説明

ころ軸受

【課題】保持器の柱部の強度を確保しつつ、潤滑油の流通を良好にして、ころ軸受の長寿命化を図る。
【解決手段】ころ6を収容する保持器7のポケット8の柱部9の壁面に、周方向に凹む逃がし溝16を設け、この柱部9の逃がし溝16の深さを、外径側から内径側に向かって浅く形成することにより、柱部9の強度を向上させるとともに、内径側から外径側への潤滑油の流通をスムーズにして、潤滑油中に混入した金属摩耗粉等の塵埃がポケット8内に滞留しないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遊星歯車減速装置に用いて好適なころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受21は、図4〜図6に示すように、内周面に円筒形の外輪軌道22を有する外方部材23と、外周面に円筒形の内輪軌道24を有する内方部材25と、これら外輪軌道22と内輪軌道24との間に転動自在に設けた複数のころ26とからなる。
【0003】
ころ26は、全体が円筒状に形成された保持器27に転動自在に保持されている。保持器27は、周方向に所定間隔でころ26を収容するポケット28を有し、周方向に隣り合う各ポケット28間に柱部29と、柱部29の軸方向の両側に円環部30とを備えている。
【0004】
保持器27の柱部29には、内径側と外径側とに、ころ26の抜け落ちを防止する内側突起部31と外側突起部32を設けている。
【0005】
例えば、柱部29の軸方向中間部と軸方向両端の3か所には、径方向内外に延びる油道33A、33Bが、内側突起部31と外側突起部32が形成された部分を除いて設けられる。そして、保持器27の径方向内側から外側に遠心力によって潤滑油を前記各油道33A、33Bを介して流通させることにより、潤滑油の流れやころ軸受21内における潤滑油の油量を確保している。
【0006】
このように構成されるころ軸受21は、例えば、遊星歯車減速装置の各減速歯車機構における遊星歯車(外方部材23)を支持ピン(内方部材25)によって軸支する場合に使用される。
【0007】
特に、建機等で使用される大型の減速歯車装置では、重荷重条件と取付け誤差を考慮して、ころ26には、外周面の中央がストレートで、その両側が両端に向かって径がなだらかに小さくなるようにクラウニング加工したクラウニング部からなるクラウニング付きのものが使用される。
【0008】
ところで、ポケット28内の潤滑油の流れが悪いと、潤滑油に含まれる金属摩耗粉等の塵埃が内側突起部31や外側突起部32の部分で滞留しやすく、金属摩耗粉によってころ26の外表面が損傷し易い。
【0009】
また、クラウニング付きころの場合には、ストレート部に掛かる面圧が大きくなり、ストレート部の領域で油膜切れを起こしやすい。
【0010】
特に近年、歯車減速装置メーカではコスト削減の流れから、歯車の仕上げ加工の省略等で表面粗さが大きくなっており、歯車のかみ合いにより粗さの突起が脱落するなどして、多量の摩耗粉が発生しているケースも多々見受けられる。したがって、金属摩耗粉によるころの摩耗を防止することが重要な課題になっている。
【0011】
このような摩耗粉対策として、特許文献1には、ポケット28の柱部9の壁面に、異物や摩耗粉を流通させる逃がし溝36を設けるということが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−41250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、上記のように、柱部9の壁面に周方向に凹む深さKの逃がし溝36を設けた場合、図6に示すように、外径側の柱部9の幅bに対し、内径側の柱部9の幅aが狭くなり、柱部9の強度が弱くなるという問題があった。
【0014】
そこで、この発明は、保持器の柱部の強度を確保しつつ、潤滑油の流通を良好にして、ころ軸受の長寿命化を図ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、この発明は、内周面に円筒形の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に円筒形の内輪軌道を有する内方部材と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数のころと、ころを周方向に所定間隔で収容保持するポケットを有する全体が円筒状で、周方向に隣り合う各ポケット間に柱部と、この柱部の軸方向の両側に円環部を備える保持器とからなり、ポケットの柱部の壁面に、周方向に凹む逃がし溝を設けたころ軸受において、柱部の逃がし溝の深さを、外径側から内径側に向かって浅くしたことを特徴とする。
【0016】
即ち、前記逃がし溝を設けた部分の柱部の幅は、外径側の幅bと内径側の幅aを比較すると、逃がし溝を設けた柱部の面が柱部の中心線に対して0°以上の角度で、b≧aの関係を保っている。
【0017】
前記保持器の材料は、樹脂材料又は鉄製材料によって形成される。
【0018】
前記樹脂材料としては、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等を使用することができ、グラスファイバーにより繊維強化してもよい。
【0019】
この発明に係るころ軸受は、遊星歯車減速装置に使用することができ、その場合、外方部材を遊星歯車、内方部材を支持ピンとして使用される。
【発明の効果】
【0020】
この発明のころ軸受は、柱部の逃がし溝の深さを、外径側から内径側に向かって浅くしているので、内径側の柱部の幅が広く、それだけ強度が高い。
また、逃がし溝は、内径側から外径側に向かって広がる形状であるため、内径側から外径側へ潤滑油がスムーズに流れ、潤滑油中に混入した金属摩耗粉等の塵埃がポケット内に滞留し難く、金属摩耗粉が発生しやすい遊星歯車減速装置に使用しても、長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に係るころ軸受の一実施形態を部分的に示す平面図である。
【図2】図1のII−II線の断面図である。
【図3】図1のIII−III線の断面図である。
【図4】従来のころ軸受を部分的に示す平面図である。
【図5】図4のV−V線の断面図である。
【図6】図5のVI−VI線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施の形態について図1〜図3に基づいて説明する。
ころ軸受1は、内周面に円筒形の外輪軌道2を有する外方部材3と、外周面に円筒形の内輪軌道4を有する内方部材5と、これら外輪軌道2と内輪軌道4との間に転動自在に設けた複数のころ6とからなる。
【0023】
ころ6は、金属材料等から円筒状体として形成され、針状ころ、棒状ころ等として構成され、全体が円筒状に形成された保持器7に規則正しく配列して保持されている。
【0024】
ころ6は、外周面の中央がストレートで、その両側が両端に向かって径がなだらかに小さくなるようにクラウニング加工したクラウニング部からなるクラウニング付きのものを使用している。
【0025】
保持器7は、周方向に所定間隔でころ6を規則正しく収容する矩形状のポケット8を有し、樹脂材料を射出成形等の手段を用いることにより形成される。保持器7は、ポケット8が内径側から外径側に貫通するように形成され、周方向に隣り合う各ポケット8間に柱部9と、柱部9の軸方向の両側に円環部10を備える。
【0026】
ポケット8の柱部9の壁面には、周方向に凹む逃がし溝16を内径側から外径側に貫通するように形成されている。
【0027】
この柱部9の逃がし溝16の深さKは、図3に示すように、外径側から内径側に向かって浅くしている。
【0028】
このため、前記逃がし溝16を設けた部分の柱部9の幅は、外径側の幅bと内径側の幅aを比較すると、逃がし溝を設けた柱部の面が柱部の中心線に対して0°以上の角度で、b≧aの関係を保っており、この発明の実施形態を示す図3と、従来例を示す図6の対比からも明らかなように、この発明の柱部9の内径側の幅bは、従来例の柱部29の内径側の幅bよりも広くなっている。
【0029】
保持器7を形成する樹脂材料としては、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等を使用することができ、グラスファイバーにより繊維強化してもよい。
【0030】
保持器7の柱部9には、軸方向両側の内径側と外径側とに、ころ6の抜け落ちを防止する内側突起部11と外側突起部12を設けている。
【0031】
柱部9の軸方向中間部と軸方向両端の3か所には、径方向内外に延びる油道13A、13Bが、内側突起部11と外側突起部12が形成された部分を除いて設けられる。そして、保持器7の径方向内側から外側に遠心力によって潤滑油を前記各油道13A、13Bを介して流通させることにより、潤滑油の流れやころ軸受1内における潤滑油の油量を確保している。
【0032】
この発明においては、柱部9に逃がし溝16を形成しているので、逃がし溝16によって潤滑油がスムーズに流通し、ころのストレート部の油膜切れが起こり難く、また、ポケット8内の潤滑油の流通が良好であるので、ポケット8内に金属摩耗粉等の塵埃が滞留しない。
【0033】
図1〜図3に示す実施形態では、前記外輪軌道2と保持器7の外径との間に形成される外側油路14の隙間間隔よりも、内輪軌道4と保持器7の内径との間に形成される内側油路15の隙間間隔を大きく設定している。
【0034】
これにより、内側油路15から外側油路14への潤滑油の流通が多くなり、潤滑油による冷却効果も向上する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明のころ軸受1は、例えば、遊星歯車減速装置の各減速歯車機構における遊星歯車(外方部材3)を支持ピン(内方部材5)によって軸支する場合に使用される。
【0036】
このような場合、外方部材3と保持器7との間に形成される隙間が外側油路14を形成し、内方部材5と保持器7との間に形成される隙間が内側油路15を形成し、遊星歯車減速装置の外形を構成するハウジング内の潤滑油が、外側油路14と内側油路15を通ってころ軸受1内に流入する。そして、流入した潤滑油は、遊星歯車が回転するときに生じる遠心力によって、各油道13A、13Bを介して保持器7の径方向内側から外側に向けて流れてハウジング内に放出される。これにより、ころ軸受1の潤滑性が高められている。
【符号の説明】
【0037】
1 ころ軸受
2 外輪軌道
3 外方部材
4 内輪軌道
5 内方部材
6 ころ
6a ストレート部
6b クラウニング部
7 保持器
8 ポケット
9 柱部
10 円環部
11 内側突起部
12 外側突起部
13A 油道
13B 油道
14 外側油路
15 内側油路
16 逃がし溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に円筒形の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に円筒形の内輪軌道を有する内方部材と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数のころと、ころを周方向に所定間隔で収容保持するポケットを有する全体が円筒状で、周方向に隣り合う各ポケット間に柱部と、この柱部の軸方向の両側に円環部を備える保持器とからなり、ポケットの柱部の壁面に、周方向に凹む逃がし溝を設けたころ軸受において、柱部の逃がし溝の深さを、外径側から内径側に向かって浅くしたことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記逃がし溝を設けた部分の柱部の外径側の幅bと内径側の幅aを比較した場合に、逃がし溝を設けた柱部の面が柱部の中心線に対して0°以上の角度で、b≧aの関係を保っていることを特徴とする請求項1記載のころ軸受。
【請求項3】
前記外輪軌道と保持器の外径との間に形成される外側油路の隙間間隔よりも、内輪軌道と保持器の内径との間に形成される内側油路の隙間間隔を大きく設定している請求項1又は2記載のころ軸受。
【請求項4】
前記保持器の材料が樹脂材料である請求項1〜3のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項5】
前記保持器の材料が鉄製材料である請求項1〜3のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項6】
前記樹脂材料がポリアミド66又はポリアミド46である請求項4に記載のころ軸受。
【請求項7】
前記樹脂材料がポリエーテルエーテルケトン又はポリフェニレンサルファイドである請求項4に記載のころ軸受。
【請求項8】
前記樹脂材料を、グラスファイバーにより繊維強化している請求項6又は7に記載のころ軸受。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれかに記載のころ軸受を使用した遊星歯車減速装置。
【請求項10】
前記外方部材を遊星歯車、内方部材を支持ピンとした請求項8記載の遊星歯車減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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