説明

アルコール系飲料用素材

【課題】低い加水分解度でありながらエタノール水溶液への溶解時に白濁せず完全に溶解する安価な澱粉加水分解物およびそれを含むアルコール系飲料を提供すること。更に、澱粉加水分解物の製造方法も提供する。
【解決手段】エタノールの濃度が1〜50容量%のエタノール水溶液に中に、1〜30重量%の濃度で溶解することができる澱粉加水分解物、それを含有するアルコール系飲料および澱粉加水分解物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノール水溶液に容易に溶解し白濁しない澱粉加水分解物、その製造方法、および澱粉加水分解物含むアルコール系飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、嗜好の変化とともにアルコール系飲料メーカーから、ビールだけでなく、低アルコール系飲料(チューハイ、サワー、カクテルなど)、発泡酒、ビール風アルコール系飲料など、各社からさまざまな商品が上市されている。これらには、甘味やコク味の付与、ボディ感の付与、味質、風味向上のなどの目的で澱粉を加水分解して製造されるデキストリンや水飴が多用されており、澱粉加水分解物の果たす役割は非常に重要である。
【0003】
このような澱粉加水分解物を製造する方法としては、澱粉を酸や酵素(主にα―アミラーゼ)によって加水分解することが一般的に行われている。高い分解度の澱粉加水分解物の場合、酸、酵素分解に関わらず、エタノール水溶液には溶解しやすいが、高甘味で着色性も高く、ボディ感に欠ける。
【0004】
酵素のみによる加水分解で得られた低分解度の澱粉加水分解物の場合、低甘味で、コク味やボディ感があるが、エタノール水溶液に溶けにくく白濁が起こる。酸のみによる澱粉加水分解物は、グルコース含量が多くなり、高着色度、高甘味となる傾向がある。
【0005】
他の製造方法としては、例えば、澱粉に対して枝切り酵素や特殊な酵素を用いて特定のオリゴ糖を製造する方法(特許文献1〜3)、澱粉分解物をクロマト分離する方法(特許文献4)などが挙げられる。
【0006】
しかしながら、これらの特許文献に開示されている方法で得られる澱粉加水分解物は、特殊な酵素の使用、またはクロマト分離で成分の一部を除去することにより、高コストになる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭64−39977号公報
【特許文献2】特開平4−210597号公報
【特許文献3】特開平8−205865号公報
【特許文献4】特開昭61−205494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、低い加水分解度でありながらエタノール水溶液への溶解時に白濁せず完全に溶解する安価な澱粉加水分解物を提供し、かつそれを含むアルコール系飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、エタノールの濃度が1〜50容量%のエタノール水溶液に中に、1〜30重量%の濃度で溶解することができる澱粉加水分解物を提供する。
【0010】
前記澱粉加水分解物は好ましくはエタノールの濃度が1〜50容量%のエタノール水溶液に中での溶解濃度が1〜15重量%である。
【0011】
本発明は、また、上記の澱粉加水分解物を含有するアルコール系飲料を提供する。
【0012】
上記澱粉を酸によりDE9〜20まで加水分解した後、酵素により更にDEで2〜26加水分解し、最終DE15〜35まで加水分解することにより本発明の澱粉加水分解物が製造される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の澱粉加水分解物は低加水分解度である為、低甘味でコク味やボディ感があるにも関わらず、エタノール水溶液溶解時に白濁せず、かつ安価という点から、アルコール系飲料全般に対して広く利用が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般に、高分解度の澱粉加水分解物ほどエタノール水溶液への溶解性は高くなると考えられているが、本発明者等が検討したところ、高分解度でも白濁することがある事、白濁を伴う不溶化現象は、ある特定溶解濃度範囲である事を新規に見出した。このような新知見をもとに、本発明者等は、低分解度でエタノール水溶液溶解時に白濁しない澱粉加水分解物を得る事を目的として、鋭意検討を行った。その結果、澱粉を酸で加水分解後、酵素で加水分解するという、2段階加水分解を限定範囲内で行うことにより、本発明を完成するに至った。
【0015】
尚、本明細書において、「DE」とは、「〔(直接還元糖(ブドウ糖として表示)の質量)/(固形分の質量)〕×100」の式で表される値で、Somogyi変法による分析値である。
【0016】
また、本明細書では、エタノール水溶液はエタノールと水を体積比で混合するので容量%で表し、澱粉加水分解物のエタノール水溶液中の濃度は重量%で表すこととする。
【0017】
本発明の澱粉加水分解物の製造方法において使用する澱粉は、特に限定はなく、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、小麦澱粉などが一般的に挙げられる。使用する澱粉の種類は限定されない。
【0018】
本発明の澱粉加水分解物の製造方法において使用する酸は、シュウ酸、塩酸、硝酸、硫酸などが挙げられる。使用する酸の種類は限定されない。
【0019】
本発明の澱粉加水分解物の製造方法において使用する酵素は、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ、プルラナーゼなどが挙げられる。
【0020】
上記製造方法で得られた澱粉加水分解物は、前述のように、アルコール水溶液に対して白濁せずに完全に溶解する。従って、アルコール系飲料に好適に用いられる。
【0021】
本発明の澱粉加水分解物は、特に、エタノールの濃度が1〜50容量%のエタノール水溶液に1〜30重量%の濃度、好ましくは1〜15重量%の濃度で溶解することができる。
【実施例】
【0022】
本発明を実施例より更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、本発明は、固体、液体といった形状に限定されるものではない。
【0023】
(実施例:実施例試料1〜4の作製)
コーンスターチ固形分濃度30%の乳液にシュウ酸を用いてpH2.5に調整し、110〜150℃で所定時間処理し、DE9〜16のDEの異なる4種類の液化液をえた。これらをpH6.5に調整後α―アミラーゼを添加し、90℃以上で最終DEを20になるまで所定時間処理した。この糖化液を130℃以上まで加熱し、α―アミラーゼを失活させて実施例試料1〜4を得た。
【0024】
(比較例試料1〜3の作製)
コーンスターチ固形分濃度30%の乳液にシュウ酸を用いてpH2.5に調整し、110〜150℃で所定時間処理し、DE3〜8のDEの異なる3種類の液化液をえた。これらをpH6.5に調整後α―アミラーゼを添加し、90℃以上で最終DEを20になるまで所定時間処理した。この糖化液を130℃以上まで加熱し、α―アミラーゼを失活させて比較例試料1〜3を得た。
【0025】
(比較例試料4〜6の作製:酸での加水分解を行わない例)
コーンスターチ固形分濃度30%の乳液に消石灰を用いてpH6.0に調整後、α―アミラーゼを添加し、90℃以上で最終DEを19、25、30になるまで所定時間処理した。この糖化液を130℃以上まで加熱し、α―アミラーゼを失活させて比較例試料4、5、6を得た。
【0026】
(比較例試料7の作製:酵素での加水分解を行わない例)
コーンスターチ固形分濃度30%の乳液にシュウ酸を所定量を添加した。110〜150℃で所定時間処理し、最終DEを19になるまで所定時間処理した。この糖化液に消石灰を添加し、pH5.0以上まで上げて比較例試料7を得た。
【0027】
実施例試料1〜4、比較例試料1〜7について、エタノール水溶液溶解性試験(1)を行い、結果を表1にまとめた。
【0028】
【表1】

【0029】
DE分析法:Somogyi変法
エタノール水溶液溶解性試験(1)方法:現物1gに50%(V/V)エタノール水溶液9mlを添加して十分に分散溶解させた後、25度で15分静置し、目視観察した。
【0030】
実施例試料1〜4は、エタノール水溶液に完全溶解した。しかし、比較例試料1〜3では白濁が観察された。比較例試料4〜7は、酵素のみもしくは酸のみによる澱粉加水分解物である。これらは、最終DEが実施例試料1〜4とほぼ同値もしくは高いにもかかわらず、白濁が観察され、溶解性が劣っていた。
【0031】
このようにエタノール水溶液に溶解する素材を製造するためには、酸による限定分解後に酵素による分解が必須であり、酸のみによる分解、酵素のみによる分解では、本発明の目的を達成することが不可能であることが明確になった。
【0032】
通常、溶解濃度が低い場合は溶解し、溶解濃度が高くなるに従って不溶になるというのが一般常識であった。図1には、比較例試料6(酵素のみによる市販澱粉加水分解物)のエタノール水溶液(50%(V/V)エタノール水溶液)への溶解性を図示した。また、図1には、前述の実施例試料1のエタノール水溶液への溶解性も図示した。溶解性は溶液の透過度で確認した。図1に示した比較例試料6に見られるように、極低濃度では溶解するが、2〜12%濃度では不溶となり、更に高濃度になると再び溶解するという事実が解った。また、不溶化のピーク濃度は図1に示すように5〜6%であった。
【0033】
比較例試料6が溶解濃度2〜12%において不溶であるのに対し、実施例試料1は溶解濃度に関係なく全ての濃度範囲で完全溶解していた。アルコール系飲料に添加される糖質の濃度は通常10%以下の低濃度であり、この低濃度範囲で完全に溶解することがアルコール系飲料素材としての必須要件となる。
【0034】
エタノール水溶液溶解性試験(2)
実施例試料1〜4、比較例試料4〜7について、溶解濃度1〜30%の範囲でエタノール水溶液に対する溶解性試験(図1と同条件)を行い、表2にまとめた。
【0035】
エタノール水溶液溶解性試験(1)と同様に、50%(V/V)エタノール水溶液を用いて各濃度の試料溶液を調製し、十分に分散溶解させた後、25度で15分静置し、目視観察した。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、1〜10%の低溶解濃度で比較例試料4〜7は完全には溶解しなかったのに対し、実施例試料1〜4は完全に溶解した。よって、本発明の澱粉加水分解物のみがアルコール系飲料に添加される糖質10%以下の濃度で完全に溶解することが明らかとなった。
【0038】
本発明の澱粉加水分解物は50%(V/V)エタノール水溶液に溶解することから、低アルコール濃度のアルコール系飲料にも、低濃度で添加する素材として有用であることが明らかになった。
【0039】
このように、本発明の澱粉加水分解物のみが、エタノール水溶液への完全溶解というアルコール系飲料に求められる必須要件をすべて満足することにより、本発明を完成するに至った。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明では、低い加水分解度でありながらエタノール水溶液への溶解時に白濁せず完全に溶解する安価な澱粉加水分解物を提供することができ、それらは甘味やコク味の付与、ボディ感の付与、味質、風味向上のなどの目的でアルコール系飲料に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は比較例試料6(酵素のみによる市販澱粉加水分解物)のエタノール水溶液への溶解性および実施例試料1の同じエタノール水溶液への溶解性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールの濃度が1〜50容量%のエタノール水溶液に中に、1〜30重量%の濃度で溶解することができる澱粉加水分解物。
【請求項2】
前記澱粉加水分解物がエタノールの濃度が1〜50容量%のエタノール水溶液に中での溶解濃度が1〜15重量%を有する請求項1記載の澱粉加水分解物。
【請求項3】
請求項1または2記載の澱粉加水分解物を含有するアルコール系飲料。
【請求項4】
澱粉を酸によりDE9〜20まで加水分解した後、酵素により更にDEで2〜26加水分解し、最終DE15〜35まで加水分解することを特徴とする請求項1記載の加水分解物の製造方法。
【請求項5】
澱粉を酸によりDE9〜20まで加水分解した後、酵素により更にDEで2〜26加水分解し、最終DE15〜35まで加水分解することを特徴とするエタノールの濃度が1〜50容量%のエタノール水溶液に中に、1〜30重量%の濃度で溶解することができる澱粉加水分解物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−207247(P2010−207247A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−141918(P2010−141918)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】