説明

X線検出装置

【課題】冷却装置の振動に起因するマイクロフォニック雑音の出力信号での発生が低減されたX線検出装置を提供する。
【解決手段】X線を検出する半導体X線検出素子11を有する検出部10と、半導体X線検出素子11を冷却する冷却装置20と、冷却動作により冷却装置20で発生する機械的振動と同一周期且つ同一方向に検出部10が振動するように、検出部10と冷却装置20とを剛性的に接続する接続装置30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクリック動作を行う冷却装置によって半導体X線検出素子を冷却するX線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体X線検出素子を用いた、物質から放出される物質固有のX線を分析するX線分析装置が使用されている。これらのX線分析装置は、半導体X線検出素子を冷却するために冷却装置を有する。
【0003】
例えば、液体窒素を用いる冷却装置によって半導体X線検出素子を冷却することが可能である。しかし、液体窒素を用いる冷却装置では、定期的に液体窒素を冷却装置に供給する必要がある。このため、冷却装置の維持が容易でなく、液体窒素の入手が困難な場所での使用が難しい。また、液体窒素を蓄える冷却槽を必要とするため、液体窒素型のX線検出装置の小型化は困難である。
【0004】
このため、液体窒素を用いない、スターリング冷凍機などのサイクリック動作によって冷却を行う冷却装置の使用が検討されている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−77579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、サイクリック動作を行う冷却装置によって半導体X線検出素子を含む検出部を冷却する場合には、図7に示す初段増幅器のフィードバック容量として働く浮遊容量Csの変動が冷却装置の機械的な振動による検出器真空容器と初段FET入力配線の相対位置変化により誘発され検出部の出力信号にマイクロフォニック雑音が発生する。このため、X線検出装置のエネルギー分解能が低下するという問題があった。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、冷却装置の振動に起因するマイクロフォニック雑音の出力信号での発生が低減されたX線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、X線を検出する半導体X線検出素子を有する検出部と、半導体X線検出素子を冷却する冷却装置と、冷却動作により冷却装置で発生する機械的振動と同一周期且つ同一方向に検出部が振動するように、検出部と冷却装置とを剛性的に接続する接続装置とを備え振動による浮遊容量の変化を小さくしたX線検出装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却装置の振動に起因するマイクロフォニック雑音の出力信号での発生が低減されたX線検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るX線検出装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係るX線検出装置の冷却装置の固定方法例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係るX線検出装置の検出部の固定方法例を示す模式図である。
【図4】比較例のX線検出装置の出力信号の波形例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態に係るX線検出装置の出力信号の波形例を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態に係るX線検出装置により得られるスペクトルの例を示すグラフである。
【図7】本発明を説明するためのマイクロフニック雑音発生原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
本発明の実施形態に係るX線検出装置1は、図1に示すように、X線を検出する半導体X線検出素子11を有する検出部10と、半導体X線検出素子11を冷却する冷却装置20と、冷却動作により冷却装置20で発生する機械的振動と同一周期且つ同一方向に検出部10が振動するように、検出部10と冷却装置20とを剛性的に接続する接続装置30とを備える。
【0013】
先ず、検出部10の構成について説明する。検出部10は、半導体X線検出素子11と、半導体X線検出素子11の出力信号を受信する初段FET回路12と、半導体X線検出素子11と初段FET回路12を支持するコールドフィンガー13を有する。コールドフィンガー13は例えば筒形状であり、この場合、半導体X線検出素子11及び初段FET回路12はコールドフィンガー13の内部に格納される。
【0014】
図1に示すように、半導体X線検出素子11、初段FET回路12及びコールドフィンガー13を有する検出部10は、支持板101に支持されて真空容器14の内部に固定されている。X線検出時に、真空容器14の内部は真空状態に維持される。図示を省略する測定対象物から放出されたX線(以下において「入射X線」という。)XINは、真空容器14に配置された入射窓15を透過して、半導体X線検出素子11に入射する。入射窓15は、例えばベリリウム(Be)からなる。
【0015】
半導体X線検出素子11は、例えばシリコン(Si)単結晶にリチウム(Li)を拡散させて形成したP−I−N接合を有する半導体素子である。入射X線XINが半導体X線検出素子11に入射すると、I層に入射した入射X線XINにより半導体X線検出素子11内に電子と正孔が生じ、外部に電流パルスとして検出される。
【0016】
初段FET回路12は、半導体X線検出素子11から出力される電気的な出力信号を受信する。具体的には、入射X線XINの入射によって半導体X線検出素子11に生成された検出電流が、初段FET回路12の電界効果トランジスタ(FET)のゲート電極に入力される。そして、半導体X線検出素子11の検出電流は、初段FET回路12によって、入射X線XINのエネルギーに比例した電圧に変換・増幅され、検出信号として出力される。
【0017】
初段FET回路12から出力された検出信号は、プリアンプ100により増幅される。プリアンプ100から出力される出力信号STを解析することにより、測定対象物に含まれる元素を特定可能である。
【0018】
コールドフィンガー13は、半導体X線検出素子11及び初段FET回路12を支持すると共に、半導体X線検出素子11及び初段FET回路12を冷却するために、冷却装置20と熱的に接続されている。図1に示した例では、支持板101、編組線16及び熱伝導体211を介してコールドフィンガー13が冷却装置20と熱的に接続されている。これにより、コールドフィンガー13は冷却装置20によって冷却される。
【0019】
支持板101、編組線16は、例えば銅(Cu)などの熱伝導性の高い材料からなり、冷却装置20の表面に配置される低温部210と熱的に接続されている。図1において、ハッチングを付して低温部210を示している。支持板101及び編組線16を介して冷却装置20によってコールドフィンガー13が冷却される。そして、冷却されたコールドフィンガー13に接触する半導体X線検出素子11及び初段FET回路12が冷却される。
【0020】
低温部210は、冷却装置20のコールドヘッド21の一部であり、真空容器14の内部に配置される。また、編組線16を低温部210と直接に接続することが困難である場合には、図1に示すように、低温部210に接触する高熱伝導率の熱伝導体211に編組線16を接続する。
【0021】
コールドフィンガー13の素材を熱伝導率の高い材料、例えば銅やアルミニウムなどにすることによって、半導体X線検出素子11及び初段FET回路12を効率的に冷却することができる。
【0022】
次に、冷却装置20について説明する。サイクリック動作を行うことによって半導体X線検出素子11を液体窒素温度近辺まで冷却する冷却装置20には、例えばスターリング冷凍機などが採用可能である。サイクリック動作を行う冷却装置20では、冷却動作時における振動の発生が避けられない。
【0023】
ここで、冷却動作時において冷却装置20に発生する機械的な振動の方向(以下において、「振動方向」という。)が、図1に矢印Yで示した横方向、即ち図面の左右方向であるとする。つまり、冷却装置20の振動方向は、検出部10と冷却装置20の配置された方向に沿っている。図1に示した実施形態では、カウンターバランス22を冷却装置20の振動方向に配置することによって、冷却装置20の振動の大きさが抑制されている。また、ラジエータ23による送風により、冷却装置20の放熱が行われる。
【0024】
冷却装置20は、固定ベース31に搭載され、固定リング32によって冷却装置20が固定ベース31に固定されている。固定リング32の上部に、2本の固定バー33が固定されている。固定バー33は、固定ベース31に検出部10を固定するフランジ34と固定リング32とを固定する。
【0025】
図2に、振動方向からみた冷却装置20の状態を示す。図2に示すように、略円形の冷却装置20の外周に沿って固定リング32が配置され、ねじ40a〜40cによって固定リング32が冷却装置20に固定されている。固定リング32は、ねじ50a〜50bによって固定ベース31に固定されている。これにより、冷却装置20は固定ベース31に固定される。なお、固定バー33は、ねじ60a〜60bによってそれぞれ固定リング32に固定されている。
【0026】
図3に、振動方向からみたフランジ34の状態を示す。図1、図3に示すように、フランジ34の中心部に冷却装置20のコールドヘッド21が嵌め込まれている。また、真空容器14の開口部分がフランジ34によって塞がれるように、コールドヘッド21が嵌め込まれた領域の周囲において、検出部10がフランジ34に固定されている。つまり、真空容器14とフランジ34によって、真空容器14内部の真空領域が形成される。したがって、コールドヘッド21が、真空容器14内部の真空領域に配置されることになる。
【0027】
フランジ34の底部は、ねじ70a〜70bによって、固定ベース31に固定されている。そして、フランジ34の上部と固定バー33とはねじ80a〜80bによって固定されている。したがって、固定リング32とフランジ34とは、固定バー33及び固定ベース31を介して剛性的に接続されている。その結果、検出部10と冷却装置20とが剛性的に接続される。
【0028】
なお、同相で振動するように検出部10と冷却装置20とを剛性的に接続することができるのであれば、接続装置30の構成は上記に限られない。例えば、固定バー33の本数は2本に限られない。また、固定リング32とフランジ34とをシート状の材料でつなぎ、冷却装置20の側面を覆ってもよい。
【0029】
真空容器14とフランジ34とによって形成される真空領域に、コールドヘッド21の低温部210と、コールドフィンガー13とが、支持板101、編組線16及び熱伝導体211を介して熱的に接続されている。これにより、コールドフィンガー13が冷却装置20によって冷却される。
【0030】
上記のように、固定ベース31、固定リング32、固定バー33、及びフランジ34は、検出部10と冷却装置20とを剛性的に接続する接続装置30として機能する。固定ベース31、固定リング32、固定バー33、及びフランジ34は、例えばアルミニウム材やSUSなどのステンレス鋼材からなる。
【0031】
冷却装置20が振動すると、その振動が接続装置30を介して検出部10に伝播する。上記のように、固定ベース31、固定リング32、固定バー33、及びフランジ34によって検出部10と冷却装置20とが剛性的に接続されているため、検出部10は、冷却装置20の振動と同一方向に同一周期で振動する。つまり、検出部10と冷却装置20が同相で振動する。
【0032】
例えばスターリング冷凍機により検出部10を冷却する場合を考える。検出部10とスターリング冷凍機とを剛性的に接続しない場合は、スターリング冷凍機の発生する振動(振幅は10μm程度)により、半導体X線検出素子11の検出信号を増幅するプリアンプ100の出力信号STに、図4に示すようにマイクロフォニック雑音が発生する。その結果、X線検出装置のエネルギー分解能が劣化する。
【0033】
しかし、図1に示したX線検出装置1では、検出部10と冷却装置20とは接続装置30によって剛性的に接続されている。このため、検出部10と冷却装置20は、冷却装置20の機械的振動と同一方向に同一周期で、同相に振動する。検出部10と冷却装置20とが同相で振動するように機械的剛性を高めたことによって、図5に示すように、プリアンプ100の出力信号STには、冷却装置20において発生する振動に起因するマイクロフォニック雑音は発生しない。
【0034】
図6に、図1に示したX線検出装置1により得られたスペクトルAと、液体窒素冷却型のX線検出装置により得られたスペクトルBとの比較を示す。図6は、Fe55線源からMnKa−X線スペクトルを比較した例である。
【0035】
図6に示すように、X線検出装置1では、検出部10と冷却装置20が同相で振動することによりマイクロフォニック雑音が出力信号に発生しないため、液体窒素冷却型のX線検出装置と同等のエネルギー分解能が得られる。
【0036】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係るX線検出装置1では、接続装置30によって検出部10と冷却装置20とが剛性的に接続され、検出部10と冷却装置20とは同一周期、同一方向に振動する。その結果、冷却装置20の振動に起因するマイクロフォニック雑音の出力信号での発生が低減されたX線検出装置を提供できる。
【0037】
したがって、X線検出装置1によれば、無振動の液体窒素冷却型のX線検出装置と同等のエネルギー分解能が得られる。つまり、液体窒素冷却型のX線検出装置と比較して冷却装置の維持が容易であり、且つ小型化の容易なサイクリック動作を行うX線検出装置を、エネルギー分解能の低下なしに実現できる。
【0038】
なお、本発明の実施形態に係るX線検出装置1は、例えばエネルギー分散型臨界X線分析装置(EDXRF)やエネルギー分散型X線分析装置(EDS)などのX線検出装置として使用できる。更に、本発明は、サイクリック動作により冷却を行う冷却装置の振動に起因して発生するマイクロフォニック雑音が性能に影響する、各種の装置に適用することも可能である。
【0039】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0040】
既に述べた実施形態の説明においては、コールドフィンガー13に接触する支持板101が編組線16によって冷却装置20と熱的に接続されている例を示した。しかし、検出部10と冷却装置20は同相で振動するため、熱伝導性の良い材料であれば、弾力のある編組線16ではなく、剛体で支持板101と冷却装置20とを熱的に接続してもよい。
【0041】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0042】
1…X線検出装置
10…検出部
11…半導体X線検出素子
12…初段FET回路
13…コールドフィンガー
14…真空容器
15…入射窓
16…編組線
20…冷却装置
21…コールドヘッド
22…カウンターバランス
23…ラジエータ
30…接続装置
31…固定ベース
32…固定リング
33…固定バー
34…フランジ
100…プリアンプ
210…低温部
211…熱伝導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を検出する半導体X線検出素子を有する検出部と、
前記半導体X線検出素子を冷却する冷却装置と、
冷却動作により前記冷却装置で発生する機械的振動と同一周期且つ同一方向に前記検出部が振動するように、前記検出部と前記冷却装置とを剛性的に接続する接続装置と
を備えることを特徴とするX線検出装置。
【請求項2】
前記接続装置が、
前記冷却装置を搭載する固定ベースと、
前記固定ベースに前記冷却装置を固定する固定リングと、
前記固定ベースに前記検出部を固定するフランジと、
前記固定リングと前記フランジとを固定する固体バーと、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のX線検出装置。
【請求項3】
前記冷却装置が、スターリング冷凍機であることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線検出装置。
【請求項4】
前記検出部が、
X線を検出する半導体X線検出素子と、
前記半導体X線検出素子の出力信号を受信する初段FET回路と、
前記半導体X線検出素子と前記初段FET回路を支持する、前記冷却装置と熱的に接続されたコールドフィンガーと
を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−68502(P2013−68502A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206900(P2011−206900)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】