説明

アーク溶接方法

【課題】たとえば溶接ワイヤの送給動作の変動によって短絡状態が継続しても、スパッタの発生を適切に抑制することができるアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの間にアークを発生させて溶接を行うアーク溶接方法であって、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとが短絡している短絡状態からアークが発生しているアーク発生状態に移行される際、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの間の橋絡部に生じるくびれを検出する工程を含み、この工程の経過中にくびれが検出されないとき、溶接ワイヤ17を溶接母材Wから離間させ短絡状態を解放する。このような方法によれば、たとえば溶接ワイヤ17の送給動作の変動によって短絡状態が継続したとしても、スパッタの発生を確実に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消耗電極として溶接ワイヤを送給しながら、この溶接ワイヤと溶接母材の間にアークを発生させ溶接を行うアーク溶接方法が知られている。このようなアーク溶接の工程においては、溶接ワイヤおよび溶接母材が短絡している短絡状態と、短絡状態が解放されアークが発生するアーク発生状態とが繰り返される。
【0003】
短絡状態からアーク発生状態に移行する際には、溶接ワイヤと溶接母材との間の溶融橋絡部にくびれが生じる。すなわち、くびれは、短絡状態からアーク発生状態への移行の兆候を示すものである。また、短絡状態からアーク発生状態に移行する際には、通電によるジュール熱によって溶接ワイヤが溶断し、大量のスパッタが発生する。スパッタは塗装欠陥などの原因となり、溶接品質に悪影響を与える。
【0004】
そこで、スパッタの発生を抑制する方法として、たとえば特許文献1に示す方法が提案されている。特許文献1に示す方法においては、短絡状態からアーク発生状態に移行する際に生じるくびれを検出し、このくびれの検出に基づいて溶接ワイヤに通電する溶接電流を低下させている。溶接電流を低下させると、アークが発生するときに溶接母材に対するアークの圧力を低減できるので、スパッタの発生を抑制することができる。
【0005】
しかしながら、たとえば溶接ワイヤの送給動作が瞬間的に変動することなどに起因して、溶接ワイヤの先端部に生じる溶滴が必要以上に肥大化し、不当な短絡形態を生じさせることがある。そのため、上記したくびれが生じないまま長期的に短絡状態が継続することが生じる。短絡状態が継続してしまうと、上記した特許文献1に示す方法では、くびれの発生を検出することができない。したがって、溶接電流を低下させることができず、スパッタの発生を抑制することが困難となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−114088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、たとえば溶接ワイヤの送給動作の変動によって短絡状態が継続しても、スパッタの発生を適切に抑制することができるアーク溶接方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって提供されるアーク溶接方法は、溶接ワイヤと溶接母材との間にアークを発生させて溶接を行うアーク溶接方法であって、上記溶接ワイヤと溶接母材とが短絡している短絡状態から上記アークが発生しているアーク発生状態に移行される際、上記溶接ワイヤと上記溶接母材との間の橋絡部に生じるくびれを検出する工程を含み、上記工程の経過中に上記くびれが検出されないとき、上記溶接ワイヤを上記溶接母材から離間させ上記短絡状態を解放することを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、短絡状態からアーク発生状態に移行される際、短絡状態が継続されてくびれが検出されない場合、溶接ワイヤを溶接母材から強制的に離間させる。これにより短絡状態が解放され、アークを発生させることができる。この場合、溶接ワイヤの溶断は伴わないので、アーク発生状態に移行したときのスパッタの発生を抑制することができる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記工程の経過中に上記くびれが検出されないとき、上記溶接ワイヤから上記溶接母材に流れる溶接電流を低下させる。このような構成によれば、より効果的にスパッタの発生を抑制することができる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記くびれが検出されないことの判別は、上記短絡状態になってから所定時間が経過した後に、上記溶接ワイヤと上記溶接母材との間に供給する溶接電圧の単位時間当たりの変化量が所定の閾値以下であることにより行う。また、上記くびれが検出されないことの判別は、上記短絡状態になってから所定時間が経過したことにより行ってもよい。このような構成によれば、くびれが検出されないことの判別を確実に行うことができる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記溶接母材に対する上記溶接ワイヤの離間移動は、上記溶接ワイヤを所定の溶接位置に導く溶接トーチを移動させることにより行う。このような構成によれば、容易に溶接ワイヤを溶接母材から離間させることができる。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記溶接母材に対する上記溶接トーチの離間移動は、上記溶接トーチを上記溶接母材に対して接近および離間させることができるカム機構により行われる。
【0014】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかるアーク溶接方法が適用される溶接システムの構成を示す図である。
【図2】溶接トーチおよび往復動発生機構近傍の構成を示す要部拡大図である。
【図3】図2に示す往復動発生機構を示す要部拡大図である。
【図4】ドライブカムの動作を説明するための図である。
【図5】溶接システムの電気的構成を示す図である。
【図6】溶接電圧および溶接電流の変化状態と、各変化状態における溶接トーチの動作と、カムシャフトの状態とをそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0017】
図1は、本発明にかかるアーク溶接方法の適用される溶接システムの構成を示す図である。この溶接システムは、溶接ロボット1、ロボット制御装置2、および溶接電源装置3を備えている。溶接ロボット1には、本実施形態特有の往復動発生機構4が備えられている。
【0018】
溶接ロボット1は、溶接母材Wに対してたとえばアーク溶接を自動で行うものである。溶接ロボット1は、ベース部材11、複数のアーム12、複数のモータ13、溶接トーチ14、ワイヤ送給装置15、およびコイルライナ16を備えている。
【0019】
ベース部材11は、溶接ロボット1の他の部分を支持するものであり、フロア等の適当な箇所に固定されている。各アーム12は、ベース部材11に複数の軸(図略)を介して連結されている。モータ13は、アーム12の両端または一端に設けられている(一部図示略)。モータ13は、ロボット制御装置2によって回転駆動される。モータ13には、図示しないエンコーダが設けられている。このエンコーダの出力は、ロボット制御装置2に与えられる。この出力値により、ロボット制御装置2では、溶接トーチ14の現在位置を認識するようになっている。
【0020】
溶接トーチ14は、溶接ロボット1の最も先端側に設けられたアーム12aの先端部に設けられている。溶接トーチ14は、たとえば直径1mm程度の溶接ワイヤ17を溶接母材W近傍の所定の位置に導くものである。溶接トーチ14には、Arなどのシールドガスを供給するためのシールドガスノズル(図示略)が備えられている。上記モータ13が回転駆動することにより、複数のアーム12の移動が制御され、溶接トーチ14が上下前後左右に自在に移動できるようになっている。
【0021】
ワイヤ送給装置15は、溶接ロボット1の上部に設けられている。ワイヤ送給装置15は、溶接トーチ14に対して、溶接ワイヤ17を送り出すためのものである。ワイヤ送給装置15は、送給モータ151、ワイヤリール(図示略)、およびワイヤプッシュ機構(図示略)を備えている。ワイヤプッシュ機構は、送給モータ151を駆動源として上記ワイヤリールに巻かれた溶接ワイヤ17を溶接トーチ14へと送り出す。
【0022】
コイルライナ16は、その一端がワイヤ送給装置15に、その他端が溶接トーチ14にそれぞれ接続されている。コイルライナ16は、チューブ状に形成されており、その内部には、溶接ワイヤ17が挿通されている。コイルライナ16は、ワイヤ送給装置15から送り出された溶接ワイヤ17を、溶接トーチ14に導くものである。送り出された溶接ワイヤ17は、溶接トーチ14から外部に突出して消耗電極として機能する。
【0023】
図2は、溶接トーチ14および往復動発生機構4近傍の構成を示す要部拡大図である。図3は、図2に示す往復動発生機構4の要部拡大図である。
【0024】
溶接トーチ14は、図2に示すように、往復動発生機構4を介してアーム12aに取り付けられている。往復動発生機構4は、溶接トーチ14を溶接母材Wに対して離間させ、かつ接近させるためのものである。往復動発生機構4は、図3に示すように、モータ41、偏芯シャフト42、ドライブカム43、ベアリング44a,44b、マウント45、ブッシュ46、およびシャフト47を備えている。
【0025】
図2に示すように、モータ41は、アーム12aに固定されている。モータ41は、図3の左右方向に延びる軸41aを回転軸としている。モータ41には、図示しないエンコーダが取り付けられている。偏芯シャフト42は、モータ41の回転軸41aに固定されている。偏芯シャフト42は、モータ41の回転方向と同一方向に回転可能になっている。偏芯シャフト42には、モータ41の回転軸41aに対して距離Lだけ偏芯した位置にボルト42aが設けられている。
【0026】
ドライブカム43には、2つの孔が形成されている。ドライブカム43は、これらの2つの孔の一方に設けられたベアリング44aを介して、偏芯シャフト42の上記ボルト42aに連結されている。マウント45は、上記2つの孔の他方に設けられたベアリング44bを介して、ドライブカム43に連結されている。マウント45は、ブッシュ46を介して、シャフト47に連結されている。シャフト47は、モータ41の本体に対して固定されている。マウント45には、溶接トーチ14が連結されている。
【0027】
モータ41が回転すると、偏芯シャフト42のボルトが偏芯回転する。ドライブカム43は、上記偏芯回転に従って、図4に示すように、(K1)から(K4)までの一連の動作を行う。この動作により、マウント45は、図3に示すように、シャフト47に沿って上下方向に往復運動する。その結果、溶接トーチ14は、図2および図3の上下方向において微小に移動可能である。
【0028】
ロボット制御装置2は、溶接ロボット1の動作を制御するためのものである。ロボット制御装置2は、図5に示すように、動作制御回路21とインターフェイス回路22とによって構成されている。
【0029】
動作制御回路21は、図示しないマイクロコンピュータおよびメモリを有している。このメモリには、溶接ロボット1の各種の動作が設定された作業プログラムが記憶されている。動作制御回路21は、この作業プログラムおよび上記した複数のエンコーダからの座標情報などに基づいて、溶接ロボット1に対して動作制御信号Mcを与える。動作制御信号Mcは、教示された溶接方向に溶接トーチ14を移動させるための信号である。各モータ13は、この動作制御信号Mcにより回転駆動し、溶接トーチ14を溶接母材Wの所定の溶接開始位置に移動させる。また、動作制御信号Mcには、本実施形態特有の溶接トーチ14を上下動させるための信号が含まれている。モータ41は、当該信号により回転駆動し、溶接トーチ14を上下動させる。
【0030】
インターフェイス回路22は、溶接電源装置3と各種信号をやり取りするためのものである。動作制御回路21には、図示しない操作設定装置が接続されている。この操作設定装置は、ユーザによって各種動作を設定するためのものである。
【0031】
動作制御回路21は、電圧設定信号Vsをインターフェイス回路22およびインターフェイス回路35(後述)を介して出力制御回路31に出力する。動作制御回路21は、出力開始信号Onおよび復帰信号Rpを出力制御回路31および送給制御回路34に出力する。動作制御回路21は、送給速度設定信号Wsをインターフェイス回路22を介して送給制御回路34に出力する。
【0032】
溶接電源装置3は、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの間に、溶接電圧Vwを印加するための装置であるとともに、溶接ワイヤ17の送給を行うための装置である。溶接電源装置3は、図5に示すように、出力制御回路31、電圧検出回路32、くびれ検出回路33、送給制御回路34、およびインターフェイス回路35を備えている。インターフェイス回路35は、ロボット制御装置2と各種信号をやり取りするためものである。
【0033】
出力制御回路31は、たとえば複数のトランジスタ素子からなるインバータ制御回路を有する。出力制御回路31は、外部から入力される商用電源(たとえば3相200V)をインバータ制御回路によって高速応答で精密な溶接電流波形制御を行う。
【0034】
出力制御回路31の出力は、たとえば正極側が溶接トーチ14に接続され、負極側が溶接母材Wに接続されている。溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの間には、溶接トーチ14の先端に設けられたコンタクトチップ(図略)を介して溶接電圧Vwが印加される。これにより、溶接ワイヤ17の先端と溶接母材Wとの間にアークが発生する。溶接ワイヤ17は、このアークで生じる熱によって溶融し、溶接母材Wに対して溶接が施されるようになっている。
【0035】
電圧検出回路32は、出力制御回路31の出力端の電圧である溶接電圧Vwを検出するためのものである。電圧検出回路32は、溶接電圧Vwに対応する電圧検出信号Vdをくびれ検出回路33に出力する。
【0036】
くびれ検出回路33は、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの間の溶接橋絡部に生じるくびれの発生を検出する回路である。くびれは、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの間が短絡状態からアーク発生状態へと移行するときの兆候となるものである。このくびれを検出する処理は、たとえば溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの間に供給される溶接電圧Vwの単位時間当たりの変化量(微分値dV/dt)が所定の閾値を超えたことにより行う。くびれ検出回路33は、くびれ発生信号Ndを出力制御回路31に出力するとともに、インターフェイス回路35,22を介して動作制御回路21に出力する。
【0037】
本実施形態にかかるくびれ検出回路33は、くびれを検出することに加えて、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとが短絡状態になったときから所定時間Ts(図6参照)経過後に、溶接電圧Vwの単位時間当たりの変化量(微分値dV/dt、図6に示す波形の傾きCに相当)が所定の閾値以下であるか否かを検出する。すなわち、くびれ検出回路33は、上記したくびれが生じないまま長期的に短絡状態が継続している状態を検出する。
【0038】
くびれ検出回路33は、この状態を検出すると、くびれ発生信号Ndとは別に、短絡状態が継続している状態を検出した旨の信号(以下、「短絡継続信号」という)を、インターフェイス回路35,22を介して動作制御回路21に出力する。動作制御回路21は、短絡継続信号を受け取ると、動作制御信号Mcとして溶接トーチ14を上下動させるための信号を溶接ロボット1に出力する。
【0039】
送給制御回路34は、溶接ワイヤ17の送給を行うための送給制御信号Fcを送給モータ151に出力するものである。送給制御信号Fcは、溶接ワイヤ17の送給速度を示す信号である。
【0040】
次に、本発明にかかるアーク溶接方法の一例について、図6を参照して説明する。
【0041】
図6は、出力制御回路31から出力される溶接電圧Vwおよび溶接電流Iwの変化状態と、各変化状態における溶接トーチ14の動作と、カムシャフト43の状態とをそれぞれ示すものである。特に、図6は、通常の溶接動作に比べ、長期的に短絡状態が継続している場合を示している。なお、同図に示すカムシャフト43の状態(K1)〜(K4)は、図4に示した(K1)〜(K4)に対応している。
【0042】
(1)時刻t1以前の期間
まず、過渡的な溶接開始処理を経た後に、外部からの溶接開始信号St(図5参照)が入力されることにより、一般的には、定常溶接処理が開始される。定常溶接処理においては、動作制御回路21は、出力開始信号Onを出力制御回路31および送給制御回路34に出力するとともに、動作制御信号Mcを溶接ロボット1に出力する。これにより、溶接トーチ14は溶接開始位置Spに移動される。また、送給制御回路34は、送給制御信号Fcを送給モータ151に送る。これにより、溶接ワイヤ17は、溶接母材Wに向かって定常速度で送給される。これら定常溶接処理によって、時刻t1以前の期間においては、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの間には、アークが発生される。
【0043】
(2)時刻t1〜t2の期間
出力制御回路31からの溶接電圧Vwおよび溶接電流Iwによって溶接ワイヤ17の先端部に溶滴51が形成される。時刻t1においては、(H1)に示すように、上記溶滴51と溶接母材Wの溶融池52とが接触し、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの間が短絡状態となる。このとき、出力制御回路31は、溶接電流Iwを一旦低下させる。これにより、アーク発生状態から短絡状態に移行したときのスパッタの発生を抑制する。その後、溶滴51は、溶融池52へと移行する((H2)参照)。
【0044】
(3)時刻t2〜t3の期間
出力制御回路31は、時刻t2〜t3において溶接電流Iwを増加させる。この溶接電流Iwの増加は、溶滴51の溶融池52への移行を促進するとともに、その移行の後にくびれを生じさせるために行われる。くびれ検出回路33は、通常、時刻t2〜t3の期間において、くびれを検出し、出力制御回路31にくびれ検出信号Ndを出力する。図6に示す溶接電圧Vwおよび溶接電流Iwの波形は、長期的に短絡状態が継続し、くびれ検出回路33がくびれを長期間検出できない場合を示している。
【0045】
(4)時刻t4
溶接ワイヤ17送給時の瞬間的な変動などに起因して、くびれを生じさせることができずに、短絡状態が継続する場合には((H3)参照)、所定時間Ts経過後においても溶接電圧Vwの単位時間当たりの変化量が所定の閾値以下である。くびれ検出回路33は、時刻t4において、その状態を検出し、短絡継続信号を出力制御回路31に出力する。
【0046】
動作制御回路21は、短絡継続信号を受け取ると、溶接トーチ14を溶接母材Wから離間させる動作制御信号Mcを、ドライブカム43のモータ41に出力する。これにより、(K2),(K3)に示すようにドライブカム43が動作し、溶接トーチ14は、(H4)に示すように、溶接母材Wから離間する方向への移動を開始する。この溶接トーチ14の移動を開始することは、本発明における短絡状態を解消する工程を開始することに相当する。
【0047】
(5)時刻t4〜t5の期間
溶接トーチ14の移動がなされることにより、時刻t4〜t5において、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの短絡状態が解放され、(H5)に示すように、アーク53が発生される。この状態において、出力制御回路31は、溶接電流Iwを低下させる。これにより、アーク53が発生したときの溶融池52に加えられる圧力が弱められる。したがって、スパッタの発生を
抑制することができる。
【0048】
(6)時刻t6
時刻t6において、動作制御回路21は、復帰信号Rpを出力制御回路31および送給制御回路34に出力する。これにより、(K4),(K1)に示すようにドライブカム43が移動し、(H6)に示すように溶接トーチ14が溶接開始位置Spに移動される。
【0049】
その後、動作制御回路21は、溶接トーチ14を教示された溶接方向に移動させる動作制御信号Mcを、溶接ロボット1に出力する。溶接ワイヤ17の先端部に溶滴51が形成され、溶接ワイヤ17が送給されることにより、再び、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとが短絡状態となる((H1)参照)。以後、溶接終了まで、このようなステップが繰り返される。
【0050】
次に、本実施形態にかかるアーク溶接方法の作用について説明する。
【0051】
本実施形態によれば、通常、溶接トーチ14と溶接母材Wとの間の溶融橋絡部に形成されるくびれが、短絡状態が長期的に継続し形成されない場合、その状態を検出して、溶接トーチ14を強制的に離間移動させる。そのため、短絡状態が即座に解放され、この場合、溶接ワイヤ17の溶断は伴わない。また、溶接電流を低下させるので、アーク53の溶融池52に対する圧力が弱められる。したがって、短絡状態が継続しくびれが形成されない場合においても、短絡状態からアーク発生状態に移行したときのスパッタの発生を抑制することができる。
【0052】
溶接トーチ14を溶接母材Wから離間させ、もしくは溶接母材Wに対して接近させるためには、ドライブカム43のモータ41を正転させるのみでよく、ドライブカム43のモータ41を反転させる必要がない。そのため送給モータ13のイナーシャに起因する応答遅れがない。これにより、上記短絡状態とアーク発生状態の反復周期が大きくなっても、不都合無く、本実施形態にかかる方法を用いることができる。
【0053】
本発明の範囲は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るアーク溶接方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。たとえば、短絡状態が継続していることの検出は、短絡状態が開始してから所定時間内に上記した方法以外の方法でくびれが検出されないことにより行ってもよい。また、図6の溶接電圧と時間との関係を示す図において、短絡状態が開始されてから溶接電圧Vwが予め定める閾値電圧Vtに到達したときまでを所定時間Ts′とし、この所定時間Ts′に達した時点で、溶接トーチ14を強制的に離間移動させてもよい。あるいは、この方法と、上述した、所定時間Ts経過後に溶接電圧Vwの単位時間当たりの変化量が所定の閾値以下であるとき、短絡状態が継続していると判別する方法とを組み合わせてもよい。
【0054】
また、溶接トーチ14の離間移動を行う方法は、上記した往復動発生機構4を用いなくてもよい。たとえば動作制御信号Mcを溶接ロボット1に出力することにより、アーム12を作動させ溶接トーチ14を移動させればよい。あるいは、ワイヤ送給装置15の送給モータ151を反転させて、溶接ワイヤ17を後退させるようにしてもよい。
【0055】
また、溶接ワイヤ17と溶接母材Wとの短絡状態の検出は、たとえばロボット制御装置2に備えられたワイヤタッチ検出回路(図示略)によって検出するようにしてもよい。また、上記短絡状態においても送給制御信号Fcが継続して出力されている方が好ましいが、本発明は必ずしもこれに限られず、溶接ワイヤ17の送給を停止させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 溶接ロボット
11 ベース部材
12,12a アーム
13 モータ
14 溶接トーチ
15 ワイヤ送給装置
151 送給モータ
16 コイルライナ
17 溶接ワイヤ
2 ロボット制御装置
21 動作制御回路
22 インターフェイス回路
3 溶接電源装置
31 出力制御回路
32 電圧検出回路
33 くびれ検出回路
34 送給制御回路
35 インターフェイス回路
41 モータ
42 偏芯シャフト
43 ドライブカム(カム機構)
44a,44b ベアリング
45 マウント
46 ブッシュ
47 シャフト
Fc 送給制御信号
Iw 溶接電流
Mc 動作制御信号
Nd くびれ検出信号
Rp 復帰信号
Sp 溶接開始位置
Vt 閾値電圧
Vw 溶接電圧
W 溶接母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤと溶接母材との間にアークを発生させて溶接を行うアーク溶接方法であって、
上記溶接ワイヤと溶接母材とが短絡している短絡状態から上記アークが発生しているアーク発生状態に移行される際、上記溶接ワイヤと上記溶接母材との間の橋絡部に生じるくびれを検出する工程を含み、
上記工程の経過中に上記くびれが検出されないとき、上記溶接ワイヤを上記溶接母材から離間させ上記短絡状態を解放することを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項2】
上記工程の経過中に上記くびれが検出されないとき、上記溶接ワイヤから上記溶接母材に流れる溶接電流を低下させる、請求項1に記載のアーク溶接方法。
【請求項3】
上記くびれが検出されないことの判別は、
上記短絡状態になってから所定時間が経過した後に、上記溶接ワイヤと上記溶接母材との間に供給する溶接電圧の単位時間当たりの変化量が所定の閾値以下であることにより行う、請求項1または2に記載のアーク溶接方法。
【請求項4】
上記くびれが検出されないことの判別は、
上記短絡状態になってから所定時間が経過したことにより行う、請求項1または2に記載のアーク溶接方法。
【請求項5】
上記溶接母材に対する上記溶接ワイヤの離間移動は、
上記溶接ワイヤを所定の溶接位置に導く溶接トーチを移動させることにより行う、請求項1ないし4のいずれかに記載のアーク溶接方法。
【請求項6】
上記溶接母材に対する上記溶接トーチの離間移動は、上記溶接トーチを上記溶接母材に対して接近および離間させることができるカム機構により行われる、請求項5に記載のアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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