説明

アデノウイルス抗原検出キット

【解決手段】 多孔質キャリアに、検体適用部位、標識した抗アデノウイルスモノクローナル抗体含有部位、抗アデノウイルスポリクローナル抗体固相化部位、及び抗免疫グロブリンポリクローナル抗体固相化部位、をそれぞれ形成せしめてなるアデノウイルス抗原検出キット。
【効果】 金コロイド標識の場合、多孔質キャリア上に陽性の検体は2本、陰性の検体は1本の赤線がそれぞれ形成されて、判定がきわめて正確に行われ、しかもごく短時間で完了する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アデノウイルス抗原検出キットに関するものであり、アデノウイルス抗原を高感度かつ特異的にしかも簡便かつ迅速に検出することのできるアデノウイルス抗原検出キットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】アデノウイルスにより、呼吸器、眼、消化管感染症等が発症し、アデノウイルス性眼疾患としては、急性濾胞性結膜炎、流行性角結膜炎等が発生することが知られている。結膜炎は、失明に至ることは少ないものの、伝染力が強いために集団発生し、学校生活や職場に与える影響は非常に大きく、社会問題の一因ともなっている。しかしながら、アデノウイルス感染症に有効な治療法は未だ確立されておらず、対症療法が主体である(「最新内科学大系」中山書店(1994年2月28日)第126〜132頁)。
【0003】このように、アデノウイルス性結膜炎には決定的な治療法が確立されていないのであるから、可及的速やかにアデノウイルス感染の有無の診断を行ない、流行を防止するために予防措置を溝じる必要性が高まってくるのは当然のことである。
【0004】ウイルス性結膜炎の病因診断法には、ウイルスの分離培養、ウイルス抗原を検出する蛍光抗体法、或いは酵素抗体法など各種の方法がある。しかし、これらの方法は、特別の施設を必要とし、手技が繁雑で結果の判定に熟練を要するなどの問題があり、いわゆる流行り眼といわれる流行性結膜炎の迅速診断を必要とする臨床現場では必らずしも適当なものではない。
【0005】これらの問題を解決するため、モノクローナル抗体を利用した固相サンドイッチ法“アデノクロン”(Cambridge Biotech社登録商標)というアデノウイルス抗原を迅速に検出するキットが開発され(Wiley,L. et al.:Ophthalmology 95:431-433,1988),(Kowalsky,P.P. et al.:Ophthalmology 96:1106-1109,1989)、急性結膜炎の診断に広く用いられている。しかし、本キットを用いても、結果が出るまでには70分以上もの時間を要する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、アデノウイルス性結膜炎における予防の重要性に鑑みてなされたものであって、アデノウイルス抗原を高感度かつ特異的に、しかも簡便かつ迅速に検出することのできるアデノウイルス抗原検出キットを開発する目的でなされたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、各方面から検討の結果、免疫学的手法を有機的に利用することによって上記した新規技術課題を解決するのにはじめて成功したものである。すなわち、本発明は、多孔質キャリアに、検体を適用する部位、標識抗体を含有した部位、抗原検出部位及び反応終了判定部位とを順次形成してなり;標識抗体を含有した部位には、湿潤状態において多孔質キャリア上を抗原検出部位、反応終了判定部位へと順次移動し得る、アデノウイルス抗原に対する標識したモノクローナル抗体(標識抗体)を含有せしめ、抗原検出部位には、該アデノウイルス抗原に対するポリクローナル抗体(抗体I)を固相化した部位、反応終了判定部位には、標識抗体として使用した動物種の免疫グロブリン抗体に対するポリクローナル抗体(抗体II)を固相化した部位とを形成せしめ;もって、検体を検体適用部位に適用することにより、検体を多孔質キャリアを移動せしめて、標識抗体を溶出させ、抗原検出部位の抗体I及び反応終了判定部位の抗体II固相化部位を通過せしめることにより、検体中のアデノウイルス抗原を検出すること;を特徴とするアデノウイルス抗原検出キットに関する。以下、本発明について詳述する。
【0008】本発明は、抗原としてアデノウイルスのカプシドタンパクを用い、アデノウイルス抗原に対するモノクローナル抗体とポリクローナル抗体を組み合わせ、アデノウイルス抗原に対するサンドイッチアッセイを多孔質キャリア上で行う方法(免疫クロマト法)を測定原理として利用するものである。抗体としては、アデノウイルス抗原に対するモノクローナル抗体、該アデノウイルス抗原に対するポリクローナル抗体、及び、上記モノクローナル抗体を得た動物種の免疫グロブリン抗体に対するポリクローナル抗体、の3種類の抗体を使用する。上記モノクローナル抗体は、標識して標識抗体とする。例えば、金コロイドで標識したマウスモノクローナル抗体が好適である。
【0009】これらの抗体を多孔質キャリアに順次含有せしめて、アデノウイルス抗原検出キットを構成する。多孔質キャリアとしては、吸湿性材料、多孔質材料、繊維質材料など任意の材料で作製することができる。材料の多孔性は一方向性(すなわち気孔または繊維の全部が部材の軸に平行に通っている)または多方向性(全方向性、そのため部材は非晶質のスポンジ状構造となる)の何れでも良い。ポリプロピレン、ポリエチレン(好適には分子量の非常に高いもの)、フッ化ポリビニリデン、エチレン酢酸ビニル、アクリルニトリル、ポリテトラフルオロエチレンのような多孔質プラスチックを使用することができる。多孔質部材を製造の段階で界面活性剤で予め処理しておくと有利である。多孔質キャリアとしては、上記のほか、紙、濾紙、吸取紙、ニトロセルロース等の各種セルロース材料なども有利に使用することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明に係るアデノウイルス抗原検出キットは、多孔質キャリアに検体適用部位、標識抗体含有部位、抗原検出部位、反応終了判定部位、さらに必要あれば検体吸収部位を形成せしめたものからなり、その1実施例を図1に示す。
【0011】すなわち、本発明のアデノウイルス抗原検出キットは、検体を適用する部位A、湿潤状態で移動性のある標識抗体を含有した部位B、抗原検出部位C、反応終了判定部位D、及び必要あれば検体吸収部位Eから構成されている。抗原検出部位Cには、アデノウイルス抗原に対するポリクローナル抗体(抗体I)が固相化されており、反応終了判定部位Dには標識抗体として使用した動物種の免疫グロブリン抗体に対するポリクローナル抗体(抗体II)が固相化されている。なお、検体適用部位Aと標識抗体部位Bとを同一部位に位置させてもよい。抗体Iは、アデノウイルス抗原を結合した標識抗体と該抗原を介して複合体を形成し(サンドイッチ状態)、抗体IIは、過剰の標識抗体と反応する。そして、抗体I及びIIは、例えば免疫診断キットにおける抗体の固相化といった常法にしたがって多孔質キャリアに固相化し、標識抗体は、マイクロシリンジ等を用いて多孔質キャリア内部に注入したりあるいは表面に塗布、積層したりして適用する等常法にしたがって多孔質キャリア内に含有せしめる。
【0012】アデノウイルスに対するモノクローナル抗体は、アデノウイルスのカプシドタンパク質を抗原として、常法(例えば、中島暉躬ほか、新基礎生化学実験法6、生物活性を用いる測定法:135-150,1988)により作製することができる。抗体I及び抗体IIは、それぞれ、アデノウイルスのカプシドタンパク及び標識抗体として使用した動物種の免疫グロブリン抗体を抗原として、常法(例えば、中島暉躬ほか、新基礎生化学実験法6、生物活性を用いる測定法:109-130,1988)により作製することができる。好ましくは標識抗体に用いるモノクローナル抗体としては、アデノウイルスのカプシドタンパク質を構成するヘキソンタンパク質でマウスを免疫して得られたモノクローナル抗体、抗体Iとしては、上記ヘキソンタンパク質をウサギ、モルモット、ヤギ等に免疫して得られたポリクローナル抗体、抗体IIとしては、マウス免疫グロブリン抗体をウサギ、モルモット、ヤギ等に免疫して得られたポリクローナル抗体が本発明の抗原検出キットに用いられる。
【0013】アデノウイルスに対するモノクローナル抗体は、標識物質により標識する。標識物質としては、着色ラテックス、染料ゾル、金コロイド等可視(直接)標識が使用できるほか、放射性物質や蛍光物質も使用することも可能であり、常法にしたがって適宜標識化すればよい。
【0014】例えば金コロイドによるモノクローナル抗体の標識化は、常法によって行うことができ、欧州特許第EP7654号明細書の記載に準じて行えばよい。
【0015】アデノウイルス性結膜炎の診断を行うには、例えばスワプ等で患者の下瞼結膜および円蓋部を擦過して検体を採取し、該スワプを抽出液の入ったチューブに浸すことにより検体を抽出する。抽出液を検体適用部位に滴下し、水平な場所に置き反応を進行させる。抽出液は毛細管現象で多孔質キャリア上を移動し、標識抗体を溶出させ、抗体Iが固相化してある部位、抗体IIが固相化してある部位を通過し、検体吸収部位において吸収されて反応が終了する。
【0016】結果の判定は、次のようにして行う。
(1)陽性の場合(検体にアデノウイルス抗原が含まれている場合)
抽出液中のアデノウイルス抗原は抗原抗体反応により、標識抗体と複合体を形成し、多孔質キャリア上を移動する。抗体Iが固相化してある部位で、この複合体と抗体Iとがアデノウイルスを介して結合し、多孔質キャリア上に金コロイドの赤色の線(陽性を示す赤線)を形成する。なお、標識抗体は過剰に入っているので、多孔質キャリア上を更に移動を続け、抗体IIが結合されている部位で抗体IIと反応し、反応終了を示す赤色の線を多孔質キャリア上に形成する。これらの反応により、陽性の場合は二本の線が多孔質キャリア上に認められる。なお、本実施例においては、標識として金コロイドを用いたので赤色の線が形成されたが、他の染料等を用いることにより別の色が形成されるし、抗体を線状に固定化するのではなく、他の形状に固定化すればその形状に応じた発色が得られる。もちろん、下記する陰性の場合も同様である。
【0017】(2)陰性の場合(検体にアデノウイルス抗原が含まれていない場合)
抽出液中にアデノウイルス抗原が存在しないので、該抗原と標識抗体との複合体は形成されずに標識抗体のみが多孔質キャリア上を進み、抗体Iが固相化してある部位では捕捉されず、そのまま多孔質キャリア上を移動し、抗体IIが固相化されている部位で抗体IIと反応し、反応終了を示す赤色の線を多孔質キャリア上に形成する。陰性の場合はこの一本線が多孔質キャリア上に形成される。
【0018】
【実施例】本発明の抗原検出キットと、モノクローナル抗体を用いた酵素免疫法によるアデノウイルス抗原検出キット(アデノクロン:Cambridge Biotech社登録商標)を用いて、結膜検体に対する感度、特異性及び手技の困難性について比較検討した。検体は、130名の結膜炎患者の結膜擦過物からなり、その内訳は、PCR法により、ウイルスDNAが陽性でアデノウイルス性結膜炎と診断された88検体、非アデノウイルス性結膜炎と診断された33検体、および、現在PCRを実施中の9検体であった。結果は、次のとおりである。
【0019】PCR法でアデノウイルスDNAが陽性の88検体のうち、本発明のアデノウイルス抗原検出キットの特異性と感度は、それぞれ、54.5%及び93.9%であったのに対し、アデノクロン(登録商標)は50.0%及び97.0%であった。本発明のキットによれば、PCR陽性のアデノ3型は26%、アデノ4型は100%、アデノ7型は60%、アデノ8型は65%、そして、アデノ37型は58%検出された。これは、アデノクロン(登録商標)を用いた場合と比較して、それぞれの血清型に対し同様の陽性率を示すものであった。本発明のキットは、重症の結膜炎(severe conjunctivitis)の症状を呈する場合にアデノクロン(登録商標)より高い検出感度を示した。アデノウイルス抗原の存在を目視判定する場合、本発明のキットは平均10分であったのに対し、アデノクロン(登録商標)は70分を要した。
【0020】これらの結果から、本発明のキットは、アデノクロン(登録商標)と比較して、より迅速で、操作も簡便であり、特異性も高いことが明らかである。従って本発明のキットを用いたアデノウイルス性結膜炎の診断は、どこの診療所でも簡単に行うことができ、アデノウイルス性結膜炎の早期診断及び予防にきわめて有用である。
【0021】本発明に係るキットを使用すれば、上記したようにアデノウイルス抗原を高感度かつ特異的に、しかも簡便かつ迅速に検出することができる。
【0022】本発明のキットは、そのまま使用することももちろん可能であるが、多孔性キャリアのみでは強度に欠け、持ち運びに不便であるので、その場合には、その底面をプラスチックシートで裏打ちしたり、ケーシングに収容したりすればよい。後者の場合、検体適用部位Aに相当する部分には検体滴下用の窓部を設け、抗原検出部位C及び反応終了判定部位Dに相当する部分には判定窓を設けておけば、多孔性キャリアをケーシングから取り出すことなく測定ができる。
【0023】
【発明の効果】本発明のアデノウイルス抗原検出キットは、従来品に比較して、感度及び特異性において遜色なく、操作が簡便でかつ検査時間もわずか10分ですむ。従って、どのような診療所においても、本発明の抗原検出キットは導入可能であり、アデノウイルス性結膜炎の早期診断と予防にきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るアデノウイルス抗原検出キットの1実施例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 多孔質キャリアに、検体を適用する部位、標識抗体を含有した部位、抗原検出部位及び反応終了判定部位とを順次形成してなり;標識抗体を含有した部位には、湿潤状態において多孔質キャリア上を抗原検出部位、反応終了判定部位へと順次移動し得る、アデノウイルス抗原に対する標識したモノクローナル抗体(標識抗体)を含有せしめ、抗原検出部位には、該アデノウイルス抗原に対するポリクローナル抗体(抗体I)を固相化した部位、反応終了判定部位には、標識抗体として使用した動物種の免疫グロブリン抗体に対するポリクローナル抗体(抗体II)を固相化した部位とを形成せしめ;もって、検体を検体適用部位に適用することにより、検体を多孔質キャリアを移動せしめて、標識抗体を溶出させ、抗原検出部位の抗体I及び反応終了判定部位の抗体II固相化部位を通過せしめることにより、検体中のアデノウイルス抗原を検出すること;を特徴とするアデノウイルス抗原検出キット。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開平9−171019
【公開日】平成9年(1997)6月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−348264
【出願日】平成7年(1995)12月19日
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【出願人】(596049393)エス・エー・サイエンティフィック、インコーポレーテッド (1)