説明

アブラナ科植物病害の防除剤及び防除方法

【課題】アブラナ科植物病害に対して、安定かつ高い防除効果を有し、環境汚染の少ないアブラナ科植物病害の防除剤及び防除方法を提供する。
【解決手段】アブラナ科植物病害の防除剤は、シュードモナス・フルオレセンスG7090と、非病原性エルビニア・カロトボーラ・サブスピ・カロトボーラとを有効成分として含むものである。当該防除剤、並びに当該病害の防除方法を用いれば、アブラナ科植物に対しての発病を、従来と比べてどの病原菌に起因する場合でも強く抑制することができる。また、この2つの菌を組み合わせることで、現在使用されている化学薬剤のみならず、それぞれの菌株と比べて格段に高い防除効果を奏する。更に、薬害の心配がなく、収穫直前まで使用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュードモナス フルオレセンス G7090(Pseudomonas fluorescens G7090)及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ(Erwinia carotovora subsp. carotovora)を有効成分とする、アブラナ科植物病害の防除剤、並びに当該病害の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ、シュードモナス・マージナリス、シュードモナス・ビリデフラバは、アブラナ科植物をはじめ、多くの植物に腐敗症状を引き起こす植物病原菌である。これらの植物病原菌による病害の発生は気象条件に大きく影響され、栽培時期や気温、圃場により腐敗症状の発生要因となる病原菌が異なる。また、これらの病原菌は圃場に混在していることも多く、腐敗症状の発生要因となる病原菌が単独種とは限らない。
【0003】
例えば、アブラナ科植物であるブロッコリーの花蕾部位に腐敗症状が現れる花蕾腐敗病は、エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ、シュードモナス・マージナリス、シュードモナス・ビリデフラバにより引き起こされる細菌性病害である。花蕾腐敗病は、花蕾部位が直接被害を受けるため、収穫物が得られなくなり、経済的な被害が大きい病害である。なお、被害植物から病原菌を分離すると、エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラのみが分離される場合や、シュードモナス・マージナリスのみが分離される場合、シュードモナス・ビリデフラバのみが分離される場合もあるが、各菌混在して分離される場合もある。
【0004】
これらの病害防除には、以前より銅水和剤などの化学薬剤が使用されてきた。しかし、これらの化学薬剤は薬害が発生する懸念があり、出蕾開始以降は使用が困難である。また、環境上の問題や使用者及び近隣住民への安全性の問題、さらに近年の消費者の減農薬・無農薬志向に合致しないというような問題がある。
【0005】
そこで近年、微生物を有効成分とした防除剤が開発されてきており、本発明に関連する報告例として、シュードモナス フルオレセンス G7090に属する細菌を用いた生物防除方法としては、レタス等に対する腐敗病(特許文献1)、キャベツに対する黒腐病(非特許文献1)、ブロッコリーに対する黒腐病(非特許文献2)、ブロッコリーに対する花蕾腐敗病(非特許文献3)、トマト等ナス科植物に対するかいよう病(特許文献2)等、これら植物病害の防除方法などが報告されている。
【0006】
一方、本発明における関連技術として、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラに属する細菌を用いた生物防除方法としては、ハクサイ、キャベツ等に対する軟腐病(特許文献3)、キャベツ、ダイコン、ブロッコリー、ハクサイ等に対する黒腐病(特許文献4)、さらに、イネ苗立枯細菌病(特許文献5)等、これら植物病害の防除方法などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−247423号公報
【特許文献2】特開2009−040742号公報
【特許文献3】特公平6−38746号公報
【特許文献4】特開平6−305927号公報
【特許文献5】特開平6−087716号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本植物病理学会報、2004年、70巻、239−240頁
【非特許文献2】ALPS(地域農業発展支援システム)ネットホームページ(長野県農政部農業技術課主管)、新しく普及に移す農業技術、平成21年度(2009年度)第1回(発表年月2009年11月)、病害虫部門No.12(http://www.alps.pref.nagano.lg.jp/hukyu/09-1/091h12.pdf)
【非特許文献3】ALPS(地域農業発展支援システム)ネットホームページ(長野県農政部農業技術課主管)、新しく普及に移す農業技術、平成21年度(2009年度)第1回(発表年月2009年11月)、病害虫部門No.11(http://www.alps.pref.nagano.lg.jp/hukyu/09-1/091h11.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、アブラナ科植物病害に対して、安定かつ高い防除効果を有し、更には環境汚染がなく、収穫直前まで使用できるアブラナ科植物病害の防除剤及び防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アブラナ科植物病害に対し、シュードモナス フルオレセンス G7090と、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとを有効成分として含む防除剤であれば、安定かつ高い防除効果を有し、環境汚染も低減されたアブラナ科植物病害の防除剤となることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]〜[発明8]に記載する方法を提供する。
【0012】
[発明1]
シュードモナス フルオレセンス G7090(Pseudomonas fluorescens G7090)と、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ(Erwinia carotovora subsp. carotovora)とを有効成分として含むことを特徴とする、アブラナ科植物病害の防除剤。
【0013】
[発明2]
非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラが、CGE6M14、CGE6M16、CGE10M2、CGE11M5、及びCGE234M403からなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明1に記載の防除剤。
【0014】
[発明3]
前記防除剤中のシュードモナス フルオレセンス G7090及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラの菌濃度が、それぞれ104 CFU/ml〜1011 CFU/mlの範囲内である、発明1又は2に記載の防除剤。
【0015】
[発明4]
アブラナ科植物病害が、エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ(Erwinia carotovora subsp. carotovora)、シュードモナス・マージナリス(Pseudomonas marginalis)、及びシュードモナス・ビリデフラバ(Pseudomonas viridiflava)からなる群より選ばれる少なくとも1種の病原菌により発症する病害である、発明1乃至3の何れかに記載の防除剤。
【0016】
[発明5]
アブラナ科植物病害が、腐敗病、花蕾腐敗病、軟腐病、黒腐病、褐条細菌病、及び黒斑細菌病からなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明1乃至4の何れかに記載の防除剤。
【0017】
[発明6]
アブラナ科植物がハクサイ、キャベツ、ダイコン、カリフラワー、ブロッコリー、チンゲンサイ、及びコマツナからなる群より選ばれる少なくとも1種ある、発明1乃至5の何れかに記載の防除剤。
【0018】
[発明7]
発明1乃至6の何れかに記載の防除剤を、アブラナ科植物に接触させることを特徴とする、アブラナ科植物病害の防除方法。
【0019】
[発明8]
アブラナ科植物がハクサイ、キャベツ、ダイコン、カリフラワー、ブロッコリー、チンゲンサイ、及びコマツナからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明7又は8に記載の方法。
【0020】
非特許文献2に記載のシュードモナス フルオレセンス G7090は、これ自身を用いた方法がシュードモナス・ビリデフラバ、もしくはシュードモナス・マージナリスが病原菌であるアブラナ科植物病害(腐敗病など)に対して常に高い防除効果を持つことは良く知られているが、これらの病原菌に別途、エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラを混在させた環境下においては、シュードモナス フルオレセンス G7090を単独で生物防除を行った場合、防除効果が減少することがあった(後述の実施例参照)。
【0021】
一方、特許文献3に記載のエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ (Erwinia carotovora subsp. carotovora)CGE234M403菌株についても、これ自身、病原菌がエルビニア・カロトボーラ細菌であるアブラナ科植物病害に対して非常に防除効果が高いことも知られている。しかしながら、当該菌に対し、別途、シュードモナス・ビリデフラバ、もしくはシュードモナス・マージナリス等の他の病原菌を混在させた環境下では、エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403菌株を単独で生物防除を行っても防除効果が減少することがあった(後述の実施例参照)。
【0022】
更に、非特許文献3において、「ベジキーパー水和剤(シュードモナス フルオレセンス G7090を水和剤として製品化したもの)はE.carotovora(エルビニア・カロトボーラ)による病害に対する活性は低いため、同菌の感染による花雷腐敗(いわゆる軟腐病)には効果が低い。」との記載や、後述の実施例の結果を参酌すれば、複数の病原菌が混在している条件下においても、はたして高い防除効果を発揮できる防除剤を見出すことができるかどうか、不明であった。
【0023】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、シュードモナス フルオレセンス G7090と非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとを組み合わせることで、格段に防除効果が向上し、病原菌によらず高い防除効果が安定して得られるという、驚くべき知見を得た。さらに、混合剤を用いることで、各々単独の処理の場合と比べて、低い濃度であっても安定して高い防除効果があることもわかった。
【0024】
本発明では混合剤を用いることで、特異的な向上、すなわち、単に2つの菌を混合したときに予想される効果を超える相乗効果があることがわかった。メカニズムについては、シュードモナス フルオレセンス G7090は植物への定着の競合、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラは植物への定着の競合及び抵抗性付与が推測される。
【0025】
なお、本発明者らは、複数の病害が混在している土壌において、本発明の防除剤を適用することで、複数の病害を高い防除効果で一度に防除できるという、大変実用的な知見も得た。
【発明の効果】
【0026】
本発明におけるアブラナ科植物病害の防除剤または防除方法を用いれば、アブラナ科植物に対しての発病を、従来と比べてどの病原菌に起因する場合でも強く抑制することができる。また、この2つの菌を組み合わせることで、現在使用されている化学薬剤のみならず、それぞれの菌株と比べて格段に高い防除効果を奏する。また、薬害の心配がなく、収穫直前まで使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明の対象は、シュードモナス フルオレセンス G7090と非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとを有効成分として含むことを特徴とする、アブラナ科植物病害の防除剤、及びそれを用いたアブラナ科植物病害の防除方法である。
【0029】
まず、それぞれの細菌及び菌株について、シュードモナス フルオレセンス G7090について説明する。
【0030】
シュードモナス フルオレセンスは、アブラナ科植物を始めとした広範な植物が罹病する病害(腐敗病、黒腐病、斑点細菌病など)を防除する細菌である。
【0031】
中でも、シュードモナス フルオレセンス G7090は、レタス植物体の中から病原菌シュードモナス・チコリ(Pseudomonas cichorii)に対して抗菌性のある細菌を探索した結果、得られた菌株である。該菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、以下の通りの受託番号(FERM P-17763)を得て、特許文献1に開示されている。
【0032】
シュードモナス フルオレセンス G7090(Pseudomonas fluorescens G7090):FERM P-17763
次に、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラについて説明する。非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラは、ハクサイなどのアブラナ科植物を始めとした広範な植物が罹病する病害(軟腐病)を防除する細菌である。
【0033】
中でも、以下に示す5つの菌株が、軟腐病の防除に特に有効であることを見出し、該当菌株を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託することで以下の通りの受託番号(FERM P-10998、FERM P-10999、FERM P-11000、FERM P-11001、FERM BP-4328)を得て、特許文献3に開示されている。
【0034】
エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE6M14:FERM P-10998
エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE6M16:FERM P-10999
エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE10M2:FERM P-11000
エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE11M5:FERM P-11001
エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403:FERM BP-4328
本発明者らは、本発明の対象とするアブラナ科植物病害の防除の為のエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとして、これら5つの菌株が優れていることを見出した。
【0035】
これらの細菌の中でも、エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403(FERM BP-4328)が、アブラナ科植物病害に対し、前述のシュードモナス フルオレセンス G7090(FERM P-17763)と組み合わせることで、安定かつ高い防除効果が得られる知見を見出したことから、特に好ましく用いられる。
【0036】
本菌はハクサイ等のアブラナ科植物の細菌性病害である軟腐病に対しても、防除能を有する。多くの軟腐病菌株に対し、抗菌能を示すバクテリオシンを成分分泌する菌株として選抜したCGE234菌株を変異処理することによって、非病原性菌株を得ている。
【0037】
本菌はアブラナ科植物の根、茎、葉への定着性が特によい。
【0038】
本発明における、シュードモナス フルオレセンス G7090と非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとを有効成分として含む防除剤の、植物病害の対象とされる植物は、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、カリフラワー、ブロッコリー、チンゲンサイ、コマツナ等のアブラナ科植物であるが、これらに限定されない。また、対象とするアブラナ科植物病害としては、腐敗病、花蕾腐敗病、軟腐病、黒腐病であるが、これ以外にも、褐条細菌病、黒斑細菌病なども対象病害であり、これらに限定されない。
【0039】
次に、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラの菌の培養方法、固定化、製剤化、防除方法、並びに調製方法は、慣用の手法で行うことができるが、以下に具体例をもって説明する。
まず、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラの培養方法について説明する。培養方法については特に制限はなく、これら2つの細菌を、それぞれ別々に培養してもよいが、2つの細菌を混合させた後に、培養することもできる。しかしながら、これら2つの細菌をそれぞれ別々に培養する方が、当業者の適宜上、取り扱いが容易なことから、特に好ましい。
【0040】
次に、培養の際に用いる培地について説明する。ここでは、2つの細菌を別々に培養する際の培地に関してだが、特に制限はなく、2つの細菌を混合させた場合でも同様に実施することができる。
【0041】
培地としては、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラが増殖するものであれば特に限定するものではない。
【0042】
生育に可能な炭素源、窒素源、無機物を適当に含有している培地であれば、天然培地、合成培地のいずれも用いることができる。培地としては802培地、ブイヨン培地、キングB培地、PS培地、PDB培地などが例示できる。以上のような培地で15〜42℃、好ましくは28℃〜35℃で、10〜35時間培養し増殖させたのち、遠心分離機もしくは膜濃縮機により濃縮して集菌を行い、培地成分を取り除く。この操作によりそれぞれの菌体の濃度は通常1〜50×1010 CFU/ml程度に濃縮される。次いで、湿菌体に糖類とグルタミン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液からなる保護剤を加え、真空乾燥するものである。真空乾燥する前に保護剤と混合した菌体を予備凍結し、凍結したまま真空乾燥することが菌の生存率を維持するためには好ましい。なお、保護剤は水溶液の状態で菌体と混合してもよく、固体のまま混合してもよい。
【0043】
次に、固定化について説明する。固定化とは、前述の培養した菌に対し、保護剤を加えて真空乾燥する操作を言う。固定化についても特に制限はなく、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラを、それぞれ別々に固定化してもよく、それぞれを混合させて固定化することもできる。
【0044】
固定化の際に用いる保護剤としては、サッカロース、フルクトース、グルコース及びソルビトールの一種または二種以上からなる糖類を用い、菌体と混合し、真空乾燥もしくは凍結真空などの方法で乾燥することによって行うことができる。
【0045】
次に、製剤化について説明する。製剤化とは、前述の固定化した培養菌体に対し、担体を混合して製剤にする操作を言う。
【0046】
本発明の、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラは、培養後の生菌をそのまま使用しても良いが、菌体を上述した固定化後に固体(粉剤、粒剤もしくは水和剤)又は液体の担体と混合し、製剤として調製することができる。液体の担体と混合した場合は、菌体懸濁液として製剤化する態様も含まれる。
【0047】
製剤の調製方法としては、2つの細菌を、それぞれ別々に製剤にしてもよく、それぞれを混合させた後に製剤にしてもよい。しかしながら、これら2つの細菌をそれぞれ別々に製剤にした方が、前述の培養方法同様、便宜上、取り扱いが容易なことから、特に好ましい。すなわち、本発明の防除剤の態様としては、有効成分であるシュードモナス フルオレセンス G7090と非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとは、それぞれ予め混合した状態(混合物)で含まれていてもよいし、使用時まで混合せず別々に含まれていてもよく、限定はされない。
【0048】
製剤の調製の際に用いる担体としては、タルク、クレー、炭酸カルシウム、ケイソウ土等の鉱物性粉末や、ピートモス、さらには、ポリビニルアルコールなどの高分子化合物、ザンサンゴムやアルギン酸などの天然高分子化合物などがある。
【0049】
次に、シュードモナス フルオレセンス G7090と非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとを用いたアブラナ科植物病害の防除方法について説明する。
【0050】
本発明に係るアブラナ科植物病害の防除方法は、上述した本発明の防除剤、すなわちシュードモナス フルオレセンス G7090と非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとを有効成分として含む防除剤を用いることを特徴とする方法であるが、具体的には、本発明の防除剤を、対象とするアブラナ科植物に接触させる方法であれば特に制限はなく、例えば、本発明の防除剤を、当該植物に直接塗布又は散布する方法、葉や茎に接種する方法が挙げられる。例えば、上記2つの細菌をそのまま水に希釈し(菌体懸濁液)散布させて使用してもよいし、上記2つの細菌を、前述した固体または液体の担体を用いて製剤にした後に、水に希釈し(菌体懸濁液の態様も含む)散布させて使用してもよい。
【0051】
また、前記接触の方法としては、植物を栽培している土壌に接触させる方法、例えば、本発明の防除剤をアブラナ科植物の栽培土壌に混和させる方法で処理することもでき、当業者が適宜調整することができる。
【0052】
例えば、後述する実施例に示すように、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403をそれぞれ培養し、遠心分離により得られた供試菌に対して水を加えて菌体懸濁液(菌体混合物)を調製した後、当該懸濁液をブロッコリーの花蕾へ噴霧する方法は好ましい態様の一つである。
【0053】
次に、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラの2つの細菌を固体または液体の担体を用いて製剤にした際の防除方法については、両細菌それぞれを別々に固体または液体の担体を用いて製剤にした後、2つの製剤を混合して水に希釈して散布させるか、2つの細菌を先に混合させて、その混合した細菌を固体または液体の担体を用いて製剤にした後に、水に希釈して散布させることで使用できる。
【0054】
本発明では、これら2つの細菌を、それぞれ別々に固体または液体の担体を用いて製剤にした後に、2つの製剤を混合して水に希釈し(菌体混合物)散布させて使用することが好ましい。
【0055】
次に、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラの2つの細菌の濃度の調整方法について説明する。
【0056】
まず、2つの細菌をそのまま水に希釈して植物体に散布する場合、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラのそれぞれの濃度を、後述する濃度範囲になるように水に希釈させて、その後、植物体に散布する。
【0057】
一方、2つの細菌を固体または液体の担体を用いて製剤にした場合は、後述する濃度範囲になるように製剤を加えて調製した後に、水に希釈して植物体に散布する。
【0058】
次に、2つの細菌における具体的な菌濃度について説明する。
【0059】
シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラの2つの細菌をそのまま水に希釈して散布する場合、菌濃度は、それぞれの細菌について、通常104 CFU/ml〜1011 CFU/mlの範囲内に調整すると良いが、好ましくは105 CFU/ml〜1010 CFU/ml、より好ましくは105 CFU/ml〜109 CFU/mlである。
【0060】
一方、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラを、前述した固体(粉剤または粒剤、水和剤)、または液体の担体を用いて製剤にした後に、水に希釈して散布することもできる。固体の担体として粉剤または粒剤を用いて得られた製剤の場合、菌濃度は、それぞれの細菌について、通常104 CFU/ml〜1011 CFU/mlの範囲内に調整すると良いが、好ましくは105 CFU/ml〜1010 CFU/ml、より好ましくは105 CFU/ml〜109 CFU/mlである。また、固体の担体として水和剤を用いて得られた製剤の場合、通常106 CFU/ml〜1012 CFU/mlの範囲内に調整すると良いが、好ましくは10 CFU/ml〜1011 CFU/ml、より好ましくは108 CFU/ml〜1011 CFU/mlである。
【0061】
なお、液体の担体を用いて得られた製剤を水に希釈して散布する場合に関しては、上記の固体の担体(粉剤または粒剤)を用いて得られた製剤と同様の濃度範囲にて調製できる。
【0062】
次に、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラの各菌体の混合比率(重量比)については、特に限定はないが、通常シュードモナス フルオレセンス G7090:非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ=1〜100:1〜100であるが、好ましくは1〜50:1〜50、より好ましくは1〜10:1〜10の比率で、アブラナ科植物病害の防除を好適に行うことができる。
【0063】
このように、本発明では、シュードモナス フルオレセンス G7090と非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとを共にを有効成分として含む防除剤を用いることにより、アブラナ科植物の病害を引き起こす病原菌によらず、高い防除効果を発揮することができる。
【0064】
なお、本発明の防除剤は、アブラナ科植物が罹病する病害を防除できるが、本発明者らは、複数の病害が混在している土壌において、本発明の防除剤を適用することで、複数の病害を安定かつ高い防除効果で一度に防除できるという、大変実用的な知見を得た。
【0065】
従来公知の防除剤は、一般的に、複数の病害が土壌に罹病している条件下では、一つの対象病害に対し、一つの菌のみが防除効果を有していた。例えば、特許文献1では、シュードモナス フルオレセンス G7090菌株がレタス腐敗病に対して防除効果があること、また、特許文献3では、エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラに属する細菌がハクサイ等の軟腐病に対して防除効果があること等、対象病害が単一のものに限られていた。
【0066】
一方、後述する実施例に示すように、シュードモナス フルオレセンス G7090、及びエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラをそれぞれ単独で用いた場合は、それ自体幾分かの防除効果を有するが、複数の病原菌が混在している条件下では防除効果が低い傾向があった。
【0067】
しかしながら、本発明者らは、シュードモナス フルオレセンス G7090とエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラとを共に有効成分とする本発明の防除剤を、アブラナ科植物病害である軟腐病、褐条細菌病、及び腐敗病が罹病している条件下で施用することで、各種病害を一度に安定かつ高い防除効果で防除できるという、大変実用的かつ効率的な知見を得た。また、甚発生条件下でも高い防除効果が得られることから、このことは本発明における特に好ましい態様の一つとして挙げることができる。
【0068】
[実施例]
次に実施例を示すが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0069】
なお、実施例に用いた培地の組成を次に示す。
【0070】
ブイヨン培地: 肉エキス 3 g、ペプトン 1 0 g、N a C l 1 5 g、水 1L 、p H 7 . 0
なお、後述する実施例において、病原菌として用いるエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラNBRC12380(Erwinia carotovora subsp. carotovora)、シュードモナス・ビリデフラバMAFF302978(Pseudomonas viridiflava)、及びシュードモナス・マージナリスMAFF311038(Pseudomonas marginalis)は、一般に市販されているものであり、当業者が容易に入手できる。
【実施例1】
【0071】
<ブロッコリー花蕾腐敗病に対する防除効果(植物切片)>
シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403を、それぞれ別々にブイヨン液体培地で24時間培養した。得られたそれぞれの培養液を遠心分離により、上層を分離した後、下層に沈んでいる供試菌に水を加えて、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の菌濃度が、それぞれ1×108 CFU/mlになるように懸濁液を調製した。
【0072】
上記とは別に、病原菌であるエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラNBRC12380(Erwinia carotovora subsp. carotovora)、シュードモナス・ビリデフラバMAFF302978(Pseudomonas viridiflava)、シュードモナス・マージナリスMAFF311038(Pseudomonas marginalis)を同様に培養し、それぞれ3.3×106 CFU/mlになるように調製した。
【0073】
上記供試菌と上記病原菌すべてを混合した溶液に市販ブロッコリーの花蕾を5秒間浸漬し、30℃高湿条件下に24時間、及び48時間静置した。
【0074】
結果を表1に示す。なお、対照として、病原菌単独区として病原菌のみを混合した溶液(「病原菌単独」)、シュードモナス フルオレセンス G7090と病原菌の混合溶液(「G7090」)、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403と病原菌の混合溶液(「CGE234M403」)を用いた。発病程度は以下の発病指数を用いて、発病度及び防除価を算出し、評価した。
【0075】
発病指数0:発病が認められない、1:花蕾にわずかに発病が認められる、2:花蕾の1/2程度まで発病がおよぶ、3:花蕾全体に発病がおよぶ。
【0076】
発病度=100×{Σ(指数の値)×(各指数に該当する個体数)}÷{3×(調査個体数)}
防除価=100×{(無処理区での発病度)−(処理区での発病度)}÷(無処理区での発病度)
ブロッコリーの花蕾の検定において、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の混合液(「G7090+CGE234M403」)は、シュードモナス フルオレセンス G7090のみ、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403のみと比べて高い防除価が得られた。
【表1】

【実施例2】
【0077】
<ブロッコリー花蕾腐敗病に対する防除効果(植物切片)>
シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403、それぞれ別々にブイヨン液体培地で24時間培養した。得られたそれぞれの培養液を遠心分離により、上層を分離した後、下層に沈んでいる供試菌に水を加えて、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の菌濃度をそれぞれ1×108 CFU/mlになるように懸濁液を調製した。
【0078】
これを市販ブロッコリーの花蕾に十分量噴霧し、表面が軽く乾燥するまで1時間静置した。
【0079】
なお、対照として、病原菌単独(後述の病原菌懸濁液のみ浸漬処理)、シュードモナス フルオレセンス G7090のみ、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403のみ、化学薬剤(Zボルドー500倍希釈液)を同様に処理した。
【0080】
一方、上記とは別に、病原菌であるエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラNBRC12380、シュードモナス・ビリデフラバMAFF302978、シュードモナス・マージナリスMAFF311038を同様に培養し、それぞれ3.3×106 CFU/mlになるように調製した。
【0081】
次に、上記病原菌の懸濁液に前述のブロッコリー花蕾を5秒間浸漬した後、30℃高湿条件下に24時間、及び48時間静置した。発病調査を実施した結果を表2に示す。発病程度は実施例1と同様に、発病度及び防除価を算出し、評価した。
【0082】
ブロッコリーの花蕾の検定において、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の混合液(「G7090+CGE234M403」)は、シュードモナス フルオレセンス G7090のみ(「G7090」)、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403(「CGE234M403」)のみと比べて高い防除価が得られた。
【表2】

【実施例3】
【0083】
<ブロッコリー花蕾腐敗病に対する防除効果(ポット試験)>
シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403、それぞれ別々にブイヨン液体培地で24時間培養した。得られたそれぞれの培養液を遠心分離により、上層を分離した後、下層に沈んでいる供試菌に保護剤を添加して凍結乾燥した。凍結乾燥後、粉砕し鉱物性粉末を加えて、シュードモナス フルオレセンス G7090の菌濃度が1×1010 CFU/g、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の菌濃度が5×1010 CFU/gになるように調製した製剤を作成した。
【0084】
これらの製剤を混合した後、1000倍希釈し、この希釈液を花蕾形成初期まで栽培したブロッコリー(品種:緑積)に十分量噴霧した。
【0085】
なお、対照として、病原菌単独(後述の病原菌懸濁液のみ噴霧処理)、菌濃度が1×1010 CFU/g、または0.5×1010 CFU/gになるように調製して作成したシュードモナス フルオレセンス G7090の製剤を1000倍希釈した液、菌濃度が5×1010 CFU/g、または2.5×1010 CFU/gになるように調製して作成した非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の製剤を1000倍希釈した液、化学薬剤(Zボルドー500倍希釈液)を用いた。
【0086】
翌日、病原菌であるエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ NBRC12380、シュードモナス・ビリデフラバ MAFF302978、シュードモナス・マージナリス MAFF311038をそれぞれ1×107 CFU/mlの濃度で十分量噴霧した。1週間後、発病程度を調査し、防除効果の判定を行った。発病程度は実施例1と同様に、発病度及び防除価を算出し、評価した。
【0087】
一方、2種類の製剤を混合して処理した際に期待される防除効果(期待値「E」)を、下記のコルビーの式(出典:Colby,「Calculating synergistic and antagonistic responses of herbicide combinations」、Weeds、vol.15、p.20-22、1967.)により算出し、相乗効果の有無の判定に用いた。この結果も併せて表3に示す。
【0088】
E=X+Y−(XY/100)
E:シュードモナス フルオレセンス G7090の製剤(菌濃度1.0×1010 CFU/g)と非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の製剤(菌濃度5.0×1010 CFU/g)を混合し1000倍希釈して処理した際に期待される防除効果(期待値E)
X:シュードモナス フルオレセンス G7090の製剤(菌濃度0.5×1010 CFU/g)を1000倍希釈して処理した際の防除効果(防除価)
Y:非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の製剤(菌濃度2.5×1010 CFU/g)を1000倍希釈して処理した際の防除効果(防除価)
シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403を混合した製剤を用いた場合、シュードモナス フルオレセンス G7090のみ、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403のみ、そして化学薬剤と比べ、高い防除価が得られた。
【0089】
なお、上記式で算出した期待値「E」と当該実施例とを比べた場合、2種類の製剤を混合して処理した実際の防除価が期待値Eを上回れば、混合による相乗効果を示すことになる。
【0090】
シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403を混合した製剤を用いた場合、その防除価は期待値よりも高く、混合による相乗効果が確認された。
【表3】

【実施例4】
【0091】
<ハクサイ軟腐病、褐条細菌病、腐敗病に対する防除効果(植物切片)>
シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403を、それぞれ別々にブイヨン液体培地で24時間培養した。得られたそれぞれの培養液を遠心分離により上層を分離した後、シュードモナス フルオレセンス G7090を加えて、シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の菌濃度を、それぞれ1×108 CFU/mlになるように懸濁液を調製した。
【0092】
上記とは別に病原菌であるエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラNBRC12380、シュードモナス・ビリデフラバMAFF302978、シュードモナス・マージナリスMAFF311038を同様に培養し、それぞれ3.3×106 CFU/mlになるように調製した。
【0093】
次に、上記懸濁液と上記病原菌をすべて混合して溶液を調製し、当該溶液10μlを市販ハクサイの切片の中肋部に針で接種し、30℃高湿条件下に24時間及び48時間静置した。
【0094】
なお、対照として、病原菌単独区として病原菌のみを混合した溶液を用いた。また、シュードモナス フルオレセンス G7090と病原菌の混合溶液、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403と病原菌の混合溶液を用いた。
【0095】
発病程度は以下の発病指数を用いて、発病度及び防除価を算出し、評価した。
【0096】
発病指数0:発病が認められない、1:接種部にわずかに発病が認められる、2:切片の1/4程度まで発病がおよぶ、3:切片の1/2程度まで発病がおよぶ、4:切片全体に発病がおよぶ。
【0097】
発病度=100×{Σ(指数の値)×(各指数に該当する個体数)}÷{4×(調査個体数)}
防除価=100×{(無処理区での発病度)−(処理区での発病度)}÷(無処理区での発病度)
結果を表4に示す。シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403を混合して用いた場合、シュードモナス フルオレセンス G7090のみ、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403のみと比べ、高い防除価が得られた。
【表4】

【実施例5】
【0098】
<ハクサイ軟腐病、褐条細菌病、腐敗病に対する防除効果(ポット試験)>
シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403、それぞれ別々にブイヨン液体培地で24時間培養した。得られたそれぞれの培養液を遠心分離により、上層を分離した後、下層に沈んでいる供試菌に保護剤を添加して凍結乾燥した。凍結乾燥後、粉砕し鉱物性粉末を加えて、シュードモナス フルオレセンス G7090の菌濃度が1×1010 CFU/g、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の菌濃度が5×1010 CFU/gになるように調製した製剤を作成した。これらの製剤を混合した後1000倍希釈し、この希釈液を、3〜4葉期まで栽培したハクサイ(品種:新理想)に十分量噴霧した。
【0099】
なお、対照として、病原菌単独(後述の病原菌懸濁液のみ噴霧処理)、菌濃度が1×1010 CFU/g、または0.5×1010 CFU/gになるように調製して作成したシュードモナス フルオレセンス G7090の製剤を1000倍希釈した液、菌濃度が5×1010 CFU/g、または2.5×1010 CFU/gになるように調製して作成した非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403の製剤を1000倍希釈した液、化学薬剤(スターナ水和剤1000倍希釈液)を用いた。
【0100】
翌日、病原菌であるエルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ NBRC12380、シュードモナス・ビリデフラバ MAFF302978、シュードモナス・マージナリス MAFF311038をそれぞれ1×107 CFU/mlの濃度で十分量噴霧した。
【0101】
1週間後に発病程度を調査し、防除効果の判定を行った。発病程度は実施例4と同様に、発病度及び防除価を算出し、評価した。また、実施例3と同様に、2種類の製剤を混合して処理した際に期待される防除効果(期待値E)をコルビーの式により算出し、相乗効果の有無の判定に用いた。
【0102】
その結果を表5に示す。シュードモナス フルオレセンス G7090、及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403を混合した製剤を用いた場合、シュードモナス フルオレセンス G7090のみ、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403のみ、化学薬剤と比べ、高い防除価が得られた。また、その防除価は期待値よりも高く、混合による相乗効果が確認された。
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明における防除剤の使用は環境汚染を引き起こすことはなく、市場において安定な状態で流通させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードモナス フルオレセンス G7090(Pseudomonas fluorescens G7090)と、非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ(Erwinia carotovora subsp. carotovora)とを有効成分として含むことを特徴とする、アブラナ科植物病害の防除剤。
【請求項2】
非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラが、CGE6M14、CGE6M16、CGE10M2、CGE11M5、及びCGE234M403からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の防除剤。
【請求項3】
前記防除剤中のシュードモナス フルオレセンス G7090及び非病原性エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラの菌濃度が、それぞれ104 CFU/ml〜1011 CFU/mlの範囲内である、請求項1又は2に記載の防除剤。
【請求項4】
アブラナ科植物病害が、エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ(Erwinia carotovora subsp. carotovora)、シュードモナス・マージナリス(Pseudomonas marginalis)、及びシュードモナス・ビリデフラバ(Pseudomonas viridiflava)からなる群より選ばれる少なくとも1種の病原菌により発症する病害である、請求項1乃至3の何れかに記載の防除剤。
【請求項5】
アブラナ科植物病害が、腐敗病、花蕾腐敗病、軟腐病、黒腐病、褐条細菌病、及び黒斑細菌病からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至4の何れかに記載の防除剤。
【請求項6】
アブラナ科植物がハクサイ、キャベツ、ダイコン、カリフラワー、ブロッコリー、チンゲンサイ、及びコマツナからなる群より選ばれる少なくとも1種ある、請求項1乃至5の何れかに記載の防除剤。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の防除剤を、アブラナ科植物に接触させることを特徴とする、アブラナ科植物病害の防除方法。
【請求項8】
アブラナ科植物がハクサイ、キャベツ、ダイコン、カリフラワー、ブロッコリー、チンゲンサイ、及びコマツナからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7又は8に記載の方法。

【公開番号】特開2012−232959(P2012−232959A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104344(P2011−104344)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】