塩など];有機塩基との塩[例えば、有機アミン塩(例えば、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩など)など];無機酸付加塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩など);有機カルボン酸もしくはスルホン酸付加塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩など);塩基性もしくは酸性アミノ酸(例えば、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸など)との塩などが挙げられる。
【0067】
化合物[I]および[II]におけるα炭素原子の立体(絶対配置)は特に限定されず、L体、D体、ラセミ体等のいずれでもよいが、化合物[I]および[II]はL体であることが望ましい。
【0068】
また、α炭素原子以外に不斉炭素原子が存在する場合、その不斉炭素原子に起因する鏡像異性体及びジアステレオマーが存在し得るが、本発明はこれらすべての異性体およびその混合物を包含する。
【0069】
化合物[II]またはその塩は、チロシンのアミノ基を保護するなどの当業者に公知の方法によって製造することができる。
【0070】
化合物[II]またはその塩としては、N−Boc−チロシンおよびN−Ac−チロシンが好ましく(Bocはtert−ブトキシカルボニル基を示し、Acはアセチル基を示す)、経済性の面からN−Ac−チロシンがより好ましい。
【0071】
化合物[III]の塩としては、上記化合物[I]および[II]の塩で列挙した塩等が挙げられる。
【0072】
化合物[III]またはその塩としては、塩化ベンジル、臭化ベンジル、塩化2−ピコリル 塩酸塩が好ましい。
【0073】
化合物[III]の使用量は、化合物[II]またはその塩1モルに対して、1〜2モル、好ましく1.1〜1.4モルである。
【0074】
「アルコール」としては、炭素数1〜4の直鎖または分枝鎖のアルコールが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノールなどが挙げられる。
【0075】
経済性、汎用性の観点から、メタノールおよびエタノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0076】
アルコールの使用量は、例えば、化合物[II]またはその塩1kgに対して、1L〜10L、好ましくは2L〜8L、より好ましくは3L〜5Lである。
【0077】
塩基としてアルカリ金属アルコキシドが好ましい。
【0078】
アルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムと、上記アルコールとから調製されるナトリウムアルコキシドが好ましく、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0079】
経済性、汎用性、取扱いの観点から、ナトリウムメトキシドおよびナトリウムエトキシドが好ましく、ナトリウムメトキシドが特に好ましい。
【0080】
本発明に用いるアルカリ金属アルコキシドのアルコール部分は、反応で用いるアルコール溶媒と同一であることが望ましい。
【0081】
塩基の使用量は、化合物[II]またはその塩1モルに対して、2〜5モル、好ましくは2〜4モル、より好ましくは2〜3モルである。
【0082】
また、化合物[III]が塩の場合、(化合物[III]のモル数)×(化合物[III]において塩を形成する官能基の数)モルの塩基がさらに必要である。
【0083】
例えば、化合物[III]が、塩化ピコリル等のヘテロ環メチレンハライドの塩(例えば、塩化2−ピコリル 塩酸塩等)等である場合、本発明の反応に際しては、該塩を遊離体とする必要はなく、適当な量の塩基を加えることにより、そのまま反応に使用することができる。
【0084】
経済性、汎用性の観点から、アルコールとしてメタノールまたはエタノール、塩基としてナトリウムメトキシドまたはナトリウムエトキシドを使用することが好ましい。アルコールとしてメタノール、塩基としてナトリウムメトキシドを使用することが特に好ましい。
【0085】
本発明において、Rが置換されていてもよいアリール基であり、Xが塩素原子である場合は、反応活性化による反応時間の短縮の観点から、n−BuNI(テトラブチルアンモニウムヨージド)、KIおよびNaIなどの促進剤を添加することが好ましい。
【0086】
促進剤の使用量は、化合物[II]またはその塩1gに対して、0.01〜0.5g、好ましくは0.01g〜0.2g、より好ましくは0.01〜0.1gである。
【0087】
反応温度は、通常0℃〜50℃、好ましくは20℃〜50℃、より好ましくは20℃〜40℃である。
【0088】
反応時間は、通常1時間〜120時間、好ましくは3時間〜72時間、より好ましくは3時間〜24時間である。
【0089】
反応収率は、75〜95%であり、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて測定することができる。
【0090】
HPLC条件
カラム:ODS−2(15cm×4.6φmm、ジーエルサイエンス(株)製)
溶離液:0.03M KHPO水溶液:アセトニトリル=90:10→25:75(120分)
流速:1mL/分
検出波長:210nm
温度25℃
【0091】
反応の後処理は、当業者に公知の通常の方法でよく、単離精製は、必要に応じて、結晶化、再結晶化、蒸留、分液、シリカゲルクロマトグラフィー、分取HPLC等の慣用の方法を適宜選択し、また組み合わせて行えばよい。晶析(結晶化、再結晶化)が好ましい。
【0092】
[実施例]
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0093】
N−Boc−チロシン(281mg,1.0mmol)のメタノール(0.5mL)溶液に、28%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液(0.42mL,2.1mmol)、塩化ベンジル(115μL,1.4mmol)およびテトラブチルアンモニウムヨージド(28mg)を加え、40℃で24時間撹拌した。その後、水(2mL)を添加して均一系にし、HPLCにて分析した(変換率89%)。さらにトルエン(0.5mL)で水溶液を洗浄した後、水溶液を塩酸にて中和して固体を析出させ、その固体を濾過・乾燥させ目的のN−Boc−(O−ベンジル)チロシン(312mg,収率84%)が得られた。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ:1.41(s,3H),2.86−3.13(m,2H),4.53(m,1H),5.01(s,2H),6.35−7.41(m,9H).
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ:176.51,157.99,136.99,130.40,128.58,127.96,127.48,115.00,80.32,70.03,36.93,28.30.
MS(ESI),m/z 370[M−H]
【実施例2】
【0094】
N−Boc−チロシン(281mg,1.0mmol)のメタノール(0.5mL)溶液に、28%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液(0.42mL,2.1mmol)および臭化ベンジル(162μL,1.4mmol)を加え、40℃で3時間撹拌した。その後、水(2mL)を添加して均一系にし、HPLCにて分析したところ、目的のN−Boc−(O−ベンジル)チロシン(353mg,変換率95%)が確認された。
【実施例3】
【0095】
N−Ac−チロシン(223mg,1.0mmol)のメタノール(0.5mL)溶液に、28%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液(0.42mL,2.1mmol)、塩化ベンジル(99μL,1.2mmol)およびテトラブチルアンモニウムヨージド(22mg)を加え、40℃で24時間撹拌した。水(4mL)を添加して均一系にしてHPLCにて分析したところ、目的のN−Ac−(O−ベンジル)チロシン(255mg,変換率81%)が確認された。さらにトルエン(0.5mL)で水溶液を洗浄した後、水溶液を塩酸にて中和して固体を析出させ、その固体を濾過・乾燥し、目的のN−Ac−(O−ベンジル)チロシン(244mg,収率78%)が得られた。
H−NMR(400MHz,DMSO−d)δ:1.78(s,3H),2.73−2.98(m,2H),4.35(m,1H),5.05(s,2H),6.90−7.44(m,9H),8.13(d,1H).
13C−NMR(100MHz,DMSO−d)δ:1730.56,169.55,157.37,137.55,130.43,130.15,128.76,128.13,128.03,114.82,69.49,54.07,36.32,22.70.
MS(ESI),m/z 314[M+H]
【実施例4】
【0096】
N−Boc−チロシン(281mg,1.0mmol)のメタノール(0.5mL)溶液に、28%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液(0.8mL,4.0mmol)および塩化2−ピコリル 塩酸塩(230mg,1.4mmol)を加え、25℃で24時間撹拌した。その後、水(3mL)を添加して均一系にしてHPLCにて分析したところ、目的のN−Boc−(O−2−ピコリル)チロシン(346mg,変換率93%)が確認された。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ:1.39(s,3H),3.18−3.22(m,2H),4.34(m,1H),5.16(s,2H),6.80−8.59(m,9H).
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ:168.45,157.56,148.95,136.89,130.84,122.52,121.34,114.79,114.43,77.35,70.41,58.85,28.42,23.98.
MS(ESI),m/z 373[M+H]
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の製造方法は、生産性、汎用性および安全性に優れるため、O−置換チロシン化合物の工業的な製造に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール中、塩基の存在下、式[II]:
【化1】


[式中、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはヒドロキシ基を示し、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子またはアミノ保護基を示し、
nは、0〜4の整数を示す。
ただし、RおよびRがともに水素原子である場合を除く。]
で表される化合物またはその塩と、式[III]:
【化2】


[式中、
は、置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいヘテロ環基を示し、
Xは、ハロゲン原子、トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を示す。]
で表される化合物またはその塩とを反応させることを特徴とする、式[I]:
【化3】


[式中、R、R、R、Rおよびnは上記に定義の通りである。]
で表される化合物またはその塩の製造方法。
【請求項2】
アルコールが、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびtert−ブタノールからなる群から選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アルコールがメタノールである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
塩基がアルカリ金属アルコキシドである請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
アルカリ金属アルコキシドが、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシドおよびナトリウムtert−ブトキシドからなる群から選択される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属アルコキシドがナトリウムメトキシドである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
メタノール中、ナトリウムメトキシドの存在下で反応を行うことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
nが0である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
またはRで示されるアミノ保護基が酸により脱保護されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
またはRで示されるアミノ保護基が、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、アセチル基、ベンゾイル基およびベンジル基からなる群から選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
Xがハロゲン原子である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
ハロゲン原子が塩素原子または臭素原子である、請求項11に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−1882(P2006−1882A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180265(P2004−180265)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】