つまずき防止靴
【課題】耐滑性能を備えた靴であっても、つまずきにくい靴を提供すること。
【解決手段】
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の底部に設けられた靴底を有する靴であって、前記靴底の前方部には、歩行時の荷重を主として受け止める靴底面に対して突出した1個または複数個の突起を設ける。当該突起は、踏みつけによる荷重を受けた場合に前記靴底面とほぼ同一の高さにまでへこむように形成されている。本発明はつまずき時に歩行中の靴を急激に停止させるのではなく、着用者に接地を感じさせてから少し後に靴を停止させることができるようになっている。
【解決手段】
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の底部に設けられた靴底を有する靴であって、前記靴底の前方部には、歩行時の荷重を主として受け止める靴底面に対して突出した1個または複数個の突起を設ける。当該突起は、踏みつけによる荷重を受けた場合に前記靴底面とほぼ同一の高さにまでへこむように形成されている。本発明はつまずき時に歩行中の靴を急激に停止させるのではなく、着用者に接地を感じさせてから少し後に靴を停止させることができるようになっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はつまずき防止靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面を滑りやすく加工したすべり材にクッション材と剥離材を設けた接着部を設け、靴底の先端に固着して用いることを特徴とする特許文献1記載のつまずき時の転倒防止具が知られている。
【特許文献1】特開2007−268229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
高齢者になると歩行時の足の上がりが不十分になりやすく、歩行時に靴先が接地してつまずきやすくなる。上記従来のつまずき時の転倒防止具は、靴底の先端(爪先部)に滑りやすい部材を設けることによって、蹴り足を前方に移動させる過程で爪先部が接地した場合であっても、爪先部の滑りによってつまずきを防止しようとするものである。
【0004】
一方、年齢とは関係なく、床面と靴の間に作用する摩擦係数が高い場合にもつまずきが発生しやすい。これは、後方の足を前方に送る時に靴底が床面に接触して僅かに擦る場合があり、この際、床面によって靴底の前方移動が妨げられる場合があるからである。特に出願人は、滑りやすい現場での転倒防止を目的として、滑りにくい各種の耐滑靴を発明してきた。しかしその反面、使用場所によっては、滑らない靴によるつまずきの問題が明らかになってきた。
【0005】
上記のようなつまずきは、前方に送り出した足が無意識に想定している人間の予測に反して手前側の位置で停止してしまうことにより発生する。したがって、このようなつまずきを防止する方法として、第一に送り出した足が手前側で停止する可能性があることを人間に予期させることと、第二に送り出した足が手前側で停止しようとした場合であっても停止位置を前方にシフトさせることがあげられる。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み発明されたものであって、耐滑性能を備えた靴であっても、つまずきにくい靴の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は以下の構成を有する。すなわち、
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の底部に設けられた靴底を有する靴であって、
前記靴底の前方部には、歩行時の荷重を主として受け止める靴底面に対して突出した1個または複数個の突起が設けられており、
当該突起は、踏みつけによる荷重を受けた場合に前記靴底面とほぼ同一の高さにまでへこむように形成されていることを特徴とするつまずき防止靴。
【0008】
また、請求項2記載の発明は以下の構成を有する。すなわち、
前記突起は、前記靴底面と比較して滑りやすい素材により形成されていることを特徴とする請求項1記載のつまずき防止靴。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、前記突起が前後方向に長く形成された流線形状を成していることを特徴とする。突起は、床面に対して滑りやすいことが好ましいものであるが、
床面には硬質樹脂、コンクリート、石等の堅い床、カーペット地のような柔らかい床、水や油で濡れた床等があり、床面に対する突起の形状や素材によって滑りやすさが異なるものである。流線形状を成した突起は、特にカーペット地のような柔らかい床、水や油で濡れた床等に適したものである。また、堅い床において使用する場合であっても、比較的接触面積が広いので耐摩耗性を高めることができるものとなっている。
【0010】
また、請求項4記載の発明は、前記突起の先端部が半球状を成していることを特徴とする。前記したごとく、突起は、床面に対して滑りやすいことが好ましいものである。当該先端部が半球状を成した突起は、特に、硬質樹脂、コンクリート、石等の堅い床であって、水や油等が飛散している比較的滑りやすい床で使用する靴に適したものである。
【0011】
また、請求項5記載の発明は、前記突起の出没動作を円滑に行わせるために突起の周囲に靴底面による拘束を軽減する隔離部(溝)を設けたことを特徴とするものである。突起は、一定の加重がかけられた際に凹むことが望ましいものであるが、靴底面と完全に一体化していると、突起が凹む際に靴底面の一部も同時に変形させなければならなくなる。しかし、靴底の形状が大きく変形することは着用者にとって不快なものであり、突起のスムーズな出没動作の妨げともなる。本発明は、当該構造を採用することにより、突起のスムーズな出没動作と履き心地の向上を図っている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、靴底面から突出している突起物を有しており、それが踏みつけによる加重にともなって凹むことで通常の靴と同様に歩行を可能とするものである。この際、踏みつけによる加重が大きくなる前に、予め突起物が床面と接触するので僅かな時間差ではあるが接触したことを歩行者に認知させることができる。前述した通り、つまずきの原因の一つは、予期していない位置で足が停止してしまうことであるが、本発明は予期していない位置で靴が停止する際に、僅かに早くその事態を歩行者に対して知らせ、つまずき回避が必要であることを直感的に知覚させることができる。このように、本発明は効果の一つとして、つまずきを事前に察知させる効果を有している。
【0013】
また、本発明は靴底面から突出している突起物を有しており、それが踏みつけによる加重にともなって凹むことで通常の靴と同様に歩行を可能とするものである。そして、通常歩行において接地する位置よりも手前側で靴底が床面に接地しようとする場合(つまずく虞がある場合)、突起が床面に当接して靴底面全体の接地を僅かに遅延させ、靴の接地位置をつまずき位置よりも前方にシフトさせることができる。このように、本発明は靴の接地位置をつまずき位置からシフトさせることによりつまずきの防止または軽減を行うことができるという効果があるものである。
【0014】
また、本発明は、耐滑性の高い靴底の前足底部分に滑りやすい形状および素材によって形成した突起を設けることによって、靴に対する荷重が大きくなるまで、靴底を持ち上げた状態のまま滑らせることができるようになっている。
【0015】
以上のように、本発明はつまずき時に歩行中の靴を急激に停止させるのではなく、着用者に接地を感じさせてから少し後に靴を停止させることができ、これによって、靴が不用意に停止してつまずくような現象を回避もしくは低減させることができるようになっている。また、本発明の靴は、歩行時に靴を急激に停止させるものではないので、使用者にとって足腰に対する負担が少ないという効果をも有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明を適用した靴1の側面図を表しており、図2は靴1の底面図を表している。
靴1は、足入れ部となるアッパー体2と当該アッパー体2の下面に設けられた靴底3によって構成されている。図1及び図2に示した靴1は、靴底3を射出成形により形成した2層底として形成したものとなっている。
【0017】
本実施の形態に係る靴底3は、踵部4から前足底部5にかけて全体として平坦な靴底面を有しており、土踏まず部6を除く部位に円形の凹部7を多数設けたものとなっている。当該靴1は、靴底3を形成する素材と前記凹部7の形状によって、クリーンルーム等に用いられている光沢のある合成樹脂製の床材の上において、優れた耐滑性能を発揮するように形成されたものである。
【0018】
そして、靴底3の前方部である前足底部5のほぼ中央には、船底型のような流線形状の1個の突起8が設けられている。当該突起8は、前後方向(図1における左右方向)に沿って設けられた凸条として形成されており、主たる接地面である靴底面よりも2〜3mm突出した状態で、靴底3に埋め込まれたように一体的に形成されている。
【0019】
図3(a)は、図2に示した靴1のX−X’線における靴底部の断面図を表している。
図3(a)を用いて靴1の構造を再度説明すると、靴1は上部に足入れ部としての空間を有するアッパー体2が設けられ、当該アッパー体2の下部にミッドソール9とアウトソール10による2層底として構成された靴底3が設けられたものとなっている。また、靴底3は図3(a)のように、底面の左右の両角部はやや丸みを有した形状となっている。アッパー体2内部の底面には通常、中敷が敷かれており、当該中敷を介した着用者の荷重が、ミッドソール9およびアウトソール10によって支えられるようになっている。
【0020】
前述した通り、靴底3の前方部である前足底部5には突起8が設けられている。具体的には、アウトソール10を形成する際に突起8をインサートした状態で射出成形をすることによって、アウトソール10の内部に突起8の大半部を埋め込んだ状態で靴底3を一体成形している。
【0021】
突起8はアウトソール10の表面よりも2〜3mm程度高く突出しており、突出部以外の残りの部分はアウトソール10内に埋没している。本実施の形態においては、突起8の全高の1/2〜2/3程度の部分がアウトソール10内に埋没し、残りの部分が表面より突出したものとなっている。
【0022】
また、突起8の周囲には溝12が設けられている。当該溝12は突起8と靴底面の一部を隔絶する隔離部となっており、突起8の変形に対する靴底3の影響を軽減するために設けた部位である。
【0023】
突起8の前後位置は、指の付け根(トゥースプリングの起点)(中足指節関節)付近に配置する。詳しくは、突起8の先端は親指の接地する位置に配置され、突起8の全長の先端から3分の1にあたる部分が指の付け根の位置に配置されるのが望ましい。
これは、詳細は後述するが歩行の際につまずきが生じやすいのは図4(c)〜(d)に表した状態の時であり、歩行時には唯一足が上方に曲がる指の付け根(トゥースプリングの起点)(中足指節関節)部分が靴底の変形が大きくなり一番接地しやすいためである。
【0024】
突起8の左右位置は、靴底の中央が望ましい。突起8の接地部分は左右方向の断面が図3(a)のような半円状のR部を持ち、中央が一番高くなっており一番接地しやすく滑り抵抗が少ない部分となっている。
突起8の横断面形状は、角のないU字形状が望ましい。さらに、靴底3の左右断面は湾曲した形状になっているため、靴1を左右方向に移動させた場合でも、靴底3が接地面に対して突起8から接地しやすい。また、突起8の前後方向における断面形状は、角のない
湾曲した形状が望ましい。これは、突起8に角があると床面の段差に引っかかってしまうためである。 本実施の形態では、ミッドソール9の材質は発泡ポリウレタン(PU)、アウトソール10の材質も発泡ポリウレタン(PU)であり、突起8の材質は熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)である。
【0025】
ミッドソール9の材質とアウトソール10の材質と突起8の材質は、靴1が使用される環境に応じて仕様を異ならせている。硬度としては、ミッドソール9は、履き心地を良くするためにアウトソール10より硬度が低い方が良い、具体的には60未満(JISA)であることが望ましい。
アウトソール10は耐滑性能を発揮するためにミッドソール9より硬度を高くしている、具体的には60以上(JISA)。
突起8は滑らせるため硬度を高くしている。その硬度は、アウトソール10より硬く、例えば具体的には80〜90(JISA)が好ましい。
【0026】
なお、突起8、ミッドソール9、アウトソール10の材質としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、発泡ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、塩化ビニル、ゴム、サーモラバー(TR)を使用することができる。また、突起8、ミッドソール9、アウトソール10の材質は、接着性の面から同じ材質を使用すると良い。アウトソール10は床面に対して高い耐滑性能を発揮する素材および接地部の形状に形成され、突起8は床面に対して滑りやすい素材が採用される。
【0027】
図3(b)は、歩行による靴底3の接地によって、突起8がアウトソール10およびミッドソール9を変形させつつ上昇した状態を表している。すなわち、接地面となる床面によって突起8が上方に押し上げられ、突起8の表面がアウトソール10の表面と一致する状態になるまで、突起8は上方に移動するようになっている。逆をいえば、アウトソール10とミッドソール9は、このような突起8の上昇を許容するような変形を行うために、形状および素材の選択が行われている。
【0028】
突起8の周囲には、変形前の状態で幅1mm深さ2mm程度となる溝12が設けられている。溝12は、突起8の上昇に合わせて開口部位が狭まるように変形するものの、突起8の上昇を妨げないようになっている。また、溝12は突起8の表面がアウトソール10の表面と一致した時に一番狭まるため、靴に対する荷重が大きくなるまでは、突起8が接地して床面に対して僅かに靴を滑らせることができるようになっている。そして、靴に対する荷重が大きくなり突起8の表面がアウトソール10の表面と一致すると溝12が一番狭まる。このとき、突起8が上方に移動してアウトソール10の表面が接地面に対して全体的に接地するようになるため、十分な耐滑性能を発揮できる。
【0029】
また、溝12を形成するアウトソール10は、薄い方が柔かいので変形しやすくコストも安くなる。溝12は、突起8の側面とアウトソール10との接触面積を小さくする作用があり、前述したように接触(接着)したアウトソール10によって突起8の移動が制限されるのを防止している。また、突起8が上動する際にアウトソール10を引っ張り上げる作用が少なく、アウトソール10の床面に対する接触状態を良好に保つことができるようになっている。
【0030】
なお、上記の説明においては、2層底の例を示したが、アウトソール10のみの1層底の形態にしても差し支えないものである。また、上記の突起8の形状のみにかぎらず、接地面となる床面によって突起8が上方に押し上げられ、突起8の表面がアウトソール10の表面と一致する状態になるまで、突起8が上方に移動するように設けたものであれば差し支えない。また、突起8は複数本設けるときは短くしても差し支えない。
【0031】
次に図4(a)〜図4(e)に示す5つの模式図を用いて、人間の一般的な歩行の様子を説明する。
図4(a)は、前方に送り出された左足(L)が着地するとともに、後方の右足(R)が床面を蹴って前方に移動しようとしている状態を表している。
図4(b)は、着地した左足(L)を軸にして、右足(R)が前方に移動し始めた様子を表している。
図4(c)〜(d)は、左足(L)を軸にして、右足(R)を前方に送り続けている様子を表している。
図4(e)は、右足(R)が踵から接地し、後方の左足(L)が床面を蹴って前方に移動しようとしている状態を表している。以降、同様の動作を繰り返すことで歩行が行われる。
【0032】
上述した歩行の際、つまずきが生じやすいのは図4(c)〜(d)に表した状態の時である。すなわち、左右の足の前後が入れ替わった後の、前方に送られている途中の右足(R)が、爪先を下に向けた状態から次第に上に向けた状態に遷移する状態の時である。
この状態の時に、前方に送り出している足が下がると靴底が床面に接地する場合がある。そして、耐滑性能の高い靴を着用していると、この時点で床面によって靴の前方移動が妨げられてつまずくことになる。また、この状態は左右の足を入れ替えて体重を移動させるところでもあるため、ここで引っかかるとつまずいてしまう。しかし、本実施の形態に係る靴1は、底面に滑りを許容する突起8が設けられているので、歩行中に底面と床面が接触しても、直ちに靴の前方移動が妨げられることはない。したがって、ただちにつまずくことはない。
【0033】
なお、図4(b)に示す状態では右足の爪先が床面に引っかかったとしても、右足より前方にある左足によって踏ん張ることができるためつまずきにくく、図4(e)に示す状態では靴底に荷重がかかり突起8が上昇してアウトソールが接地した安定した状態であるためつまずきにくく滑らない。
【0034】
靴底面が床面に接触する際には、必ず耐滑性の高い主たる接地面よりも突起8が先行して接触する。そして、突起8が床面に接すると、床面上を滑りつつ次第に靴底面に対して沈み込み、突起8の表面と靴底面がほぼ同一の高さになった時に靴本来の耐滑性能が発揮されるようになる。すなわち、軽い荷重をかけている状態では靴は滑り、踏み込んで重い荷重をかけると靴が滑らなくなるわけである。
【0035】
また、当該靴1は上記したつまずき防止以前に、着用者の疲労軽減にも効果があるものである。すなわち、耐滑性の発揮以前に滑りを生じさせることは、足の動作を止めるという急激な負担を緩和する作用があり、長時間の着用によって生じる疲労の軽減にも効果を有するものとなっている。
【0036】
本実施の形態に係る靴1は、前記突起8の効果によって、種々の場面でのつまずき防止、歩行時における脚部への負担軽減を行うことができるようになっている。また、突起が床面に接触する際、着用者にも突起の接地が知覚される。したがって、正常な歩幅で靴が移動している場合には違和感はないが、つまずく前兆として正常な歩幅に到達する以前に突起の接地が知覚されると、着用者は直感的につまずきの危険を察知することができるようになっている。前記突起8は、上記した滑りによるつまずき防止の効果と、つまずきの危険を事前に察知させることによるつまずき防止の効果も有している。
【0037】
なお、上記の説明においては、前足底部に設ける突起8として1本の棒状体の例を示したが、複数本並べた形態にしても差し支えないものである。また、棒状体のみにかぎらず、床面と点接触するような突起を所定の配列で設けたものであっても差し支えない。
また、上記の例では、靴底面が平坦な靴を例示しているが、踵と前足底部に段差のある紳士靴や安全靴のような形態の靴であっても差し支えがないものである。
【0038】
図5(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底はミッドソール9とアウトソール10による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール10に突起8を設けるための凹部を形成し、その内部に溝11を形成した状態で突起8を設けている。図3(a)に示した靴底と異なる点は、突起8の上端が直接ミッドソール9と接触するように設けられていることである。図5(b)は、図5(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0039】
図6(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底は発泡素材またはゴム等による1層底13として形成されたものである。そして、当該1層底13を形成する際に突起8を設けるための凹部を形成し、その内部に溝11を形成した状態で突起8を一体的に設けている。図6(b)は、図6(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0040】
図7(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底は発泡素材またはゴム等による1層底13として形成されたものである。そして、当該1層底13を形成する際に突起8を設けるための凹部を形成し、その内部に溝11を形成した状態で突起8を一体的に設けている。前記図6(a)に示した突起8と異なる点は、突起8の形状である。すなわち、図6(a)に示した突起8は所謂蒲鉾状を成しているのに対して、図7(a)に示した突起8は1層底13との接触部が幅広のフランジ状に形成されている点が異なっている。図7(b)は、図7(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0041】
図8(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底はミッドソール9とアウトソール10による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール10自体に、前記突起および凹部に相当する形状の部分を設け、その突起に相当する形状の部分の表面に、別素材により形成した表皮状の接触部14を設けている。図8(b)は、図8(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0042】
図9(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底はミッドソール9とアウトソール10による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール10に突起8を設けるための凹部を形成し、その内部に溝11を形成した状態で突起8を設けている。図3(a)に示した靴底と異なる点は、突起8が中実の蒲鉾状を成しているのではなく、突起8を中空状の形態に形成し、その中空の内部にミッドソール9を形成する樹脂素材が充填されている点である。図9(b)は、図9(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0043】
図10(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底は発泡素材またはゴム等による1層底13として形成されたものである。そして、当該1層底13を形成する際に、別の素材により形成した中空状の突起部材15をインサートし、当該突起部15の内部にも1層底13を形成する樹脂素材を充填しつつ、1層底13として形成したものである。図10(b)は、図10(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0044】
図11(a)は、突起を設けた靴底の他の例である円形の突起28を設けた靴底23の底面図である。本実施の形態に係る靴底23は、図2における靴底3と同様の構造を有しているが、突起28と突起8の形状と配置が異っている。
そして、靴底23の前方部である前足底部25のほぼ中央には、4個の突起28が設けられている。当該突起28は、踏付部中央21の前後(図11aにおける左右)に各1個
、踏付部中央21の左右(図11aにおける下上)に各1個(ハッチングを施した円形部として図示した部分)設けられている。これら突起28は、表面が球面状に形成されており、靴底20の底面よりも2〜3mm突出した状態で、靴底20に埋め込まれたように一体的に形成されている。
【0045】
図11(b)は、図11(a)に示した靴20のY−Y’線における靴底部の断面図の一部を表している。アウトソール22を形成する際に突起28をインサートした状態で射出成形をすることによって、アウトソール22の内部に突起28の大半部を埋め込んだ状態で靴底20を一体成形している。
【0046】
図11(c)〜(e)は、アウトソール22を射出する前の突起28単体を示した図であり、それぞれ突起28の側面図、上面図、底面図となっている。突起28の上面には、複数の凸部30が形成されており、アウトソール22を射出成形した後に、前記凸部30が溶けてアウトソール22と突起28が溶着しやいようになっている。また、突起28の周囲には溝31が設けられている。
【0047】
突起28の接地部分は断面が図11(f)のような半円状のR部を有する半球状となっており、中央が一番高くなっており一番接地しやすく滑り抵抗が少ない部分となっている。突起28の横断面形状は、角のないU字形状が望ましい。さらに、靴底20の左右方向の両角部分は湾曲した形状になっているため、靴底20を前後方向あるいは左右方向に移動させた場合でも、靴底20が接地面に対して突起28から接地しやすい。また、突起28の前後方向における角部の形状は、角のない湾曲した形状が望ましい。これは、突起28に角があると床面の段差に引っかかってしまうためである。 本実施の形態では、ミッドソール29の材質は発泡ポリウレタン(PU)、アウトソール22の材質も発泡ポリウレタン(PU)であり、突起8の材質は熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)である。
【0048】
図11(h)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20はミッドソール29とアウトソール22による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール22に突起28を設けるための凹部を形成し、その内部に溝を形成した状態で突起28を設けている。図11(f)に示した靴底と異なる点は、突起28の上端が直接ミッドソール29と接触するように設けられていることである。図11(i)は、図5(h)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0049】
図11(j)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20は発泡素材またはゴム等による1層底として形成されたものである。そして、当該1層底を形成する際に突起28を設けるための凹部を形成し、その内部に溝を形成した状態で突起28を一体的に設けている。図11(k)は、図11(j)に示した突起28がへこんだ状態を表している。
【0050】
図11(l)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20はミッドソール29とアウトソール22による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール22自体に、前記突起および凹部に相当する形状の部分を設け、その突起に相当する形状の部分の表面に、別素材により形成した表皮状の突起28を設けている。図11(m)は、図11(l)に示した突起28がへこんだ状態を表している。
【0051】
図11(n)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20はミッドソール29とアウトソール22による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール22に突起28を設けるための凹部を形成し、その内部に溝を形成した状態で突起28を設けている。図11(f)に示した靴底と異なる点は、突起28が中実の蒲鉾状を成しているのではなく、突起28を中空状の形態に形成し、その中空の内部にミッ
ドソール29を形成する樹脂素材が充填されている点である。図11(o)は、図11(n)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0052】
図11(p)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20は発泡素材またはゴム等による1層底として形成されたものである。そして、当該1層底を形成する際に、別の素材により形成した中空状の突起28をインサートし、当該突起28の内部にも1層底を形成する樹脂素材を充填しつつ、1層底として形成したものである。図11(q)は、図11(p)に示した突起28がへこんだ状態を表している。
【0053】
上記した先端が半球状の突起は、特に、硬質樹脂、コンクリート、石等の堅い床であって、水や油等が飛散している比較的滑りやすい床で使用する靴に適したものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、耐滑性のある靴に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施の形態に係る靴の側面図である。
【図2】本実施の形態に係る靴の底面図である。
【図3】本実施の形態に係る靴の要部断面図である。
【図4】人間の歩行状態に関する説明図である。
【図5】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図6】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図7】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図8】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図9】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図10】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図11】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 靴
2 アッパー体
3 靴底
4 踵部
5 前足底部
6 土踏まず部
7 凹部
8 突起
9 ミッドソール
10 アウトソール
12 溝
【技術分野】
【0001】
本発明はつまずき防止靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面を滑りやすく加工したすべり材にクッション材と剥離材を設けた接着部を設け、靴底の先端に固着して用いることを特徴とする特許文献1記載のつまずき時の転倒防止具が知られている。
【特許文献1】特開2007−268229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
高齢者になると歩行時の足の上がりが不十分になりやすく、歩行時に靴先が接地してつまずきやすくなる。上記従来のつまずき時の転倒防止具は、靴底の先端(爪先部)に滑りやすい部材を設けることによって、蹴り足を前方に移動させる過程で爪先部が接地した場合であっても、爪先部の滑りによってつまずきを防止しようとするものである。
【0004】
一方、年齢とは関係なく、床面と靴の間に作用する摩擦係数が高い場合にもつまずきが発生しやすい。これは、後方の足を前方に送る時に靴底が床面に接触して僅かに擦る場合があり、この際、床面によって靴底の前方移動が妨げられる場合があるからである。特に出願人は、滑りやすい現場での転倒防止を目的として、滑りにくい各種の耐滑靴を発明してきた。しかしその反面、使用場所によっては、滑らない靴によるつまずきの問題が明らかになってきた。
【0005】
上記のようなつまずきは、前方に送り出した足が無意識に想定している人間の予測に反して手前側の位置で停止してしまうことにより発生する。したがって、このようなつまずきを防止する方法として、第一に送り出した足が手前側で停止する可能性があることを人間に予期させることと、第二に送り出した足が手前側で停止しようとした場合であっても停止位置を前方にシフトさせることがあげられる。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み発明されたものであって、耐滑性能を備えた靴であっても、つまずきにくい靴の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は以下の構成を有する。すなわち、
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の底部に設けられた靴底を有する靴であって、
前記靴底の前方部には、歩行時の荷重を主として受け止める靴底面に対して突出した1個または複数個の突起が設けられており、
当該突起は、踏みつけによる荷重を受けた場合に前記靴底面とほぼ同一の高さにまでへこむように形成されていることを特徴とするつまずき防止靴。
【0008】
また、請求項2記載の発明は以下の構成を有する。すなわち、
前記突起は、前記靴底面と比較して滑りやすい素材により形成されていることを特徴とする請求項1記載のつまずき防止靴。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、前記突起が前後方向に長く形成された流線形状を成していることを特徴とする。突起は、床面に対して滑りやすいことが好ましいものであるが、
床面には硬質樹脂、コンクリート、石等の堅い床、カーペット地のような柔らかい床、水や油で濡れた床等があり、床面に対する突起の形状や素材によって滑りやすさが異なるものである。流線形状を成した突起は、特にカーペット地のような柔らかい床、水や油で濡れた床等に適したものである。また、堅い床において使用する場合であっても、比較的接触面積が広いので耐摩耗性を高めることができるものとなっている。
【0010】
また、請求項4記載の発明は、前記突起の先端部が半球状を成していることを特徴とする。前記したごとく、突起は、床面に対して滑りやすいことが好ましいものである。当該先端部が半球状を成した突起は、特に、硬質樹脂、コンクリート、石等の堅い床であって、水や油等が飛散している比較的滑りやすい床で使用する靴に適したものである。
【0011】
また、請求項5記載の発明は、前記突起の出没動作を円滑に行わせるために突起の周囲に靴底面による拘束を軽減する隔離部(溝)を設けたことを特徴とするものである。突起は、一定の加重がかけられた際に凹むことが望ましいものであるが、靴底面と完全に一体化していると、突起が凹む際に靴底面の一部も同時に変形させなければならなくなる。しかし、靴底の形状が大きく変形することは着用者にとって不快なものであり、突起のスムーズな出没動作の妨げともなる。本発明は、当該構造を採用することにより、突起のスムーズな出没動作と履き心地の向上を図っている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、靴底面から突出している突起物を有しており、それが踏みつけによる加重にともなって凹むことで通常の靴と同様に歩行を可能とするものである。この際、踏みつけによる加重が大きくなる前に、予め突起物が床面と接触するので僅かな時間差ではあるが接触したことを歩行者に認知させることができる。前述した通り、つまずきの原因の一つは、予期していない位置で足が停止してしまうことであるが、本発明は予期していない位置で靴が停止する際に、僅かに早くその事態を歩行者に対して知らせ、つまずき回避が必要であることを直感的に知覚させることができる。このように、本発明は効果の一つとして、つまずきを事前に察知させる効果を有している。
【0013】
また、本発明は靴底面から突出している突起物を有しており、それが踏みつけによる加重にともなって凹むことで通常の靴と同様に歩行を可能とするものである。そして、通常歩行において接地する位置よりも手前側で靴底が床面に接地しようとする場合(つまずく虞がある場合)、突起が床面に当接して靴底面全体の接地を僅かに遅延させ、靴の接地位置をつまずき位置よりも前方にシフトさせることができる。このように、本発明は靴の接地位置をつまずき位置からシフトさせることによりつまずきの防止または軽減を行うことができるという効果があるものである。
【0014】
また、本発明は、耐滑性の高い靴底の前足底部分に滑りやすい形状および素材によって形成した突起を設けることによって、靴に対する荷重が大きくなるまで、靴底を持ち上げた状態のまま滑らせることができるようになっている。
【0015】
以上のように、本発明はつまずき時に歩行中の靴を急激に停止させるのではなく、着用者に接地を感じさせてから少し後に靴を停止させることができ、これによって、靴が不用意に停止してつまずくような現象を回避もしくは低減させることができるようになっている。また、本発明の靴は、歩行時に靴を急激に停止させるものではないので、使用者にとって足腰に対する負担が少ないという効果をも有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明を適用した靴1の側面図を表しており、図2は靴1の底面図を表している。
靴1は、足入れ部となるアッパー体2と当該アッパー体2の下面に設けられた靴底3によって構成されている。図1及び図2に示した靴1は、靴底3を射出成形により形成した2層底として形成したものとなっている。
【0017】
本実施の形態に係る靴底3は、踵部4から前足底部5にかけて全体として平坦な靴底面を有しており、土踏まず部6を除く部位に円形の凹部7を多数設けたものとなっている。当該靴1は、靴底3を形成する素材と前記凹部7の形状によって、クリーンルーム等に用いられている光沢のある合成樹脂製の床材の上において、優れた耐滑性能を発揮するように形成されたものである。
【0018】
そして、靴底3の前方部である前足底部5のほぼ中央には、船底型のような流線形状の1個の突起8が設けられている。当該突起8は、前後方向(図1における左右方向)に沿って設けられた凸条として形成されており、主たる接地面である靴底面よりも2〜3mm突出した状態で、靴底3に埋め込まれたように一体的に形成されている。
【0019】
図3(a)は、図2に示した靴1のX−X’線における靴底部の断面図を表している。
図3(a)を用いて靴1の構造を再度説明すると、靴1は上部に足入れ部としての空間を有するアッパー体2が設けられ、当該アッパー体2の下部にミッドソール9とアウトソール10による2層底として構成された靴底3が設けられたものとなっている。また、靴底3は図3(a)のように、底面の左右の両角部はやや丸みを有した形状となっている。アッパー体2内部の底面には通常、中敷が敷かれており、当該中敷を介した着用者の荷重が、ミッドソール9およびアウトソール10によって支えられるようになっている。
【0020】
前述した通り、靴底3の前方部である前足底部5には突起8が設けられている。具体的には、アウトソール10を形成する際に突起8をインサートした状態で射出成形をすることによって、アウトソール10の内部に突起8の大半部を埋め込んだ状態で靴底3を一体成形している。
【0021】
突起8はアウトソール10の表面よりも2〜3mm程度高く突出しており、突出部以外の残りの部分はアウトソール10内に埋没している。本実施の形態においては、突起8の全高の1/2〜2/3程度の部分がアウトソール10内に埋没し、残りの部分が表面より突出したものとなっている。
【0022】
また、突起8の周囲には溝12が設けられている。当該溝12は突起8と靴底面の一部を隔絶する隔離部となっており、突起8の変形に対する靴底3の影響を軽減するために設けた部位である。
【0023】
突起8の前後位置は、指の付け根(トゥースプリングの起点)(中足指節関節)付近に配置する。詳しくは、突起8の先端は親指の接地する位置に配置され、突起8の全長の先端から3分の1にあたる部分が指の付け根の位置に配置されるのが望ましい。
これは、詳細は後述するが歩行の際につまずきが生じやすいのは図4(c)〜(d)に表した状態の時であり、歩行時には唯一足が上方に曲がる指の付け根(トゥースプリングの起点)(中足指節関節)部分が靴底の変形が大きくなり一番接地しやすいためである。
【0024】
突起8の左右位置は、靴底の中央が望ましい。突起8の接地部分は左右方向の断面が図3(a)のような半円状のR部を持ち、中央が一番高くなっており一番接地しやすく滑り抵抗が少ない部分となっている。
突起8の横断面形状は、角のないU字形状が望ましい。さらに、靴底3の左右断面は湾曲した形状になっているため、靴1を左右方向に移動させた場合でも、靴底3が接地面に対して突起8から接地しやすい。また、突起8の前後方向における断面形状は、角のない
湾曲した形状が望ましい。これは、突起8に角があると床面の段差に引っかかってしまうためである。 本実施の形態では、ミッドソール9の材質は発泡ポリウレタン(PU)、アウトソール10の材質も発泡ポリウレタン(PU)であり、突起8の材質は熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)である。
【0025】
ミッドソール9の材質とアウトソール10の材質と突起8の材質は、靴1が使用される環境に応じて仕様を異ならせている。硬度としては、ミッドソール9は、履き心地を良くするためにアウトソール10より硬度が低い方が良い、具体的には60未満(JISA)であることが望ましい。
アウトソール10は耐滑性能を発揮するためにミッドソール9より硬度を高くしている、具体的には60以上(JISA)。
突起8は滑らせるため硬度を高くしている。その硬度は、アウトソール10より硬く、例えば具体的には80〜90(JISA)が好ましい。
【0026】
なお、突起8、ミッドソール9、アウトソール10の材質としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、発泡ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、塩化ビニル、ゴム、サーモラバー(TR)を使用することができる。また、突起8、ミッドソール9、アウトソール10の材質は、接着性の面から同じ材質を使用すると良い。アウトソール10は床面に対して高い耐滑性能を発揮する素材および接地部の形状に形成され、突起8は床面に対して滑りやすい素材が採用される。
【0027】
図3(b)は、歩行による靴底3の接地によって、突起8がアウトソール10およびミッドソール9を変形させつつ上昇した状態を表している。すなわち、接地面となる床面によって突起8が上方に押し上げられ、突起8の表面がアウトソール10の表面と一致する状態になるまで、突起8は上方に移動するようになっている。逆をいえば、アウトソール10とミッドソール9は、このような突起8の上昇を許容するような変形を行うために、形状および素材の選択が行われている。
【0028】
突起8の周囲には、変形前の状態で幅1mm深さ2mm程度となる溝12が設けられている。溝12は、突起8の上昇に合わせて開口部位が狭まるように変形するものの、突起8の上昇を妨げないようになっている。また、溝12は突起8の表面がアウトソール10の表面と一致した時に一番狭まるため、靴に対する荷重が大きくなるまでは、突起8が接地して床面に対して僅かに靴を滑らせることができるようになっている。そして、靴に対する荷重が大きくなり突起8の表面がアウトソール10の表面と一致すると溝12が一番狭まる。このとき、突起8が上方に移動してアウトソール10の表面が接地面に対して全体的に接地するようになるため、十分な耐滑性能を発揮できる。
【0029】
また、溝12を形成するアウトソール10は、薄い方が柔かいので変形しやすくコストも安くなる。溝12は、突起8の側面とアウトソール10との接触面積を小さくする作用があり、前述したように接触(接着)したアウトソール10によって突起8の移動が制限されるのを防止している。また、突起8が上動する際にアウトソール10を引っ張り上げる作用が少なく、アウトソール10の床面に対する接触状態を良好に保つことができるようになっている。
【0030】
なお、上記の説明においては、2層底の例を示したが、アウトソール10のみの1層底の形態にしても差し支えないものである。また、上記の突起8の形状のみにかぎらず、接地面となる床面によって突起8が上方に押し上げられ、突起8の表面がアウトソール10の表面と一致する状態になるまで、突起8が上方に移動するように設けたものであれば差し支えない。また、突起8は複数本設けるときは短くしても差し支えない。
【0031】
次に図4(a)〜図4(e)に示す5つの模式図を用いて、人間の一般的な歩行の様子を説明する。
図4(a)は、前方に送り出された左足(L)が着地するとともに、後方の右足(R)が床面を蹴って前方に移動しようとしている状態を表している。
図4(b)は、着地した左足(L)を軸にして、右足(R)が前方に移動し始めた様子を表している。
図4(c)〜(d)は、左足(L)を軸にして、右足(R)を前方に送り続けている様子を表している。
図4(e)は、右足(R)が踵から接地し、後方の左足(L)が床面を蹴って前方に移動しようとしている状態を表している。以降、同様の動作を繰り返すことで歩行が行われる。
【0032】
上述した歩行の際、つまずきが生じやすいのは図4(c)〜(d)に表した状態の時である。すなわち、左右の足の前後が入れ替わった後の、前方に送られている途中の右足(R)が、爪先を下に向けた状態から次第に上に向けた状態に遷移する状態の時である。
この状態の時に、前方に送り出している足が下がると靴底が床面に接地する場合がある。そして、耐滑性能の高い靴を着用していると、この時点で床面によって靴の前方移動が妨げられてつまずくことになる。また、この状態は左右の足を入れ替えて体重を移動させるところでもあるため、ここで引っかかるとつまずいてしまう。しかし、本実施の形態に係る靴1は、底面に滑りを許容する突起8が設けられているので、歩行中に底面と床面が接触しても、直ちに靴の前方移動が妨げられることはない。したがって、ただちにつまずくことはない。
【0033】
なお、図4(b)に示す状態では右足の爪先が床面に引っかかったとしても、右足より前方にある左足によって踏ん張ることができるためつまずきにくく、図4(e)に示す状態では靴底に荷重がかかり突起8が上昇してアウトソールが接地した安定した状態であるためつまずきにくく滑らない。
【0034】
靴底面が床面に接触する際には、必ず耐滑性の高い主たる接地面よりも突起8が先行して接触する。そして、突起8が床面に接すると、床面上を滑りつつ次第に靴底面に対して沈み込み、突起8の表面と靴底面がほぼ同一の高さになった時に靴本来の耐滑性能が発揮されるようになる。すなわち、軽い荷重をかけている状態では靴は滑り、踏み込んで重い荷重をかけると靴が滑らなくなるわけである。
【0035】
また、当該靴1は上記したつまずき防止以前に、着用者の疲労軽減にも効果があるものである。すなわち、耐滑性の発揮以前に滑りを生じさせることは、足の動作を止めるという急激な負担を緩和する作用があり、長時間の着用によって生じる疲労の軽減にも効果を有するものとなっている。
【0036】
本実施の形態に係る靴1は、前記突起8の効果によって、種々の場面でのつまずき防止、歩行時における脚部への負担軽減を行うことができるようになっている。また、突起が床面に接触する際、着用者にも突起の接地が知覚される。したがって、正常な歩幅で靴が移動している場合には違和感はないが、つまずく前兆として正常な歩幅に到達する以前に突起の接地が知覚されると、着用者は直感的につまずきの危険を察知することができるようになっている。前記突起8は、上記した滑りによるつまずき防止の効果と、つまずきの危険を事前に察知させることによるつまずき防止の効果も有している。
【0037】
なお、上記の説明においては、前足底部に設ける突起8として1本の棒状体の例を示したが、複数本並べた形態にしても差し支えないものである。また、棒状体のみにかぎらず、床面と点接触するような突起を所定の配列で設けたものであっても差し支えない。
また、上記の例では、靴底面が平坦な靴を例示しているが、踵と前足底部に段差のある紳士靴や安全靴のような形態の靴であっても差し支えがないものである。
【0038】
図5(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底はミッドソール9とアウトソール10による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール10に突起8を設けるための凹部を形成し、その内部に溝11を形成した状態で突起8を設けている。図3(a)に示した靴底と異なる点は、突起8の上端が直接ミッドソール9と接触するように設けられていることである。図5(b)は、図5(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0039】
図6(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底は発泡素材またはゴム等による1層底13として形成されたものである。そして、当該1層底13を形成する際に突起8を設けるための凹部を形成し、その内部に溝11を形成した状態で突起8を一体的に設けている。図6(b)は、図6(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0040】
図7(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底は発泡素材またはゴム等による1層底13として形成されたものである。そして、当該1層底13を形成する際に突起8を設けるための凹部を形成し、その内部に溝11を形成した状態で突起8を一体的に設けている。前記図6(a)に示した突起8と異なる点は、突起8の形状である。すなわち、図6(a)に示した突起8は所謂蒲鉾状を成しているのに対して、図7(a)に示した突起8は1層底13との接触部が幅広のフランジ状に形成されている点が異なっている。図7(b)は、図7(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0041】
図8(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底はミッドソール9とアウトソール10による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール10自体に、前記突起および凹部に相当する形状の部分を設け、その突起に相当する形状の部分の表面に、別素材により形成した表皮状の接触部14を設けている。図8(b)は、図8(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0042】
図9(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底はミッドソール9とアウトソール10による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール10に突起8を設けるための凹部を形成し、その内部に溝11を形成した状態で突起8を設けている。図3(a)に示した靴底と異なる点は、突起8が中実の蒲鉾状を成しているのではなく、突起8を中空状の形態に形成し、その中空の内部にミッドソール9を形成する樹脂素材が充填されている点である。図9(b)は、図9(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0043】
図10(a)は、突起8を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底は発泡素材またはゴム等による1層底13として形成されたものである。そして、当該1層底13を形成する際に、別の素材により形成した中空状の突起部材15をインサートし、当該突起部15の内部にも1層底13を形成する樹脂素材を充填しつつ、1層底13として形成したものである。図10(b)は、図10(a)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0044】
図11(a)は、突起を設けた靴底の他の例である円形の突起28を設けた靴底23の底面図である。本実施の形態に係る靴底23は、図2における靴底3と同様の構造を有しているが、突起28と突起8の形状と配置が異っている。
そして、靴底23の前方部である前足底部25のほぼ中央には、4個の突起28が設けられている。当該突起28は、踏付部中央21の前後(図11aにおける左右)に各1個
、踏付部中央21の左右(図11aにおける下上)に各1個(ハッチングを施した円形部として図示した部分)設けられている。これら突起28は、表面が球面状に形成されており、靴底20の底面よりも2〜3mm突出した状態で、靴底20に埋め込まれたように一体的に形成されている。
【0045】
図11(b)は、図11(a)に示した靴20のY−Y’線における靴底部の断面図の一部を表している。アウトソール22を形成する際に突起28をインサートした状態で射出成形をすることによって、アウトソール22の内部に突起28の大半部を埋め込んだ状態で靴底20を一体成形している。
【0046】
図11(c)〜(e)は、アウトソール22を射出する前の突起28単体を示した図であり、それぞれ突起28の側面図、上面図、底面図となっている。突起28の上面には、複数の凸部30が形成されており、アウトソール22を射出成形した後に、前記凸部30が溶けてアウトソール22と突起28が溶着しやいようになっている。また、突起28の周囲には溝31が設けられている。
【0047】
突起28の接地部分は断面が図11(f)のような半円状のR部を有する半球状となっており、中央が一番高くなっており一番接地しやすく滑り抵抗が少ない部分となっている。突起28の横断面形状は、角のないU字形状が望ましい。さらに、靴底20の左右方向の両角部分は湾曲した形状になっているため、靴底20を前後方向あるいは左右方向に移動させた場合でも、靴底20が接地面に対して突起28から接地しやすい。また、突起28の前後方向における角部の形状は、角のない湾曲した形状が望ましい。これは、突起28に角があると床面の段差に引っかかってしまうためである。 本実施の形態では、ミッドソール29の材質は発泡ポリウレタン(PU)、アウトソール22の材質も発泡ポリウレタン(PU)であり、突起8の材質は熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)である。
【0048】
図11(h)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20はミッドソール29とアウトソール22による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール22に突起28を設けるための凹部を形成し、その内部に溝を形成した状態で突起28を設けている。図11(f)に示した靴底と異なる点は、突起28の上端が直接ミッドソール29と接触するように設けられていることである。図11(i)は、図5(h)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0049】
図11(j)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20は発泡素材またはゴム等による1層底として形成されたものである。そして、当該1層底を形成する際に突起28を設けるための凹部を形成し、その内部に溝を形成した状態で突起28を一体的に設けている。図11(k)は、図11(j)に示した突起28がへこんだ状態を表している。
【0050】
図11(l)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20はミッドソール29とアウトソール22による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール22自体に、前記突起および凹部に相当する形状の部分を設け、その突起に相当する形状の部分の表面に、別素材により形成した表皮状の突起28を設けている。図11(m)は、図11(l)に示した突起28がへこんだ状態を表している。
【0051】
図11(n)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20はミッドソール29とアウトソール22による2層底として形成されたものである。そして、アウトソール22に突起28を設けるための凹部を形成し、その内部に溝を形成した状態で突起28を設けている。図11(f)に示した靴底と異なる点は、突起28が中実の蒲鉾状を成しているのではなく、突起28を中空状の形態に形成し、その中空の内部にミッ
ドソール29を形成する樹脂素材が充填されている点である。図11(o)は、図11(n)に示した突起8がへこんだ状態を表している。
【0052】
図11(p)は、突起28を設けた靴底の他の例を表した断面図である。靴底20は発泡素材またはゴム等による1層底として形成されたものである。そして、当該1層底を形成する際に、別の素材により形成した中空状の突起28をインサートし、当該突起28の内部にも1層底を形成する樹脂素材を充填しつつ、1層底として形成したものである。図11(q)は、図11(p)に示した突起28がへこんだ状態を表している。
【0053】
上記した先端が半球状の突起は、特に、硬質樹脂、コンクリート、石等の堅い床であって、水や油等が飛散している比較的滑りやすい床で使用する靴に適したものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、耐滑性のある靴に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施の形態に係る靴の側面図である。
【図2】本実施の形態に係る靴の底面図である。
【図3】本実施の形態に係る靴の要部断面図である。
【図4】人間の歩行状態に関する説明図である。
【図5】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図6】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図7】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図8】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図9】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図10】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【図11】靴底に設けた突起の他の例を表す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 靴
2 アッパー体
3 靴底
4 踵部
5 前足底部
6 土踏まず部
7 凹部
8 突起
9 ミッドソール
10 アウトソール
12 溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の底部に設けられた靴底を有する靴であって、
前記靴底の前方部には、歩行時の荷重を主として受け止める靴底面に対して突出した1個または複数個の突起が設けられており、
当該突起は、踏みつけによる荷重を受けた場合に前記靴底面とほぼ同一の高さにまでへこむように形成されていることを特徴とするつまずき防止靴。
【請求項2】
前記突起は、前記靴底面と比較して滑りやすい素材により形成されていることを特徴とする請求項1記載のつまずき防止靴。
【請求項3】
前記突起は、前後方向に長く形成された流線形状を成していることを特徴とする請求項1または2記載のつまずき防止靴。
【請求項4】
前記突起は、突出した先端部が半球状を成していることを特徴とする請求項1または2記載のつまずき防止靴。
【請求項5】
前記突起の周囲には、当該突起の出没動作を円滑に行わせるために靴底面との間に隔離部を設けたことを特徴とする請求項4または5記載のつまずき防止靴。
【請求項1】
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の底部に設けられた靴底を有する靴であって、
前記靴底の前方部には、歩行時の荷重を主として受け止める靴底面に対して突出した1個または複数個の突起が設けられており、
当該突起は、踏みつけによる荷重を受けた場合に前記靴底面とほぼ同一の高さにまでへこむように形成されていることを特徴とするつまずき防止靴。
【請求項2】
前記突起は、前記靴底面と比較して滑りやすい素材により形成されていることを特徴とする請求項1記載のつまずき防止靴。
【請求項3】
前記突起は、前後方向に長く形成された流線形状を成していることを特徴とする請求項1または2記載のつまずき防止靴。
【請求項4】
前記突起は、突出した先端部が半球状を成していることを特徴とする請求項1または2記載のつまずき防止靴。
【請求項5】
前記突起の周囲には、当該突起の出没動作を円滑に行わせるために靴底面との間に隔離部を設けたことを特徴とする請求項4または5記載のつまずき防止靴。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
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【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−297205(P2009−297205A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154123(P2008−154123)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
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