説明

アーク発生負荷用電源装置

【課題】 小型で安価なキセノンランプ用の電源装置を提供する。
【解決手段】 商用交流電源を整流回路6で整流した整流出力が力率改善回路8を介してインバータ12に供給され、高周波信号に変換される。高周波信号が変圧器16で変圧され、整流回路18で整流され、キセノンランプ2に供給される。キセノンランプ2でアークを発生させるため、整流回路18とキセノンランプ2との間にイグナイタ20の変圧器22の二次側巻線22sが接続されている。変圧器22の一次側巻線にパルス発生手段が短期的にパルスを供給する。整流回路18と変圧器22の二次側巻線との接続点に、補助電源26が、商用交流電源に基づいて生成された持続用始動電流を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関し、特に、アークを発生する負荷、例えばキセノンランプやアーク溶接機やアーク切断機用の電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述したようなアーク発生負荷用の電源装置としては、例えば特許文献1、2に開示されているようなものがある。
【0003】
特許文献1に開示されている電源装置は、放電灯点灯用のもので、入力電源電圧を直流電圧に変換する電力変換回路を有し、放電灯を駆動するバックコンバータに電力変換回路の出力電圧が供給される。放電灯の両端電圧の検出出力に基づいて、電力変換回路の出力電圧を放電灯点灯中のランプ電圧の1.5倍から2.5倍の値に設定する。また、電力変換回路の出力電圧の不足を補うための補助電源が設けられている。このように構成することにより、放電灯の始動に必要な電圧を確保し、放電灯点灯中の回路効率を改善している。
【0004】
特許文献2に開示されている電源装置も、負荷として投射用のランプを使用するもので、商用交流電源を整流回路で整流した後、力率改善回路を介してスイッチングレギュレータの一部をなす変圧器の一次側巻線に供給し、このスイッチングレギュレータを介して投射用のランプに電圧を供給している。
【0005】
【特許文献1】特開2001−35682号公報
【特許文献2】特開2006−337512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された電源装置では、放電灯点灯に用いる電源の一部を利用して、放電灯の始動電圧を得ているので、入力電圧が変動すると、始動用の電圧も変動してしまい、電圧制御が困難であった。また、始動時の電圧をランプ電圧の1.5倍から2.5倍としているが、例えばキセノンランプのように、ランプ電圧は数十ボルトであるが、始動電圧としてはその5乃至10倍程度の電圧を必要とするランプの場合、ランプ点灯用の電源をそのまま利用することはできなかった。アークを維持するために高い電圧を発生可能な電源を用いた場合、使用時に用いる電圧はそれほど高くないため、電流ロスが発生するなど、効率が悪くなってしまう。特許文献1のように補助電源により高圧を生成することも考えられるが、補助電源の逆流を防止するために高耐圧で大型のダイオードが必要になるなどして、コストの上昇や装置の大型化が避けられなかった。また、特許文献1に開示されたような構成の補助電源でランプ放電を開始させた場合、始動時に負荷に急激に電流が流れて電圧低下を引き起こし、ランプ点灯が不安定になり、ランプの寿命を低下させるおそれがあった。
【0007】
特許文献2の電源装置では、始動用のパルストランス等を設けずに、定常点灯時にも始動時にも同じ変圧器を使用しているので、変圧器を含むスイッチングレギュレータの各部品は大電力用のものを使用しなければならず、電源装置が高価で大型になる。
【0008】
本発明は、安価で小型なアーク発生負荷用の電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による電源装置は、交流電源を整流する入力側整流手段を有している。
この入力側整流手段の整流出力を高周波化手段が高周波信号に変換する。高周波化手段としては、例えばインバータやチョッパを使用することができる。この高周波化手段からの高周波信号が変圧器の一次側に入力され、二次側に変圧高周波信号が出力される。この変圧器の二次側からの前記変圧高周波信号を出力側整流手段が整流して、アーク発生負荷に供給する。アーク発生負荷としては、例えばキセノンランプや、アーク溶接機や、アーク切断機等がある。この出力側整流手段と前記アーク発生負荷との間に直列に始動手段の始動用変圧器の二次側巻線が接続され、前記始動用変圧器の一次側にパルス発生手段が短期的にパルスを供給する。少なくとも前記高周波化手段を制御手段が制御する。この制御手段を駆動するための補助電源が設けられている。補助電源は、補助電源用変圧器を備え、この補助電源用変圧器に、アーク持続用電流を発生させるためのアーク持続用二次巻線を設け、前記出力側整流手段と前記始動用変圧器の二次側巻線との接続点に、前記アーク持続用二次巻線から持続用始動電流を供給する。
【0010】
この電源装置によれば、始動時には、パルス発生手段が発生したパルスが始動用変圧器によって変圧されて二次側巻線に発生し、これがアーク発生用負荷の両端に印加されて、アークが発生する。同時に、補助電源からの持続用始動電流が二次側巻線と出力側整流手段の接続点から、二次側巻線を介してアーク発生用負荷に供給されて、アークが持続する。アークが持続した後には、入力側整流手段によって整流された整流出力が、高周波化手段によって高周波信号に変換され、この高周波信号が変圧器によって変圧され、かつ出力側整流手段によって整流されて、アーク発生用負荷に供給される。
【0011】
この構成では、アークを持続させるための電流は、制御手段を駆動するための補助電源を利用することによって供給され、高周波化手段、変圧器及び二次側整流手段は、アークが持続した後の定常状態で使用される。従って、専用の補助電源を設けることなくアーク持続用の電流が得られ、高い始動電圧を要するにも拘わらず、電源装置に使用される部品は、定常状態において損傷することが無い程度の耐圧のもを使用すればよく、電源装置を小型にかつ安価とすることができる。
【0012】
補助電源は、前記入力側整流手段の整流出力が一次側に供給される絶縁変圧器と、この絶縁変圧器の二次側出力を変換して、補助電源用変圧器に供給するものや、絶縁変圧器を設けずに、前記入力側整流手段の整流出力を変換して、補助電源用変圧器に供給するものとすることができる。
【0013】
或いは、前記補助電源は、前記交流電源が一次側に供給される絶縁変圧器と、この絶縁変圧器の二次側出力を補助電源用変圧器に供給するものや、絶縁変圧器を設けずに、前記入力側整流手段の整流出力を補助電源用変圧器に供給するものとすることができる。
【0014】
いずれの場合でも、補助用電源変圧器に整流手段と平滑手段とを設けたり、補助用電源を用いてスイッチングレギュレータを構成することができる。スイッチングレギュレータを使用する場合、持続用始動電流を予め定めた一定電流とできるように定電流制御することもできる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、制御手段を駆動させるための補助電源を利用することによってアークを持続させるための電流を発生させているので、小型でかつ安価に電源装置を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の第1の実施形態の電源装置は、図1に示すように、負荷であるキセノンランプ2を点灯させるように直流電源を供給するものである。この電源装置は、電源入力端子4を有し、これに交流電源、例えば電圧が200乃至240Vの商用交流電源が供給されている。商用交流電源には、単相商用交流電源及び三相商用交流電源のいずれかが使用される。商用交流電源からの交流電圧が、入力側整流手段、例えば整流回路6によって整流される。整流回路6としては、全波整流回路及び半波整流回路のいずれかが使用される。この整流回路6の整流出力は、力率改善回路(PFC回路)8に供給される。力率改善回路8は、交流電源側から見た力率が改善されるようにPFC制御回路10によって制御される。この制御のために、PFC制御回路10には、力率改善回路8の電圧や、電流の検出信号が供給されている。力率改善回路8及びPFC制御回路10の構成は、公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0017】
力率改善回路8の出力は、高周波化手段、例えばインバータ12に供給される。インバータ12は、制御手段、例えばメイン制御回路14によって制御され、力率改善回路8の出力信号を高周波信号に変換する。インバータ12は、複数の半導体スイッチング素子、例えばIGBTを有するもので、これらがメイン制御回路14によって制御される。インバータ12には、公知の種々のものを使用することができる。
【0018】
インバータ12の出力である高周波信号は、変圧器、例えば絶縁変圧器16の一次側巻線16pに供給される。絶縁変圧器16は二次側巻線16sを有し、一次側巻線16pに対する二次側巻線16sの比は、二次側巻線16sに誘起される電圧が、一次側巻線16pに供給される電圧よりも低く変圧されるように、選択されている。絶縁変圧器16の二次側巻線16sに誘起された変圧高周波信号は、出力側整流手段、例えば整流回路18によって整流される。この整流回路18の出力がキセノンランプ2の一方の電極に供給される。他方の電極は基準電位に接続され、図示していないが、キセノンランプ2を流れた電流は二次側巻線16s側に帰還する。整流回路18の出力電圧は、概ね10乃至20Vである。
【0019】
キセノンランプ2で既にアークが発生していて、点灯している定常状態では、制御手段、例えばメイン制御回路14にインバータ12への入力電圧及びキセノンランプ2への入力電流の検出値が供給され、これらを基にメイン制御回路14がインバータ12を制御して、状況に応じてキセノンランプ2への負荷電流が一定となる定電流制御または負荷電力が一定となる定電力制御が行われる。メイン制御回路14は、後述する補助電源によって駆動される。補助電源26は、PFC制御回路10などの他の制御手段の電源としても用いられている。
【0020】
整流回路18の出力信号をキセノンランプ2に単に供給しただけでは、キセノンランプ2は点灯しない。まずキセノンランプ2にアークを発生させる必要がある。そのために、整流回路18の出力側とキセノンランプの一方の電極との間に始動手段、例えばイグナイタ20が設けられている。
【0021】
イグナイタ20は、始動用変圧器、例えばパルス変圧器22を有している。パルス変圧器22の二次側巻線22sが整流回路18の出力側とキセノンランプの一方の電極との間に直列に接続されている。パルス変圧器22の一次側巻線22pには、パルス発生手段、例えば始動回路24が接続されている。始動回路24は、メイン制御回路14からの指示に従って、予め定めた始動期間中にパルス電圧を発生するものである。一次側巻線22pに対する二次側巻線22sの巻線比は、大きく設定されているので、一次側巻線22pに始動回路24から供給されたパルス電圧に基づいて二次側巻線22sには大きく昇圧されたパルス電圧が誘起される。これがキセノンランプ2に印加され、キセノンランプ2でアークが発生し、アーク電流が流れる。
【0022】
本発明では、このアーク電流を持続的に流すために、例えばメイン制御回路14等の各種制御回路を駆動するための補助電源26を利用している。補助電源26は、変圧器30を有している。その一次側巻線30pには、整流回路6の整流出力電圧を絶縁変圧器28によって降圧させた電圧が、供給されている。一次側巻線30pには直列に開閉スイッチ29が接続されている。開閉スイッチ29は、例えばIGBTのような半導体スイッチング素子によって構成され、メイン制御回路14によって制御が行われる。例えば、始動回路24がパルス電圧を発生したときにはメイン制御回路14からの指示によって開閉スイッチ29は既に閉じられている。変圧器30は、2つの二次側巻線30sa、30sbを有している。これら二次側巻線30sa、30sbに誘起された電圧は、整流手段、例えばダイオード32a、32bによって整流され、平滑手段、例えばコンデンサ34a、34bによって平滑される。このコンデンサ34aの平滑電圧が、整流回路18と変圧器22の二次巻線22sの一方の端子との接続点に供給され、この平滑電圧によってアークを持続させる電流がキセノンランプ2に供給される。この平滑電圧は、例えば約150Vである。このように持続してアーク電流が流れることで、キセノンランプ2が点灯する。点灯後は、上述したように整流回路18から電流がキセノンランプ2に供給され、点灯を継続する。
【0023】
コンデンサ34bに生じた電圧は、メイン制御回路14への動作電圧として供給される。このように定電圧を得るための電源に、アーク持続用二次巻線30saを追加することにより、安定した動作電圧を得ることができる。
【0024】
このようにキセノンランプ2においてアークが発生した後、それを持続させるための電流は、補助電源26によって負担されるので、インバータ12の負担が少なくなる。補助電源26を設けていなければ、アークを持続するための電流は、インバータ12が単独で負担しなければならず、大電力用の半導体スイッチング素子によってインバータ12を構成しなければならない。しかも、定常状態になると、キセノンランプ2の点灯を維持するためには大きな電力をインバータ12が負担する必要がないので、発生したばかりのアークを持続させるためにだけ大型のインバータ12が必要である。しかし、上述したように制御回路を駆動するための補助電源26の変圧器30を利用することによって、インバータ12は、簡単な構成で定常状態で必要な電力を負担する低電力のものとすることができる。従って、この電源装置を低コストでかつ小型に構成することができる。また、イグナイタ20によってキセノンランプ2でアークを発生させたとき、補助電源26は既にアーク電流を供給可能な状態にあるので、直ちに補助電源26からキセノンランプ2にアークを維持するための電流が供給される。従って、キセノンランプ2が点灯するまでの時間を短くすることができる。また、補助電源26の出力はPFC制御されるため、一定の電圧を得ることができ、ランプ放電開始を安定して行うことができる。
【0025】
第2の実施形態の電源装置を図2に示す。この電源装置では、絶縁変圧器28を介さずに整流回路6の整流出力が直接に補助電源26に供給されている以外、第1の実施形態の電源装置と同様に構成されている。但し、変圧器30は、その巻線比を第1の実施形態の変圧器と異なったものとしている。同等部分には同一符号を付して、その説明を省略する。この構成では、絶縁変圧器28を使用していないので、構成を更に簡略化することができる。
【0026】
第3の実施形態の電源装置を図3に示す。この電源装置では、整流回路6の整流出力ではなく、電源入力端子4に供給されている商用交流電圧を、補助電源専用の整流回路6aによって整流し、その整流出力を絶縁変圧器28によって変圧するように構成している以外、第1の実施形態の電源装置と同様に構成されている。同等部分には同一符号を付して、その説明を省略する。この構成では、整流回路6に流れる電流を減らすことができ、整流回路6に小型のものを使用することができ、電源装置を小型化することができる。
【0027】
第4の実施形態の電源装置を図4に示す。この電源装置では、整流回路6aの整流出力を直接に補助電源26の変圧器30に供給している以外、第3の実施形態と同様に構成されている。同等部分には、同一符号を付して、その説明を省略する。このように構成すると、絶縁変圧器28が不要となるので、更に電源装置を小型化することができる。
【0028】
上記の各実施形態では、キセノンランプ2に対する電源装置に本発明を実施したが、これに限ったものではなく、アークを発生する負荷、例えばアーク溶接機やアーク切断機等の電源装置として使用することも可能である。
【0029】
上記の実施形態では、力率改善回路8を使用したが、これに代えて通常の平滑手段、例えば平滑用コンデンサを使用することもできる。また、高周波化手段としてインバータ12を使用したが、これに限ったものではなく、例えばチョッパ等も使用することができる。
【0030】
上記の各実施形態では、開閉スイッチ29は、メイン制御回路14から指示が与えられた後、閉じられたままとしたが、メイン制御回路14からの指示によって、所定のスイッチング周波数で開閉を繰り返すことによって、変圧器30、ダイオード32a、コンデンサ34aと共にスイッチングレギュレータとして動作させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態の電源装置のブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の電源装置のブロック図である。
【図3】本発明の第3の実施形態の電源装置のブロック図である。
【図4】本発明の第4の実施形態の電源装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0032】
6 整流回路(入力側整流回路)
12 インバータ(高周波化手段)
16 絶縁変圧器(変圧器)
18 整流回路(出力側整流手段)
20 イグナイタ(始動手段)
26 補助電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源を整流する入力側整流手段と、
この入力側整流手段の整流出力を高周波信号に変換する高周波化手段と、
この高周波化手段からの高周波信号を一次側に入力し、二次側に変圧高周波信号を出力する変圧器と、
この変圧器の二次側からの前記変圧高周波信号を整流して、アーク発生負荷に供給する出力側整流手段と、
この出力側整流手段と前記アーク発生負荷との間に直列に始動用変圧器の二次側巻線が接続され、前記始動用変圧器の一次側にパルス発生手段が短期的にパルスを供給する始動手段と、
少なくとも前記高周波化手段を制御する制御手段と、
この制御手段を駆動するための補助電源とを、
具備し、前記補助電源は、補助電源用変圧器を備え、この補助電源用変圧器にアーク持続用電流を発生させるためのアーク持続用二次巻線を設け、前記出力側整流手段と前記始動用変圧器の二次側巻線との接続点に、前記アーク持続用二次巻線から持続用始動電流を供給する
アーク発生負荷用電源装置。
【請求項2】
請求項1記載のアーク発生負荷用電源装置において、前記補助電源は、前記入力側整流手段の整流出力が一次側に供給される絶縁変圧器と、この絶縁変圧器の二次側出力を前記補助電源用変圧器に供給するアーク発生負荷用電源装置。
【請求項3】
請求項1記載のアーク発生負荷用電源装置において、前記補助電源は、前記入力側整流手段の整流出力が、前記補助電源用変圧器に供給されるアーク発生負荷用電源装置。
【請求項4】
請求項1記載のアーク発生負荷用電源装置において、前記補助電源は、前記交流電源が一次側に供給される絶縁変圧器と、この絶縁変圧器の二次側出力を前記補助電源用変圧器に供給するアーク発生負荷用電源装置。
【請求項5】
請求項1記載のアーク発生負荷用電源装置において、前記補助電源は、前記入力側整流手段の整流出力を変換して、前記補助電源用変圧器に供給するアーク発生負荷用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−288135(P2008−288135A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134059(P2007−134059)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】