説明

アレルギー抑制剤

【課題】 天然物由来の素材を使用して、安定したアレルギー抑制効果を発揮する新規な薬剤、及びそれらを含む食品、飲料又は化粧品を安価に提供する。
【解決手段】 本発明は、クラミドモナス属の藻類を有効成分として含有する、慢性皮膚炎などのアレルギー性疾患の治療又は予防に有用なアレルギー抑制剤である。クラミドモナス属の藻類としては、クラミドモナスW80株(FERM P−18474)が好ましい。また、クラミドモナス属の藻類は、乾燥粉末の形態であることが好ましい。本発明はまた、上述のアレルギー抑制剤を含有する食品、飲料又は化粧品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類を有効成分として含有するアレルギー抑制剤、及びそれを含有する食品、飲料又は化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境や食生活の変化により、アレルギー性疾患が急増しており、社会的な問題となっている。特に、子供から成人に至るまで広がりを見せる花粉症や慢性皮膚炎などのアレルギー性疾患は、日常生活に支障をきたし、重篤なケースでは、死にもつながりうる場合がある。
【0003】
アレルギー性疾患を予防する薬剤として、体内に侵入した抗原に対するアレルギー反応を抑制するアレルギー抑制剤が知られている。アレルギー抑制剤としては、合成化合物、天然物を加工したものなど多数のものが提案されている。
【0004】
合成化合物を使用したアレルギー抑制剤としては、例えば、スルホンアミド化合物を有効成分とするアレルギー抑制剤(特許文献1参照)や、イミダゾール化合物を有効成分とするアレルギー抑制剤(特許文献2参照)が提案されている。また、天然由来の素材を使用したアレルギー抑制剤としては、例えば、緑豆抽出エキスを有効成分とするアレルギー抑制剤(特許文献3参照)や、乳酸菌を有効成分とするアレルギー抑制剤(特許文献4参照)が提案されている。
【0005】
これらのアレルギー抑制剤のうち、天然物由来のものは、効果の持続性や安定性に問題があり、広く利用されるには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特再表2000−034277号公報
【特許文献2】特再表2000−039097号公報
【特許文献3】特開平11−206342号公報
【特許文献4】特開2009−112232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、天然物由来の素材を使用して、安定したアレルギー抑制効果を発揮する新規な薬剤、及びそれらを含む食品、飲料又は化粧品を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる目的を達成するために様々な天然物由来の素材から、多量生産が容易でかつアレルギー抑制効果を顕著に有するものをサーチした結果、短時間で容易に多量培養できるクラミドモナス属の藻類が高い免疫賦活効果を発揮し、結果として顕著なアレルギー抑制効果を安定して奏することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明によれば、クラミドモナス属の藻類を有効成分として含有することを特徴とするアレルギー抑制剤が提供される。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、クラミドモナス属の藻類は、クラミドモナスW80株(FERM P−18474)である。本発明のさらに好ましい態様によれば、クラミドモナス属の藻類は乾燥粉末の形態である。本発明の特に好ましい態様によれば、本発明のアレルギー抑制剤は慢性皮膚炎を予防又は治療するためのものである。
【0011】
また、本発明によれば、上述のアレルギー抑制剤を含有することを特徴とする食品、飲料又は化粧品も提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアレルギー抑制剤は、天然素材のクラミドモナス属の藻類を使用するので、合成化合物を使用するものとは異なり、安全であり、しかも、多量培養が可能な材料を使用するので、製造が容易で安価である。また、本発明のアレルギー抑制剤は、免疫賦活効果に優れ、従って、アレルギー反応を抑制する効果に優れるので、慢性皮膚炎や花粉症などのアレルギー性疾患を効果的に予防又は治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施例で飼育した慢性皮膚炎誘起マウスの耳厚み変化を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例で飼育した慢性皮膚炎誘起マウスの血中IgE濃度を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例で飼育した慢性皮膚炎誘起マウスの小腸パイエル板の個数と面積を示すグラフである。
【図4A】図4Aは、実施例で飼育した慢性皮膚炎誘起マウスの解剖時肝臓重量を示すグラフである。
【図4B】図4Bは、実施例で飼育した慢性皮膚炎誘起マウスの解剖時脾臓重量を示すグラフである。
【図4C】図4Cは、実施例で飼育した慢性皮膚炎誘起マウスの解剖時腎臓重量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のアレルギー抑制剤について具体的に説明する。
【0015】
本発明のアレルギー抑制剤の有効成分は、クラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類からなることを特徴とする。クラミドモナス属の藻類は、天然素材であるので、安全であると共に、培養が容易であるので、多量に生産することが可能である。クラミドモナス属の藻類は、淡水や海水中に生息する単細胞の緑藻の一種であり、従来から食用されることがなく、遺伝学において効果確認のための実験材料として使用されている例があるにすぎない。その他の用途としては、最近、美白剤(特開2010−13413号公報)及び育毛剤(特開2010−13416号公報)が提案されているだけである。
【0016】
クラミドモナス属の藻類は、いかなる種類のものも使用可能であるが、入手や培養の容易性の点から、クラミドモナスW80株を使用することが好ましい。クラミドモナスW80株は、日本国近畿地方の沿岸で採集された海産性のクラミドモナスであり、特許生物委託センター[日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6(郵便番号305−8566)]にFERM P−18474として寄託されている。
【0017】
クラミドモナス属の藻類は、河川や海に生息している野生のものを採取してそのまま使用することも可能であるが、藻類の株を予め用意してそれを培養して増殖させたものを使用することが、品質の均一性や原料確保の安定性の点から好ましい。培養方法としては、藻類用の適当な培地中で明条件かつ好気条件下で培養する方法であれば、特に限定されないが、例えば、クラミドモナスW80株の場合、5mM程度のNHClを含有する改良されたオカモト培地(pH8.0付近)中で、蛍光灯の連続照明及び空気給気条件下で培養する方法を採用することができる。培養により増殖された藻類は、そのままでは取扱いが困難であるので、水やアルコールなどの溶媒で抽出してエキスを取り出して使用するか、又は乾燥させた後、粉末化して使用することが好ましい。取扱いや保存の容易性の点からは、クラミドモナス属の藻類を乾燥粉末化したものを使用することが特に好ましい。乾燥粉末化の方法としては、例えば、藻類を培地から回収していったん乾燥させたものを蒸留水などに溶解させてオートクレーブなどで滅菌処理した後、風乾して粉砕する方法を挙げることができる。
【0018】
本発明のアレルギー抑制剤は、上記のクラミドモナス属の藻類の乾燥粉末やエキスを有効成分として、公知の医薬用担体や所望の成分と組合せて従来公知の方法で容易に製造することができる。医薬用担体としては、例えばデンプン、乳糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などを使用することができる。また、医薬用担体以外の成分としては、必要に応じて賦型剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、安定剤などを含有させることができる。剤形は特に限定されないが、乾燥粉末の形態のクラミドモナス属の藻類を使用する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、カプセル剤などの固形剤とすることが好ましく、エキスの形態のクラミドモナス属の藻類を使用する場合は、通常液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤とすることが好ましい。
【0019】
本発明のアレルギー抑制剤におけるクラミドモナス属の藻類の使用量は、その製剤形態や投与方法に応じて適宜選択されるが、一般的には、乾燥粉末の場合は投薬単位あたり0.1mg〜1gであり、エキスの場合は投薬単位あたり0.5mg〜5gである。また、本発明のアレルギー抑制剤の投与量は、投与対象の患者の年齢や体重、症状に応じて適宜選択されるが、一般的には、製剤中に含有されるクラミドモナス属の藻類の量が、乾燥粉末の場合は成人1日当り1mg〜5g/kg体重であり、エキスの場合は成人1日当り5mg〜25g/kg体重である。
【0020】
本発明のアレルギー抑制剤は、固形剤又は液剤として経口投与することが好ましい。また、本発明のアレルギー抑制剤は、任意の食品又は飲料に含有させてアレルギー予防又は治療の効果を有する食品又は飲料とすることができる。食品の形態としては、例えばハム、ソーセージ、カマボコ、チクワなどの食肉及び魚肉加工製品、カレー、シチューなどのレトルト食品、チーズ、アイスクリーム、ヨーグルトなどの乳製品;飴、ガム、クッキー、ケーキ、プリン、羊羹、饅頭、最中、大福、団子、ぜんざいなどの和洋菓子類;サラダ油、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシングなどの油脂及び油脂加工食品が挙げられ、飲料の形態としては、例えばスポーツ飲料、清涼飲料、炭酸飲料水、果汁入り飲料、コーヒー、紅茶、ココアなどが挙げられる。食品又は飲料にアレルギー抑制剤を含有させるには、食品又は飲料の製造工程のいずれかでアレルギー抑制剤を混入するか、又は出来上がった食品又は飲料に振りかけるなどによりアレルギー抑制剤を添加すればよい。本発明の食品又は飲料におけるアレルギー抑制剤の含有量は、食品又は飲料の本来の味を損なわない範囲で適宜選択されるが、一般的には、食品1kgあたり0.1g〜20gである。
【0021】
また、本発明のアレルギー抑制剤は、任意の化粧品に含有させてアレルギー予防又は治療の効果を有する化粧品とすることができる。化粧品の形態としては、例えば化粧石鹸、洗顔料、化粧水、乳液、ファンデーション、アイシャドウ、口紅、日焼け止めクリーム、ひげそり用クリーム、シャンプー、リンス、頭髪用化粧品などが挙げられる。化粧品にアレルギー抑制剤を含有させるには、化粧品の製造工程のいずれかで化粧品にアレルギー抑制剤を混入すればよい。本発明の化粧品におけるアレルギー抑制剤の含有量は、化粧品の本来の機能を損なわない範囲で適宜選択されるが、一般的には、化粧品1kgあたり0.1g〜20gである。
【0022】
以上のようにして作られた本発明のアレルギー抑制剤は、後述の実施例に示されるように、投与された対象の小腸パイエル板の個数と面積を増大させ、血中IgE濃度の上昇を抑制する作用を有し、慢性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹などのアレルギー性疾患の誘発を効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明のアレルギー抑制剤に使用されるクラミドモナス属の藻類の効果を具体的に示す。実施例では、クラミドモナス属の藻類の乾燥粉末を含有する飼料をマウスに摂取させて、慢性皮膚炎の誘発の抑制度合、血中IgE濃度、小腸パイエル板の個数と面積、及び内臓重量を評価した。
【0024】
1.クラミドモナス属の藻類の乾燥粉末の調製
クラミドモナス属の藻類としてクラミドモナスW80株を使用して、乾燥粉末を調製した。具体的には、クラミドモナスW80株を培養して増殖させ、遠心分離により回収して乾燥させた後、等量の蒸留水に懸濁し、120℃、1.2気圧のオートクレーブで30分滅菌処理した後、風乾し、ミキサーで粉砕してクラミドモナスW80株の乾燥粉末を調製した。
【0025】
2.飼料の調製
以下の表1に示す組成の二種類の高脂肪マウス飼料(飼料A及び飼料B)を調製した。飼料Aは、1.で調製したクラミドモナス属の藻類の乾燥粉末を1重量%含有する飼料であり、飼料Bは、クラミドモナス属の藻類の乾燥粉末を含有しない飼料である。
【0026】

【0027】
3.アレルギー抑制剤効果の確認
C57BL/6マウス(7週齢、オス)を12匹用意し、これらのマウスを一週間予備飼育した後、平均体重がほぼ一致するように2群(本発明例及び対照群)に分けた。
【0028】
本発明例群のマウスには、表1の飼料Aを供給し、対照群のマウスには、表1の飼料Bを供給し、飼育した。飼育温度は、23±2℃とし、明暗周期は、12時間とした。マウスは、飼育期間を通して1匹ずつケージ内で個別飼育し、自由摂食・摂水とした。
【0029】
飼育開始から一週間後に、デジタルノギスでマウスの両耳の厚みを測定した。一方、慢性皮膚炎を誘発することが知られている2,4,6−トリニトロクロロベンゼン(TNCB)をアセトンに0.3重量%の濃度で溶解した溶液(以下、0.3%TNCB溶液と称する)を調製し、厚み測定後のマウスの右耳に10μl塗布し、マウスを感作させた。左耳には、陰性対照として、アセトンのみを10μl塗布した。
【0030】
感作の4日後に、再度、マウスの右耳に0.3%TNCB溶液を、左耳にアセトンをそれぞれ10μl塗布し、初期誘発を生じさせた。
【0031】
以降、17日目まで1〜2日間隔で、デジタルノギスでマウスの両耳の厚みを測定した後、マウスの右耳に0.3%TNCB溶液を、左耳にアセトンをそれぞれ10μl塗布し、反復誘発による慢性皮膚炎をマウスに誘起させた。各測定時点でのマウスの右耳及び左耳の厚みを図1に示した。
【0032】
17日目にマウスの血液を採取し、IgE測定キット(レビスIgE−ELISAキット(マウス)((株)シバヤギ))を使用して血中IgE濃度を測定し、その結果を図2に示した。その後、マウスを屠殺し、解剖して小腸を取り出し、10%ホルマリン溶液中で固定した。この小腸の表面に認められるパイエル板の数を肉眼で計数した。また、デジタルノギス((株)ミツトヨ)で各々のパイエル板の長さと幅を計測して、パイエル板の面積を算出した。これらの結果を図3に示した。また、肝臓、脾臓及び腎臓の重量を計量し、体重あたりの百分率(%)に換算し、その結果を図4A〜4Cに示した。
【0033】
図4A〜4Cに示されるように、本発明例群のマウスと対照群のマウスとの間で解剖時の内臓重量に有意な差は認められなかった。一方、図1に示されるように、本発明例群のマウスでは、対照群のマウスと比較して、感作の7日目以降、マウスの右耳の耳厚みが有意に小さく、TNCB塗布によって誘起される慢性皮膚炎が抑制されていた。また、図2に示されるように、本発明例群のマウスでは、対照群のマウスと比較して、血中IgE濃度が有意に低く、慢性皮膚炎時に生じる血中IgE濃度の上昇が抑制されていた。さらに、図3に示されるように、本発明例群のマウスでは、対照群のマウスと比較して、腸管免疫に関連する小腸パイエル板の個数と面積が有意に増加しており、腸管免疫が活性化されていた。これらの結果から、クラミドモナス属の藻類には、腸管免疫の活性化を介して対象におけるアレルギー反応を著しく抑制する効果があることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のアレルギー抑制剤は、アレルギー反応を抑制する効果に優れると共に、安全であり、製造が容易で安価であるので、慢性皮膚炎や花粉症などのアレルギー性疾患の予防や治療のための医薬、食品、飲料又は化粧品において広く有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラミドモナス属の藻類を有効成分として含有することを特徴とするアレルギー抑制剤。
【請求項2】
クラミドモナス属の藻類が、クラミドモナスW80株(FERM P−18474)であることを特徴とする、請求項1に記載のアレルギー抑制剤。
【請求項3】
クラミドモナス属の藻類が乾燥粉末の形態であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレルギー抑制剤。
【請求項4】
慢性皮膚炎を予防又は治療するためのものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアレルギー抑制剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアレルギー抑制剤を含有することを特徴とする食品又は飲料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアレルギー抑制剤を含有することを特徴とする化粧品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公開番号】特開2012−116754(P2012−116754A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264691(P2010−264691)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】