説明

めっき付銅条材のスリット方法及びめっき付銅条材のスリット装置

【課題】めっき付銅条材を所定の幅寸法に切断するスリット加工を行う際に、めっき付銅条材の表面に均一な油性保護膜を形成して、プレス加工前の拭き取り作業においてめっき層表面に傷を発生させるおそれが少ないめっき付銅条材のスリット方法及びスリット装置を提供する。
【解決手段】銅条材の少なくとも一方の面にめっき層が形成されためっき付銅条材1を、所定の幅寸法に切断するめっき付銅条材1のスリット方法であって、めっき付銅条材1の表面に油性保護膜を形成する油性保護膜形成工程と、油性保護膜が形成されためっき付銅条材1を所定の幅寸法に切断する切断工程と、を備えており、油性保護膜形成工程においては、軸線Lに沿って延びる円筒面を有するとともに軸線L方向長さがめっき付銅条材1の全幅以上とされた塗布ローラ21に、油を供給し、この塗布ローラ21をめっき付銅条材1の表面に摺接させることによって前記油性保護膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅又は銅合金からなる銅条材の少なくとも一方の面にめっき層が形成されためっき付銅条材を、所定の幅寸法に切断するめっき付銅条材のスリット方法及びスリット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ICやLSIなどの半導体装置に用いられるリードフレーム、各種電子部品の端子およびコネクタは、前述のめっき付銅条材に対してプレス加工等を施すことにより製作されている。このようなプレス加工を行う際には、まず、幅広のめっき付銅条材を所定の幅寸法に切断してめっき付銅帯を形成する。そして、このめっき付銅帯の表面の汚れを拭き取った状態でプレス加工機に連続的に供給してプレス加工が行われることになる。
【0003】
ここで、幅広のめっき付銅条材を所定の幅寸法に切断してめっき付銅帯を形成するスリット方法及びスリット装置としては、例えば特許文献1−3に示すように、条材の上下にスリットカッタがそれぞれ配設され、このスリットカッタの間に条材を通過させて、せん断により切断するものが、広く使用されている。
【特許文献1】特開平1−115511号公報
【特許文献2】特開平1−252312号公報
【特許文献3】特開平2−172617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、めっき付銅条材のスリット加工を行う場合には、銅条材及びめっき層をせん断していることから、切断面から金属粉が発生するおそれがある。また、スリット加工時に外部から異物が混入するおそれがある。これら金属粉や異物がめっき層表面に堆積した状態で拭き取り作業を行った場合には、金属粉や異物によってめっき層表面が傷付けられてしまうことになる。特に、Snめっき材の場合、Snの金属粉が酸化して非常に硬いSn酸化物となるために、めっき層表面に傷が発生し易い傾向にある。
【0005】
ここで、めっき層の表面に金属粉や異物が直接堆積することを防止する手段として、めっき層表面に油を塗布して、油性保護膜を形成することが考えられる。油性保護膜を形成した場合には、スリット加工時に発生した金属粉や外部から混入した異物等が、油性保護膜上に堆積することになり、金属粉や異物の堆積が抑制されることになる。よって、プレス加工前の拭き取り作業において、めっき層表面に傷を発生させることが抑制されるのである。
【0006】
しかしながら、めっき付銅条材の表面に単に油を供給した場合には、めっき層の表面に油性保護膜が均一に形成されず、部分的に油性保護膜が形成されないことがあった。特に、幅方向において部分的に油性保護膜が形成されていない箇所が存在すると、この箇所の摩擦抵抗が大きくなり、拭き取り作業を安定して行うことができなくなってしまう。また、油性保護膜が形成されなかった部分では、金属粉や異物等による傷の発生を抑えることができなくなる。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、めっき付銅条材を所定の幅寸法に切断するスリット加工を行う際に、めっき付銅条材の表面に均一な油性保護膜を形成して、プレス加工前の拭き取り作業においてめっき層表面に傷を発生させるおそれが少ないめっき付銅条材のスリット方法及びスリット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明に係るめっき付銅条材のスリット方法は、銅又は銅合金からなる銅条材の少なくとも一方の面にめっき層が形成されためっき付銅条材を、所定の幅寸法に切断するめっき付銅条材のスリット方法であって、前記めっき付銅条材の表面に油性保護膜を形成する油性保護膜形成工程と、前記油性保護膜が形成された前記めっき付銅条材を所定の幅寸法に切断してめっき付銅帯を形成する切断工程と、を備えており、前記油性保護膜形成工程においては、軸線に沿って延びる円筒面を有するとともに前記軸線方向長さが前記めっき付銅条材の全幅以上とされた塗布ローラに、油を供給し、この塗布ローラを前記めっき付銅条材の表面に摺接させることによって、前記油性保護膜を形成することを特徴としている。
【0009】
前述の構成とされた本発明に係るめっき付銅条材のスリット方法によれば、油性保護膜形成工程において、軸線に沿って延びる円筒面を有するとともに軸線方向長さが前記めっき付銅条材の全幅以上とされた塗布ローラに油を供給し、この塗布ローラを前記めっき付銅条材の表面に摺接させることによって前記油性保護膜を形成しているので、塗布ローラにおいて油が幅方向に広げられた状態で、めっき付銅条材に摺接されることになり、めっき付銅条材の表面に、全幅にわたる均一な油性保護膜を形成することが可能となる。
よって、めっき付銅帯の表面全体の摩擦抵抗が低くなり、プレス加工前の拭き取り作業を良好に行うことができる。また、スリット加工時に発生する金属粉や異物が油性保護膜の上に堆積して除去されることになり、めっき層表面における傷の発生を抑制することができる。
【0010】
ここで、前記油性保護膜形成工程において、前記めっき付銅条材の両面に前記油性保護膜を形成してもよい。
この場合、銅条材の他方の面についても金属粉や異物による傷の発生を抑制することが可能となる。特に、銅条材の他方の面にもめっき層が形成されている場合には、めっき付銅条材の両面に前記油性保護膜を形成することが好ましい。
【0011】
また、前記油性保護膜の厚さを、10Å以上100Å以下とすることが好ましい。
油性保護膜の厚さが10Å未満である場合には、金属粉等が多く発生した際にめっき層表面における傷の発生を抑制する効果が低下してしまうおそれがある。また、油性保護膜の厚さが30Åを超えると、油の使用量が多くなってしまい、プレス加工前の拭き取り作業が困難となる。したがって、油性保護膜の厚さは、10Å以上30Å以下に制御することが好ましいのである。
【0012】
さらに、前記油性保護膜形成工程において、不揮発性油を前記塗布ローラに供給し、前記油性保護膜を形成することが好ましい。
この場合、油性保護膜が不揮発性油によって構成されることになるので、スリット加工後においても油性保護膜が長期間にわたって保持される。したがって、めっき付銅帯を取り扱う際に異物等が混入した場合でも、異物の堆積を抑制することができる。
【0013】
また、前記油性保護膜形成工程において、前記油をスプレーノズルを用いて噴射することにより、前記塗布ローラに前記油を供給することが好ましい。
この場合、スプレーノズルへの油の供給圧力を調整することによって油の噴射量が変化するため、形成される油性保護膜の厚さを精度良く制御することができる。
【0014】
本発明に係るめっき付銅条材のスリット装置は、銅又は銅合金からなる銅条材の少なくとも一方の面にめっき層が形成されためっき付銅条材を、所定の幅寸法に切断するめっき付銅条材のスリット装置であって、前記めっき付銅条材を供給する条材供給部と、供給されためっき付銅条材を所定の幅寸法に切断してめっき付銅帯を形成するスリット切断部と、前記めっき付銅帯を巻き取って回収する巻取り部と、を備えており、前記スリット切断部の装入口近傍には、前記めっき層の表面に油性保護膜を形成する油性保護膜手段が設けられており、該油性保護膜手段は、軸線に沿って延びる円筒面を有するとともに前記軸線方向長さが前記めっき付銅条材の全幅以上とされた塗布ローラと、この塗布ローラに油を供給する油供給部と、を備えていることを特徴としている。
【0015】
前述の構成とされた本発明に係るめっき付銅条材のスリット装置によれば、前記スリット切断部の装入口近傍に、前記めっき層の表面に油性保護膜を形成する油性保護膜手段が設けられており、この油性保護膜手段が、軸線に沿って延びる円筒面を有するとともに軸線方向長さが前記めっき付銅条材の全幅以上とされた塗布ローラと、この塗布ローラに油を供給する油供給部と、を備えているので、塗布ローラに油を供給し、この油を塗布ローラにおいて幅方向に広げられた状態でめっき付銅条材に塗布されることになり、めっき付銅条材の表面に、全幅にわたる均一な油性保護膜が形成される。そして、この油性保護膜が形成された状態で、スリット切断部において切断されることになる。よって、スリット加工時に発生する金属粉や異物が、めっき層表面に直接堆積することを防止でき、めっき層表面における傷の発生を抑制することができる。
【0016】
ここで、前記油性保護膜手段には、前記油供給部からの油の供給量を制御する制御部が設けられていることが好ましい。
この場合、制御部において油の供給量を制御することにより、めっき付銅条材の表面に形成される油性保護膜の膜厚を制御することが可能となる。
【0017】
また、前記塗布ローラとして、前記めっき付銅条材の一方の面に摺接する第1塗布ローラと、前記めっき付銅条材の他方の面に摺接する第2塗布ローラと、が設けられていることが好ましい。
この場合、めっき付銅条材の一方の面及び他方の面に油性保護膜が形成することが可能となり、めっき付銅条材の一方の面及び他方の面を保護することができる。
【0018】
さらに、前記油供給部が、スプレーノズルを備えており、該スプレーノズルによって前記油を噴射することにより前記塗布ローラに油を供給する構成とされていることが好ましい。
この場合、スプレーノズルへの油の供給圧力を調整することによって油の噴射量が変化することになり、形成される油性保護膜の厚さを精度良く制御することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、めっき付銅条材を所定の幅寸法に切断するスリット加工を行う際に、めっき付銅条材の表面に均一な油性保護膜を形成して、プレス加工前の拭き取り作業においてめっき層表面に傷を発生させるおそれが少ないめっき付銅条材のスリット方法及びスリット装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態であるめっき付銅条材のスリット方法及びスリット装置について添付した図面を参照して説明する。
まず、本実施形態において切断されるめっき付銅条材について説明する。このめっき付銅条材1は、図1に示すように、銅又は銅合金で構成された銅条材2と、この銅条材2の一方の面及び他方の面に形成されためっき層3A,3Bとを備えている。
【0021】
本実施形態においては、めっき層3A、3Bは、最も内側に形成されたNi層4A、4Bと、Ni層4A、4Bの外側に形成されたCu−Sn合金層5A、5Bと、Cu−Sn合金層5A、5Bの外側に形成されたSn層6A、6Bと、で構成された3層構造とされている。ここで、銅条材2の厚さが0.1〜2.0mm、Ni層4A、4Bの厚さが 0.05〜1.0μm、Cu−Sn合金層5A、5Bの厚さが0.1〜1.0μm、Sn層6A、6Bの厚さが0.1〜3.0μm、とされている。
このようなめっき付銅条材1は、めっき層3A,3Bが形成された後にコイル状に巻かれた状態で保管及び運搬が行われる。
【0022】
次に、前述のめっき付銅条材1を所定の幅寸法に切断するスリット装置10について、図2から図4を用いて説明する。
このスリット装置10は、アンコイラー11と、ピンチローラ12と、第1テンションローラ部14と、サイドガイド部15と、油性保護膜形成手段20と、スリット切断部30と、第2テンションローラ部16と、リコイラー17と、を備えている。
【0023】
アンコイラー11は、コイル状に巻かれためっき付銅条材1を回転可能に支持しており、このめっき付銅条材1を回転駆動することによって、めっき付銅条材1を巻き解して、搬送路上に連続的に供給する。
ピンチローラ12は、アンコイラー11から搬送路上に供給されためっき付銅条材1を上方及び下方から挟み込むことにより、めっき付銅条材1の上下方向位置を案内するものである。
【0024】
第1テンションローラ部14は、図2に示すように、めっき付銅条材1をS字状に蛇行させることで、搬送路上のめっき付銅条材1に張力を負荷する。なお、本実施形態においては、図2に示すように、ピンチローラ12と第1テンションローラ部14との間に、一のめっき付銅条材1の端部と他のめっき付銅条材1の端部とを溶接して長尺材とする溶接機13が設けられている。
サイドガイド部15は、搬送路上のめっき付銅条材1を、所定の幅方向位置となるように案内する。
【0025】
油性保護膜形成手段20は、めっき付銅条材1の表面に油を塗布して、めっき層3A,3B表面に油性保護膜を形成する。
スリット切断部30は、油性保護膜が形成されためっき付銅条材1を所定の幅寸法に切断し、複数のめっき付銅帯8を形成する。
【0026】
第2テンションローラ部16は、図2に示すように、形成された複数のめっき付銅帯8のそれぞれをS字状に蛇行させることで、複数のめっき付銅帯8にそれぞれ張力を負荷する。
リコイラー17は、回転可能なドラムを備えており、このドラムの外周にめっき付銅帯8を巻き取る構成とされている。
【0027】
ここで、前述したスリット切断部30及び油性保護膜形成手段20について、図3及び図4を参照して詳しく説明する。
スリット切断部30は、円板状をなすスリットカッタ31A,31Bを上下に配置してなるカッタユニット33を備えている。スリットカッタ31A,31Bは、図3に示すように、それぞれ軸部32A、32Bを中心として回動可能な構成とされている。ここで、上下に配置されたスリットカッタ31A,31Bは、上下方向に僅かに重なり合うとともに、幅方向に僅かな隙間が画成されるように配設されている。なお、本実施形態では、上下方向のオーバラップ量が0〜0.3mmの範囲とされ、幅方向の隙間が0〜0.2mmの範囲とされている。
スリット切断部30においては、前述したカッタユニット33が、搬送されるめっき付銅条1の幅方向に、所定の間隔をあけて複数配列されている。
【0028】
そして、スリット切断部30の装入口近傍に、前述の油性保護膜手段20が設けられている。
この油性保護膜形成手段20は、図3及び図4に示すように、軸線Lに沿って延びる円筒面を有する塗布ローラ21と、この塗布ローラ21に油を供給する油供給部22と、を備えている。
塗布ローラ21は、その軸線L方向長さが、切断されるめっき付銅条材1の全幅以上とされており、軸線Lを中心として回動してめっき付銅条材1の表面に摺接される構成とされている。本実施形態では、めっき付銅条材1の一方の面(図3及び図4において上面)に摺接される第1塗布ローラ21Aと、めっき付銅条材1の他方の面(図3及び図4において下面)に摺接される第2塗布ローラ21Bと、が設けられている。なお、本実施形態においては、塗布ローラ21の材質は、ウレタンゴムとされている。
【0029】
油供給部22は、図4に示すように、第1塗布ローラ21A及び第2塗布ローラ21Bの外周面に向けられた複数のスプレーノズル23を有する第1スプレーユニット24A及び第2スプレーユニット24Bと、油を貯留するタンク部25と、タンク部25から第1スプレーユニット24A及び第2スプレーユニット24Bに向けてそれぞれ油を所定の圧力で移送する第1ポンプ部26A及び第2ポンプ部26Bと、これら第1ポンプ部26A及び第2ポンプ部26Bの動作を制御して第1スプレーユニット24A及び第2スプレーユニット24Bからの油の噴射量を調整する制御部27と、を備えている。
ここで、複数のスプレーノズル23は、塗布ローラ21の延在方向(軸線L方向)に等間隔に配列されている。また、本実施形態において使用されるスプレーノズル23は、噴射パターンが直線状となるものが使用されている。
【0030】
次に、上述のような構成とされた本実施形態であるめっき付銅条材のスリット装置10を用いたスリット方法について説明する。図5にフロー図を示す。
【0031】
まず、コイル状に巻かれためっき付銅条材1が装着されているアンコイラー11を回転駆動することにより、めっき付銅条材1が巻き解されて搬送路上に連続的に供給される(めっき付銅条材供給工程S1)。
供給されためっき付銅条材1は、ピンチローラ12によって上下から挟持されて上下方向位置が案内され、サイドガイド部15によって幅方向位置が案内される(位置ガイド工程S2)。このとき、第1テンションローラ14によってめっき付銅条材1には、所定の張力が負荷されている。
【0032】
そして、油性保護膜形成手段20によって、めっき付銅条材1の一方の面及び他方の面にそれぞれ油性保護膜が形成される(油性保護膜形成工程S3)。
この油性保護膜形成工程S3においては、第1ポンプ部26A及び第2ポンプ部26Bによって、タンク部25から第1スプレーユニット24A及び第2スプレーユニット24Bに向けて所定の圧力で油が供給される。第1スプレーユニット24A及び第2スプレーユニット24Bに配列されたスプレーノズル23から第1塗布ローラ21A及び第2塗布ローラ21Bの外周面に向けて油が噴射される。
【0033】
第1塗布ローラ21A及び第2塗布ローラ21Bにおいては、噴射された油が軸線L方向に広がった状態で、めっき付銅条材の一方の面及び他方の面に摺接される。これにより、めっき付銅条材の一方の面及び他方の面に油性保護膜が形成される。
ここで、本実施形態においては、形成される油性保護膜の膜厚が10Å以上30Å以下となるように、制御部27によって油の供給量が調整される。また、タンク部25には、不揮発性油が貯留されており、この不揮発性油によって油性保護膜が形成されることになる。
【0034】
一方の面及び他方の面に油性保護膜が形成されためっき付銅条材1は、スリット切断部30へと搬送され、スリットカッタ31A、31Bによって所定の幅寸法に切断され、複数のめっき付銅帯8が形成される(切断工程S4)。
これら複数のめっき付銅帯8は、それぞれ第2テンションローラ部16によって張力が負荷されるとともに、リコイラー17の複数のドラムにそれぞれ巻き取られる(めっき付銅帯巻取り工程S5)。
このようにして、めっき付銅条材1が所定の幅寸法に切断され、複数のめっき付銅帯8が製出されることになる。
【0035】
このような構成とされた本実施形態であるめっき付銅条材1のスリット方法及びスリット装置10によれば、めっき付銅条材1を切断するスリット切断部30の装入口近傍に油性保護膜形成手段20が設けられているので、切断を行う前に、めっき付銅条材1の一方の面及び他方の面に油性保護膜が形成される。ここで、油性保護膜形成手段20が、軸線Lに沿って延びる円筒面を有するとともに軸線L方向長さがめっき付銅条材1の全幅以上とされた第1塗布ローラ21A及び第2塗布ローラ21Bと、これら第1塗布ローラ21A及び第2塗布ローラ21Bに油を供給する油供給部22と、を備えているので、第1塗布ローラ21A及び第2塗布ローラ21Bに油を供給し、この油を第1塗布ローラ21A及び第2塗布ローラ21Bで幅方向に広げた状態で、第1塗布ローラ21A及び第2塗布ローラ21Bをめっき付銅条材1の一方の面及び他方の面に摺接させることができ、均一な油性保護膜を形成することが可能となる。そして、このような均一な油性保護膜が形成された状態で、スリット切断部30で切断することができ、切断時に発生する金属粉や異物が、めっき層3A,3Bの表面に直接堆積することを防止できる。さらに、形成されためっき付銅帯8の表面にも油性保護膜が形成されていることから、リコイラー17で巻き取る際のキズの発生を抑制できるとともに、めっき付銅帯8の表面全体の摩擦抵抗が低くなり、プレス加工前の拭き取り作業を良好に行うことができる。
【0036】
また、油性保護膜手段20に、タンク部25から第1スプレーユニット24A及び第2スプレーユニット24Bへ油を移送する第1ポンプ部26A及び第2ポンプ部26Bの動作を制御する制御部27が設けられており、この制御部27によって油性保護膜の膜厚が10Å以上30Å以下となるように制御されているので、めっき層3A、3B表面における傷の発生を抑制する効果を確実に奏功せしめることができるとともに、油の使用量を抑えることができる。また、制御部27によってスプレーノズル23への油の供給圧力を制御することで、スプレーノズル23からの油の噴射量を精度良く制御することができる。
【0037】
また、不揮発性油によって油性保護膜を形成しているので、切断により形成されためっき付銅帯8においても油性保護膜が長時間保持されることになる。よって、めっき付銅帯8を搬送時する際やプレス加工の準備の際に異物等が混入しても、油性保護膜によってめっき層3A,3B表面の傷の発生を抑制することができる。
【0038】
さらに、本実施形態では、第1塗布ローラ21A及び第2塗布ローラ21Bの材質がウレタンゴムとされているので、めっき付銅条材1の表面に摺接してもめっき層3A、3Bを傷付けることがなく、かつ、均一な油性保護膜を形成することが可能となる。
【0039】
以上、本発明の実施形態である本実施形態であるめっき付銅条材のスリット方法及びめっき付銅条材のスリット装置について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
スリット装置のアンコイラー、ピンチローラ、第1テンションローラ、サイドガイド部、第2テンションローラ、リコイラーの構成は、実施形態に限定されることはなく、他の構成であってもよい。
【0040】
また、めっき付銅条材の一方の面及び他方の面に油性保護膜を形成するものとして説明したが、少なくとも一方の面に油性保護膜が形成されていればよい。
さらに、油性保護膜の膜厚を10Å以上30Å以下に調整するものとして説明したが、油性保護膜の膜厚は、これに限定されることはない。
また、不揮発性油を塗布して油性保護膜を形成するものとして説明したが、塗布される油は、めっき層の性状等を考慮して適宜選択することが好ましい。
【0041】
さらに、本実施形態では、3層構造のめっき層を有するめっき付銅条材をスリットするものとして説明したが、めっき層の構成に限定はない。ただし、本実施形態で説明しためっき付銅条材においては、Ni層を有していることからスリット時にNi粉が発生することになり、このNi粉によってめっき層を傷つけてしまうおそれがある。よって、本発明の効果が顕著となる。
また、塗布ローラの材質をウレタンゴムとして説明したが、これに限定されることはなく、他の材質で構成された塗布ローラを用いても良い。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果を説明する。
【0043】
三菱伸銅株式会社製MSP1からなる銅条材の表面に膜厚1.0μmのリフローSnめっきが施され、板厚0.25mm、板幅320mm、長さ3000mのめっき付銅条材を準備した。このめっき付銅条材を、搬送速度150m/分とし、幅45mmのめっき付銅帯を7本製出するようにスリットカッタを配置した。
【0044】
本発明例として、以下のように油性保護膜を形成した。油性保護膜形成手段における塗布ローラとして、直径50mm、軸線方向長さ400mmのウレタン製ローラを使用した。スプレーノズルは、120mm間隔で3つずつ配列した。なお、スプレーノズルの空気圧は0.02MPaとし、油性保護膜の膜厚が30Åとなるように調整した。
【0045】
比較例として、塗布ローラをそのまま配置しておき、油の供給を塗布ローラの前段において実施することとした。めっき付銅条材の幅方向に等間隔に配列された3つの滴下装置によって油をめっき付銅条材の上面に直接供給し、塗布ローラによって広げて油性保護膜を形成した。
【0046】
評価としては、目視で油性保護膜がめっき付銅条材の全面に形成されているか否かを確認した。さらに、切断後のめっき付銅帯の表面をパットで拭き取り、めっき層表面の汚染状態を評価した。評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
比較例においては、油性保護膜が幅方向及び長手方向の一部において形成されなかった。また、幅方向に部分的に形成された油性保護膜においては、その膜厚が厚い傾向にあった。また、拭き取り後のパットには、金属粉や異物等が付着しており、汚れが発生していた。
これに対して、本発明例においては、油性保護膜がめっき付銅条材の全面に形成されており、その膜厚も比較的薄くなっていた。また、拭き取り後のパットには、金属粉や異物等の付着が少なく、汚れが抑制されていた。
【0049】
以上の確認実験の結果から、本発明によれば、めっき付銅条材の表面に均一な油性保護膜を形成することが可能であり、この油性保護膜によって切断後のめっき付銅帯表面の汚染が抑制されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態であるめっき付銅条材のスリット方法及びスリット装置においてスリットされるめっき付銅条材の断面説明図である。
【図2】本発明の実施形態であるめっき付銅条材のスリット装置の概略図である。
【図3】図2におけるスリット切断部の側面図である。
【図4】図3におけるX方向矢視図である。
【図5】本発明の実施形態であるめっき付銅条材のスリット方法のフロー図である。
【符号の説明】
【0051】
1 めっき付銅条材
3A、3B めっき層
8 めっき付銅帯
10 スリット装置(めっき付銅条材のスリット装置)
11 アンコイラー(条材供給部)
17 リコイラー(巻取り部)
20 油性保護膜形成手段
21A 第1塗布ローラ(塗布ローラ)
21B 第2塗布ローラ(塗布ローラ)
22 油供給部
23 スプレーノズル
27 制御部
30 スリット切断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅条材の少なくとも一方の面にめっき層が形成されためっき付銅条材を、所定の幅寸法に切断するめっき付銅条材のスリット方法であって、
前記めっき付銅条材の表面に油性保護膜を形成する油性保護膜形成工程と、前記油性保護膜が形成された前記めっき付銅条材を所定の幅寸法に切断してめっき付銅帯を形成する切断工程と、を備えており、
前記油性保護膜形成工程においては、軸線に沿って延びる円筒面を有するとともに前記軸線方向長さが前記めっき付銅条材の全幅以上とされた塗布ローラに、油を供給し、この塗布ローラを前記めっき付銅条材の表面に摺接させることによって、前記油性保護膜を形成することを特徴とするめっき付銅条材のスリット方法。
【請求項2】
前記油性保護膜形成工程において、前記めっき付銅条材の両面に前記油性保護膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のめっき付銅条材のスリット方法。
【請求項3】
前記油性保護膜の厚さが、10Å以上100Å以下とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のめっき付銅条材のスリット方法。
【請求項4】
前記油性保護膜形成工程において、不揮発性油を前記塗布ローラに供給し、前記油性保護膜を形成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のめっき付銅条材のスリット方法。
【請求項5】
前記油性保護膜形成工程において、前記油をスプレーノズルを用いて噴射することにより、前記塗布ローラに前記油を供給することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のめっき付銅条材のスリット方法。
【請求項6】
銅又は銅合金からなる銅条材の少なくとも一方の面にめっき層が形成されためっき付銅条材を、所定の幅寸法に切断するめっき付銅条材のスリット装置であって、
前記めっき付銅条材を供給する条材供給部と、供給されためっき付銅条材を所定の幅寸法に切断してめっき付銅帯を形成するスリット切断部と、前記めっき付銅帯を巻き取って回収する巻取り部と、を備えており、
前記スリット切断部の装入口近傍には、前記めっき層の表面に油性保護膜を形成する油性保護膜手段が設けられており、
該油性保護膜手段は、軸線に沿って延びる円筒面を有するとともに前記軸線方向長さが前記めっき付銅条材の全幅以上とされた塗布ローラと、この塗布ローラに油を供給する油供給部と、を備えていることを特徴とするめっき付銅条材のスリット装置。
【請求項7】
前記油性保護膜手段には、前記油供給部からの油の供給量を制御する制御部が設けられていることを特徴とする請求項6に記載のめっき付銅条材のスリット装置。
【請求項8】
前記塗布ローラとして、前記めっき付銅条材の一方の面に摺接する第1塗布ローラと、前記めっき付銅条材の他方の面に摺接する第2塗布ローラと、が設けられていることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のめっき付銅条材のスリット装置。
【請求項9】
前記油供給部が、スプレーノズルを備えており、該スプレーノズルによって前記油を噴射することにより前記塗布ローラに油を供給する構成とされていることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載のめっき付銅条材のスリット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−149261(P2010−149261A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332624(P2008−332624)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】