説明

へら鮒用の釣り竿

【課題】高強度繊維を使用した竿管でもふくよかな釣り味を表現することのできるへら鮒用の釣り竿を提供する。
【解決手段】上記課題を解決することのできるへら鮒用の釣り竿10は、高強度繊維で形成された穂先から元竿までの複数本の竿管12、14、16の内、少なくとも1本の竿管内に弾性充填材17が充填されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はへら鮒釣りに用いられる釣り竿に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の釣り竿は、一般に、軽くて強度が高く、かつ、感度が高くて魚からのアタリや引きによる振動がダイレクトかつ鋭敏に釣り人の手に伝わるようなものが求められており、このような要求を満足することのできるカーボン繊維やグラスファイバー(ガラス繊維)等の高強度繊維が釣り竿の材質として広く用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4−103464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような一般的な釣り竿とは異なり、へら鮒釣りに用いられる釣り竿には、へら鮒釣り独特の「釣り味」というものが求められており、ともすれば、この「釣り味」が最も重要な要素として扱われる。
【0005】
ここでへら鮒釣り独特の「釣り味」とは、魚の引きによる竿の撓みとその反動による振動が釣り竿でしなやかに吸収されることによってダイレクトに釣り人の手に伝わらず、また、当該振動が釣り竿で反発されることによって再び魚に戻り、戻った振動で驚いた魚が暴れるといったこともない静的な釣りの状態を表すものであり(これを「ふくよかな釣り味」と表現することもある。)、これは優れた材質の竹竿を用いたときに得られる感覚である。ただ、竹竿は素材が工業製品でなく自然材であるから品質にバラツキがあるだけでなく強度や耐久性の面でも問題がないとは云えなかった。
【0006】
そこで、工業製品であり品質、強度や耐久性の面でも優れた高強度繊維、とりわけカーボン繊維を使用したへら鮒用の釣り竿の制作が試みられたが、前述のようにこのような釣り竿は感度が高くてへら鮒釣り独特の「釣り味」に欠けること、およびカーボン繊維製品は軽量のためへら鮒用としては重厚感に欠けるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みて開発されたもので、本発明の主たる課題は、高品質かつ均質で高い強度や耐久性を維持しつつ、ふくよかな釣り味を表現することのできる高強度繊維製のへら鮒用の釣り竿を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載した発明は、「高強度繊維で形成された穂先から元竿までの複数本の竿管12、14…16の内、少なくとも1本の竿管内に弾性充填材17が充填されていることを特徴とするへら鮒用の釣り竿10」である。
【0009】
へら鮒からの強い引きによる引張りによって釣り糸19が強く緊張し、これによって釣り竿10が大きく撓まされ、同時に釣り竿10が反発して強く緊張した釣り糸19で発生した衝撃的振動が釣り竿10の穂先12から元竿16方向に走る。ところが、この発明にかかるへら鮒用の釣り竿10によれば、内部に弾性充填材17が充填されているので、高強度繊維で形成された竿管12、14、16であるにも拘わらず、穂先12に伝わった、あるいはここで発生した鋭い振動や竿管12、14、16内を走る音波(粗密波)は、この弾性充填材17にて吸収され、高強度繊維製竿管特有の、竿自体に伝わる強い振動や音波(粗密波)を急速に減衰させ、しかも弾性充填材17の重量による持ち重りのある重厚感も感じることが出来てあたかも高級竹竿の如きへら鮒釣りに求められる独特の「釣り味」に近づけることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、「穂先12から数えて2本目の竿管14の内部に弾性充填材17が充填されていることを特徴とする請求項1に記載のへら鮒用の釣り竿10」である。すなわち、この発明では、特に、「二番」あるいは「穂持」等と称される、穂先12から数えて2本目の竿管14(以下、「二番」という。)の内部に弾性充填材17が充填されていることに特徴を有する。
【0011】
へら鮒用の釣り竿10において、二番14は、釣り糸19を介して穂先12に伝えられた魚の引きや振動を釣り人の手元に伝える重要な役割を担っており、この二番14の内部に弾性充填材17が充填されていることにより、他の竿管に設ける場合と比べて特に魚の引き等による力を弾性充填材17の弾性でしなやかに受けとめることができ、かつ釣り糸19から伝わる振動や竿管内を流れる音波(粗密波)を消去できるのでへら鮒用の釣り竿10に求められる独特の「釣り味」を実現できる。
【0012】
なお、へら鮒用の釣り竿10には、3本継ぎ(竿先から順に「穂先」、「二番」、「元竿」などと称される。)の他、4本継ぎ、あるいはそれ以上の継ぎ数のものがあるが、継ぎ数が増加しても、上述のように魚の引きや振動を釣り人の手元に伝える重要な役割を担うのは二番14であり、この二番14に弾性充填材17を充填することが最も効果的である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工業製品としての高い品質と均質性、高強度繊維による竿管の高い強度や耐久性を維持しつつ、当該竿管の内部に充填された弾性充填材によるふくよかな釣り味を表現することのできるへら鮒用の釣り竿を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した釣り竿を示す断面図である。
【図2】図1のII−II矢視による断面図である。
【図3】内側管体のプリプレグを示す概念図である。
【図4】外側管体のプリプレグを示す概念図である。
【図5】本発明を適用した釣り竿の使用状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図示実施例に従って説明する。本発明を適用した釣り竿10は、図1および図2に示すように、3本の竿管12、14、16(以下、各竿管を区別する必要があるときには、竿先から順に「穂先12」、「二番14」、「元竿16」といい、区別する必要がないときには、「竿管12、14、16」という。)を順に継ぐことにより1本の釣り竿とする「3本継ぎ」の釣り竿であり、本実施例では二番14の内部に弾性充填材17が充填されている。
【0016】
竿管12、14、16は、それぞれ内側管体18と、外側管体20とで構成されており(もちろん、1つの管体だけで構成されてもよい。)、概ね、後端から先端にかけて縮径するテーパー形状となっている。
【0017】
内側管体18は、図3に示すように、周方向へ引き揃えられた複数の高強度繊維に合成樹脂を含浸させた内層22と、管軸方向へ引き揃えられた複数の高強度繊維に合成樹脂を含浸させた外層24とを重ね合わせて形成されたプリプレグ26を図示しないマンドレルに管状に巻回させて形成される。これに対して外側管体20は、図4に示すように、管軸方向へ引き揃えられた複数の高強度繊維に合成樹脂を含浸させた内層28と、周方向へ引き揃えられた複数の高強度繊維に合成樹脂を含浸させた外層30とを重ね合わせて形成されたプリプレグ32を、マンドレルに巻回された前記内側管体18用のプリプレグ26上に巻回されて形成されるもので、これらによって竿管12、14、16が形成される。
【0018】
なお、内側管体18および外側管体20を構成する高強度繊維としては、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維ならびにこれらの混合繊維等を用いることができ、また、高強度繊維に含浸される合成樹脂としては、エポキシ、ポリエステルあるいはフェノールを用いることができる(もちろん、これらに限定されるものではない。)。
【0019】
穂先12の先端には(図1)、釣糸が結びつけられる穂先部材34が装着されており、結びつけられた釣糸が穂先12に対して自由に回転できるので、釣糸に対して不所望に撚りがかからないようになっている。
【0020】
また、本実施例の釣り竿10は、いわゆる「並継ぎ」の竿であり、穂先12を二番14の先端部に挿入固定するため、穂先12の後端部には、穂先12の後端から先端方向に向けて径が大きくなるテーパー部36が形成されている(あるいは、穂先12の後端部を二番14の先端径よりもやや小さい同径とし、二番14との嵌合部分のみをテーパーに形成してもよい。これは、二番14の後端部でも同じ。)。二番14の後端部にも、穂先12と同様に、二番14を元竿16の先端部に挿入固定するため、二番14の後端から先端方向に向けて径が大きくなるテーパー部38が形成されている。更に、本実施例では二番14の内部には、上述のように、弾性充填材17が充填されている。
【0021】
弾性充填材17は、エアゾール型の発泡ウレタン(この発泡ウレタンの具体例としては、ジフェニルメタンジイソシアネートを主成分とする一液性湿気硬化型硬質発泡ウレタン:一例として、株式会社エアータイトのクリーム・エアータイトフォーム(登録商標)が挙げられる。)を二番14の先端から内部に噴射・充填することによって形成された、防振性・防音性を有する部材であり、二番14の後端から、二番14の先端側における穂先12が干渉しない位置にかけて、図の実施例ではほぼ均一に充填されている。もちろん、二番14の内部の一部に充填して防振・防音効果を発揮するので一部充填(通常、噴射・充填側であるがこれに限られない。)でも良いことは言うまでもない。
【0022】
なお、弾性充填材17は、発泡ウレタンの他、EVA(エチレンビニルアルコール)発泡体、PVC(ポリ塩化ビニル)発泡体あるいはゴム等の防振性・防音性を有する材料を用いることができる。また、樹脂発泡体については気泡内に水が入り込まないから連続気泡型より独立気泡型の方が望ましい。
【0023】
元竿16の後端部には、釣り人が釣り竿10を操作する際に握るグリップ40が取り付けられている。
【0024】
上述の実施例では、二番14の内部にのみ弾性充填材17が充填されているが、これに替えて、穂先12あるいは元竿16に弾性充填材17を充填するようにしてもよいし、複数の竿管あるいは全ての竿管に充填してもよい。穂先12の内部空洞の直径は細いので、まず発泡液を充填し、これを加熱発泡させることで弾性充填材17の充填を行う。穂先12に充填した場合は、ピンと張った釣り糸19から受ける振動を最初に受ける穂先12で吸収消滅させることになるので、釣り竿10に振動そのものが入力せず、竿からの緊張した釣り糸19への反発が大幅に軽減される事になり、「釣り味」向上に大いに貢献する。また、元竿16に充填する場合は、その重量による重厚感を実現するのが主となる。
【0025】
また、釣り竿は、「3本継ぎ」に限られず、「1本もの」、「2本継ぎ」、あるいは「4本継ぎ以上」であってもよい。ただし、「3本継ぎ以上」の場合には、少なくとも竿先から2本目の竿管(つまり、二番14)に弾性充填材17を充填するのが好適である。
【0026】
すなわち、図5に示すように、へら鮒用の釣り竿10を構成する竿管12、14、16のうち、魚の引き等による力を受け止めて釣り人の手元に伝えていく過程で重要な役割を担うのは二番14(中でも二番14の穂先12側は元竿16側に比べてより細いので、この部分が元竿16側に比べて大きく撓むからこの部分に充填することが好ましい。)であり、この二番14の内部に弾性充填材17が充填されていることにより、魚の引き等による力を弾性充填材17の弾性でしなやかに受けとめることができ、へら鮒用の釣り竿10に求められる独特の「釣り味」を実現する事ができる。
【0027】
従来の高強度繊維製釣竿の場合、魚の強い引き、およびこれに反発することによる竿の撓りに起因する振動は、釣り糸を伝って釣り竿の穂先に伝達されあるいはここで発生した後、振動は竿管の表面を伝って釣り人の手元まで伝達される。同時に竿管の振動によって竿内の空気が振動して音波(粗密波)となり、これが竿管の内部を進んで釣り人の手元まで伝達される。
【0028】
ところが、本発明の釣り竿10であれば、竿管12、14、16の内部に充填された弾性充填材17の弾性により、竿管12、14、16の表面を伝う振動は、熱エネルギーとして当該弾性充填材17に吸収され、また、竿管12、14、16の内部を進む音波も同様にして弾性充填材17に吸収される。
【0029】
このように、竿の撓りに起因する振動が弾性充填材17によって吸収されることにより、当該振動がダイレクトに釣り人の手に伝わらず、また、当該振動が釣り竿10で反射されることによって再び魚に戻り、戻った振動で驚いた魚が暴れるといった高強度繊維製へら竿が持つ欠点も解消される。
【符号の説明】
【0030】
10…釣り竿
12…穂先(竿管)
14…二番(竿管)
16…元竿(竿管)
17…弾性充填材
18…内側管体
19…釣り糸
20…外側管体
22…(内側管体の)内層
24…(内側管体の)外層
26…プリプレグ
28…(外側管体の)内層
30…(外側管体の)外層
32…プリプレグ
34…穂先部材
36…(穂先に固定された)挿入部材
38…(二番に固定された)挿入部材
40…グリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度繊維で形成された穂先から元竿までの複数本の竿管の内、少なくとも1本の竿管内に弾性充填材が充填されていることを特徴とするへら鮒用の釣り竿。
【請求項2】
穂先から数えて2本目の竿管の内部に弾性充填材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載のへら鮒用の釣り竿。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−183869(P2010−183869A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29863(P2009−29863)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000125967)株式会社がまかつ (20)
【Fターム(参考)】