説明

アスベスト検出装置

【課題】アスベスト繊維を含む繊維状物質の形状計測や計数を自動的に行うことができ、精度のよい観測結果を得ることが可能なアスベスト検出装置を提供する。
【解決手段】試料に含まれる繊維状物質を観察する顕微鏡14と、顕微鏡14の観察画像を撮像し、画像データを出力するカメラ16と、画像データを取得して所定の画像処理を行う画像解析装置18と、アスベスト検出結果が出力される端末装置20を備える。画像解析装置18は、カメラ16を介して画像データを取得する画像取得手段22と、画像データに現れた繊維状物質の個々の形状計測を行い、その繊維状物質がアスベストであるか否かを判定する分析手段26を備える。分析手段26は、測定対象物が現れた画像データに対して、所定の濃度閾値に基づく二値化処理を施して、抽出領域とその背景領域からなる二値化画像に変換する二値化処理手段34を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測定環境の大気中から捕集された試料等の観察画像の解析を行うことによって、試料中に含まれるアスベストを検出するアスベスト検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は、耐熱性、耐薬品性等の優れた物性を備え、かつてはビル等の建築材料や自動車のブレーキパッド等に盛んに使用されてきた。しかし、近年、飛散したアスベストが人体内に吸入されると、肺がんや中皮種等の病気を引き起こす確率が高いことが明らかとなり、アスベストによる健康被害が大きな社会問題となっている。しかも、アスベスト使用建築物等の解体作業は今後も増加することが予想されることから、大気中のアスベスト濃度の推移等を把握することは極めて重要である。
【0003】
また、人体内に吸入して生じる健康被害の種類や症状は、アスベスト繊維の長さの差によって異なるという報告がなされており、アスベスト繊維の計数だけでなく、アスベスト繊維の形状計測も一層高精度に行うことが求められている。
【0004】
アスベストの測定に関して、環境省が発行した「アスベストモニタリングマニュアル(第3版)」に一定のガイドラインが設定されている。本マニュアルでは、特定の構造を有する補集用装置を用いて大気中の浮遊物を捕集し、捕集された浮遊物に含まれるアスベスト繊維を、位相差顕微鏡及び生物顕微鏡を用いて計数する方法が標準測定法として定められている。また、参考法として、捕集された浮遊物に特定の屈折率をもつ浸液を滴下・分散し、アスベストにおいて観察される特異的なスペクトル(分散色)を位相差顕微鏡を用いて検出することによりアスベスト繊維を特定する分散染色法等も示されている。
【0005】
さらに、上記マニュアルには示されていないが、例えば、捕集された浮遊物にアスベスト特有に反応するアスベスト結合たんぱく質を施し、アスベスト繊維からの発色を蛍光顕微鏡を用いて検出することによりアスベスト繊維を特定する蛍光観察法等の新たな測定法も提案されている。
【0006】
上記マニュアルでは、上記標準測定法で観察された長さ5μm以上、幅(直径)3μm未満、かつ、長さと幅の比(アスペクト比)が3:1以上の形状を有する繊維状物質を計数対象とされている。また、分散染色法や蛍光染色法その他の測定方法においても、計数対象を同様の寸法範囲とし、上記範囲に含まれる繊維状物質をアスベスト繊維と判定されるのが一般的である。そして、いずれの測定方法においても、アスベスト繊維の計数は、検査者による手作業で行われている場合が多い。
【0007】
一方、特許文献1に開示されているように、分散染色法を用いて試料中のアスベストの検出を自動的に行うアスベスト検出装置であって、位相差顕微鏡の観測画像データを受け付ける画像データ取得部と、アスベスト繊維の種類を特定する判定基準となる分散色データを格納した分散色データ格納部と、アスベストの有無を判断するアスベスト判断部とを備えたアスベスト検出装置がある。特に、アスベスト判断部は、観測画像中の繊維状物質を計数し、形状を計測・分析し、アスベストか否かを判断する機能を備えている。
【特許文献1】特開2007−218641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
顕微鏡の観察画像には、様々な形状の繊維状物質が複雑に混在する様子が映し出されるため、繊維状物質の計数を行うときに判断に迷うときがある。そのため、上記マニュアルによれば、計数時の判断指針として「枝分かれした繊維の場合は、1本の繊維から枝分かれしている繊維は全体で1本と数える」、「数本の繊維が交差している場合は、交差しているそれぞれの繊維を1本と数える」、「計数視野範囲の境界内に繊維状粒子の両端が入っている場合は1本と数え、境界内に片方の端しか入っていない場合は、1/2本と数える」等の約束ごとが定められている。また、「常に顕微鏡の微動ハンドルを調節して計数する部位にピントを合わせながら計数する」こととし、繊維状物質の見落とし等をしないように注意すべき旨が指摘されている。
【0009】
従って、従来のように検査者が手作業で検査を行う場合、繊維状物質を注意深く慎重に観察しなければならず、検査効率が悪く、また、検査者に与える身体的な負担も大きかった。また、検査者の判断能力によりアスベスト検出の精度が変動しやすく、さらに、検査作業を急ぐ余り過誤のある判断をしてしまうことも皆無とはいえず、特に精密な検査が求められる場合においては、検査結果に対する信頼性が問題視されていた。
【0010】
また、特許文献1のアスベスト検出装置の場合、観測の自動化がなされて作業性については優れている半面、アスベスト判断部による繊維状物質の計数や形状計測及び分析の動作において、上記のような微妙な判断を人が行うのと同等以上の適切性をもって行わなければ、観測結果の信頼性に問題が生じるおそれがある。しかしながら、特許文献1には、アスベスト判断部に設けられた形状判断部が分析等を行うときの判断手法については開示されておらず、また、過誤のない判断を行うためには細心の注意が必要であるという課題ついての示唆も見受けられない。
【0011】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、試料の観察画像の解析を自動的に行うことができ、アスベスト繊維を含む繊維状物質の形状計測や計数を行うときの微妙な判断を適切に行うことによって精度のよい観測結果を得ることが可能なアスベスト検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、試料に含まれる繊維状物質を観察する顕微鏡と、前記顕微鏡の観察画像を撮像し、画像データを出力するカメラと、画像データを取得して所定の画像処理を行う画像処理手段と、アスベスト検出結果が出力される端末装置とを備え、前記画像処理手段による画像解析結果に基づいて試料中に含まれるアスベストを検出するアスベスト検出装置であって、前記画像処理手段は、前記カメラを介して画像データを取得する画像取得手段と、画像データに現れた繊維状物質の個々の形状計測を行い、その繊維状物質がアスベストであるか否かを判定する分析手段とを備え、前記分析手段は、測定対象物が現れた画像データに対して、所定の濃度閾値に基づく二値化処理を施して、抽出領域とその背景領域からなる二値化画像に変換する二値化処理手段を備えたアスベスト検出装置である。
【0013】
さらに、前記分析手段は、測定対象物が現れた画像データを第一の濃度閾値に基づく二値化処理を施して、抽出領域と背景領域からなる二値化画像に変換する二値化処理手段と、個々の抽出領域に識別符号を付与するラベリング手段と、二値化画像に現れた抽出領域個々の端点部分を分析し、その二値化画像を補正二値化画像に変換する端部補正手段と、補正二値化画像に現れた抽出領域個々の形状を計測する形状計測手段と、その形状計測結果に基づいて、各抽出領域がアスベストであるか否かを判定する判定手段とを備えたものである。
【0014】
また、前記画像処理手段は、前記画像データを保存する画像データベースと、前記分析手段の計測結果及び判定結果を計測情報として保存する計測情報データベースとを備えたものである。
【0015】
さらに、前記画像処理手段は、前記画像データベース及び前記計測情報データベースに保存された観察結果の中から所定の条件に該当するデータを抽出し、前記端末装置に出力する情報出力制御手段を備えたものである。
【0016】
また、前記端部補正手段は、二値化画像に現れた抽出領域個々の端点の座標を特定し、その座標データによって特定される画像データ上の端点及びその端点延長した領域を画像データから切り出し、切り出した領域の画像データに、その部分の領域内で再び設定した第二の濃度閾値に基づく二値化処理を施し、その抽出領域を延長した領域に新たな抽出領域部分が生じると、第一の濃度閾値によるもとの二値化画像を、新たな抽出領域部分を合成した補正二値化画像に変換するものである。
【0017】
また、前記分析手段は、さらにラベリング重複補正手段を備え、前記ラベリング重複補正手段は、前記端部補正手段によって新たに合成された抽出領域部分の同一座標上に異なる識別符号がラベリングされた抽出領域が在り、かつ、それらの抽出領域の互いの傾きの差が基準値以下のときは、それらの抽出領域は一つの測定対象物であると判断し、各抽出領域に同一の識別符号をラベリングし直すものである。
【0018】
さらに、前記画像処置手段は、検査者が検出結果の出力を求めるアスベスト繊維の形状範囲を示す出力条件を取得する出力条件取得手段を備え、前記情報出力制御手段は、前記出力条件取得手段によって指示された条件に該当するアスベスト繊維の情報を前記画像データベース及び前記計測情報データベースから抽出し、前記端末装置に送信するものである。
【0019】
また、前記顕微鏡は蛍光顕微鏡であり、シリコン粒子に特異的に結合する物質に発色酵素を結合させた蛍光物質を前記試料中に混合し、前記画像処理手段は、前記蛍光顕微鏡により取得した画像データを用いるものである。
【0020】
又は、前記顕微鏡は位相差顕微鏡であり、前記試料を光学的に観察してアスベストと他の物質との屈折率の相違を基にして、前記画像処理手段は、前記位相差顕微鏡により取得した画像データを用いるものでも良い。
【発明の効果】
【0021】
この発明のアスベスト検出装置によれば、画像処理の過程で繊維状物質の細い部分が背景に埋もれてしまい、従来であれば、真の繊維形状を認識できずにアスベスト繊維を見落としたり、過剰に計数する等の過誤判断が生じていたものを、再度厳密な分析を行って補正等を行う機能を備えているので、過誤判断が生じる可能性が減少し、高価な計測設備等を使用しなくとも高精度なアスベスト検出を行うことができる。
【0022】
また、繊維状物質の形状の計測やアスベスト繊維であるか否かの判断を、アスベスト検出装置が自動で行うので、アスベスト検出の精度が安定し、検査効率も飛躍的に向上する。
【0023】
さらに、この発明のアスベスト検出装置は、位相差顕微鏡による測定や、蛍光観察法その他の測定法にも適用可能であり、極めて汎用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の一実施形態のアスベスト検出装置10について、図面に基づいて説明する。アスベスト検出装置10は、環境大気中等から捕集された試料12中に含まれるアスベスト繊維を検出する装置である。アスベスト検出装置10の構成は、図1に示すように、試料12が観察可能な状態に取り付けられる顕微鏡14と、顕微鏡14の観察画像を撮像し、デジタル式の画像データとして出力するカメラ16と、カメラ16から画像データを取り込み、試料12中のアスベスト繊維に係る所定の解析を行う画像処理手段である画像解析装置18と、画像解析装置18から出力結果を検査者に提供する端末装置20を備えている。なお、アスベスト検出装置10は、上記構成以外に、顕微鏡14とカメラ16を駆動する駆動制御装置を備え、端末装置20からの指示によって駆動制御装置を動作させることができるが、図1ではその記載を省略している。
【0025】
画像解析装置18は、カメラ16から画像データを取得する画像取得手段22と、その画像データが保存される画像データベース24を備えている。また、画像データベース24から画像データを読み取り、画像データに後述する画像処理を施して試料12に含まれる繊維状物質の計数と個々の形状の分析等を行う分析手段26と、その分析結果等の計測情報が保存される計測情報データベース28を備えている。
【0026】
さらに、検査者がどのような情報を知りたいのかを端末装置20から取得する出力条件取得手段30と、その出力条件に基づいて各データベース24,28から必要なデータを抽出し、端末装置20に送る分析結果出力制御手段32を備えている。
【0027】
分析手段26は、画像データを、高濃度値θを有する濃度θ領域と低濃度値ゼロを有する濃度ゼロ領域からなる二値化画像に変換する二値化処置手段34と、個々の濃度θ領域に識別符号を付与するラベリング手段36を備えている。また、二値化画像に現れた濃度θ領域個々の端点部分を分析し、その二値化画像を、より真の繊維形状に近い補正二値化画像に補正する端部補正手段38と、端部補正手段38による補正で新たに合成された濃度θ領域の部分と同一座標上に異なる識別符号がラベリングされた抽出領域である高濃度領域が在り、かつ、後述する所定の条件を満たすときに、それらの濃度θ領域は一つの繊維状物質であるとして同一の識別符号をラベリングし直すラベリング重複補正手段40を備えている。そして、ラベリングの見直しがなされた補正二値化画像を分析し、濃度θ領域個々の形状を計測する形状計測手段42と、その形状の計測データに基づき濃度θ領域がアスベスト繊維であるか否かを判定する等の機能を有する判定手段44を備えている。
【0028】
次に、上記構成を備えたアスベスト検出装置10の処理動作について説明する。試料12の捕集方法は、例えば、アスベストを測定する場所に図示しない捕集用装置を設置し、捕集器具に取り付けられた直径47mm、平均孔径0.8μmのフィルターを介して、ポンプ等でエアー吸引することによって、環境大気中の浮遊物を捕集する。そして、フィルター表面に付着した繊維状物質を試料12として、プレパラート等に固定する処理を行い、顕微鏡14に取り付ける。そして、検査者は、端末装置20を操作し、図示しない駆動制御装置を介して顕微鏡14とカメラ16を駆動し、試料12の観察を開始する。
【0029】
画像取得手段22は、カメラ16から試料12の観察画像データを取得し、その画像データを画像データベース24に保存するか、若しくは分析手段26に送る。そして、分析手段26は、画像データベース24に保存された画像若しくは直接取得した画像を用いて、試料12の形状計測等を開始する。以下、分析手段26の動作を、図3のフローチャートに基づいて詳しく説明する。
【0030】
まず、二値化処理手段34は、図5(a)に示すような計測対象の画像データを画像データベース24から読み出す(ステップS11)。そして、その画像データに、図5(b)に示すように、予め設定された第一の閾値に基づく二値化処理を施し、所定の二値化画像に変換する(ステップS12)。具体的には、様々な濃淡(濃度値)で現された画像データに対し、濃淡の境界点を意味する第一の閾値を設定し、第一の閾値以上の濃度値を有する部分の濃度を一律に高濃度値θに変換し、反対に第一の閾値未満の濃度値を有する部分の濃度を一律に低濃度値ゼロに変換する。第一の閾値の決定方法としては、例えば、Pタイル法を用いることができる。すなわち、画像データの中の低い濃度値の部分から順番に画素数をカウントし、その総和が規定の割合に達したときの濃度値を第一の閾値とする方法である。
【0031】
次に、ラベリング手段36が、ステップS12で作成された二値化画像の中に現れた濃度θ領域の数を数えると同時に、個々の濃度θ領域ごとに識別符号を付与するいわゆるラベリングを行う(ステップS13)。
【0032】
次に、端部補正手段38が、ラベリングされた個々の濃度θ領域について、端点付近をさらに詳細に分析し、ステップS12で作成した二値化画像を補正する処理を行う(ステップS14)。計測対象は極めて細い繊維であるため、時には繊維状物質の端から端までを明瞭に撮影することができず、二値化処理の結果、実際には存在する繊維部分が背景(濃度ゼロ領域)として埋もれてしまうことがある。その場合、例えば、1本の繊維状物質が2つの濃度θ領域として認識されると、アスベスト繊維を過剰に計数してしまうという問題が生じ、また、繊維状物質の中央部のみが濃度θ領域として認識されると、繊維状物質の長さを誤って計測するという問題が生じる。そこで、二値化画像が現実の繊維形状をより正確に現すように、二値化画像に一定の補正を加える処理を行う。
【0033】
以下、端部補正手段38が行うステップS14の処理について、図4のフローチャートに基づいて説明する。また、説明の便宜のため、図5の写真に示すように、ステップS12の二値化画像に現れた濃度θ領域の1つである領域αを実際に補正した実例を示しながら説明する。
【0034】
まず、図5(c)に示すように、画像内の最長の領域である領域αの両方の端点を検出し、XY座標平面における各端点周辺部分の傾きを各々算出する(ステップS141)。なお、端点を特定しにくい場合は、領域αに所定の細線化処理を施し、端点特定等の精度を向上させる方法を用いてもよい。
【0035】
次に、図5(d)に示すように、画像データから領域αの各端点を基点とする矩形範囲を切り出す。そして、図5(e)に示すように、切り出した範囲に、その部分領域内で再び設定した閾値、例えば第一の閾値よりも低い値である第二の閾値を用いて二値化処理を施し、変更二値化画像を作成する(ステップS142)。閾値を再び設定するのは、背景として濃度ゼロ領域に埋もれている繊維部分が存在するならば、それを表面化させようとするためである。なお、図5(d)に示す矩形範囲の設定方法は一例に過ぎず、領域αを各端点を基点として延長する方向に設定されるものであれば、例えば、図6(a)に示すように領域αの傾きに沿うような角度に矩形範囲を設定しても構わない。
【0036】
次に、2つの変更二値化画像の中の抽出領域が、もとの二値化画像の抽出領域から延長しているか否かを判定する(ステップS143)。領域αの2つの変更二値化画像では、図5(e)に示すように、端点を含む新たな濃度θ領域が現れているのでYESと判定される。すると、次に新たな濃度θ領域について、所定のXY座標平面における傾きを算出する(ステップS144)。
【0037】
次に、新たな濃度θ領域と、もとの二値化画像の領域αの傾きを互いに比較し(ステップS145)、その傾きの差が所定の基準値以下であれば、新たな濃度θ領域が領域αが現す繊維状物質と同一のものを現していると判断する(S145)。ここでは上記条件を満たしておりYESと判定され(ステップS146)、図5(f)に示すように、領域αと2つの新たな濃度θ領域との論理和を求め、領域αを延長した補正二値化画像に更新する(ステップS147)。なお、特に傾きによる判断を必要としない場合は、S145及びS146は省略しても良い。
【0038】
以上説明したステップS141〜S147は、ステップS13でラベリングされた全ての濃度θ領域に対して同様の処理が行われ、それが全て完了すれば、ステップS14が終了する。なお、ステップS143,S146でNOと判定された場合の処理については後述する。
【0039】
次に、図3に示すステップS15の処理について基づいて説明する。ラベリング重複補正手段40は、領域αの補正二値化画像における延長した部分が、同一の繊維状物質を現す他の濃度θ領域と重複してラベリングされているか否かを分析し、ラベリングを正しい状態に補正する(ステップ15)。ステップ13のラベリングは補正前の二値化画像に対して行われているので、補正二値化画像において、1本の繊維状物質を現す濃度θ領域に異なるラベリングが重複しているおそれがある。そこで、補正二値化画像に誤ったラベリングがなされているか否かを分析し、正しく修正する処理を行う。
【0040】
以下、ラベリング重複補正手段40が行うステップS15の処理について、上記の領域αに対する処理を例として、図4のフローチャートと図5の写真に基づいて説明する。まず、領域αの補正二値化画像における延長部分と同一の座標を有し、異なるラベリングが重複してなされている濃度θ領域が存在するか否かを調査する(ステップ151)。ここでは、図5(f)(e)に示すように、補正後の領域αと領域βが重複してラベリングされているので、YESと判定される(ステップS152)。
【0041】
次に、補正後の領域α,βが交差する部分の傾きを個々に算出して比較し、その傾きの差が所定の基準値以下であれば、領域α,βが同一の繊維状物質を現していると判断する(S153)。ここでは上記条件を満たしておりYESと判定され(ステップS154)、図5(i)に示すように、領域αと領域βとの論理和を求め、新たな領域γとして1つの識別符号を付与し、全体のラベリングを補正・更新する(ステップS155)。
【0042】
以上説明したステップS151〜S155は、ステップS14で補正二値化処理された全ての濃度θ領域に対して同様の処理が行われ、それが全て完了すれば、ステップS15が終了する。
【0043】
なお、ステップS143,S146,S152,S154でNOと判定された場合、その濃度θ領域の二値化画像は繊維状物質の形状を正しく現している、又は、ラベリングの誤った重複はないと判断し、補正することなく処理を完了する(S148)。
【0044】
上述したステップS11〜S15の処理を行うことよって、繊維状物質を現す正確な二値化画像を作成することができた。そこで、次に、形状計測手段42が、この二値化画像を用いて繊維状物質の形状計測を行う(ステップ16,17)。形状計測は、ラベリングされた個々の濃度θ領域について、長さ、幅、アスペクト比を計測する。二値化後の連結領域の形状の計測は、一般的には包括矩形や内接円、外接円から求めることが多いが、アスベスト繊維は、直線形状だけでなく、湾曲形状や波形状その他の複雑な形状が混在するという性質のものであるため、そのような一般的な方法では正確に計測することができない。そこで、濃度θ領域の一方の端点からもう一方の端点の軌跡を追う等して、正確な寸法を測定する必要がある。
【0045】
ステップ16の計測は、画素単位(ピクセル)で行われる。長さの計測方法は、例えば、個々の濃度θ領域に対して細線化を施し、一方の端点からもう一方の端点までの画素数をカウントする方法を用いる。また、幅の計測方法は、例えば、個々の濃度θ領域の面積を長さで除算する方法がある。すなわち、濃度θ領域内の画素数をカウントして面積とし、長さの画素数で除算すれば、濃度θ領域の幅の平均値を求めることができる。さらに、アスペクト比は、長さの画素数を幅の画素数で除算することによって求めることができる。なお、アスベスト検出の目的や計測結果の用途に合わせ、長さ、幅、アスペクト比以外の寸法等を計測してもよい。また、幅の計測においても、例えば最大値が必要であれば、他の計測方法を用いて求めることも可能である。
【0046】
次に、画素単位(ピクセル)で求めた各計測データを、物理単位(μm)に変換する(ステップ18)。
【0047】
次に、判定手段44で、上記の形状計測データに基づいて、個々の濃度θ領域がアスベスト繊維に該当するか否かを判定する(ステップS18)。ここでは、環境省の「アスベストモニタリングマニュアル(第3版)」に準拠し、長さ5μm以上、幅3μm未満、アスペクト比が3以上の全てに該当する繊維状物質を、アスベスト繊維であると判定する。
【0048】
そして、判定手段44は、アスベスト繊維であると判定した繊維状物質に関する計測情報を、計測情報データベース28に保存する。計測情報としては、検出したアスベスト繊維の形状の計測データ、アスベスト繊維を取り囲む包括矩形、画像データに現れたアスベスト繊維の数や濃度平均値、個々のアスベスト繊維が存在する画像データ上の座標データと顕微鏡14に対する物理座標等が挙げられる。なお、これらの計測情報は、画像データベース24に保存された画像データと対応させるリンク情報と共に計測情報データベース28に保存される。また、アスベスト繊維に該当しないとされた繊維状物質についての計測情報については、アスベスト検出の目的や計測結果の用途に鑑み、必要があれば合わせて保存することも可能である。
【0049】
次に、端末装置20に分析結果を出力させる動作の例を、図1、図7に基づいて説明する。まず、検査者は端末装置20を操作して、各データベース24,28に保存されている画像データ及び計測情報のうち、特定の条件に該当するアスベスト繊維について、特定の情報を出力するよう指示する。ここで、特定の条件とは、例えば、「条件1:長さ5〜15μm、幅1〜3μm、アスペクト比3〜5の範囲」「条件2:長さ5〜10μm、幅0.5〜1μm、アスペクト比5以上の範囲」のように、アスベスト繊維の寸法の範囲を規定する統計条件のことである。また、特定の情報とは、例えば、「観察画像、観察画像名、各統計条件ごとのアスベスト繊維の本数、枠(包括矩形)」のように、検査者が知りたい情報の種類ことである。
【0050】
出力条件取得手段30は、端末装置20から入力された統計条件等の出力条件を取得し、その出力条件を情報出力制御手段32に送信する。すると、情報出力制御手段32は、計測情報データベース28を検索し、統計条件に該当するアスベスト繊維を特定する。そして、該当アスベスト繊維に関する情報のうち、検査者が知りたい情報を各データベース24,28から抽出し、端末装置20に送信する。端末装置20からの出力方法は、ディスプレイ表示や紙への印刷等が考えられるが、検査者から指示された「観察画像、観察画像名、各統計条件ごとのアスベスト繊維の本数、枠(包括矩形)」を、例えば、図7に示すような一覧の形式で表示等される。
【0051】
なお、検査者が指定する出力条件が一定であって、検査ごとに変更する必要がない場合は、出力条件取得手段30は特に設ける必要がなく、常に、情報出力制御手段32に設定された一定の出力条件に従って情報出力する形態としてもよい。
【0052】
以上説明したように、アスベスト検出装置10は、画像データを二値化処理したときに、繊維状物質の細い部分が背景に埋もれてしまい、従来であれば、真の繊維形状を認識できず、アスベスト繊維を見落としたり過剰に計数する等の過誤判断が生じていたものを、繊維状物質の端点部分に着目して再度厳密な分析を行って画像データを補正するため、過誤判断が生じる可能性が減少し、高価な計測設備等を使用しなくとも高精度なアスベスト検出を実現することができる。
【0053】
また、繊維状物質の形状の計測やアスベスト繊維であるか否かの判断を、アスベスト検出装置10が自動で行うので、アスベスト検出の精度が安定し、検査効率も飛躍的に向上する。
【0054】
また、検査者が検査結果を出力するとき、アスベスト繊維の統計条件や、知りたい情報の種類を自由に指定できるので、アスベスト検出の目的や計測結果の用途に合った出力結果を容易に得ることができる。
【0055】
さらに、このアスベスト検出装置10は、顕微鏡で撮像された画像データを用いてアスベスト検出を行う測定法であれば、位相差顕微鏡による測定、蛍光観察法その他の測定法にも適用可能であり、極めて汎用性が高い。例えば、位相差顕微鏡を用いて、試料を光学的に観察してアスベストと他の物質との屈折率の相違を基にして、画像処理手段が、位相差顕微鏡により取得した画像データを用いて、上述の処理を行うものである。又は、顕微鏡は蛍光顕微鏡を用い、シリコン粒子に特異的に結合する物質に発色酵素を結合させた蛍光物質を試料中に混合し、画像処理手段が、蛍光顕微鏡により取得した画像データを用いて、上述の処理を行うものである。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、アスベスト検出の目的等から鑑みてさほど要求精度を必要されない場合は、ラベリング重複補正手段40を省略してもよい。
【0057】
また、画像解析装置18内の機能ブロックである各データベースや各手段は、各機能を個別に備えた複数の装置類を組み合わせたものであってもよいが、例えば、CPU、メモリ、A/D変換器等によって一体に構成されたコンピュータシステム内に一体に構成したものであってもよい。
【0058】
さらに、端末装置20は、例えば、インターネット等の通信回線によって画像分析装置18に接続し、試料12のある現場から離れた場所にある研究所の専門家等が端末装置20を操作して検査を行う遠隔検査対応型のアスベスト検出装置という構成にすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】この発明の一実施形態のアスベスト検出装置を示すブロック図である。
【図2】この実施形態の分析手段の内部の構成を示すブロック図である。
【図3】この実施形態の分析手段の動作を説明するフローチャートである。
【図4】この実施形態の端部補正手段とラベリング重複補正手段の動作を説明するフローチャートである。
【図5】この実施形態の端部補正手段及び重複補正手段の動作例を説明する観察画像及び二値化画像である。
【図6】この実施形態の端部補正手段の他の動作例を説明する観察画像及び二値化画像である。
【図7】この実施形態の出力端末に出力された情報出力の表示例である。
【符号の説明】
【0060】
10 アスベスト検出装置
14 顕微鏡
16 カメラ
18 画像解析装置
20 端末装置
22 画像取得手段
24 画像データベース
26 分析手段
28 計測情報データベース
30 出力条件取得手段
32 情報出力制御手段
34 二値化処理手段
36 ラベリング手段
38 端部補正手段
40 ラベリング重複補正手段
42 形状計測手段
44 判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる繊維状物質を観察する顕微鏡と、前記顕微鏡の観察画像を撮像し、画像データを出力するカメラと、画像データを取得して所定の画像処理を行う画像処理手段と、アスベスト検出結果が出力される端末装置とを備え、前記画像処理手段による画像解析結果に基づいて試料中に含まれるアスベストを検出するアスベスト検出装置において、
前記画像処理手段は、前記カメラを介して画像データを取得する画像取得手段と、画像データに現れた繊維状物質の個々の形状計測を行い、その繊維状物質がアスベストであるか否かを判定する分析手段とを備え、
前記分析手段は、測定対象物が現れた画像データに対して、所定の濃度閾値に基づく二値化処理を施して、抽出領域とその背景領域からなる二値化画像に変換する二値化処理手段を備えたことを特徴とするアスベスト検出装置。
【請求項2】
前記分析手段は、測定対象物が現れた画像データを第一の濃度閾値に基づく二値化処理を施して、抽出領域と背景領域からなる二値化画像に変換する二値化処理手段と、個々の抽出領域に識別符号を付与するラベリング手段と、二値化画像に現れた抽出領域個々の端点部分を分析し、その二値化画像を補正二値化画像に変換する端部補正手段と、補正二値化画像に現れた抽出領域個々の形状を計測する形状計測手段と、その形状計測結果に基づいて、各抽出領域がアスベストであるか否かを判定する判定手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載のアスベスト検出装置。
【請求項3】
前記画像処理手段は、前記画像データを保存する画像データベースと、前記分析手段の計測結果及び判定結果を計測情報として保存する計測情報データベースとを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のアスベスト検出装置。
【請求項4】
前記画像処理手段は、前記画像データベース及び前記計測情報データベースに保存された観察結果の中から所定の条件に該当するデータを抽出し、前記端末装置に出力する情報出力制御手段を備えたことを特徴とする請求項3記載のアスベスト検出装置。
【請求項5】
前記端部補正手段は、二値化画像に現れた抽出領域個々の端点の座標を特定し、その座標データによって特定される画像データ上の端点及びその端点を延長した領域を画像データから切り出し、切り出した領域の画像データに、その部分の領域内で再び設定した第二の濃度閾値に基づく二値化処理を施し、その抽出領域を延長した領域に新たな抽出領域部分が生じると、第一の濃度閾値によるもとの二値化画像を、新たな抽出領域部分を合成した補正二値化画像に変換することを特徴とする請求項2記載のアスベスト検出装置。
【請求項6】
前記分析手段は、さらにラベリング重複補正手段を備え、
前記ラベリング重複補正手段は、
前記端部補正手段によって新たに合成された抽出領域部分の同一座標上に異なる識別符号がラベリングされた抽出領域が在り、かつ、それらの抽出領域の互いの傾きの差が基準値以下のときは、それらの抽出領域は一つの測定対象物であると判断し、各抽出領域に同一の識別符号をラベリングし直すことを特徴とする請求項1又は2記載のアスベスト検出装置。
【請求項7】
前記画像処置手段は、検査者が検出結果の出力を求めるアスベスト繊維の形状範囲を示す出力条件を取得する出力条件取得手段を備え、
前記情報出力制御手段は、前記出力条件取得手段によって指示された条件に該当するアスベスト繊維の情報を前記画像データベース及び前記計測情報データベースから抽出し、前記端末装置に送信することを特徴とする請求項4記載のアスベスト検出装置。
【請求項8】
前記顕微鏡は蛍光顕微鏡であり、シリコン粒子に特異的に結合する物質に発色酵素を結合させた蛍光物質を前記試料中に混合し、前記画像処理手段は、前記蛍光顕微鏡により取得した画像データを用いることを特徴とする請求項1乃至7記載のアスベスト検出装置。
【請求項9】
前記顕微鏡は位相差顕微鏡であり、前記試料を光学的に観察してアスベストと他の物質との屈折率の相違を基にして、前記画像処理手段は、前記位相差顕微鏡により取得した画像データを用いることを特徴とする請求項1乃至7記載のアスベスト検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−85248(P2010−85248A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254674(P2008−254674)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(500309920)株式会社インテックシステム研究所 (22)
【Fターム(参考)】