説明

X線診断装置用天板およびその製造方法

【課題】繊維強化樹脂で成形された筒状部材とその筒状部材の一端開口部に嵌合された金属あるいは繊維強化樹脂製補強部材とからなるX線診断装置用天板において、大きな荷重が負荷された場合にも、筒状部材と補強部材との接合部で十分な接合強度を確保できるとともに、長期にわたって優れた強度信頼性を維持できるX線診断装置用天板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂で形成され、相対する面が幅方向に異なった曲率を有する筒状部材と、筒状部材の長手方向一端開口部に、相似形状の断面形状の補強部材が嵌入されて接着接合された天板であって、補強部材は、表面に接着剤が塗布された状態で、筒状部材開口部における上記相対する面間の筒状部材厚さ方向間隔が大きくなるように変形された状態の筒状部材開口部に嵌入、接着されていることを特徴とするX線診断装置用天板、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅方向に曲率を有する筒状部材開口部に、断面形状が、前記筒状部材開口部の長手方向に垂直な方向における断面形状と類似形状の金属または繊維強化樹脂で形成されてなる補強部材を接着接合してなるX線診断装置用天板およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、筒状部材とその開口部に接着接合される補強部材間の接着剤の充填率として80%以上を確保でき、大きな荷重が負荷されても十分な接着接合強度が確保できるX線診断装置用天板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線診断装置で人体を透視する場合、被検体の人体を天板の上に載せて撮影する。人体を載せる天板は、体重を支えるのに十分な強度、剛性を備えるとともに、撮影画像を鮮明にするためにX線透過性に優れた材料から構成されることが必要である。このような観点から、X線診断装置用天板に使用される材料としては、強度、弾性率に優れ、かつX線透過性に優れた繊維強化樹脂、中でも炭素繊維強化樹脂が広く使用されている。炭素繊維強化樹脂は、通常、炭素繊維と熱硬化性樹脂とで構成されることが多い(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
この従来の炭素繊維強化樹脂からなるX線診断装置用天板では、天板形状に加工したコア材のX線非透視部端部に、外部他部材に支持されるための厚手の金属部材をインサートし、その表面に、未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維織物を貼り付け、加熱硬化させて面板を成形した一体成形のサンドイッチ構成が主流になっている。
【0004】
しかし、特許文献1や特許文献2で開示される技術では、コア材がX線透過性を阻害するため、天板として必ずしも十分なX線透過性能が得られず、鮮明な画像が得られないというが問題が生じる恐れがあった。また、コア材自体の材料費が高価で、かつ天板形状への加工が必要であることから、製造コストが高くなる問題があった。さらに、未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維織物の貼り付けを手作業で行うため、作業環境の悪化や、生産性が低い問題を有していた。
【0005】
かかる問題に対し、例えば、空間が直線状に貫通する中空の外型の空間に中子を挿入し、該中子と中空外型に囲まれた成形空間を形成した金型を使用し、炭素繊維に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた基材を前記金型成形空間に挿通するとともに、金型を加熱しながら基材に張力を加えて引き抜くことにより、コアを使用しなくとも製作できるX線診断装置用筒状部材の成形方法が開示されている(特許文献3)。また、炭素繊維強化樹脂で構成された中空構造の天板と、その長さ方向の片側において片持ち状態を実現するために、その筒状部材の非透視部にアルミ合金製の金属部材を補強部材として嵌合したものが開示されている(特許文献4)。
【0006】
コアを挿入しないX線診断装置用天板の場合には、コアを挿入した天板に比べ、X線透過性を向上させることができる。しかし、天板を構成する筒状部材の上下2枚の面板は、その幅方向両端で連結されているだけであるため、大きな曲げ荷重が天板に負荷された場合、コアのない筒状部材は、コアを挿入した筒状部材よりも変形が大きくなり、筒状部材と金属部材とを接着剤で接着していても両部材間に剥離が起こり易く、筒状部材と金属部材間の接着接合力は、コアを挿入した天板における筒状部材と金属部材間の接着接合力より、大きな接合力が必要になる。
【0007】
しかし、筒状部材開口部に、筒状部材開口部の長手方向に垂直な方向における断面形状と類似形状の補強部材を接着により接合する場合には、表面に接着剤を塗布した補強部材を、筒状部材開口部に押し込む際、補強部材表面に塗布した接着剤が筒状部材開口部先端で掻き取られ、必要な接着剤が充填出来ず、十分な接合強度が得られないという問題がある。
【0008】
筒状部材と補強部材との間隙に接着剤を充填するために接合部筒状部材に穴加工を施し、接着剤をその穴から圧入する方法もあるが、間隙厚みのばらつき、被着部の表面性状のばらつきなどにより接着剤充填均一性の信頼性に乏しく十分な接合強度が得られないという問題がある。接合力を向上させる他の方法として、ボルト締結、リベット締結などの機械的な締結方法もあるが、繊維強化樹脂は脆性的な性質を持つため、大きな荷重が負荷された場合、穴周りで応力集中を起こし十分な接合効果が得られない。接合強度を上げるためには接合箇所を多くする必要があるが、機械加工工数が増加し、コストアップになるため得策でない。
【特許文献1】実開平5−62208号公報
【特許文献2】特開2004−216021号公報
【特許文献3】特開2003−319936号公報
【特許文献4】特開2007−020986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、繊維強化樹脂で成形された筒状部材とその筒状部材の一端開口部に嵌合された金属あるいは繊維強化樹脂製部材で形成されてなる補強部材とからなるX線診断装置用天板において、大きな荷重が負荷された場合にも、筒状部材と補強部材との接合部で十分な接合強度を確保できるとともに、長期にわたって優れた強度信頼性を維持できるX線診断装置用天板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るX線診断装置用天板の製造方法は、繊維強化樹脂で形成され、相対する面が幅方向に異なった曲率を有する筒状部材と、その筒状部材の長手方向一端開口部に、断面形状が前記筒状部材開口部の長手方向に垂直な方向における断面形状と類似形状の補強部材を嵌入して接着接合するX線診断装置用天板の製造方法であって、前記筒状部材の開口部を、該筒状部材開口部における前記相対する面間の筒状部材厚さ方向間隔を大きくするように変形させた状態で、表面に接着剤を塗布した補強部材を筒状部材開口部に嵌入し、接着することを特徴とする方法からなる。
【0011】
このX線診断装置用天板の製造方法においては、上記相対する面間の筒状部材厚さ方向間隔を大きくするように変形させる方法としては、筒状部材の前記接着接合対象部位における凸面頂部と凹面幅方向両端部との間に、筒状部材厚さ方向に相対する方向の負荷を加える方法を採用することが好ましい。
【0012】
上記において、筒状部材厚さ方向に相対する方向の負荷を加えた時の、筒状部材の前記凸面頂部と凹面幅方向両端部との間における筒状部材厚さ方向の変形量は3mm以上7mm以下であることが好ましい。
【0013】
また、筒状部材厚さ方向に相対する方向の負荷を加えた時の、筒状部材開口部と補強部材との筒状部材厚さ方向の隙間は1mm以上4mm以下であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明に係るX線診断装置用天板の製造方法においては、補強部材に塗布される接着剤が、補強部材の表面に被覆されたシートに担持されている形態とすることも可能である。
【0015】
本発明に係るX線診断装置用天板は、繊維強化樹脂で形成され、相対する面が幅方向に異なった曲率を有する筒状部材と、その筒状部材の長手方向一端開口部に、断面形状が前記筒状部材開口部の長手方向に垂直な方向における断面形状と相似形状の金属または繊維強化樹脂で形成されてなる補強部材が嵌入されて接着接合されたX線診断装置用天板であって、前記補強部材は、表面に接着剤が塗布された状態で、筒状部材開口部における前記相対する面間の筒状部材厚さ方向間隔が大きくなるように変形された状態の筒状部材開口部に嵌入、接着されていることを特徴とするものからなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、繊維強化樹脂、とくに炭素繊維強化樹脂で形成された筒状部材とその一端開口部に、断面形状が前記筒状部材開口部の長手方向に垂直な方向における断面形状と類似形状の補強部材を接着接合するに当たって、両部材の嵌合時に補強部材の表面に塗布された接着剤層に相当する厚さより大きな隙間が両部材間の接着部位に形成されるため、補強部材の筒状部材開口部への挿入に当たって、補強部材の表面に塗布された接着剤が筒状部材開口部先端により掻き取られることが無く、容易に目標とする80%以上の接着剤充填率を確保でき、大きな荷重が負荷された場合にも、筒状部材と補強部材との接合部で十分な接合強度を有するとともに、長期にわたる強度信頼性に優れたX線診断装置用天板を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係るX線診断装置用天板およびその製造方法について、望ましい実施形態とともに詳細に説明する。
本発明のX線診断装置用天板の製造方法は、繊維強化樹脂で形成され、相対する面が幅方向に異なった曲率を有する長尺の筒状部材に、その筒状部材の長手方向一端開口部に、断面形状が前記筒状部材開口部の長手方向に垂直な方向における断面形状と類似形状の金属または繊維強化樹脂で形成されてなる補強部材を嵌入し、接着接合する方法である。特に、補強部材を嵌入させる際、筒状部材を、開口部の筒状部材厚さ方向間隔が大きくなるように変形させた状態で、表面に接着剤を塗布した補強部材を筒状部材開口部に嵌入、接着することを特徴としている。
【0018】
まず最初に、筒状部材について説明する。
筒状部材の面板部は、被検体を安定して支持する目的から、湾曲形状であることが好ましい。湾曲形状は、空間が直線状に貫通する湾曲形状中空外型の空間に、所定湾曲形状の中子を挿入し、該中子と中空外型に囲まれた成形空間を形成した金型を使用し、炭素繊維に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた基材を前記金型成形空間に挿通するとともに、金型を加熱しながら基材に張力を加えて引き抜くことにより成形する。この成形方法により、曲率の異なる2枚の面板を、凸側が同じ向きに揃えられた、長手方向と直角な向きの断面が略三日月状の筒状部材が得られる。それぞれの面板の厚みは、それぞれの面板に必要とされるX線透過性及び強度、剛性を満足するように設計する。例えば、被検体が人体の場合、被検体を載置する面板の曲率半径を600〜800mmとすると、被検体を安定して載置できる点で好ましい。また、耐荷重を試験荷重の2.5〜4倍となるように設計すれば、被検体を天板に積載したり降ろしたりする際に掛かる荷重にも耐えることができる。
【0019】
面板を形成する繊維強化樹脂は、炭素繊維と樹脂とからなる炭素繊維強化樹脂を用いると、強度、弾性率に優れ、かつX線透過性に優れた面で適している。このうち、樹脂としては、天板に必要とされる強度、剛性を確保でき、炭素繊維との接着性に優れた熱硬化性樹脂が適している。熱硬化性樹脂としては、前述の理由から従来はエポキシ樹脂が使用されることが多かったが、難燃性付与や成形の容易さ、炭素繊維への含浸性、硬化時間等の生産性、コスト等の観点から、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂なども使用できる。
【0020】
また、炭素繊維としては、高強度を有する炭素繊維が好んで用いられるが、より大きな剛性が必要とされる天板では高弾性率を有する炭素繊維も用いられる。炭素繊維同士、もしくは炭素繊維および補助糸を、それぞれ経糸と緯糸に用いて織り込んだ織物として使用することが多い。このような織物は基材と呼ばれ、経糸および緯糸ともに炭素繊維を用いたクロス基材は成形のしやすさから好んで使用される。また、長手方向の剛性を向上させるため、経糸のみ炭素繊維を用いた一方向強化基材と組み合わせて使用されることもある。
【0021】
上記の基材に樹脂を含浸させた炭素繊維強化樹脂における炭素繊維の体積含有率は、40〜70%の範囲であるのが良い。体積含有率が40%を下回ると、炭素繊維強化樹脂としての機械的強度が乏しくなり、逆に70%を上回ると、樹脂が炭素繊維間に満遍なく含浸されなくなり、機械的強度が発現できなくなる恐れがある。
【0022】
上記筒状部材において、2枚の面板間の最大距離に相当する天板最大総厚みは、20〜80mmの範囲であることが好ましい。かかる天板最大総厚みが20mmより小さい場合には、天板としての剛性が不足し、大きな荷重が加わった場合にたわみが大きくなりやすいし、かかる剛性を上げようとして面板の厚みを増加させることは材料費が増えることになりコスト面から不利である。一方、かかる最大総厚みが80mmより大きい場合には、被検体とX線照射ヘッドとのスペースが狭くなり、撮影可能な被検体の形状が制限されX線撮影装置として好ましくない。
【0023】
次に、筒状部材に挿入する補強部材について説明する。
X線撮影装置は、被検体を天板に載置して撮影する場合、天板はその長さ方向の片側において片持ち状態になり、X線撮影装置と天板との接合部には大きな曲げモーメントがかかる。天板はX線撮影装置とは樹脂製ローラーで支持され、X線撮影装置テーブル上を摺動する架台とボルトで接合されるが、天板がせり出した状態で支持ローラー部近傍の筒状部材には局所的に大きな曲げモーメントが作用し中空の筒状部材だけでは支えることが困難になるため、前記筒状部材の一端開口部に補強部材を嵌合するのである。また,天板の長尺化および載荷荷重に対する安全性の向上が求められており、筒状部材片持ち端部の天板強度が不足し、その部分を補強するため、補強に必要な長さの補強部材を筒状部材開口部に嵌合するのである。
【0024】
この補強部材に使用する材料としては、軽量、高圧縮強度を有するアルミ合金等の金属またはガラス繊維や炭素繊維を補強材とする繊維強化樹脂が好ましい。
【0025】
補強部材の長手方向に垂直な方向における断面形状は、筒状部材開口部形状と類似の形状であるが、凹面の幅方向両端20〜30%の範囲のR形状を削りフラットに加工することが好ましい。また、先端コーナーはR加工することが挿入しやすく好ましい。
【0026】
また、補強部材の長さは、筒状部材の曲げモーメントに対抗できるよう設計することが好ましい。具体的な長さとしては、載荷荷重レベル、面板の厚み、全長等から適宜設計できる。
【0027】
次に、補強部材表面に塗布する接着剤、および接着剤の担持方法について説明する。
本発明で使用する接着剤としては、引張りせん断強度が高い合成樹脂系の熱硬化性接着剤であるエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂など、あるいは衝撃、曲げ、剥離に対する耐性を併せ持つ、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂か合成ゴムを混合したタイプの接着剤が使用できる。
【0028】
本発明において、補強部材に塗布される接着剤は、補強部材に直接塗布しても構わないが、無機質あるいは有機質からなるシートを補強部材表面に巻回し、接着剤を担持させることが好ましい。
【0029】
無機質からなるシートとしては、ガラス繊維織物が特に好ましく、なかでも単位面積当たりの重さが50〜300g/m2の範囲のものを用いるのが良い。ガラス繊維織物を用いた場合、単位面積当たりの重さが50g/m2未満では、接着層厚みが0.1mm未満となり、筒状部材と補強部材との形状精度の差を吸収することができなくなり、空隙が出来やすく、また接着層厚みのばらつきも大きくなり、接合強度が低下しやすい。一方、ガラス繊維織物の単位面積当たりの重さが300g/m2を超えると接着層厚みが0.5mmを超える可能性があり、天板に大きな負荷がかかった場合に、接着剤層のせん断弾性率が小さいため天板のたわみが大きくなりやすい。
【0030】
有機質からなるシートとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)の不織布が、接着剤の含浸性、賦形性の面から取り扱い易く好ましい。
【0031】
このように、接着剤を担持したシートを補強部材表面に配置することにより、筒状部材へ嵌入接着時において、接着に必要な量の接着剤を担持することができ、また接着剤の厚み、いわゆる接着剤層を均一にすることができるようになるため、十分な接着強度を発現できる。また、均一な接着層厚みが得られることにより、厚み精度、そり、ゆがみ等のないX線診断装置用天板とすることができる。
【0032】
次に、筒状部材と補強部材との接合方法について説明する。
筒状部材と表面に接着剤を塗布した補強部材との嵌合に当たっては、既に述べたように、補強部材を筒状部材開口部にそのまま嵌入させると、接着剤が筒状部材開口先端部で掻き取られてしまい、十分な接着力が得られなくなる。そのため、補強部材を嵌合させる前に、両部材間の接合部隙間が大きくなるように、筒状部材の開口部を筒状部材厚み方向に大きく変形させることが必要である。筒状部材開口部を大きく変形させると、補強部材は筒状部材開口部端部に当接することなく挿入することができるため、両部材間の隙間に十分な接着剤の充填が可能になる。さらに、変形した筒状部材の面板は元の形状に戻る力が補強部材に対して作用するため、両部材は強固に接着することができる。このように製造した天板には、大きな荷重を負荷させても十分な接合強度を発現することができる。
【0033】
本発明において、筒状部材開口部の厚さ方向間隔を大きく変形させる方法として、筒状部材の接着接合部位の凸面頂部と凹面幅方向両端部に、筒状部材厚さ方向に相対する方向の負荷を加えることによって実現できる。筒状部材の接着接合部位の凸面頂部と凹面幅方向両端部に、厚さ方向に相対する方向の負荷を加えることにより、筒状部材を構成する幅方向に異なる曲率を有する上下2枚の板は、それぞれ幅方向に広がる方向に変形する。幅方向に変形する大きさは2枚の板が幅方向両端で連結しているため変形量は同じである。しかし、2枚の板の曲率が異なるため厚さ方向の2枚の板の中央部の厚み方向のそれぞれの変形量は同じではなく、曲率の小さい板の方が厚さ方向の変化量は大きくなるため、2枚の板の間隔は負荷をかける前よりも大きくなる。したがって、筒状部材開口部に表面に接着剤を塗布した補強部材を挿入するに際して十分な隙間が確保でき、接着剤が掻き取られることなく筒状部材と補強部材の間に十分な接着剤が充填できることになる。
【0034】
筒状部材の接着接合部位の凸面頂部と凹面幅方向両端部に、筒状部材厚さ方向に相対する方向の負荷を加える具体的な方法としては、平板プレスに筒状部材を挟み負荷を加える方法が、厚み方向の変位を正確かつ容易にコントロールすることができ好ましい。
【0035】
本発明において、筒状部材の接着接合部位の凸面頂部と凹面幅方向両端部に、筒状部材厚さ方向に相対する方向の負荷を加えた時の、筒状部材の凸面頂部と凹面幅方向両端部の厚さ方向の変形量は3mm以上、7mm以下であることが好ましい。筒状部材の凸面頂部と凹面幅方向両端部の厚さ方向の変形量を3mm以上とすることで、嵌合前に、筒状部材開口部と補強部材との間に十分な隙間が確保できる。そして、表面に接着剤を塗布した補強部材を嵌入するときに、接着剤が筒状部材開口部端部に掻き取られることなく、接着剤の十分な充填が可能になり、大きな荷重が負荷された場合にも十分な接着接合強度を発現する。変形量が3mm未満では筒状部材と補強部材と間に十分な隙間が確保出来ず、補強部材を筒状部材に挿入する時に、補強部材表面に塗布した接着剤が筒状部材に掻き取られ十分な充填ができず必要とする接合強度が得られない。また、変形量が7mmを超えると、筒状部材両端部の発生応力が過大になり、クラックが発生し易くなって天板性能を損なうことある。
【0036】
本発明において、X線診断装置用天板は、繊維強化樹脂で形成され、相対する面が幅方向に異なった曲率を有する長尺筒状部材と、その筒状部材の長手方向一端開口部に、断面形状が前記筒状部材開口部の長手方向に垂直な断面形状と類似形状の補強部材とを接着接合する方法において、嵌合時に、筒状部材開口部の厚み方向間隔を大きくするように変形させた状態で、表面に接着剤を塗布した補強部材を筒状部材開口部に挿入、接着されている。筒状部材と表面に接着剤を塗布した補強部材が前記接着方法で接着接合されていることでX線診断装置用天板として要求される大きな荷重が載荷された場合にも十分な強度を有することが出来る。
【0037】
筒状部材の長手方向に直角の断面形状が略三日月状である筒状部材について説明したが、本発明は、筒状部材に補強部材を挿入する方法であれば、このような断面形状に限定されるものではない。例えば、長手方向に直角の断面形状が略矩形である筒状部材であっても、相対する2つの面板を幅方向に圧縮する方向に負荷を加えることにより、断面形状を鼓状に変形させた上で、略矩形の断面形状を有する補強部材を挿入することも可能である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明の接着接合方法について説明する。
[実施例1]
図1〜図4は、本発明の一実施態様に係るX線診断装置用天板およびその接着接合の一例を示しており、X線診断装置用天板1は、炭素繊維T700S(東レ(株)製)とビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシ(株)製)を使用した繊維強化樹脂で形成され、相対する面が幅方向に異なった曲率を有する長尺の筒状部材2と、その筒状部材2の長手方向一端開口部に、断面形状が前記筒状部材開口部の長手方向に垂直な方向における断面形状より小さく、かつ相似形状のアルミ合金(A6063)からなる補強部材3とから構成される。前記筒状部材2と補強部材3とは、接着剤5が担持されたガラス繊維製の織物6を介して接着接合される構成になっている。図2は、X線診断装置用天板1の概略斜視図であり、図3はX線診断装置用天板1の端部における補強部材3との接合部分を示した断面図である。また、図4は本実施例に用いた補強部材3の斜視図である。
【0039】
上記筒状部材2は、空間が直線上に貫通する湾曲形状の中空外型の空間に所要の湾曲形状の中子を挿入し、該中子と中空外型に囲まれた成形空間を形成した金型に、炭素繊維織物に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維基材を前記金型成形空間に挿通するとともに、金型を加熱しながら基材に張力を加えて引き抜くことにより成形し、2.5mの長さに切断後、両端をR形状に機械加工した。炭素繊維重量含有率は60%である。
【0040】
上記筒状部材2をプレス面盤4に載せ、筒状部材2の接着接合部位の凸面頂部と凹面幅方向両端部に、筒状部材2の厚さ方向に相対する方向の負荷を加え、厚さ方向に4mmの変形を与えた。
【0041】
一方、上記筒状部材2の開口部断面形状より小さく、かつ相似形状となるように加工した長さ600mmの補強部材3の表面に、単位面積当たり150g/m2の重量のガラス繊維からなる織物6(日東紡(株)製WF150)を一層貼り付け、接着剤5として工業用エポキシ系接着剤(セメダイン(株)製セメダイン1500)を前記織物6にヘラで塗布、含浸させた後、補強部材を変形させた筒状部材2に挿入後、プレス面盤4から降ろし、専用押さえ治具で接合部を万力でクランプし、X線診断装置用天板1を製作した。
【0042】
このX線診断装置用天板1を、IEC60601−1third edition(2005年)の箇条9に準拠し図5に示す片側固定支持条件で天板上面に10kg重りを等分布に載せた載荷試験(荷重:P)を実施したところ、X線診断装置用天板1の最大仕様荷重である1200kgまで載荷しても、前記筒状部材2と補強部材3との接着部は剥離等がみられず、所要の強度を満足した(図5における7は支持ローラー、8は金属ベース、9は金属ブロック、10は止めボルトを、それぞれ示している)。
【0043】
載荷試験後、筒状部材2と補強部材3とを切断分解し、両部材間の接着接合部の補強部材全面に対する接着剤充填面積を確認したところ、補強部材全表面の面積の85%に接着剤5が充填されていた。
【0044】
[実施例2]
上記筒状部材2をプレス面盤4に載せ、筒状部材2の接着接合部位の凸面頂部と凹面幅方向両端部に、厚さ方向に相対する方向の負荷を加え、厚さ方向に7mmの変形を与える以外は実施例1と同じようにして、補強部材を変形させた筒状部材2に挿入した。実施例1と同じ載荷実験を行ったところ、X線診断装置用天板1の最大仕様荷重である1200kgまで載荷しても剥離等は発生せず、所要の強度を満足したが、変形時にクラック音の発生が確認された。
【0045】
[実施例3]
補強部材の材質を、ガラスのSMCにした以外は実施例1と同じようにして組み立てた天板を、実施例1と同様な方法で載荷試験したところ、X線診断装置用天板1の最大仕様荷重である1200kgまで載荷しても、筒状部材2と補強部材3との接着部には剥離等が見られず、所望の強度を満足した。
【0046】
[比較例1]
実施例1と同じ長尺筒状部材2を準備した。また、実施例1と同じ補強部材3の表面に、実施例1と同じ接着剤5をヘラで塗布した。筒状部材2をプレス面盤4等で変形させることなく、筒状部材2の開口部に補強部材3を挿入後、専用治具で接合部を実施例1と同じ条件でクランプし、X線診断装置用天板1を製作した。
【0047】
このX線診断装置用天板1について、実施例1と同じ載荷試験を実施したところ、300kgを載荷した時点で大きな剥離音が天板1と補強部材3の接着接合部で発生した。引き続き載荷試験を継続したところ、700kgを載荷した時点で補強部材3との境界近傍で筒状部材2が破壊した。試験後、筒状部材2と補強部材3を切断、分解し、両部材間の接着接合部の接着剤充填率を確認したところ、補強部材全表面の面積の15%にしか接着剤が充填されていなかった。
【0048】
[比較例2]
実施例1と同じ筒状部材2をプレス面盤4に載せ、筒状部材2の接着接合部位の凸面頂部と凹面幅方向両端部に、厚さ方向に相対する方向の負荷を加え、厚さ方向に2mmの変形を与える以外は実施例1と同じようにして、筒状部材開口部に補強部材3を嵌入しようとしたが、補強部材表面の接着剤を担持するシートが筒状部材開口部先端に詰まり、補強部材3を嵌入出来なかった。
【0049】
[比較例3]
筒状部材2をプレス面盤4に載せ、筒状部材2の接着接合部位の凸面頂部と凹面幅方向両端部に、厚さ方向に相対する方向の負荷を加え、厚さ方向に8mmの変形を与える以外は実施例1同じようにして、X線診断装置用天板を組み立てた。実施例1と同様な方法で載荷試験したところ、750kg載荷したところで、補強部材先端近傍のX線診断装置用天板幅方向一端の上下面板の間が剥離し破壊した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施態様に係るX線診断装置用天板の製造方法における接着接合方法の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1のX線診断装置用天板の概略斜視図である。
【図3】図2の天板の端部における補強部材との接合部の概略断面図である。
【図4】図1の補強部材の斜視図である。
【図5】実施例における天板の載荷試験方法を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0051】
1 X線診断装置用天板
2 筒状部材
3 補強部材
4 プレス面盤
5 エポキシ系接着剤
6 ガラス繊維織物
7 支持ローラー
8 金属ベース
9 金属ブロック
10 止めボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂で形成され、相対する面が幅方向に異なった曲率を有する筒状部材と、その筒状部材の長手方向一端開口部に、断面形状が前記筒状部材開口部の長手方向に垂直な方向における断面形状と類似形状の補強部材を嵌入して接着接合するX線診断装置用天板の製造方法であって、前記筒状部材の開口部を、該筒状部材開口部における前記相対する面間の筒状部材厚さ方向間隔を大きくするように変形させた状態で、表面に接着剤を塗布した補強部材を筒状部材開口部に嵌入し、接着することを特徴とするX線診断装置用天板の製造方法。
【請求項2】
前記相対する面間の筒状部材厚さ方向間隔を大きくするように変形させる方法は、筒状部材の前記接着接合対象部位における凸面頂部と凹面幅方向両端部との間に、筒状部材厚さ方向に相対する方向の負荷を加える方法である、請求項1に記載のX線診断装置用天板の製造方法。
【請求項3】
筒状部材厚さ方向に相対する方向の負荷を加えた時の、筒状部材の前記凸面頂部と凹面幅方向両端部との間における筒状部材厚さ方向の変形量が3mm以上7mm以下である、請求項2に記載のX線診断装置用天板の製造方法。
【請求項4】
筒状部材厚さ方向に相対する方向の負荷を加えた時の、筒状部材開口部と補強部材との筒状部材厚さ方向の隙間が1mm以上4mm以下である、請求項2または3に記載のX線診断装置用天板の製造方法。
【請求項5】
補強部材に塗布される接着剤が、補強部材の表面に被覆されたシートに担持されている、請求項1〜4のいずれかに記載のX線診断装置用天板の製造方法。
【請求項6】
繊維強化樹脂で形成され、相対する面が幅方向に異なった曲率を有する筒状部材と、その筒状部材の長手方向一端開口部に、断面形状が前記筒状部材開口部の長手方向に垂直な方向における断面形状と相似形状の金属または繊維強化樹脂で形成されてなる補強部材が嵌入されて接着接合されたX線診断装置用天板であって、前記補強部材は、表面に接着剤が塗布された状態で、筒状部材開口部における前記相対する面間の筒状部材厚さ方向間隔が大きくなるように変形された状態の筒状部材開口部に嵌入、接着されていることを特徴とするX線診断装置用天板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−233254(P2009−233254A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85936(P2008−85936)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000105899)サカイ・コンポジット株式会社 (11)
【Fターム(参考)】