説明

α−グルコシダーゼの阻害作用を有する新規化合物

【課題】α−グルコシダーゼの阻害活性を有する新規な物質を提供する。
【解決手段】
カエデ属植物ハナノキ(Acer pycnanthum)葉より下記式(化1)で示される新規化合物pycnalinを単離する。この物質はα−グルコシダーゼの阻害作用を有し、糖尿病の予防または治療に有用である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物から単離した新規化合物、及び前記の新規化合物を含有した抗糖尿病剤、並びに前記新規化合物の単離法に関する。詳細には、カエデ属に属する植物から単離した二糖類の分解酵素であるα−グルコシダーゼの阻害作用を有する新規化合物、及び前記の新規化合物を含有した抗糖尿病剤、並びに前記新規化合物の単離法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化などでカロリーの高い食生活が目立ち、これに伴う生活習慣病が注目されている。高カロリーの食生活は、肥満を引き起こし、肥満はインスリン抵抗性をはじめとして高脂血症、高血圧を引き起こす引き金となる。特に肥満は糖尿病を発症する危険性が高いとされており、それに伴う合併症により著しく生活の質を落とす可能性がある。よって糖尿病を予防するために様々な試みがなされている。医療用の医薬品において、小腸管の粘膜上に存在する二糖分解酵素であるα−グルコシダーゼの阻害剤はアカルボースなどが用いられている。また食品においては、血糖値上昇を抑制する飲食品、医薬品は糖尿病、肥満の予防、治療に有用である。また、ダイエットのカロリーコントロールにも利用されている。
【0003】
現在、血糖値上昇抑制剤として食品では桑の葉の熱水抽出物、医薬品ではボグリボースなどが知られており研究が進んでいる。しかし糖尿病は現代社会には未だ蔓延しており、抗糖尿病に有効な新しい素材、食品または医薬品の創出が求められている。
【0004】
α−グルコシダーゼの阻害作用を有する物質としてカエデ属の植物、及びカエデ属植物より単離された成分が本発明者らによって報告されている(特許文献1、2)
【特許文献1】特開2007−186486
【特許文献2】特開2009−269896
【0005】
しかし本発明における新規化合物とその生理作用については全く知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明により新規α−グルコシダーゼの阻害作用を有する新規化合物を提供し、さらに前記の新規化合物を有効成分として含む抗糖尿病剤並びに前記の新規化合物の単離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、糖尿病を予防しうる成分について鋭意検討を行った結果、カエデ属植物のハナノキ熱水抽出物より単離された後述する新規化合物のα−グルコシダーゼ阻害作用を見出し本発明に至った。本化合物を新規化合物pycnalinと称することがある。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであって、下式(化1)で示される化合物である新規化合物pycnalinに関するものである。
【化1】

【0009】
本発明は下式(化2)で示される化合物のα−グルコシダーゼの阻害活性を利用した抗糖尿病剤に関するものである。
本発明はまた、カエデ属植物のハナノキ(Acer pycnanthum)葉を熱水抽出し、得られた熱水抽出物を酢酸エチルと水で分配処理し、得られた水移行部をさらにブタノールと水で分配処理し、ブタノール移行部をクロマトグラフィーにより分画処理することを特徴とする下式(化2)で示されるα−グルコシダーゼの阻害活性を有する化合物の単離方法に関するものである。
【化2】

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、α−グルコシダーゼを阻害する新規物質化合物pycnalinを提供することができる。この物質は抗糖尿病剤として有用であると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の新規化合物pycnalinを単離するには、カエデ属植物のハナノキ(Acer pycnanthum)葉の熱水抽出物が使用できる。
【0012】
本発明の新規化合物pycnalinを単離するには、カエデ属植物のハナノキ(Acer pycnanthum)葉の熱水抽出物を用いるのが好ましいが、これに限定されることなく、新規化合物pycnalinを生産する能力を有する植物および微生物なども使用することができる。
【0013】
本発明の新規化合物pycnalinをハナノキ(Acer pycnanthum)葉の熱水抽出物より採取するには、上記熱水抽出物を水および酢酸エチル、ブタノール、ヘキサン、ジクロロメタン、メタノールなど各種有機溶媒を用いて分配処理し、さらに公知の方法、例えば吸着クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、遠心向流分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わせ、または繰り返すことによって新規化合物pycnalinを単離、精製することができる。
【0014】
このようにして得られた本発明の新規化合物pycnalinについて説明する。
(1)分子式:C1317
HRESIMS (m/z) (M+Na)計算値 317.08726
実測値317.08796
(2)分子量:317
ESIMS (m/z) (M+H)で317を観測
(3)紫外部吸収スペクトル:メタノール溶液中で測定した紫外部吸収スペクトルは
λmax217 (ε14,000)と278nm(ε6,500)
(4)赤外部吸収スペクトル:max3,423、1,699,そして1,237 cm−1に特徴的な吸収極大を示す。
(5)比旋光度:[α]21D+21°(c 1.00、メタノール)
(6)プロトン及びカーボン磁気共鳴スペクトル:核磁気共鳴スペクトルメータで測定した水素の化学シフト(ppm)及び炭素の化学シフト(ppm)は下記に示すとおりである。
【0015】
δ 7.13(2H,s,phenolic),4.52(1H,dd,J=11.8Hz,H−6),4.32(1H,dd,J=11.8Hz,H−6),3.88(1H,dd,J=12.4,2.0Hz,H−1),3.84(1H,m,J=9.1,2.0,1.3Hz,H−2),3.70(1H,t,J=3.4Hz,H−4),3.57(1H,dd,J=12.4,1.3Hz,H−1ax),3.54(1H,dd,H−3),3.40(1H,m,H−5)
δc 167.4(C−7’),146.4(C−3‘,5’),122.2(C−1’),110.3(C−2‘,6’),80.0(C−5),75.8(C−3),71.2(C−1),70.6(C−2),69.3(C−4),65.5(C−6)
以上のように、新規化合物の各種特徴、そしてスペクトルデータを詳細に検討した結果、新規化合物pycnalinは下式(化3)で示される化学構造であることが決定された。
【化3】

【0016】
本発明の新規化合物pycnalinは後述の試験例に示すように、α−グルコシダーゼ阻害作用を有する。
【0017】
従って、本発明の新規化合物pycnalinは抗糖尿病剤として使用できる。
抗糖尿病食品は、前記抗糖尿病食品素材を含有してなる。
【0018】
本発明の新規化合物pycnalinを医薬品および食品として用いる場合には、これを有効成分として0.2〜2.0重量%となるように含有される。添加剤としては、例えば、賦形剤、pH調整剤、清涼化剤、懸濁化剤、消泡剤、粘稠剤、溶解補助剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤又は可塑剤などが挙げられる。
【0019】
前記賦形剤としては、例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール或いはキシリトールなどの糖アルコール、ブドウ糖、白糖、乳糖或いは果糖などの糖類、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、リン酸水素カルシウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、β−シクロデキストリン、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0020】
前記pH調整剤としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、リン酸水素ナトリウム又はリン酸二カリウムなどが挙げられる。前記清涼化剤としては、例えば1−メントール又はハッカ水などが挙げられる。前記懸濁化剤としては、例えば、カオリン、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、メチルセルロース又はトラガントなどが挙げられる。前記消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサン又はシリコン消泡剤などが挙げられる。
【0021】
前記粘稠剤としては、例えばキサンタンガム、トラガント、メチルセルロース又はデキストリンなどが挙げられる。前記溶解補助剤としては、例えばエタノール、ショ糖脂肪酸エステル又はマクロゴールなどが挙げられる。前記崩壊剤としては、例えば低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ又は部分アルファー化デンプンなどが挙げられる。前記結合剤としては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、プルラン、アルファ−化デンプン、カンテン、トラガント、アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸プロピレングリコールエステルなどが挙げられる。
【0022】
前記滑沢剤としては、例えばステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ポリオキシル、セタノール、タルク、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ジメチルポリシロキサン、ミツロウ又はサラシミツロウなどが挙げられる。
【0023】
本発明の抗糖尿病剤には、必要に応じて、他の生理活性成分、ミネラル、ビタミン、ホルモン、栄養成分、香料などの添加物を混合することができる。
【0024】
本発明の抗糖尿病剤の形状としては、例えば、ハードカプセル、ソフトカプセルのようなカプセル、錠剤、丸剤、顆粒状などの形状に加工され得る。これにより本発明の抗糖尿病食品は、例えば健康食品として供給することができる。また医薬品としても供給が可能である。
【0025】
他の実施形態としては、本発明の新規化合物pycnalinを食品に添加して、抗糖尿食品を製造してもよい。前記食品としては、例えば、スナック、ビスケット、クッキー、チョコレート等の菓子類、ジュース、お茶等の飲料水等が挙げられる。
【0026】
以下に本発明をより詳細に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
新規化合物の単離方法
被験試料としてカエデ属植物であるハナノキ(Acer pycnanthum)葉を用いて実験を行った。採取した葉を80℃の温風で一昼夜乾燥させた。その後、乾燥重量の200倍の蒸留水を用いて熱水抽出を行った。沸騰した状態を1時間保ち、その後室温で冷ました。次いでロータリーエバポレータを用いて減圧乾固させ各抽出物を得た。この熱水抽出物を用いて以下の単離方法によって新規化合物pycnalinを単離した。分配処理によって水移行部と酢酸エチル移行部に分けた。さらに水移行部を分配処理によって水移行部とブタノール移行部に分けた。ブタノール移行部を、ODSカラムにて粗精製を行った。メタノール−水(5:95、15:85、30:70、50:50、70:30、100:0)の各混合溶媒を展開溶媒とするクロマトグラフィーを行い、9つの溶出画分を得た(Fr.1から9)。次いでFr.3の溶出画分を高速液体クロマトグラフィーにより精製した。
ODSカラム(φ10x250mm)を用いてメタノール−水(10:90、15:85、30:70、50:50、70:30、100:0)のグラディエントによる各混合溶媒を展開溶媒とするクロマトグラフィーを行い、新規化合物pycnalinを単離した。
【0028】
(試験例1)
本発明の新規化合物pycnalinのα−グルコシダーゼの阻害作用について以下の方法で試験した。新規化合物メタノールに溶解し、被験試料とした。96ウェルのプレートに0.1Mリン酸バッファー、基質、酵素、サンプルを添加し、生成してくるグルコースの量をグルコースCIIテストワコーで測定した。基質にスクロースを27.7mMになるように添加した。酵素にはマウス小腸由来の粗酵素液を用いた。マウス粗酵素液としてマウスの回腸粘膜を用いて0.05%牛血清アルブミンを含んだ0.1Mリン酸緩衝液12.0mlに懸濁し、十分撹拌した後、3,000×gで5分遠心分離し、その上清を用いた。サンプル無添加時の酵素反応と比較してサンプルの酵素阻害率を求めた。
【0029】
この結果、新規化合物は、α−グルコシダーゼであるスクラーゼを阻害し、IC50は138.3±13.4であった。そして類似の構造を有し、本発明者によってハナノキより単離され、in vivo試験において血糖値上昇抑制作用とα−グルコシダーゼの阻害作用を有するギンナリンB(6−galloyl−1−deoxyglucose)のIC50は194.0±2.6であった。新規化合物はギンナリンBよりも顕著なα−グルコシダーゼの阻害作用を有することが示され、新規化合物のα−グルコシダーゼ阻害作用が示された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の、新規化合物pycnalinはα−グルコシダーゼの阻害作用を有し、食後高血糖を抑制する抗糖尿病剤として有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(化1)で示される新規化合物。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の化合物を含有してなる抗糖尿病剤。
【請求項3】
カエデ科ハナノキ(Acer pycnanthum)葉を熱水により抽出し、得られた熱水抽出物を酢酸エチルと水で分配処理し、得られた水移行部をさらにブタノールと水で分配処理し、ブタノール移行部をクロマトグラフィーにより分画処理することを特徴とする下記式(化2)で示されるα−グルコシダーゼの阻害作用を有する化合物の単離方法。
【化2】


【公開番号】特開2011−190233(P2011−190233A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76140(P2010−76140)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(300076688)有限会社湘南予防医科学研究所 (54)
【Fターム(参考)】