説明

アーク溶接トーチ

【課題】溶接ワイヤのインチング、リトラクト、及びガスチェック等の調整作業を、作業者が溶接電源やリモコンに備えられたボタン等を使わずに、アーク溶接トーチに備えられたボタン等によって常に手元で行うことができる溶接トーチを提供する。
【解決手段】アーク溶接トーチにおいて、溶接ワイヤを順方向に送給するインチングモード、溶接ワイヤを逆方向に送給するリトラクトモード及びシールドガスを放流するガスチェックモードを含む複数の調整モードのいずれか1つを選択する調整モード選択手段23と、この調整モード選択手段によって選択された前記調整モードを識別可能に表示する表示手段22と、前記調整モード選択手段によって選択された前記調整モードに対応した調整モード指令MCを出力する実行ボタン24と、この調整モード指令を前記溶接電源に送出するデータ送出手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤのインチング、リトラクト及びガスチェック等の調整作業をアーク溶接トーチに備えられたボタン等によって行うことができるアーク溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来のアーク溶接装置の概略構成図である。同図において、アーク溶接装置は、溶接電源10と、シールドガスが充填されたガスボンベ15と、ガスボンベ15に取り付けられたガス流量調整器16と、溶接ワイヤを巻回したワイヤリール11と、溶接用電力、溶接ワイヤ及びシールドガスの中継及び供給を行なうワイヤ送給機12と、トーチスイッチ21を設けたアーク溶接トーチ14とにより構成される。このアーク溶接装置によってワークWはアーク溶接される。
【0003】
作業者が溶接作業を行うワークWの設置位置と溶接電源10の設置位置とが離れている場合も多いので、上述した構成に、リモコン17を加えるのが一般的である。リモコン17には、溶接施工条件を調整するためのツマミ、ボタン等が備わっている。このため、作業者が常にリモコン17を手元に持ち運んでいれば、溶接施工条件の調整操作等が必要な際に、いちいち溶接電源10の設置位置まで移動する必要がない。すなわち、調整操作の際の移動の煩雑さを解消することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、近年では、溶接施工条件を溶接電源10又はリモコン17ではなく、アーク溶接トーチ14で調整できるように改良を加えて、作業者により近い位置で溶接施工条件の調整操作を可能にしている。
【0005】
図10は、この溶接施工条件の調整を可能にしたアーク溶接トーチの操作部の概略図である。同図(a)はアーク溶接トーチ14を側面から見た図であり、トーチスイッチ21が備わっている。トーチスイッチ21をオンすることにより、トーチ先端部からシールドガスが放流され、ワイヤが送給され、ワークWとワイヤ先端との間に出力電圧が印加され、アーク溶接が開始される。
【0006】
同図(b)は、同図(a)をAの方向から見た図である。同図(b)に示すようにアーク溶接トーチ14には、表示器22と、調整モード選択ボタン23と、第1調整ボタン24a及び第2調整ボタン24bとが備わっている。調整モード選択ボタン23を押すことによって、溶接施工条件を調整するための溶接電流調整モード及び溶接電圧調整モードが順番に選択され、選択された調整モードは表示器22に識別可能に表示される。表示器22には選択された調整モードにおける調整値(溶接電流設定値及び溶接電圧設定値)も同時に表示されており、第1調整ボタン24aを押すことによって調整値が増加し、第2調整ボタン24bを押すことによって調整値が減少する。そして、この調整値は溶接電源10に送出され、溶接電源10に記憶される。
【0007】
このように、近年においては、溶接電流、溶接電圧等の溶接施工条件を溶接電源10又はリモコン17ではなく、アーク溶接トーチ14を用いて調整することが可能になっている。
【特許文献1】特開昭62−006777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、アーク溶接作業においては、溶接電流・電圧の調整だけでなく、作業者が溶接を開始する前の調整作業として、溶接ワイヤを順方向に送給するインチング作業、シールドガスが放流されるか否かをチェックするガスチェック作業等が不可欠である。従来、これらの調整作業は、溶接電源10に備えられたインチングボタン又はガスチェックボタンを用いて行っていた。上述したように溶接電源10はワークWの設置位置から離れて設置されている場合が多いため、インチング作業、ガスチェック作業等の調整作業が必要な場合は、その都度、溶接電源10が設置された位置まで作業者が移動してから操作を行う煩雑さがある。さらに、特許文献1に記載されているように、持ち運び可能なリモコン17でもインチング作業等が行える改良がなされているものの、次の課題を有している。
【0009】
溶接作業をする際、作業者が常にリモコン17を持ち運ぶとは限らない。例えば、ワークWが非常に大きく溶接箇所が多いと、作業者はリモコン17をワークWに近い位置まで持ち運ぶが、作業者の手元までは持ち運ばない場合が多い。また、リモコン17と溶接電源10とを接続するケーブルの長さには限り(例えば5m等)があるので、リモコン17を作業者の手元まで持ち運べない場合もある。すなわち、作業者はリモコン17を作業者の近くまでは持ち運ぶことができるが、作業者の常に手元まで持ち運ぶことは煩雑である。したがって、インチング等の調整作業が必要な場合は、リモコン17の位置まで移動してから調整作業を行わなければならないという煩雑さがある。
【0010】
そこで、本発明は、作業者が溶接ワイヤのインチング、リトラクト及びガスチェックの調整作業を常に手元で行うことができるアーク溶接トーチを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1の発明は、
溶接開始信号を溶接電源に送出するトーチスイッチを備えたアーク溶接トーチにおいて、
溶接ワイヤを順方向に送給するインチングモード、溶接ワイヤを逆方向に送給するリトラクトモード及びシールドガスを放流するガスチェックモードを含む複数の調整モードのいずれか1つを選択する調整モード選択手段と、
この調整モード選択手段によって選択された前記調整モードを識別可能に表示する表示手段と、
配設された実行ボタンがオンされたときは前記調整モード選択手段によって選択された前記調整モードに対応した調整モード指令を出力する調整モード指令手段と、
この調整モード指令を前記溶接電源に送出するデータ送出手段と、を備え、
前記調整モード指令としてインチングモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを順方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてリトラクトモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを逆方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてガスチェックモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままでシールドガスを予め定めた調整値の流量で放流することを特徴とするアーク溶接トーチである。
【0012】
第2の発明は、
溶接開始信号を溶接電源に送出するトーチスイッチを備えたアーク溶接トーチにおいて、
溶接ワイヤを順方向に送給するインチングモード、溶接ワイヤを逆方向に送給するリトラクトモード、シールドガスを放流するガスチェックモード及び溶接を行う溶接モードを含む複数の調整モードのいずれか1つを選択する調整モード選択手段と、
この調整モード選択手段によって選択された前記調整モードを識別可能に表示する表示手段と、
前記トーチスイッチがオンされたときは前記調整モード選択手段によって選択された前記調整モードに対応した調整モード指令を出力する調整モード指令手段と、
この調整モード指令を前記溶接電源に送出するデータ送出手段と、を備え、
前記調整モード指令としてインチングモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを順方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてリトラクトモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを逆方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてガスチェックモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままでシールドガスを予め定めた調整値の流量で放流し、
前記調整モード指令として溶接モード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を印可しアーク溶接を開始することを特徴とするアーク溶接トーチである。
【0013】
第3の発明は、
溶接開始信号を溶接電源に送出するトーチスイッチを備えたアーク溶接トーチにおいて、
溶接ワイヤを送給するワイヤ送給モード、及びシールドガスを放流するガスチェックモードを含む複数の調整モードのいずれか1つを選択する調整モード選択手段と、
この調整モード選択手段によって選択された前記調整モードを識別可能に表示する表示手段と、
第1実行ボタン及び第2実行ボタンを配設し、前記調整モード選択手段によって選択された前記調整モードが前記ワイヤ送給モードでありかつ前記第1実行ボタンがオンされたときはインチングモード指令を出力し、前記ワイヤ送給モードでありかつ前記第2実行ボタンがオンされたときはリトラクトモード指令を出力し、前記ガスチェックモードでありかつ前記第1実行ボタンがオンされたときはガスチェックモード指令を出力する調整モード指令手段と、
この調整モード指令を前記溶接電源に送出するデータ送出手段と、を備え、
前記調整モード指令としてインチングモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを順方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてリトラクトモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを逆方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてガスチェックモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままでシールドガスを予め定めた調整値の流量で放流することを特徴とするアーク溶接トーチである。
【0014】
第4の発明は、
前記調整モード選択手段によって選択された前記調整モードに対応して予め定められた調整値を、増加させる第1調整ボタン及び減少させる第2調整ボタンをさらに備え、
前記データ送出手段は前記調整モード指令及びそれに対応した前記調整値を前記溶接電源に送出する、ことを特徴とする第1乃至第3の発明のいずれか1に記載のアーク溶接トーチである。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、アーク溶接トーチにインチング、リトラクト及びガスチェックの調整手段を設けたので、離れた位置にある溶接電源又はリモコンまで移動しなくても、常に手元で調整作業を行うことができる。
【0016】
第2の発明によれば、第1の発明に記載の実行ボタンを作業者の掌にあたる部分に配置されたトーチスイッチで代用したので、実行ボタンを操作するよりも容易且つ機敏な操作で調整作業を行うことができる。すなわち、第1の発明による効果に加え、操作性をより一層向上させることができる。
【0017】
第3の発明によれば、第1及び第2の発明に記載のインチングモードとリトラクトモードとを1つのワイヤ送給モードとし、2つの実行ボタンでインチングとリトラクトを切り替えるようにしたので、調整モード選択操作の煩雑さを低減し、直感的で分かり易い操作で調整作業を行うことができる。すなわち、第1の発明による効果に加え、操作性をより一層向上させることができる。
【0018】
第4の発明によれば、インチング、リトラクト又はガスチェックの各調整モードにおける調整値を可変にしたので、例えば、溶接ワイヤの交換時にインチングを高速に行えば、交換作業を短時間で行うことができる。また、ガスチェック時のガスの放流量を少なくすれば資源の節約になるので、経費低減及びCO2ガスの排出量低減に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[実施の形態1]
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態を示すアーク溶接トーチの操作部の概略図である。同図に示すように、アーク溶接トーチの操作部には表示部22、調整モード選択ボタン23、及び実行ボタン24が備わっている。
【0021】
図2は、本発明の第1実施形態を示すアーク溶接トーチのブロック図である。同図に示すように、アーク溶接トーチは、調整モード選択ボタン23と調整モード制御部SCとから成る調整モード選択制御部31、表示部22、実行ボタン24、調整モード指令制御部TC及びデータ送出制御部DCから構成されている。同図において、調整モード選択ボタン23、表示部22、実行ボタン24は、図1と同符号を付与した同一のものである。
【0022】
以下、アーク溶接トーチ及びアーク溶接装置全体の動作を説明する。
【0023】
調整モード選択ボタン23が押されることによって、調整モード制御部SCが、溶接ワイヤを順方向に送給するインチングモード、溶接ワイヤを逆方向に送給するリトラクトモード及びシールドガスを放流するガスチェックモードを順番に選択する。そして、選択された調整モードに対応した調整モード情報Miを表示部22と調整モード指令制御部TCに出力する。表示部22では出力された調整モード情報Miに基づいて、選択された調整モードを識別可能に表示する。この際の表示は文字によるものでも良いし、アイコンによる表示でも良い。
【0024】
次に、実行ボタン24が押されることによって、調整モード指令制御部TCは出力された調整モード情報Miに基づいて、調整モード指令Mcをデータ送出制御部DCに出力する。データ送出制御部DCは、この調整モード指令Mcを溶接電源10に送出する。
【0025】
そして、調整モード指令Mcとしてインチングモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、インチング指令と予め定めたワイヤ送給速度指令をワイヤ送給装置に送出する。その結果、溶接ワイヤの順方向送給が予め定めた調整値の速度で行われる。
【0026】
また、調整モード指令Mcとしてリトラクトモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、リトラクト指令と予め定めたワイヤ送給速度指令をワイヤ送給装置に送出する。その結果、溶接ワイヤの逆方向送給が予め定めた調整値の速度で行われる。
【0027】
また、調整モード指令Mcとしてガスチェックモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、ガス放流指令と予め定めたガス流量指令をガス流量調整器に送出する。その結果、シールドガスの放流が予め定めた調整値の流量で行われる。
【0028】
このように、アーク溶接トーチにインチング、リトラクト、及びガスチェックの調整機能を設けたので、離れた位置にある溶接電源又はリモコンまで移動しなくても、常に手元で調整作業が行うことができる。
【0029】
[実施の形態2]
次に本発明の第2実施形態について説明する。
【0030】
図3は、本発明の第2実施形態を示すアーク溶接トーチの操作部の概略図である。同図に示すように、アーク溶接トーチの操作部には表示部22及び調整モード選択ボタン23が備わっている。そして、操作部の真裏の位置に、点線枠を付与したトーチスイッチ21が備わっている。なお、本実施形態においては、第1実施形態における実行ボタン24がトーチスイッチ21に置き換わっている。
【0031】
図4は、本発明の第2実施形態を示すアーク溶接トーチのブロック図である。同図に示すように、アーク溶接トーチは、調整モード選択ボタン23と調整モード制御部SCとから成る調整モード選択制御部31、表示部22、トーチスイッチ21、調整モード指令制御部TC及びデータ送出制御部DCから構成されている。同図において、調整モード選択ボタン23及び表示部22は、図3と同符号を付与した同一のものである。
【0032】
以下、アーク溶接トーチ及びアーク溶接装置全体の動作を説明する。
【0033】
調整モード選択ボタン23が押されることによって、調整モード制御部SCが、溶接ワイヤを順方向に送給するインチングモード、溶接ワイヤを逆方向に送給するリトラクトモード、シールドガスを放流するガスチェックモード及び溶接を行う溶接モードを順番に選択する。そして、選択された調整モードに対応した調整モード情報Miを表示部22と調整モード指令制御部TCに出力する。表示部22では出力された調整モード情報Miに基づいて、選択された調整モードを識別可能に表示する。この際の表示は文字によるものでも良いし、アイコンによる表示でも良い。
【0034】
次に、トーチスイッチ21がオンされることによって、調整モード指令制御部TCは出力された調整モード情報Miに基づいて、調整モード指令Mcをデータ送出制御部DCに出力する。データ送出制御部DCは、この調整モード指令Mcを溶接電源10に送出する。
【0035】
そして、調整モード指令Mcとしてインチングモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、インチング指令と予め定めたワイヤ送給速度指令をワイヤ送給装置に送出する。その結果、溶接ワイヤの順方向送給が予め定めた調整値の速度で行われる。
【0036】
また、調整モード指令Mcとしてリトラクトモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、リトラクト指令と予め定めたワイヤ送給速度指令をワイヤ送給装置に送出する。その結果、溶接ワイヤの逆方向送給が予め定めた調整値の速度で行われる。
【0037】
また、調整モード指令Mcとしてガスチェックモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、ガス放流指令と予め定めたガス流量指令をガス流量調整器に送出する。その結果、シールドガスの放流が予め定めた調整値の流量で行われる。
【0038】
また、調整モード指令Mcとして溶接モード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を印可してアーク溶接を開始する。
【0039】
このように、実行ボタンを作業者の掌にあたる部分に配置されたトーチスイッチで代用したので、実行ボタンを操作するよりも容易且つ機敏な操作で調整作業を行うことができる。すなわち、第1の発明による効果に加え、操作性をより一層向上させることができる。
【0040】
[実施の形態3]
次に本発明の第3実施形態について説明する。
【0041】
図5は、本発明の第3実施形態を示すアーク溶接トーチの操作部の概略図である。同図に示すように、アーク溶接トーチの操作部には表示部22、調整モード選択ボタン23、第1実行ボタン24a及び第2実行ボタン24bが備わっている。なお、本実施形態においては、第1実施形態と比較して実行ボタン24が2つ備わっている。
【0042】
図6は、本発明の第3実施形態を示すアーク溶接トーチのブロック図である。同図に示すように、アーク溶接トーチは、調整モード選択ボタン23と調整モード制御部SCとから成る調整モード選択制御部31、表示部22、第1実行ボタン24a、第2実行ボタン24b、調整モード指令制御部TC及びデータ送出制御部DCから構成されている。同図において、調整モード選択ボタン23、第1実行ボタン24a、第2実行ボタン24b及び表示部22は、図5と同符号を付与した同一のものである。
【0043】
以下、アーク溶接トーチ及びアーク溶接装置全体の動作を説明する。
【0044】
調整モード選択ボタン23a又は23bが押されることによって、調整モード制御部SCが、溶接ワイヤを送給するワイヤ送給モード及びシールドガスを放流するガスチェックモードを順番に選択する。そして、選択された調整モードに対応した調整モード情報Miを表示部22と調整モード指令制御部TCに出力する。表示部22では出力された調整モード情報Miに基づいて、選択された調整モードを識別可能に表示する。この際の表示は文字によるものでも良いし、アイコンによる表示でも良い。
【0045】
調整モード指令制御部TCは、調整モード情報Miがワイヤ送給モードであれば、実行ボタン24aが押されることによって、調整モード指令Mcとしてインチングモード指令をデータ送出制御部DCに出力する。データ送出制御部DCは、このインチングモード指令を溶接電源10に送出する。
【0046】
また、調整モード情報Miがワイヤ送給モードであれば、実行ボタン24bが押されることによって、調整モード指令Mcとしてリトラクトモード指令をデータ送出制御部DCに出力する。データ送出制御部DCは、このリトラクトモード指令を溶接電源10に送出する。
【0047】
また、調整モード情報Miがガスチェックモードであれば、実行ボタン24a又は24bが押されることによって、調整モード指令Mcとしてガスチェックモード指令をデータ送出制御部DCに出力する。データ送出制御部DCはこのガスチェックモード指令を溶接電源10に送出する。
【0048】
そして、調整モード指令Mcとしてインチングモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、インチング指令と予め定めたワイヤ送給速度指令をワイヤ送給装置に送出する。その結果、溶接ワイヤの順方向送給が予め定めた調整値の速度で行われる。
【0049】
また、調整モード指令Mcとしてリトラクトモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、リトラクト指令と予め定めたワイヤ送給速度指令をワイヤ送給装置に送出する。その結果、溶接ワイヤの逆方向送給が予め定めた調整値の速度で行われる。
【0050】
また、調整モード指令Mcとしてガスチェックモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、ガス放流指令と予め定めたガス流量指令をガス流量調整器に送出する。その結果、シールドガスの放流が予め定めた調整値の流量で行われる。
【0051】
このように、第1及び第2の発明に記載のインチングモードとリトラクトモードとを1つのワイヤ送給モードとし、2つの実行ボタンでインチングとリトラクトを切り替えるようにしたので、調整モード選択操作の煩雑さを低減し、直感的で分かり易い操作で調整作業を行うことができる。すなわち、第1の発明による効果に加え、操作性をより一層向上させることができる。
【0052】
[実施の形態4]
次に本発明の第4実施形態について説明する。
【0053】
図7は、本発明の第4実施形態を示すアーク溶接トーチの操作部の概略図である。同図に示すように、アーク溶接トーチの操作部には表示部22、調整モード選択ボタン23、第1実行ボタン24a、第2実行ボタン24b、第1調整ボタン25a及び第2調整ボタン25bが備わっている。なお、本実施形態においては、第3実施形態と比較して第1調整ボタン25a及び第2調整ボタン25bがさらに備わっている。
【0054】
図8は、本発明の第4実施形態を示すアーク溶接トーチのブロック図である。同図に示すように、アーク溶接トーチは、調整モード選択ボタン23と調整モード制御部SCとから成る調整モード選択制御部31、表示部22、第1実行ボタン24a、第2実行ボタン24b、第1調整ボタン25a、第2調整ボタン25b、調整モード指令制御部TC及びデータ送出制御部DCから構成されている。同図において、調整モード選択ボタン、第1実行ボタン24a、第2実行ボタン24b及び表示部22は、図7と同符号を付与した同一のものである。
【0055】
以下、アーク溶接トーチ及びアーク溶接装置全体の動作を説明する。
【0056】
調整モード選択ボタン23a又は23bが押されることによって、調整モード制御部SCが、溶接ワイヤを送給するワイヤ送給モード及びシールドガスを放流するガスチェックモードを順番に選択する。そして、選択された調整モードに対応した調整モード情報Miを表示部22と調整モード指令制御部TCに出力する。表示部22では出力された調整モード情報Miに基づいて、選択された調整モードを識別可能に表示する。この際の表示は文字によるものでも良いし、アイコンによる表示でも良い。
【0057】
各調整モードにおけるワイヤ送給速度又はガス流量の調整値は、表示部22に表示され、第1調整ボタン25a及び第2調整ボタン25bによって調整することができる。すなわち、調整モード制御部SCにおいて、選択された調整モードがワイヤ送給モードであれば、第1調整ボタン25aが押されることによってワイヤ送給速度を増加させ、第2調整ボタン25bが押されることによってワイヤ送給速度を減少させる。また、選択された調整モードがガスチェックモードであれば、第1調整ボタン25aが押されることによってガス流量を増加させ、第2調整ボタン25bが押されることによってガス流量を減少させる。これらの調整値は、調整モード情報Miとして表示部22と調整モード指令制御部TCに出力される。
【0058】
調整モード指令制御部TCは、調整モード情報Miがワイヤ送給モードであれば、実行ボタン24aが押されることによって、調整モード指令Mcとしてインチングモード指令とワイヤ送給速度とをデータ送出制御部DCに出力する。データ送出制御部DCは、このインチングモード指令とワイヤ送給速度とを溶接電源10に送出する。
【0059】
また、調整モード情報Miがワイヤ送給モードであれば、実行ボタン24bが押されることによって、調整モード指令Mcとしてリトラクトモード指令とワイヤ送給速度とをデータ送出制御部DCに出力する。データ送出制御部DCは、このリトラクトモード指令とワイヤ送給速度とを溶接電源10に送出する。
【0060】
また、調整モード情報Miがガスチェックモードであれば、実行ボタン24a又は24bが押されることによって、調整モード指令Mcとしてガスチェックモード指令とガス流量をデータ送出制御部DCに出力する。データ送出制御部DCはこのガスチェックモード指令とガス流量とを溶接電源10に送出する。
【0061】
そして、調整モード指令Mcとしてインチングモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、インチング指令とワイヤ送給速度指令とをワイヤ送給装置に送出する。その結果、溶接ワイヤの順方向送給が調整されたワイヤ送給速度で行われる。
【0062】
また、調整モード指令としてリトラクトモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、リトラクト指令とワイヤ送給速度指令とをワイヤ送給装置に送出する。その結果、溶接ワイヤの逆方向送給が調整されたワイヤ送給速度で行われる。
【0063】
また、調整モード指令としてガスチェックモード指令が送出されたときは、溶接電源は出力電圧を停止したままで、ガス放流指令とガス流量指令とを、ガス流量調整器に送出する。その結果、シールドガスの放流が調整されたガス流量で行われる。
【0064】
このように、インチング、リトラクト又はガスチェックの各調整モードにおける調整値を可変にしたので、例えば、溶接ワイヤの交換時にインチングを高速に行えば、交換作業を短時間で行うことができる。また、ガスチェック時のガスの放流量を少なくすれば資源の節約になるので、経費低減及びCO2ガスの排出量低減に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態を示すアーク溶接トーチの操作部の概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示すアーク溶接トーチのブロック図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示すアーク溶接トーチの操作部の概略図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示すアーク溶接トーチのブロック図である。
【図5】本発明の第3実施形態を示すアーク溶接トーチの操作部の概略図である。
【図6】本発明の第3実施形態を示すアーク溶接トーチのブロック図である。
【図7】本発明の第4実施形態を示すアーク溶接トーチの操作部の概略図である。
【図8】本発明の第4実施形態を示すアーク溶接トーチのブロック図である。
【図9】従来のアーク溶接トーチを使用したアーク溶接装置の概略構成図である。
【図10】従来のアーク溶接トーチの操作部の概略図である。
【符号の説明】
【0066】
10 溶接電源
11 ワイヤリール
12 ワイヤ送給機
14 アーク溶接トーチ
15 ガスボンベ
16 ガス流量調整器
17 リモコン
21 トーチスイッチ
22 表示器
23 調整モード選択ボタン
24 実行ボタン
24a 第1実行ボタン
24b 第2実行ボタン
24a 第1調整ボタン
24b 第2調整ボタン
31 調整モード選択制御部
DC データ送出制御部
SC 調整モード制御部
TC 調整モード指令制御部
Mi 調整モード情報
Mc 調整モード指令
W ワーク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接開始信号を溶接電源に送出するトーチスイッチを備えたアーク溶接トーチにおいて、
溶接ワイヤを順方向に送給するインチングモード、溶接ワイヤを逆方向に送給するリトラクトモード及びシールドガスを放流するガスチェックモードを含む複数の調整モードのいずれか1つを選択する調整モード選択手段と、
この調整モード選択手段によって選択された前記調整モードを識別可能に表示する表示手段と、
配設された実行ボタンがオンされたときは前記調整モード選択手段によって選択された前記調整モードに対応した調整モード指令を出力する調整モード指令手段と、
この調整モード指令を前記溶接電源に送出するデータ送出手段と、を備え、
前記調整モード指令としてインチングモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを順方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてリトラクトモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを逆方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてガスチェックモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままでシールドガスを予め定めた調整値の流量で放流することを特徴とするアーク溶接トーチ。
【請求項2】
溶接開始信号を溶接電源に送出するトーチスイッチを備えたアーク溶接トーチにおいて、
溶接ワイヤを順方向に送給するインチングモード、溶接ワイヤを逆方向に送給するリトラクトモード、シールドガスを放流するガスチェックモード及び溶接を行う溶接モードを含む複数の調整モードのいずれか1つを選択する調整モード選択手段と、
この調整モード選択手段によって選択された前記調整モードを識別可能に表示する表示手段と、
前記トーチスイッチがオンされたときは前記調整モード選択手段によって選択された前記調整モードに対応した調整モード指令を出力する調整モード指令手段と、
この調整モード指令を前記溶接電源に送出するデータ送出手段と、を備え、
前記調整モード指令としてインチングモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを順方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてリトラクトモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを逆方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてガスチェックモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままでシールドガスを予め定めた調整値の流量で放流し、
前記調整モード指令として溶接モード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を印可しアーク溶接を開始することを特徴とするアーク溶接トーチ。
【請求項3】
溶接開始信号を溶接電源に送出するトーチスイッチを備えたアーク溶接トーチにおいて、
溶接ワイヤを送給するワイヤ送給モード、及びシールドガスを放流するガスチェックモードを含む複数の調整モードのいずれか1つを選択する調整モード選択手段と、
この調整モード選択手段によって選択された前記調整モードを識別可能に表示する表示手段と、
第1実行ボタン及び第2実行ボタンを配設し、前記調整モード選択手段によって選択された前記調整モードが前記ワイヤ送給モードでありかつ前記第1実行ボタンがオンされたときはインチングモード指令を出力し、前記ワイヤ送給モードでありかつ前記第2実行ボタンがオンされたときはリトラクトモード指令を出力し、前記ガスチェックモードでありかつ前記第1実行ボタンがオンされたときはガスチェックモード指令を出力する調整モード指令手段と、
この調整モード指令を前記溶接電源に送出するデータ送出手段と、を備え、
前記調整モード指令としてインチングモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを順方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてリトラクトモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままで溶接ワイヤを逆方向に予め定めた調整値の速度で送給し、
前記調整モード指令としてガスチェックモード指令が送出されたときは前記溶接電源は出力電圧を停止したままでシールドガスを予め定めた調整値の流量で放流することを特徴とするアーク溶接トーチ。
【請求項4】
前記調整モード選択手段によって選択された前記調整モードに対応して予め定められた調整値を、増加させる第1調整ボタン及び減少させる第2調整ボタンをさらに備え、
前記データ送出手段は前記調整モード指令及びそれに対応した前記調整値を前記溶接電源に送出する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアーク溶接トーチ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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