説明

アクチュエータ

【課題】液圧式であっても車両における乗り心地を向上することが可能なアクチュエータを提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段における鉄道車両の車体Bと台車Wとの間に介装されるシリンダCと、シリンダCに液圧を供給するモータMで駆動される液圧ポンプ1と、シリンダ位置をフィードバックしてモータMを制御する制御部20とを備え、車体Bを台車Wに対して傾斜させるアクチュエータAにおいて、制御部20内に生成或いは帰還される制御信号を濾過するローパスフィルタ25を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車体と台車との間に介装されて車体を台車に対して傾斜させるアクチュエータの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が曲線区間を走行する場合、車体には曲線区間の曲率中心とは反対側に向く遠心力が作用する。この遠心力は、車両の走行速度が高くなればなるほど大きくなる。そこで、鉄道車両の軌道では、曲率中心側の内側レールと反対側の外側レールにカントと呼ばれる高低差を設けて、上記遠心力を緩和し、曲線走行時の鉄道車両の速度向上を図っている。
【0003】
しかしながら、カント量(各レールの高低差量)は一端設定されると変更することができず、走行速度が異なる鉄道車両が走行する線区では、高速走行する鉄道車両になればなるほど、カント量が不足して超過遠心力が鉄道車両に作用して、乗心地が悪化してしまうといった問題がある。
【0004】
そこで、近年では、振子式の車体傾斜装置や台車と車体との間に設けた気体バネを用いて車体を台車に対して傾斜させる車体傾斜装置を搭載するようにし、上記カント量不足による超過遠心力を緩和するため、鉄道車両が曲線区間を走行する際に、台車に対して車体を曲率中心側に傾けるようにして乗り心地の悪化を抑制することで、曲線区間での高速走行を実現している。
【0005】
このような車体傾斜装置にあっては、具体的にはたとえば、車体と台車との間に空気圧で駆動される直動型のアクチュエータを介装し、このアクチュエータを伸縮させることで車体を台車に対して傾斜させるようになっている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−154432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記アクチュエータは、その駆動を大きな圧縮性を持つ圧縮空気を利用して行うため、推力と応答性が不十分となって狙った車体傾斜角の確保が難しく、乗り心地を充分に向上することが難しいという問題があり、これを解消するには、アクチュエータには、空気圧ではなく、液圧で駆動するものを採用することが考えられる。
【0007】
ところが、アクチュエータの作動流体を液体とする場合、今度は、液体の圧縮性の小ささ故にアクチュエータの見掛け上の剛性が高くなって、この車体傾斜用に供されるアクチュエータを介して台車における車体進行方向に対する左右方向の振動が車体に伝達されてしまい、車両における乗り心地を悪化させてしまう虞がある。なお、アクチュエータの見掛け上の剛性とは、作動流体を含めたアクチュエータ全体の伸縮方向の見掛け上の剛性であり、作動流体の圧縮性が小さくなればなるほど上記見掛け上の剛性は高くなる傾向を示すことになる。
【0008】
そこで、本発明は上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、液圧式であっても車両における乗り心地を向上することが可能なアクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段におけるアクチュエータは、鉄道車両の車体と台車との間に介装されるシリンダとシリンダに液圧を供給するモータで駆動される液圧ポンプと、シリンダ位置をフィードバックしてモータを制御する制御部とを備え、車体を台車に対して傾斜させるアクチュエータにおいて、制御部内に生成される制御信号を濾過するローパスフィルタを設けた。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアクチュエータによれば、制御部で生成或いは帰還される制御信号を濾過するローパスフィルタを備えているので、外乱によって乗り心地を悪化させる周波数帯の振動が台車に作用しても、台車側へ入力された振動が車体側へ伝播することを抑制することができ、液圧式のアクチュエータを車体傾斜に用いても車両における乗り心地を向上することができるのである。
【0011】
また、換言すれば、車両における乗り心地を向上することができるので、アクチュエータの作動流体を作動油等の液体とすることができ、推進力不足を解消し、車体傾斜の応答性を向上させることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態におけるアクチュエータの液圧回路を示す図である。図2は、一実施の形態におけるアクチュエータを鉄道車両の車体と台車との間に介装した状態を示す図である。図3は、一実施の形態のアクチュエータにおける制御ブロック図である。
【0013】
一実施の形態におけるアクチュエータAは、図1および図2に示すように、鉄道車両の車体Bと台車Wとの間に介装されるシリンダCと、シリンダCに液圧を供給するモータMで駆動される油圧ポンプ1と、モータMを制御する制御部20とを備えて構成されている。
【0014】
このアクチュエータAにあっては、シリンダCを油圧ポンプ1から供給する液圧で駆動することができるようになっており、本実施の形態では、具体的には、液圧でシリンダCを駆動するためアクチュエータ回路5を備えている。
【0015】
以下、各部について詳細に説明すると、シリンダCは、容器2と、容器2内に摺動自在に挿入されて容器2内に一方室R1および他方室R2の二つの圧力室を区画するピストン3と、ピストン3に連結されて容器2内に移動自在に挿入されるロッド4とを備えて構成され、一方室R1および他方室R2内には液体としての作動油が充填され、この実施の形態の場合、いわゆる両ロッド型の油圧シリンダとされている。なお、本実施の形態にあっては、シリンダCの作動には使用される液体は作動油とされているが、液体はアクチュエータAの作動に適するものであればよい。
【0016】
そして、油圧ポンプ1は、シリンダCをアクチュエータとして動作させるアクチュエータ回路5中に組み込まれ、アクチュエータ回路5は、ループ通路6と、ループ通路6中に設けた二つのソレノイド切換弁7,8と、ループ通路6から分岐する二つの分岐通路9,10と、分岐通路9,10のうち低圧側をアキュムレータ11に連通する低圧選択弁12とを備えて構成されている。
【0017】
詳細には、油圧ポンプ1は、シリンダCの一方室R1と他方室R2とを連通するループ通路6の途中に設けられ、この場合、モータMによって駆動される双方向吐出型のポンプとして構成されている。なお、油圧ポンプ1で生じる漏れ油圧はアキュムレータ11で回収されるようになっている。
【0018】
また、ループ通路6の途中であって、油圧ポンプ1と一方室R1との間には、ノーマルクローズのソレノイド切換弁7が介装され、さらに、油圧ポンプ1と他方室R2との間にも、ノーマルクローズのソレノイド切換弁8が介装されている。
【0019】
ソレノイド切換弁7は、油圧ポンプ1と一方室R1とを連通する連通ポジションと、油圧ポンプ1から一方室R1への流れのみを許容する遮断ポジションとを備えたバルブ7aと、遮断ポジションを採るようにバルブ7aを附勢するバネ7bと、通電時にバルブ7aをバネ7bに対向して連通ポジションに切換えるソレノイド7cとを備えて構成され、他方のソレノイド切換弁8は、油圧ポンプ1と他方室R2とを連通する連通ポジションと、油圧ポンプ1から他方室R2への流れのみを許容する遮断ポジションとを備えたバルブ8aと、遮断ポジションを採るようにバルブ8aを附勢するバネ8bと、通電時にバルブ8aをバネ8bに対向して連通ポジションに切換えるソレノイド8cとを備えて構成されている。
【0020】
さらに、分岐通路9は、ループ通路6の途中であってソレノイド切換弁7と油圧ポンプ1との間から分岐し、他方の分岐通路10は、ループ通路6の途中であってソレノイド切換弁8と油圧ポンプ1との間から分岐しており、これら分岐通路9,10のうち、低圧側が低圧選択弁12によってアキュムレータ11へ連通される。
【0021】
低圧選択弁12は、分岐流路9をアキュムレータ11に連通する一方側連通ポジションと、分岐流路10をアキュムレータ11に連通する他方側連通ポジションと、分岐流路9,10の双方をアキュムレータ11に連通する双方連通ポジションとを備えたバルブ12aと、バルブ12aを他方側連通ポジションに切換えるように分岐流路9の圧力を作用させるパイロット通路12bと、バルブ12aを一方側連通ポジションに切換えるように分岐流路10の圧力を作用させるパイロット通路12cとを備え、中立位置では双方連通ポジションを採るように構成されている。
【0022】
したがって、分岐流路9側の圧力が分岐流路10側の圧力を上回ると、低圧選択弁12は、他方側連通ポジションを採って分岐流路10をアキュムレータ11に連通し、反対に、分岐流路10側の圧力が分岐流路9側の圧力を上回ると、低圧選択弁12は、一方側連通ポジションを採って分岐流路9をアキュムレータ11に連通する。
【0023】
すなわち、ソレノイド切換弁7,8をそれぞれ連通ポジションとして、油圧ポンプ1を一方室R1へ油圧を供給するように駆動すると、一方室R1内に油圧が供給されてシリンダCにおけるロッド4が、図1および図2中、右方へ推進されてシリンダCが収縮し、車体Bを反時計周りに傾斜させることができ、反対に、ソレノイド切換弁7,8をそれぞれ連通ポジションとして、油圧ポンプ1を他方室R2へ油圧を供給するように駆動すると、他方室R2内に油圧が供給されてシリンダCにおけるロッド4が、図1および図2中、左方へ推進されてシリンダCが伸長し、車体Bを時計周りに傾斜させることができる。つまり、当該アクチュエータAを、車体を傾斜させるアクチュエータとして機能させることができる。
【0024】
そして、油圧ポンプ1を一方室R1へ油圧を供給するように駆動する場合、油圧ポンプ1は、低圧側となる他方室R2から、あるいは、低圧選択弁12によって選択される分岐流路10を介してアキュムレータ11から、あるいは、その両方から作動油を吸い込んで、一方室R1側へ作動油を吐出する。反対に、油圧ポンプ1を他方室R2へ油圧を供給するように駆動する場合、油圧ポンプ1は、低圧側となる一方室R1から、あるいは、低圧選択弁12によって選択される分岐流路9を介してアキュムレータ11から、あるいは、その両方から作動油を吸い込んで、他方室R2側へ作動油を吐出する。
【0025】
したがって、油圧ポンプ1は、作動油の圧縮等による体積減少が生じても、アキュムレータ11から作動油の供給を受け、問題なく一方室R1および他方室R2のうち希望する圧力室へ油圧を供給することができる。
【0026】
また、シリンダCの推力発生方向が逆転する折には、一方室R1の圧力と他方室R2の圧力の高低が逆転するので、低圧選択弁12は、一端中立位置の双方連通ポジションを経由して切換わり、分岐流路9,10を一度アキュムレータ11に連通する。
【0027】
なお、低圧選択弁12は、作動油の温度上昇による内圧増大の防止、作動油の温度低下による負圧の防止、およびシリンダCの製作加工誤差による一方室R1と他方室R2の容積差によるアキュムレータからの作動油の供給等のために設けられている。
【0028】
また、この実施の形態の場合、シリンダ位置(シリンダCにおける容器2に対するロッド4の変位)をセンシングするストロークセンサ30を備えており、ストロークセンサ30で検知するシリンダ位置に基づいて、位置フィードバック制御を行う制御部20によって、油圧ポンプ1を駆動するモータMが制御されるようになっている。
【0029】
なお、本実施の形態におけるアクチュエータAでは、失陥時その他においてシリンダCをダンパとして機能させるダンパ回路13を備えており、このダンパ回路13について説明すると、ダンパ回路13は、シリンダC内の二つの圧力室R1,R2を連通する流路14を備えており、この流路14は、減衰力発生要素15とソレノイド切換弁16とが設けられるメイン流路14aと、一方室R1からメイン流路14aに向かう流れのみを許容する一方側上流路14bと、他方室R2からメイン流路14aに向かう流れのみを許容する他方側上流路14cと、メイン流路14aから一方室R1へ向かう流れのみを許容する一方側下流路14dと、メイン流路14aから他方室R2へ向かう流れのみを許容する他方側下流路14eとを備えて構成されている。
【0030】
一方側上流路14bは、途中に一方室R1からメイン流路14aへ向かう作動油の流れのみを許容する逆止弁17aを備え、この逆止弁17aによって一方側上流路14bを一方室R1からメイン流路14aへ向かう一方通行の通路としている。他の他方側上流路14c、一方側下流路14d、他方側下流路14eの途中にも同様に、それぞれ逆止弁17b,17c,17dが設けられ、それぞれ上記した通りの一方通行の通路となるように設定されている。
【0031】
本実施の形態にあっては、このように流路14が構成されることで、作動油は、メイン流路14aを一方側上流路14bおよび他方側上流路14cに接続されている方を上流として、一方側下流路14dおよび他方側下流路14eに接続されている下流側へ流れることになり、メイン流路14aも一方通行とされている。
【0032】
また、メイン流路14aの下流は、接続通路14fを介して上述のアキュムレータ11に接続され、メイン流路14aの下流の圧力はアキュムレータ11と同圧となるように設定されている。
【0033】
そして、メイン流路14aの途中に設けられる減衰力発生要素15は、自身の上流側の圧力に応じて流路面積を調節する減衰バルブ15aと、当該減衰バルブ15aに並列配置される固定絞り15bとで構成され、メイン流路14aの上流側の圧力が低いときには、減衰バルブ15aが開かず、作動油に固定絞り15bを通過させ、流量が増加して固定絞り15bによる圧力損失が大きくなり上流側の圧力が減衰バルブ15aのクラッキング圧を上回るようになると、減衰バルブ15aが開いて作動油は減衰バルブ15aをも介してメイン流路14aの下流側へ流れるようになる。
【0034】
このように、減衰力発生要素15は、作動油がメイン流路14aを流れる際に、この流れに減衰バルブ15aと固定絞り15bとで抵抗を与えて、シリンダCの伸縮を抑制する減衰力を発揮させる発生源として機能する。
【0035】
さらに、ソレノイド切換弁16は、ノーマルオープンの切換弁とされ、メイン流路14aを開放する連通ポジションと、メイン流路14aを遮断する遮断ポジションとを備えたバルブ16aと、連通ポジションを採るようにバルブ16aを附勢するバネ16bと、通電時にバルブ16aをバネ16bに対向して遮断ポジションに切換えるソレノイド16cとを備えて構成されている。
【0036】
ここで、アクチュエータ回路5側でシリンダCを駆動しない状態を考えると、ソレノイド切換弁16が遮断ポジションを採り、ソレノイド切換弁7,8が遮断ポジションであれば、メイン流路14aが遮断状態に維持され、シリンダCの一方室R1と他方室R2との連通が断たれた状態となるので、シリンダCは伸縮不能なロック状態とされる。他方、いわゆる失陥時にあって、ソレノイド切換弁7,8が遮断ポジションを採るとともにソレノイド切換弁16が連通ポジションを採る場合には、メイン流路16aが開放状態に維持され、シリンダCが外力によって強制的に伸縮させられると、作動油は流路14を介して、一方室R1から他方室R2へ、あるいは、他方室R2から一方室R1へと移動可能となり、また、上記移動に際して必ずメイン流路14aの減衰力発生要素15を通過するので、シリンダCは外力による強制伸縮に対して伸縮を抑制する減衰力を発揮し、シリンダCをダンパとして機能させることができるようになる。
【0037】
また、このダンパ回路13では、一方室R1と他方室R2とを連通するリリーフ流路18と、リリーフ流路18の途中に設けたリリーフ弁19とを備えている。
【0038】
リリーフ流路18は、具体的には、減衰力発生要素15およびソレノイド切換弁16を迂回してメイン流路14aの上流と下流を連通することによって、一方室R1と他方室R2とを連通している。
【0039】
そして、ソレノイド切換弁16の開閉に関わらず、シリンダCに伸縮方向の過大な入力があって、一方室R1あるいは他方室R2内の圧力が所定圧を超える異常高圧となると、リリーフ弁19が開放動作して、異常高圧となった一方室R1あるいは他方室R2の一方の圧力を低圧側の他方へ逃がして、アクチュエータAのシステム全体を保護するようになっている。また、作動油の体積が減少する場合には、ソレノイド切換弁7,8が連通ポジション、遮断ポジションを問わずに一方室R1および他方室R2とアキュムレータ11との連通を許容するのでアキュムレータ11から一方室R1および他方室R2に作動油が供給されることになる。
【0040】
このように、この実施の形態のアクチュエータAでは、上記回路構成を採用することで、温度変化による作動油の体積補償される。このように、ソレノイド切換弁7,8における遮断ポジションにおいて、ループ通路6を遮断していても温度低下に伴う体積補償を行うことを可能とするためアキュムレータ11から一方室R1および他方室R2へ向かう流れを許容するようにしているが、当該体積補償をアクチュエータ回路5において行わない場合には、遮断ポジションにおいてループ通路6における双方向の流れを遮断するようにしてもよい。
【0041】
つづいて、モータMを制御する制御部20は、図3に示すように、位置ループ21と、位置ループ21が生成出力する速度指令信号Vが入力される速度ループ22と、速度ループ22が生成出力する電流指令信号Iが入力される電流ループ23と、電流ループ23が生成出力する制御指令信号Eを受け取ってアクチュエータAにおける油圧ポンプ1のモータMを制御指令通りに駆動するモータ駆動部24とを備えて構成されている。
【0042】
そして、位置ループ21は、車体Bの走行状態から車体傾斜角度の目標値を決定する図外の上位装置から入力されるシリンダCの位置指令信号Xとストロークセンサ30が出力する実際のシリンダ位置信号Xとの偏差を演算し偏差信号εを生成する偏差演算部21aと、偏差信号εの入力を受けて比例積分動作或いは比例積分微分動作によって速度指令信号Vを生成する速度指令生成部21bとを備えており、この位置ループ21で生成或いは帰還される制御信号は、偏差信号ε、シリンダ位置信号Xおよび速度指令信号Vとなる。
【0043】
速度ループ22は、位置ループ21から入力される速度指令信号VとモータM内に設けたロータ位置を検出する図示しない回転位置センサから得られるモータMの実際の速度信号Vとの偏差を演算し偏差信号εを生成する偏差演算部22aと、偏差信号εの入力を受けて比例積分動作或いは比例積分微分動作によって電流指令信号Iを生成する電流指令生成部22bとを備えており、この速度ループ22で生成或いは帰還される制御信号は、偏差信号ε、速度信号Vおよび電流指令信号Iとなる。
【0044】
電流ループ23は、速度ループ22から入力される電流指令信号IとモータM内に設けたコイルに流れる電流を検出する図示しない電流センサから得られるモータMに実際の電流信号Iとの偏差を演算し偏差信号εを生成する偏差演算部23aと、偏差信号εの入力を受けて、比例動作、或いは積分動作、或いは比例積分微分動作によって制御指令信号Eを生成する制御指令生成部23bとを備えており、この電流ループ23で生成或いは帰還される制御信号は、偏差信号ε、電流信号Iおよび制御指令信号Eとなる。
【0045】
モータ駆動部24は、図示はしないが、モータMを駆動する駆動回路を備え、モータMを実際に駆動するため電流量を示す制御指令信号Eを受け取ると、制御指令通りの電流量をモータMへ駆動回路を介して供給する。
【0046】
なお、このアクチュエータAは、モータMを制御する指令系統とは別に各ソレノイド切換弁7,8,16を駆動する図示しない指令系統が出力する制御指令に基づいて各ソレノイド切換弁7,8,16を駆動するソレノイドドライバ26を備えている。
【0047】
そして、たとえば、シリンダCを伸縮させて車体Bを傾斜させることが必要な場合に、たとえば、図外の上位装置から出力される位置指令信号Xと実際のシリンダ位置信号XとからシリンダCの駆動が必要であることを判断して各ソレノイド切換弁7,8を連通ポジションに切換える。なお、ソレノイド切換弁16は、アクチュエータAが正常動作している場合、原則的には、通電状態とされる。
【0048】
ここで、鉄道車両が走行中に、外乱によって車体Bに伝達されると乗り心地を悪化させる周波数帯の振動が台車Wに作用する場合、モータMの制御応答性が高いため当該振動に対してアクチュエータAの見掛け上の剛性が高くなって、台車Wに作用した振動を車体Bへ伝達してしまうことになる。換言すれば、乗り心地を悪化させる周波数帯の振動が台車Wに作用する場合、車体Bへ台車Wに作用した振動を伝達させないようにするには、アクチュエータAの見掛け上の剛性を低くすれば良いことになる。
【0049】
そして、制御部20では、シリンダ位置をフィードバックする位置フィードバック制御を行ってモータMを制御しているため、上位装置から入力されるシリンダCの位置指令信号Xと実際のシリンダ位置信号Xとの偏差を求め、この偏差を基本として最終的には制御指令を生成しモータMを制御するが、シリンダCが車体Bと台車Wとの間に介装されているため上記台車Wに作用する振動によって、ストロークセンサ30が検知したシリンダ位置信号Xには、上記した乗り心地を悪化させる周波数帯の振動が重畳される。
【0050】
したがって、シリンダ位置信号Xから端を発して最終的に得られる制御指令信号Eから乗り心地を悪化させる周波数帯の振動成分を除去してやれば、乗り心地を悪化させる周波数帯の振動に対してアクチュエータAにおける制御応答が抑制され、乗り心地を悪化させる周波数帯の振動に対してアクチュエータAの見掛け上の剛性を低くすることができることになる。
【0051】
詳しくは、たとえば、鉄道車両が曲線区間を走行中であって上位装置が車体Bの台車Wに対する傾斜角度をある一定角度として位置指令信号Xがある値αで一定しているとき、実際のシリンダ位置信号Xが乗り心地を悪化させる周波数帯の振動を含み振幅の中心が当該ある値αとなるような場合、シリンダ位置信号Xから振動を除去すれば、振動除去後のシリンダ位置信号Xが上記ある値αで一定し、上記位置ループ21の偏差演算部21aが出力する偏差信号εの値が0となり、速度ループ22および電流ループ23においても偏差が生じない理想的な状態では、最終的な制御指令信号Eの値も0となり、モータMはトルクを発生せずシリンダCが入力される外力で容易に伸縮せしめられ易くなる状態となり、アクチュエータAの見掛け上の剛性が低くなる。
【0052】
このように、アクチュエータAの見掛け上の剛性が低くなると、台車Wに入力された振動に対してアクチュエータAが伸縮して、車体B側への振動伝播を絶縁することができるようになる。
【0053】
そこで、この発明では、上記制御部20で生成或いは帰還される制御信号を濾過するローパスフィルタ25を備えている。なお、図示したところでは、ローパスフィルタ25は、トルク指令となる電流指令信号Iを濾過できるよう、速度ループ22と電流ループ23との間に介装されている。
【0054】
このローパスフィルタ25は、制御信号に含まれる車両における乗り心地を悪化させる振動成分を取り除くように設定されており、所定のカットオフ周波数以上の周波数成分を制御信号から取り除く。そして、このローパスフィルタ25におけるカットオフ周波数は、アクチュエータAを介して車体Bへ伝達されると乗り心地を悪化させるような周波数帯の振動を除去できれば任意に設定されればよいが、たとえば、車体Bに作用すると乗り心地を悪化させる周波数帯であるとされる約1Hz以上の振動成分を制御信号から除去できるよう、0.5Hz程度に設定されるとよく、車体傾斜のためのアクチュエータAの制御周波数範囲は0.5Hz程度以下であるので、乗り心地を悪化させる振動成分のみを取り除くことができる。
【0055】
そして、このローパスフィルタ25でトルク指令となる電流指令信号Iを濾過すると、電流指令信号Iから車体Bに伝達されると乗り心地を悪化させる周波数帯以上の振動成分が除去され、これによって、上記乗り心地を悪化させる振動に対してモータMの応答性が低下し、乗り心地を悪化させる振動に対するアクチュエータAの見掛け上の剛性が低くなって、台車Wから車体Bへの振動の伝達を抑制することができる。
【0056】
したがって、本実施の形態のアクチュエータAでは、制御部20で生成或いは帰還される制御信号を濾過するローパスフィルタ25を備えているので、外乱によって乗り心地を悪化させる周波数帯の振動が台車Wに作用しても、台車W側へ入力された振動が車体B側へ伝播することを抑制することができ、液圧式のアクチュエータAを車体傾斜に用いても車両における乗り心地を向上することができるのである。
【0057】
また、換言すれば、車両における乗り心地を向上することができるので、アクチュエータAの作動流体を作動油等の液体とすることができ、推進力不足を解消し、車体傾斜の応答性を向上させることができるのである。
【0058】
また、上記した制御部20において乗り心地を悪化させる振動が重畳される制御信号となるのは、偏差信号ε、シリンダ位置信号X、速度指令信号V、偏差信号ε、速度信号V、電流指令信号I、偏差信号ε、電流信号Iおよび制御指令信号Eであり、これら制御信号のうち、いずれかの信号をローパスフィルタで濾過すれば、乗り心地を悪化させる振動に対するアクチュエータAの見掛け上の剛性が低くすることができる。
【0059】
なお、台車Wが外乱によって加振される場合、乗り心地を悪化させる周波数帯の振動成分がモータMから検出される速度信号V、電流信号Iにも重畳されているため、ローパスフィルタ25で電流ループ23に入力される電流指令信号Iを濾過すると、モータMに実際に流れる電流が濾過後の電流指令信号Iに速やかに追随するので、振動抑制効果が高くなる。
【0060】
なお、本実施の形態の制御部20は、ハードウェア資源としては、図示はしないが、ストロークセンサ30が出力するアナログの電圧でなる変位信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、変位信号と上位装置からの目標変位とを取り込み、上記各部の処理を実行するCPU(Central Prossesing Unit)と、上記CPUに記憶領域を提供するRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)と、上記各部の処理を行うためCPUが実行するアプリケーションやオペレーティングシステム等のプログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、アクチュエータドライバ24とを備えて構成されており、制御部20の各部における構成は、CPUが各部の処理を行うためアプリケーションプログラムを実行することで実現されている。
【0061】
なお、ローパスフィルタ25は、この場合、CPUによる処理で実現されるとしているが、ローパスフィルタ25が介装される手前までの処理がアナログ回路によって実行させるのであれば、ローパスフィルタ25はアナログ信号を処理するフィルタとされてもよい。
【0062】
なお、上記したところでは、車体傾斜の手法として、いわゆる振子式といわれる手法を採用する鉄道車両に、本実施の形態のアクチュエータAを適用しているが、車体Aと台車Wの間の左右のそれぞれに、二つのアクチュエータを縦置きに設置して、各アクチュエータを駆動して車体Bを傾斜させるような場合にも、本発明のアクチュエータAを適用することが可能であるのは当然である。
【0063】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】一実施の形態におけるアクチュエータの液圧回路を示す図である。
【図2】一実施の形態におけるアクチュエータを鉄道車両の車体と台車との間に介装した状態を示す図である。
【図3】一実施の形態のアクチュエータにおける制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0065】
1 液圧源たる油圧ポンプ
2 容器
3 ピストン
4 ロッド
5 アクチュエータ回路
6 ループ通路
7,8,16 ソレノイド切換弁
7a,8a,16a バルブ
7b,8b,16b バネ
7c,8c,16c ソレノイド
9,10 分岐通路
11 アキュムレータ
12 低圧選択弁
13 ダンパ回路
14 流路
14a メイン流路
14b 一方側上流路
14c 他方側上流路
14d 一方側下流路
14e 他方側下流路
14f 接続通路
15 減衰力発生要素
15a 減衰バルブ
15b 固定絞り
17a,17b,17c,17d 逆止弁
18 リリーフ流路
19 リリーフ弁
20 制御部
21 位置ループ
21a,22a,23a 偏差演算部
21b 速度指令生成部
22 速度ループ
22b 電流指令生成部
23 電流ループ
23b 制御指令生成部
24 モータ駆動部
25 ローパスフィルタ
26 ソレノイドドライバ
30 ストロークセンサ
A アクチュエータ
B 車体
C シリンダ
R1 圧力室たる一方室
R2 圧力室たる他方室
W 台車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体と台車との間に介装されるシリンダと、シリンダに液圧を供給するモータで駆動される液圧ポンプと、シリンダ位置をフィードバックしてモータを制御する制御部とを備え、車体を台車に対して傾斜させるアクチュエータにおいて、制御部内に生成或いは帰還される制御信号を濾過するローパスフィルタを設けたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
制御部は、電流ループを備え、ローパスフィルタは電流偏差信号を濾過することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
制御部は、電流ループを備え、ローパスフィルタは帰還電流信号を濾過することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
制御部は、電流ループを備え、ローパスフィルタは電流ループが出力する制御指令信号を濾過することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
制御部は、電流ループを備え、ローパスフィルタは電流ループへ入力される速度指令信号を濾過することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
制御部は、速度ループを備え、ローパスフィルタは速度偏差信号を濾過することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
制御部は、速度ループを備え、ローパスフィルタは帰還速度信号を濾過することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
制御部は、速度ループを備え、ローパスフィルタは速度ループへ入力される位置指令信号を濾過することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項9】
ローパスフィルタは、位置ループにおける位置偏差信号を濾過することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項10】
ローパスフィルタは位置ループにおける帰還位置信号を濾過することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−137422(P2009−137422A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315567(P2007−315567)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)