説明

アスベスト含有廃材の無害化処理方法

【課題】アスベスト含有廃材を完全にかつ安全に無害化反応性を高めて無害化処理することができ、環境的にも極めて優れ、無害化処理時間の短縮を図ることが可能となり、特に、アスベスト繊維束の状態にあるアスベストを完全に、短時間で効率よく無害化処理することができるアスベスト含有廃材の無害化処理方法を提供する。
【解決手段】アスベスト含有廃材の無害化処理方法は、アスベストを含有する廃材を水とともに湿式粉砕処理してスラリーとし、該湿式粉砕したアスベスト含有廃材スラリーを酸処理するとともに、前記湿式粉砕処理及び/又は酸処理の際に超音波振動を与えて、前記廃材中のアスベストを非アスベスト化する無害化処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストを含有する廃材の無害化処理方法に関し、特に、アスベストを含む廃材を完全にかつ安全に短時間で処理することができるアスベスト含有廃材の無害化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アスベストは長期にわたって強度低下等が起きず、耐火性にも優れていることから、様々な分野で広く使用されてきており、スレート板、水道管、耐火被覆材、ブレーキパッド、ガスケット、保温板、ロープ、パッキング、アセチレンボンベの充填材などの様々な分野に多岐にわたって多くの部材に使用されてきた。
しかし、近年、アスベストは、綿肺、肺癌、悪性中皮腫など多くの健康阻害の要因となることが明らかとなり、その使用が禁止されている。
【0003】
特に、アスベストを含む部材としては、スレート部材や耐火性被覆材等として多く使用されており、これらのスレート部材等は、天井、壁材などに多く用いられている。
しかし、これらの多量に使用されてきたアスベスト含有部材は、上記したような環境的理由により、そのまま使用を継続することは環境上危険であり、早急に廃棄・無害化の処理をしなければならない状況となっている。
【0004】
これまでに大量に生産されたスレート部材等のアスベスト含有部材は、一般廃棄物として取り扱われ、現在は産業廃棄物として廃棄処分されているが、アスベストの飛散や放散が問題となっており、緊急な安全対策が求められている。
【0005】
特に、耐火被覆材や崩壊した天井板等、アスベストを含有する建材を用いた建造物の解体等がピークを迎えているが、アスベストの暴露とそのアスベストの処理の問題が深刻化している。
【0006】
かかるアスベスト(石綿)は天然に産する鉱物繊維で、蛇紋岩系のクリソタイル(MgSi(OH))、角閃石系のアモサイト((Mg,Fe)Si22(OH))、クロシドライト(NaFe2+Fe3+Si22(OH))、アンソフィライト(MgSi22(OH))、トレモライト(CaMgSi22(OH))、アクチノライト(Ca(Mg,Fe)Si22(OH))が挙げられる。
かかる蛇紋岩系のクリソタイルは、加熱すると約700℃で脱水、変態し、約900℃でフォルステライト(2MgO・SiO)になることが知られているが、実際には、その繊維形状が保持されていることから容易に無害化することは困難であり、従ってその有効利用も十分に図られていない。
【0007】
また、スレート板などの成形板、吹付け材、保温材等のアスベスト含有建材を鉱酸とフッ化物イオン源により作製された無害化処理剤でアスベスト無害化処理を行う場合、スレート板のような成形板など寸法が大きい建材では予めジョークラッシャー、インパクトクラッシャー等で破砕処理を施す必要がある。
その際、破砕の程度が数cm程度の粗粉砕では無害化処理剤が破砕した成形板の中心部まで含浸するまでには長時間を必要とする。
また、アスベスト含有建材中のセメント成分に起因するアルカリ分と無害化処理剤の酸との中和反応により含浸した酸のpH低下を生じることから、成形板全体が無害化するまでにはさらに時間を要することとなる。
【0008】
アスベスト含有建材と無害化処理剤との反応を促進し処理時間を短縮するためにはアスベスト含有建材を粉砕機を用いて1mm程度以下まで微粉砕処理を行う必要があり、粉砕処理には一般的な粉砕機の使用が可能であるが、粉砕処理時あるいは粉砕処理物の移動や無害化処理剤への投入時にはアスベストを含む粉塵の飛散が避けられず作業環境の悪化が懸念される。
【0009】
また、アスベストの有害性は、その繊維質に由来するものである。
従って、繊維質の改質、融解によりアスベストを無害化する方法として、特許第3680958号(特許文献1)には、ロータリーキルンを用いたセメントの製造方法であって、前記ロータリーキルンの排出口側に設けた燃焼手段の近傍から石綿廃材を前記ロータリーキルン内に供給し、この供給された石綿廃材、及びセメント原料を前記燃焼手段によって処理することを特徴とするセメント製造方法が記載されている。
【0010】
また、特開2005−279589号公報(特許文献2)には、アスベストを含むスレート廃材を粉砕せずにホウ砂、ホウ酸と炭酸ナトリウムの混合物、又はホウ砂と炭酸ナトリウムの混合物からなる融解剤の水溶液に漬け、それを減圧下に置いて融解剤をスレート廃材の表面からスレート内部の空隙内に含浸することによって前処理した後、該前処理したスレート廃材を融解剤を満たした溶融炉内に浸漬して780〜1000℃の範囲に加熱することによって、スレート廃材中のアスベストを溶融させてガラス化させることを特徴とするスレート廃材の処理方法が記載されている。
【0011】
更に、特開2006−52177号公報(特許文献3)には、無機質系材料の廃材を、セメント製造用原料とともにセメント製造用キルン内に投入して、加熱処理することによりセメントに変換してなる無機質系材料の廃材の処理方法において、廃材の寸法を、最小値が1mm以上で最大値がセメント製造用キルンの内径の1/10以下であり且つ廃材内部のどの個所であっても表面までの最短距離が30mm以下の範囲内となるように寸法調整し、廃材とセメント原料との合計量に占める廃材の比率が乾燥状態における質量比率で1〜20%の範囲とし、廃材をセメント製造用原料とともにセメント製造用キルン内にキルンの窯尻から投入し、1000〜1500℃で20〜60分間加熱処理して焼結体を得、得られた焼結体を粉末化することを特徴とする無機質系材料の廃材の処理方法が記載されている。
【0012】
上記各々の特許文献に記載された従来の方法は、アスベスト含有廃棄物を溶融炉やセメントキルンに投入して無害化を行っている方法である。
しかし、アスベスト含有廃棄物を、溶融炉やセメントキルンに供給する際に、アスベストの飛散や放散を防止することはできない。
また、上記従来の方法では、前処理としてアスベスト含有廃材を粉砕したり、分解したり、微細クラック等を形成したりするために、重機などを用いてアスベスト含有廃材を破壊するなど、主として機械的手段を用いなければならず、結局アスベストが飛散、放散してしまい、溶融炉やセメントキルンに供給する工程における人体への健康面での影響問題は十分に解決されていない。
【0013】
特に、アスベスト含有建材中に含まれるアスベスト繊維はnmレベルの単繊維が収束したμmレベルの繊維束の状態で存在しており、微粉砕してもその収束した繊維が残存しており、従って、収束した繊維と無害化処理液とが接触した際に、その収束した繊維の外側から溶解が進行するため処理に時間がかかり、処理効率が悪くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許3680958号
【特許文献2】特開2005−279589号公報
【特許文献3】特開2006−52177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、アスベスト含有廃材を完全にかつ安全に無害化反応性を高めて無害化処理することができ、環境的にも極めて優れ、無害化処理時間の短縮を図ることが可能となる、アスベスト含有廃材の無害化処理方法を提供することである。特に、アスベスト繊維束の状態にあるアスベストを完全に、短時間で効率よく無害化処理することができる処理方法を提供することである。
また、アスベスト含有廃材の寸法が大きかったり、緻密なスレート板であったり吹付け廃材等である場合にも、アスベスト粉塵等の飛散や放散を有効に防止するとともに、完全にかつ安全に無害化処理できる、アスベスト含有廃材の無害化処理方法を提供することである。
また、アスベスト含有廃材を、セメントクリンカの原料として再利用することができる、アスベスト含有廃材の無害化処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、アスベスト含有廃材を、環境的に安全に粉砕処理してスラリー化し、酸処理する工程を備える方法であって、特にアスベスト含有廃材を粉砕するにあたり、密閉状態、例えば該アスベスト含有廃材を水に浸漬した湿潤状態で粉砕してスラリー化する等の密閉状態で行い、前記スラリー化処理及び/又は酸処理の際に超音波処理を付加することで、アスベスト繊維束を含む、綿状、板状、粉末状、破片状の任意の形態のアスベスト含有廃材を完全にかつ安全に無害化できることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
本発明のアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、アスベストを含有する廃材を水とともに湿式粉砕処理してスラリーとし、該湿式粉砕したアスベスト含有廃材スラリーを酸処理するとともに、前記湿式粉砕処理及び/又は酸処理の際に超音波振動を与えて、前記廃材中のアスベストを非アスベスト化することを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【0018】
好適には、本発明のアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、前記アスベスト含有廃材の無害化処理方法において、超音波振動は、平面波超音波又は球面波超音波であることを特徴とする、アスベストの無害化処理方法である。
好適には、本発明のアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、前記アスベスト含有廃材の無害化処理方法において、前記酸処理して得られた非アスベスト化処理物を、更に溶融炉により溶融処理することを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【0019】
更に好適には、本発明のアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、前記アスベスト含有廃材の処理方法において、前記溶融炉がセメントキルンであることを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
また好適には、本発明のアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、前記アスベスト含有廃材の無害化処理方法において、前記溶融処理は、前記非アスベスト化した処理物を、セメントクリンカ焼成プラントの原料受け入れ工程乃至セメントキルン供給工程のいずれかの工程に供給して溶融処理することを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【0020】
また更に好適には、本発明のアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、前記アスベスト含有廃材の無害化処理方法において、前記溶融処理は、非アスベスト化した処理物をフラックスと共に溶融炉に供給することを特徴とする、アスベスト含有廃材の処理方法である。
より好適には、更に本発明のアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、前記アスベスト含有廃材の無害化処理方法において、酸は、燐酸、硫酸、硝酸、塩酸及びフッ酸からなる群より選ばれる1種以上の酸であることを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【0021】
ここで、本発明において、アスベストの無害化または非アスベスト化とは、アスベストと酸とが反応して、クリソタイル、クロシドライト、アモサイト等の針状結晶がそれ以外の物質に転化した状態を表すものである。アスベストがこのような状態となることで、人体に対して無害となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアスベスト含有廃材の処理方法は、アスベスト繊維束を含むアスベスト含有廃材を、安全にかつ完全に短時間で無害化処理することができる。
特に、アスベスト含有廃材中のアスベスト粉塵の飛散・放散を完全に防止して、アスベスト含有廃材をスラリー化することで、酸処理による非アスベスト化を効率よく有効に実施することができ、無害化処理時間の短縮を図ることが可能となる。
即ち、スラリー化によりアスベスト含有廃材が微細化し無害化処理する時間が短時間になる。
該スラリー化する際に水を用いることで、酸を用いる場合と比較して、反応によるガス等の発生がなく、粉砕機等の装置の劣化を招くことが無い。
また、超音波処理をすることで、収束したアスベスト繊維が解繊して単繊維レベルにまでばらばらにすることができ、従って無害化処理液との接触面が増加することで、アスベストの溶解が促進され、その結果、処理時間の短縮又は使用する無害化処理液の減量が可能となる。
【0023】
また、更に、非アスベスト化材をセメントキルンを用いて溶融することで、アスベスト含有廃材を完全に無害化することができるとともに、セメントクリンカを製造することができ、アスベスト含有廃材の有効な再利用を促進することも可能となる。
しかも、アスベスト含有廃材の寸法や堅さ等の性状を問わず、スレート板、吹付け材等のあらゆる廃材を、完全にかつ安全に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のアスベスト含有廃材の無害化処理工程の一例を示すフロー図である。
【図2】セメントを製造する概略を模式的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を以下の形態例について説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のアスベストの処理方法は、アスベストを含有する廃材を水とともに湿式粉砕処理してスラリーとし、該湿式粉砕したアスベスト含有廃材スラリーを酸処理するとともに、前記湿式粉砕処理及び/又は酸処理の際に超音波振動を与えて、前記廃材中のアスベストを非アスベスト化する、アスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【0026】
このように、環境的に安全にアスベスト含有廃材を湿式粉砕処理してスラリー化し、スラリー化したアスベスト含有廃材を酸処理するとともに超音波処理することで、寸法の大きいアスベスト含有廃材等の任意の形態のアスベスト含有廃材であっても、有効にかつ安全に、完全に無害化することができることとなる。
特に、前記湿式粉砕処理及び/又は酸処理に際し、超音波振動を与えることによって、針状のアスベストが凝集しているアスベスト繊維束を個々にばらばらにして無害化処理を短時間で有効に行なうことが可能となる。
【0027】
本発明のアスベスト含有廃材の処理方法を適用できるアスベスト含有廃材としては、特に種類や形態は限定されず、例えば、吹付け材、スレート板、保温材等の、アスベストを含有する部材であれば、すべて対象とすることができる。
【0028】
本発明のアスベスト含有廃材の処理方法は、アスベストを含有する廃材を、水を用いて湿式粉砕処理してスラリー化する。
このように、水を用いてアスベスト含有廃材を微粉砕してスラリー化することで、アスベストを含む廃材の粉塵の飛散を最低限に抑えることができるとともに、微粒子化することにより、無害化処理剤である酸との接触面積が増大し、反応性が向上して、無害化処理時間の短縮を図ることができる。
また、該スラリー化する際に水を用いることで、酸を用いる場合に比較して、反応によるガス等の発生がなく、粉砕機等の装置の劣化を招くことが無い。
【0029】
上記スラリー化する際には、アスベスト含有廃材を水に浸漬した状態で実施することが、飛散防止の点から好ましく、更に、アスベスト含有廃材を微粉砕処理することが望ましい。
【0030】
粉砕手段としては、公知の建材廃材を粉砕する手段を用いることができる。
例えば、媒体撹拌ミル、タワーミル、振動ミル、ボールミル、遊星ミル、媒体撹拌ミル等が用いられる。
粉砕時間、粉砕ボール径、湿式粉砕の場合のスラリー濃度、分級条件等の運転条件は、使用する設備毎に事前に試験運転を行うことにより定める。
このように粉砕、特に微粉砕することで、アスベスト含有廃材と酸との接触面積を増大させ、無害化を効果的に行うことができる。
【0031】
アスベスト含有廃材を粉砕処理してスラリーとした後に、該スラリーに含有されるアスベスト繊維束に超音波振動が伝播するように、該スラリーに超音波振動を与えることができる。
該超音波振動を与える方法としては、アスベスト含有廃材に含まれるアスベスト繊維束に超音波が伝播するような方法であれば、任意の方法を採用することができ、例えば、超音波発生装置の振動子を、該粉砕処理する装置に当てて超音波振動を該粉砕処理中のスラリーに伝播したり、振動子の先端を直接粉砕処理中のスラリー液に浸漬して、超音波振動を発生してもよい。
【0032】
超音波振動は、その先端形状に応じて、平面波超音波としたり、球面波として付加することができる。
これにより、湿式粉砕によりマトリックスから遊離したアスベスト繊維束を単繊維に解繊することができることとなる。
従って、上記超音波処理をすることで、湿式粉砕によりマトリックスから遊離したアスベスト繊維束を超音波により単繊維レベルまで分散させることができアスベストの溶解反応が促進され、続く無害化処理における無害化処理時間の短縮や無害化処理液の使用量の低減を図ることができる。
【0033】
また、必要に応じて、アスベスト含有廃材を湿式微粉際する前に、寸法の大きい廃材を予め破砕することも可能であり、該破砕工程は、前記粉砕処理と同じ容器内で、または別個の容器内で行うことも可能であり、水とともに実施することも可能である。
【0034】
上記破砕する際の手段としては、公知の建材廃材を破砕する手段を用いることができる。
例えば、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ジョークラッシャー、回転式破砕機、シュレッダー等がある。
このように、破砕することで、大きい形状の廃材も、粉砕機にポンプ圧送しやすくなる。破砕機から粉砕機にポンプ圧送する場合には、ポンプ圧送時の詰まりや粉砕工程での能力低下がなされないように、破砕の粒子径は3mm以下とすることが好ましく、より好ましくは1mm以下とするのがよい。
【0035】
また、スラリー化する湿式粉砕処理の前処理として、必要に応じて設けられた破砕処理は、アスベスト含有廃材の飛散をより有効に防止するため、密閉状態で行なうことが好ましく、ここで、密閉状態とは、アスベストが作業環境中の自由な大気(密閉空間内の大気を除く)と直接接触していない状態をいい、例えば、ケースにより密閉可能な破砕機による破砕及び該破砕機から湿式粉砕機への移送がケースにより密閉可能な移送状態等が挙げられる。
当該方法として、破砕・粉砕機及び移送手段を配置し、これら各装置を一つの密閉されたケースで覆う方法や、破砕・粉砕機及び移送手段それぞれを密閉可能な仕様として各装置をシールを施して接続する方法等が挙げられる。
このように、アスベスト含有廃材を破砕・微粉砕してスラリー化することで、酸処理によりアスベストを非アスベスト化処理物とすることが短時間で容易にでき、また該非アスベスト化時間も短時間で実施することが可能となる。
【0036】
スラリー化されたアスベスト含有廃材を酸と接触させて、アスベストを非アスベスト化する際に使用できる酸としては、燐酸、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸、またはこれらの混合酸を有効に用いることができ、その濃度はアスベストの非アスベスト化への反応が生じる条件であれば特に限定されないが、濃度が高いほうが短時間でまた多量に無害化処理することができる。
また、酸の濃度は、現場の状況等に応じて適宜設定すればよい。
かかる酸処理によって、酸との接触面積が増大して反応性が増しているスラリー化したアスベスト含有廃材は無害化処理される。
【0037】
なお、得られる処理水溶液のpHが1以下となるように酸をスラリーに配合することが望ましい。
これは、得られる処理水溶液のpHが1を超えることとなると、廃材中に含まれる高pHのセメント系バインダーを溶解するために時間がかかることとなってしまうからである。
また、かかる処理水溶液を用いてアスベスト含有廃材中のアスベストの無害化処理を実施している間、すなわち、該処理水溶液とアスベスト含有廃材とを浸漬等により接触させている間も、かかる処理液のpHは常時1以下に保持されることが、廃材中に含まれる高pHのセメント系バインダーを溶解させる時間を短縮させる点から好ましく、このことは、かかる該処理水溶液中に含有される酸をアスベスト含有廃材の無害化処理中に必要に応じて添加することによって保持することができる。
【0038】
また、上記粉砕処理の際に超音波処理を行なっていない場合は、かかる酸処理において、又は上記粉砕処理の際に超音波処理を行なっている場合であっても更にかかる酸処理において、アスベストの無害化処理を行なう際に、該酸処理とともに超音波振動を与える。
該超音波振動を与える方法としては、アスベスト含有廃材が含まれるスラリーを酸に添加した無害化処理液に超音波が伝播するような方法であれば、任意の方法を採用することができ、例えば、超音波発生装置の振動子を、該無害化処理する装置に当てて、超音波振動を該無害化処理液に伝播したり、振動子の先端を直接無害化処理液に浸漬して、超音波振動を発生してもよい。
【0039】
超音波振動は、その先端形状に応じて、平面波超音波としたり、球面波として付加することができる。
これにより、アスベスト繊維束を単繊維に解繊することができることとなる。
凝集しているアスベスト繊維束を解繊する方法として、アスベスト含有廃材を投入した無害化処理液を高速撹拌するか、無害化処理装置にカッタポンプを接続した循環パイプを接続する等の機械的なせん断力をかけて解繊することも可能であるが、このような機械的な撹拌等だけでは、アスベスト繊維束をばらばらにするのに長時間かかり、不十分な場合もある。従って、上記超音波処理をすることで、アスベスト繊維束を超音波により単位繊維レベルまで分散させることができアスベストの溶解反応が促進され、無害化処理時間の短縮や無害化処理液の使用量の低減を図ることができる。
【0040】
本発明におけるアスベスト含有廃材の非アスベスト化処理の一例を以下に例示する。
但し、フッ化物イオン濃度は、添加したフッ化物が全て100%解離している場合の値を示し、「部」は質量部、「%」は質量%を表す。
また、アスベストの定量分析は、JIS A 1481「建材製品中のアスベスト含有率測定方法」に準じて測定した値であり、定量分析に用いたX線分析装置(スペクトリス(株)Panalitical事業部製 X’pert pro)における各アスベストの定量下限値は、クリソタイル0.026%、アモサイト0.008%、クロシドライト0.012%である。
【0041】
例1
10%塩酸(関東化学株式会社製;35%品を希釈)水溶液90部、フッ化アンモニウム(関東化学株式会社製)10部の水溶液(水素イオン濃度;2.66mol/L・pH=−0.42、フッ化物イオン濃度;51400mg/L=2.7mol/L・4.8%)からなる無害化処理液に、クリソタイル、アモサイト、クロシドライトの各アスベスト標準試料((社)日本作業環境測定協会より入手できる標準試料)をそれぞれ5部ずつ浸漬・撹拌して、さらに超音波振動による平面波を該無害化処理液に伝播させ、40℃、2時間で溶解させたところ、各アスベストの残留率は、上記厚生労働省基準以下でかつJISの定量下限以下であった。
なお、超音波処理をしなかった場合には、アスベストの残留率が上記厚生労働省基準以下でかつJISの定量下限以下となったのは、40℃で3時間接触させた後であった。
【0042】
例2
クリソタイル3.4%、アモサイト36.2%及びクロシドライト8.1%を含有するセメント系ボード(スレート材)10部を、HEPAフィルター付きのグローブボックス内で粗粉砕(最大粒径1〜2cm程度)し、湿式ボールミルを用いて水20部を用いて密封状態で粉砕するとともに、超音波振動である平面波を該粉砕処理後に付加して、上記粉砕セメントボード(スレート材)を含むスラリーとした。
10%塩酸(関東化学株式会社製;35%品を希釈)水溶液90部、フッ化アンモニウム(関東化学株式会社製)10部の水溶液(水素イオン濃度;2.66mol/L・pH=−0.42、フッ化物イオン濃度;51400mg/L=2.7mol/L・4.8%)からなる無害化処理液に、上記スラリー20部を接触させて、40℃、2時間で溶解させたところ、各アスベストの残留率は、上記定量分析法で測定して、上記厚生労働省基準以下でかつJISの定量下限以下であった。
【0043】
例3
10%塩酸(関東化学株式会社製;35%品を希釈)水溶液90部、46%フッ化水素酸(関東化学株式会社製)10部の水溶液(水素イオン濃度;5.14mol/L・pH=−0.71、フッ化物イオン濃度47200mg/L=2.5mol/L・4.4%)からなる無害化処理液に、クリソタイル、アモサイト、クロシドライトの各アスベスト標準試料((社)日本作業環境測定協会より入手できる標準試料)をそれぞれ5部ずつと水10部を含むように、超音波振動である平面波を付加してスラリーを調製し、前記溶液中に超音波振動である平面波を伝播するように付加しながら40℃、2時間で接触保持させたところ、各アスベストの残留率は、上記定量分析法で測定して、上記厚生労働省基準以下でかつJISの定量下限以下であった。
なお、各例において、超音波処理をしなかった場合には、アスベストの残留率が厚生労働省基準以下でかつJISの定量下限以下となったのは、40℃で3時間接触させた後であった。
【0044】
また、好適には、本発明の方法においては、前記非アスベスト化処理物を、溶融炉、特に好適にはセメントキルンに供給して、溶融処理するものである。
このように、セメントキルン、特にセメントクリンカ焼成プラント用のセメントキルンで高温溶融処理することにより、酸処理後のアスベスト含有廃材中に残存する場合もあるアスベストを完全に無害化処理することができることとなるとともに、セメント原料とともに処理されて、セメントクリンカとして再利用されることとなる。
【0045】
かかるセメントキルンは、好適にはセメントクリンカ焼成プラントのセメントロータリーキルンを適用することができ、かかるセメントキルンを利用することで、一度に多量に均一に溶融処理することが可能となるとともに、セメントクリンカを製造することが可能となり、アスベスト含有廃材を有効にリサイクル適用することも可能となる。
【0046】
また、上記酸処理して非アスベスト化処理物を、溶融炉、好適にはセメントクリンカ焼成プラント用のセメントキルンで溶融処理するにあたっては、図2に示すように、後述の原料受け入れ工程乃至セメントキルン供給工程のいずれの工程においても、前記酸処理を経た非アスベスト化処理物を供給することができる。
【0047】
セメントを製造するには、原料工程、焼成工程、仕上げ工程に大別され、図2を参照にして以下に説明する。
該原料工程は、原料受け入れ工程、粉砕・分級工程に大別される。
原料受け入れ工程では、まず、場外から運搬されてくるセメントクリンカ焼成用の原料、即ち石灰石を主体とし、他に粘土、珪石、鉄原料等を受け入れホッパ1にて分別して受け入れる。
当該原料が大塊である場合には、受け入れホッパ1の下流に破砕機(図示せず)が設けられ、所定の粒径に破砕された後、輸送機により各原料が原料貯蔵庫2に貯蔵される。
【0048】
続く原料工程での粉砕・分級工程では、原料貯蔵庫2の原料を「原料粉砕機」(原料ミル)で混合粉砕し、「分級機」で分級して、安定した粉体原料が調製される。
かかる原料粉砕機は現在、乾燥、粉砕、粗粉と微粉との分級の3つの機能を合わせもつ「たて型ミル」3が多く用いられている。
そして、得られた粉体原料を、例えば、ブレンディングサイロ4で均一に混合した後、原料ストレージサイロ5に導入する。
本発明のアスベスト含有廃材の処理方法では、酸処理後の非アスベスト化処理物は、他の原料と同様に、受け入れホッパ1に導入されて原料として別途貯蔵されて、上記粉砕機3に導入されても、あるいは特に貯蔵されることなく粉砕機3に直接導入されてもよく、またはこの原料工程では導入されなくてもよい。
【0049】
次いで前記原料工程を経て調製された粉体原料は、焼成工程を経ることとなる。
かかる焼成工程は、粉体原料が所定の温度になるまで加熱され、セメントとしての水硬特性を呈するように、焼成される工程である。
かかる焼成工程は、セメントキルン供給工程、焼成工程、冷却工程に大別される。
セメントキルン供給工程では、先ず粉体原料は、予熱装置(プレヒーター)6に投入されて加熱され、次いでロータリーキルン8に投入される。
【0050】
予熱装置6に投入されたセメント原料は、予熱装置6内を下降しながら800〜900℃に加熱される。
予熱装置6内におけるセメント原料の加熱は、予熱装置6内に熱風を送り込むことにより行われる。
なお、予熱装置6の多くは、下段に仮焼炉7が設けられている。
【0051】
焼成工程では、予熱装置6で加熱され、セメントロータリーキルン8に送られたセメント原料が、該ロータリーキルン8内を1分間に2〜3回転し出口方向に移動しながら約1500℃程度の高温で焼成されて焼結体(セメントクリンカ)となりロータリーキルン8から取り出される。
【0052】
該ロータリーキルン8内でのセメント原料の焼成は、ロータリーキルン8の窯前(焼結体が取り出される側)方向から窯尻(セメント原料が投入される側)方向に向けて、微粉炭を燃焼させてロータリーキルン8内に送り込むことにより行われ、当該ロータリーキルン8内の温度は、窯尻で約1000℃程度であり、最高温度が約1400〜1500℃であり、窯前が約1200℃程度である。
そして、ロータリーキルン8から取り出された焼結体は、冷却機9に送られる。
冷却工程では、ロータリーキルン8から取り出された焼結体は、冷却機9で強制空冷により急冷され、仕上げ工程へと送られる。
【0053】
本発明のアスベスト含有廃材の処理方法においては、酸処理後の非アスベスト化処理物は、原料工程を経て予熱装置6に導入されても、ロータリーキルン8の窯前で導入されても窯尻で導入されても、該セメントキルンで溶融処理できるのであれば、供給されるタイミングは特に問われない。
【0054】
上記したように、セメント原料とともにロータリーキルン内に投入された酸処理後の非アスベスト化処理物材は、ロータリーキルン内で回転しながら、例えば、1000〜1500℃で20〜60分間加熱溶融処理される。
この際、最高温度を1450℃以上とするとともに、1450℃以上の温度で加熱される時間を5分以上とするのが好適である。
かかる加熱処理により、アスベスト含有廃材は、溶融されて焼成されて焼結体を形成する。
前記加熱処理に関する温度および時間の条件は、一般的なセメントの焼成条件であるので、通常のセメントを製造する条件で該廃材を処理することができるものである。
【0055】
またかかる溶融処理をする際に、必要に応じて、フラックスを添加することも可能である。
かかるフラックスとしては、例えば、ホウ酸、ホウ砂、ホウ酸カルシウム、ボロナイトカルサイトなどのホウ酸化合物、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウムなどのリン酸化合物、珪酸、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムなどの珪酸化合物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの炭酸化合物、炭酸バリウム、硫酸バリウム等のバリウム化合物、フッ化水素、フッ化カルシウムなどのフッ素化合物等を用いることができる。
【0056】
またかかるフラックス剤を添加すると、融解が迅速になり均質に行われやすくなるので、当該フラックスを溶融処理において添加することが望ましいが、必ず添加する必要があるものではない。
かかるフラックスは、溶融時における融点を低下させる、あるいは溶融時間を短縮させるという機能を有するものである。
【0057】
このようにして得られた焼結体にセメントの凝結時間調整を目的として石膏が必要に応じて加えられ、仕上げ粉砕機(仕上げミル)で粉砕される仕上げ工程を得て、セメントが得られる。
このようにして得られたセメントは、安定した性能を有するものであり、アスベスト含有吹付け廃材を完全に安全に無害化して再利用を図ることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のアスベスト含有廃材の処理方法は、アスベスト含有廃材の性状を問わず、スレート板、吹付け材等のあらゆる廃材、特に寸法の大きい緻密なアスベスト含有廃材に短時間で有効に適用することができる。
また該廃材を再利用した、セメントを製造することにも適用することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 原料受け入れホッパ
2 原料貯蔵庫
3 原料粉砕機
4 ブレンディングサイロ
5 原料ストレージサイロ
6 予熱装置(プレヒーター)
7 仮焼炉
8 セメントロータリーキルン
9 冷却機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストを含有する廃材を水とともに湿式粉砕処理してスラリーとし、該湿式粉砕したアスベスト含有廃材スラリーを酸処理するとともに、前記湿式粉砕処理及び/又は酸処理の際に超音波振動を与えて、前記廃材中のアスベストを非アスベスト化することを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のアスベストの無害化処理方法において、超音波振動は、平面波超音波又は球面波超音波であることを特徴とする、アスベストの無害化処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法において、前記酸処理して得られた非アスベスト化処理物を、更に溶融炉により溶融処理することを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項4】
請求項3記載のアスベスト含有廃材の処理方法において、前記溶融炉がセメントキルンであることを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項5】
請求項4記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法において、前記溶融処理は、前記非アスベスト化した処理物を、セメントクリンカ焼成プラントの原料受け入れ工程乃至セメントキルン供給工程のいずれかの工程に供給して溶融処理することを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項6】
請求項3〜5いずれかの項記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法において、前記溶融処理は、非アスベスト化した処理物をフラックスと共に溶融炉に供給することを特徴とする、アスベスト含有廃材の処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかの項記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法において、酸は、燐酸、硫酸、硝酸、塩酸及びフッ酸からなる群より選ばれる1種以上の酸であることを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−72916(P2011−72916A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227026(P2009−227026)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】