説明

アルコール常習者またはアルコール常習者における肝臓疾患を判定するためのペプチドマーカーの測定法

【課題】アルコール常習者またはアルコール常習者における肝臓疾患を判定するためのペプチドマーカーの量を測定する方法を提供することが課題である。
【解決手段】アルコール常習者として疑われる患者またはアルコール常習者で更に肝臓疾患が疑われる患者由来の生体試料中の色素上皮由来因子(Pigment epithelium-derived factor; PEDF)の量を測定することにより、アルコール常習者またはアルコール常習者における肝臓疾患を判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール常習者またはアルコール常習者における肝臓疾患を判定するためのペプチドマーカーの測定法に関する。更に詳細には、生体試料のプロテオーム解析の結果、習慣飲酒に伴って増減しさらに肝臓疾患診断用マーカーとして利用できることが見出された蛋白質のレベルを測定する方法であって、アルコール常習者か非飲酒者かを判定し、アルコール常習者の肝炎か肝硬変かを判定し、またアルコール常習者の断酒による治療効果などを判定するために利用することができるペプチドマーカーの測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルコールによる臓器障害の診断の第一歩は正確な飲酒歴の把握であるが、アルコール依存は否認の病気といわれ、常習飲酒家が、その飲酒量を正確に申告しないのは古今東西変わりがない。従って、その裏づけとなる客観的なマーカーが必要である。習慣飲酒のマーカーとして最も広く測定されているのはγ−GTP(GGT)であるが、飲酒家がGGT高値を示す場合でも、その値は肝障害の重症度や積算飲酒量とは必ずしも相関せず、またアルコール飲用後のGGTの変化には個体差があり、大量飲酒後にも増加しないいわゆるノンリスポンダーが相当数存在する。
一方、飲酒習慣がない場合でも肥満に伴う脂肪肝、ある種の薬剤の常用者など飲酒以外の要因でGGTが上昇する場合も多く、人間ドック等などにおいてGGT高値、即ち飲酒家といった短絡的指導が行われる場合も少なくない。従って、GGTに相補的な検査として糖鎖欠損トンランスフェリン(CDT)が北欧の研究者達により開発され、欧米の文献(非特許文献1)ではその有用性が強調されているが、日本人を対象とした成績では飲酒マーカーとしてのCDTはGGTのノンレスポンダーの10%程度を拾いあげるにとどまっている。
習慣飲酒は肝障害の要因のひとつである。わが国において、200万人を超えると予想されるアルコール依存症の存在を考えると、医療機関を受診する機会がないアルコール性肝障害患者が多数潜在していると予想される。また、習慣飲酒は脳出血、高血圧、痛風などの増悪因子でもあり、問題飲酒者を早期にかつ的確にスクリーニングすることは極めて重要である。しかし、上記のように、現在存在するいわゆる飲酒マーカーにおいて感度・特異度において決定的なものはなく、新たなマーカーを検索することが求められている。
【非特許文献1】CLIN.CHEM.,37/12,2029-2037(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の課題は、問題飲酒者などを早期にしかも的確に判定しうる方法を見出し、肝障害の種類を判定する方法、更にアルコール常習者の断酒による治療効果を判定する方法を見出し、医療に役立てることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記の課題に関して鋭意検討した結果、本発明を完成した。即ち、本発明者らはプロテオーム解析を応用し、断酒目的に入院したアルコール依存症患者において経時的に採取された血清検体を用い、習慣飲酒に伴って増減する血清蛋白を同定することに成功した。そしてこの血清蛋白質は肝臓疾患診断マーカー蛋白質として利用できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、アルコール常習者として疑われる患者またはアルコール常習者で更に肝臓疾患が疑われる患者由来の生体試料中の色素上皮由来因子(Pigment epithelium-derived factor; PEDF)の量(PEDF値)を測定することを特徴とする、アルコール常習者またはアルコール常習者における肝臓疾患を判定するためのペプチドマーカーの測定方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によって、患者由来の生体試料中のPEDFの量(PEDF値)を測定することにより、問題飲酒者などを早期にしかも的確に判定でき、問題飲酒者における肝障害の種類を判定でき、更にはアルコール常習者の断酒による治療効果も早期にしかも的確に判定でき、医療に役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で対象とする患者は、アルコール常習者として疑われる患者またはアルコール常習者で更に肝臓疾患が疑われる患者であり、本発明において生体試料は、これらの患者由来の生体試料であり、生体試料としては、例えば、血漿、血清等の血液由来の試料を例示できる。
本発明により、アルコール常習者またはアルコール常習者における更なる肝臓疾患を判定するためのペプチドマーカーとして利用できることが見出された蛋白質は、色素上皮由来因子(Pigment epithelium-derived factor; PEDF)である。PEDFは、Pigment epithelium-derived factor・Serpin-F1・EPC-1とも呼ばれ、ヒト網膜色素上皮から単離された蛋白質であり(Tombran-Tink et al., Invest. Opthalmol. Vis. Sci., 29, 414, 1989)、418アミノ酸で構成される分子量46342Daの蛋白質で(WO2006/090689号公報)、近年、新たな血管新生阻害因子として注目されているものである(Dawson DW, et al., Science 1999; 285: 245-8)。
【0007】
本明細書において、ペプチドの量あるいはペプチド値とは、ペプチド濃度増加により依存して増加または減少する測定値であってもよく、例えば、質量分析でその量や値を求めるときは、シグナル強度であってよい。
【0008】
本発明において、PEDFの量の測定は、現在蛋白質を測定できる方法として知られている既知のあらゆる方法を採用することができる。例えば、二次元電気泳動法、質量分析法、免疫測定法、電気泳動法、液体クロマトグラフィー(LC)法、ガスクロマトグラフィー(GC)法などが挙げられる。
二次元電気泳動法としては、一次元目に等電点電気泳動、二次元目にSDS−PAGEを行い、CBB染色によりスポットを可視化する方法を挙げることができる。等電点電気泳動のゲルは、例えば、アガロースを等電点範囲pI3〜10で長さ7cmのものを用いることができる。二次元目のSDS−PAGEとしては、例えば、10〜20%のアクリルアミド濃度勾配をつけた、縦8cm、横14cm、厚さ1mmのポリアクリルアミドゲル(DRC社)を用いることができる。分子量マーカーには、例えば、SDS−PAGE Molecular Weight Standards Broad Range(バイオラッド社)を用い、検体中のタンパク質の泳動に影響を与えない泳動ゲルの端部分を利用して、検体と同時に泳動することができる。
【0009】
質量分析法としては、レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(LDI−TOF MS)により行う方法が挙げられる。レーザーイオン化飛行時間型質量分析計としては、表面増強レーザー脱離イオン化(Surface Enhanced Laser Desorption/Ionization)飛行時間型質量分析計(SELDI−TOF MS法)、マトリックス支援レーザーイオン化(Matrix−Assisted Laser Desorption/Ionization)飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF MS法)などを例示できる。
例えば、SELDI−TOF MS法を用いる場合、Ciphergen社により開発されたプロテイン・バイオロジー・システムII・マス・スペクトロメーター(Ciphergen Biosystems,Inc)を使用することができる。この機械はSELDI(surface enhanced laser desorption ionization)と飛行型質量分析計を組み合わせたプロテインチップテクノロジーである。その詳細はWO 01/25791 A2号公報、特開2001−28122号公報等に詳しい。SELDI−TOF MS法の場合、通常、検体を、前処理した後、チップに吸着させて、SELDI−TOF MS質量計に付す。検体が血清の場合、アルブミンの吸着剤を用いるか、イオン交換チップでアルブミンが電荷をもたなくなるまでバッファーで洗浄してアルブミンを系から除去することが好ましい。
これらの方法に用いられるプロテインチップとしては、本発明のマーカーペプチドを吸着できるチップであれば特に限定しない。例えば、疎水性やイオン交換などの蛋白質に親和性を持つ官能基が修飾されているチップ(ケミカルチップともいう)、目的の蛋白質に対する抗体を固定化したチップ(バイオケミカルチップ)等を例示できる。
その他の質量分析法としては、例えばESI法(Electrospray Ionization)による質量分析法が挙げられる。ESI法の場合は、プロテアーゼ処理等の前処理した検体を、高速液体クロマトグラフィー等の分離手段と直結した質量分析計に付するのが好ましいことが多い。
【0010】
免疫測定法としては、本発明のPEDFに対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体を作成し、従来知られている蛋白質を測定する方法を挙げることができる。そのような免疫測定法として、酵素免疫測定法(EIA法)、免疫比濁測定法(TIA法)、ラテックス免疫凝集法(LATEX法)、電気化学発光法、蛍光法などを例示することができる。またイムノクロマト法、試験紙を利用した方法も有効である。これらの方法は、いずれも当業者に周知の方法でありこれら周知の方法をそのまま採用することができる。
上記免疫測定法に使用できる抗体としては既に汎用されている方法により作製されるポリクローナルやモノクローナル抗体が挙げられる。これらの抗体はヒト血液由来精製蛋白質、具体的には、精製PEDFを免疫原(抗原)として使用することにより得ることができる。抗体を作成するための蛋白質PEDFは、ヒト血液から精製して入手してもよいが、公知のペプチド合成技術を用い、化学合成して入手してもよい。これに限らず培養細胞などの産生蛋白質も抗原として用いることができる。更には、遺伝子工学的に作製された完全長の組換え蛋白質、それらの変異体、それらの一部分を用いることも常套手段であり、利用され得るものである。
【0011】
モノクローナル抗体は、PEDFを免疫原として用いて動物を免疫し、その脾臓等に由来する抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞とを融合させることにより得られるハイブリドーマによって産生される。
ハイブリドーマは、例えば、以下の方法によって得ることができる。即ち上述のようにして得た抗原、例えば、マーカー蛋白質をフロイントの完全、不完全アジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、百日咳アジュバント等既に公知のものを用いて共に混和し、感作用アジュバント液を作製して数回に分けてマウス、ラット等の動物に1〜3週間おきに腹腔内皮下または尾静脈投与することによって免疫する。感作抗原量は通常1μg〜100mgの間とされているが、一般的には50μg程度が好ましい。免疫回数は2〜7回が一般的であるがさまざまな方法が知られている。次いで脾臓等に由来する抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞(ミエローマ細胞)等を試験管内で融合する。融合法としては既にそれ自体公知であるケーラーとミルスタインの定法(Nature.256,495.1975)によってポリエチレングリコール(PEG)を用いることで融合できる。センダイウィルス、電気融合法によっても融合を行うことができる。
融合した細胞からマーカー蛋白質を認識する抗体を産生するハイブリドーマを選択する方法としては以下のようにして行うことができる。即ち、融合した細胞から限界希釈法によってHAT培地及びHT培地で生存している細胞により作られるコロニーからハイブリドーマを選択する。96穴ウェルなどにまかれた融合細胞からできたコロニー培養上清中にマーカー蛋白質に対する抗体が含まれている場合には、マーカー蛋白質をプレート上に固定化したアッセイプレート上に上清をのせ、反応後に抗マウスイムノグロブリン−HRP標識抗体等、2次標識抗体を反応させるELISA法により、マーカー蛋白質に対するモノクローナル抗体産生クローンを選択できる。標識抗体の標識物質にはHRPの他、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素、蛍光物質、放射性物質等を用いることができる。またコントロールとしてブロッキング剤であるBSAのみを結合したアッセイプレートによるELISAを同時に行うことでマーカー蛋白質それぞれに対する特異的抗体のスクリーニングができることになる。つまりマーカー蛋白質プレートのいずれかで陽性であり、BSAによるELISA法で陰性のクローンを選択する。
ハイブリドーマは通常細胞培養に用いられる培地、例えばα−MEM、RPMI1640、ASF、S−cloneなどで培養し、その培養上清よりモノクローナル抗体を回収することができる。ハイブリドーマが由来する動物、ヌードマウスをあらかじめプリスタン処理しておき、その動物に細胞を腹腔内注射することによって腹水を貯留させ、その腹水からモノクローナル抗体を回収することもできる。上清、腹水よりモノクローナル抗体を回収する方法としては、通常の方法を用いることができる。例えば、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどによる塩析法やクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAなどによるアフィニティークロマトグラフィーなどが挙げられる。
また、PEDFに対するモノクローナル抗体は、市販されており、それらを用いることもできる。
【0012】
上記方法によって精製されたモノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体によって検体中のPEDFを精密測定することができる。EIA法で検体中のPEDFを測定する方法としては、蛋白質を測定する方法としてそれ自体は公知であり、抗体として蛋白質PEDFに対する1種または複数のモノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体を用いることにより行うことができる。以下にその例を記述する。初めにポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ナイロン、ポリメタクリレートなどのそれ自体公知である固相に直接または間接的に物理結合や化学結合、アフィニティーを利用してマーカー蛋白質PEDFに対するモノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体を結合させる。感作抗体量は通常1ng〜100mg/mlの範囲である。物理結合や化学結合、アフィニティーなどによって固相に結合したモノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体に検体を加えて反応させる。一定時間反応させた後、固相を洗浄し対応する二次標識抗体を加えて更に2次反応させる。固相を再度洗浄し、DAB発色基質などを加え反応させる。標識物質にHRPを用いた場合、基質には既知のDAB、TMBなどを用いることができ、標識物質はこれに限定されるものではない。例えば酵素だけではなく金コロイド、ユーロピウムなどの標識金属やFITC、ローダミン、Texas Red、Alexa、GFPなどの化学的、生物的各種蛍光物質、32P、51Crなどの放射性物質など識別可能なあらゆる物質が挙げられる。
【0013】
以上に説明した方法によりヒト生体試料由来のPEDF量を測定することにより、アルコール非飲酒者と常習者を区別したり、肝障害の種類を区別したり、また、アルコール常習者における断酒の改善効果の指標とすることができる。
すなわち、PEDF値は、アルコール常習者の場合高く、逆にアルコール非飲酒者の場合低いのでアルコール非飲酒者と常習者を区別することができる。また、PEDF値は、肝炎で高くなりやすく、逆に肝硬変では低くなりやすいので肝障害の種類を区別することができる。さらに、PEDF値は、アルコール常習者の断酒により低くなりやすいので、アルコール常習者における断酒の改善効果の指標とすることができる。
【0014】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1
マーカーペプチドの同定
インフォームド・コンセントを行なった患者血清を使用し、二次元電気泳動を用いて血清中の新規肝障害マーカーおよび飲酒マーカーを検索した。検体としてアルコール依存症患者入院直後及び禁酒後3ヶ月の血清を用いた。
以下に実験操作法を簡単に述べる。血清サンプルは前処理としてMulti Affinity Removal Column(Agilent Technologies)によりメジャータンパク質(albumin, IgG, anti−trypsin, IgA, transferrin, haptoglobin)を除去後、VIVA SPIN2(Sartorius stedim biotech)で脱塩・濃縮を行った。血清100μL相当にイモビライン抽出液(7M 尿素、2M チオ尿素、2% CHAPS、0.1M DTT、2.5% ファルマライト、Complete Mini 1 tablet)を10μL加え懸濁した。等電点電気泳動のゲルはアガロースを等電点範囲pI3〜10で長さ7cmのものを用い、400V、15時間電気泳動を行う。二次元目のSDS−PAGEは10〜20%のアクリルアミド濃度勾配をつけた、縦8cm、横14cm、厚さ1mmのポリアクリルアミドゲル(DRC社)を用い、150V、2時間電気泳動を行った。分子量マーカーにはSDS−PAGE Molecular Weight Standards Broad Range(バイオラッド社)を用い、検体中のタンパク質の泳動に影響を与えない泳動ゲルの端部分を利用して、検体と同時に泳動した。続いてCBB染色を行い、アルコール依存症患者入院時と禁酒後3ヶ月の二次元電気泳動パターンを比較した。タンパク質同定は、違いのあるスポットを切り抜き、ゲル中のタンパク質を一晩トリプシン(Roche社)で処理してペプチド断片にした後、これを質量分析機(Q−Star(登録商標)MS、ABI社)にかけ、質量パターンを得て、それをタンパク質同定ソフトMascotにて解析した。その結果、PEDFであった。
【0015】
実施例2
アルコール非飲酒者とアルコール常習飲酒者のPEDF値の測定
アルコール非飲酒者6人と、1日平均アルコール3合以上(日本酒換算80g以上)のアルコール常習飲酒者6人の各血清について、以下に記載する方法によってPEDF値を測定した。
PEDF測定のため、血清の前処理としてMulti Affinity Removal Column(Agilent Technologies)によりメジャータンパク質(albumin, IgG, anti−trypsin, IgA, transferrin, haptoglobin)を除去後、VIVA SPIN2(Sartorius stedim biotech)で脱塩・濃縮を行った。血清2μL相当に2×SDS−sample buffer(0.125M Tris−Cl、2.0% SDS、10% グリセロール、0.05%ブロモフェノールブルー、pH6.8)を10μL加え懸濁し、95℃で3分処理した後、遠心(12000g×20秒)を行ない、得られた上清を新しいチューブに移した。SDS−PAGEは10〜20%のアクリルアミド濃度勾配をつけた、縦8cm、横14cm、厚さ1mmのポリアクリルアミドゲル(DRC社)を用い行った。次いで、公知の方法に従いウェスタンブロッティングを行ない、SDS−Pageで分離したタンパク質をニトロセルロース膜に転写した。転写後のニトロセルロース膜を所定の大きさに切り、ポンソーS染色に供し転写ムラがないか確認した。次いで、ニトロセルロース膜を0.5%スキムミルク−PBS(和光純薬)に室温で60分間浸してブロッキンクし、続いてPBS tween20(0.1%)に室温で5分間浸し洗浄する操作を3回繰り返した。洗浄後のニトロセルロース膜を、マウス抗ヒトPEDF抗体(トランスジェニック(株))含有するPBS中、室温で1時間インキュベートし、続いてPBS tween20(0.1%)に室温で5分間浸し洗浄する操作を3回繰り返した。洗浄後のニトロセルロース膜を、HRP標識抗マウスIgG抗体(ダコ社)を含有するPBS中、室温で1時間インキュベートし、続いてPBS tween20(0.1%)に室温で5分間浸し洗浄する操作を3回繰り返した。洗浄後のニトロセルロース膜を、ECLウェスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア)を用いて添付のプロトコルに従い染色した。画像解析はTotal Lab TL120(島津製作所)を使用し、各バンドの数値化を行った。
【0016】
ウェスタンブロッティングの結果および画像解析の結果を図1に示した。また、画像解析結果における各バンド(PEDF)の体積を数値化しPEDF値を求めたところ表1の結果となった。
【0017】
【表1】

【0018】
表1に示されるように、アルコール非飲酒者全員のPEDF値が8×10未満であるのに対し、アルコール1日3合以上のアルコール常習飲酒者6人のうち、5人が8×10以上であった。従って、PEDF値を求めることにより、アルコール非飲酒者とアルコール常習飲酒者を判定しやすいことが判明した。
【0019】
実施例3
アルコール常習飲酒者における肝障害の種類によるPEDF値の比較
断酒目的のアルコール常習飲酒者の入院時の状況として、肝機能正常者(6人)、肝炎患者(6人)、肝硬変患者(6人)の各血清について、実施例2と同様の方法により、ウェスタンブロッティングおよび画像解析を行った。
ウェスタンブロッティングの結果および画像解析の結果を図2に示した。また、画像解析結果における各バンド(PEDF)の体積を数値化しPEDF値を求めたところ表2の結果となった。
【0020】
【表2】

【0021】
表2に示されるように、肝炎患者6人全員が9.3×10以上であるのに対し、肝硬変患者6人全員が逆に9.3×10未満であった。このことは、PEDFの測定により、アルコール患者の肝炎と肝硬変を区別することが可能であることが判明した。
【0022】
実施例4
アルコール常習飲酒者における3カ月の断酒によるPEDF値の変化
アルコール常習飲酒者で入院し治療を受けた患者8人を対象に入院時と3カ月断酒の各血清について、実施例2と同様の方法により、ウェスタンブロッティングおよび画像解析を行った。
ウェスタンブロッティングの結果および画像解析の結果に基く各バンド(PEDF)の体積を数値化しPEDF値の変化を図3に示した。
図3に示すように、アルコール常習で入院した患者8人のうち7人が、3カ月断酒によりPEDF値が減少した。このことは、PEDF値がアルコール常習者の断酒による改善効果を反映できるマーカーとして使用できうることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上に説明したように、患者由来生体試料中のPEDF量を測定することにより、アルコール非飲酒者と常習者を区別したり、肝障害の種類を区別したり、また、アルコール常習者における断酒の改善効果の指標とすることができ。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例2で行った、アルコール非飲酒者とアルコール常習飲酒者からの血清についてのウェスタンブロッティングおよび画像解析の結果を示す。
【図2】実施例3で行った、アルコール常習飲酒者における各種肝障害患者からの血清についてのウェスタンブロッティングおよび画像解析の結果を示す。
【図3】実施例4で行った、アルコール常習飲酒者における3カ月の断酒によるPEDF値の変化を調べるためのウェスタンブロッティングおよび画像解析の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール常習者として疑われる患者またはアルコール常習者で更に肝臓疾患が疑われる患者由来の生体試料中の色素上皮由来因子(Pigment epithelium-derived factor; PEDF)の量を測定することを特徴とする、アルコール常習者またはアルコール常習者における肝臓疾患を判定するためのペプチドマーカーの測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の測定方法を用いることを特徴とする、アルコール常習者か非飲酒者かを判定する判定方法。
【請求項3】
請求項1記載の測定方法を用いることを特徴とする、アルコール常習者の肝炎か肝硬変かを判定する判定方法。
【請求項4】
請求項1記載の測定方法を用いることを特徴とする、アルコール常習者の断酒による治療効果を判定する判定方法。
【請求項5】
生体試料が血液サンプルである請求項1から4のいずれかに記載の測定方法または判定方法。
【請求項6】
二次元電気泳動法、質量分析法または免疫測定法によりPEDF値を測定する請求項1から5のいずれかに記載の測定方法または判定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−71788(P2010−71788A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239235(P2008−239235)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】