説明

アクティブ防振装置

【課題】本発明は、部品点数を削減しつつ、振動体の変位を低減することができるアクティブ防振装置を得ることを目的とする。
【解決手段】アクティブ防振装置10は、支持部材14と、弾性部材16と、アクチュエータ18と、加速度センサ20と、制御手段22とを備えている。アクチュエータ18は支持部材14と構造体40とに連結され、構造体40に反力を取って支持部材14を振動方向(矢印V方向)に加振可能になっている。また、アクチュエータ18には電気回路等で構成された制御手段22が接続されている。制御手段22は、支持部材14の振動を打ち消すように、支持部材14の加速度に応じて支持部材14に対するアクチュエータ18の制御力fをフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブ防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータ、ポンプ、搬送装置等の設備機械(振動体)と構造体との間に設置され、振動体から構造体へ伝播される振動を低減するアクティブ防振装置が知られている(例えば、特許文献1,2)。特許文献1,2に開示されたアクティブ防振装置は、支持座弾性部材を介して支持座に支持された中間体と、中間体弾性部材を介して中間体に支持される共に加振源を支持する本体と、本体と中間体とに連結されたアクチュエータとを備え、中間体の振動を打ち消すようにアクチュエータによって本体を加振することにより、加振源から支持座に伝播される振動を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−197826号公報
【特許文献2】特開2009−197827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に開示されたアクティブ防振装置では、中間体、及び当該中間体を支持する支持座弾性部材が必要になるため、部品点数が増加する。また、振動体を支持する本体の制振が考慮されておらず、共振によって振動体の変位(振幅)が大きくなる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、部品点数を削減しつつ、振動体の変位を低減することができるアクティブ防振装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載のアクティブ防振装置は、振動体を支持する支持部材と、前記支持部材を前記振動体の振動方向に振動可能に構造体に支持させる弾性部材と、前記支持部材と前記構造体とに連結され、前記支持部材を加振するアクチュエータと、前記支持部材の加速度を検出する加速度センサと、前記加速度センサで検出された加速度に応じて、前記支持部材の振動を打ち消すように前記アクチュエータに前記支持部材を加振させる制御手段と、を備えている。
【0007】
請求項1に係るアクティブ防振装置によれば、加速度センサで検出された支持部材の加速度に応じて、制御手段が支持部材の振動を打ち消すようにアクチュエータに支持部材を加振させる。これにより、支持部材の振動が低減される結果、振動体から支持部材及び弾性部材を介して構造体へ伝達される加振力が低減される。また、従来技術(例えば、特許文献1,2)のような中間体が不要になるため、部品点数を削減することができる。更に、前述したように支持部材の振動が低減されるため、当該支持部材によって支持された振動体の変位(振幅)が低減される。特に、固有振動数付近で支持部材の振動を低減することにより、共振による振動体の変位の増幅を低減することができる。
【0008】
請求項2に記載のアクティブ防振装置は、請求項1に記載のアクティブ防振装置において、前記制御手段が、式(1)の伝達関数を用いて前記アクチュエータをフィードバック制御する。
【0009】
請求項2に係るアクティブ防振装置によれば、制御手段が、式(1)に示す伝達関数(フィルタ)を介してアクチュエータをフィードバック制御する。これにより、アクチュエータを備えないパッシブ防振装置と比較して、固有振動数付近、及び固有振動数よりも高い振動数領域での振動体の加振力及び変位を低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記の構成としたので、部品点数を削減しつつ、振動体の変位を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るアクティブ防振装置の振動モデルを示す説明図である。
【図2】比較例に係るパッシブ防振装置の防振性能を示すグラフであり、(A)は加振力の増幅倍率と振動数比との関係を示し、(B)は変位応答倍率と振動数比との関係を示している。
【図3】比較例に係るアクティブ防振装置の防振性能を示すグラフであり、(A)は加振力の増幅倍率と振動数比との関係を示し、(B)は変位応答倍率と振動数比との関係を示している。
【図4】本発明の一実施形態に係るアクティブ防振装置の防振性能を示すグラフであり、(A)は加振力の増幅倍率と振動数比との関係を示し、(B)は変位応答倍率と振動数比との関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係るアクティブ防振装置について説明する。
【0013】
図1には、一実施形態に係るアクティブ防振装置10及び振動体30で構成された振動系の振動モデル12が示されている。このアクティブ防振装置10は、設備機械等の振動を発生する振動体(振動源)30から当該振動体30が設置される床スラブ等の構造体40へ伝達される振動を低減するものである。即ち、アクティブ防振装置10は、床スラブ等の構造体から振動を嫌う精密機械等へ伝達される振動を低減するアクティブ除振装置とは異なるものである。なお、図1に示される矢印Vは、振動体30の振動方向を示している。
【0014】
アクティブ防振装置10は、支持部材14と、弾性部材16と、アクチュエータ18と、加速度センサ20と、制御手段(制御部)22とを備えている。支持部材14は振動体30を支持すると共に振動体30に質量を付加する質量体(マス)として機能するものであり、弾性部材16を介して構造体40に支持されている。
【0015】
弾性部材16は、例えばコイルばね、天然ゴム、合成ゴム、シリコン等の弾性体で構成され、伸縮方向を振動体30の振動方向(矢印V方向)にして支持部材14と構造体40との間に配置されている。この弾性部材16によって支持部材14が振動体30の振動方向に振動可能に支持されている。これらの振動体30、支持部材14、及び弾性部材16によって1自由度1質点系の振動系が構成されている。なお、図1には、弾性部材16のバネ定数k及び減衰係数cが模式的に示されている。
【0016】
支持部材14と構造体40との間には、アクチュエータ18が設けられている。アクチュエータ18は支持部材14と構造体40とに連結され、構造体40に反力を取って支持部材14を振動方向(矢印V方向)に加振可能になっている。このアクチュエータ18には、フィードバック回路を有する電気回路等で構成された制御手段22が接続されている。制御手段22は、支持部材14の振動を打ち消すように、即ち、支持部材14から構造体40へ伝達される加振力fを打ち消すように支持部材14の加速度(振動加速度)に応じてアクチュエータ18の加振力(以下、「制御力f」という)をフィードバック制御するものである。
【0017】
具体的には、制御手段22には支持部材14の加速度を検出する加速度センサ20が接続されている。加速度センサ20は支持部材14に取り付けられており、検出した支持部材14の加速度(加速度情報)を制御手段22に出力するようになっている。この加速度に基づいて、制御手段22が支持部材14から弾性部材16を介して構造体40へ伝達される加振力fと逆位相の制御力fを算出すると共に、算出された制御力fでアクチュエータ18に支持部材14を加振させる制御信号を生成し、アクチュエータ18に出力する。この制御信号に基づいて、アクチュエータ18が制御力fで支持部材14を加振することにより、支持部材14から構造体40へ伝達される加振力fが打ち消されるようになっている。即ち、制御手段22は、支持部材14の加速度が大きくなったときに、その加速度に比例して制御力fが大きくなるようにアクチュエータ18を制御し、支持部材14の加速度が小さくなったときに、その加速度に比例して制御力fが小さくなるようにアクチュエータ18を制御する。
【0018】
なお、アクチュエータ18としては、例えば、リニアモータ、ピエゾアクチュエータ、サーボモータ等を用いることができる。また、加速度センサ20は、支持部材14の加速度を検出できれば良く、支持部材14と一体に振動する振動体30に取り付けても良い。
【0019】
ここで、振動体30の加振力をf、構造体40へ伝達される伝達加振力をf、振動体30の質量と支持部材14の質量との合計値をm、振動体30の振動方向(矢印V方向)の変位(振幅)をxとすると、振動モデル12の運動方程式は下記式(a)及び式(b)で表される。
【数1】

【0020】
また、振動モデル12の伝達関数(防振性能)は下記式(1)で表される。この式(1)から分かるように、制御手段22によるフィードバック制御では、補正フィルタとしてCTRL(s)を用いている。
【数2】


ただし、
f(s):支持部材から構造体へ伝達される加振力(伝達加振力)
(s):振動体の加振力
s:複素円振動数(=虚数i×振動体の円振動数ω)
m:支持部材及び振動体の質量
c:弾性部材の減衰係数
k:弾性部材のバネ定数
である。
【0021】
また、振動体30の単位加振力f当たりの変位量xは下記式(2)で表される。
【数3】

【0022】
次に、比較例と対比しながら本実施形態に係るアクティブ防振装置の作用及び効果について説明する。
【0023】
図2(A)には、比較例として、アクチュエータ18を備えない従来のパッシブ防振装置(図示省略)における振動体30の加振力の増幅倍率と振動数比との関係を表すグラフ70が示されており、図2(B)には、同パッシブ防振装置における振動体30の変位応答倍率と振動数比との関係を表すグラフ72が示されている。なお、ここでいう振動数比とは、振動体30及びパッシブ防振装置で構成された1自由度の振動系の固有振動数に対する振動体30の振動数(加振振動数)の比であり、振動数比1が共振点を表している。
【0024】
図2(A)及び図2(B)から分かるように、従来のパッシブ防振装置は、振動数比が1よりも高い高振動数領域(図中の防振領域)において振動体30の加振力の増幅倍率及び変位応答倍率を低減するものであるが、振動数比1付近において共振により構造体40へ伝達される伝達加振力f(加振力の増幅倍率)及び振動体30の変位x(変位応答倍率)が増幅されてしまう。更に、従来のパッシブ防振装置では、高振動数領域(防振領域)において防振性能を発揮するために一般に減衰が小さく設定される。そのため、共振により振動体30の振動(変位x)が増幅されると、その振動が停止するまでに時間がかかるという問題があった。
【0025】
また、他の比較例として、図3(A)には、アクチュエータ18のフィードバック制御に一般的なスカイフックダンパ理論を用いたアクティブ防振装置における振動体30の加振力の増幅倍率と振動数比との関係を示すグラフ80が示されている。また、図3(B)には、上記アクティブ防振装置における振動体30の変位応答倍率と振動数比との関係を示すグラフ82が示されている。なお、このアクティブ防振装置では、減衰定数が5%、アクティブ付加減衰が100%に設定されている。また、図3(A)及び図3(B)には、比較例として前述した従来のパッシブ防振装置のグラフ70,72がそれぞれ示されている。
【0026】
図3(A)及び図3(B)から分かるように、一般的なスカイフックダンパ理論を用いたフィードバック制御を行った場合、振動数比1付近において、構造体40へ伝達される伝達加振力f(加振力の増幅倍率)及び振動体30の変位x(変位応答倍率)の増幅が抑制されるものの、振動数比が1よりも高い高振動数領域(図2(A)の防振領域)において、構造体40へ伝達される伝達加振力fがパッシブ防振装置に比べて増加してしまい、防振装置本来の防振性能が低下してしまう。このようなスカイフックダンパ理論を用いたフィードバック制御は、一般に従来のアクティブ除振装置におけるアクチュエータの制御に用いられているが、前述したように高振動数領域において構造体40へ伝達される伝達加振力fが増加してしまうため、このようなアクティブ除振装置におけるアクチュエータをパッシブ防振装置にそのまま転用することはできない。なお、ここでいうアクティブ除振装置とは、前述したように構造体から振動を嫌う精密機械等へ伝達される振動を低減するものである。
【0027】
一方、図4(A)には、本実施形態に係るアクティブ防振装置10における振動体30の加振力の増幅倍率と振動数比との関係を表すグラフ50が示されており、図4(B)には、振動体30の変位応答倍率と振動数比との関係を表すグラフ52が示されている。なお、図4(A)及び図4(B)には、比較例として前述した従来のパッシブ防振装置のグラフ70,72がそれぞれ示されている。
【0028】
図4(A)から分かるように、従来のパッシブ防振装置では、振動数比が倍になるごとに振動体30の加振力の増幅倍率の低下率が約1/4(約12dB/Oct)に留まるに対し、本実施形態に係るアクティブ防振装置10では、振動数比が倍になるごとに振動体30の加振力の増幅倍率の低下率が約1/12(約24dB/Oct)となっており、構造体40へ伝達される伝達加振力fの低減効果が飛躍的に向上している。即ち、本実施形態に係るアクティブ防振装置10では、防振装置本来の機能である高振動数領域(図2(A)における防振領域)において、従来のパッシブ防振装置よりも防振性能が飛躍的に向上する。更に、図4(A)及び図4(B)から分かるように、振動数比1付近において、共振により構造体40へ伝達される伝達加振力f(加振力の増幅倍率)及び振動体30の変位x(変位応答倍率)の増幅が抑制されている。
【0029】
このように本実施形態に係るアクティブ防振装置10は、前述した伝達関数(式(1)参照)を用いたフィードバック制御を行うことにより、高振動数領域において防振装置本来の防振性能を向上しつつ、振動数比1付近において構造体40へ伝達される伝達加振力f及び振動体30の変位xの増幅を抑制することができる。また、本実施形態に係るアクティブ防振装置10は、共振による振動体30の変位xの増幅を抑制することができるため、モータやポンプ等の振動体30に留まらず、振動を発生する一方で振動を嫌う振動体30(例えば、高い搬送精度が要求される搬送装置等)にも適用することができる。
【0030】
また、従来技術(例えば、特許文献1,2)のような中間体が不要になるため、部品点数を削減することができる。従って、アクティブ防振装置10の製造コストを削減することができる。
【0031】
更に、アクティブ防振装置10では、振動体30の加振力fを小さくすることができるため、弾性部材16のバネ定数k、及び振動体30に付加する支持部材14の質量を小さくしつつ、図1に示す振動モデル12の固有振動数を下げることができる。これにより、防振領域(固有振動数よりも振動数が高い振動数領域)を広げることができるため、振動体30が広い振動数領域で大きな加振力を発生する場合であっても、その加振力(振動)を効率的に低減することができる。更に、前述したように支持部材14の質量を小さくすることができるため、アクティブ防振装置10が設置される構造体40等の補強が低減される。従って、コスト削減を図ることができる。
【0032】
なお、上記実施形態では、一例として式(1)に示す補正フィルタCTRL(s)を用いてアクチュエータ18をフィードバック制御したが、必要に応じて補正フィルタCTRL(s)に変更を加えても良い。
【0033】
また、上記実施形態では、床スラブ等の構造体40の上に振動体30を設置した場合を例に説明したが、例えば、床スラブ等の構造体40の下面に振動体30が取り付けられる場合は、アクティブ防振装置10を介して構造体40の下面に振動体30を取り付けることも可能である。この場合、例えば、支持部材14によって構造体40の下面に振動体30を吊り下げた状態で支持すれば良い。
【0034】
更に、上記実施形態では、振動体30が上下方向に振動する場合を例に説明したが、例えば、振動体30が水平方向に振動する場合は、振動体30を支持する支持部材14の振動方向が水平方向になるようにアクティブ防振装置10を設置すれば良い。
【0035】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
10 アクティブ防振装置
14 支持部材
16 弾性部材
18 アクチュエータ
20 加速度センサ
22 制御手段
30 振動体
40 構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体を支持する支持部材と、
前記支持部材を前記振動体の振動方向に振動可能に構造体に支持させる弾性部材と、
前記支持部材と前記構造体とに連結され、前記支持部材を加振するアクチュエータと、
前記支持部材の加速度を検出する加速度センサと、
前記加速度センサで検出された加速度に応じて、前記支持部材の振動を打ち消すように前記アクチュエータに前記支持部材を加振させる制御手段と、
を備えるアクティブ防振装置。
【請求項2】
前記制御手段が、式(1)の伝達関数を用いて前記アクチュエータをフィードバック制御する請求項1に記載のアクティブ防振装置。
【数1】


ただし、
f(s):支持部材から構造体へ伝達される加振力
(s):振動体の加振力
s:複素円振動数(=虚数i×振動体の円振動数ω)
m:支持部材及び振動体の質量
c:弾性部材の減衰係数
k:弾性部材のバネ定数
である。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−29136(P2013−29136A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164491(P2011−164491)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】