説明

アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの製造方法

【課題】効率よく(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンを製造する方法の提供。
【解決手段】水酸基含有(水素添加)ポリブタジエンと(メタ)アクリル酸エステルとを重合禁止剤存在下にて30℃以上に加熱を行なった後、触媒量のスズ化合物を加えて反応させる、式(IV)


[Pはポリブタジエンを表し、X及びXはそれぞれ独立して酸素原子、窒素原子を含んでもよいC〜C20の結合基を表し、Yは水素原子、水酸基、カルボキシル基又は(メタ)アクリル基を表す]で表される(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(メタ)アクリロイル基を有するポリブタジエン又はその水素添加物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリロイル基を有するポリブタジエン等の製造方法として、水酸基を有するポリマーと(メタ)アクリル酸とをp−トルエンスルホン酸を触媒にして縮合する方法(特許文献1を参照)、(メタ)アクリル酸エステルとオリゴマー鎖末端アルコールとをチタン系触媒を用いてエステル交換する方法(特許文献2を参照)、また、重合体鎖を構成するブタジエン単位の80%以上が1,2結合からなる重合体鎖の少なくとも一端に水酸基を有している水酸基含有ポリブタジエンと(メタ)アクリル酸エステルとをスズ系触媒を用いてエステル交換する方法(特許文献3を参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−505184号公報
【特許文献2】特開2006−045284号公報
【特許文献3】特開2007−211240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では生成物がゲル化する可能性があり、特許文献2に記載の方法では触媒の除去方法が煩雑であるという問題があり、特許文献3に記載の方法では(メタ)アクリル酸エステルの重合物が副生するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みて効率よく(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、水酸基含有(水素添加)ポリブタジエン、(メタ)アクリル酸エステルおよび重合禁止剤を混合して加熱した後に、有機スズ触媒を投入してエステル交換反応を行う事で、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は(1)式(I)
【0008】
【化1】

【0009】
[Pは式(II)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、実線と点線の二重線部分は単結合又は二重結合を表す)で表される繰り返し単位、及び/または、式(III)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、実線と点線の二重線部分は単結合又は二重結合を表す)で表される繰り返し単位を含有するポリマーを表し、X及びXはそれぞれ独立して酸素原子、窒素原子を含んでもよいC〜C20の結合基を表し、Yは水素原子、水酸基又はカルボキシル基を表す]で表される水酸基含有(水素添加)ポリブタジエンと(メタ)アクリル酸エステルとを重合禁止剤存在下にて30℃以上に加熱を行なった後、触媒量のスズ化合物を加えて反応させることを特徴とする、式(IV)
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R、X、X及びPは、式(I)における定義と同じである。Yは水素原子、水酸基、カルボキシル基又は(メタ)アクリル基を表す)で表される(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの製造方法や、(2)式(IV)で表される(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンのPが式(III)のモル数/式(II)のモル数≧85/15であることを特徴とする前記(1)に記載の製造方法や、(3)式(IV)で表される(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの分散度が1.01〜2.00の範囲であることを特徴とする前記(1)〜(2)に記載の製造方法や、(4)反応容器にガスをバブリングすることを特徴とする前記(1)〜(3)に記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンをエステル交換反応にて製造する際に、目的とするポリマー以外の重合物が生成することを防止することができる。また、反応液がゲル化することを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法により得られる(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンは、少なくとも一端に、直接、(メタ)アクリル酸がエステル結合しているものであれば特に制限されるものではない。
本発明の製造方法により得られるアクリル変性(水素添加)ポリブタジエンは、塗料、注型樹脂、成型樹脂、接着剤等として用いることができる。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸及びメタクリル酸を意味する。また、(水素添加)ポリブタジエンとはポリブタジエン及びその水素添加物を意味する。
【0018】
(式(I)で表される化合物)
式(I)中、X及びXは、それぞれ独立して、酸素原子及び/又は窒素原子を含んでもよいC〜C20の結合基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。
酸素原子及び/又は窒素原子を含んでもよいC〜C20の結合基としては、具体的には、直鎖又は分岐鎖を有する2価の炭素数C〜C20のアルキレン基、エーテル結合を有する直鎖又は分岐鎖を有する2価の炭素数C〜C20のアルキレン基、式(V)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖を有する2価のC〜C10のアルキレン基、C〜Cのアルキル基を置換基として有していても良いC〜Cのシクロアルキレン基、C〜Cのアルキル基を置換基として有していても良いC〜Cの芳香族基、又はそれらの複合した基を表す)で表わされる基等が挙げられる。
【0021】
「直鎖又は分岐鎖を有する2価の炭素数C〜C20のアルキレン基」としては、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1,2−ジメチルエチレン、ペンチレン、1−メチルブチレン、2−メチルブチレン、ヘキサエチレン、ヘプタエチレン、オクタエチレン、ノナエチレン、デカエチレン等を例示することができ、「エーテル結合を有する直鎖又は分岐鎖を有する2価の炭素数C〜C20のアルキレン基」としては、−(CHO)(CH)−[aは1〜19の整数を表す]、−(CHCHO)(CHCH)−[bは2〜9の整数を表す]、−(CHCHCHO)(CHCHCH)−[cは1〜5の整数を表す]等を例示する事ができる。
【0022】
式(V)中の「直鎖又は分岐鎖を有する2価のC〜C10のアルキレン基」は式(I)の具体例と同様のものを挙げることができ、「C〜Cのアルキル基を置換基として有していても良いC〜Cのシクロアルキレン基」としては、シクロプロピレン、2−メチルシクロプロピレン、シクロブチレン、2,2−ジメチルシクロブチレン、シクロペンチレン、2,3−ジメチルシクロペンチレン、シクロヘキシレン、1,3,3−トリメチルシクロヘキシレン、シクロオクチレン等が挙げられ、「C〜Cのアルキル基を置換基として有していても良いC〜Cの芳香族基」としては、1,4−フェニレン基、2−メチル−1,4−フェニレン基等が挙げられる。
【0023】
「上記基の複合した基」としては、メチレン−シクロプロピレン、メチレン−シクロペンチレン、メチレン−2,3−ジメチルシクロペンチレン、メチレン−1,3,3−トリメチルシクロヘキシレン、エチレン−シクロプロピレン、エチレン−シクロヘキシレン、エチレン−3,3,−ジメチルシクロへキシレン、メチレン−シクロプロピレン−メチレン、エチレン−シクロヘキシレン−メチレン、ヘキシレン−シクロヘキシレン−メチレン等が挙げられる。また、これらの順序が入れ替わった基でもよい。
【0024】
式(V)として、例えば
【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
(*は接続する位置を表す)を例示することができる。
【0028】
式(I)におけるPは、式(II)及び/又は式(III)を繰り返し単位として有するポリブタジエン鎖又は水素添加ポリブタジエン鎖であり、実線と点線の二重線部分が二重結合の場合は未水素添加のポリブタジエンであり、単結合の場合は水素添加ポリブタジエンを意味する。
また、式(II)で表される1,4−結合繰り返し単位が、二重結合を有する場合には、トランス体、シス体、又はそれらの混合体が存在しうる。
【0029】
式(II)で表される1,4−結合による繰り返し単位と式(III)で表される1,2−結合による繰り返し単位の比率は、各々0〜100モル%であるが、式(III)で表される1,2−結合のものが、モレロ法での測定によれば、80%以上であるものが好ましく、85%以上であるものがより好ましく、90%以上であるものがさらに好ましく、95%以上であるものが特に好ましい。
【0030】
本発明の(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの数平均分子量としては、通常、ポリスチレンを指標として用いたGPC(ゲル濾過)法によると、500〜15,000程度であり、2,000〜10,000であることが好ましい。
ポリマーの重量平均分子量を数平均分子量で割った値は分散度を表している。分散度はその値が小さいほうが分散が狭いことを意味し、すなわち、分子量が比較的近いポリマーで構成されることを意味する。全て同一の分子量で構成されるポリマーは分散度が1になる。また、分散度の値が大きいと分散は広いことを意味し、すなわち、分子量が小さいポリマーから大きいポリマーの混合物で構成されることを意味する。分散度が大きい(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンを硬化させると、硬化物の強度が弱くなったり、硬化温度が幅広くなったりする。このため、分散度が小さい(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの方が好ましい。本発明の製造方法で得られる(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの分散度は1.01〜2.00であり、好ましくは1.01〜1.70である。
式(I)におけるYは、無置換(水素原子)であってもよいし、置換基を有していてもよい。置換基としては、水酸基又はカルボキシル基を挙げることができる。
【0031】
(式(IV)で表される化合物)
式(IV)中、R、X、X及びPは、式(I)における定義と同じであり、同様の基を例示できる。
は、無置換(水素原子)であってもよいし、置換基を有していてもよい。置換基としては、水酸基、カルボキシル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基等を挙げることができ、(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましい。
【0032】
(式(IV)で表される(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの製造方法)
本発明の式(I)で表される水酸基含有ポリブタジエンは、例えば、ブタジエンを溶液中でナトリウム触媒の存在下に重合させてポリブタジエンを調製し、これに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のエポキシ化合物を添加する方法により得ることができる。この製造方法では、ポリブタジエンの末端に、80%以上、好ましくは90%以上の割合で、水酸基を導入することができる。このような水酸基含有ポリブタジエンとしては、具体的に、日本曹達株式会社製の商品名:G−3000を挙げることができる。さらにこの水酸基含有ポリブタジエンの二重結合を水素で還元することで水酸基含有水素添加ポリブタジエンを製造できる。具体的に、日本曹達株式会社製の商品名:GI−1000、GI−3000を挙げることができる。
【0033】
本発明の製造方法は、式(I)で表される水酸基含有(水素添加)ポリブタジエンと(メタ)アクリル酸エステルとを重合禁止剤存在下にて30℃以上に加熱を行なった後、触媒量のスズ化合物を加えて反応させるものである。
(メタ)アクリル酸エステルの添加量は、特に限定されるものではないが、水酸基含有(水素添加)ポリブタジエンに対して、9〜200重量%であることが好ましく、14〜100重量%であることがより好ましい。これにより、末端の水酸基に対して、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%の割合で、(メタ)アクリロイル基を末端に導入することができる。
本発明の製造方法において用いる水酸基含有水素添加ポリブタジエンは水酸基含有ポリブタジエンの二重結合を水素で還元することにより製造することができる。水酸基含有水素添加ポリブタジエンの水素添加率は全二重結合の80%以上であり、好ましくは、90%以上であり、さらに好ましくは99%以上であり、さらに好ましくは99.5%である。残存する二重結合はヨウ素の付加反応にて定量分析(以下、「ヨウ素価」という)を行うことができるが、ヨウ素価が100以下であり、好ましくは50以下であり、さらに好ましくは25以下であり、さらに好ましくは15以下である。
【0034】
また、本発明の製造方法において用いる水酸基含有(水素添加)ポリブタジエンは、少なくとも一端に水酸基を有しており、両端に水酸基を有していることが好ましく、これにより、両端に、直接、(メタ)アクリル酸がエステル結合した(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンを製造することができる。水酸基含有(水素添加)ポリブタジエンと反応させる(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等を挙げることができ、好ましくはメタクリル酸メチルを挙げることができる。
【0035】
水酸基含有(水素添加)ポリブタジエンと(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応は、無溶媒又は適当な不活性溶媒中、適当な触媒の存在下で行うことができる。
エステル交換反応の触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート等のジアルキルスズジカルボン酸塩、ジブチルスズオキサイド、ジオクチルスズオキサイド等のジアルキルスズオキサイドを含む有機スズ化合物を挙げることができ、好ましくは、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート等のジアルキルスズジカルボン酸塩である。触媒の使用量としては、触媒量、すなわち、水酸基含有(水素添加)ポリブタジエン100重量部あたり0.01重量部(phr)から100重量部(phr)であり、好ましくは、0.1重量部(phr)から10重量部(phr)であり、さらに好ましくは0.3重量部(phr)から5重量部(phr)である。この範囲で使用することにより、効率的に本発明の(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンを製造することができる。
【0036】
重合禁止剤は、反応開始前に混合しても、反応開始後に混合しても構わないが、好ましくは反応開始前に混合する。重合禁止剤は特に限定されないが、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、i−オクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、ペンタエリトリルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリス(3,5−ジ−t−ブチルヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス(4−t−ブチル−2,6−ジメチル−5−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチレンビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート]等のフェノール類;p−ベンゾキノン、アントラキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノン、p−トルキノン、2,6−ジクロロキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジアシロキシ−p−ベンゾキノン等のキノン類;ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、モノ−t−ブチルハイドロキノン、モノメチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン等のハイドロキノン類;フェニル−β−ナフチルアミン、パラベンジルアミノフェノール、ジ−β−ナフチルパラフェニレンジアミン、ジベンジルヒドロキシルアミン、フェニルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルルアミン等のアミン類;ジニトロベンゼン、トリニトロトルエン、ピクリン酸等のニトロ化合物;キノンジオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;フェノチアジン、有機並びに無機の銅塩類等が挙げられるが、好ましくは、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエンである。
【0037】
水酸基含有(水素添加)ポリブタジエンと(メタ)アクリル酸エステルとの反応は、副生物であるメタノール等のアルコールを目的物である(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンから除去(留去)することにより、平衡を偏らせて反応を促進することが好ましい。
【0038】
また、反応は、無溶媒で行ってもよいし、溶媒中で行なってもよい。溶媒中で反応を行う場合、使用する溶媒は反応に不活性であれば特に制限されないが、原料の(水素添加)ポリブタジエンと溶媒との相溶性を考慮して選定する必要がある。具体的に使用できる溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド等が挙げられ、これらの中でも、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0039】
反応温度としては、通常、0〜130℃であり、室温〜120℃の範囲であることが好ましい。反応は、通常、数分〜数時間で完結する。反応終了後、この反応液から未反応の(メタ)アクリル酸エステル、副生するアルコール及び溶媒を使用した場合は溶媒を除去することにより、本発明の(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエン(を主成分とする液体)を得ることができる。
エステル交換反応の触媒を反応液に加える温度は、あらかじめ30℃以上にしておく必要があり、35℃〜100℃が好ましい。
エステル交換反応により得られる(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの(メタ)アクリル導入率とは、全ての水酸基を基に(メタ)アクリル変性した置換基の比率を百分率で表した値であり、本発明の(メタ)アクリル変性水素添加ポリブタジエンの(メタ)アクリル導入率は80%以上であり、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。
【0040】
エステル交換反応は、さらにガスをバブリングしながらおこなってもよい。
バブリングに使用されるガスは、(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンと反応を起こさなければ、特に限定されるものではない。酸素をバブリングすると該ポリブタジエンが酸化する可能性があるが、全く酸素が存在しないと反応液中にて発生したラジカル物質をトラップできずに該ポリブタジエンが酸化する可能性がある。また、バブリングするガス中に水分が存在すると、過酸化水素が発生し、ポリブタジエンを酸化する可能性がある。したがって、バブリングに使用するガスとしては、シリカゲルなどを通し、水分を除いた酸素が好ましい。バブリングする量は特に限定されるものではなく、反応液のボリュームや反応装置の大きさ、形によって最適な量を選ぶ事ができる。バブリングの泡の大きさは特に限定されるものではなく、ノズル形状、ガス送風圧力等の条件により大きさが変化するが、より小さいほうが好ましい。バブリングする位置は反応液のどの位置であってもよいが、好ましくは、反応液の下層であり、さらに好ましくは攪拌機の真下である。
【0041】
本発明の製造方法により得られるアクリル変性(水素添加)ポリブタジエンは、濁りのない透明な液状のものを製造することができるため、光学器械等のように透明性が要求される物品の接着剤、塗料としても有用であり、低誘電率であることから、電子材料やアンテナ材料などの高周波用高分子材料としても有用な材料である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の記録材料について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は必ずしもこれだけに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)アクリル変性水素添加ポリブタジエンの製造方法
5000mlのガラス製反応容器に水酸基含有水素添加ポリブタジエン(製品名:GI−3000、日本曹達株式会社製)3080g、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン8gおよびアクリル酸エチル813gを仕込み、昇温して36℃にて、ジオクチルスズジラウレート17.6gを加えさらに115℃まで加熱する。115〜120℃、常圧下で徐々に留出液を除去しながら3時間反応させ、さらに約120℃で2時間反応を続けた。その後、95〜105℃で徐々に減圧にし、3.8kPaまで減圧にし、アクリル変性水素添加ポリブタジエン3183gを得た。
【0044】
(実施例2)メタクリル変性水素添加ポリブタジエンの製造方法
実施例1のアクリル酸エチルに代えてメタクリル酸メチルを使用した以外は、実施例1に記載の方法でメタクリル変性水素添加ポリブタジエンを得た。
【0045】
(実施例3)
5000mlのガラス製反応容器に水酸基含有ポリブタジエン(製品名:G−2000、日本曹達株式会社製)2250g、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン5.93gおよびメタクリル酸メチル1186gを仕込み、昇温して90℃にて、ジオクチルスズジラウレート13.2gを加えさらに105℃まで加熱する。105〜110℃、常圧下で徐々に留出液を除去しながら7時間反応を続け、アクリル変性ポリブタジエンを得た。反応液をGPCにて分子量を確認したところ、目的とする化合物以外の高分子量体の生成は確認されなかった。
【0046】
(比較例1)
特開昭49−77991の実施例1に記載のエステル交換によるメタクリロイル基導入の製法に基づき以下の条件で反応を行なった。
500mlのガラス製反応容器に水酸基含有水素添加ポリブタジエン(製品名:GI−2000、日本曹達株式会社製)100g、テトラ−n−ブチルチタネート0.5gおよびメタクリル酸メチル10gを仕込み、100〜150℃で5時間反応した。メタクリル変性水素添加ポリブタジエンを得た。
【0047】
(比較例2)
3000mlのガラス製反応容器に水酸基含有ポリブタジエン(製品名:G−2000、日本曹達株式会社製)1350g、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン1.35g、メタクリル酸メチル720gおよびジオクチルスズジラウレート8.0gを加え、約120℃で反応を開始した。開始してすぐにサンプリングを行い、GPCにて分子量を確認したところ、数平均分子量で40万に相当するピークが検出された。
【0048】
(分析例1)
実施例1〜2及び比較例1のポリマーの分析結果を第1表に記載した。なお、各分析項目の測定方法を以下に記載する。
(樹脂分)樹脂1.5gを105〜110℃のオーブンに入れ3時間加熱する。加熱前後の重量から揮発成分以外の重量比率を以下の式にて算出し、樹脂分とした。
樹脂分(%)=(加熱前重量−加熱後重量)÷加熱前重量×100
(粘度)B型粘度計(東京計器製B型粘度計)にて45℃の粘度を測定した。
(色相)JIS K1557に記載の色相の測定方法に準じて測定した。
(分子量)GPCにてポリスチレン換算分子量を測定した。
(分散度)重量平均分子量と数平均分子量の比を算出し、分散度とした。
((メタ)アクリル導入率)H−NMR(日本電子株式会社製、ECP−500)にて、3.6ppm(−CH−OH)と4.1ppm(−CH−O−メタ(アクリロイル)基)のプロトン積分比を測定し、以下の式にて算出し、(メタ)アクリル導入率とした。
(メタ)アクリル導入率(%)=4.1ppmのプロトン積分比÷(3.6ppmのプロトン積分比+4.1ppmのプロトン積分比)×100
【0049】
【表1】

【0050】
第1表の結果より、実施例1〜2と比較例1を比較すると本発明が(メタ)アクリロイル基が十分な比率で導入されることが示された。
また、実施例3と比較例2と比較すると、反応液を加熱した後に触媒を加える事で目的物以外の重合物が生成しないことが示された。
【0051】
(実施例4)
減圧弁及びバブリング管の付いた5L反応容器に、水酸基含有水素添加ポリブタジエン(日本曹達社製GI−1000)1500g、メトキノン3.90g、アクリル酸エチル397gを投入し、昇温して90℃にてジオクチルスズジラウレート8.62gを加えた後、さらに昇温し115〜118℃にて常圧下にて徐々に留出液を除去しながら3時間反応させ、さらに約118〜123℃で2時間反応を続け、末端アクリル変性1,2−ポリブタジエンを製造した。真空ポンプにより、95〜105℃で徐々に減圧にしながら約4KPaにて減圧濃縮を行った。
上記の方法で各物性を測定したところ、樹脂分:99.1%、粘度:23P(45℃)、色相(APHA):50、分子量(Mn):2691、分子量(Mw):4499、分散度:1.67であった。
【0052】
(実施例5)
減圧弁及びバブリング管の付いた5L反応容器に、水酸基含有水素添加ポリブタジエン(日本曹達社製GI−1000)1500g、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン3.90g、アクリル酸エチル396gを投入し、昇温して90℃にてジオクチルスズジラウレート8.58gを加えた後、さらに昇温し115〜118℃にて常圧下にて徐々に留出液を除去しながら3時間反応させ、さらに約118〜123℃で2時間反応を続け、末端アクリル変性1,2−ポリブタジエンを製造した。真空ポンプにより、95〜105℃で徐々に減圧にしながら約4KPaにて減圧濃縮を行った。
上記の方法で各物性を測定したところ、樹脂分:99.4%、粘度:24P(45℃)、色相(APHA):10、分子量(Mn):2750、分子量(Mw):4385、分散度:1.59であった。
【0053】
(実施例6)
減圧弁及びバブリング管の付いた5L反応容器に、水酸基含有水素添加ポリブタジエン(日本曹達社製GI−1000)1500g、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(製品名:HP−400、川口化学工業株式会社製)3.91gアクリル酸エチル396gを投入し、昇温して90℃にてジオクチルスズジラウレート8.56gを加えた後、さらに昇温し115〜118℃にて常圧下にて徐々に留出液を除去しながら3時間反応させ、さらに約118〜123℃で2時間反応を続け、末端アクリル変性1,2−ポリブタジエンを製造した。真空ポンプにより、95〜105℃で徐々に減圧にしながら約4KPaにて減圧濃縮を行った。
上記の方法で各物性を測定したところ、樹脂分:99.3%、粘度:24P(45℃)、色相(APHA):10、分子量(Mn):2767、分子量(Mw):4571、分散度:1.65であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[Pは式(II)
【化2】

(式中、実線と点線の二重線部分は単結合又は二重結合を表す)で表される繰り返し単位、及び/または、式(III)
【化3】

(式中、実線と点線の二重線部分は単結合又は二重結合を表す)で表される繰り返し単位を含有するポリマーを表し、X及びXはそれぞれ独立して酸素原子、窒素原子を含んでもよいC〜C20の結合基を表し、Yは水素原子、水酸基又はカルボキシル基を表す]で表される水酸基含有(水素添加)ポリブタジエンと(メタ)アクリル酸エステルとを重合禁止剤存在下にて30℃以上に加熱を行なった後、触媒量のスズ化合物を加えて反応させることを特徴とする、式(IV)
【化4】

(式中、R、X、X及びPは、式(I)における定義と同じである。Yは水素原子、水酸基、カルボキシル基又は(メタ)アクリル基を表す)で表される(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの製造方法。
【請求項2】
式(IV)で表される(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンのPが、式(III)のモル数/式(II)のモル数≧85/15であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
式(IV)で表される(メタ)アクリル変性(水素添加)ポリブタジエンの分散度が1.01〜2.00の範囲であることを特徴とする請求項1〜2に記載の製造方法。
【請求項4】
反応容器にガスをバブリングすることを特徴とする請求項1〜3に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−195823(P2011−195823A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35402(P2011−35402)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】