説明

SOFCの燃料極用の複合粒子及び該複合粒子の製造方法

【課題】固体酸化物形燃料電池(SOFC)の燃料極の材料として、従来よりも三相界面の数が多い複合粒子を好適に製造できる製造方法を提供すること。
【解決手段】金属酸化物粒子及び酸化物イオン伝導体粒子を、所定の有機高分子化合物からなるポリマー粒子とともに分散媒中に分散させた分散液を用意し、該分散液を液滴としてチャンバー内に噴霧し、液滴をチャンバー内で加熱することにより、分散液から分散媒を除去して金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とポリマー粒子とが凝集してなる凝集体を得、該凝集体を焼成してポリマー粒子を構成する成分を除去することにより複合粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の燃料極の材料として用いられる複合粒子の製造方法、該製造方法により得られる複合粒子、および、該複合粒子の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に「SOFC」と呼称される固体酸化物形燃料電池は、種々のタイプの燃料電池の中でも、発電効率が高い、環境への負荷が低い、そして、多用な燃料の使用が可能であるなどの点から、次世代の発電装置として期待されており、その開発が進められている。
SOFCの基本構造(セル)は、酸化物イオン伝導体からなる緻密な固体電解質(例えば緻密膜層)の一方の面に空気極(カソード)が形成され、他方の面に燃料極(アノード)が形成されることによって構成されている。上記空気極および燃料極は、ともにガス拡散性のよい多孔質構造で構成されている。固体電解質の燃料極側には燃料ガス(典型的にはH(水素)ガスやメタン等の燃料ガス)が供給され、空気極側にはO(酸素)含有ガス(典型的には空気)が供給される。このとき、空気極側に供給されたOは、空気極により酸化物イオン(O2−)化し、固体電解質を通って燃料極側に供給される。燃料極側では、燃料ガスと固体電解質から供給される酸化物イオンとを反応させ、当該酸化物イオンから電子を放出させることによって発電をする。この燃料極における反応は、酸化物イオンを燃料極側に供給する固体電解質の界面と、燃料ガスが供給され得る空孔の界面と、上記反応の金属触媒として機能する金属酸化物の界面とから構成される三相界面において生じる。
【0003】
近年では、上記燃料極における三相界面の数を増やすために、燃料極の材料として、金属酸化物と、固体電解質と同種の酸化物イオン伝導体とを複合化した複合粒子が用いられている。当該複合粒子を燃料極に用いると、固体電解質から供給された酸化物イオンが複合粒子中の酸化物イオン伝導体によって燃料極内部まで供給される。したがって、固体電解質との界面だけでなく、燃料極の内部にも上記三相界面が形成されるため、燃料極反応の場が増加することによりSOFCの出力特性が向上する。
当該複合粒子の従来例は例えば特許文献1〜2に開示されており、その他金属微粒子から作成した二次粒子の従来例は例えば特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−6648号公報
【特許文献2】特開2006−4874号公報
【特許文献3】特開2008−195551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示の技術では、ジルコニア粒子とニッケルイオンを含有する分散液をアルカリ溶液に添加して得られた沈殿物を酸化雰囲気下で熱処理することによって、ジルコニア粒子と酸化ニッケル粒子とからなる複合粒子を作製している。当該文献に記載の複合粒子は、それを構成しているジルコニア粒子と酸化ニッケル粒子の分布性が向上しているので、ジルコニア粒子と酸化ニッケル粒子とが接している箇所(ZrO−NiO界面)が増加している。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の複合粒子は、ZrO−NiO界面の数は確かに増加しているものの、燃料ガスが供給され得る空孔がZrO−NiO界面に接していないために三相界面が形成されないという箇所が生じる可能性が高いと考えられる。
【0007】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、従来よりも三相界面の数が多い複合粒子を好適に製造できる製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる製造方法によって提供される複合粒子、及び当該複合粒子を用いて作製されるSOFCを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を実現するべく、固体酸化物形燃料電池の燃料極の材料として用いられる複合粒子を製造する方法を提供するものである。本発明の製造目的とする複合粒子は、触媒として機能する金属酸化物粒子と、酸化物イオン伝導体粒子とを含んでいる。
そして、本発明によって提供される製造方法は、
金属酸化物粒子及び酸化物イオン伝導体粒子を、所定の有機高分子化合物からなるポリマー粒子とともに分散媒中に分散させた分散液を用意すること;
該分散液を液滴としてチャンバー内に噴霧すること;
該噴霧された液滴をチャンバー内で加熱することにより、上記分散液から分散媒を除去して、前記金属酸化物粒子と前記酸化物イオン伝導体粒子と前記ポリマー粒子とが凝集してなる凝集体を得ること;
前記凝集体を焼成してポリマー粒子を構成する成分を除去することにより複合粒子を得ること;
を包含する。
【0009】
上記構成の製造方法では、液滴として噴霧した霧状の分散液から複合粒子を作製する(即ち、いわゆるスプレードライ方式による造粒を行う)ため、分散液中で金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とが凝集することを抑制できる。したがって、本発明の製造方法によれば、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布した全体に亘って均質な複合粒子を製造することができる。
また、かかる製造方法では、分散液中にポリマー粒子を分散させている。このポリマー粒子を構成する成分(以下、適宜「ポリマー成分」と称する。)は、上記凝集体を焼成する際に除去される。これにより得られた複合粒子は、ポリマー成分が除去された部位が空洞化するため、表面に複数の微細孔(若しくは、内部に中空コア部)が形成される。このため、従来の複合粒子に比べて燃料ガスが供給され得る空孔の数が増加している。
以上のように、本発明の製造方法によれば、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布しており、且つ、従来に比べて燃料ガスが供給され得る空孔の数が増加した複合粒子を容易に製造することができる。この複合粒子は、金属酸化物粒子の界面と、酸化物イオン伝導体粒子の界面と、燃料ガスが供給され得る空孔の界面とから構成される三相界面の数が従来の複合粒子に比べて増加しているので、SOFCの燃料極の材料として用いた場合にSOFCの出力特性を向上させることができる。また、この混合粒子は、該複合粒子を構成する微粒子である金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布して構成された全体に亘って均質な複合粒子であるため、長期的にSOFCの稼働を安定化させることにも貢献できる。
【0010】
ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、上記分散液のpHを、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とポリマー粒子のゼータ電位の符号が等しくなるように調整し、該pH調整された分散液をチャンバー内に噴霧する。また、このとき、分散液のpHはpH1〜pH4に調整すると好ましい。
上記分散液中で、上記三種の粒子のゼータ電位の符号が同じであると、各粒子が互いに反発しあう。これにより、各粒子の凝集を抑制することができるので、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布した複合粒子をより好適に得ることができる。
また、かかる製造方法によれば、分散媒を除去した後に形成される各粒子の凝集体においてポリマー粒子がほぼ均等に分布しているので、上記凝集体からポリマー成分を除去することにより粒子表面に複数の微細孔が形成された複合粒子を容易に製造することができる。
【0011】
ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、分散液のpHを、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とポリマー粒子のうちのいずれか一種の粒子のゼータ電位が他の二種の粒子のゼータ電位と異符号になるように調整し、該pH調整された分散液をチャンバー内に噴霧する。また、このとき、分散液のpHはpH7〜pH10に調整すると好ましい。
上記分散液中の上記三種の粒子のうち一種の粒子のゼータ電位を異符号にすると、当該異符号のゼータ電位を有した粒子を介して、他の二種の粒子が互いに引き寄せ合うようになる。これによって、分散媒を除去した後に形成される各粒子の凝集体の中心部分にポリマー粒子が配置される。この状態でポリマー成分を分散液から除去することにより粒子内部に中空コア部が形成された複合粒子を容易に製造することができる。
【0012】
ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、ポリマー粒子として、平均粒径が50nm〜500nmであるポリマー粒子を使用する。
なお、本明細書において「平均粒径」とは、測定対象の粒度分布におけるD50(メジアン径)をいう。かかるD50は、例えば従来公知のレーザー回折方式、光散乱方式等に基づく粒度分布測定装置によって容易に測定することができる。
平均粒径が50nm以上のポリマー粒子を用いることによって、適切な大きさの微細孔(若しくは中空コア部)を複合粒子に形成することができる。また、平均粒径500nm以下のポリマー粒子を用いることによって、平均粒径の小さな複合粒子を容易に製造することができる。
【0013】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、金属酸化物粒子として、平均粒径が1nm〜50nmである金属酸化物粒子を使用する。平均粒径が50nm以下の金属酸化物粒子を用いることによって、金属酸化物粒子の界面の数がより増加した複合粒子を作製することができる。これによって、複合粒子中で上記三相界面が形成される機会を増やすことができる。
【0014】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、酸化物イオン伝導体粒子として、平均粒径が1nm〜50nmである酸化物イオン伝導体粒子を使用する。この場合、酸化物イオン伝導体粒子の界面の数がより増加した複合粒子を作製し、三相界面が形成される機会を増やすことができる。
【0015】
ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、酸化物イオン伝導体粒子(C)に対する金属酸化物粒子(M)の質量比M/Cが0.5〜3の範囲内になるように分散液を調製する。
酸化物イオン伝導体粒子(C)に対する金属酸化物粒子(M)の質量比M/Cを上記数値範囲内に設定することにより、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子が均等に分布されやすくなり、複合粒子中で三相界面が形成される機会を増やすことができる。
【0016】
ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、金属酸化物粒子として酸化ニッケル粒子を用いる。これにより、SOFCの燃料極の材料として用いた場合に良好な性能を提供できる複合粒子を低コストで製造することができる。
【0017】
また、ここで開示される好ましい一態様の製造方法では、酸化物イオン伝導体粒子としてジルコニア粒子を用いる。この場合も、SOFCの燃料極の材料として好適な複合粒子を低コストで製造することができる。
【0018】
また、本発明は、他の側面として固形酸化物形燃料電池の燃料極に用いられる複合粒子を提供する。この複合粒子は、上述の製造方法を実施することによって容易に製造することができる。
ここで上記複合粒子は、触媒として機能する金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とを含み、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布している。また、この複合粒子は、表面に複数の微細孔が形成されている。
かかる複合粒子は、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布しているため、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子との界面の数が従来よりも増加している。さらに、この複合粒子には、粒子表面に複数の微細孔が形成されているため、燃料ガスが供給され得る空洞の界面の数が従来よりも増加している。したがって、この複合粒子は、従来よりも多くの三相界面が形成され易くなっており、SOFCの燃料極の材料として好適に用いることができる。
【0019】
また、上記複合粒子の表面に形成された微細孔の平均孔径は10nm〜500nmであることが好ましい。上記微細孔の平均孔径が10nm以上である複合粒子は、燃料ガスが供給され得る空洞として好ましい大きさの孔径を有した微細孔が複数形成されているため、上記三相界面が形成されやすくなっている。一方、微細孔の平均孔径が500nm以下である複合粒子では、微細孔と金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布しているため、上記三相界面が形成されやすくなっている。
【0020】
また、上記表面に微細孔が形成された複合粒子の場合、複合粒子における気孔率が50%〜95%であることが好ましい。気孔率が上記数値範囲内である場合、複合粒子の内部に好適な数の三相界面を形成することができる。
【0021】
また、上述の製造方法は、上記表面に微細孔が形成された複合粒子とは異なった態様の複合粒子も製造できる。この複合粒子は、触媒として機能する金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とを含み、中空コア部と、該中空コア部を包囲するシェル部とから構成されている。また、上記シェル部では金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布している
かかる複合粒子は、シェル部において金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布しているため、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子との界面の数が従来よりも増加している。さらに、この複合粒子には、中空コア部が形成されているため、燃料ガスが供給され得る空洞の界面の数が従来よりも増加している。したがって、この複合粒子は、従来よりも多くの三相界面が形成され易くなっており、SOFCの燃料極の材料として好適に用いることができる。
【0022】
また、上記複合粒子の中空コア部の平均径は1μm〜5μmであることが好ましい。また、かかる複合粒子の場合、複合粒子における気孔率が70%〜95%であることが好ましい。これらの場合でも、複合粒子の内部に好適な数の三相界面を形成することができる。
【0023】
また、本発明は、上述の複合粒子を燃料極に用いてなる固体酸化物形燃料電池(SOFC)も提供する。上述の複合粒子は、好適な数の三相界面が形成されているため、SOFCの燃料極の材料として用いることによって、従来よりも電池特性が向上したSOFCを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るSOFCを模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の複合粒子の製造方法を好適に実施するための装置の一例を示すブロック図である。
【図3】サンプル1のSEM写真である。
【図4】サンプル2のSEM写真である。
【図5】サンプル3のSEM写真である。
【図6】サンプル4のSEM写真である。
【図7】サンプル5のSEM写真である。
【図8】各サンプルの分散液におけるpHと、分散液中の各粒子のゼータ電位との関係を示すグラフである。
【図9】サンプル2のHR−TEM写真である。
【図10】サンプル2の水銀ポロシメトリーによる測定結果をプロットした対数グラフである。図10中の右側の縦軸は「微分細孔容積」を示しており、グラフ中のプロットAに対応している。また、左側の縦軸は「積算細孔径容積」を示しており、グラフ中のプロットBに対応している。
【図11】サンプル2を構成する元素と、該元素の分布を解析した結果を示す図であり、図11中の(a)はSEM写真、(b)はTEM写真、(c)はエネルギー分散X線スペクトラム解析の結果、(d)はジルコニウム及びニッケルの元素マッピングの結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な一実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、分散液の調製や噴霧に用いる装置やチャンバーなど)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0026】
ここで開示される製造方法は、固体酸化物形燃料電池の燃料極の材料として用いられる複合粒子を製造する方法である。この複合粒子は、触媒として機能する金属酸化物粒子と、酸化物イオン伝導体粒子とを含んでいる。
【0027】
ここで開示される製造方法では、まず、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意する。
【0028】
上記金属酸化物粒子としては、触媒活性が高く金属触媒として用いられ得る金属元素の酸化物粒子を好ましく用いることができる。金属酸化物粒子としては、例えば、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等や、貴金属元素である白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の金属元素の酸化物粒子が使用できる。これらの中でも、ニッケルの酸化物である酸化ニッケル(NiO)は酸化活性および水素化活性が高いことや貴金属よりも比較的安価であるという理由で特に好ましく用いることができる。
また、ここで開示される金属酸化物粒子としては、平均粒径が0.5nm〜75nm(好ましくは1nm〜50nm、より好ましくは5nm〜10nm)程度のものを用いるとよい。
【0029】
酸化物イオン伝導体粒子としては、上記金属酸化物粒子とは元素組成が異なる金属化合物の粒子を用いることができ、特に、SOFCの固体電解質を構成するものと同じ金属化合物を用いるとよい。酸化物イオン伝導体粒子を構成する金属化合物としては、例えば、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ガリウム(Ga)等の酸化物が使用でき、この中でも、ジルコニウムの酸化物であるジルコニア(二酸化ジルコニウム:ZrO)を好ましく用いることができる。さらに、酸化物イオン伝導体粒子としては、希土類の酸化物を上記ジルコニアに固溶させることによって結晶構造を安定化させた安定化ジルコニアの粒子を好ましく用いることができる。この安定化ジルコニアの中でも、イットリウム(Y)の酸化物を固溶させたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、スカンジウム(Sc)の酸化物を固溶させたスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などを特に好ましく用いることができる。
また、ここで開示される酸化物イオン伝導体粒子としては、平均粒径が0.5nm〜75nm(好ましくは1nm〜50nm、より好ましくは1nm〜10nm)程度のものを用いるとよい。
【0030】
ポリマー粒子としては、加熱によって分解・蒸発する有機高分子化合物を主成分とする粒子を用いることができる。当該ポリマー粒子を構成する有機高分子化合物には、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンオキシド、或いはポリオレフィン系高分子化合物(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)などを好ましく用いることができる。また、ポリマー粒子には、所定の分散媒に分散した系(ラテックス)で提供されるいわゆるラテックス粒子を好適に使用することができる。ラテックス粒子は、分散媒中の粒子の形状がほぼ球形状であり、その粒度分布が小さいため好ましい。なかでも、ポリスチレンからなるラテックス粒子(ポリスチレンラテックスビーズともいう。以下、「PSL」と称する。)を特に好ましく用いることができる。
また、ポリマー粒子としては、上記金属酸化物粒子および上記酸化物イオン伝導体粒子よりも大きな平均粒径を有しているものがよく、具体的には、平均粒径が50nm〜700nm(好ましくは50nm〜500nm、より好ましくは100nm〜400nm)程度のものを用いるとよい。
【0031】
分散媒は、上述の各粒子(金属酸化物粒子、酸化物イオン伝導体粒子、ポリマー粒子)を適切に分散させることができるものであればよく、各粒子が溶解しないような液体が好ましく用いられる。ここで、分散媒の一例としては、水、アルコール類(例えば、メタノール(CHOH)、エタノール(COH))などが挙げられる。これらの中でも、各粒子の分散性や製造コストを考慮すると、水が特に好ましく用いられる。
【0032】
ここで開示される製造方法では、上述の各粒子を分散媒に分散させて分散液を調製する。上記分散液を調製する際には、各粒子を分散媒に所定量添加して十分に混合する。この混合処理には、液体を混合するために用いられる従来公知の方法を用いることができる。例えば、各粒子のゾルを別個に調製し、当該ゾルを攪拌しながら混ぜ合わせる攪拌混合などを用いることができる。また、この攪拌混合で分散液を攪拌する方法としては、例えば、超音波ホモジナイザなどが挙げられる。
【0033】
また、上記分散液の調製にあたり、分散させる各粒子の質量比は適宜変更することができる。特に限定するものではないが、酸化物イオン伝導体粒子(C)に対する金属酸化物粒子(M)の質量比(M/C)が0.5〜3(好ましくは1〜2、より好ましくは1.2〜1.7)の範囲内になるように金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子の添加量を定めるとよい。この場合、分散液中における金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子の粒子数が近似するため、各粒子が均等に分布した複合粒子を容易に作製することができるようになる。
また、ポリマー粒子を添加量については、金属酸化物粒子(M)と酸化物イオン伝導体粒子(C)の合計質量(M+C)に対するポリマー粒子(P)の質量比(P/(M+C))が1〜3(好ましくは2〜3、より好ましくは2.2〜2.7)の範囲内になるように定めるとよい。この場合、分散液中における金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子の粒子数が近似するため、各粒子を均等に分散させることができる。
【0034】
次に、ここで開示される製造方法では、用意した分散液を液滴としてチャンバー内に噴霧する。分散液を液滴として噴霧するには、例えば、2流体ノズル、超音波噴霧器などを用いるとよい。これらの機器を用いることによって、分散液をサブマイクロ〜マイクロオーダーの微細な液滴として噴霧するができる。このときの霧状の液滴の液滴径の一例を挙げると、0.1μm〜10μm、好ましくは1μm〜6μm、更に好ましくは2μm〜5μm程度である。この場合、従来の製造方法で製造した場合に比べて、平均粒径の小さな複合粒子を容易に作製することができる。
【0035】
次に、噴霧された液滴をチャンバー内で加熱することにより、分散液から分散媒を除去する。分散液から分散媒が除去されると、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とポリマー粒子とが凝集した凝集体が形成される。噴霧された液滴から分散媒を除去するには、スプレードライ方式による造粒を用いることができる。このときの加熱温度は、使用する分散媒によって変化するが、分散媒を分散液から除去(蒸発)し得る温度(400℃以下、例えば100℃〜400℃、典型的には100℃〜200℃)に設定するとよい。
【0036】
次に、ここで開示される製造方法では、上記凝集体を焼成してポリマー粒子を構成する成分(以下、適宜「ポリマー成分」と称する。)を凝集体から除去する。焼成時に凝集体を加熱する条件は、ポリマー粒子を構成する成分によって変化するが、ポリマー成分を凝集体から除去し得るように設定するとよい。例えば、ポリマー粒子としてPSL粒子を用いた場合、加熱温度を400℃以上1100℃以下、好ましくは500℃以上1000℃以下、例えば700℃程度に設定するとよい。また、このときの加熱時間としては、4時間以下(好ましくは30分〜4時間、より好ましくは45分〜2時間、例えば1時間程度)に設定するとよい。
【0037】
また、上記凝集体の焼成は、酸化性ガス(例えば、酸素含有ガス(特に好ましくは空気))の雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス(例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)の雰囲気下で行ってもよい。
酸化ガス雰囲気下で焼成を行った場合、酸化性ガスがポリマー成分の除去(蒸発・分解)を補助するため、加熱温度が比較的低温域であってもポリマー成分を適切に除去することができる。焼成を比較的低温域で行うメリットとしては、焼成炉の耐久性低下の防止、温度上昇に要する燃料費の低減などにより、低コストで複合粒子の製造が可能になることが挙げられる。また、酸化性ガスとして空気を用いた場合には、製造コストを更に低減させることができる。
一方、不活性ガス雰囲気下で凝集体の焼成を行った場合、加熱温度が比較的高温域であっても、複合粒子を構成する金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子が必要以上に酸化されることを防止できる。すなわち、品質に優れた複合粒子を安定的に得ることができるようになる。
【0038】
上述の工程を経ることによって複合粒子が得られる。この時に生じている現象の一例を以下で説明する。ここでは、先ず、分散液を液滴としてチャンバー内に噴霧し、該液滴を加熱することにより分散媒を除去する。これによって、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子がほぼ均等に分布した状態の凝集体が得られる。そして、かかる凝集体を焼成すると、凝集体からポリマー成分が除去されて、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とを含んだ複合粒子が得られる。この複合粒子は、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子がほぼ均等に分布してなる凝集体を焼成することで作成されるため、各粒子がほぼ均等に分布している。さらに、焼成によりポリマー成分が除去された箇所は空洞化するため、複合粒子の粒子表面には複数の微細孔(若しくは、粒子内部に中空コア部)が形成される。
【0039】
上述のように、ここで開示される製造方法では、ポリマー粒子を構成する成分を凝集体から除去することにより、複合粒子の表面に複数の微細孔、若しくは、複合粒子の内部に中空コア部を形成する。これらの空孔の形状は、上記分散液中の各粒子のゼータ電位を調整することによって制御することができる。上記ゼータ電位は、分散液のpHを調整することによって調整することができる。以下、ゼータ電位の調整による空孔の形状の制御について説明する。
【0040】
ここでは、先ず、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とポリマー粒子のゼータ電位の符号を等しくした場合について説明する。各粒子のゼータ電位の符号を等しくするには、分散液のpHを、pH1〜pH6.8(好ましくはpH1〜pH4、さらに好ましくはpH3〜pH4)の範囲内に調整するとよい。当該数値範囲内に分散液のpHを調整するには、pHの調整に一般的に用いられる酸性溶液(例えば、硝酸、硫酸、塩酸など)を分散液に添加する。このようにして、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とポリマー粒子のゼータ電位の符号を等しくすると、表面に複数の微細孔が形成された複合粒子が得られる。
微細孔が形成された複合粒子が得られることについては、以下のように推察される。各粒子のゼータ電位の符号が等しくなると、分散液中で金属酸化物粒子、酸化物イオン伝導体粒子、ポリマー粒子がそれぞれ反発し合う。この状態で分散液の液滴を加熱して当該液滴から分散媒を除去すると、ポリマー粒子を含めた各粒子がほぼ均等に分布した凝集体が形成される。そして、この凝集体を焼成すると、凝集体全体において均等に分布しているポリマー粒子を構成する成分が凝集体の表面に微細な穴を開けながら凝集体の外部に抜ける。これによって、表面に複数の微細孔が形成された複合粒子が得られると考えられる。
【0041】
上述のようにして得られた「表面に複数の微細孔が形成されている複合粒子」の構造について説明する。
この複合粒子は、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とを含んでおり、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布している。ここで、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とが「ほぼ均等に分布している」とは、複合粒子表面の元素マッピングにおいて、ニッケルがマッピングされている面積を、ジルコニウムがマッピングされている面積で割った値(Ni/Zr)が0.5〜1.5(好ましくは0.8〜1.2、より好ましくは0.9〜1.1)であるような状態を指す。
【0042】
この複合粒子の平均粒径は、4μm〜10μmであるとよく、好ましくは5μm〜8μmであるとよく、より好ましくは6μm〜7μmである。また、この複合粒子の形状は典型的には略球形状である。ここで、本明細書における「略球形状」とは、球状、ラグビーボール状、多角体状などを含む形状であり、その長径/短径が好ましくは2/1〜1/1、典型的には1.5/1〜1/1であり、真球(長径/短径=1/1)に近い形状をとり得る。
また、上述したように、この複合粒子の表面には複数の微細孔が形成されている。特に限定されるものではないが、当該微細孔は、粒子1個あたりに概ね20個〜300個、典型的には50個〜250個、例えば100個〜200個程度形成されているとよい。
また、微細孔の平均孔径は、分散液に分散させるポリマー粒子の平均粒径を調節することにより適宜変更することができる。具体的には、微細孔の平均孔径(電子顕微鏡観察に基づいて計算される平均値。以下同じ。)は、10nm〜500nm、好ましくは50nm〜200nm、より好ましくは75nm〜150nm程度であるとよい。
また、この複合粒子における気孔率は、50%〜95%(好ましくは55%〜80%、より好ましくは55%〜70%)程度である。上記気孔率は、水銀ポロシメトリーにより測定された結果に基づく値である。
【0043】
次に、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とポリマー粒子のうちいずれか一種の粒子のゼータ電位が他の二種の粒子のゼータ電位と異符号になるように分散液のpHを調整した場合について説明する。なお、ゼータ電位が他の粒子に対して異符号になる粒子は、分散液に分散させる各粒子のうちどの粒子でもよい。以下では、説明の便宜上、分散液のpHを、酸化物イオン伝導体粒子のゼータ電位が他の粒子(金属酸化物粒子、ポリマー粒子)のゼータ電位と異符号になるように調整した場合について説明する。
【0044】
酸化物イオン伝導体粒子のゼータ電位を他の粒子のゼータ電位と異符号にするには、分散液のpHを、pH7〜pH14(好ましくはpH7〜pH10、さらに好ましくはpH8〜pH9.5)の範囲内に調整するとよい。当該数値範囲内に分散液のpHを調整するには、pH調整用として一般的に用いられるアルカリ性溶液(例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液など)を分散液に添加する。このようにして、酸化物イオン伝導体粒子のゼータ電位を、他の粒子のゼータ電位と異符号にすると、中空コア部と、該中空コア部を包囲するシェル部とから構成されており、シェル部では金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布している複合粒子が得られる。
【0045】
中空コア部を有した複合粒子が得られることについては、以下のように推察される。
分散液中でいずれか一種の粒子のゼータ電位が他の二種の粒子のゼータ電位と異符号になると、当該一種の粒子に他の粒子が引き寄せられる。この状態で分散液から分散媒を除去すると、中心部にポリマー粒子が分布し、そのポリマー粒子を包囲するように金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子が分布した凝集体が形成される。そして、この凝集体を焼成すると、凝集体の中心部に分布しているポリマー粒子の成分が凝集体の表面に微細な穴を開けながら凝集体の外部に抜け中空コア部が形成される。これによって、中空コア部と当該中空コア部を包囲するシェル部とから構成された複合粒子が得られる。なお、特に限定するものではないが、他の粒子(金属酸化物粒子、酸化物イオン伝導体粒子)よりも平均粒径が大きなポリマー粒子を使用すると、上記凝集体の中心部にポリマー粒子が分布されやすくなるため、より好適な形状の中空コア部が形成された複合粒子を容易に得ることができる。
【0046】
上述のようにして得られた「中空コア部とシェル部とから構成された複合粒子」の構造について説明する。
なお、この複合粒子に関する中空コア部およびシェル部以外の構成(金属酸化物粒子及び酸化物イオン伝導体粒子の分布状態、平均粒径、粒子全体の形状など)に関しては、上で既に説明した「複数の微細孔が形成された複合粒子」と同等であるため説明を省略する。
【0047】
中空コア部は、複合粒子の内部に形成された内部空間である。本発明を特に限定するものではないが、中空コア部の形状は略球形状であるとよい。中空コア部の形状が略球形状である場合、中空コア部の平均径は、1μm〜5μm、好ましくは3μm〜4.5μm、より好ましくは3.5μm〜4μm程度である。この複合粒子における気孔率は、70%〜95%(好ましくは75%〜90%、より好ましくは75%〜80%)程度である。ここで、中空コア部の平均径および気孔率は、複合粒子に形成されている空孔を水銀ポロシメトリーによって測定した結果に基づいて算出される。
【0048】
シェル部は、上記中空コア部を包囲するように形成されている。このシェル部は、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とから構成されており、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子はシェル部においてほぼ均等に分散している。また、このシェル部には、上記中空コア部と外界とを連通させる微細孔が形成されている。さらに、シェル部の外界側の表面には、複数の窪みが形成されている。
このシェル部の厚みは、1μm〜9μm、好ましくは2μm〜5μm、より好ましくは2.5μm〜4μm程度である。
また、シェル部に形成されている微細孔は、粒子1個あたりに概ね1個〜30個、典型的には1個〜20個、例えば1個〜10個程度形成されているとよい。シェル部に形成されている微細孔の平均孔径は、10nm〜500nm、好ましくは50nm〜200nm、より好ましくは75nm〜150nm程度であるとよい。
また、シェル部に形成されている窪みは、粒子1個あたりに概ね20個〜300個、典型的には50個〜250個、例えば100個〜200個程度形成されているとよい。
【0049】
上記製造方法で作製された複合粒子は、SOFCの燃料極の材料として用いられる。以下、上記複合粒子を燃料極の材料として用いて構成されたSOFCについて、図1を参照しながら説明する。図1は、アノード支持形セルと該セルに接合されたガス管とを備えたSOFCの断面図である。かかる図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付すが、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0050】
ここで開示されるSOFC100は、例えば、燃料極10と、空気極20と、固体電解質膜30とを備えた燃料電池セル(以下、単に「セル」と称する。)50を有している。このセル50は、従来の製造方法に準じて作製されているものでよく、特別な処理を必要としない。すなわち、ここで開示されるセル50の構成部材である燃料極10、空気極20および固体電解質膜30は、従来用いられている種々の方法により形成することができる。
【0051】
燃料極10としては、上記複合粒子からなる複合粒子材料を主成分とし、その他の添加材料としてバインダーなどを含んだ多孔質体である。なお、「複合粒子材料」とは、「表面に複数の微細孔が形成された複合粒子」と「中空コア部とシェル部から構成された複合粒子」の何れかを複数個有した(若しくはその両方を混合した)材料を指すものである。ここで開示されるSOFC100では、この燃料極10の上に固体電解質膜30が積層されている。
【0052】
上記固体電解質膜30には、上述したように、上記製造方法によって得られた複合粒子の酸化物イオン伝導体粒子と同種の金属化合物を用いることができる。当該金属化合物としては、例えば、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ガリウム(Ga)等の酸化物が使用でき、この中でも、ジルコニウムの酸化物であるジルコニア(二酸化ジルコニウム:ZrO)を好ましく用いることができる。さらに、酸化物イオン伝導体粒子としては、希土類の酸化物を上記ジルコニアに固溶させることによって結晶構造を安定化させた安定化ジルコニアの粒子を好ましく用いることができる。この安定化ジルコニアの中でも、イットリウム(Y)の酸化物を固溶させたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、スカンジウム(Sc)の酸化物を固溶させたスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などを特に好ましく用いることができる。ここでは、燃料極10の上に固体電解質20が積層されており、当該固体電解室30の上に空気極20が積層されている。
【0053】
空気極20は、従来の燃料電池セルに用いられるものと同様でよく特に制限はない。空気極20としてはランタンコバルトネート(LaCoO)系やランタンマンガネート(LaMnO)系のペロブスカイト型酸化物が好適に採用される。これらの材質から成る多孔質体をそれぞれ空気極20として使用することができる。
【0054】
上記構成を備えるセル50は、例えば、以下のようにして構築することができる。
まず、支持基材(支持体)として燃料極10を作製する。燃料極10を作製するには、先ず、上記複合粒子材料とその他の添加材料(例えばバインダー、分散剤)とを溶媒とともに混ぜ合わせて、スラリー状の燃料極用成形材料を調製する。次いで、かかる成形材料を用いて、例えば押出成形等により燃料極10の成形体を作製する。ここで、燃料極10の成形体の形状としては、シート状(または平板状)、もしくは燃料ガスを燃料極内に流入させるための中空部(ガス流路)を備えた中空箱型状、または中空扁平状(フラットチューブラ−状)などが挙げられる。なお、図1では、シート状の燃料極10を成形している。
【0055】
次に、固体電解質膜30の材料を調製する。すなわち所定の材料(例えば平均粒径0.1μm〜10μm程度のYSZ粉末、バインダー、分散剤、溶媒)を混合してスラリー状(ペースト状)の固体電解質膜30用の成形材料を調製する。この固体電解質膜30用の成形材料を上記燃料極10の上に、膜厚100μm以下(典型的には1μm〜100μm、好ましくは10μm〜100μm、例えば10μm〜50μm)で印刷成形することにより未焼成の固体電解質膜30を形成する。この燃料極10に支持された固体電解質膜30を乾燥した後に、大気中において1200℃〜1400℃の焼成温度で焼成する。これにより燃料極10の上に緻密な固体電解質膜30が形成される。
【0056】
次に、空気極20の材料を調製する。すなわち所定の材料(例えば平均粒径1μm〜10μm程度のLaSrO粉末、バインダー、分散剤、溶媒)からなるスラリー状の空気極20用の成形材料を調製する。この空気極20用の成形材料を上記固体電解質膜30の表面に膜厚100μm以下(典型的には1μm〜100μm、好ましくは10μm〜100μm、例えば10μm〜50μm)で印刷成形することにより未焼成の空気極層(膜)20を形成する。これを乾燥後、大気中において1000℃〜1200℃の焼成温度で焼成する。このようにして、上記固体電解質膜30上に空気極20を形成する。
以上の工程を経て、燃料極10、固体電解質膜30、空気極20の順に積層された構造のアノード支持形のセル50が形成される。
【0057】
次に、燃料ガスを供給するためのガス管40を上記セル50に接続する。当該ガス管40は、例えば固体電解質膜30と同質材料で形成した緻密体から構成されているものでもよいし、SOFC用として市販されているSUS430金属製のものでもよい。ガス管40の形状、サイズについては、連結されるセル(スタック)のサイズや接合部分の大きさに合わせて適宜設定される。
このガス管40をセル50に接続する際には、図1に示すように、セル50における燃料極10の一方の連結面12とガス管40の端面42とを当接させた状態で、かかる当接面(接合面)を覆うようにして接合材60を付与する。さらに、当接面を越えて固体電解質膜30との端部にまで及ぶように接合材60を付与するとよい。このとき、接合材60は、ガス管40と固体電解質膜30との間を塞ぐことにより、多孔質部材である燃料極10が外部に露出しないように付与するとよい。これは、他方の連結面についても同様である。このように接合材60を付与することにより、固体電解質膜30とガス管40との接合部分で生じ得る隙間(すなわち露出し得る多孔質な燃料極10の一部分)が上記接合材60により完全に塞がれる。このような状態で、接合材60が接合部分から流出しない温度域(例えば、800℃〜900℃程度)で焼成することによって接合部62が形成し、ガス管40とセル50とを接合、連結させることによりSOFC100が構築される。
【0058】
このSOFC100が発電を行う場合、空気極20の周囲に空気(酸素ガス)を供給し、ガス管40を通じて燃料極10に燃料ガス(水素、メタン、エタンなど)を供給する。これにより、空気極20側では、供給された酸素が空気極20内を通って固体電解質膜30との界面近傍に到達し酸化物イオン(O2−-)にイオン化される。この酸化物イオンは、固体電解質膜30を通って燃料極10側に移動する。燃料極10では、上記複合粒子を構成する金属酸化物粒子の界面と、酸化物イオン伝導体粒子(若しくは固体電解質膜30)の界面と、燃料ガスが供給され得る空孔(複合粒子材料における複合粒子間の隙間、若しくは、複合粒子の微細孔や中空コア部)の界面とから構成される三相界面において、酸化物イオンと燃料ガスとが反応する。この反応によって、燃料極10側では反応生成物(HO、CO等)が生成されながら電子が放出される。この電極反応で生じた電子は別ルートの外部負荷にて起電力として取り出される。ここで開示されるSOFC100では、燃料極10における三相界面が従来よりも増加しているため、出力特性が向上している。
【0059】
以上、本発明の一実施形態にかかる複合粒子およびその製造方法について説明した。なお、上述の製造方法は、図2に示すような装置1000を用いることによって容易に実施することができる。なお、以下に示す装置1000の構成は本発明を限定するものではない。
この装置1000は、大まかに言って、分散液Lを噴霧する噴霧部110と、該分散液の液滴を加熱することにより該液滴から分散媒を除去するチャンバー120と、分散媒が除去されることにより形成された凝集体を捕集する捕集部130と、捕集部130で捕集した凝集体を焼成する焼成炉140とから構成されている。
【0060】
噴霧部110は分散液Lを霧状の液滴としてチャンバー120内に噴霧するための部材である。図2で示す噴霧部110は、キャリアーガスを高圧で吹き出すことで分散液Lを噴霧する二流体ノズル112と、当該二流体ノズル112にキャリアーガスを供給するガス供給ユニット114とから構成されている。二流体ノズル112は、従来公知の装置(例えば、BUCHI社製、mini spray dryer B−290など)を用いることができ、例えば、ノズル先端の径が200μm〜600μm(例えば400μm)であるものが好ましい。ガス供給ユニット114は、例えば、流速3L/min〜10L/minでキャリアーガスを供給することができるものが好ましい。また、ガス供給ユニット114から供給されるキャリアーガスは、不活性ガス(例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)若しくは酸化性ガス(例えば、酸素ガス(特に好ましくは空気))を用いることができる。噴霧部110は、二流体ノズル112で噴霧された液滴をチャンバー120内に供給できるようにチャンバー120に接続されている。
【0061】
チャンバー120は、噴霧された液滴を内部にて加熱するための部材である。図2に示すチャンバー120は、内部空洞を有した筒状の部品であり、長手方向における一端が上記二流体ノズル112に接続されており、他端が後述の捕集部130に接続されている。特に限定するものではないが、チャンバー120は、全体で0.4L〜3L程度の容量を有しているものが適当であり、例えば0.9L程度の容量を有しているものを好ましく用いることができる。また、輸送管122の径は、5mm〜20mm程度が適当であり、13mm程度であるとより好ましい。
【0062】
また、上記チャンバー120の内部には加熱されたキャリアーガスが供給される。ここでは、チャンバー120にガス供給ライン122が取り付けられており、該ガス供給ライン122は、二流体ノズル112を介さずにガス供給ユニット114に接続されている。また、ガス供給ライン122には、ヒータ124が取り付けられており、ガス供給ライン122を通過するキャリアーガスは、ヒータ124によって加熱されてからチャンバー120内に供給される。ヒータ124には従来公知の電気加熱装置などを用いることができる。このヒータ124は、キャリアーガスを100℃〜400℃(典型的には100℃〜200℃)の温度域に加熱することができる。
【0063】
さらに、ここで開示される装置1000では、チャンバー120の下流に捕集部130が設けられている。捕集部130は、集塵装置132と、ドレン分離器134とから構成されている。集塵装置132は、チャンバー120内で形成された凝集体のうち、比較的に粒径の小さなものを捕集するために設けられている。一方、ドレン分離器134は、上記凝集体のうち、比較的に粒径の大きなものを捕集するために設けられている。ここで開示される装置1000では、上記集塵装置132、ドレン分離器134にて捕集された凝集体がそれぞれ容器132a,134a内に貯蔵される。
【0064】
焼成炉140は、上記捕集部130で得られた凝集体を焼成するための部材である。焼成炉140は、内部に上記凝集体を収容して加熱する。このときの焼成炉140内の温度は、400℃以上1100℃以下、好ましくは500℃以上1000℃以下、例えば700℃程度に設定するとよい。また、焼成炉140は、加熱ガス供給ユニット142と接続されており、該加熱ガス供給ユニット142から供給される加熱ガスの種類によって、焼成炉140内の雰囲気を調整することができる。当該加熱ガスとしては、不活性ガス(例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)若しくは酸化性ガス(例えば、酸素ガス(特に好ましくは空気))を用いることができる
【0065】
上記装置1000を用いて上述の製造方法を実施する手順を説明する。まず、噴霧部110の二流体ノズル112へ分散液Lとキャリアーガスを供給する。これによって、二流体ノズル112内において、高圧のキャリアーガスに分散液Lが衝突して、分散液Lが霧状の液滴としてチャンバー120内に噴霧される。このとき、チャンバー120内には、ヒータ124によって加熱された高温のキャリアーガスが、ガス供給ライン122を通じて供給されている。これによって、分散液の液滴は、高温のキャリアーガスに加熱されながらチャンバー122内を通過する。これにより、分散液の液滴中から分散媒が除去されて凝集体が形成される。この凝集体は、チャンバー122内を滞留しながら、捕集部130へ移送される。そして、形成された凝集体のうち、粒径の大きなものがドレン分離器134によって捕集され、粒径の小さなものが集塵装置132によって捕集される。
次に、ドレン分離器134及び/又は集塵装置132によって捕集された凝集体を焼成炉140内に収容して焼成する。このとき、比較的に粒径の大きな複合粒子を得るためにはドレン分離器134によって捕集された凝集体を用いればよいし、粒径の小さな複合粒子を得るためには集塵装置132によって捕集された凝集体を用いればよい。
そして、焼成炉140内で凝集体を焼成すると、凝集体からポリマー成分が除去される。これによって、金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布し、表面に複数の微細孔(若しくは、内部に中空コア部)が形成された複合粒子が得られる。このように、装置1000を用いれば、上述の複合粒子の製造方法を容易に実施することができる。
【0066】
次に、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。以下の実施例では、それぞれに異なったプロセスで作製された複合粒子(サンプル1〜5)を作製した。
【0067】
金属酸化物粒子として平均粒径7nmの酸化ニッケル(NiO)を用意し、当該酸化ニッケルを純水に懸濁させ、5mass%NiO懸濁液を調製した。そして、酸化物イオン伝導体粒子として平均粒径2nmのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用意し、当該YSZを純水に懸濁させ、5mass%YSZ懸濁液を調製した。
次に、ポリマー粒子として、平均粒径300nmのポリスチレンラテックス粒子(PSL粒子)を用意した。このPSL粒子は、窒素雰囲気下で80℃に加熱した純水120mlに27mlのスチレンを添加し、当該混合液に2−メチルプロピノアミジンを添加して、平均粒径0.3μmになるまで窒素雰囲気下で反応を進行させることによって作製した。そして、このPSL粒子を純水に懸濁させ、10mass%PSL懸濁液を調製した。
ここで、サンプル1では各粒子(NiO、YSZ、PSL粒子)の懸濁液に硝酸(HNO)を添加して、それぞれの懸濁液のpHを1.7に調整した。
【0068】
次に、上記5mass%NiO懸濁液、5mass%YSZ懸濁液、10mass%PSL懸濁液を混合し、超音波ホモジナイズを行いながらさらに純水を125ml加えて分散液Lを調製した。
【0069】
次に、図2に示すような装置1000を用いて、上記分散液を霧状の液滴としてチャンバー120内に噴霧した。このとき、二流体ノズル112に供給するキャリアーガスを空気(流速:5L/min)に設定し、上記分散液を液滴径2μm〜5μmの霧状の液滴になるようにチャンバー120内に噴霧した。
【0070】
次に、上記分散液の液滴をチャンバー120内で加熱した。ここでは、ヒータ124で加熱されたキャリアーガス(空気)をチャンバー120内へ供給することによって、噴霧された液滴を加熱する、いわゆるスプレードライ方式による造粒を行った。これによって、上記液滴中の分散媒が除去され、NiOとYSZとPSL粒子とを含む凝集体が得られた。そして、当該凝集体を捕集部130の集塵装置132で捕集した。次に、捕集部130で捕集された凝集体を、焼成炉140内に収容して、700℃で1時間焼成した。これによって、凝集体からPSL粒子が除去され、NiOとYSZからなる複合粒子を得た。以下、ここで得られた複合粒子を「サンプル1」と称する。
【0071】
〈サンプル2〉
ここでは、各粒子の懸濁液に硝酸(HNO)を添加して、それぞれのpHを3.7に調整したこと以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て複合粒子を得た。ここで得られた複合粒子を「サンプル2」と称する。
【0072】
〈サンプル3〉
ここでは、各粒子の懸濁液に硝酸(HNO)を添加して、それぞれのpHを5.7に調整したこと以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て複合粒子を得た。ここで得られた複合粒子を「サンプル3」と称する。
【0073】
〈サンプル4〉
ここでは、各粒子の懸濁液のpHを調整せずに分散液L(pH7.7)を調整したこと以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て複合粒子を得た。ここで得られた複合粒子を「サンプル4」と称する。
【0074】
〈サンプル5〉
ここでは、各粒子の懸濁液にアンモニア水(HH)を添加して、各粒子の懸濁液のpHを9.7に調整したこと以外は、上記サンプル1と同様のプロセスを経て複合粒子を得た。ここで得られた複合粒子を「サンプル5」と称する。
【0075】
上記サンプル1〜5の作製条件を下記の表1に纏める。
【0076】
【表1】

【0077】
〈サンプル1〜5のSEM観察〉
上記サンプル1〜5を走査型電子顕微鏡(FE−SEM、日立製作所、S3100H、S5000)で観察した。観察結果のSEM写真を図3〜7に示す。図3はサンプル1、図4はサンプル2、図5はサンプル3、図6はサンプル4、図7はサンプル5のSEM写真である。
【0078】
サンプル1〜5の粒子形状を比較すると、分散液LのpHを低く調整した複合粒子(サンプル1〜3)では粒子表面に多数の微細孔が形成されていた。一方、比較的pHが高い分散液Lから作製した複合粒子(サンプル4,5)では、上記微細孔の代わりに粒子表面(シェル部)に窪みが形成されていた。このサンプル4,5を、TEMやFE−SEMなどで観察すると、当該粒子の内部が空洞化し中空コア部が形成されているのが確認できた。
【0079】
〈サンプル1〜5のゼータ電位測定〉
また、各サンプル1〜5について、分散液Lを調整する前の各粒子の懸濁液を適量採取して、当該各粒子の懸濁液中に分散しているNiO、YSZ、PSL粒子のゼータ電位を測定した。ここでは、ゼータ電位測定装置(Malvern Instruments Ltd, Zetasizer, Nano series, ZEN2600)を用いて各懸濁液中の粒子の表面電荷を測定し、レーザードップラー電気泳動法を用いてゼータ電位を測定した。レーザードップラー電気泳動法とは、測定対象の粒子の分散液に電場をかけた際の、粒子の移動度、電場の強さ、分散液の粘度、誘電率を測定し、測定結果からゼータ電位を測定する方法である。上記測定の結果を図8に示す。
【0080】
図8に示すように、pHを酸性に調整したサンプル1〜3では、分散液中の各粒子のゼータ電位の符号が+となっており、その値も近似していた。これに対して、中性〜アルカリ性に調整したサンプル4,5では、YSZのゼータ電位の符号が−となっていた。
以上のことから、噴霧乾燥に提供する前の分散液のpHを酸性(ここではpH1〜pH4)に調整すると、分散液中の各粒子のゼータ電位の符号が等しくなり、表面に微細孔が多数形成された複合粒子が得られることが分かった。一方、分散液のpHを中性〜アルカリ性(ここではpH7〜pH10)に調整すると、分散液中においてYSZ粒子のゼータ電位のみが(−)となり他の二種の粒子と異符号となった結果、中空コア部と、該中空コア部を包囲するシェル部とから構成される複合粒子が得られることが分かった。
【0081】
〈サンプル2のHR−TEM観察〉
次に、上述のSEMよりもさらに拡大して複合粒子を観察するために、高分解能透過電子顕微鏡(HR−TEM)でサンプル2を観察した。当該観察結果を図9に示す。
【0082】
図9に示すように、サンプル2には長径140nm程度の楕円形の微細孔が形成されていた。また、微細孔の周辺にはニッケル粒子とジルコニア粒子とがほぼ均等に分布していた。すなわち、サンプル2の微細孔の周辺では、ニッケルとジルコニアと燃料ガスとが接触する三相界面が多数形成されていることがわかる。
【0083】
次に、サンプル2に対して、水銀ポロシメーターを行ってサンプル2に形成されている微細孔の細孔径とサンプル2における気孔率を測定した。この測定結果を図10に示す。このグラフの右側の縦軸は「微分細孔容積」を示しており、プロットAに対応している。また、左側の縦軸は「積算細孔径容積」を示しており、プロットBに対応している。
このグラフ(図10)のプロットA(微分細孔容積)によると、サンプル2の複合粒子には、孔径が0.3μm〜7.0μmの微細孔が多く形成されており、特にその中でも0.3μmの微細孔が数多く形成されていることがわかった。このことから、サンプル2では、分散液に添加したPSL粒子の平均粒径(0.3μm)と同じ大きさの孔径を有した微細孔が多数形成されることがわかった。
また、プロットBの「積算細孔径容積」に基づいて計算を行った結果、サンプル2の気孔率が70%以上であった。このことから、上述のTEMやFE−SEMによる観察結果と同様に、サンプル2には多数の微細孔が形成されていることが分かった。
【0084】
〈サンプル2の構成元素の分布〉
次に、サンプル2を構成する元素の分布を調べた。ここでは、サンプル2のTEM写真の撮影と、エネルギー分散X線スペクトラム解析と、ジルコニウム及びニッケルの元素マッピングを行った。これらの測定結果を図11に示す。図11の(a)はSEM写真、(b)はTEM写真、(c)はエネルギー分散X線スペクトラム解析の結果、(d)は元素マッピングの結果を示している。
図11(c)に示されるように、サンプル2に対してエネルギー分散X線スペクトラム解析を行うと、サンプル2にはニッケル元素とジルコニウム元素が多く含まれていることが分かった。ニッケル元素は、金属酸化物粒子としての酸化ニッケル(NiO)に由来し、ジルコニウム元素は、酸化物イオン伝導体粒子としてのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)に由来するものと推察できる。
【0085】
次に、元素マッピングの結果(図11(d)参照)から、サンプル2ではニッケル元素とジルコニウム元素とが粒子全体においてほぼ均等に分布していた。このことから、サンプル2の複合粒子では、NiOとYSZとがほぼ均等に分布していることが分かった。
また、ニッケル元素が分布している面積を、ジルコニウム元素が分布している面積で割った値(Ni/Zr)を算出した結果、サンプル2の複合粒子ではNi/Zrの値が0.8〜1.2の範囲内となった。
【0086】
〈サンプル2を用いたSOFCの電池性能評価〉
次に、上記サンプル2の複合粒子を燃料極の材料として用いて、試験用SOFCセルAを構築し、その電池特性を調べた。また、ここでは、セルAに対する比較例としてセルB,Cも構築し、その電池特性を調べた。
【0087】
〈セルA〉
ここでは、10gのサンプル2と、0.6gのメチルセルロース系バインダーを、4mlの水に分散させて、スラリー状の燃料極用成形材料を調製した。そして、スクリーンプリント法を用いて、固体電解質としてのイットリア安定化ジルコニア(8YSZディスク:25mm×1mm)の表面に上記燃料極用成形材料を印刷した後に、大気雰囲気下で焼成(1100℃、2時間)を行うことによって燃料極を形成した。
【0088】
また、平均粒径1μm〜10μm程度のLaSrO粉末(LSM)、バインダー、分散剤、溶媒)からなるスラリー状の空気極用成形材料を固体電解質の裏側にを印刷した後に、大気雰囲気下で焼成(1000℃、4時間)を行うことによって空気極を形成した。これによって、燃料極と空気極と固体電解質膜とから構成された試験用SOFCセルAを構築した。
【0089】
〈セルB〉
セルBでは、燃料極の材料として、サンプル2を用いるかわりにNiO粉末(平均粒径3μm)とYSZ粉末(平均粒径0.3μm)を6:4で混合した粉末を用いた。なお、セルBを構築するにあたり、燃料極の材料に上述の粉末を用いた以外は上記セルAと同じプロセスを行った。
【0090】
〈セルC〉
また、セルCでは、サンプル2のかわりにNiO粉末(平均粒径3μm)とスカンジア安定化ジルコニア(10ScSZ)粉末(平均粒径0.6μm)を6:4で混合した粉末を用いた。当該10ScSZ粉末は、上述のYSZ粉末に比べてイオン伝導率が高く、SOFCの出力密度を高めることができる反面、YSZ粉末に比べてコストの面で劣ると言う特徴を有している。なお、セルCも、燃料極の材料に上述の粉末を用いた以外は上記セルAと同じプロセスで構築されている。
【0091】
〈セルA〜Cの相対出力密度の測定〉
上述のようにして構築した各々のSOFCセルA〜Cの各々の出力密度を測定した。具体的には、セルの温度を800℃に維持しながら、燃料極に燃料ガス(加湿した水素ガス)を供給するとともに空気極に空気を供給して各セルA〜Cを発電させた。そして、電圧が0.7Vの時の電流値を測定し、電圧0.7V時の電流値を基準とした場合の最大出力密度を測定した。次に、基準となるセルとしてセルBを選出し、セルBの最大出力密度に対するセルA,Cの最大出力密度を相対的に比較した。このときの値を「相対出力密度」と定め、セルBの「相対出力密度」を100とした上で、セルA、Cの「相対出力密度」を算出した。この算出結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
表2に示すように、セルAの方がセルBよりも相対的に高い出力密度を有していた。このことから、燃料極の材料として同種の金属酸化物粒子(NiO粒子)と酸化物イオン伝導体粒子(YSZ粒子)を用いた場合であっても、ここで開示される複合粒子を用いた方がより高い出力密度を得られることが分かった。
また、セルAとセルCとを比較した場合、セルCは、セルAよりもイオン伝導率の高い酸化物イオン伝導体粒子(10ScSZ)を燃料極の材料として用いているが、セルAの方がセルCよりも出力密度が高くなっていた。このことから、ここで開示される複合粒子を用いて燃料極を構成すると、高コストの酸化物イオン伝導体を用いなくても、SOFCの出力密度を大幅に向上できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
ここで開示される製造方法によって製造される複合粒子は、SOFCの燃料極の材料として用いることができる。このとき、燃料極における三相界面の数を増加させ、SOFCの出力特性を大幅に向上させることができる。
【符号の説明】
【0095】
10 燃料極
20 空気極
30 固体電解質膜
40 ガス管
50 セル
100 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
110 噴霧部
112 二流体ノズル
114 ガス供給ユニット
120 チャンバー
122 ガス供給ライン
124 ヒータ
130 捕集部
132 集塵装置
134 ドレン分離器
140 焼成炉
142 加熱ガス供給ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒として機能する金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とを含み、固体酸化物形燃料電池の燃料極の材料として用いられる複合粒子を製造する方法であって、
前記金属酸化物粒子及び前記酸化物イオン伝導体粒子を、所定の有機高分子化合物からなるポリマー粒子とともに分散媒中に分散させた分散液を用意すること;
前記分散液を液滴としてチャンバー内に噴霧すること;
前記液滴を前記チャンバー内で加熱することにより、前記分散液から前記分散媒を除去して、前記金属酸化物粒子と前記酸化物イオン伝導体粒子と前記ポリマー粒子とが凝集してなる凝集体を得ること;
前記凝集体を焼成して前記ポリマー粒子を構成する成分を除去することにより複合粒子を得ること;
を包含する製造方法。
【請求項2】
前記分散液のpHを、前記金属酸化物粒子と前記酸化物イオン伝導体粒子と前記ポリマー粒子のゼータ電位の符号が等しくなるように調整し、該pH調整された分散液を前記チャンバー内に噴霧する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記分散液のpHを、pH1〜pH4に調整する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記分散液のpHを、前記金属酸化物粒子と前記酸化物イオン伝導体粒子と前記ポリマー粒子のうちのいずれか一種の粒子のゼータ電位が他の二種の粒子のゼータ電位と異符号になるように調整し、該pH調整された分散液を前記チャンバー内に噴霧する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記分散液のpHを、pH7〜pH10に調整する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリマー粒子として、平均粒径が50nm〜500nmであるポリマー粒子を使用する、請求項1〜5の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物粒子として、平均粒径が1nm〜50nmである金属酸化物粒子を使用する、請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸化物イオン伝導体粒子として、平均粒径が1nm〜50nmである酸化物イオン伝導体粒子を使用する、請求項1〜7の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記酸化物イオン伝導体粒子(C)に対する前記金属酸化物粒子(M)の質量比M/Cが0.5〜3の範囲内になるように前記分散液を調製する、請求項1〜8の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物粒子として酸化ニッケル粒子を用いる、請求項1〜9の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記酸化物イオン伝導体粒子としてジルコニア粒子を用いる、請求項1〜10の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
固形酸化物形燃料電池の燃料極に用いられる複合粒子であって、
触媒として機能する金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とを含み、
前記金属酸化物粒子と前記酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布しており、
表面に複数の微細孔が形成されている、複合粒子。
【請求項13】
前記微細孔の平均孔径が10nm〜500nmである、請求項12に記載の複合粒子。
【請求項14】
前記複合粒子における気孔率が50%〜95%である、請求項12又は13に記載の複合粒子。
【請求項15】
固形酸化物形燃料電池の燃料極に用いられる複合粒子であって、
触媒として機能する金属酸化物粒子と酸化物イオン伝導体粒子とを含み、
中空コア部と、該中空コア部を包囲するシェル部とから構成されており、
前記シェル部では前記金属酸化物粒子と前記酸化物イオン伝導体粒子とがほぼ均等に分布している、複合粒子。
【請求項16】
前記中空コア部の平均径が1μm〜5μmである、請求項15に記載の複合粒子。
【請求項17】
前記複合粒子における気孔率が70%〜95%である、請求項15又は16に記載の複合粒子。
【請求項18】
請求項1〜11の何れか一項に記載の製造方法によって得られた複合粒子。
【請求項19】
請求項12〜18の何れか一項に記載の複合粒子を燃料極に用いてなる固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−133893(P2012−133893A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282431(P2010−282431)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】