説明

PINダイオード

【課題】 アバランシェ耐量を向上させることにより、アバランシェ降伏電圧以上の逆方向バイアスの印加による破損を抑制し、低損失化を実現させたPINダイオードを提供する。
【解決手段】 n型半導体基板10上にエピタキシャル成長させたn型半導体からなる高抵抗半導体層11と、高抵抗半導体層11の表面から不純物を選択的に拡散させることによって形成されたp型半導体層からなるアノード領域13とを有する半導体装置であって、アバランシェ降伏電圧が200ボルト以上250ボルト以下であり、アノード領域13を構成するp型半導体層の厚さWが6μm以上かつ8μm以下であるように構成される。このような構成により、アバランシェ耐量を著しく向上させることができるので、アバランシェ降伏電圧を低下させ、低損失化を実現することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PIN構造を有するダイオードに係り、さらに詳しくは、第一導電型半導体層上に高抵抗半導体層が形成され、この高抵抗半導体層への不純物拡散によって第二導電型半導体領域が形成された半導体整流素子の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接機、光源装置などに電力を供給する電力変換装置は、例えば、インバータ回路、トランス及び整流回路により構成される。この種の電力変換装置の整流回路には、高速応答性、高耐圧性が求められることから、整流素子としてPINダイオードが採用されている。PINダイオードは、p型半導体とn型半導体の間に高抵抗半導体を介在させた半導体デバイスであり、高周波特性及び耐圧特性に優れている。このようなPINダイオードは、例えば、n型半導体基板上に低濃度のn型不純物を含む高抵抗半導体(n型半導体)からなる薄膜をエピタキシャル成長させ、この薄膜の一主面からp型不純物を選択的に拡散させることによって形成される。
【0003】
一般に、ダイオードは、逆バイアスの印加電圧を増大させていくと、所定電圧に達した時点で急激に電流が流れはじめる性質を有しており、このような現象はアバランシェ降伏として良く知られている。アバランシェ降伏が発生した場合、ダイオードに大電流が流れ、当該ダイオードは直ちに破壊されてしまう。そこで、PINダイオードは、p型半導体及びn型半導体間に高抵抗半導体からなるドリフト領域を設けることによって、アバランシェ降伏が生じる降伏電圧を増大させ、高耐圧性を実現している。
【0004】
このようなPINダイオードの降伏電圧を高くするためには、ドリフト領域をより厚く形成すればよい。しかしながら、ドリフト領域を厚くすれば、順バイアス時におけるダイオードの抵抗(オン抵抗)が増大し、オン時の電力損失が増大してしまうという問題があった。また、ドリフト領域が厚くなれば、順バイアス時にドリフト領域に蓄積されるキャリアの増大によって、ターンオフ時に流れるリカバリ電流が増大し、スイッチング損失が増大するという問題もあった。
【0005】
一方、ドリフト領域の厚さを変化させることなく、PINダイオードの降伏電圧を高める方法が従来から知られている(例えば特許文献1)。特許文献1に記載されたPINダイオードは、p型半導体からなるアノード領域の周囲にp型半導体からなる環状のガードリング領域を形成することにより、従来のPINダイオードより大きなアバランシェ降伏電圧が得られる構造を実現している。また、n型半導体としての基板の厚さを変化させ、当該基板からアノード領域の平坦部までの距離が、ガードリング領域までの距離よりも短くなるように形成され、アノード領域の湾曲部における電界強度を緩和し、より大きな降伏電圧が得られる構造となっている。この様な構造をPINダイオードに採用し、アバランシェ降伏電圧が従来のものと同等となるように設計すれば、アノード領域及びn型半導体基板間に形成されるドリフト領域の厚さを薄くすることができるので、PINダイオードにおける電力損失を低減することができる。
【特許文献1】特開平11−40822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電力変換装置の高周波化、大容量化が進み、整流回路を構成するPINダイオードに更なる低損失化が求められている。しかしながら、上述した通り、PINダイオードにおける損失を低減するためにドリフト領域を薄くすれば、降伏電圧も低下して耐圧特性が悪化するという問題があった。また、特許文献1に示されているようなガードリング領域の形成等によって耐圧特性を向上させ、損失を低減するのには限界があった。つまり、従来の方法によるPINダイオードの改良は限界に近づいており、PINダイオードの更なる低損失化を実現することは容易ではなかった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、アバランシェ耐量を向上させることにより、過渡状態におけるアバランシェ降伏電圧以上の逆方向バイアスの印加による破損を抑制し、低損失化を実現させたPINダイオードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の本発明によるPINダイオードは、第一導電型半導体層上に高抵抗半導体層が形成され、上記高抵抗半導体層の一主面から不純物を選択的に拡散させて第二導電型半導体領域を形成したPINダイオードであって、アバランシェ降伏電圧を200ボルト以上250ボルト以下とし、かつ、上記第二導電型半導体層の厚さを6μm以上8μm以下となるように構成される。
【0009】
一般に、PINダイオードのアバランシェ降伏電圧は、P型半導体層及びN型半導体層間に形成されたI型半導体層の厚さと、当該I型半導体層における不純物濃度とに基づいて理論的に推測することができる。上記PINダイオードでは、この様なアバランシェ降伏電圧が200ボルト以上かつ250ボルト以下となり、第二導電型半導体層の厚さが6μm以上かつ8μm以下となるように形成される。本願発明者らの実験によれば、この様に構成することにより、アバランシェ耐量が著しく増大することが判明した。アバランシェ耐量は、アバランシェ降伏時における降伏電流の時間積分で表されるエネルギーであり、アバランシェ耐量を増大させることにより、過渡状態における降伏電圧以上の逆方向バイアスの印加による破損を抑制することができる。
【0010】
第2の本発明によるPINダイオードは、上記構成に加えて、上記第二導電型半導体領域を取り囲む環状領域として、上記高抵抗半導体層の上記主面から不純物を選択的に拡散させて形成された耐圧構造領域が形成されている。このような耐圧構造領域を有することにより、降伏電圧を増大させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来のPINダイオードに比べて、アバランシェ耐量を増大させたPINダイオードを実現することができるので、過渡状態におけるアバランシェ降伏電圧以上の逆方向バイアスの印加による破損を抑制することができる。従って、同じ回路に用いられる整流素子として、従来のPINダイオードよりもアバランシェ降伏電圧のより低いものを使用することができるので、順方向バイアス時の電力損失やスイッチング損失を低減させることができる。また、耐圧構造領域を有することにより、アバランシェ降伏電圧を低下させることなく、順方向バイアス時の電力損失やスイッチング損失を更に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態によるPINダイオードの一構成例を示した図である。このPINダイオード1は、半導体基板10、高抵抗半導体層11、カソード電極21、酸化膜22及びアノード電極23により構成されるPIN構造を有する半導体ダイオードである。高抵抗半導体層11には、オートドープ部12と、アノード領域13と、耐圧構造領域14a及び14bが形成され、いずれの領域も形成されていない領域がドリフト領域15となっている。
【0013】
半導体基板10は、n型不純物を含有するn型半導体からなる単結晶基板であり、例えば、n型不純物としてヒ素(As)が含まれるシリコンウエハを用いることができる。高抵抗半導体層11は、半導体基板10上に形成された層であり、半導体基板10よりも不純物濃度の低いn型半導体を半導体基板10上にエピタキシャル成長させることによって形成される。この高抵抗半導体層11内には、不純物拡散によってオートドープ部12と、アノード領域13と、耐圧構造領域14a及び14bが形成されている。
【0014】
半導体基板10の不純物が接合面を介して高抵抗半導体層11内へ拡散する際に形成されるオートドープ部12が、半導体基板10との境界面に沿って高抵抗半導体層11内に形成される。このオートドープ部12の厚さをWとする。
【0015】
アノード領域13は、高抵抗半導体層11の表面からボロン(B)などのp型不純物を選択的に拡散させることによって形成されたp型半導体からなる領域である。このアノード領域13は、高抵抗半導体層11上にパターニングされたフォトレジストを形成した状態で露出している高抵抗半導体層11の表面から不純物を拡散させることによって、上記表面に隣接して高抵抗半導体層11内に形成されたp型半導体層であり、半導体基板10と対向するように形成されており、PIN構造のP層に相当する。また、アノード領域13は、その中央部では厚さWが一定の平坦な形状からなる一方、周縁部の半導体基板10側は曲面形状となり、外側に向かって厚さが減少していく。このような周縁部の曲面形状は、厚さWが大きくなるほど緩やかな形状となる。このため、アノード領域13の厚さWを大きくすれば、逆バイアス時にアノード領域13の周縁部に形成される空乏層の歪みを緩和し、当該周縁部付近への電界集中を抑制することができる。
【0016】
耐圧構造領域14a及び14bは、アノード領域13と同様の方法により、高抵抗半導体層11内に形成されたp型半導体層であり、アノード領域13と接することなく、その周囲を取り囲む環状領域として形成されている。耐圧構造領域14aは、アノード領域13を取り囲むように形成され、耐圧構造領域14bは、さらに耐圧構造領域14aを取り囲むように形成されている。また、耐圧構造領域14a及び14bは、いずれも半導体基板10と対向するように形成されている。この様な耐圧構造領域14a及び14bは、フィールドリング又はガードリングと呼ばれ、逆バイアス時にアノード領域13の周縁部に形成される空乏層の歪みを緩和し、当該周縁部付近への電界集中を抑制することができる。なお、このような耐圧構造領域の数、アノード領域13との間隔、耐圧構造領域14a,14b間の間隔は、必要とされる降伏電圧の大きさやアバランシェ耐量の大きさに基づいて決定される。
【0017】
ドリフト領域15は、半導体基板10上にエピタキシャル成長させた高抵抗半導体層11のうち、オートドープ部12、アノード領域13、並びに、耐圧構造領域14a及び14bを除く領域である。半導体基板10及びアノード領域13に挟まれた厚さWのドリフト領域15は、PIN構造のI層に相当する。
【0018】
カソード電極21は、カソード端子が接続される電極であり、半導体基板10に形成された導電膜からなる。カソード電極21は、高抵抗半導体層11とは反対側の半導体基板10の一主面全体に形成されている。一方、アノード電極23は、アノード端子が接続される電極であり、アノード領域13に形成された導電膜からなる。酸化膜22は、高抵抗半導体層11上に形成された絶縁膜であり、高抵抗半導体層11は、酸化膜22及びアノード電極23によって保護されている。酸化膜22は、アノード領域13を露出させる開口を有しており、アノード電極23は、この露出しているアノード領域13上に形成される。また、アノード電極23は、その周辺部が酸化膜22と重複するように形成されている。
【0019】
図2は、図1に示したPINダイオードについての実験結果を示した図であり、アノード領域13の厚さWを異ならせて測定されたアバランシェ耐量の特性曲線B1と、降伏電圧の特性曲線B2が示されている。なお、この図では、横軸がアノード領域13の厚さW(μm)を示し、左側の縦軸がアバランシェ耐量EAS(mJ)を示し、右側の縦軸がアバランシェ降伏電圧(V)を示している。また、この測定には高抵抗半導体層11の厚さが20μm、オートドープ部12の厚さWが約2μmのPINダイオードを使用している。
【0020】
この実験では以下に示す測定結果が得られた。すなわち、アバランシェ耐量は、厚さWが5μm以下の場合には0.1mJ以下であるのに対し、厚さWが6μmでは約40mJ、厚さWが8μm及び10μmでは約260mJとなっている。特性曲線B1は、これらの測定結果から得られた曲線であり、厚さWを5μmから10μmまで変化させれば、アバランシェ耐量が0.1mJから260mJまで単調に増加していくことがわかる。また、厚さWが6μm以下の範囲では、アバランシェ耐量は小さな値であり、厚さWが増加しても緩やかに増加するのみであるが、Wが6μmを越えるとアバランシェ耐量は急激に増加し、Wが8μmに達するとほぼ飽和することがわかる。
【0021】
一方、アバランシェ降伏電圧は、厚さWが5μmでは約270V、厚さWが6μmでは約260V、厚さWが8μmでは約210V、厚さWが10μmでは約170Vとなっている。特性曲線B2は、これらの測定結果から得られた曲線であり、厚さWが5μm〜10μmまでの範囲で、アバランシェ降伏電圧は280Vから180Vまで単調に減少していることがわかる。
【0022】
このような実験結果から、高抵抗半導体層11の厚さを一定にして、アノード領域13の厚さWを厚くしていくと、アバランシェ耐量が著しく増大することが判明した。この様な現象が生ずる理由としては、厚さWを厚くすることによって、アノード領域13を構成するp型半導体層の周縁部の曲率半径が大きくなり、逆方向バイアス時における周縁部付近の電界集中が抑制されたことが考えられる。
【0023】
また、アバランシェ降伏による電流がドリフト領域15を流れはじめると、電界集中はpn接合部からn接合部へ移動すると考えられ、ドリフト領域15の厚さWを薄くしてドリフト領域15を電流が流れやすくなれば、電界集中のn接合部への移動が促進されると考えられる。このような要因によって、従来のPINダイオードに比べてアノード領域13の周縁部への電界集中が大幅に緩和され、アバランシェ降伏が発生したとしても、より広いエリアで電界を分担することができるために、従来のPINダイオードに比べて、アバランシェ耐量が著しく増大していると考えられる。
【0024】
また、このような特性曲線B1及びB2から、アノード領域13の厚さWが6μm以上かつ8μm以下となるPINダイオードは、アバランシェ降伏電圧が200V以上かつ250V以下となる範囲において、十分に大きなアバランシェ耐量が得られることがわかる。
【0025】
次に、アバランシェ降伏電圧、ドリフト領域15の厚さW及びドリフト領域15の不純物濃度との関係について説明する。一般に、アバランシェ降伏電圧は、ドリフト領域15の厚さWと、このドリフト領域15における不純物濃度とに基づいて、所定の計算式を用いて理論的に推測することができる。この様な計算式に基づいて、上述したアバランシェ耐量及び降伏電圧を実現するために要求されるドリフト領域15の厚さWと、ドリフト領域15における不純物濃度について説明する。
【0026】
図3は、PINダイオードの降伏電圧の一例を示した図であり、n層の不純物濃度とアバランシェ降伏電圧との関係を示す特性曲線A1〜A3が示されている。この図では、横軸がドリフト領域15の不純物濃度を示し、縦軸がアバランシェ降伏電圧を示している。また、横軸及び縦軸は、いずれも対数目盛となっている。
【0027】
各特性曲線A1〜A3は、いずれも上に凸の曲線であり、降伏電圧をVBD、電子の電荷をq、絶縁破壊電界をEc、ドリフト領域15の不純物濃度をN、n層の厚さをW、シリコンの比誘電率をεとして、次式(1)及び(2)により表される。
【数1】

【0028】
特性曲線A1は、ドリフト領域15の厚さWが12.0(μm)である場合、特性曲線A2は、厚さWが11.0(μm)である場合、特性曲線A3は、厚さWが10.0(μm)である場合をそれぞれ示している。これらの特性曲線A1〜A3は、いずれも不純物濃度Nが2×1015(1/cm)付近で直線A4に接している。
【0029】
この直線A4は、ドリフト領域15の厚さWが無限大である場合のグラフであり、次式(3)により表される。
【数2】

【0030】
各特性曲線A1〜A3において、降伏電圧VBDは、不純物濃度Nが4×1014(1/cm)付近までは200V〜260Vの範囲で緩やかに増加し、不純物濃度Nが1×1015(1/cm)を越えると急激に減少している。また、不純物濃度Nが2×1015(1/cm)までの範囲では、ドリフト領域15の厚さWが大きくなるほど、降伏電圧VBDも大きくなっているが、不純物濃度Nが2×1015(1/cm)を越えると、ドリフト領域15の厚さWが大きくなるほど、降伏電圧VBDは小さくなっている。
【0031】
これらの特性曲線A1〜A3から、アバランシェ降伏電圧が200Vから250Vまでの範囲内とするためには、例えば、ドリフト領域15の不純物濃度Nを1×1014から1.5×1015(1/cm)までの範囲とし、厚さWを9.5から11μmまでの範囲とすればよいことがわかる。つまり、この様な条件を満たしていれば、アバランシェ降伏電圧が200V以上かつ250V以下となる範囲内で、十分大きなアバランシェ耐量が得られることがわかる。
【0032】
図4は、アノード領域13の厚さWの異なる3種類のPINダイオードについて理論的に推測されるアバランシェ降伏電圧を示した図である。図中の「エピタキシャル層の厚み」は、高抵抗半導体層11の厚さであり、いずれの場合にも20μmとなっている。「P拡散深さ」は、アノード領域13の厚さWであり、W=6.0,8.0,10.0(μm)の3通りの厚さWについて降伏電圧が算出されている。「N拡散深さ」は、オートドープ部12の厚さWであり、いずれの場合にもW=2.0(μm)となっている。「N層の厚み」は、半導体基板10及びアノード領域13間におけるドリフト領域15の厚さW、つまり、オートドープ部12からアノード領域13までの距離であり、厚さWに応じて、W=12.0,10.0,8.0(μm)となっている。
【0033】
P拡散深さ(アノード領域13の厚さ)W=6.0(μm)の場合、降伏電圧の理論値は275Vとなる。一般に、PINダイオードの定格耐圧が200Vである場合、20%程度のマージンを確保し、さらに理論計算誤差等を考慮すれば、降伏電圧が200×1.20×1.1=265Vとなるように設計される。しかしながら、後述するような整流回路などに使用されるPINダイオードの場合、出力が100Vであったとしても、サージ電圧を考慮すれば、上記降伏電圧を越える逆方向バイアスが印加され、破損する恐れがあった。このため、従来は、定格出力100Vに対し、耐圧400V以上のPINダイオードが用いられることが多かった。
【0034】
P拡散深さ(アノード領域13の厚さ)W=8.0(μm)の場合、降伏電圧の理論値は235Vとなり、W=6.0(μm)の場合よりも更に小さくなっている。しかしながら、図2に示した通り、P拡散深さWが8.0(μm)の場合、アバランシェ耐量は十分に大きいことから、PINダイオードにサージ電圧が加えられ、一時的に降伏電圧を越える逆方向バイアスが印加されても破損することはない。従って、これまで耐圧400VのPINダイオードが用いられていた回路に、耐圧200VのPINダイオードを使用することが可能になった。
【0035】
一方、P拡散深さ(アノード領域13の厚さ)W=10.0(μm)の場合には、降伏電圧の理論値は195Vとなる。この様なPINダイオードは、降伏電圧が200Vよりも小さく、定格耐圧200Vが要求される回路に用いた場合、所望の出力が得られず、耐圧不足となる。
【0036】
このような検討結果からも、アバランシェ降伏電圧が200V以上かつ250V以下であり、かつ、アノード領域13の厚さWが6μm以上かつ8μm以下であるPINダイオードは、定格電圧200Vの整流素子として好適であることがわかる。
【0037】
また、このようなPINダイオードを用いれば、アバランシェ耐量を著しく増大させることができるため、同じ回路に使用される整流素子として、従来のものよりも降伏電圧が約25〜50%程度小さなPINダイオードを用いることができる。従って、順方向バイアス時の電力損失及びスイッチング損失を低減することができる。
【0038】
順方向降下電圧は、主にドリフト領域15の厚さWによって決定され、降下電圧値が小さくなるほどオン抵抗も小さくなり、順方向バイアス時の電力損失が低減する。また、逆回復時間trrは、バイアスが順方向から逆方向に変化した際に、逆方向に流れる電流値がゼロとなるまでに要する時間であり、ドリフト領域15の厚さWと関係があり、逆回復時間trrが短くなるほどスイッチング特性が向上し、スイッチング損失が低減する。
【0039】
例えば、定格電圧200V、定格電流100A、スイッチング周波数40kHzの回路に使用する場合、従来型のPINダイオードでは、300V程度のサージ電圧が印加されるケースが考えられることから、降伏電圧が400V程度のPINダイオードを使用する必要がある。この様なPINダイオードの順方向降下電圧は、1.00V、逆回復時間trrは、120ns、電力損失及びスイッチング損失の和は110Wとなる。
【0040】
これに対し、本実施の形態によるPINダイオードを使用すれば、降伏電圧は200V程度で良く、順方向降下電圧は0.90V、逆回復時間trrは70ns、電力損失及びスイッチング損失の和は85Wとなる。従って、従来設計に比べて、電力損失及びスイッチング損失の和を30%程度低減することができる。
【0041】
図5の(a)〜(d)は、本発明の実施の形態によるPINダイオードにおいて観測されたアバランシェ破壊の様子を従来のPINダイオードの場合と比較して示した図である。図5(a)は、図1のPINダイオードをアノード電極23側から見た平面図である。アノード電極23には、2本の配線ケーブル31が固着され、アノード電極23の周囲には酸化膜22が形成されている。各配線ケーブル31は、その端部がアノード電極23の中央部において半田付けされている。なお、このPINダイオードは、上述した通り、図1に示した構成を有し、アバランシェ降伏電圧が200V以上250V以下、かつ、アノード領域13の厚さWが6μm以上かつ8μm以下となるように構成されているものとする。
【0042】
図5(b)は、アバランシェ耐量の小さな従来のPINダイオードを用いて観測されたアバランシェ破壊の様子を示した図であり、図5(a)のアノード電極23の左上の角部が拡大して示されている。この従来のPINダイオードは、アバランシェ耐量が10μJ(マイクロジュール)程度であり、このアバランシェ耐量を越えるエネルギーを与えると、アノード領域13の周縁部に相当するアノード電極23の周縁部に破壊痕が形成される。
【0043】
図5(c)及び(d)は、本発明の実施の形態によるPINダイオードを用いて観測されたアバランシェ破壊の様子を示した図である。図中の(c)は、(a)のアノード電極23の左下部が拡大して示されている。また、図中の(d)は、(a)のアノード電極23の左上の角部が拡大して示されている。これらのPINダイオードは、アバランシェ耐量が10mJ(ミリジュール)以上であり、このアバランシェ耐量を越えるエネルギーを与えると、アノード電極23の周縁部よりも中央部側にアバランシェ破壊による破壊痕が形成される。
【0044】
この様な観測結果から、ドリフト領域Wを薄く形成することによってアバランシェ耐量を大きくしたPINダイオードでは、アバランシェ降伏時の電界集中が、アノード領域13を構成するアノード領域13の周縁部からn接合部側に移動し、さらにアバランシェ降伏時の電流密度がアノード周縁部よりも中央部においてより大きくなっていると考えられる。つまり、本発明の実施の形態によるPINダイオードは、アバランシェ降伏時におけるドリフト領域15内の電界強度が、アノード周縁部よりも中央部の方が大きくなっていると考えられる。
【0045】
図6は、本発明の実施の形態によるPINダイオードを使用した電源装置の一構成例を示した図であり、PFC回路110、インバータ回路120及び整流回路130からなる電源装置100が示されている。
【0046】
この電源装置100は、光源装置に電力供給を行うための電力変換回路であり、トランス105の1次側には、誘導素子103、PFC回路110、容量素子104及びインバータ回路120が設けられ、トランス105の2次側には、整流回路130及び誘導素子106が設けられている。本実施の形態では、整流回路130内のFRD(Fast Recovery Diode:高速リカバリーダイオード)131及び132として、本実施の形態によるPINダイオード1が使用されているものとする。
【0047】
PFC(Power Factor Correction:力率改善)回路110は、FRD111及び113と、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)112と、スナバ回路114により構成されている。入力端子101及び102には、整流された直流電力が供給され、この直流電力が誘導素子103を介してFPC回路110に入力され、電圧及び電流の位相が調整される。IGBT112は、ゲート端子に印加される制御信号に基づいてオン又はオフするスイッチング素子であり、IGBT112のスイッチング動作により、電圧及び電流の位相を一致させている。
【0048】
インバータ回路120は、PFC回路110の出力端子に接続された回路であり、PFC回路110からの直流電力を交流電力に変換し、トランス105の1次側端子へ出力している。このインバータ回路120は、2つのIGBT121及び124と、2つのFRD127及び128によって構成される。また、入力端子間には、平滑コンデンサとしての容量素子104が並列接続されている。インバータ回路120では、2つのIGBT121及び124が、スイッチング動作を繰り返すことによって、直流を交流に変換している。
【0049】
FRD113,122,125は、それぞれIGBT112,121,124に対して逆並列に接続される還流用の半導体ダイオードである。これらのFRDは、降伏電圧がIGBTに比べて低く設定されており、IGBTの耐圧を越える電圧がエミッタ端子及びコレクタ端子間に印加された場合に、自身がブレークダウン(降伏)することでIGBTが破損するのを防いでいる。
【0050】
スナバ回路114,123,126は、それぞれFRD113,122,125に印加される逆方向バイアスを低減させるためのサージ電圧吸収回路であり、容量素子及び抵抗素子の直列回路からなる。つまり、FPC回路110やインバータ回路120の各FRDには、サージ電圧吸収のためのスナバ回路が接続され、各FRDに印加されるサージ電圧をその降伏電圧よりも小さくなるようにして、FRDが破壊されるのを防止している。
【0051】
整流回路130は、2つのFRD131及び132によって構成され、トランス105の2次側端子から出力される交流電力を直流電力に変換して出力する回路である。FRD131,132のアノード端子は、トランス105の異なる2次側端子にそれぞれ接続され、カソード端子が互いに接続されるとともに、誘導素子106を介して出力端子107に接続されている。
【0052】
ここで、インバータ回路120の出力段にはトランス105が接続されており、インバータ回路120の負荷は誘導性となっている。このため、インバータ回路120では、スイッチングのたびにサージ電圧が発生し、このサージ電圧が整流回路130に入力され、FRD131及び132には定格出力を越えるサージ電圧が印加される。しかしながら、FRD131及び132には、本実施の形態によるPINダイオード1が用いられているため、アバランシェ耐量が大きく、降伏電圧以上の逆バイアス電圧の印加が許容されるため、スナバ回路を省略することができる。
【0053】
なお、図6では、本発明によるPINダイオードの電源装置100への適用例として、整流回路130を構成するFRDとして使用する場合について説明したが、本発明によるPINダイオードの適用方法は、このような場合に限定されるものではない。例えば、電源装置100のPFC回路110やインバータ回路120のFRDにも適用することができる。また、電源装置以外の装置の整流素子として使用することもできる。なお、本発明によるPINダイオードは、降伏電圧を従来のものよりも低く設定することができ、電力損失やスイッチング損失を低減することができるので、IGBT用のFWD(Flee Wheel Diode)として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態によるPINダイオードの一構成例を示した図である。
【図2】図1のPINダイオードを用いた実験により判明したアバランシェ耐量及び降伏電圧を示した図である。
【図3】PINダイオードの降伏電圧の一例を示した図であり、n層の不純物濃度とアバランシェ降伏電圧との関係が示されている。
【図4】アノード領域13の厚さWの異なる3種類のPINダイオードについて理論的に推測されるアバランシェ降伏電圧を示した図である。
【図5】本発明の実施の形態によるPINダイオードにおいて観測されたアバランシェ破壊の様子を従来例の場合と比較して示した図である。
【図6】本発明の実施の形態によるPINダイオードを使用した電源装置の一構成例を示した図である。
【符号の説明】
【0055】
1 PINダイオード
10 半導体基板
12 オートドープ部
13 アノード領域
14a,14b 耐圧構造領域
15 ドリフト領域
21 カソード電極
22 酸化膜
23 アノード電極
100 電源装置
110 FPC回路
120 インバータ回路
130 整流回路
131,132 FRD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一導電型半導体層上に高抵抗半導体層が形成され、上記高抵抗半導体層の一主面から不純物を選択的に拡散させて第二導電型半導体領域を形成したPINダイオードにおいて、アバランシェ降伏電圧を200ボルト以上250ボルト以下とし、かつ、上記第二導電型半導体層の厚さを6μm以上8μm以下としたことを特徴とするPINダイオード。
【請求項2】
上記第二導電型半導体領域を取り囲む環状領域として、上記高抵抗半導体薄層の上記主面から不純物を選択的に拡散させて形成された耐圧構造領域を形成したことを特徴とする請求項1に記載のPINダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−38270(P2009−38270A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202506(P2007−202506)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)