説明

PINダイオード

【課題】 アバランシェ耐量を向上させたPINダイオードを安価に提供することを目的とする。
【解決手段】 N半導体層1及びN半導体層2からなる半導体基板11と、N半導体層2の外面に対する選択的な不純物拡散により形成されたP型のアノード領域15と、アノード領域15内のコンタクト領域17cを介してアノード領域15と導通するアノード電極17とを備える。アノード領域15は、4辺が直線部B2からなり、4頂点が曲線部B2からなる略矩形の外縁を有し、コンタクト領域17cの外側に、曲線部B1に沿って延びるN型の非拡散コーナー領域16がそれぞれ形成されている。このため、曲線部B1上の降伏箇所から、アバランシェ電流が、高抵抗の非拡散コーナー領域16を回り込んで流れると、曲線部B1に沿って電圧降下が生じることにより、降伏箇所を直線部B2へ移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PIN(P Intrinsic N)ダイオードに係り、さらに詳しくは、アバランシェ耐量を向上させるためのPINダイオードの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
N型半導体層からなる半導体基板の一方の主面上にカソード(cathode)電極が形成され、他方の主面にP型半導体からなる矩形形状のアノード(anode)領域が形成された半導体整流素子として、PINダイオードがある。PINダイオードは、N型半導体層が、N半導体層と、N半導体層よりも不純物濃度が低いN半導体層(真性半導体層)からなり、高抵抗のN半導体層がアノード領域及びN半導体層間に存在することにより、逆方向バイアスに対して良好な耐圧特性を得ている。
【0003】
逆方向バイアスが印加された際に生じる降伏現象として、アバランシェ(Avalanche)降伏(電子雪崩降伏)がある。アバランシェ降伏は、降伏電圧(逆耐圧電圧)を越える逆方向バイアスが印加された際に発生し、大きなアバランシェ電流が流れることによる温度上昇によって素子の熱破壊に至る場合がある。逆方向バイアスを印加することによりN半導体層中に生じる空乏層は、アノード領域の中央部に比べてアノード領域の端部の方が広がりにくいことが知られている。つまり、空乏層の厚さは、アノード領域の中央部に比べて端部の方が薄く、電界集中を生じ易いことから、上述したアバランシェ降伏は、アノード領域の端部で発生し易い。そこで、アノード領域を取り囲む環状のP型領域を形成することにより、アノード領域の端部における電界集中を緩和させてアバランシェ耐量を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
図9は、従来のPINダイオード100の構成例を示した平面図であり、アノード領域105が複数のFLR104によって取り囲まれている。図10は、図9のA10−A10切断線による切断面である。図11は、FLR104を有しないPINダイオードの断面図である。
【0005】
PINダイオード100は、半導体基板101の一方の主面上にカソード電極110が形成され、他方の主面にアノード領域105、2つのFLR104及びストッパー領域111が形成されている。FLR(Field Limiting Ring)104は、耐圧を保持するために、アノード領域105の外縁に沿って形成されたP型半導体からなる環状領域であり、ガードリングと呼ばれる。ストッパー領域111は、半導体基板101の周縁部に形成されたN半導体からなる環状領域である。
【0006】
アノード領域105上には、アノード電極106が形成され、アノード領域105の周縁部からストッパー領域111にかけて酸化膜103が形成されている。酸化膜103は、環状領域からなる絶縁膜であり、その内縁部に重複させてアノード電極106が形成され、外縁部に重複させて環状の等電位電極102が形成されている。半導体基板101は、N半導体層101a及びN半導体層101bからなり、N半導体層101bの表面からP型不純物を選択的に拡散させることにより、アノード領域105及びFLR104が形成される。
【0007】
逆方向バイアスの印加によって生じる空乏層112は、FLR104が設けられていない場合、アノード領域105の中央部において平板状(プレーナプレーン)であるのに対し、アノード領域105の端部B11では、円柱状(シリンドリカル)となる。このため、特に曲線部B10の端部B11において電界集中が生じ、アバランシェ降伏が生じ易い。一方、FLR104が設けられている場合、空乏層112は、アノード領域105の端部B11から半導体基板101の外縁に向けて伸びている。すなわち、アノード領域105の端部B11から伸びた空乏層112が、FLR104に当たり、そこからさらに外側に向けて空乏層112が伸展することにより、アノード領域105の端部B11における電界を緩和している。また、各FLR104が、アノード領域105や他のFLR104と電気的には孤立していることから、アノード領域105とFLR104との間やFLR104間では、外側に向けて電圧降下が生じ、FLR104部分では電界集中が起こり難い。
【0008】
一般に、誘導負荷や変圧器の1次側及び2次側の結合による漏れインダクタンス(リーケージインダクタンス)などの外因により発生したサージ電圧が降伏電圧を越えた場合、素子内にアバランシェ電流が流れる。その際、アバランシェ降伏は、素子内で最も電界が集中する場所から発生する。このため、上述したPINダイオード100では、アノード領域105の外縁の曲線部B10において電界集中が生じ、アバランシェ電流が流れることによって熱破壊が生じ易いので、アバランシェ耐量を向上させるのに限界があった。
【0009】
本願発明者らによる先行技術調査によれば、半導体装置のアバランシェ耐量を向上させる技術として、(1)P型不純物の拡散深さを深くする方法、(2)多重拡散やイオン注入により不純物濃度を制御する方法(例えば、特許文献1及び3〜9)、(3)チップ表面に高抵抗膜を形成する方法(例えば、特許文献2及び10)、(4)アノード領域の外側に不純物濃度の低い複数の環状領域を形成する方法(例えば、特許文献1)があることが判った。(1)の方法は、アノード領域を形成するためにP型不純物を拡散させる際の拡散深さを深くすることにより、アノード領域の端部における電界集中を緩和させるものであり、アノード領域の曲線部において電界が集中するのを防止できるものではない。また、拡散深さを深くするには、拡散処理に要する時間が長くなり、生産性が低下してしまうという問題もあった。
【0010】
(2)の方法は、高濃度のP層の表面部分に、リン、ヒ素又はアンチモンなどのN型不純物となりうるイオンをP型不純物の濃度を越えない範囲内で注入することにより、或いは、P型不純物を直接に低濃度でイオン注入することにより、アノード領域の端部に不純物濃度を低下させた高抵抗層を形成するものであり、高抵抗層の存在により、アバランシェ電流が表層に引き付けられるのを防止している。この方法も、アノード領域の曲線部において電界が集中するのを防止できるものではなく、また、イオン注入のプロセスが必要であるので、生産性が低下してしまうという問題があった。(3)の方法は、アノード電極を互いに分離した複数の電極で構成し、電極間を高抵抗膜で接続するものであり、外側の電極ほど電圧降下が大きくなることを利用して、アノード領域の端部における電界集中を緩和させている。この方法も、アノード領域の曲線部において電界が集中するのを防止できるものではなく、また、複数の電極を形成するための複雑なパターニングが必要であり、高抵抗膜を形成するプロセスも必要であるので、生産性が低下してしまうという問題があった。
【0011】
(4)の方法は、アノード領域の外側に不純物濃度の低い複数の環状領域をP層の表面部分で互いに重複するように形成することにより、アノード領域の端部に抵抗層を形成するものである。この方法では、アノード領域の曲線部においてアバランシェ降伏が発生した場合、アバランシェ電流が、抵抗層を介してアノード電極に向って直線的に流れる。その際、アバランシェ電流は、広がりながら流れることから、十分な電圧降下が得られないので、アバランシェ降伏が同じ箇所で連続的に発生することになる。このため、(4)の方法は、アノード領域の曲線部がアバランシェ電流によって熱破壊されるのを防止できるものではない。また、この方法では、低濃度の環状領域を形成するためのイオン注入のプロセスが必要であるので、生産性が低下してしまうという問題もあった。さらに、(4)の方法では、アノード領域の曲線部において、外側へ向けた方向に関する抵抗成分を大きくしようとすれば、より多くの環状領域を形成しなければならず、チップの有効面積が減少してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−270857号公報
【特許文献2】特開2000−22176号公報
【特許文献3】特開2009−164486号公報
【特許文献4】特開2004−247456号公報
【特許文献5】特開2002−246609号公報
【特許文献6】特開2002−203955号公報
【特許文献7】特開平10−335679号公報
【特許文献8】特開平7−221326号公報
【特許文献9】特開平7−221290号公報
【特許文献10】特開平11−040822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、PINダイオードのアバランシェ耐量を向上させることを目的とする。特に、降伏電圧を越える逆方向バイアス時にアノード領域の曲線部への電流集中によって、熱破壊が生じるのを抑制することを目的とする。また、降伏電圧を越える逆方向バイアス時にアノード領域の直線部の1点への電流集中によって、熱破壊が生じるのを抑制することを目的とする。更に、製造工程を複雑化することなく、PINダイオードのアバランシェ耐量を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の本発明によるPINダイオードは、N型の第1半導体層及び不純物濃度が第1半導体層よりも低いN型の第2半導体層からなる半導体基板と、第1半導体層の外面上に形成されたカソード電極と、第2半導体層の外面に対する選択的な不純物拡散により形成されたP型のアノード領域と、上記アノード領域内のコンタクト領域を介して上記アノード領域と導通するアノード電極とを備え、上記アノード領域は、4辺が直線部からなり、4頂点が略円弧状の曲線部からなる略矩形の外縁を有し、上記コンタクト領域の外側に、上記曲線部に沿って延びるN型の非拡散コーナー領域がそれぞれ形成されている。
【0015】
降伏電圧を越える逆方向バイアスをPINダイオードに印加した場合、電界集中が生じ易いアノード領域の曲線部においてアバランシェ降伏が発生し、当該曲線部上の降伏箇所からアノード電極へアバランシェ電流が流れる。このため、上記構成のように、コンタクト領域の外側に上記曲線部に沿って延びる非拡散コーナー領域を形成することにより、アバランシェ電流は、高抵抗の非拡散コーナー領域を回り込んでコンタクト領域へ向かうようにアノード領域内を流れる。つまり、アノード領域の曲線部と、非拡散コーナー領域とによって挟まれた経路をアバランシェ電流が流れる。このとき、当該経路の抵抗成分に応じた電圧降下がアノード領域の外縁に沿って発生し、降伏箇所の電位が上昇することにより、降伏箇所が電位のより低い直線部に向かって移動する。つまり、アノード領域の曲線部上で発生した降伏箇所をアノード領域の外縁に沿って直線部側へ移動させることにより、曲線部上の1点に電流が集中し、熱破壊が発生するのを抑制することができる。
【0016】
第2の本発明によるPINダイオードは、上記構成に加え、上記アノード領域には、上記コンタクト領域の外側に、上記直線部に沿って延びるN型の非拡散サイド領域が形成されている。
【0017】
この様な構成によれば、降伏箇所がアノード領域の曲線部から直線部に移動した後において、アバランシェ電流の一部は、高抵抗の非拡散サイド領域を回り込んでコンタクト領域へ向かうようにアノード領域内を流れる。つまり、アノード領域の直線部と、非拡散サイド領域とによって挟まれた経路をアバランシェ電流が流れる。このとき、当該経路の抵抗成分に応じた電圧降下がアノード領域の外縁に沿って発生し、直線部上における新たな降伏箇所の電位が上昇することにより、降伏箇所が直線部上のより電位の低い場所へ移動する。つまり、アノード領域の曲線部から直線部へ移動した降伏箇所をアノード領域の外縁に沿って更に移動させることにより、直線部上の1点に電流が集中し、熱破壊が発生するのを抑制することができる。
【0018】
第3の本発明によるPINダイオードは、上記構成に加え、上記アノード領域内には、同一の上記直線部に沿って断続的に延びる2以上の上記非拡散サイド領域が形成されている。この様な構成によれば、降伏箇所がアノード領域の曲線部から直線部へ移動した後に直線部上の1点に電流が集中し、熱破壊が発生するのを抑制することができる。
【0019】
第4の本発明によるPINダイオードは、上記構成に加え、上記非拡散コーナー領域及び非拡散サイド領域が、上記アノード領域を形成するためのフォトマスクを用いて第2半導体層の外面をマスクすることにより、上記不純物拡散によって上記アノード領域と同時に形成される。
【0020】
この様な構成によれば、P型のアノード領域内にN型の非拡散コーナー領域及び非拡散サイド領域を容易に形成することができ、生産性を向上させることができる。つまり、アノード領域、非拡散コーナー領域及び非拡散サイド領域は、1枚のフォトマスクを用いて第2半導体層の外面をマスクし、P型不純物を拡散させることにより、1回の不純物拡散工程によって同時に形成することができる。従って、前述した従来技術のように多重拡散やイオン注入の工程が別途必要とせず、従来のものに比べて生産性を低下させることなく、アバランシェ耐量を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるPINダイオードによれば、アバランシェ降伏時に、アノード領域の曲線部に発生した降伏箇所を直線部側へ移動させることにより、曲線部上の1点に電流が集中し、熱破壊が発生するのを抑制することができる。
【0022】
また、本発明によるPINダイオードによれば、アバランシェ降伏時に曲線部から直線部に移動した降伏箇所をアノード領域の外縁に沿って更に移動させることにより、直線部上の1点に電流が集中し、熱破壊が発生するのを抑制することができる。
【0023】
また、本発明によるPINダイオードによれば、アノード領域を形成するための不純物拡散工程により、非拡散コーナー領域及び非拡散サイド領域を同時に形成することにより、生産性を低下させることなく、アバランシェ耐量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1によるPINダイオードの一構成例を示した平面図である。
【図2】図1のA1−A1切断線による断面図である。
【図3】図1のA2−A2切断線による断面図である。
【図4】図1のPINダイオード10の要部を拡大して示した拡大図である。
【図5】図1のPINダイオード10の動作の一例を模式的に示した説明図である。
【図6】本発明の実施の形態2によるPINダイオードの一構成例を示した平面図である。
【図7】図6の状態から降伏箇所がアノード領域15の直線部B2上に移動した場合の電流経路を示した図である。
【図8】本発明の実施の形態2によるPINダイオード10の他の構成例を示した平面図である。
【図9】従来のPINダイオード100を示した平面図である。
【図10】図9のA10−A10切断線による断面図である。
【図11】FLR104を有しないPINダイオード100の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態1.
<PINダイオード10の平面レイアウト>
図1は、本発明の実施の形態1によるPINダイオードの一構成例を示した平面図である。PINダイオード10は、P−I−Nの各半導体層からなる半導体整流素子であり、例えば、FRD(Fast Recovery Diode:高速リカバリーダイオード)として、電力変換装置などに用いられている。
【0026】
このPINダイオード10は、N型の半導体基板11の一方の主面に対し、P型不純物を選択的に拡散することによって、2つのFLR14及びアノード領域15が形成されている。また、半導体基板11の上記一方の主面上には、図示しない絶縁膜を介して、略矩形のアノード電極17及び環状の等電位電極12が形成されている。
【0027】
アノード領域15は、P型半導体からなる領域であり、4辺が直線部B2からなり、4頂点が略円弧状の曲線部B1からなる略矩形の外縁を有している。FLR14は、アノード領域15の外縁に沿って形成されたP型半導体からなる環状の耐圧保持領域である。
【0028】
アノード電極17は、酸化膜を介してアノード領域15上に形成され、アノード領域15内のコンタクト領域17cを介してアノード領域15と導通している。また、このコンタクト領域17cよりも外側のアノード領域15内には、非拡散コーナー領域16が形成されている。非拡散コーナー領域16は、アノード領域15内に形成されたN型(N)の半導体領域であり、アノード領域15の各曲線部B1及びコンタクト領域17cの間に形成され、アノード領域15の外縁に沿って延びる細長い形状からなる。
【0029】
<断面構造>
図2は、図1のA1−A1切断線による断面図であり、非拡散コーナー領域16を含む切断面が示されている。また、図3は、図1のA2−A2切断線による断面図であり、非拡散コーナー領域16を含まない切断面が示されている。
【0030】
半導体基板11は、N半導体層1及びN半導体層2からなり、例えば、N半導体層1上にN半導体層2をエピタキシャル成長させることによって得られる。半導体基板11の上面、つまり、N半導体層2の外面には、等電位電極12及びアノード電極17が形成され、半導体基板11の下面、つまり、N半導体層1の外面には、カソード電極18が形成されている。
【0031】
アノード領域15及びFLR14は、N半導体層2の外面に対し、P型不純物を選択的に拡散させることにより形成される。ストッパー領域3は、半導体基板11の周縁部に形成されたN半導体からなる環状領域である。なお、N半導体層2は、N半導体層1やアノード領域15に比べて、不純物濃度が十分に低い半導体層である。
【0032】
アノード電極17は、酸化膜13の開口を介して、アノード領域15と導通している。コンタクト領域17cは、アノード領域15内に形成された酸化膜13の開口であり、このコンタクト領域17cを介して、アノード電極17及びアノード領域15を導通させている。同様にして、等電位電極12も酸化膜13の開口を介してストッパー領域3と導通している。つまり、酸化膜13は、アノード領域15からストッパー領域3に至る環状領域に形成されており、アノード電極17は、その一部を酸化膜13の内縁部に重複させるように形成され、等電位電極12も、その一部を酸化膜13の外縁部に重複させるように形成されている。
【0033】
非拡散コーナー領域16は、アノード領域15内に形成されたN半導体層2であり、不純物拡散時にN半導体層2の外面をマスクしておくことにより、アノード領域15と同時に形成される。つまり、FLR14、アノード領域15及び非拡散コーナー領域16は、1枚のフォトマスクを用いてN半導体層2の外面をマスクし、P型不純物を拡散させることにより、1回の不純物拡散工程によって同時に形成される。従って、前述した従来技術のように多重拡散やイオン注入の工程が不要であり、生産性を低下させることはない。
【0034】
<アノード領域の曲線部B1>
図4は、図1のPINダイオード10の要部を拡大して示した拡大図であり、アノード領域15の曲線部B1及びその周辺が、酸化膜13やアノード電極17を省略して示されている。アノード領域15は、矩形の各頂点が面取りされた略矩形からなり、頂点に相当する4つの曲線部B1と、4辺に相当する直線部B2からなる。アノード領域15の各頂点を略円弧状の曲線部B1とすることにより、各頂点への電界集中を抑制することができる。
【0035】
非拡散コーナー領域16は、アノード領域15の曲線部B1の内側に形成された略等幅の細長い領域であり、アノード領域5の外縁に沿って延び、非拡散コーナー領域16の外側には、アバランシェ電流の経路となる略等幅の細長いアノード領域15が形成されている。ここでは、曲線部B1の内側を経由して、当該曲線部B1を挟んで隣接する2つの直線部B2のうち、一方の直線部B1の内側から、他方の直線部B2の内側へ至る形状からなる。
【0036】
非拡散コーナー領域16の長さD1は、その幅W2に比べて十分に長く、電流経路に要求される抵抗値に応じて定められる。すなわち、アバランシェ電流による電圧降下により、曲線部B1上の降伏箇所を直線部B2へ移動させることができる抵抗値となるように定められる。例えば、非拡散コーナー領域16からアノード領域15の外縁までの幅W1をW1=10μm、非拡散コーナー領域16の幅W2をW2=10μmとし、アノード領域15に沿った電流経路の抵抗値を2kΩとすれば、曲線部B1の中央から非拡散コーナー領域16の一端までの長さD1は、D1=100μm程度と十分に長く設定される。
【0037】
<曲線部B1におけるアバランシェ降伏>
図5は、図1のPINダイオード10の動作の一例を模式的に示した説明図であり、アノード領域15の曲線部B1においてアバランシェ降伏が発生した場合の電流経路が示されている。
【0038】
一般に、アバランシェ降伏は、素子内で最も電界が集中する場所から発生する。アノード領域15が略矩形からなるPINダイオード10の場合、電界集中は、アノード領域15の曲線部B1が最も大きく、次に直線部B2が大きく、アノード領域15の内側はアノード領域15の外縁に比べて小さい。このため、PINダイオード10では、アノード領域15の曲線部B1付近で最初のアバランシェ降伏が発生する。
【0039】
ところが、アノード領域15の曲線部B1からコンタクト領域17cへの最短経路上には、不純物濃度の低いN半導体層2からなる高抵抗の非拡散コーナー領域16が形成されている。このため、アノード領域15の曲線部B1付近でアバランシェ降伏が発生した場合、アバランシェ電流22は、降伏箇所21からコンタクト領域17cへ至る最短経路を流れることができず、非拡散コーナー領域16の外側を回り込むように、アノード領域15の外縁に沿って流れることになる。
【0040】
アバランシェ電流22がこの様な経路を流れることにより、当該経路の抵抗成分(R1+R2)によって電圧降下が生じる。このため、降伏箇所21の電位が上昇し、降伏箇所21は、より電位の低い直線部B2側へ移動する。その結果、十分な電圧降下が生じていれば、アノード領域15の直線部B2付近に降伏箇所が移動する。この様にして降伏箇所21が移動することにより、アバランシェ電流22が流れることによって温度上昇する箇所が分散されるので、素子の熱破壊の発生を抑制することができる。
【0041】
<PINダイオード10の製造方法>
次に、この様なPINダイオード10の製造方法の概略について説明する。半導体基板11のN半導体層2は、例えば、リン(P)、ヒ素(As)又はアンチモン(Sb)などのN型不純物を含むN半導体層1上に、不純物濃度の低いN型半導体層をエピタキシャル成長させることによって形成される。なお、半導体基板11は、N半導体層2に対しN型不純物を拡散させ、N半導体層1を形成したものであってもよい。
【0042】
アノード領域15、非拡散コーナー領域16及びFLR14は、1枚のフォトマスクを用いてレジスト膜をパターニングし、P型不純物を拡散させることにより、1回の不純物拡散工程によって同時に形成される。すなわち、半導体基板11上にフォトレジストからなるレジスト膜を形成し、共通のフォトマスクを用いてレジスト膜を露光及び現像してパターニングする。そして、ボロン(B)、インジウム(In)などのP型不純物を半導体基板11の表面から拡散させることによって形成される。従って、前述した従来技術のように多重拡散やイオン注入の工程を必要とせず、生産性を低下させることなく、安価にアバランシェ耐量を向上させることができる。
【0043】
カソード電極18やアノード電極17は、例えば、半導体基板11の表面に導電性の金属を蒸着し、蒸着された金属膜をレジストパターンにより選択的に除去して形成される。
【0044】
本実施の形態によれば、アノード領域15の曲線部B1でアバランシェ降伏が発生した場合、アバランシェ電流が、非拡散コーナー領域16の外側をアノード領域15の外縁に沿って流れ、非拡散コーナー領域16を回り込む。このため、非拡散コーナー領域16よりも外側の電流経路の抵抗成分によって降伏箇所の電位が上昇し、より電位の低いところに降伏箇所が移動する。この様にして降伏箇所が移動することにより、アバランシェ電流が集中して流れることによって温度上昇する箇所が分散されるので、素子の熱破壊の発生を抑制することができる。従って、アノード領域15の曲線部B1においてアバランシェ電流による熱破壊が生じるのを抑制し、アバランシェ耐量を向上させることができる。
【0045】
さらに、不純物を選択的に拡散させるためのレジスト膜をパターニングする際に、共通のフォトマスクを用いてアノード領域15、非拡散コーナー領域16及びFLR14を形成することができるので、生産性を向上させることができる。つまり、アノード領域15、非拡散コーナー領域16及び複数のFLR14は、1枚のフォトマスクを用いてレジスト膜をパターニングし、P型不純物を拡散させることにより、1回の不純物拡散工程によって同時に形成することが可能である。従って、前述した従来技術のように多重拡散やイオン注入の工程を必要とせず、従来のものに比べて生産性を低下させることなく、安価にアバランシェ耐量を向上させることができる。
【0046】
実施の形態2.
実施の形態1では、アノード領域15の各曲線部B1に対してN半導体層2からなる非拡散コーナー領域16が形成される場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、アノード領域15の各直線部B2に対し、直線部B2よりも内側に非拡散サイド領域を形成する場合について説明する。
【0047】
図6は、本発明の実施の形態2によるPINダイオードの一構成例を示した平面図であり、非拡散コーナー領域16及び非拡散サイド領域19を備えたPINダイオード10が示されている。このPINダイオード10は、このコンタクト領域17cよりも外側のアノード領域15内に、非拡散コーナー領域16及び非拡散サイド領域19が形成されている。
【0048】
非拡散サイド領域19は、アノード領域15内に形成された高抵抗のN型(N)の半導体領域であり、アノード領域15の各直線部B2及びコンタクト領域17cの間に形成され、アノード領域15の外縁に沿って延びる細長い形状からなる。なお、非拡散コーナー領域16及び非拡散サイド領域19は、アノード領域15を介在させ、互いに連結されることなく形成されている。
【0049】
非拡散コーナー領域16及び非拡散サイド領域19は、不純物拡散時に、N半導体層2の外面をレジスト膜でマスクすることにより形成される。つまり、アノード領域15、非拡散領域16,19及び複数のFLR14は、1枚のフォトマスクを用いてレジスト膜をパターニングし、P型不純物を拡散させることにより、1度の不純物拡散工程によって同時に形成することが可能である。従って、前述した従来技術のように多重拡散やイオン注入の工程を必要とせず、生産性を低下させることなく、アバランシェ耐量を向上させることができる。
【0050】
図7は、図6の状態から降伏箇所がアノード領域15の直線部B2上に移動した場合の電流経路を示した図である。降伏箇所がアノード領域15の曲線部B1から直線部B2に移動すれば、アバランシェ電流22の一部は、非拡散サイド領域19を回り込んでアノード電極17へ流れ込む。
【0051】
非拡散サイド領域19は、アノード領域15の直線部B2の内側に形成された略等幅の細長い領域であり、アノード領域5の外縁に沿って延び、非拡散サイド領域19の外側には、アバランシェ電流の経路となる略等幅の細長いアノード領域15が形成されている。アバランシェ電流が、上記経路を流れることにより、当該経路の抵抗成分に起因する電圧降下によって降伏箇所23の電位が上昇し、降伏箇所23の移動が繰り返される。
【0052】
本実施の形態によれば、降伏箇所がアノード領域15の曲線部B1にある場合には、アバランシェ電流が非拡散コーナー領域16の外側を回り込んで流れ、降伏箇所21がアノード領域15の曲線部B1から直線部B2へ移動する。降伏箇所の直線部B2への移動後は、アバランシェ電流が、非拡散サイド領域19を回り込むようにアノード領域15の外縁に沿って流れ、新たな降伏箇所の電位を上昇させる。このため、降伏箇所をアノード領域15の直線部B2上で移動させ、効果的に分散させることができる。
【0053】
なお、図6のPINダイオード10では、アノード領域15の外縁に沿って、非拡散コーナー領域16及び非拡散サイド領域19を整列配置させ、アノード領域15の外縁及びコンタクト領域17cの間に、断続的な環状の非拡散領域30が形成されている。
【0054】
このような環状の非拡散領域30よりも内側のアノード領域15を主アノード領域31、外側のアノード領域15を環状アノード領域32、主アノード領域31及び環状アノード領域32を接続する略矩形のアノード領域15をアノード接続領域33と呼ぶことにすれば、図6のPINダイオード10は、4辺が直線部からなり、4頂点が曲線部からなる略矩形の外縁を有する主アノード領域31の外縁に沿って、環状アノード領域32が形成され、アノード接続領域33を介して、主アノード領域31の直線部が、環状アノード領域32の内縁に接続されているということもできる。
【0055】
アノード接続領域33は、主アノード領域31の外縁の曲線部には接続されていない。また、アノード接続領域33の抵抗は、その幅及び長さによって制御することができる。このため、各アノード接続領域33の幅及び長さを互いに略一致させ、各アノード接続領域33の抵抗を略一致させておくことが望ましい。
【0056】
図8は、本発明の実施の形態2によるPINダイオード10の他の構成例を示した平面図である。図6のPINダイオード10と比較すれば、アノード領域15の各直線部B2に対し、2以上の非拡散サイド領域19がそれぞれ形成されている点で異なる。
【0057】
このPINダイオード10では、コンタクト領域17cよりも外側のアノード領域15内に、同一の直線部B2に沿って延びる2以上の非拡散サイド領域19が形成されている。このため、降伏箇所がアノード領域15の曲線部B1から直線部B2へ移動した後、直線部B2上における降伏箇所23を分散させ易くなる。従って、直線部B2上の1点に電流が集中し、熱破壊が発生するのを抑制することができる。
【0058】
特に、同一の直線部B2に沿って形成された2以上の非拡散サイド領域19の長さを略一致させ、非拡散サイド領域19よりも外側の電流経路の抵抗を略一致させることにより、直線部B2上の1点に電流が集中するのをより効果的に抑制することができる。
【0059】
なお、図8のPINダイオード10も、図6の場合と同様、主アノード領域31の外縁に沿って、環状アノード領域32が形成され、主アノード領域31及び環状アノード領域32が、アノード接続領域33によって相互に接続されているということもできる。ただし、図6の場合、同一の直線部B2に形成されるアノード接続領域33は、非拡散コーナー領域16及び非拡散サイド領域19間の2カ所であったのに対し、図8の場合には、隣接する非拡散サイド領域19間も加えた3箇所以上となる。
【0060】
なお、実施の形態1及び2では、アノード領域15の終端構造として複数のFLR14が形成される場合の例について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、耐圧を上げるために、アノード領域15の外側にSIPOS層を形成しても良い。SIPOS(Semi-Insulating POlycrystalline Silicon)層は、多結晶シリコンに酸素を混入させた半絶縁性の膜であり、SIPOS層内の可動キャリアが電界分布の乱れを補償するので、耐圧を向上させることができる。或いは、アノード電極17を酸化膜13上で半導体基板11の外縁側に伸展させることによって、アノード領域15の端部における耐圧を向上させるFP(Field Plate)の技術とFLRとを組み合わせたものも本発明には含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1 N半導体層
2 N半導体層
3 ストッパー領域
10 PINダイオード
11 半導体基板
12 等電位電極
13 酸化膜
14 FLR
15 アノード領域
16 非拡散コーナー領域
17 アノード電極
17c コンタクト領域
18 カソード電極
19 非拡散サイド領域
B1 アノード領域の曲線部
B2 アノード領域の直線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N型の第1半導体層及び不純物濃度が第1半導体層よりも低いN型の第2半導体層からなる半導体基板と、
第1半導体層の外面上に形成されたカソード電極と、
第2半導体層の外面に対する選択的な不純物拡散により形成されたP型のアノード領域と、
上記アノード領域内のコンタクト領域を介して上記アノード領域と導通するアノード電極とを備え、
上記アノード領域は、4辺が直線部からなり、4頂点が略円弧状の曲線部からなる略矩形の外縁を有し、上記コンタクト領域の外側に、上記曲線部に沿って延びるN型の非拡散コーナー領域がそれぞれ形成されていることを特徴とするPINダイオード。
【請求項2】
上記アノード領域内には、上記コンタクト領域の外側に、上記直線部に沿って延びるN型の非拡散サイド領域が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のPINダイオード。
【請求項3】
上記アノード領域内には、同一の上記直線部に沿って断続的に延びる2以上の上記非拡散サイド領域が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のPINダイオード。
【請求項4】
上記非拡散コーナー領域及び非拡散サイド領域は、上記アノード領域を形成するためのフォトマスクを用いて第2半導体層の外面をマスクすることにより、上記不純物拡散によって上記アノード領域と同時に形成されることを特徴とする請求項2に記載のPINダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−171363(P2011−171363A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31380(P2010−31380)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【特許番号】特許第4500891号(P4500891)
【特許公報発行日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)