説明

アクリル系樹脂組成物及び該組成物を用いてなる視野選択シート

【課題】 透明性、柔軟性及び加工性に優れたアクリル系樹脂組成物を提供すると共に、透明層と遮光層を交互に配置してなる視野選択シートにおいて、透明層が該組成物で形成され、透明層と遮光層が交互に積層された積層ブロックをスライス加工する時にカールしたり白化現象を生じない視野選択シートを提供すること。
【解決手段】 メチルメタクリレートを主成分とし、そのメルトフローレート(MFR)が2〜35g/10minのアクリル樹脂と、粒子径が0.05〜0.2μmのアクリル系架橋弾性体とを主成分としたアクリル系樹脂組成物であって、前記アクリル樹脂20〜80重量%と、前記アクリル系弾性体80〜20重量%との合計100重量部に対し、トリメリット酸エステル系の可塑剤及び/又は脂肪族二塩基酸エステル系の可塑剤を1〜50重量部添加した。また、透明層と遮光層を交互に配置してなる視野選択シートにおいて、前記透明層を前記アクリル系樹脂組成物で形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、柔軟性及び加工性等に優れたフィルム、シートとして各種産業用途に広く使用できるアクリル系樹脂組成物及び、該アクリル系樹脂組成物を用いて形成される視野選択シートに関するものである。
ちなみに、本発明に係る視野選択シートは、透明層と遮光層が交互に配置され主にプライバシー保護シートあるいは防眩シート等として使用されるものであり、前記透明層が前記アクリル系樹脂組成物を用いて形成される。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明性が高く加工性の良いフィルム、シートとしては、塩化ビニル系樹脂組成物からなるものが使用されてきたが、塩化ビニル系樹脂は焼却時に塩化水素ガス発生の問題があることから、非ハロゲン系樹脂組成物からなるものが希求されてきている。
一方、ATM、携帯電話、パソコン等の覗き見防止用、信号機等の視認性の向上、車など計器の照明がフロントガラスへ映ることの防止などを目的として、透明層と遮光層が交互に配置された視野選択シートが利用されており、これらの視野選択シートのベース樹脂としてはセルロース系樹脂やシリコーン系樹脂が多用されている。
【0003】
しかしながら、視野選択シートのベース樹脂としてセルロース系樹脂を用いた場合、軟化点が低く温度依存性が大きいため寸法安定性に欠けるといった問題がある。この問題の解決策として、耐熱性に優れたシリコーン系樹脂を使用した微細すだれ状防眩シートが開発された(例えば、特許文献1参照。)が、シリコーン系樹脂製のシートではクリアーな透明性が得られず、しかも比較的高価な樹脂であるためコスト高になってしまうという欠点があった。
【0004】
他方、高い透明性を示すことから、アクリル系樹脂からなるシート、フィルムが注目されている。しかし、一般に市販されているアクリル系樹脂は、硬質で脆いため、使用できる分野が大きく制限されてしまう。
そこで、軟質のアクリル系樹脂組成物(例えば、特許文献2〜6参照。)や、アクリルゴム系樹脂組成物(例えば、特許文献7参照。)などが開発されているが、これらの樹脂は、加工性(特にカレンダーでの加工性)、透明性、スライス加工性等に問題があった。
【0005】
すなわち、特許文献4のものでは、アクリルポリマーにアルキレンエーテルグリコールのモノカルボン酸エステルを添加することが提案されている。この方法は、加工性及びブリードアウト性の改良が目的であり、これらは改良されるが、透明性が低下する傾向にある。
【0006】
また、特許文献6のものでは、アクリル系の多層構造重合体粒子が提案されており、この方法によれば透明性及び柔軟性については良好であるが、加工性及びスライス性が悪くなる。
【0007】
また、特許文献7のものでは、アクリル系ゴム弾性体に塩化ビニル樹脂に使用される可塑剤の添加が提案されているが、この方法では、可塑剤の種類によっては透明性又はブリードアウト性(滲出し)の何れかが悪化する。例えば、フタル酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系の可塑剤を添加した場合には、透明性が低下してしまい、リン酸エステル系、ポリエステル系、塩素化パラフィン系の可塑剤を添加した場合には、ブリードアウト性(滲出し)が悪化する。
【0008】
一方、透明層と遮光層が交互に配置された視野選択シートの製造方法として、プラスチック製の透明層と遮光層を交互に貼り合わせた積層ブロックを積層方向にスライスする方法(例えば、特許文献8と9参照。)が知られているが、これらの特許文献にはスライスしてシート化する技術について具体的な記載は見られない。更に他の製造方法としては、熱硬化性あるいは紫外線硬化性樹脂を利用して透明層と遮光層を交互に配列させる方法(例えば、特許文献10と11参照。)があるが、これらの方法は高コストで且つ高い精度が必要とされる。
【0009】
【特許文献1】特開昭62−284740号公報
【特許文献2】特開2001−81268号公報
【特許文献3】特開2001−354819号公報
【特許文献4】特開2000−103930号公報
【特許文献5】特開2003−238763号公報
【特許文献6】特開2002−277601号公報
【特許文献7】特開平9−31287号公報
【特許文献8】特開平2−18503号公報
【特許文献9】特開昭61−125846号公報
【特許文献10】特開平11−2705号公報
【特許文献11】特開平6−11606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、透明性、柔軟性及び加工性に優れたアクリル系樹脂組成物を提供し、また、透明層と遮光層を交互に配置してなる視野選択シートにおいて、透明層を上記アクリル系樹脂組成物で形成することにより、透明層と遮光層が交互に積層された積層ブロックをスライス加工してシート化する時に、カールしたり白化現象を生じることがない視野選択シートを安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解消するため鋭意研究し、本発明を完成するに至った。
即ち、アクリル系樹脂組成物としては、メチルメタクリレートを主成分とし、そのメルトフローレート(MFR)が2〜35g/10minのアクリル樹脂と、粒子径が0.05〜0.2μmのアクリル系架橋弾性体とを主成分としてなることを特徴としたものである。
この際、前記アクリル樹脂20〜80重量%と、前記アクリル系架橋弾性体80〜20重量%との合計100重量部に対し、トリメリット酸エステル系の可塑剤及び/又は脂肪族二塩基酸エステル系の可塑剤が1〜50重量部添加されていることが好ましい。
また、視野選択シートとしては、透明層と遮光層を交互に配置してなる視野選択シートにおいて、前記透明層が、前記アクリル系樹脂組成物からなることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るアクリル系樹脂組成物によれば、透明性、柔軟性及び加工性を合わせ持つため、透明性に優れたアクリル樹脂系フィルムやシートを容易に得ることができる。
従って、透明層と遮光層を交互に配置してなる視野選択シートにおいて、透明層を上記アクリル系樹脂組成物で形成することにより、透明層と遮光層が交互に積層された積層ブロックをスライス加工してシート化する時に、カールしたり白化現象を生じることがなく、視野選択シートを容易に製造し安価に提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るアクリル系樹脂組成物は、メチルメタクリレートを主成分とするアクリル樹脂(以下、単にアクリル樹脂Aと略称する。)と、アクリル系架橋弾性体(以下、架橋弾性体Bと略称する。)とを主成分としてなる組成物であるが、前記アクリル樹脂A20〜80重量%と、前記架橋弾性体B80〜20重量%との合計100重量部に対し、トリメリット酸エステル系の可塑剤及び/又は脂肪族二塩基酸エステル系の可塑剤(以下、単に可塑剤Cと略称する。)を1〜50重量部添加することが好ましい。
【0014】
アクリル樹脂Aは、メチルメタクリレートと共重合可能な不飽和単量体混合物を重合して得られる共重合体であって、本発明のアクリル系樹脂組成物にシート加工性及び剛性を付与する作用を有する。このアクリル樹脂Aのメルトフローレート(MFR)は2〜35g/10minの範囲が好ましく、10〜25g/10minの範囲がより好ましい。
MFRが35g/10minを超えると、成形中に成形機の金属面(ロール)に粘着気味になり、逆に2g/10min未満であると組成物の溶融粘度が高くなり加工しづらくなる。
【0015】
メチルメタクリレートと共重合可能な不飽和単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル、スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物、アクリルニトリルなどが挙げることができ、これらは単独あるいは2種以上を併用して用いられる。
【0016】
また、本発明に係るアクリル系樹脂組成物のもう1つの主成分である架橋弾性体Bは、アクリル酸アルキルエステルを主体とするアクリル系架橋弾性体であって、本発明に係るアクリル系樹脂組成物に柔軟性及び耐熱性を付与する作用を有する。
ここで、架橋弾性体Bの粒子径としては、0.05μm〜0.2μmの範囲が好ましく、0.05μm未満であると弾性体としての効果が低下し、0.2μmを超えるとロール加工時にバンク回りが悪くなり、スライス性が悪化する。
【0017】
架橋弾性体Bの主成分としては、例えばアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸プロピルなどの他、これらと共重合可能なビニル単量体を用いることができる。共重合可能なビニル単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのメタクリル酸エステル単量体、スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0018】
本発明に使用するアクリル樹脂Aと架橋弾性体Bは、それぞれをブレンドして使用することもできるが、加工性の向上のためには、アクリル樹脂Aが架橋弾性体Bにグラフト共重合したもの(以下、アクリル系グラフト共重合体と称する。)を使用することが好ましい。この際、アクリル系グラフト共重合体の粒系は均一なコアシェル型の多層構造であり、サブミクロン(0.1〜1μm)であることが好ましい。粒系が1μmを超えるとロール加工時においてバンク回りが悪化し、0.1μm未満であるとコアシェル構造が小さくなり利点を活かすことができなくなる。
また、アクリル系グラフト共重合体を使用する場合でも、更に、アクリル樹脂Aを添加することも可能である。
【0019】
アクリル系樹脂組成物中のアクリル樹脂Aと架橋弾性体Bとの比率は、柔軟性、加工性及びスライス性を考慮すると、アクリル樹脂Aが20〜80重量%に対し架橋弾性体Bが80〜20重量%であることが好ましく、このアクリル系樹脂組成物にトリメリット酸エステル系及び/又は脂肪族二塩基酸エステル系の可塑剤Cが添加される。
【0020】
ここで、一般に可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、燐酸エステル系、クエン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、ポリエステル系、エポキシ系、塩素化パラフィン系などがあるが、本発明では、トリメリット酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系だけが使用できる。
何故なら、フタル酸エステル系や燐酸エステル系、ポリエステル系の可塑剤ではアクリル系樹脂組成物の透明性が悪化し、またエポキシ系や塩素化パラフィン系の可塑剤では相溶性が悪くブリードアウト(滲出し)し易く本発明には適さないからである。
【0021】
本発明に適したトリメリット酸エステル系の可塑剤としては、トリメリット酸−トリ−2−エチルヘキシル(TOTM)、トリイソデシルトリメート(TDTM)などが挙げられ、脂肪族二塩基酸エステル系の可塑剤としては、シュウ酸エステル、アジピン酸エステル、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステル、ドデカノ2酸エステルなどがあり、透明性を考慮するとアジピン酸エステル、アゼライン酸エステル及びセバチン酸エステルが好ましい。そして、アジピン酸エステルとしては、ジメチルアジペート(DMA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジイソデシルアジペート(DIDA)、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート(DOA)、ジイソノニルアジペート(DINA)、ビス(ブチルグリコール)アジペート(BXA)等が挙げられ、アゼライン酸エステルとしては、ビス(2−エチルヘキシル)アゼレート(DOZ)等が挙げられ、セバチン酸エステルとしては、ジメチルセバケート(DMS)、ジブチルセバケート(DBS)、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート(DOS)等を挙げることができる。ちなみに、これらの可塑剤は、単独で使用しても2種類以上を併用することも可能である。
【0022】
これらの可塑剤の中でも、成形されたシートが室内や光源の近くで使用される場合もあることから、気化した可塑剤によるシックハウス症候群、光源の曇りなどを考慮すると分子量は400以上が好ましく、更にアクリル樹脂Aと架橋弾性体Bとの相溶性を考慮すると700以下が好ましく、結果として可塑剤Cの分子量は400〜700の範囲が好ましく、TOTM、TDTM、DIDA、DOZ、DOSなどが特に好ましい。
【0023】
本発明で使用される可塑剤Cは、アクリル系樹脂組成物の透明性を維持しながら成形性及びスライス加工性を改良することが目的であり、可塑剤Cの添加量が多いと可塑剤がブリード(滲出し)する傾向にある。
そのため、アクリル樹脂Aが20〜80重量%と、架橋弾性体Bが80〜20重量%との合計100重量部に対して、当該可塑剤Cを1〜50重量部の範囲で添加することが好ましく、3〜30重量部の範囲がより好ましい。
【0024】
更に、本発明に係るアクリル系樹脂組成物に、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加工助剤、充填剤、帯電防止剤、安定剤、抗菌剤、難燃剤などの各種添加剤を必要に応じて使用することができる。
【0025】
滑剤としては、脂肪酸エステル系滑剤、脂肪酸アマイド系滑剤、高級脂肪酸系滑剤、金属石鹸系滑剤などが挙げられる。脂肪酸エステル系滑剤として、高分子複合エステルワックス、モンタン酸エステルワックス、特殊脂肪酸エステル、グリセリンモノステアレートなどが挙げられる。脂肪酸アマイド系滑剤として、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。高級脂肪酸系滑剤としてステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などが挙げられる。金属石鹸系滑剤としてベヘン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0026】
酸化防止剤としては、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、高分子型フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、燐酸系酸化防止剤などが挙げられる。モノフェノール系酸化防止剤として、2、6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなどが挙げられる。ビスフェノール系酸化防止剤として、2、2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)などが挙げられる。高分子型フェノール系酸化防止剤として1、1、3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンなどが挙げられる。硫黄系酸化防止剤としてジラウリル3、3’−チオジプロピオネートなど、燐酸系酸化防止剤としてトリフェニルホスファイトなどが挙げられる。
【0027】
紫外線吸収剤としては、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤などが挙げられる。サリチル酸系紫外線吸収剤としてフェニルサリシレートなどが挙げられる。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として2、4−ジヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。シアノアクリレート系紫外線吸収剤として2−エチルヘキシル−2−シアノ−3、3‘−ジフェニルアクリレートなどが挙げられる。
【0028】
本発明に係るアクリル系樹脂組成物は、通常この分野で実施される加工法によってフィルムやシートに成形することができる。加工法としては、例えば、カレンダー成形法、Tダイ押出法、インフレーション成形法などがあり、この中で生産性の高いカレンダー成形法が好ましい。
従って、本発明に係る視野選択シートSの透明層1となるベースシートは、カレンダー成形法で形成することが好ましい。
【0029】
次に、本発明に係る視野選択シートについて説明する。
本発明に係る視野選択シートSの構造は、図1に示すようにシートの厚み方向から見て透明層1と遮光層2が交互に配列され、その結果、このシートSを表面の斜め方向から見た場合に遮光層2が一定間隔で配置されているため視野選択シートSの先が見えない構造になっている。
なお、視野選択シートSの表面は、必要に応じて透明な保護シート3で被覆するも任意である。
【0030】
そして、本発明に係る視野選択シートは、(a)透明層のシート化工程、(b)遮光層の塗布工程、(c)積層ブロック化工程、(d)スライス加工工程、の各工程を順に経て製造される。
【0031】
すなわち、(a)透明層のシート化工程は、視野選択シートSの透明層1となるベースシートを作製する工程であり、アクリル系樹脂組成物をカレンダー成形法などの成形方法でシート状に成形することにより、透明層(透明なベースシート)1が形成される。
【0032】
(b)遮光層の塗布工程は、視野選択シートSの遮光層2となる部分を作製する工程であり、透明層1となるベースシートの表面に顔料や染料などを添加した塗料を塗布して塗膜を形成することにより、遮光層2が形成される。
なお、遮光層2を形成する場合に、透明層1となるベースシートの表面に塗料を塗布するのではなく、透明層1となるベースシートを形成するアクリル系樹脂組成物に顔料や染料などを添加して、透明層1と同様に成形することにより不透明な遮光性シートを作製しても良い。
【0033】
(c)積層ブロック化工程は、表面に遮光層2が形成されたベースシートを、適宜所要枚数を揃えて積み重ね熱プレスにて加熱圧着することにより、シートを積層ブロック化する工程である。
ここで積層ブロック化された積層方向の断面は、透明なベースシート(透明層1)の表面に塗布形成された遮光層2の存在により、透明層1と遮光層2が交互に配列された状態とになる。
なお、遮光層2が不透明な遮光性シートで形成されている場合には、透明層1となる透明ベースシートと遮光層2となる遮光性シートを交互に積み重ねて熱プレスにて加熱圧着することにより積層ブロック化すればよい。
【0034】
(d)スライス加工工程は、前記積層ブロック化工程で作製した積層ブロックを、積層方向に直角にスライスすることにより、透明層1と遮光層2が交互に配列された視野選択シートSを得る工程である。
【0035】
本発明らの知見によれば、視野選択シートを製造する一連の(a)〜(d)の工程において、アクリル樹脂Aを使用せず、架橋弾性体B単独、若しくは架橋弾性体Bと可塑剤Cとの組合せでは、透明性は良く、(a)透明層のシート化工程、(b)遮光層の塗布工程では問題ないが、(c)積層ブロック化工程におけるベースシートの積み重ね時、ベースシートの剛性が小さいため、揃えて積み重ねることが困難となり、且つ(d)スライス加工工程において、積層ブロックの弾性が大き過ぎてスライス刃の進入性が悪くなる。
【0036】
また、架橋弾性体Bを使用せず、アクリル樹脂Aのみ、若しくは上記アクリル樹脂Aと可塑剤Cとの組合せでは、透明性は良く、(b)遮光層の塗布工程では問題ないが、(a)透明層のシート化工程では成形機からのシートの引取り性が悪化し、(c)積層ブロック化工程では、プレス時に密着強度を十分に得ようとすると透明層が熱と圧力により流れ、それが影響して遮光層がゆがみ視認性が悪化してしまい、逆に透明層を流れないようにすると密着強度が不十分になるという問題が生じる。しかも(d)スライス加工工程では白化、カール現象が起こりやすくなる。
【0037】
従って、視野選択シートを製造する一連の(a)〜(d)の工程で問題を生ずることなく、アクリル系樹脂組成物からなる視野選択シートSを得るためには、アクリル樹脂Aと架橋弾性体Bが単にブレンドされたアクリル系樹脂組成物、或いはアクリル樹脂Aが架橋弾性体Bにグラフト共重合したアクリル系樹脂組成物を用いること必要であり、更に、トリメリット酸エステル系の可塑剤及び/又は脂肪族二塩基酸エステル系の可塑剤Cを添加することが好ましい。
【0038】
更に、本発明に係るアクリル系樹脂組成物からなるフィルム、シートは、光学用などの用途に使用される場合には、優れた透明性が要求される。その場合、アクリル系樹脂組成物の透明性は光線透過率で85%以上が必要であり、光線透過率が85%未満では使用上支障が生じることもある。
【0039】
また、本発明において、遮光層2として、透明層1となるベースシートの表面に塗料などを塗布し塗膜を利用する場合、塗料組成物に遮光性を付与するために各種の顔料や染料を利用することができる。
例えば、白色系として酸化チタン、硫酸バリウム、黒色系として鉄黒、カーボンブラック、アニリンブラック、黄色系としてカドミエロー、オイルエロー2G、橙色系としてクロムバーミリオン、カドミオレンジ、赤色系としてカドミレッド、パーマネントレッド4R、オイルレッド、紫色系としてコバルトバイオレッド、アンスラキノンバイロレット、青色系として群青、紺青、コバルトブルー、緑色系としてフタロシアニングリーン、クロムグリーンなどの各種顔料、染料を使用できる。
【0040】
上記塗料に使用するビヒクル用の樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、アクリルゴム系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合樹脂、塩化ビニル−アクリル系共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−アクリル系共重合樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル−シリコーン系共重合樹脂、シリコーン系樹脂、シリコーンゴム系樹脂、変性シリコーン系樹脂、エポキシ−アクリル系樹脂、エポキシ−フェノール系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム系樹脂などの樹脂及び、これら樹脂の混合物などが挙げられる。また、塗料は水性タイプ、溶液タイプ、無溶剤タイプの何れも使用できる。
【0041】
また、透明層1となるベースシートの表面に塗料を塗布する方法としては、この分野で通常行われているグラビア法、リバースコート法、ロータリースクリーン法、バーコート法、熱転写法などが利用できる。
【0042】
本発明において、遮光層2として、透明層1となるベースシートの表面に塗料を塗布して形成する他に、不透明な遮光性シートを利用することもできる。遮光性シートとしては、合成樹脂製シート、ゴム製シート、金属箔などの金属製シート、或いは紙、木製シートなどが使用できるが、(c)積層ブロック化工程での密着性、(d)スライス加工工程でのスライス性を考慮すると、合成樹脂製シートを使用するのが好ましい。その場合、透明層1となるベースシートと同じアクリル系樹脂組成物に上記塗料に使用する各種顔料、染料を添加したものがより好ましい。
【0043】
通常、視野選択シートSとしての厚み(H)は0.2〜1.0mmであり、透明層1の幅(L)は0.05〜2mmであり、遮光層2の幅(L’)は0.001〜0.1mmであるが、用途に応じて厚み(H)、透明層1の幅(L)、遮光層2の幅(L’)は、それぞれ調整し使い分けられる。
【0044】
また、透明層1となるベースシートの柔軟性は、(d)スライス加工工程のスライス刃の進入性及び(c)積層ブロック化工程のシートの積み重ね性に影響を与える。
本発明者らの知見では、透明層1となるベースシートの柔軟性(硬度:デューロメータにおけるタイプD)が45以上であれば、(c)積層ブロック化工程で断裁したシートが適度の硬さを有しているため揃えて積み重ね易くなり、70以下であれば(d)スライス加工工程におけるスライス刃の進入が容易となる。そのため、積層ブロックの柔軟性(硬度:デューロメータにおけるタイプD)としては45〜70の範囲、より好ましくは50〜60の範囲に調製することが好ましい。
【0045】
そして視野選択シートSの表面には、その形状維持、汚染防止、傷つき防止などを目的にして、透明な保護層3を積層被覆する場合がある。保護層3としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどの柔軟性若しくは剛性を有する樹脂性シートや、ガラス板などが使用される。
【実施例】
【0046】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
<実施例1>
(a)透明層のシート化工程
表1に示す実施例1のアクリル系樹脂組成物を、ヘンシェルミキサーにて3分間混合し、得られた混合物を2本ロールにて185℃で10分間混練しシート化し、厚さ0.15mmの透明なベースシートを得た。
(b)遮光層の塗布工程
上記ベースシートに下記水性黒色塗料を、グラビア方式で0.002mm厚にベタ印刷し、乾燥させて遮光層2付ベースシートを得た。
<水性黒色塗料> アクリル系樹脂 30重量%
カーボンブラック 10重量%
他添加剤 10重量%
水 50重量%
(c)積層ブロック化工程
上記遮光層(0.002mm厚)付ベースシートを、透明層1と遮光層2が交互に配置されるように、約500枚を重ね合わせ130℃で5時間熱プレスして積層ブロック化した。
(d)スライス加工工程
上記工程で得られた積層ブロックを、スライサーで0.2mm厚にスライスして、視野選択シートSを得た。
得られた視野選択シートSの評価結果を表1に示す。
【0047】
評価結果を示した表1における評価方法及び評価基準について説明する。
[ロール加工性]
ベースシートにおいて、2本ロールで混練し、シートを得るときのロールへの密着性について目視にて評価した。
○:ロールへの密着が適度であった。
×:ロールへ過度に密着した、或いはロールに密着しなかった。
[透明性]
ベースシートを熱プレス機にて厚さ1.5mmにプレスしてシートを作成し、その透明シートをJIS K 7105に準拠して直読ヘーズコンピューターHGM−2D(スガ試験機社製)にて、光線透過率を測定した。
○:光線透過率85以上
×:光線透過率85未満
[スライス性]
積層ブロックをスライサーで0.2mm厚にスライスした。
○:白化、カール現象がほとんどなく、容易にスライスできた。
△:白化、カール現象が目立たずにスライスできた。
×:スライスできなかった。
×:スライスはできたが白化、カール現象が目立った。
[視認性]
スライサーでスライスしたシートについて、正面から目標を見て視認性を評価した。
○:目標がぼやけずに、はっきり見えた。
×:目標がぼやけて、はっきり見えなかった。
[積み重ね性]
ベースシートの積み重ね性を目視にて評価した。
○:折り曲げ、シワなどの不具合がほとんどなくなく、簡単に積み重ねができた。
△:折り曲げ、シワなどに不具合が少なく、積み重ねができた。
×:折り曲げ、シワなどの不具合があり、積み重ねに手間取った。
[柔軟性(硬度:デューロメータにおけるタイプD)]
積層ブロックの柔軟性(硬度:デューロメータにおけるタイプD)を、JIS K 7215に準拠して測定した。
○:50〜70
△:50未満又は70を超える値
【0048】
<実施例2〜4>
表1に示した実施例2〜4のアクリル系樹脂組成物を、実施例1と同様の操作を行い、視野選択シートを得た。
【0049】
<比較例1〜4>
表1に示した比較例1〜4のアクリル系樹脂組成物を、実施例1と同様の操作を行い、視野選択シートSを得た。
各実施例及び各比較例で得られた視野選択シートSの評価結果を表1にまとめて示す。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のアクリル系樹脂組成物によれば、透明性、柔軟性、加工性に優れたアクリル樹脂系のフィルム、シートを容易に製造することができるため、光学用分野、車両用分野、電機資材分野、農業資材分野、看板などの分野で広く利用することができ、本発明の視野選択シートにおいても、積層ブロックのスライスが容易にでき、またスライス時にカール、白化現象を起こさないため、視野選択シートとして広く応用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る視野選択シートの実施態様を説明する模式断面図。
【符号の説明】
【0053】
1:透明層
2:遮光層
3:保護層
H:視野選択シートの厚さ
L:透明層の幅
L’:遮光層の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメタクリレートを主成分とし、そのメルトフローレート(MFR)が2〜35g/10minのアクリル樹脂と、粒子径が0.05〜0.2μmのアクリル系架橋弾性体とを主成分としてなることを特徴とするアクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリル樹脂20〜80重量%と、前記アクリル系架橋弾性体80〜20重量%との合計100重量部に対し、トリメリット酸エステル系の可塑剤及び/又は脂肪族二塩基酸エステル系の可塑剤が1〜50重量部添加されていることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
透明層と遮光層を交互に配置してなる視野選択シートにおいて、前記透明層が、請求項1又は2に記載のアクリル系樹脂組成物からなることを特徴とする視野選択シート。

【図1】
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【公開番号】特開2006−241274(P2006−241274A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57559(P2005−57559)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)
【出願人】(593116272)東ソー・ニッケミ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】