説明

アミノメチルピリジン誘導体の製造方法

【課題】、高収率で、かつ安価にアルキルチオ−アミノメチルピリジンを製造する方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるシアノピリジンと水素化ホウ素アルミニウムとを反応させることを特徴とする、下記一般式(2)で表されるアミノメチルピリジン誘導体の製造方法である。


(式中、Rは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数4〜14のシクロアルキルアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜16のアラルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率で、かつ安価にアミノメチルピリジン誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−アルキルチオ−3−アミノメチルピリジン等のアミノメチルピリジン誘導体は、医薬、農薬等の中間体として有用である。
アミノメチルピリジン誘導体の製造方法として、特許文献1の段落〔0123〕の製造例261には、2−メチルチオニコチノニトリルのメタノール溶液に塩化コバルト(II)6水和物を加え、水素化ホウ素ナトリウムを加えて反応させ、1−(2−メチルチオピリジン−3−イル)メチルアミンを得る反応が示されている。
しかしながら、特許文献1の方法では、高価な塩化コバルトを大量に使用し、しかも収率は60%程度である(下記反応式(A)参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
一方、非特許文献1には、ヒドリド試薬として水素化リチウムアルミニウムを用いて、2−メチルチオ−6−シアノピリミジン化合物を還元する方法が示されているが、ヘテロ環を有する化合物の場合、ヒドリド還元を行うと、側鎖よりもヘテロ環部分の還元が起き易いことが知られている(下記反応式(B)参照)。
【0005】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2010/024430号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the Chemical Society C 1968年,733頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑み、高収率で、かつ安価にアミノメチルピリジン誘導体を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、水素化ホウ素アルミニウムを用いることにより、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供するものである。
〔1〕下記一般式(1)で表されるシアノピリジン(以下、「シアノピリジン(1)」ともいう。)と水素化ホウ素アルミニウムとを反応させることを特徴とする、下記一般式(2)で表されるアミノメチルピリジン誘導体(以下、「アミノメチルピリジン誘導体(2)」ともいう。)の製造方法。
【0011】
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数4〜14のシクロアルキルアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜16のアラルキル基を示す。)
【0012】
【化4】

(式中、Rは前記定義のとおりである。)
【0013】
〔2〕下記一般式(3)で表される3−シアノピリジン(以下、「3−シアノピリジン(3)」ともいう。)と水素化ホウ素アルミニウムとを反応させることを特徴とする、下記一般式(4)で表される3−アミノメチルピリジン誘導体(以下、「3−アミノメチルピリジン誘導体(4)」」ともいう。)の製造方法。
【0014】
【化5】

(式中、R'は、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数4〜14のシクロアルキルアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜16のアラルキル基を示す。)
【0015】
【化6】

(式中、R'は前記定義のとおりである。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高収率で、かつ安価にアミノメチルピリジン誘導体を製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の、アミノメチルピリジン誘導体(2)の製造方法は、下記の反応式(C)に示すように、シアノピリジン(1)と水素化ホウ素アルミニウムとを反応させることを特徴とする。なお、式中、Rは前記定義のとおりである。
【0018】
【化7】

【0019】
また、3−アミノメチルピリジン誘導体(4)の製造方法は、下記の反応式(D)に示すように、3−シアノピリジン(3)と水素化ホウ素アルミニウムとを反応させることを特徴とする。なお、式中、R'は前記定義のとおりである。
【0020】
【化8】

【0021】
R又はR'が表す、炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチル−1−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種へプチル基、各種オクチル基等が挙げられる。ここで、「各種」とは、直鎖又は分岐を意味する。中でも、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
R又はR'が表す、炭素数3〜6のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられ、シクロヘキシル基が好ましい。
【0022】
R又はR'が表す、炭素数4〜14のシクロアルキルアルキル基とは、3〜6員環のシクロアルキル基で置換されている炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、具体的には、シクロプロピルメチル基、シクロプロピルエチル基、シクロプロピルプロピル基、シクロプロピルブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロペンチルプロピル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘキシルプロピル基等が挙げられる。中でも、3員環又は6員環のシクロアルキル基で置換されている炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、シクロプロピルメチル基、シクロプロピルエチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基が更に好ましい。
【0023】
R又はR'が表す、炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、ジメチルナフチル基等が挙げられる。中でも、炭素数6〜10のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
R又はR'が表す、炭素数7〜16のアラルキル基としては、炭素数6〜10のアリール基で置換されている炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、具体的には、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等が挙げられる。中でも、フェニル基で置換されている炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、ベンジル基が更に好ましい。
R又はR'としては、反応性等の観点から、炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8の直鎖のアルキル基がより好ましい。
【0024】
本発明の製造方法は、反応促進の観点から、有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。使用できる有機溶媒は、反応に影響を与えないものであれば特に制限はなく、例えばトルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭素数5〜10の脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジグライム、テトラヒドロフラン等のエーテル等が挙げられる。中でも、テトラヒドロフラン等のエーテルがより好ましい。
これらの有機溶媒は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
有機溶媒の使用量は特に制限されないが、反応系の撹拌操作、反応時間、収率、製品品質等の観点から、シアノピリジン(1)又は3−シアノピリジン(3)に対して0.5〜100質量倍が好ましく、0.5〜20質量倍がより好ましい。
【0025】
本発明の製造方法は、水素化ホウ素アルミニウムを用いることが最大の特徴である。
水素化ホウ素アルミニウムは還元剤として使用されるが、市販品をそのまま使用しても、公知の方法で調製してもよい。例えば、下記反応式に示すように、エーテル等の溶媒中で、水素化ホウ素ナトリウム3モルに対して塩化アルミニウム1モルで塩交換反応させることにより、容易に調製することができる。
3NaBH4 + AlCl3 → Al(BH43 + 3NaCl
水素化ホウ素アルミニウムの使用量は、反応促進の観点から、シアノピリジン(1)又は3−シアノピリジン(3)に対して、化学量論比で1〜10倍モルが好ましく、1〜5倍モルがより好ましく、1〜3倍モルが更に好ましい。
【0026】
本発明の製造方法では、反応促進の観点から、反応温度は−30〜100℃が好ましく、−20〜80℃がより好ましく、−10〜60℃が更に好ましく、5〜40℃が特に好ましい。反応圧力は常圧でも加圧でもよい。反応時間は、反応温度等にもよるが、0.4〜50時間が好ましく、0.6〜30時間がより好ましく、0.8〜10時間が更に好ましい。
本発明の製造方法は、窒素等の不活性ガス雰囲気下、前記有機溶媒中で水素化ホウ素ナトリウムと塩化アルミニウムから水素化ホウ素アルミニウムを調製した後、続いてシアノピリジン(1)又は3−シアノピリジン(3)、又は前記有機溶媒溶液を添加し、所定温度で所定時間反応させることにより行うことができる。
または、不活性ガス雰囲気下、水素化ホウ素ナトリウムとシアノピリジン(1)又は3−シアノピリジン(3)を有機溶媒中で混合し、そこに塩化アルミニウムを添加し、かかる混合液に所定温度で所定時間反応させることにより行うことができる。
【0027】
上記反応後は、塩酸水溶液、硫酸水溶液、リン酸水溶液、酢酸水溶液、塩化アンモニウム水溶液等を添加して、未反応の水素化ホウ素アルミニウムを失活させることが好ましい。
得られたアミノメチルピリジン誘導体(2)又は3−アミノメチルピリジン誘導体(4)は、公知の方法で単離精製することができる。
例えば、上記のようにして未反応の水素化ホウ素アルミニウムを失活させた後の反応混合液に塩基性化合物の水溶液を添加してpH7以上にした後、(i)芳香族炭化水素
等の有機溶媒で抽出し、分離する方法、(ii)前記と同様の処理をした後、蒸留により単離する方法、(iii)前記と同様の処理をした後、溶媒を留去し、析出した塩をろ取する方法等が挙げられる。
このようにして得られたアミノメチルピリジン誘導体(2)又は3−アミノメチルピリジン誘導体(4)は、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機塩と塩を形成させることにより、保存安定性を高めることができ、保存中も高品質を保つことができる。また、必要に応じて、再結晶、蒸留、昇華等で純度を更に高めることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により、なんら限定されるものではない。
実施例1(2−メチルチオ−3−アミノメチルピリジンの製造)
温度計及び撹拌装置を備えた内容積100mlの三口フラスコに、窒素雰囲気下、テトラヒドロフラン13.5gを仕込み、水素化ホウ素ナトリウム2.08g(55mmol)を加え、内温を10℃以下に冷却した。次いで、内温を30℃以下に保ちながら塩化アルミニウム2.43g(18mmol)を添加し、添加終了後15分間撹拌して、水素化ホウ素アルミニウムを含む混合液を調製した。
続いて、得られた上記混合液に、2−メチルチオ−3−シアノピリジンのテトラヒドロフラン溶液19.5g(30mmol)を、内温を30℃以下に保ちながら滴下し、滴下終了後20〜25℃で3時間撹拌した。
得られた反応混合液に、10%塩酸水溶液20gを内温を30℃以下に保ちながら滴下し、滴下終了後1時間撹拌した。次いで、20%水酸化ナトリウム水溶液16.5gを30℃で滴下し、反応混合液のpHを10以上として30分間撹拌した後、静置し、有機層と水層を分液した。
分液した有機層にトルエン30g及び水30gを加えて、抽出し、有機層を減圧下で濃縮して収率90%(4.16g:27mmol)で2−メチルチオ−3−アミノメチルピリジンを得た。得られた2−メチルチオ−3−アミノメチルピリジンをイソプロパノール20gに溶解させ、濃塩酸6.02g(59.4mmol)を加え、析出した塩をろ取、乾燥することにより、2−メチルチオ−3−アミノメチルピリジン二塩酸塩5.52g(24.3mmol)を得た。
得られた2−メチルチオ−3−アミノメチルピリジン二塩酸塩について、1H−NMR分析を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz,CDCl3,TMS)δ(ppm):1.49(2H,br),2.58(3H,s),3.84(2H,s),6.97−7.00(1H,dd,J=7.2Hz,4.8Hz),7.51−7.53(1H,m),8.34−8.36(1H,dd,J=4.8Hz,2.0Hz)
【0029】
比較例1
実施例1において、水素化ホウ素アルミニウムを調製して用いる代わりに、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの70%トルエン溶液17.33g(60mmol)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−メチルチオ−3−アミノメチルピリジンの収率は7.5%であった。
比較例2
実施例1において、水素化ホウ素アルミニウムを調製して用いる代わりに、水素化リチウムアルミニウムを2.28g(60mmol)用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−メチルチオ−3−アミノメチルピリジンの収率は29.1%であった。
比較例3
実施例1において、水素化ホウ素アルミニウムを調製して用いる代わりに、水素化ホウ素ナトリウム2.27g(60mmol)と酢酸3.60g(60mmol)から調製した還元剤を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った結果、2−メチルチオ−3−アミノメチルピリジンの収率は17.7%であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の製造方法によれば、高収率で、かつ安価にアミノメチルピリジン誘導体を製造することができるため、工業的に有利である。得られたアミノメチルピリジン誘導体は、医薬、農薬、その製品の中間体等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるシアノピリジンと水素化ホウ素アルミニウムとを反応させることを特徴とする、下記一般式(2)で表されるアミノメチルピリジン誘導体の製造方法。
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数4〜14のシクロアルキルアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜16のアラルキル基を示す。)
【化2】

(式中、Rは前記定義のとおりである。)
【請求項2】
下記一般式(3)で表される3−シアノピリジンと水素化ホウ素アルミニウムとを反応させることを特徴とする、下記一般式(4)で表される3−アミノメチルピリジン誘導体の製造方法。
【化3】

(式中、R'は、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数4〜14のシクロアルキルアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜16のアラルキル基を示す。)
【化4】

(式中、R'は前記定義のとおりである。)

【公開番号】特開2012−67033(P2012−67033A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212438(P2010−212438)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】