説明

アナログセンサ信号の量子化誤差抑制方法

【課題】冗長化デジタル出力半導体センサにおけるアナログセンサ信号の量子化誤差抑制方法を提供する。
【解決手段】二つのセンサを逆極性でレイアウトし、それぞれのアナログ信号をA/Dコンバータにて量子化するに当たり、二つのセンサの中点電圧以下だけの量子化データを使用することによりA/Dコンバータの直線性誤差を防止することを特徴とするアナログセンサ信号の量子化誤差抑制方法である。本発明によれば、二つのセンサの中点電圧以下だけの量子化データを使用することによりA/Dコンバータの直線性誤差を防止することができるため、本来のセンサ性能を有効に活用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冗長化デジタル出力半導体センサにおけるアナログセンサ信号の量子化誤差抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の角速度や加速度などの走行状態を検出するセンサでは、車両姿勢安定化制御システム、運転軽減システム、自動運転制御システムなど、車両に搭載される複数のシステムがセンサの情報をもとに制御を行うため、センサ信号やその他の情報共有化を目的とした社内LAN(CAN,LIN,FlexRAY等)に対応したデジタルネットワーク対応型センサの需要が高くなりつつある。
一方、角速度センサについては、車両姿勢安定化制御システムに代表されるように、システムを制御する上で、センサ情報への依存度が高いことから、信頼性向上を目的とした冗長化センサも提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、デジタル出力化のための量子化処理(アナログ−デジタル変換)を行う場合、図4に示すようにA/Dコンバータの直線性誤差によりアナログ電圧が高くなるに従いデジタル出力の誤差も大きくなるという問題がある。このため、仮に高精度のアナログセンサを内蔵していたとしても、A/Dコンバータによりデジタル化する際に量子化により発生する誤差によって、本来のセンサ性能を悪化させてしまうという問題が発生する。
また、デジタル出力の誤差を解消する技術として特許文献1、2等も提案されているが、これらの誤差解消技術では、冗長化デジタル出力半導体センサにおけるアナログセンサ信号の量子化誤差を効果的に抑制することはできないという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2005−45538
【特許文献2】特開2004−279324
【0005】
そこで本発明では、二つのセンサを逆極性でレイアウトし、それぞれのアナログ信号をA/Dコンバ−タにて量子化するに当たり、二つのセンサの中点電圧以下だけの量子化データを使用することによりA/Dコンバータの直線性誤差を防止することを特徴とするアナログセンサ信号の量子化誤差抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため本発明が採用した技術解決手段は、
二つのセンサを逆極性でレイアウトし、それぞれのアナログ信号をA/Dコンバータにて量子化するに当たり、二つのセンサの中点電圧以下だけの量子化データを使用することによりA/Dコンバータの直線性誤差を防止することを特徴とするアナログセンサ信号の量子化誤差抑制方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、二つのセンサの中点電圧以下だけの量子化データを使用することによりA/Dコンバータの直線性誤差を防止することができるため、本来のセンサ性能を有効に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
二つのセンサの中点電圧以下だけの量子化データを使用することによりA/Dコンバータの直線性誤差を防止する。
【実施例】
【0009】
以下、本発明のアナログセンサ信号の量子化誤差抑制方法の実施例を図面を参照して説明すると、図1は本発明に係る要部ブロック図、図2はセンサ出力を1種類とした場合の同フローチャート、図3はセンサ出力を2種類とした場合の同フローチャートである。
図1において、本実施例は、逆極性を有する二つのセンサ1、2とこれらセンサに接続されたA/Dコンバータ3とを備えている。A/Dコンバータ3には、A/Dコンバータの直線性誤差を最小源におさえるための制御手段が内蔵されている。
【0010】
前記A/Dコンバータ3に内蔵された制御手段では図2または図3に示すプログラムを実行する。
まず、センサ出力を1種類とした場合のプログラムについて図2を参照して説明する。なお、ここではセンサ1からの検出値に基づいて制御する場合を説明する。
プログラムが開始されると、ステップS1においてセンサ1で検出した信号が中点電圧以上か否かを判断する。
ステップS1でセンサ1からの検出信号が中点電圧以上であるとステップS2にすすみ、センサ1の出力値を以下の式で演算し、その結果を出力する。
出力値=3FF−センサ2の検出値
ここで、出力値の演算は補数演算であり、本例の場合は10bitのA/Dコンバータであるので量子化最大値3FF(hex)との補数となる。
ついでステップS1でセンサ1からの検出信号が中点電圧以下であるとステップS3において、センサ1の出力値をセンサ1の検出値とし、その結果を出力し、プログラムを終了する。
なお、上記センサ1の代わりにセンサ2からの出力に基づいて制御する場合は、上記センサ1の代わりにセンサ2の検出値を採用し、上記と同様の演算を行う(フローチャート中のカッコ内の数字を参照)。また上記ステップS1の条件を、「センサ1の検出値が中点電圧以上であり、かつセンサ2の検出値が中点電圧以下」とすることもできる。
【0011】
次にセンサ出力を2種類とした場合のプログラムについて図3を参照して説明をする。 なお、ここではセンサ1からの検出値に基づいて制御する場合を説明する。
プログラムが開始されると、ステップS1においてセンサ1で検出した信号が中点電圧以上か否かを判断する。
ステップS1でセンサ1からの検出信号が中点電圧以上であるとステップS2にすすみ、センサ1の出力値を以下の式で演算し、その結果を出力する。
センサ1の出力値=3FF−センサ2の検出値
ここで、出力値の演算は補数演算であり、本例の場合は10bitのA/Dコンバータであるので量子化最大値3FF(hex)との補数となる。
ついでステップ3において、センサ2の出力値をセンサ2の検出値とし、その結果を出力し、プログラムを終了する。
またステップS1でセンサ1からの検出信号が中点電圧以下であるとステップS4において、センサ1の出力値をセンサ1の検出値とし、さらに、ステップ5においてセンサ2の出力値を以下の式で演算し、その結果を出力してプログラムを終了する。
センサ2の出力値=3FF−センサ1の検出値
なお、上記センサ1の代わりにセンサ2からの出力に基づいて制御する場合は、上記センサ1の代わりにセンサ2の検出値を採用し、上記と同様の演算を行う(フローチャート中のカッコ内の数字を参照)。
以上のような制御を行うことで、二つのセンサの中点電圧以下だけの量子化データを使用することによりA/Dコンバータの直線性誤差を防止することができる。
【0012】
ここで、両極性の物理量検出が必要な自動車用半導体センサ(角速度や加速度センサ等)では、電源電圧を5Vとすると、入力物理量(角速度や加速度)がゼロの時の出力信号(以下、中点電圧と呼ぶ)を2.5Vに設定し、物理量の入力によって発生する出力信号が2.5〜5Vの範囲を正極性(または負極性)、0〜2.5Vの範囲を負極性(または正極性)と規定している。
例えば、角速度センサにおいて検出感度が20mV/(deg/sec)の場合、+50deg/sec(右旋回)時に3.5V、−50deg/sec(左旋回)時に1.5Vの出力信号となる。
【0013】
本発明では、これらのセンサを冗長化する場合、センサの極性を反転させることによって中点電圧以下で両極性の物理量を検出できる。
具体的には、上記のような角速度センサを冗長化する場合、+50deg/sec(右旋回)時にセンサ1の出力信号が3.5V、センサ2の出力信号が1.5Vとなるようにレイアウトすることによって、−50deg/sec(左旋回)時には、センサ1が1.5V、センサ2が3.5Vとなるため、右旋回時にはセンサ2、左旋回時にはセンサ1の信号を利用することで、中点電圧以下で両極性の物理量が検出可能である。
これにより、アナログ電圧の低い領域(中点電圧以下)でA/Dコンバータの直線性誤差の少ない領域を使用するため、センサ本来の性能を悪化させずにデジタル出力化が可能となる。
【0014】
以上詳細に説明したが、本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいかなる形でも実施できる。そのため、前述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、逆極性でレイアウトした二つのセンサの中点電圧以下だけの量子化データを使用することによりA/Dコンバータの直線性誤差を防止するものであり、自動車の姿勢安定化制御システムや自動運転制御システム等のために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るアナログセンサ信号の量子化誤差抑制方法の要部ブロック図である。
【図2】センサ出力を1種類とした場合の同フローチャートである。
【図3】センサ出力を2種類とした場合の同フローチャートである。
【図4】A/Dコンバータの性能グラフである。
【符号の説明】
【0017】
1、2 センサ 3 A/Dコンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つのセンサを逆極性でレイアウトし、それぞれのアナログ信号をADコンバータにて量子化するに当たり、二つのセンサの中点電圧以下だけの量子化データを使用することによりADコンバータの直線性誤差を防止することを特徴とするアナログセンサ信号の量子化誤差抑制方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−134984(P2007−134984A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326338(P2005−326338)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】