説明

アノード基板、固体酸化物形燃料電池及びアノード基板の製造方法

【課題】ガス透過性と機械強度とを両立できるアノード基板を提供する。
【解決手段】アノード基板16は、第一主面16pと、起伏のある第二主面16qと、燃料電池100のセパレータ20に接するべき堤部30と、堤部30よりも薄肉に形成された窪み部32とを備えている。アノード基板16は、全体として平板の形状を有する。堤部30の表面と窪み部32の表面とが同一平面上に存在することによって第一主面16pが形成されている。第二主面16qの起伏が、堤部30と窪み部32との間の厚さの相違に起因して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード基板、固体酸化物形燃料電池及びアノード基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は次世代のクリーンエネルギー源として注目されており、その研究開発が急速に進められている。燃料電池の1つとして、固体酸化物形燃料電池が知られている。固体酸化物形燃料電池は、例えば、アノード、固体電解質層及びカソードを含む板状のセルを多数積層した平板型の構造を有する。平板型の固体酸化物形燃料電池は、円筒型の固体酸化物形燃料電池に比べると、単位体積あたりの出力密度が高いという特徴を持っている。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の発電性能を高めるためには、固体電解質層の緻密化及び薄肉化が有効である。しかし、固体電解質層が薄ければ薄いほど、積層荷重によってセルが割れやすくなる。固体電解質層を薄くするために、アノードを支持体(アノード基板)として用いた燃料電池が提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−060695号公報
【特許文献2】特開2005−196981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アノード基板には、十分なガス透過性が要求される。他方、アノード基板には、高い機械強度も要求される。アノード基板を薄くするとガス透過性は高まるが、機械強度は低下する。すなわち、アノード基板において、ガス透過性と機械強度とはトレードオフの関係にある。アノード基板が厚すぎると、材料費の高騰を招く可能性もある。
【0006】
本発明は、ガス透過性と機械強度とを両立できるアノード基板及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、そのアノード基板を用いた固体酸化物形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
固体酸化物形燃料電池の固体電解質層を支持するためのアノード基板であって、
第一主面と、
起伏のある第二主面と、
前記燃料電池のセパレータに接するべき堤部と、
前記堤部よりも薄肉に形成された窪み部と、を備え、
当該アノード基板は全体として平板の形状を有し、
前記堤部の表面と前記窪み部の表面とが同一平面上に存在することによって前記第一主面が形成されており、
前記第二主面の起伏が、前記堤部と前記窪み部との間の厚さの相違に起因して形成されている、アノード基板を提供する。
【0008】
別の側面において、本発明は、
上記本発明のアノード基板と、
カソードと、
前記アノード基板と前記カソードの間に配置された固体電解質層と、
を備えた、固体酸化物形燃料電池を提供する。
【0009】
さらに別の側面において、本発明は、
固体酸化物形燃料電池の固体電解質層を支持するためのアノード基板を製造するための方法であって、
平板状の第一セラミックグリーンシートを準備する工程と、
開口部を有する第二セラミックグリーンシートを準備する工程と、
前記第一セラミックグリーンと前記第二セラミックグリーンシートとの積層体が形成されるように、前記第一セラミックグリーンシートと前記第二セラミックグリーンシートとを互いに貼りあわせる工程と、
前記積層体を焼成する工程と、
を含む、アノード基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアノード基板は、堤部及び窪み部を備えている。第一主面側において、堤部の表面は、窪み部の表面と同一平面上に存在する。堤部と窪み部との間の厚さの相違に起因して、第二主面の起伏が形成されている。このような構造を採用すると、単位重量あたりの機械強度を高めることができる。さらに、窪み部は堤部よりも薄いため、燃料ガスがアノード基板を通り抜ける際の抵抗が小さくなる。その結果、十分なガス透過性も確保される。従って、本発明によれば、優れたガス透過性と高い機械強度とを兼ね備えたアノード基板を提供できる。単位重量あたりの機械強度を高めることができるので、材料費も節約できる。
【0011】
本発明のアノード基板を使用すれば、優れた発電性能及び高い信頼性を有する固体酸化物形燃料電池を提供できる。
【0012】
本発明の方法によれば、上記のアノード基板を容易かつ安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の斜視図
【図2】図1に示す燃料電池に使用されたアノード基板の斜視図
【図3】セパレータの燃料ガス供給溝とアノード基板の窪み部との位置関係を示す断面図
【図4】アノード、固体電解質層及びカソードを含む発電要素の製造工程図
【図5】(a)変形例に係るアノード基板の平面図(b)別の変形例に係るアノード基板の断面図(c)さらに別の変形例に係るアノード基板の平面図及び側面図
【図6】実施例1〜6に係るアノード基板の平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の固体酸化物形燃料電池100は、発電要素24、第一セパレータ20及び第二セパレータ22を備えている。発電要素24は、第一セパレータ20及び第二セパレータ22に電気的に接触するように、それらによって挟まれている。発電要素24は、アノード10、固体電解質層12及びカソード14で構成されている。固体電解質層12は、アノード10とカソード14との間に配置されている。アノード10は、固体電解質層12の厚さとカソード14の厚さとの合計を十分に上回る厚さを有する。固体電解質層12及びカソード14は、アノード10によって支持されている。アノード10は、固体電解質層12及びカソード14を支持する支持体の役割を担っている。すなわち、燃料電池100は、アノード支持型かつ平板型の固体酸化物形燃料電池である。
【0016】
発電要素24は、平面視で方形、典型的には正方形の形状を有する。ただし、発電要素24の形状は特に限定されない。発電要素24の平面視での形状は、円形、多角形などの他の形状であってもよい。
【0017】
固体電解質層12は、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニアなどを主成分として含むセラミックで作られている。固体電解質層12は、例えば、5〜30μmの範囲の厚さを有する。カソード14は、ランタンマンガナイトなどを主成分として含む多孔質セラミックで作られている。カソード14は、例えば、10〜70μmの範囲の厚さを有する。本実施形態では、カソード14が固体電解質層12に直接接している。ただし、固体電解質層12の材料とカソード14の材料との組み合わせに応じて、カソード14と固体電解質層12との間にバリア層が設けられていてもよい。バリア層は、CeO2などを主成分として含むセラミックで作られている。バリア層は、固体電解質層12の材料とカソード14の材料との反応によって高抵抗物質層が形成されて燃料電池100の性能が低下することを防ぐ。そのような現象は、発電要素24を作製するためにカソード14を焼成するとき、及び、燃料電池100の運転中に起こり得る。「主成分」とは、重量比で最も多く含まれた成分を意味する。
【0018】
第一セパレータ20及び第二セパレータ22は、それぞれ、耐熱金属又は導電性セラミックで作られている。セパレータ20及び22は、インターコネクタとも呼ばれる。第一セパレータ20は、アノード10(本実施形態ではアノード基板16)に燃料ガスを供給するように構成されている。具体的に、第一セパレータ20には、アノード10に燃料ガスを供給するための複数の燃料ガス供給溝20aが一方向に延びるように形成されている。燃料ガスは、典型的には、水素ガスである。第二セパレータ22は、カソード14に酸化剤ガスを供給するように構成されている。具体的に、第二セパレータ22には、カソード14に酸化剤ガスを供給するための複数の酸化剤ガス供給溝22aが他方向に延びるように形成されている。酸化剤ガスは、典型的には、空気である。
【0019】
アノード10は、アノード基板16及びアノード活性層18で構成されている。アノード基板16及びアノード活性層18は、典型的には、酸化ニッケル及びジルコニアを主成分として含む多孔質セラミックで作られている。アノード基板16は、例えば、150〜1500μmの範囲の厚さを有する。アノード活性層18は、例えば、5〜30μmの範囲の厚さを有する。アノード基板16は、発電要素24の機械強度を保持することを主な目的とし、発電に関する電気化学反応を実質的に担わない点でアノード活性層18と異なる。アノード活性層18は、水素と酸素イオンとの反応によって水蒸気と電子とを生成する反応場の役割を担う。ただし、アノード基板16が単独でアノード10として機能できる場合には、アノード活性層18を省略することができる。
【0020】
図2に示すように、アノード基板16は、第一主面16p及び第二主面16qを有する。第一主面16pは、アノード活性層18に接するべき主面である。アノード活性層18が省略されている場合、第一主面16pは、固体電解質層12に接するべき主面である。第二主面16qは、第一セパレータ20に接するべき主面である。図2に示すように、第二主面16qには起伏が設けられている。本明細書において、「主面」は、最も広い面積を有する面を意味する。
【0021】
アノード基板16は、堤部30及び窪み部32で構成されている。堤部30は、第一セパレータ20に接するべき部分である。窪み部32は、堤部30よりも薄肉に形成された部分である。アノード基板16は、全体として平板の形状を有する。堤部30の表面と窪み部32の表面とが同一平面上に存在することによって第一主面16pが形成されている。つまり、第一主面16pは平坦面である。第二主面16qの起伏は、堤部30と窪み部32との間の厚さの相違に起因して形成されている。堤部30及び窪み部32によって、単位重量あたりのアノード基板16の機械強度が向上する。さらに、窪み部32によって十分なガス透過性も確保される。
【0022】
本実施形態では、堤部30によって個別に囲まれる形で複数の窪み部32が設けられている。複数の窪み部32が設けられていると、第一セパレータ20の燃料ガス供給溝20aから窪み部32のそれぞれに燃料ガスを供給しやすい。図3に示すように、燃料電池100において、第一セパレータ20はアノード基板16の堤部30に面接触している。堤部30が一定の厚さDを有しているので、アノード基板16と第一セパレータ20との密着性も良好である。燃料ガス供給溝20aからアノード基板16の窪み部32に燃料ガスが導かれるように、燃料ガス供給溝20aと窪み部32とが連通している。詳細には、複数の窪み部32は、それぞれ、複数の燃料ガス供給溝20aのいずれかに面している。このような位置関係によれば、燃料ガス供給溝20aを通じて、窪み部32に燃料ガスを確実に供給できる。燃料ガスは、アノード基板16の内部に滞留することなくアノード活性層18へと移動し、アノード活性層18と固体電解質層12と燃料ガスとが互いに接する3相界面で電極反応に有効利用される。
【0023】
図2に示すように、アノード基板16は、いわゆるワッフルの外観を有している。つまり、第二主面16qの起伏が規則的なパターンを示している。本実施形態において、規則的なパターンは格子状である。堤部30が格子部分を構成し、複数の窪み部32が格子の空間部分を構成している。格子状の堤部30によれば、アノード基板16の機械強度に指向性が生じることを防止できる。規則的なパターンは、同一形状及び同一寸法を有する複数の窪み部32が一定の規則で配列していることに限定されない。例えば、互いに異なる形状を有する2種類以上の窪み部が一定の規則で配列していてもよい。互いに異なる寸法(厚さ、平面視での面積)を有する2種類以上の窪み部が一定の規則で配列していてもよい。
【0024】
また、堤部30は、アノード基板16の外縁に沿って形成された枠状部分を含む。つまり、アノード基板16を平面視したときに複数の窪み部32の全部が堤部30の内側に位置するように、堤部30によってアノード基板16の最外周部分が形成されている。アノード基板16の側面は、全周囲にわたって、堤部30によって形成されている。このような構造によれば、堤部30の枠状部分が第一セパレータ20に接触できるので、燃料電池100におけるガスシールが容易となる。
【0025】
窪み部32の厚さが小さければ小さいほどアノード基板16の材料費を節約できるとともに、優れたガス透過性が発揮される。しかし、窪み部32の厚さは、アノード基板16の機械強度との兼ね合いで調節されるべきである。図3に示すように、堤部30の厚さ(堤部30におけるアノード基板16の厚さ)をD、窪み部32の厚さ(窪み部32におけるアノード基板16の厚さ)をdとしたとき、例えば0.3D<d<D(好ましくは0.6D<d<0.8D)の関係を満たすように窪み部32の厚さdを調節することができる。窪み部32の厚さdが適切に調節されていると、アノード基板16の十分な機械強度を確保しつつ、ガス透過性を高めることができる。材料費も節約できる。
【0026】
同様の観点から、アノード基板16における窪み部32の占める割合は、第二主面16qを平面視したときに観察される表面積に換算して、例えば35%以下であり、好ましくは15〜25%である。これにより、アノード基板16の十分な機械強度を確保しつつ、ガス透過性を高めることができる。
【0027】
本実施形態において、窪み部32は、平面視で正方形の形状を有している。第二主面16q側において、窪み部32によって形成された空間部分は、直方体の形状を有する。ただし、窪み部32の平面視形状は特に限定されない。窪み部32は、平面視で円形、ひし形などの他の形状を有していてもよい。空間部分の形状も特に限定されない。空間部分は、円柱状、半球状、錘状などの他の立体形状を有していてもよい。
【0028】
次に、図4を参照しつつ、発電要素24の製造方法を説明する。
【0029】
まず、導電成分、骨格成分及び溶媒を混合し、アノード基板用スラリーを調製する。アノード基板用スラリーをドクターブレード法などの方法でシート状に成形する。得られたシート状成形体を乾燥させる。これにより、平板グリーンシート160(第一セラミックグリーンシート)が得られる(STEP1)。溶媒を適度に除去できる条件であれば、成形体の乾燥条件は特に限定されない。例えば、乾燥温度が70〜120℃であり、乾燥時間が1〜10時間である。これらの条件は、後述する他の乾燥工程にも適用されうる。
【0030】
導電成分は、アノード基板16に導電性を付与するための成分である。導電成分としては、ニッケル、コバルト、鉄、白金、パラジウム、ルテニウムなどの金属;酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄のように、燃料電池の稼動時の還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属酸化物;ニッケルフェライト、コバルトフェライトのように、これらの金属酸化物を2種以上含有する複合金属酸化物が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用されうる。これらの中でも、ニッケル、コバルト、鉄又はこれらの酸化物を好適に使用できる。
【0031】
骨格成分は、機械強度及び耐レドックス性を確保するための成分である。「耐レドックス性」は、酸化雰囲気から還元雰囲気又は還元雰囲気から酸化雰囲気へとアノード基板16を繰り返し暴露した際の化学的安定性及び強度的安定性を意味する。骨格成分としては、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、チタニア、窒化アルミニウム、ムライトが挙げられる。これらの骨格成分の複合物も使用できる。最も汎用性の高いのは安定化ジルコニアである。安定化ジルコニアは、ジルコニアと安定化剤との固溶体である。安定化剤としては、MgO、CaO、SrO、BaOなどのアルカリ土類金属の酸化物;Y23、La23、CeO2、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Er23、Tm23、Yb23などの希土類元素の酸化物;Sc23、Bi23、In23などの遷移金属の酸化物が挙げられる。安定化ジルコニアは、分散強化剤としてアルミナ、チタニア、Ta25、Nb25などの酸化物を含んでいてもよい。また、骨格成分として、CaO、SrO、BaO、Y23、La23、Ce23、Pr23、Nb23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dr23、Ho23、Er23、Yb23、PbO、WO3、MoO3、V25、Ta25及びNb25からなる群より選ばれる少なくとも1つをCeO2又はBi23に添加したセリア系セラミック又はビスマス系セラミックも使用できる。更には、骨格成分として、LaGaO3のようなガレート系セラミックも使用できる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用されうる。これらの中でも、骨格成分として、安定化ジルコニア、セリア系セラミック及びランタンガレートが好ましく、安定化ジルコニアがより好ましい。特に好ましいのは、2.5〜12モル%のイットリアで安定化されたジルコニア又は3〜15モル%のスカンジアで安定化されたジルコニアである。
【0032】
特に、アノード基板16が以下のような組成を有するように、アノード基板用スラリーを調製することができる。アノード基板16の骨格成分は、ジルコニアを含む。このジルコニアは、2〜11モル%の希土類金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を安定化剤として含む安定化ジルコニアであって、さらにAl原子を含んでいる。このジルコニアに含まれるAl原子の量は、Zr原子に対するAl原子のモル比(Al/Zr)が0.10〜2.50を満たす範囲内である。
【0033】
例えば、Sc、Y及びCe等の希土類金属の酸化物2.5〜15モル%を安定化剤として含む安定化ジルコニア、及び、Mg及びCa等のアルカリ土類金属の酸化物5〜20モル%を安定化剤として含む安定化ジルコニアが例示される。これらは、必要に応じて2種類以上を併用されることも可能である。これらの安定化ジルコニアの中で特に好ましいのは、3〜6モル%のイットリアで安定化されたジルコニア(YSZ)、及び、3〜6モル%のスカンジアで安定化されたジルコニア(ScSZ)である。
【0034】
この安定化ジルコニアに含まれるAl原子の量は、上記のとおり、Zr原子に対するAl原子のモル比(Al/Zr)が0.10〜2.50となる範囲内であり、好ましくは0.25〜2.00となる範囲内であり、より好ましくは0.50〜1.50となる範囲内である。安定化ジルコニアに添加されるAl原子源としては、アルミナ、水酸化アルミ及び塩化アルミ等が例示できる。例えば、アルミナが添加剤として使用される場合は、骨格成分全体に対してアルミナが5〜40質量%となるように添加されることが好ましく、7.5〜30質量%となるように添加されることがより好ましく、10〜25質量%となるように添加されることがさらに好ましい。
【0035】
特に好ましい例は、アノード基板16に含まれるジルコニアが、20質量%のアルミナが均一に分散された3〜6モル%のイットリアで安定化されたジルコニアである。
【0036】
本実施形態のアノード基板16は、上記のような範囲でアルミナが添加された安定化ジルコニアを含むことにより、セルの高い機械的強度を実現できる。アルミナは、安定化ジルコニア中で均一に分散していることが望ましい。したがって、アルミナが均一に分散された安定化ジルコニア粉末を原料として用い、当該ジルコニウム粉末の焼結体によって、本実施形態のアノード基板16が形成されることが好ましい。なお、アノード基板16においては、骨格成分の5質量%以上が、上記のような範囲でAl原子を含む安定化ジルコニアであることが好ましい。より好ましくは、アノード基板16の骨格成分が、上記のような範囲でAl原子を含む安定化ジルコニアからなることである。骨格成分は、Al原子を含む安定化ジルコニアの他に、Gd、Sm、Y等の希土類元素の酸化物等をドープしたセリア等を含んでいてもよい。
【0037】
導電成分の質量W1と骨格成分の質量W2との比率(W1:W2)は、例えば、3:7〜8:2であり、好ましくは、4:6〜7:3である。「導電成分の質量」は、導電成分が酸化物として存在するときの質量を意味する。
【0038】
アノード基板用スラリーは、空孔形成剤、可塑剤、バインダー及び分散剤などの添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤として、固体酸化物形燃料電池の分野で公知のものを適宜使用できる。これらの添加剤は、後述するアノード活性層用スラリー、固体電解質層用スラリー及びカソード用スラリーに含まれていてもよい。
【0039】
次に、図5のSTEP2に示すように、複数の開口部32hを有する打抜きグリーンシート161(第二セラミックグリーンシート)が得られるように、平板グリーンシート160を所定のパターンで打ち抜く。つまり、平板グリーンシート160から打抜きグリーンシート161を作製することができる。開口部32hは、アノード基板16の窪み部32によって形成される空間部分に対応している。複数の開口部32hは、打抜きグリーンシート161において規則的に配列している。平板グリーンシート160の材料、厚さ、外形の寸法、外形の形状は、打抜きグリーンシート161のそれらと同じである。このようにすれば、材料費及び生産費を節約できる。ただし、平板グリーンシート160の材料及び厚さが、打抜きグリーンシート161のそれらと異なっていてもよい。
【0040】
次に、図5のSTEP3に示すように、平板グリーンシート160と打抜きグリーンシート161とを互いに貼り合わせる。これにより、平板グリーンシート160と打抜きグリーンシート161との積層体162が形成される。平板グリーンシート160と打抜きグリーンシート161との密着性を高めるために、必要に応じて、積層体162をプレス加工してもよい。
【0041】
本実施形態では、打抜きグリーンシート161の厚さが平板グリーンシート160の厚さに等しく、打抜きグリーンシート161の外形の寸法が平板グリーンシート160の外形の寸法に等しい。この場合、打抜きグリーンシート161において開口部32hの占める面積割合が平板グリーンシート160の主面の面積に対して35%以下となるように、開口部32hの数、寸法及び形状を定めることができる。後述するように、開口部32hの割合を35%以下に調整することによって、十分な機械強度を有するアノード基板16を製造できる。
【0042】
なお、焼成時の収縮を厳密に考慮すれば、打抜きグリーンシート161における開口部32hの割合は、アノード基板16における窪み部32の割合に一致しない可能性がある。しかし、本明細書では、これらの割合は、焼成の前後を通じて互いに等しいものとみなす。
【0043】
打抜きグリーンシート161を使用せずに積層体162を形成する方法も採用できる。例えば、複数の平板グリーンシート160を積層することによって平板積層体を形成する。次に、窪み部32となるべき部分が形成されるように、平板積層体の一方の面において、平板積層体の一部を除去する。この除去工程は、レーザー加工又は鋭利な刃で平板積層体の一部を削り取る掘削加工によって実施されうる。場合によっては、積層体170の焼成後において、窪み部32をレーザー加工又は掘削加工によって形成してもよい。
【0044】
次に、図5のSTEP4に示すように、積層体162の上(詳細には、平板グリーンシート160の上)に未焼成アノード活性層180及び未焼成固体電解質層120をこの順番で形成する。これにより、積層体170が得られる。具体的には、スクリーン印刷などの薄膜形成方法によって、積層体162の上にアノード活性層用スラリー及び固体電解質層用スラリーをこの順番で印刷する。必要に応じて、積層体170を乾燥させ、積層体170のプレス加工を行う。その後、積層体170を焼成する。焼成条件は特に限定されず、使用材料に応じて調節される。例えば、焼成温度が1100〜1500℃であり、焼成時間が1〜10時間である。
【0045】
アノード活性層用スラリーとしては、アノード基板用スラリーの組成と概ね同じ組成のものを使用できる。アノード活性層用スラリーの粘度をスクリーン印刷に適した粘度に調節するために、アノード活性層用スラリーの組成は、アノード基板用スラリーの組成と異なっていてもよい。例えば、バインダーの種類、バインダーの量、可塑剤の種類、可塑剤の量、導電成分として用いられる粉末の粒径、及び骨格成分として用いられる粉末の粒径などがアノード活性層用スラリーとアノード基板用スラリーとの間で相違しうる。
【0046】
固体電解質層用スラリーとしては、セラミック材料及び溶媒を含むものを使用できる。固体電解質層12を形成するためのセラミック材料としては、固体酸化物形燃料電池の電解質層の材料として公知のものを使用できる。例えば、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウムなどの酸化物で安定化されたジルコニア;イットリア、サマリア、ガドリニアなどがドープされたセリア;ランタンガレート;ランタンガレートのランタン又はガリウムの一部が他の元素(ストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅など)で置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物を使用することができる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用されうる。これらの中でも、酸化イットリウム、酸化スカンジウム又は酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニアが好適である。
【0047】
特に、3〜10モル%の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4〜12モル%の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、8〜12モル%の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、4〜15モル%の酸化イッテルビウムとで安定化されたジルコニア、8〜12モル%の酸化スカンジウムと0.5〜5モル%の酸化セリウムとで安定化されたジルコニアを好適に使用できる。アルミナ、シリカ、チタニアなどの酸化物を焼結助剤又は分散強化剤として安定化ジルコニアに添加した材料も好適に使用できる。
【0048】
最後に、アノード基板16、アノード活性層18及び固体電解質層12で構成されたハーフセルの固体電解質層12の上にカソード用スラリーをスクリーン印刷などの薄膜形成方法で塗布し、ハーフセルの上に未焼成カソード層を形成する。そして、ハーフセル及び未焼成カソード層で構成された積層体を焼成する。これにより、発電要素24が得られる(STEP5)。
【0049】
カソード用スラリーとしては、セラミック材料及び溶媒を含むものを使用できる。カソード14を形成するためのセラミック材料としては、固体酸化物形燃料電池のカソードの材料として公知のものを使用できる。カソード14を形成するためのセラミック材料としては、電子導電性に優れ、酸化雰囲気下でも安定なペロブスカイト形酸化物が代表的である。具体的には、ランタンマンガナイト、ランタンフェライト及びランタンコバルタイトがカソード材料としてよく知られている。そのようなカソード材料として、La0.8Sr0.2MnO3、La0.6Sr0.4CoO3、La0.6Sr0.4FeO3、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83が挙げられる。また、カソード14に酸素イオン導電性を付与するために、カソード用スラリーを調製するためのセラミック材料には、希土類元素をドープしたセリア又は安定化ジルコニアなどが含まれていてもよい。
【0050】
なお、発電要素24の製造において、焼成工程を実施するタイミング及び焼成工程の実施回数は限定されない。例えば、焼成されたアノード基板16の上にアノード活性層用スラリー及び固体電解質層用スラリーを塗布してもよい。ただし、本実施形態の方法によれば、焼成回数は合計で2回である。1回目の焼成工程において、積層体160(打抜きグリーンシート161及び平板グリーンシート160)、未焼成アノード活性層180及び未焼成固体電解質層120を含む積層体170を焼成する。2回目の焼成工程において、ハーフセル及び未焼成カソード層で構成された積層体を焼成する。このような方法によれば、焼成回数を極力少なくすることによる生産性の向上及び生産費の節約を期待できる。また、カソード14を形成するのに適した温度で2回目の焼成工程を実施できる。複数回の焼成工程を実施するので、各スラリーを塗布する工程で、未焼成アノード層の厚さ、未焼成固体電解質層の厚さ及び未焼成カソード層の厚さを正確に調節できる。
【0051】
上記した方法によれば、2枚のグリーンシート160及び161で構成された積層体162を焼成することによってアノード基板16が製造される。ただし、アノード基板16を形成するために使用されるグリーンシートの数は2枚に限定されない。すなわち、積層体162は、3枚以上の複数のグリーンシートを互いに貼り合わせることによって形成されていてもよい。この場合、少なくとも1つのグリーンシートが平板グリーンシート160で構成されうる。例えば、3枚の平板グリーンシート160を作製し、そのうちの1枚又は2枚を用いて打抜きグリーンシート161を作製する。1枚の打抜きグリーンシート161と2枚の平板グリーンシート160とを貼り合わせて積層体162を形成する場合、窪み部32の厚さは、堤部30の厚さの1/3となる。2枚の打抜きグリーンシート161と1枚の平板グリーンシート160とを貼り合わせて積層体162を形成する場合、窪み部32の厚さは、堤部30の厚さの2/3となる。
【0052】
また、未焼成アノード活性層180及び未焼成固体電解質層120の形成方法はスクリーン印刷に限定されない。例えば、アノード活性層用スラリー及び固体電解質層用スラリーを用い、平板グリーンシート160と同じ方法で、アノードグリーンシート及び固体電解質グリーンシートを作製する。アノードグリーンシート及び固体電解質グリーンシートをこの順番で積層体162の上に積層することによって、積層体170を形成することができる。
【0053】
(変形例)
図2に示すアノード基板16において、窪み部32は、平面視で正方形の形状を有する。しかし、窪み部32の形状は特に限定されない。以下、いくつかの変形例を説明する。
【0054】
図5(a)に示すアノード基板50は、特定の方向に向かって延びる溝状の窪み部42を有している。その他の点は、図2に示すアノード基板16の説明を援用できる。図5(b)に示すアノード基板60は、半球状の空間部分を形成している複数の窪み部44を有する。すなわち、窪み部によって形成される空間部分の形状は特に限定されない。図5(c)に示すアノード基板70は、複数の突起状の堤部40と、窪み部46としての平板部分とによって構成されている。複数の堤部40は、それぞれ、平板部分から突出する形で形成されている。複数の堤部40は、平板部分の上に規則的に配置されている。各堤部40の高さが揃っているので、第一セパレータ20とアノード基板70との接触に支障をきたすおそれもない。堤部40の形状は特に限定されない。円柱状、角柱状、錘状などの各種の凸形状を堤部40に採用できる。このような構造を有するアノード基板70が燃料電池100に使用されていると、第一セパレータ20(図1及び図3参照)の燃料ガス供給溝20aを省略できる可能性がある。すなわち、アノード基板70の側面に窪み部46に由来する空間部分が開口しているので、その空間部分を通じてアノードに燃料ガスを供給することができる。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
導電成分としての酸化ニッケル粉末(正同化学社製、平均粒子径0.7μm、90体積%径1.2μm)60質量部、骨格成分としての3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(第一希元素社製、商品名「HSY−3.0」、平均粒子径0.7μm、90体積%径1.9μm)40質量部、空孔形成剤としてのカーボンブラック(SECカーボン社製、SGP−3、平均粒子径3.3μm、10体積%径1.5μm)10質量部、溶媒としてのトルエン60質量部とエタノール40質量部との混合溶剤、バインダーとしてのブチラール樹脂(積水化学社製、商品名「BM−S」)10質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート(和光純薬工業社製)3質量部、及び、分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部をボールミルにより混合し、スラリーを調製した。スラリーをドクターブレード法でシート状に成形し、得られた成形体を70℃で5時間乾燥させ、厚さ150μm、一辺の長さが65mmの正方形の形状の平板グリーンシートを作製した。
【0056】
次に、打ち抜き機を使用し、平板グリーンシートを図6(a)に示す形状に打ち抜いた。打ち抜いた部分の割合(面積比率)は、21.3%であった。次に、打抜きグリーンシートと平板グリーンシートとを熱プレスで貼り合せた。得られた積層体を1300℃で2時間焼成し、実施例1のアノード基板を得た。実施例1のアノード基板において、堤部の厚さは250μm、窪み部の厚さは125μmであった。
【0057】
(実施例2〜6)
実施例1で作製した平板グリーンシートを図6(b)〜(f)に示す形状に打ち抜いた点を除き、実施例1と同じ方法で実施例2〜6のアノード基板を作製した。実施例2〜6のアノード基板においても、堤部の厚さは250μm、窪み部の厚さは125μmであった。
【0058】
(参照例)
実施例1と同じ方法で作製した2枚の平板グリーンシートを熱プレスで貼り合わせた。得られた積層体を実施例1と同じ条件で焼成し、参照例のアノード基板を得た。
【0059】
[圧縮強度試験]
平滑な表面を有し、互いに平行に保持された2枚のアルミナ板(ニッカトー社製、SSA−S)の間にアノード基板を配置した。材料試験機(インストロン社製、4301型)を使用し、上部アルミナ板に荷重を加え、荷重を徐々に増やし、アノード基板が割れたときの荷重(破壊荷重)をアノード基板の機械強度の目安として記録した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すように、窪み部の割合が14.8%〜32.8%の実施例1〜4の破壊荷重は3.0kN〜3.2kNであり、参照例の破壊荷重(3.3kN)に概ね等しかった。すなわち、従来と同等の強度を有するアノード基板(単位重量あたりの強度が高い基板)を少ない材料で製造できた。
【符号の説明】
【0062】
10 アノード
12 固体電解質層
14 カソード
16,50,60,70 アノード基板
16p 第一主面
16q 第二主面
18 アノード活性層
20 第一セパレータ
20a 燃料ガス供給溝
22 第二セパレータ
22a 酸化剤ガス供給溝
24 発電要素
30,40 堤部
32,42,44,46 窪み部
100 固体酸化物形燃料電池
160 平板グリーンシート(第一セラミックグリーンシート)
161 打抜きグリーンシート(第二セラミックグリーンシート)
162 積層体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池の固体電解質層を支持するためのアノード基板であって、
第一主面と、
起伏のある第二主面と、
前記燃料電池のセパレータに接するべき堤部と、
前記堤部よりも薄肉に形成された窪み部と、を備え、
当該アノード基板は全体として平板の形状を有し、
前記堤部の表面と前記窪み部の表面とが同一平面上に存在することによって前記第一主面が形成されており、
前記第二主面の起伏が、前記堤部と前記窪み部との間の厚さの相違に起因して形成されている、アノード基板。
【請求項2】
前記第二主面の起伏が規則的なパターンを示している、請求項1に記載のアノード基板。
【請求項3】
前記堤部が、当該アノード基板の外縁に沿って形成された枠状部分を含む、請求項1又は2に記載のアノード基板。
【請求項4】
前記堤部の厚さをD、前記窪み部の厚さをdとしたとき、0.3D<d<Dの関係を満たすように前記窪み部の厚さdが調節されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアノード基板。
【請求項5】
当該アノード基板において前記窪み部の占める割合が、前記第二主面を平面視したときに観察される表面積に換算して35%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアノード基板。
【請求項6】
当該アノード基板が、酸化ニッケル及びジルコニアを含む多孔質セラミックで作られている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアノード基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアノード基板と、
カソードと、
前記アノード基板と前記カソードの間に配置された固体電解質層と、
を備えた、固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
前記アノード基板に燃料ガスを供給するように構成された第一セパレータと、
前記カソードに酸化剤ガスを供給するように構成された第二セパレータと、
をさらに備え、
前記第一セパレータには、前記アノード基板に前記燃料ガスを供給するための燃料ガス供給溝が形成されており、
前記第一セパレータが前記アノード基板の前記堤部に面接触しており、
前記燃料ガス供給溝から前記アノード基板の前記窪み部に前記燃料ガスが導かれるように、前記燃料ガス供給溝と前記窪み部とが連通している、請求項7に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項9】
固体酸化物形燃料電池の固体電解質層を支持するためのアノード基板を製造するための方法であって、
平板状の第一セラミックグリーンシートを準備する工程と、
開口部を有する第二セラミックグリーンシートを準備する工程と、
前記第一セラミックグリーンと前記第二セラミックグリーンシートとの積層体が形成されるように、前記第一セラミックグリーンシートと前記第二セラミックグリーンシートとを互いに貼りあわせる工程と、
前記積層体を焼成する工程と、
を含む、アノード基板の製造方法。






【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−77395(P2013−77395A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215395(P2011−215395)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】