説明

アデホビルジピボキシルの安定化した固体分散体及びその製造方法

本発明は、ヌクレオチド類似体である9−[2−[[ビス[(ピバロイルオキシ)メチル]ポスフォノ]メトキシ]エチル]アデニンを含む安定性が改善された無定形固体分散体、これを含む薬剤学的組成物及び当該固体分散体の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヌクレオチド類似体であり化学式Iで表される9−[2−[[ビス[(ピバロイルオキシ)メチル]ポスフォノ]メトキシ]エチル]アデニン(アデホビルジピボキシル、または以下ADEという)を含む安定性が改善された無定形固体分散体及びこれを含む薬学的組成物に関する。
【0002】
【化1】

【0003】
また、本発明は、ADE及び水溶性高分子物質を有機溶媒に溶解させるステップ、および、流動層顆粒機または噴霧乾燥器を使用して当該溶液を糖アルコール担体に吸着または分散させるステップを含む、安定性が改善された無定形固体分散体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
抗ウイルス薬物であるADEは、ヌクレオチド逆転写酵素阻害剤であって、HIV及びB型肝炎ウイルス(HBV)に対して優れた生体内抗ウイルス活性を示し、上記物質の抗ウイルス活性については、StarretらのJ. Med. Chem., 37:1857, 1994及びSamiraらのJ. Med. Chem., 39:4958, 1996に開示されている。
【0005】
ADEは、自然界では、定形及び結晶形の2つの形態で存在することが知られている。米国特許第6,451,340号及び大韓民国特許第0618663号には、無水結晶形ADEを含む薬剤学的組成物及びその製造方法について開示されており、米国特許第6,635,278号及び大韓民国特許第0624214号には、安定性を改善するために、アルカリ性賦形剤を添加したADE組成物及びその製造方法について開示されている。
【0006】
しかし、ADEは、水分に触れると、加水分解が加速され、そのため、生成される分解産物がさらにADEの分解を加速させることで知られている[参考文献:YuanらのPharm. Res. 17:1098, 2000]。
【0007】
結晶形アデホビルジピボキシルの薬剤学的組成物は、ヘプセラ(Hepsera、GSK)という商品名で販売されているが、製造工程上、水を使用して顆粒を製造するので、湿潤顆粒をLOD 1.5%以下に乾燥させる付加的な工程が必要である。そのため、長時間高温で水分と接触するため、安定性が充分に改善されない。
【0008】
また、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びポリビニルピロリドン(PVP)のような高分子物質と有機溶媒を併用してADE固体分散体を製造する方法も公知であるが、高分子物質がむしろ周りの水分を吸着し、ADEの分解を促進する。さらには、長時間高温にさらされる事で結晶形の変化などの危険性が生じ、安定性が充分に改善されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来のアデホビルジピボキシル製剤に比べて、熱と水分に対する安定性が改善された固体分散体形態のアデホビルジピボキシルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、化学式IのADE、水溶性高分子物質及び糖アルコールを含む、安定性が改善された無定形固体分散体及びこれを含むHIV感染またはB型肝炎治療用薬剤学的組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、ADE及び水溶性高分子物質を、有機溶媒(例えば、アセトン)、またはアセトンと薬剤学的に許容される有機溶媒の混合溶媒に溶解させるステップ、および、当該溶液を糖アルコール担体に吸着または分散させるステップを含む、溶解度及び安定性が改善された無定形固体分散体を製造する方法に関する。
【0012】
本発明による水溶性高分子は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びポリビニルピロリドン(PVP)よりなる群から1つ以上選択されることが好ましい。さらに好ましくは、ビニルピロリドンとビニルアセテートの共重合体(Kollidone VA64)である。一部の医薬品では、高分子物質だけで固体分散体を製造することによって、薬物分子と水分子の接触が妨げられ、安定性が改善されることがあるが[参照:米国特許第4,301,146号]、このような高分子物質は水分を吸収する性質を有する為、大部分の薬物において安定性に支障をきたす。
【0013】
本発明による固体分散体は、ADE及び水溶性高分子の重量比が1:0.1〜1:10であることが好ましく、より好ましくは、1:0.5〜1:5である。1重量部のADEに対する水溶性高分子の重量比が0.1未満の場合は、無定形固体分散体の製造が難しく、10を過える場合、錠剤化するのに好ましくない。
【0014】
また、本発明においてADE及び糖アルコールの重量比は、1:0.5〜1:10であることが好ましく、さらに好ましくは、1:3〜1:6である。1重量部のADEに対する糖アルコールの重量比が0.5未満の場合、無定形個体分散体の安定性が劣化し、10を過える場合には、剤形化が難しい。
【0015】
本発明による糖アルコールは、乳糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトール及びイソマルトよりなる群から1つ以上選択され、好ましくは、乳糖またはイソマルトである。
【0016】
一部の医薬品では、結合性を有する糖アルコールとともに圧着すれば、得られた圧着物の薬剤学的用途が改善されることが知られている。糖アルコールの大部分は、吸湿性物質であるため、粉砕して表面積を増加させるほど周辺の水分を吸着し、安定性に支障をきたすとされているが、糖アルコールを粉砕して、それぞれの粒子間に充分に分散させれば、圧着された錠剤は、粉砕強度や水分吸着の観点から安定性を維持することができる。このような糖アルコールの代表例としては、ソルビトールおよびイソマルトなどが挙げられる。
【0017】
本発明は、アデホビルジピボキシルの無定形固体分散体に加えて、薬剤学的に許容される担体をさらに含む薬剤学的組成物に関する。薬剤学的に許容される担体は、希釈剤、崩壊剤、結合剤及び滑沢剤よりなる群から1種以上選択される。このような担体を使用することによって、固体分散体の溶出率及び崩壊時間を調節することができ、生体利用率を調節し、また、固体分散体の安定性を改善することができる。好ましい賦形剤として、澱粉、スクロース、微結晶セルロース、リン酸水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、マルトデキストリン、デキストリン、シクロデキストリンおよびガラクトースなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による固体分散体は、先行技術の無定形固体分散体に比べて熱と水分の影響を受けにくく、熱力学的にさらに安定した固体分散体及びこれを含む薬剤学的組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】結晶形ADEのXRDパターンであって、約7.9、7.9、10.2、12.4、15.1、16.4、17.3、18.0、20.2、21.4及び22.3で2θで表現される特徴的なピークを示す。
【図2】比較例1の無定形固体分散体のXRDパターンである。
【図3】糖アルコールとして使用されるイソマルトXRDパターンである。
【図4】実施例6のXRDパターンである。ADEの特徴的なピークは観察されず、イソマルトのXRDパターンだけが観察され、ADEが無定形で存在することが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、下記実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、下記例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
アセトン100gにアデホビルジピボキシル10gとKollidone VA64 30gを完全に溶解させた。これを、乳糖60gを担体とし、流動層顆粒機(Glatt GPCG−1、ドイツ)を用いて噴霧乾燥し、無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を得た。この時の、流動層乾燥の吸入温度は、65℃、排気温度は、35〜45℃であった。
【0022】
[実施例2]
乳糖を30gを使用し、他は、実施例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0023】
[実施例3]
乳糖を90gを使用し、他は、実施例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0024】
[実施例4]
Kollidone VA64 15gを使用し、他は、実施例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0025】
[実施例5]
Kollidone VA64 20gを使用し、他は、実施例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0026】
[実施例6]
乳糖の代わりに、イソマルト60gを担体として使用し、他は、実施例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0027】
[実施例7]
乳糖の代わりに、イソマルト30gを担体として使用し、他は、実施例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0028】
[実施例8]
アセトン100mLの代わりに、エタノール200mLを有機溶媒として使用し、他は、実施例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0029】
[実施例9]
アセトン100mLの代わりに、メタノール200mLを有機溶媒として使用し、他は、実施例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0030】
[実施例10]
アセトン100mLの代わりにメチレンクロライド/メタノール(50mL/50mL)を有機溶媒として使用し、他は、実施例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0031】
[比較例1]アデホビルジピボキシル+Kollidone VA64組成の固体分散体の製造
アセトン100gにアデホビルジピボキシル10gとKollidone VA64 30gを完全に溶解させた。これを噴霧乾燥器(Buchi Mini Spray Dryer、B−191、スイス)を用いて噴霧乾燥し、無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。この時の、噴霧乾燥の条件は、実施例1と同一である。
【0032】
[比較例2]
Kollidone VA64を10g使用し、他は、比較例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0033】
[比較例3]
Kollidone VA64を50g使用し、他は、比較例1と同一の方法で無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を製造した。
【0034】
[試験例1]無定形アデホビルジピボキシルのX−線粉末回折分析
結晶形アデホビルジピボキシル、比較例1の無定形固体分散体、糖アルコールとしてイソマルト及び実施例6の無定形固体分散体を温度60℃、相対湿度75%で誘導密封式の高密度ポリエチレン容器に入れて包装し、4週後にX−線粉末回折分析機器(モデル:X'pert−pro)で測定し、その結果を図1〜図4に示した。
【0035】
[試験例2]無定形アデホビルジピボキシルの熱力学的安定性実験
無定形固体分散体を40℃、相対湿度75%条件でシリカゲル3gと共に誘導密封式の高密度ポリエチレン容器に入れて包装し、面積標準化法によって残留ADEの含量を各時点で測定した。表1は、糖アルコールの添加有無によるADEの分解程度を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
[剤形例1]錠剤の製造
実施例1の無定形アデホビルジピボキシル固体分散体100g(アデホビルジピボキシルとして10g)、ラクトース23g、プレゲル化澱粉7.5g、クロスカメロースナトリウム12g、タルク9g及びステアリン酸マグネシウム1.5gを均質に混合した後、1錠当たりアデホビルジピボキシル10mg含有量で打錠した。
【0038】
[剤形例2]錠剤の製造
実施例6の無定形アデホビルジピボキシル固体分散体を使用し、他は、剤形例1と同一の方法で錠剤を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデホビルジピボキシルと、水溶性高分子物質及び糖アルコールを含むことを特徴とする無定形アデホビルジピボキシル固体分散体。
【請求項2】
アデホビルジピボキシルと水溶性高分子物質の重量比が1:0.1〜1:10であることを特徴とする請求項1に記載の無定形アデホビルジピボキシル固体分散体。
【請求項3】
アデホビルジピボキシルと糖アルコールの重量比が1:0.5〜1:10であることを特徴とする請求項1に記載の無定形アデホビルジピボキシル固体分散体。
【請求項4】
水溶性高分子物質が、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール及びビニルピロリドンとビニルアセテートの共重合体よりなる群から1つ以上選択されることを特徴とする請求項1に記載の無定形アデホビルジピボキシル固体分散体。
【請求項5】
糖アルコールが、乳糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトール及びイソマルトよりなる群から1つ以上選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無定形アデホビルジピボキシル固体分散体。
【請求項6】
請求項5に記載の固体分散体と薬剤学的に許容可能な担体を含むことを特徴とするHIV感染またはB型肝炎治療用薬学的組成物。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の無定形アデホビルジピボキシル固体分散体の製造方法であって、
水溶性高分子物質とアデホビルジピボキシルを有機溶媒に溶解させるステップと、
生成された溶液を糖アルコールに吸着または分散させるステップと
を含むことを特徴とする無定形アデホビルジピボキシル固体分散体の製造方法。
【請求項8】
糖アルコールが、乳糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトール及びイソマルトよりなる群から1つ以上選択されることを特徴とする請求項7に記載の無定形アデホビルジピボキシル固体分散体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−502902(P2012−502902A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526818(P2011−526818)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005271
【国際公開番号】WO2010/032958
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(507406611)シージェイ チェルジェダン コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】