説明

アルギニンアミド類を含有する医薬製剤

【課題】 医療現場での利便性及び安全性が高く、保存安定性も良好であり、さらに簡便に製造できる医薬品製剤の開発。
【解決手段】 有効成分である下記一般式(I)で表わされるアルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約10mg/mL以下で含有する水を含む溶液を含み、該溶液が容量約1mL以上で約20mL以下の容器に充填された形態の医薬製剤とする。


(R1は(2R,4R)−4−アルキル−2−カルボキシピペリジノ基を示し、R2はフェニル基又は縮合多環式化合物残基を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分とする医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
下記一般式(I):
【化1】

(上記一般式(I)中、R1は(2R,4R)−4−アルキル−2−カルボキシピペリジノ基を示し、R2はフェニル基又は以下に定義する縮合多環式化合物残基を示し、R2は低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキル基で置換されたアミノ基から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい。縮合多環式化合物残基はベンゼン環を含む縮合多環式化合物残基であり、該ベンゼン環が上記一般式(I)中のスルホニル基のイオウ原子と結合し、且つ該ベンゼン環には複素環であってもよい他の環が縮合し、該多環式化合物残基の環を構成する総炭素原子数が7〜14である残基を示す)で表わされる上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質は抗トロンビン活性を有する化合物として知られている(特開昭56−15267号公報、特開昭55−33499号公報、及び特開昭56−92213号公報)。なかでもアルガトロバン((2R,4R)−1−〔N2−((RS)−3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸・水和物に付された一般名)は、商品名ノバスタン(登録商標、三菱ウェルファーマ株式会社)等として市販されている医薬品である。
【0003】
前記一般式(1)で表わされるアルギニンアミド類やアルガトロバンは水に難溶性であり、現在日本で市販されている製剤は20mLのアンプル剤として調製されている。20mLという液量は他の一般的な注射剤と比較して大容量であり、アンプル自体も大きいものとなるため、アンプルの保管、廃棄には広いスペースが必要となるという問題がある。また、血液中に投与されたアルガトロバンの消失速度は速く、治療に必要な血中滞留時間を得るためには持続的に血管中に投与しなければならないことから、投与には点滴剤の調製が必要になるが、現在市販されている注射用製剤を用いる場合には、アンプルに入っている溶液を一旦アンプルから注射筒に吸引し、その後輸液に混合して点滴剤を調製する必要がある。この際、20mLという大容量のアンプル剤ではアンプル内から注射筒への溶液の吸引に手間と時間がかかることから、利便性を向上させた製剤の提供が望まれている。
【0004】
前記一般式(1)で表わされるアルギニンアミド類やアルガトロバンの高濃度溶液を調製する試みが種々なされているが、それらは注射剤としての安全性が高いとはいえない界面活性剤等の添加物を加え製剤(特開平10−316595号公報)、あるいは乳化などの複雑な製造工程を要する製剤(特開平6−219948号公報)であり、注射剤として適当とはいえないものであった。
【0005】
なお、高濃度のエタノールに代表される高濃度のアルコール類等を使用して高濃度アルガトロバン溶液を調製する方法(特開平1−31727号公報)も知られている。米国で市販されている注射用製剤は2.5mLのバイアルに充填されているが、250mgのアルガトロバンを高濃度のエタノールを使用して溶解している。高濃度のエタノールの使用は血管拡張作用や中枢作用の抑制等のエタノールに起因する好ましくない作用が発生することが危惧されるため、添加剤として使用する場合にはできるだけエタノールの量は少なくすることが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、上記のアルギニンアミド類を有効成分として含む医薬製剤であって、医療現場での利便性が高い製剤を影響することが本発明の課題である。また、安全性が高く、保存安定性に優れ、かつ製造が簡便な医薬製剤を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究の結果、有効成分である前記一般式(I)で表わされるアルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を濃度1mg/mL以上、約10mg/mL以下で含有する溶液を含み、該溶液が容量約1mL以上で約20mL以下の容器に充填された形態の医薬製剤、又は有効成分である前記一般式(I)で表わされるアルギニンアミド類、その塩類、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約1mg/mL以上、約10mg/mL以下の濃度で含有し、かつ粘度が約35.8s-1の剪断速度で約15mPa・s-1以下の溶液からなる医薬組成物を提供することによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明により下記の医薬製剤が提供される。
(1)有効成分である下記一般式(I)で表わされるアルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を濃度1mg/mL以上、約10mg/mL以下で含有する溶液(ただし該溶液は少なくとも水を含む溶液である)を含み、該溶液が容量約1mL以上で約20mL以下の容器に充填された形態の医薬製剤。
【化2】

(上記一般式(I)中、R1は(2R,4R)−4−アルキル−2−カルボキシピペリジノ基を示し、R2はフェニル基又は以下に定義する縮合多環式化合物残基を示し、R2は低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキル基で置換されたアミノ基から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい。該縮合多環式化合物残基はベンゼン環を含む縮合多環式化合物残基であり、該ベンゼン環が上記一般式(I)中のスルホニル基のイオウ原子と結合し、且つ該ベンゼン環には複素環であってもよい他の環が縮合し、該多環式化合物残基の環を構成する総炭素原子数が7〜14である残基を示す)
【0009】
(2)一般式(I)中のR1が(2R,4R)−4−メチル−2−カルボキシピペリジノ基であり、R2が3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリル基である前記(1)記載の医薬製剤。
(3)アルギニンアミド類がアルガトロバンである前記(1)記載の医薬製剤。
(4)注射剤として投与するか、又は点滴剤の調製に用いる前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
(5)容器の容量が約10mL以下である前記(1)から(4)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
(6)容器の容量が約2mLである前記(1)から(4)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【0010】
(7)上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約5mg/mL含有する溶液を含む前記(1)から(6)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
(8)上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約10mg含有する溶液を含む前記(1)から(7)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
(9)溶液の粘度が25℃において約35.8s-1の剪断速度で約15mPa・s-1以下である前記(1)から(8)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
(10)溶液の粘度が25℃において約71.6s-1の剪断速度で約10mPa・s-1以下である前記(1)から(8)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【0011】
(11)溶液のpHが約4から約7である前記(1)から(10)のいずれかに1項に記載の医薬製剤。
(12)溶液のpHが約5から約7である前記(1)から(10)のいずれかに1項に記載の医薬製剤。
(13)加熱滅菌後に有効成分以外の物質の生成が実質的に抑制された前記(1)から(12)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
(14)加熱滅菌後に40℃において6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ約0.2%以下に抑制された前記(1)から(12)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【0012】
(15)容器がアンプルである前記(1)から(14)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
(16)溶液中に一価アルコールを含有する前記(1)から(15)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
(17)一価アルコールがエタノールである前記(16)に記載の医薬製剤。
(18)溶液中の一価アルコールの含有量が約25%(w/v)以下である前記(16)又は(17)のいずれかに記載の医薬製剤。
(19)溶液中に約20%(w/v)以下のエタノールを含む上記(16)に記載の医薬製剤。
【0013】
(20)溶液中に多価アルコールを含有する前記(1)から(19)のいずれか1項に記載の医薬製剤。
(21)多価アルコールがグリセリンである前記(20)に記載の医薬製剤。
(22)溶液中の多価アルコールの含有量が約30%(w/v)以上である上記(20)又は(21)に記載の医薬製剤。
(23)溶液中の多価アルコールの含有量が約40%(w/v)以上である前記(20)又は(21)のいずれかに記載の医薬製剤。
【0014】
(24)溶液中に糖類を実質的に含まない前記(1)から(23)のいずれかに記載の医薬製剤。
(25)溶液中に糖類を含む前記(1)から(23)のいずれかに記載の医薬製剤。
(26)糖類がソルビトールである前記(25)に記載の医薬製剤。
(27)有効成分である下記一般式(I)で表わされるアルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を濃度1mg/mL以上、約10mg/mL以下で含有し、粘度が25℃において約35.8s-1の剪断速度で約15mPa・s-1以下である溶液(ただし該溶液は少なくとも水を含む溶液である)を含む医薬組成物。
【化3】

(上記一般式(I)中、R1は(2R,4R)−4−アルキル−2−カルボキシピペリジノ基を示し、R2はフェニル基又は以下に定義する縮合多環式化合物残基を示し、R2は低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキル基で置換されたアミノ基から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい。該縮合多環式化合物残基はベンゼン環を含む縮合多環式化合物残基であり、該ベンゼン環が上記一般式(I)中のスルホニル基のイオウ原子と結合し、且つ該ベンゼン環には複素環であってもよい他の環が縮合し、該多環式化合物残基の環を構成する総炭素原子数が7〜14である残基を示す)
【0015】
(28)粘度が25℃において約71.6s-1の剪断速度で約10mPa・s-1以下である前記(27)に記載の医薬組成物。
(29)一般式(I)中のR1が(2R,4R)−4−メチル−2−カルボキシピペリジノ基であり、R2が3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリル基である前記(27)又は(28)に記載の医薬組成物。
(30)アルギニンアミド類がアルガトロバンである前記(27)から(29)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(31)注射剤として投与するか、又は点滴剤の調製に用いる前記(27)から(30)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0016】
(32)上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約5mg/mL含有する溶液を含む前記(27)から(31)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(33)上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約10mg含有する溶液を含む前記(27)から(31)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(34)溶液のpHが約4から約7である前記(27)から(33)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(35)溶液のpHが約5から約7である前記(27)から(33)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0017】
(36)加熱滅菌後の有効成分以外の物質の生成が実質的に抑えられた前記(27)から(35)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(37)加熱滅菌後、40℃において6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ、約0.2%以下に抑制された前記(27)から(36)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(38)溶液中に一価アルコールを含有する前記(27)から(37)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(39)一価アルコールがエタノールである前記(38)に記載の医薬組成物。
【0018】
(40)溶液中の一価アルコールが約25%(w/v)以下である前記(38)又は(39)に記載の医薬組成物。
(41)溶液中に約20%(w/v)以下のエタノールを含む上記(40)に記載の医薬組成物。
(42)溶液中に多価アルコールを含有する前記(27)から(41)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(43)多価アルコールがグリセリンである前記(42)に記載の医薬組成物。
【0019】
(44)溶液中の多価アルコールが約30%(w/v)以上である前記(42)又は(43)に記載の医薬組成物。
(45)溶液中の多価アルコールが約40%(w/v)以上である前記(42)又は(43)に記載の医薬組成物。
(46)溶液中に糖類を含まない前記(27)から(45)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(47)溶液中に糖類を含む前記(27)から(45)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0020】
(48)糖類がソルビトールである前記(47)に記載の医薬組成物。
(49)有効成分としてアルガトロバンを約1mg/mL以上約10mg/mL以下含有し、粘度が25℃約35.8s-1の剪断速度で約15mPa・s-1以下の溶液からなる医薬組成物。
(50)約1mg/mL以上、約10mg/mL以下のアルガトロバンを含有し、加熱滅菌後、40℃で6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ、約0.2%以下に抑制された溶液からなる医薬組成物。
(51)約1mg/mL以上約10mg/mL以下のアルガトロバンを含有し、加熱滅菌後、40℃で6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ約0.2%以下に抑制されており、かつ粘度が25℃において約71.6s-1の剪断速度で約10mPa・s-1以下である溶液からなる医薬組成物。
【0021】
(52)約5mg/mLのアルガトロバンを含有し、加熱滅菌後、40℃で6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ約0.2%以下に抑制されており、かつ溶液の粘度が25℃において約71.6s-1の剪断速度で約10mPa・s-1以下である溶液からなる医薬組成物。
(53)上記(49)から(52)のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、溶液中に約25%(w/v)以下の一価アルコール及び溶解補助剤である多価アルコールを含み、かつpHが約4から約7である溶液からなる医薬組成物。
(54)上記(49)から(52)のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、pHが約5から約7である溶液からなる医薬組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分とする新規な医薬製剤及び医薬組成物が提供される。本発明の医薬製剤及び医薬組成物は、医療現場での利便性及び安全性が高く、保存安定性も良好であり、さらに簡便に製造できるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の医薬製剤は、容量が約1mL以上で、かつ約20mL以下の容器に溶液が充填されており、その溶液は、有効成分としての前記一般式(1)で表わされるアルギニンアミド類、その塩類、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約1mg/mL以上で、かつ約10mg/mL以下の濃度で含有する溶液であり、少なくとも水を含む溶液である。
一般式(I)中、R1は(2R,4R)−4−アルキル−2−カルボキシピペリジノ基を示す。ここで、アルキルとは、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基又はブチル基のようなC1〜C5の低級アルキル基を示す。
【0024】
2はフェニル基又は以下に定義する縮合多環式化合物残基を示す。
縮合多環式化合物残基はベンゼン環を含む縮合多環式化合物残基であり、該ベンゼン環が上記一般式(I)中のスルホニル基のイオウ原子と結合し、かつ該ベンゼン環には複素環であってもよい他の環が縮合し、該多環式化合物残基の環を構成する総炭素原子数は7〜14である。
さらに好ましくは、縮合多環式化合物残基は、二環式化合物残基又は三環式化合物残基である。二環式化合物残基はベンゼン環には5員環又は6員環が縮合した基が好ましく、この5員環又は6員環は複素環であってもよい。三環式化合物残基は5員環又は6員環にもう1つの5員環又は6員環が縮合した基が好ましく、この5員環又は6員環は複素環であってもよい。上記の複素環を構成するヘテロ原子は、例えば、酸素原子、窒素原子、又はイオウ原子である。
【0025】
2は低級アルキル基、低級アルコキシ基、及び低級アルキル基で置換されたアミノ基からなる群から選択される1つ以上の基で置換されていてもよい。低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、又はtert−ブチル基のようなC1〜C5のアルキル基、低級アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、又はブトキシ基のようなC1〜C5のアルコキシ基、低級アルキル基で置換されたアミノ基としては、例えば上述したような低級アルキル基で置換されたアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0026】
2が示す縮合多環式化合物残基としては、具体的には、アンスリル基、フェナンスリル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、フェノキサチニル基、キノリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナジニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、ベンズイミダゾリル基、フルオレニル基、2,3−ジヒドロベンゾフラニル基、チオキサンテニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、イソキノリル基、テトラヒドロキノリル基、テトラヒドロイソキノリル基等が挙げられる。上記一般式(I)において、上記多環式化合物残基のベンゼン環と一般式(I)中のスルホニル基のイオウ原子とが結合するが、ベンゼン環上の結合位置は特に限定されない。
【0027】
アルギニンアミド類に包含される具体的化合物としては以下の化合物が挙げられる。
(2R,4R)−1−〔N2−(3−イソプロポキシベンゼンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
(2R,4R)−1−〔N2−(3,5−ジメチル−4−プロポキシベンゼンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
(2R,4R)−1−〔−N2−(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフタレンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
【0028】
(2R,4R)−1−〔N2−(5−ジメチルアミノ−1−ナフタレンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
(2R,4R)−1−〔N2−(3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
(2R,4R)−1−〔N2−(2−ジベンゾチオフェンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
(2R,4R)−1−〔N2−(2,4−ジメトキシ−3−ブトキシベンゼンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
【0029】
(2R,4R)−1−〔N2−(3,5−ジメチル−4−プロポキシベンゼンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−エチル−2−ピペリジンカルボン酸;
(2R,4R)−1−〔N2−(3−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
(2R,4R)−1−〔N2−(2−カルバゾールスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
(2R,4R)−1−〔N2−(2−フルオレンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
【0030】
(2R,4R)−1−〔N2−(2−フェノキサチインスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;
(2R,4R)−1−〔N2−(2−アンスラセンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸;及び
(2R,4R)−1−〔N2−(7−メチル−2−ナフタレンスルホニル)−L−アルギニル〕−4−メチル−2−ピペリジンカルボン酸。
【0031】
上記のうち、特に好ましいものとして前述のアルガトロバンが挙げられる。
上記アルギニンアミド類には光学異性体やジアステレオマー等の異性体が存在するが、アルギニンアミド類としてはこれらのいずれを用いてもよく、任意の異性体の混合物を用いてもよい。
上記アルギニンアミド類は、特開昭56−15267号公報、特開昭55−33499号公報、又は特開平10−101649号公報等に記載の方法に準じて容易に製造可能である。
【0032】
また、本発明のアルギニンアミド類は、特開昭56−15267号公報等に記載の方法に従って、種々の無機酸又は有機酸あるいは無機塩基又は有機塩基との付加塩を形成することができる。
本発明の医薬製剤は注射剤として使用することが好ましい。注射剤として用いる場合には、使用時に希釈して用いることもできる。また、本発明の医薬製剤を用いて点滴剤を用時に調製することもできる。例えば、輸液中に本発明の医薬製剤を加えて点滴剤を調製することができる。あるいは、透析時に透析液に添加して使用することも可能である。
【0033】
本発明の医薬製剤の充填に用いられる容器は、容量が約1mL以上であり、かつ約20mL以下の容器であればよく、形状や材質は特に限定されない。医薬製剤の充填に通常使用されているガラス製アンプル、カラス製又はプラスチック製バイアル、ポリマー製のバッグ等が適宜使用可能である。医療現場での利便性を考慮すると、容器の容量としては約10mL以下が好ましく、約2mLが最も好ましい。本発明の医薬製剤は、有効成分である上記一般式(I)で表わされるアルギニンアミド類を約1mg/mL以上で、かつ約10mg/mL以下の濃度で含むが、好ましくは約5mg/mLの濃度である。容器中に含まれるアルギニンアミド類の重量は、好ましくは約10mgである。容器としてはガラス製アンプルが好ましい。
【0034】
本発明の医薬製剤は、例えば、アンプルに充填された形態の医薬製剤から注射筒に溶液を吸引し、その後、この溶液を輸液に混合して点滴剤を調製することも考慮した場合、注射筒に吸引しやすい溶液を含むことが望ましい。そのような医薬製剤としては、溶液の粘度が25℃において約35.8s-1の剪断速度で約15mPa・s-1以下であることが好ましく、特に好ましくは、溶液の粘度が25℃において約71.6s-1の剪断速度で約10mPa・s-1以下である。粘度は後述の実施例で示すように25℃において回転粘度計(B型)を使用して測定することが可能である。
【0035】
本発明の医薬組成物に含まれる溶液は、少なくとも水を含んでいるが、他の溶剤の存在を排除するものではない。上記の溶液は、好ましくは30%(w/v)以上の水を含んでいる。さらに好ましくは、35%〜55%(w/v)の水を含む溶液である。
アルギニンアミド類を約1mg/mL以上で、かつ約10mg/mL以下の濃度で溶解した溶液の組成は特に限定されず、種々の組成が可能である。好ましい処方の一例を挙げると、アルギニンアミド類の溶解のために一価アルコールを添加した処方が挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール等薬学的に許容され得るものであればいずれも使用可能であるが、本発明においては、エタノールを使用することが好ましい。エタノールを使用する場合には、エタノールに起因する中枢抑制作用等を考慮して溶液中の濃度を約25%(w/v)以下、好ましくは20%(w/v)以下とすることが好ましい。より好ましくは10%〜25%(w/v)、さらに好ましくは10%〜20%(w/v)、最も好ましくは15%〜20%(w/v)である。
【0036】
安全性を考慮して一価アルコールの量を低減させる場合には、多価アルコールを溶解補助剤として添加することができる。本明細書において、多価アルコールとは2価以上のアルコールを意味するが、糖類は包含しない概念として用いる。多価アルコールとしては、薬学的に許容され得るものであれば使用可能であるが、本発明においては2価又は3価の多価アルコールが好ましく、特に好ましいのはグリセリンである。多価アルコールの含有量は特に限定されないが、約30%(w/v)から約60%(w/v)、より好ましくは約40%(w/v)から約55%(w/v)の範囲で用いることができる。
【0037】
本発明の医薬製剤または医薬組成物には糖類を用いることもできるが、糖類としては、例えばグルコース、フルクトースなどの糖類、あるいはキシリトール、ソルビトール等の糖アルコールを挙げることができる。これらのうちソルビトールが好ましい。もっとも、糖類の使用は溶液の粘度を上昇させる場合があり、糖類を大量に添加することは一般的には好ましくない。従って、本発明の医薬製剤は糖類を大量に含まないことが好ましく、糖類の含有量は例えば約30%(w/v)以下、好ましくは25%(w/v)以下であることが好ましい。また、実質的に糖類を含有しないことも好ましい。
【0038】
本発明の医薬製剤は、アルギニンアミド類を上記の一価アルコール類などを含む溶液に溶解することにより調製することができる。溶液には、必要に応じて多価アルコール類及び/又は糖類を添加することができる。溶解に際しては、順序及び条件等は特に限定されないが、最初にアルギニンアミド類を一価アルコール類、又は一価アルコールと多価アルコール類及び/又は糖類との混合物に溶解し、その後に水を加えて調製することが好ましい。
【0039】
本発明の医薬製剤は、加熱滅菌後に有効成分以外の物質の生成が実質的に抑えられた安定な製剤である。より好ましくは、加熱滅菌後に40℃で6ヶ月保存する際に、有効成分以外の物質(個々の分解物)の生成量が、約0.2%以下に抑制された製剤である。有効成分以外の生成が実質的に抑えられた医薬製剤であるか否かは、後述の実施例で述べるように、加熱滅菌後の溶液をHPLCにより分析することにより容易に確認可能である。ここで加熱滅菌とは医薬としての安全性を担保できるものであれば特に限定されないが、通常、121℃、20分の加熱滅菌およびそれと同程度の効果を有するものが使用できる。本発明の有効成分以外の物質(個々の分解物)とは、有効成分に由来する分解物およびその他の未知化合物が挙げられる。例えば、有効成分がアルガトロバンである場合には、有効成分以外の物質として以下の主分解物(分解物i)およびその他未知化合物が包含される。
【0040】
【化4】

【0041】
加熱滅菌後にも有効成分以外の物質の生成が実質的に抑えられた安定な医薬製剤の例として、アルギニンアミド類を含む上記の溶液を調製した後、加熱滅菌前に溶液のpHを調整した医薬製剤を挙げることができる。溶液のpHとしては約4から約7であることが好ましく、さらに好ましくは、約5から約7である。pHの調整は通常のpH調節剤を用いて行なうことができる。例えば、塩酸又は水酸化ナトリウムなどのpH調節剤を用いることができる。
上記のようにして、アルギニンアミド類を含む溶液を調製し、必要に応じてpHの調整などを行なった後、洗浄されたアンプル等の容器に分注して溶閉し、さらに加熱滅菌を行なうことにより本発明の医薬製剤を調製することができる。
【0042】
本発明により提供される医薬組成物は、有効成分である前記一般式(I)で表わされる上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約1mg/mL以上、かつ約10mg/mLの濃度で含有し、さらに粘度が25℃において約35.8s-1の剪断速度で約15mPa・s-1以下の溶液を含む医薬組成物である。この医薬組成物は、好ましくは容量が約1mg/mL以上、かつ約20mg/mL以下の容器に充填されるが、容器の容量は上記のものに限定されることはない。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。以下の実施例で使用したアルガトロバンは、特開平10−101649号公報に記載の方法に準じて製造したものである。また、以下に示す粘度はいずれも以下の条件で測定した。
測定機器:B型粘度計(製造元:株式会社トキメック、発売元:東機産業株式会社)
測定温度:25℃
回転数:60rpm(取扱い説明書に基づき、10mPa・s-1以上の場合は30rpmで測定、剪断速度は60rpm:71.58s-1、30rpm:35.79s-1
【0044】
実施例1
表1の1に示すように100mlのメスフラスコ中にエタノール(99.5%)10.0g,ソルビトール20.0g,グリセリン30.0g及びアルガトロバン500mgを量りとり、さらに注射用水を加えて100mlとした。メスフラスコを25℃の水槽に浸漬し、超音波照射することによって澄明な溶液を得た。同様に表1に示す2から4についてもエタノール、ソルビトール、および濃グリセリンの各成分を表中に示す濃度になるよう量りとり、注射用水を加えアルガトロバン5mg/mlを含む医薬組成物を調製した。その結果、1〜4で得られたいずれの医薬組成物も25℃の室温下では無色透明で清澄な状態を呈した。
【0045】
同様に、表2及び表3に示す処方について、同様にしてアルガトロバン5mg/mlを含む医薬組成物を調製した(表2及び3において、アルガトロバン濃度はmg/mlで示してありエタノール、濃グリセリン濃度は%(w/v)で示してある)。
また、表2及び表3には、それぞれの製剤の粘度及び4℃で24時間保存した場合の安定性を示す。
アルガトロバンを約5mg/mlの濃度で含む医薬組成物が得られ、これらの医薬組成物は注射筒に吸引しやすい粘度を有しており、安定性も良好であった。
【0046】
同様に、表4に示す処方について、同様にしてアルガトロバン5mg/mlを含む医薬組成物を調製した(表4において、アルガトロバン濃度はmg/mlで示してありエタノール、濃グリセリン濃度は%(w/v)で示してある)。
また、表4には、それぞれの製剤の粘度を示す。
アルガトロバンを約5mg/mlの濃度で含む医薬組成物が得られ、これらの医薬組成物は注射筒に吸引しやすい粘度を有していた。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
実施例2
約200mgのアルガトロバンを秤りとった共栓付き三角フラスコに予め調製した下記に示す組成の溶解液10mlを加えた。その後、この混合物を直ちに2℃の恒温庫中でスターラーを用いて撹拌した。24時間後に懸濁液1mlを採取し、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過してHPLC用のサンプルを得た。
【0052】
恒温庫の温度を25℃に設定し直し、さらに撹拌を継続した。24時間後に懸濁液1mlを採取し、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過してHPLC用のサンプルを得た。
それぞれの溶解液について、粘度並びに2℃及び25℃における溶解度を測定した結果を以下の表5に示す(表中、溶解度はmg/ml、処方濃度はw/v%で示した)。得られた医薬組成物は、注射筒に吸引しやすい粘度を有していた。また、エタノールの量が増加するとアルガトロバンの溶解度が上がることがわかる。
【0053】
【表5】

【0054】
実施例3
実施例2と同様にして、下記組成の溶解液を調製し、粘度を測定した。結果を表6に示す(表中、溶解度はmg/ml、処方濃度はw/v%で示した)。
【0055】
【表6】

【0056】
実施例4
実施例1と同様にして、下記の表7に示す処方の医薬組成物を調製し(表中、エタノール及びグリセリン濃度は%(w/v)で示す)、それぞれの組成物にソルビトール濃度0〜40%(重量%)を添加した場合の粘度を測定した。アルガトロバンの濃度は5mg/mlである。 結果を図1に示す。図1の結果より、溶液の粘度はソルビトールの濃度に大きく影響を受けることが示された。
【0057】
【表7】

【0058】
実施例5
1Lビーカー中にグリセリン450 gを入れ撹拌しておき、エタノール150 gを加えて撹拌下に混和した。この混合物にアルガトロバン5 gを加え、必要に応じて加熱して溶解した。この溶液に注射用蒸留水380 gを加え、撹拌下で混和させた。得られた溶液に0.024 mol/Lの塩酸を加えてpHを約6に調整し、注射用蒸留水を加えて全量を1Lとした。この溶液を加熱滅菌(121℃、20分)し、その直後の有効成分以外の物質の生成をHPLCで調べた結果を図2に示す。図2より本発明の医薬組成物は加熱滅菌後もアルガトロバン以外の物質の生成が実質的に抑えられていることがわかる。
【0059】
HPLCの測定は以下の条件で行なった。
試料調製:
試料2mLを正確に量りとり、移動相(A)を加えて正確に20mLとし、試料溶液とする。
試験条件:
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:Nucleosil ODS 5μm、4.6I.D.×250cm(Chemco)
カラム温度:45℃
移動相:0.25%酢酸Buffer(pH5):メタノール=55:45、v/v(0.25%酢酸Buffer:2.5mL酢酸に水を加え1000mLにしアンモニア試液でpH5に調製)
流量:1mL/分
インジェクション量:10μL
HPLC使用機器:ポンプ LC−10AD、インジェクター SIL−10A、恒温槽 CTO−10A、検出器 SPD−10A(いずれも島津製作所)
【0060】
実施例6
1Lビーカー中にグリセリン450 gを入れ撹拌しておき、エタノール150 gを加えて撹拌下に混和した。この混合物にアルガトロバン5 gを加え、必要に応じて加熱して溶解した。この溶液に注射用蒸留水380 gを加え、撹拌下で混和させた。得られた溶液に0.024 mol/Lの塩酸又は0.025 mol/Lの水酸化ナトリウムを加えてpHを約4、4.5、5、5.5、6、6.7、又は7.5に調整し、注射用蒸留水を加えて全量を1Lとした。得られた溶液を加熱滅菌(121℃、20分)し、有効成分以外の物質の生成をHPLC(実施例5と同様な条件)で調べた。結果を図3に示す。図3の結果から、pH4からpH7、好ましくは、pH5からpH7において、有効成分以外の物質の生成が抑制されていることがわかる。
【0061】
実施例7
約25mg又は100mgのアルガトロバンを秤りとり、共栓付き三角フラスコに加えた。そこに予め調製した表8に示す組成の溶解液5mlを加えた。各溶解液のpHは塩酸または水酸化ナトリウムを用いて調整した。その後、直ちに5℃の恒温庫中でスターラーを用いて混合物を撹拌した。24時間後に懸濁液1mlを採取し、0.45μmのメンブランフィルターでろ過してHPLC用サンプルを得た。それぞれの溶解液における溶解度を表8に示す。
【0062】
【表8】

上記のように、エタノール(99.5)15%および20%を含み、かつ濃グリセリン40、45及び50%を含むいずれの溶解液でもアルガトロバン5mg/mL以上の溶解が確認された。
【0063】
実施例8
1アンプル(2mL)中にアルガトロバン10mg、エタノール(99.5)300mg及び濃グリセリン900mgを含む処方に塩酸又は水酸化ナトリウムを添加し、その後2mlとなるように注射用水を添加し、pH5.0〜6.8の注射液を調製した。これらの注射液を加熱滅菌後(121℃、20分)、40℃/75%RHで6箇月間保存し、各種pH注射液におけるアルガトロバンの安定性について検討した。有効成分以外の物質の生成は以下の方法により測定した。その検討結果を表9に示す。
【0064】
測定方法
本品 4 mL を量り,移動相を加えて 10 mL とし,試料溶液とする。この液 5 mL を正確に量り,移動相を加えて正確に 50 mL とする.この液 5 mL を正確に量り,移動相を加えて正確に 100 mL とし,標準溶液とする.試料溶液及び標準溶液 50 μL につき,次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行う.それぞれの液の各々のピーク面積を自動積分法により測定し,標準溶液のアルガトロバンのピーク面積の 200 倍に対する,試料溶液の個々のピーク面積の割合を求める。
【0065】
試験条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:259 nm)
カラム:内径 4.6 mm,長さ 25 cm のステンレス管に 5 μm の液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんする.
カラム温度:45 ℃ 付近の一定温度
移動相:薄めた酢酸(100)(1→400)にアンモニア試液を加えて pH を 5.0 に調整する.この液 550 mL にメタノール 450 mL を加える.
流量:アルガトロバンの 2 つのピークのうち,先に溶出するピークの保持時間が約 50 分になるように調整する.
面積測定範囲:溶媒のピークの後から,アルガトロバンの 2 つのピークのうち先に溶出するピークの保持時間の約 1.4 倍の範囲
【0066】
【表9】

pH5.0〜6.8の範囲では、分解物iが0.10〜0.14%、その他の類縁物質(その他未知物質)は0.10%未満であり、本発明のアルガトロバンアンプル製剤はこのpH範囲で安定であることが確認された。
【0067】
実施例9
1Lビーカー中にグリセリン450 gを入れ撹拌しておき、エタノール150 gを加えて撹拌下に混和した。この混合物にアルガトロバン5 gを加え、必要に応じて加熱して溶解した。この溶液に注射用蒸留水380 gを加え、撹拌下で混和させた。得られた溶液に0.024 mol/Lの塩酸又は0.025 mol/Lの水酸化ナトリウムを加えてpHを約6に調整し、注射用蒸留水を加えて全量を1Lとした。この溶液を1アンプルに2mlずつ分注し、アンプル製剤を得た。その場合のアルガトロバンアンプル製剤は以下の組成である。
【0068】
【表10】

【0069】
比較例
上記実施例1と同様にして、下記表11に「比較組成物」として示す医薬組成物、特開平1−31727号公報の実施例6に記載された医薬組成物(表中「公知組成物」と示す)、及び商品名アルガトロバンとして米国で市販されている製剤(表中「米国市販製剤」と示す:エタノール40.0g,ソルビトール30.0g、及び注射用蒸留水20.0gの混合溶液を50℃に加熱し、アルガトロバン10.0gを加えて溶解させ、注射用水を加えて100mlとすることにより得られた製剤)の粘度を測定した。結果を表11に示す。米国市販製剤の25℃における粘度は13.8mPa・s-1であり、この米国市販製剤については30rpmで測定を行なった。また、20mPa・s-1以上の粘度のサンプルにおける粘度測定は15rpmで実施した。
【0070】
表11中、「注射器からの操作性」は、注射針として21G(ゲージ)を使用した場合に10ml注射筒内へ溶液を吸引する場合の操作性(必要とする指の力および指・手掌にかかる負荷)を示している。21Gよりも細い22Gや23Gの注射針を使用する場合には更に操作性が低下することから、医薬組成物の粘度は10mPa・s-1以下として、できるだけ低い粘度であることが好ましい。
表11に示すとおり、公知組成物及び米国市販製剤は、いずれも操作性が低下していた。また、20mPa・s-1以上の高粘度溶液では、製造時にアンプル内への分注工程などにおいて不具合(正確な容量の充填が困難になるなど)が生じる可能性がある。
【0071】
【表11】

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例4のソルビトール濃度と粘度との関係を示す図である。
【図2】実施例5のHPLCチャートを示す図である。
【図3】実施例6の医薬製剤のpHと類縁物質の生成との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分である下記一般式(I)で表わされるアルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を濃度1mg/mL以上、約10mg/mL以下で含有する溶液(ただし該溶液は少なくとも水を含む溶液である)を含み、該溶液が容量約1mL以上で約20mL以下の容器に充填された形態の医薬製剤。
【化1】

(上記一般式(I)中、R1は(2R,4R)−4−アルキル−2−カルボキシピペリジノ基を示し、R2はフェニル基又は以下に定義する縮合多環式化合物残基を示し、R2は低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキル基で置換されたアミノ基から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい。該縮合多環式化合物残基はベンゼン環を含む縮合多環式化合物残基であり、該ベンゼン環が上記一般式(I)中のスルホニル基のイオウ原子と結合し、且つ該ベンゼン環には複素環であってもよい他の環が縮合し、該多環式化合物残基の環を構成する総炭素原子数が7〜14である残基を示す)。
【請求項2】
一般式(I)中のR1が(2R,4R)−4−メチル−2−カルボキシピペリジノ基であり、R2が3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリル基である請求項1記載の医薬製剤。
【請求項3】
アルギニンアミド類がアルガトロバンである請求項1記載の医薬製剤。
【請求項4】
注射剤として投与するか、又は点滴剤の調製に用いる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
容器の容量が約10mL以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
容器の容量が約2mLである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約5mg/mL含有する溶液を含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約10mg含有する溶液を含む請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
溶液の粘度が25℃において約35.8s-1の剪断速度で約15mPa・s-1以下である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
溶液の粘度が25℃において約71.6s-1の剪断速度で約10mPa・s-1以下である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
溶液のpHが約4から約7である請求項1から請求項10のいずれかに1項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
溶液のpHが約5から約7である請求項1から請求項10のいずれかに1項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
加熱滅菌後に有効成分以外の物質の生成が実質的に抑制された請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項14】
加熱滅菌後に40℃において6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ約0.2%以下に抑制された請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項15】
容器がアンプルである請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項16】
溶液中に一価アルコールを含有する請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項17】
一価アルコールがエタノールである請求項16に記載の医薬製剤。
【請求項18】
溶液中の一価アルコールの含有量が約25%(w/v)以下である請求項16又は請求項17のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項19】
溶液中に約20%(w/v)以下のエタノールを含む請求項16に記載の医薬製剤。
【請求項20】
溶液中に多価アルコールを含有する請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項21】
多価アルコールがグリセリンである請求項20に記載の医薬製剤。
【請求項22】
溶液中の多価アルコールの含有量が約30%(w/v)以上である請求項20又は請求項21に記載の医薬製剤。
【請求項23】
溶液中の多価アルコールの含有量が約40%(w/v)以上である請求項20又は請求項21のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項24】
溶液中に糖類を実質的に含まない請求項1から請求項23のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項25】
溶液中に糖類を含む請求項1から請求項23のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項26】
糖類がソルビトールである請求項25に記載の医薬製剤。
【請求項27】
有効成分である下記一般式(I)で表わされるアルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を濃度1mg/mL以上、約10mg/mL以下で含有し、粘度が25℃において約35.8s-1の剪断速度で約15mPa・s-1以下である溶液(ただし該溶液は少なくとも水を含む溶液である)を含む医薬組成物。
【化2】

(上記一般式(I)中、R1は(2R,4R)−4−アルキル−2−カルボキシピペリジノ基を示し、R2はフェニル基又は以下に定義する縮合多環式化合物残基を示し、R2は低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキル基で置換されたアミノ基から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい。該縮合多環式化合物残基はベンゼン環を含む縮合多環式化合物残基であり、該ベンゼン環が上記一般式(I)中のスルホニル基のイオウ原子と結合し、且つ該ベンゼン環には複素環であってもよい他の環が縮合し、該多環式化合物残基の環を構成する総炭素原子数が7〜14である残基を示す)
【請求項28】
粘度が25℃において約71.6s-1の剪断速度で約10mPa・s-1以下である請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
一般式(I)中のR1が(2R,4R)−4−メチル−2−カルボキシピペリジノ基であり、R2が3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリル基である請求項27又は請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
アルギニンアミド類がアルガトロバンである請求項27から請求項29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
注射剤として投与するか、又は点滴剤の調製に用いる請求項27から請求項30のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約5mg/mL含有する溶液を含む請求項27から請求項31のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項33】
上記アルギニンアミド類、その塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を約10mg含有する溶液を含む請求項27から請求項31のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項34】
溶液のpHが約4から約7である請求項27から請求項33のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項35】
溶液のpHが約5から約7である請求項27から請求項33のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項36】
加熱滅菌後に有効成分以外の物質の生成が実質的に抑えられた請求項27から請求項35のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項37】
加熱滅菌後に40℃において6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ約0.2%以下に抑制された請求項27から請求項36のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項38】
溶液中に一価アルコールを含有する請求項27から請求項37のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項39】
一価アルコールがエタノールである請求項38に記載の医薬組成物。
【請求項40】
溶液中の一価アルコールが約25%(w/v)以下である請求項38又は請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項41】
溶液中に約20%(w/v)以下のエタノールを含む請求項40に記載の医薬組成物。
【請求項42】
溶液中に多価アルコールを含有する請求項27から請求項41のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項43】
多価アルコールがグリセリンである請求項42に記載の医薬組成物。
【請求項44】
溶液中の多価アルコールが約30%(w/v)以上である請求項42又は請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項45】
溶液中の多価アルコールが約40%(w/v)以上である請求項42又は請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項46】
溶液中に糖類を含まない請求項27から請求項45のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項47】
溶液中に糖類を含む請求項27から請求項45のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項48】
糖類がソルビトールである請求項47に記載の医薬組成物。
【請求項49】
有効成分としてアルガトロバンを約1mg/mL以上約10mg/mL以下含有し、粘度が25℃約35.8s-1の剪断速度で約15mPa・s-1以下の溶液からなる医薬組成物。
【請求項50】
約1mg/mL以上、約10mg/mL以下のアルガトロバンを含有し、加熱滅菌後、40℃で6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ、約0.2%以下に抑制された溶液からなる医薬組成物。
【請求項51】
約1mg/mL以上約10mg/mL以下のアルガトロバンを含有し、加熱滅菌後、40℃で6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ約0.2%以下に抑制されており、かつ粘度が25℃において約71.6s-1の剪断速度で約10mPa・s-1以下である溶液からなる医薬組成物。
【請求項52】
約5mg/mLのアルガトロバンを含有し、加熱滅菌後、40℃で6ヶ月保存した後の有効成分以外の物質の生成がそれぞれ約0.2%以下に抑制されており、かつ溶液の粘度が25℃において約71.6s-1の剪断速度で約10mPa・s-1以下である溶液からなる医薬組成物。
【請求項53】
請求項49から請求項52のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、溶液中に約25%(w/v)以下の一価アルコール及び溶解補助剤である多価アルコールを含み、かつpHが約4から約7である溶液からなる医薬組成物。
【請求項54】
請求項49から請求項52のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、pHが約5から約7である溶液からなる医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−8696(P2006−8696A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208135(P2005−208135)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【分割の表示】特願2005−503766(P2005−503766)の分割
【原出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【出願人】(591040753)東和薬品株式会社 (23)
【Fターム(参考)】